17K\no_Onna−22
第4部 光芒の果て(3)

 朝里は,部屋の外のちょっとした物音にも敏感に反応した。まもなく由利が来るはずだ。朝里はそれをひたすら待った。
 カン,カンと鉄の入り口ドアをノックする音が聞こえた。もっと,待たされるかと思ったが意外に早い到着であった。
 朝里は本当は一刻も早く由利の顔を見たかったが,わざと出来るだけゆっくり歩いて,ドアを開けた。
 こぼれるような笑顔をたたえた由利が,そこに立っていた。
「おはようございます。お待たせしてすみませんでした」
由利は半日前に見たときより,硬さが取れ,一段と魅力が増したように見えた。
 こんないい女に俺は声を掛けられたのか。朝里は感慨深かった。
 朝里が何も言わないで突っ立ているので,由利は中に入るとドアを閉めた。
「あがっていいですよね」
由利は微笑みながら朝里に言った。朝里は我に返った。
「どうぞ,どうぞ。君があんまり奇麗なもんだから,見とれてしまって」
朝里の言葉は本音だった。
「浅里さんたら,上手なんだから」
由利はそう言うと,朝里の腕を引くようにして,ベッドルームに入っていった。
 前回,会ったときは珊瑚色のスーツだったが,今は黒レザーのブレザー,その下は真っ白なタートルネックのシャツ,下半身はブリーチしたジーンズという服装に変わっていた。アクセサリの金のネックレスや,金のブレスレットがよく似合っている。
 由利が同じ格好で来るとは思っていなかったが,前回とは全く違う衣装で決めてきたのには,朝里も驚いた。と同時に,何を着ても決めてしまう女の子だなと朝里は感心した。
「朝里さん,怒ってます?」
由利は朝里と向かい合うと,彼の肩に手を掛けながら,甘い声で聞いた。
「全然,問題ないですよ」
朝里も,由利の背中に手を回しながら答えた。
「よかった」
由利はそう言うと,自ら朝里の唇を求め,口の中に舌を押し入れてきた。朝里も彼女を抱きしめると,由利の舌を激しく吸った。
 2人の間の関係は一気に打ち解け,気持ちも感情も通じ合った。
「もう朝になっちゃったけど,17万円は大丈夫なの」
朝里は気になっていたので,まずそれを尋ねた。
「17万円?ええ,大丈夫ですよ。連絡してありますから,大丈夫」
 前回のときは由利は切迫した様子だったが,今度は目標が達成できるからなのか,それとも本当は大した話ではないのか,気にしている素振りはなかった。
「じゃあ,時間はゆっくり取れるわけ」
朝里はもしかしたらと思って聞いてみた。
「ええ,大丈夫ですよ。今6時でしょう。8時まで2時間きっちり取れますから,たっぷり楽しみましょう」
 由利は,ビジネスを忘れた分けではなかった。
 朝里は由利と半日密着していたので,個人的にも親しくなったかのように錯覚していたが,由利にしてみれば,依然として,一夜の客であった。
 その関係を乗り越える事はまだで来ていないし,そんなに簡単に乗り越えられる壁でもなかった。
 由利は朝里から離れると,持ってきた紙袋を開け,
「これ飲んで下さい」
と言って,朝里にドリンク剤を手渡した。
「何これ。俺,そんなにスタミナなかったかな」
由利は取り合わなかった。
「まあまあ,そう仰有らないで。結局,一晩中,お付き合いさせた分けだし,他の女性とも楽しまれたんでしょ。女は何人でも大丈夫だけど,男はそうはいかないでしょう」
 由利にそこまで言われてしまって,朝里は苦笑いしながら,大人しくドリンク剤を飲んだ。
 由利も,もう一本のドリンク剤を開けると一気に飲み干した。


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