● 地球の歩き方 旅マニュアル254 エコツアー完全ガイド掲載



アメリカインディアン居留地でカルチャーキャンプ
尊敬の念で接することが最重要マナー



ネイティブアメリカンの文化を学ぶということは、知識でなく、体験すること、参加することといわれる。ネイティブ
ランド 大地のリズムを感じとるには、そこでキャンプをしてみるのが一番。ラコタ族に代表される平原インディアンがかつて移動用テントとして使用していたティピや、ナバホ族の伝統的住居ホーガンなどに滞在する。

居留地にいると、時間の感覚がいわゆる“インディアンタイム”で、普段の“時間にあわせて行動する”ということを忘れてしまう。そして、そこには国立公園の整備された美しさとはちがう大迫力の手つかずで荒けずりな大自然がまだ残っている。いろいろな部族をたずねたが、外見的に大差なく、彼らの崇める自然宗教観と、日本人が本来持っている神道に相通じるところがあるからか、日本人はどこの居留地でもあまり違和感なく歓迎される印象がある。訪れる部族によってツアーの内容は多少異なるが例えば、ラコタ族、ナバホ族の場合、部族のホストから彼らの文化や伝統についての説明を受けた後、聖地であるモニュメントバレーやブラックヒルズ、デビルスタワー等を訪れたり、ミュージアムやトレーディングポストでその部族独特のアートを鑑賞。彼らが生まれながらに持っている色やデザインに対する芸術的センスは本当に素晴らしい。現在はインディアンのダンスコンテストとしてポピュラーになっているPowwowで美しい伝統のエネルギーを体感。基本的にはインディアンでないとコンテストには出られないが、だれでも参加できるコーナーもあるので参加して一緒に踊ってみるとすごく楽しい!その他、メディスンマンの案内で植物散策、有機農場を見学したり、ピクニックランチを持って広大な国立野生動物保護区を訪れレンジャーから環境保護について学ぶ。キャニオン シェイ大渓谷の中での乗馬や遺跡探検ハイキングも日本ではできないダイナミックな体験だ。夜ともなれば部族の素朴な伝統料理を味わいながら、古老の語る伝説をきく。歌やダンス、ドラムの地元チームが来てパフォーマンスも披露してくれた。言葉には出さないが始終、私たちが寒くないか、のどが乾いていないか、お腹が空いていないか、本当に寛いて楽しんでいるか等、遠来の客をもてなしたい心からの気配りを感じる。運良く部族からオファーされれば、夜明け前や、日没後にスウェットロッジの儀式に参加できる場合もある。彼らの儀式はとても神聖なものなので、その際は厳粛な態度で参加してほしい。数年前の例だが、現在はインディアンの人々にしか許されていないバッファローハンティング(儀礼のひとつ)に加わることを許され、ハンティングの後の皮なめしの作業にも参加させてもらえたケースもある。彼らの文化を真剣に学びたい参加者の想いが通じて、彼らも心を開いてそれに応えてくれたのだろう。環境問題に関連してアメリカ先住民に限らず、世界の先住民のその自然と共生するシンプルなライフスタイルが注目されて久しい。中でもアメリカ先住民の精神性、心のあり方は、限られた範囲の中で捉えがちな環境問題を、すべてのもの(人、動植物、自然環境、宇宙)と共生するというグローバル、ユニバーサルなものである。毎日の生活の中でそれを実践することは大変なことだが、そうしたアイデアをもって生活するのと、そうでないのとでは、後々大きな違いとなってあらわれるだろう。

現在、“インディアンであることはとても難しい”けれど、それでも真摯に伝統を守ろうとしている人たち、伝統的に生きようとしている人たち、現実とうまく折りあいをつけてポジティブに行動している人たちと出逢い、彼らの伝統文化を学ぶだけでなく、いろんな場面でいろんな世代の人たちと現在の問題や将来についても本音のディスカッションができて大変有意義だった。そして、何よりも彼らと、たしか昔の日本にもあった(?)ほのぼのとした心と心の交流時間を共有できたことがこの旅の一番の宝物。都市生活者には想像しているよりもハードなキャンプでの数日間は、体にも心にもいい刺激になる“洗礼”だろう。

アメリカ大陸の中なのに、実際その場に身を置いてみると、全然ちがう場所にいるような気がする居留地は私たちが思う以上に異文化の空間だ。アイコンタクトや握手の仕方も私たちがアメリカ人に持っているマナーとはおよそ逆。また、部族によっても異なる。居留地へ行く人たちへのアドバイスは彼らの文化に“Respect”− 尊敬の態度をもって接するということ。いろいろなマナーや習慣を知らなくてもこの態度があれば、必ず気持ちは通じる。それは彼らの最も重要な価値観のひとつなのだから。


バッファロートレイルズ


1996年度 通訳・アシスタントガイド

野津加代子






ネイティブアメリカへの冒険ツアー