花岡訴訟原告弁護団弁護士への公開書簡


新美隆弁護士及び弁護団の先生方へ

私は、原告の一人として、 昨年十一月二十九日に東京高等裁判所で結ばれたいわゆる花岡和解を 決して受け入れることができません。
私の考えは原告団会議の場で繰り返し申し出ていましたが、 先生方は私の意見を無視され、裁判所にも報告せず、外部にも公開しないできました。 やむを得ず、私は、 今年の六月二十五日に「花岡事件『和解』の欺瞞を告発する」という声明文を発表し、 中日両国のマスコミに報道されました。 しかし、先生方からは相変わらず何の反応をも得られていません。 八月九日、北京で「花岡受難者連誼会」の幹事会が開かれた時、 先生方は北京にいらしたにもかかわらず、会議には出席されませんでした。 私は、通訳に先生方との話し合いを要求する旨を伝えてもらいましたが、 拒否されました。 原告の弁護士として、職責を果そうとしないでいることの理由は、 単に職務上の「怠慢」だけなのか、それとも他に何か言えないことがあるのでしょうか。

早くも「和解」から一年になろうとしています。 一九九九年八月十三日、先生方が鹿島に企業責任を認めさせると約束し、 原告側に「全権委託書」を要求した時のことはいまでも鮮明に覚えています。 しかし、「和解条項」では鹿島は企業責任を認めていないにもかかわらず、 先生方は原告に代わってそれを「了解」しました。 原告弁護士として、このような原則に関わる問題に関して、原告に報告もせず、 当然原告の意見を聞くことなく、独断的に決定を下し、 むしろ被告側鹿島の方に肩入れしています。 このようなやり方は、職業倫理に反する行為なのではありませんか。

ここで、幾つか質問をしたいと思います。 これまでのようにひたすら回答を引き伸ばしたりされず、 真摯な態度で答えてくださるよう願っています。

第一に、「和解」成立前、「和解条項」の原文を原告側に示さず、 十分な説明をも怠ったことは、原告側が和解の内容を知ったならば、 必ずこの被告鹿島にのみ有利な和解を拒否することになったからではないでしょうか。

第二に、「和解」成立後、「和解条項」、裁判官の「所感」、 及び鹿島のコメントについて、 いち早く原告側に報告・説明すべきではなかったのでしょうか。 どういった考えからそれを遅らせたのか、 そして実際どのように報告・説明をしたのでしょうか。

第三に、原告の利益を代表・守る立場でなければならない弁護士として、 なぜ鹿島側の劣悪な態度を放任したのでしょうか。 花岡受難者連誼会幹事の耿碩宇の強い要請を顧みず、 逆に鹿島に感謝の意を表したのはなぜなのでしょうか。

第四に、原告と花岡受難者連誼会に見られた「和解」への反対意見、耿諄氏の談話、 私・孫力の声明に関して、先生方は無視されつづけ、 いかなる措置をも取らないおつもりなのでしょうか。

第五に、この「和解」によってもたらされた看過できない結果のひとつとしては、 「和解」を受け入れた被害者とそうでない被害者とを 激しく対立させる可能性を孕んでいることであります。 被害者同士がお互いに争い、加害者である鹿島が漁夫の利を占める、 という事態に対し、弁護士としては何らの責任をも取らないおつもりなのでしょうか。

この「和解」は、花岡被害者やその遺族だけでなく、 すべての 中国人民 に対する侮辱であります。 「和解」内容にショックを受けた耿諄氏は卒倒し、私の兄も脳卒中などを患いました。 事実を知っていた周りの友人たちで憤慨していない人は一人もいません。 さらに、北京から河南省の耿諄宅に「良心を売り渡した奴!」 との抗議の声も投げかけられました。 原告らは無実です!  先生方は、 原告らが「和解」の内容を知らなかった事実を明らかにすべきではないでしょうか。

ここで、私は再び通告します。 二〇〇〇年十一月二十九日に成立した「和解条項」の全文は、 原告の一人である私に対して説明されることはなく、 中国語の文面も日本語の文面も見たことがありませんでした。 当然「和解条項」に同意し署名をしたこともありません。 したがって、花岡被害者の根本的利益を裏切り、 中国人を侮辱した「和解条項」を認めません!  この「和解」は法的効力を有しません!  私は、次のように要求します。 迅速に有効な措置を取って、裁判所に通告し、審議を再開すること。 歴史の真実を正しく記録し、善悪を明らかにすることによって、死者の霊を慰め、 生きている人に希望を与える結果をだすこと。

上述の二点に対して、本年十二月二十九日までに公開回答を提出されますことを要求します。 私は、得られた回答に基づいて、中日両国、 特に日本の弁護士界に法的支援を申し入れるか否かを決め、 自身の上告を申し立てる権利を断じて守るつもりでいます。 正義を取り戻すため、平和を愛する中日両国人民、及び各国の平和勢力と協力し合って、 鹿島から勝利を勝ち取るまで闘いつづけます!

                     花岡事件訴訟原告:孫力

                     二〇〇一年十一月二十六日

同時送付:
中国紅十字総会
東京高等裁判所
中日両国のマスコミ


                     (山邉悠喜子・張宏波訳)


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