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第3部 光の筋(5)

 30分ほどで渋谷に着いた。由利達の入ったラックスは,渋谷から青山へ向かう宮益坂の途中を左側に折れ,道路を一つ入った所にあった。今風のファッション・ホテルといった造りではなく,昔の旅荘の雰囲気をたたえていて,落ち着いた外観を示していた。
 玄関を入ると,フロントの反対側に各部屋の写真パネルが貼ってあり,望みの部屋のボタンを押す仕掛けになっているのであるが,ほとんどの部屋は先客が居るようで,パネルのライトが点いていて,選択可能な部屋は数部屋しか残っていなかった。
 朝里は時間帯が遅いので,あるいは満室かと思っていたので,数部屋でも空いていて安堵した。
「由利ちゃんは,どの部屋に泊まっているのかね」
光代はもっと空き部屋があると思っていたようで,選択できる部屋が少ないのが残念そうであった。できれば由利の部屋の隣にしたいと思っていたようだ。
 朝里も同じ思いであったが,由利がどの部屋に泊まっているかという情報はなかったし,空き部屋の数も少ないので,思惑通りにはいかないと考え,3階の部屋を選択した。  フロントでキーを受け取ると,エレベータで部屋に向かった。
 部屋は次の間が畳敷きになっている和室タイプであった。
「珍しいわね」
光代は和風の部屋はあまり利用した事がないようで,物珍しそうに室内を見回した。
 次の間の布団はダブルサイズで,昔のお殿様が使っていたような分厚い敷布団と糊の効いたカバーがかかった掛け布団がしつらえてあった。
 手前の部屋はソファーとテーブル,冷蔵庫,TVなどがおかれ,カラオケなどでくつろげるようになっていた。
 朝里は携帯のイヤホンジャックを抜くと,テーブルの上に置いた。
 このホテルのどこかに,さっきまで自分とセックスをしていた由利がいて,別の男とセックスをしようとしていて,朝里はそれを聞きながら別の女とセックスをしようとしている。朝里には目の前で進行していることが現実ではないような,不思議な感慨が湧き起こっていた。
 次の間を覗いていた光代が戻ってきて,朝里の前に立つと手慣れた様子で腕を浅里の首に回し,唇を押し付けてきた。浅里も光代の胸を抱きしめると,返礼をした。
 朝里と光代の関係は,かなり長い間続いている。関係はもう巡航速度に入っていって,燃え上がることはない変わりに,冷めていく事もなかった。
 ここに至るまでに,2人は将来を意識したときもあったし,行き違いがあって別れようと思う事もあった。しかし,塀の上を際どく歩いて行くように,どちらに転ぶ事もなく関係が持続した。
 そんな関係であったので,朝里は光代のどこを押せばどう反応するか熟知していたし,光代も朝里をどう扱えば,朝里が最も満足するかを知っていた。
 2人は,立って抱きあいながら,器用に互いの服を脱がせあい,シャワーを浴びにバスルームへ向かった。
 朝里と光代は,ボディソープを互いの体に塗ると,石鹸を付けたままの体で抱き合い,唇を求め合った。
 シャワーをお互いの体に浴びせ合うと,互いの体を拭き合い,ベッドに滑り込んだ。  全ての行為は定められた儀式のように,少しの無駄もなく,粛々と進行していった。
 行為を儀式に昇華する事で,2人の関係を巡航速度で持続させる事に成功したのである。
「腕のところ,日に焼けてたわね」
 光代は一応,気が付いているので確認するといった感じで,朝里に言った。
「そう。最近,出歩いているからね」
「商売で焼けるわけ?」
「休みに丹沢に行ったので,そのせいかも。俺の肌の焦げ具合をチェックしてくれるのは,君くらいのものだな」
 朝里は,光代とそういう関係になっている事に満足していた。
 朝里は光代を引き寄せると,彼女の乳首を軽く吸いながら,蜜の丘に手を伸ばし,ゆっくりとマッサージを始めた。光代は丘の突起に,指で振動を与えてもらうのが好みであった。朝里は承知しているが,すぐに望みは適えず,外苑部をまさぐった。お互いをよく知っている2人は,わざと相手の好みを外して焦らすのも,お互いの確認手段であるという事を了解していた。

 携帯からは,由利の声が時々聞こえてきた。まだ,前哨戦のようで,ベッドの中でお互いを確認する為の探り合いが続いているようであった。
 携帯の内容からは,男は由利に主導権を取ってもらう事を望んでいるようで,由利もそれを感知して,男に対し,次第に能動的になっていった。


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