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第4部 光芒の果て(1)

 朝里は,鴬谷のホテルで由利が来るのを待っていた。
 もう日が昇り,見るでもなく付けたTVでは定時ニュースが始まっていた。
 ほんの一瞬,微睡んだようであったが,はっきり眠ったという記憶はなっかたので,ぼんやり時間を過ごしていたのかも知れなかった。
 光代との交歓のあと,ホテルを出て車に乗り込むと,由利から連絡が来た。本当はそれは正確ではない。
 由利と男がホテルを出て,由利が男と別れたことを確認してから,朝里と光代もホテルを出たのだった。そうして,光代と二人で由利からの連絡を待っているところだった。
「朝里さん聞いてました。結構,激しかったでしょう。楽しんでいただけました。男の子は子供だから勘弁してね」
 由利は秘め事を聞かせてしまっという恥じらいがあるのか,少し甘えたように朝里に話し掛けた。
「楽しませてもらったよ。いやいや,何も事件が起こらなくてよかった」
 朝里は何もなかったかのように返事をした。
「浅里さんいまどこにいるの?」
 由利は朝里の状況を知らなかった。
「渋谷にいる」
「え,わざわざ,渋谷まで来てくれたの」
「そう。お疲れさん。あと一人はどうするの?」
 朝里は由利が17万円を達成するために必要な,後2人の相手,1人は朝里だが,の心当たりを聞いてみた。
「一応,横浜のお客さんに,もう1人紹介してもらってあるの。だから,これから当たって見ようかと思っているの」
 シャブ中のくせに,客を2人紹介してやるなんて,親切な男だと朝里は思った。
 横で2人の会話を黙って聞いていた光代の手が延びてきて,朝里の携帯をもぎ取った。
「由利さん,今日は。私,光代と言います」
 突然聞こえてきた女の声に,由利は驚いたようであった。驚いたというより状況をうまく把握できない様子であった。え,誰なのと言った後に,取り繕うように
「おはようございます」
 と言った。
「驚きました。私は朝里さんのたくさんいる女友達の1人なの。朝里さんが暇そうにしていたので,お誘いしたんです。少しお話していいかしら」
 光代は,あらかじめ言うべき言葉を決めたあったかのように滑らかだった。
「ええ,どうぞ」
 由利は,突然現れたこの女が,いったい何で話をしたがるのか訝しがった。
「由利さんは客を探しているんですよね」
光代は丁寧に問い掛けた。
「朝里さんからお聞きになったとおりです」
由利は,携帯の内容は光代も聞いていたに違いないし,朝里は由利の事を話したに違いないと,瞬時に状況を判断した。
「で,最後は朝里さんが予約しているらしいんだけど,ラス前はフリーなのよね」
光代は確認をした。
「一応,心当たりはありますけど,決まっているわけではありません」
由利は相手が同性であるので,事務的に丁寧に応対する。
「相談だけど,相手って私じゃ駄目かしら」
朝里は光代の言葉を聞いて,そんな趣味があったのかと思って,光代の顔を見詰めた。
「光代さんが,私を3万円で買いたいというんですか」
由利には驚いた様子も見られなかった。
「そういう事です。女じゃ駄目かしら」
「私,そういうのした事がないんですけど。それでもいいですか」
意外な展開に朝里は呆気に取られていた。
「ええ,全然問題ないわ。じゃあ,交渉成立ね」
 さっき,朝里と寝た女と,少し前に寝た女が,今度は2人して,会い見えるという。トンビに油揚げを攫われたような感覚と,他の男でなく,女である光代に由利が抱かれるのだから由利がこれ以上汚されると事はないという安心感が動じに朝里を襲った。
「じゃあ,浅里さんそういう事になりましたから」
 そう言うと,光代は車外に出ていった。
 英雄,色を好むと言うが,才女もまた色を好むのだ。他人の何人分かの能力を持つ者が,能力に応じて色を好んで,何が悪かろう。
 話がまとまり,満足げに彼の元を離れていく光代を見つめながら,朝里はそう思った。

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