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第2部 縁の糸(5)

 光代は浜松町で待っていた。彼女は,駅近くのバスとキッチンのついた,ワンルーム・マンションを借りていた。彼女の仕事は,幕張や臨海副都心,横浜などが多いので,浜松町は移動拠点として,便利なところだった。
 家賃は10万円と言っていたが,売れっ子で,稼ぎの多い彼女に取っては,大きな負担ではなかった。
「待った?」
 朝里は,車に乗り込んできた光代に声をかけた。
 光代は軽く首を振って,助手席に乗り込んできた。
 個人輸入で手に入れた,ネービー色の綿ネックセーターに,洗い晒しの綿のプリーツパンツ,足下は赤いビット・タングという出で立ちであった。
 コンパニオンとして,毎日,人目にさらされているせいか,ラフでな服装でも,長身にキッチリ決まっていたし,茶色に染めた髪とラベンダーの口紅は,夜目にもくっきり鮮やかであった。
 こういう女を助手席に乗せて,走り回るのはいいものだよ,朝里はそう誇らしく思い,自慢する相手がいないのを残念に思った。
「彼女とコンタクト取れたんでしょう。言いなさいよ」
車に乗り込むと,光代は,いきなり核心を突いてきた。
「どうして解ったの」
朝里は怪訝な顔で尋ねた。 「あなたの声というか,態度がね,さっきみたいに落ち込んでいないし,ヘッドセット使った形跡が残っているし...。図星でしょ」
 光代はズバリと言い当てた。光代は洞察力に優れたところがあって,朝里も一目置いていた。今日も相変わらず冴えていると,朝里は感心した。もしかしたら,カマをかけただけだったのかも知れないが,そうだとしても,うまいものである。
「途中で電話があった」
朝里は,光代に電話の内容を説明した。
「やったね。面白くなってきた。今夜は楽しめるわ。あなた,呼び出してよかった」
 光代は,久しぶりに面白い事件に遭遇し,はしゃいでいた。
「この車,タバコ吸ってもいいんだっけ?」
光代はそう聞きながらも,バッグからメンソールタバコとライターを取り出し,火を付ける体勢に入っていた。
「煙を俺に吹きかけないでね」
本当は,朝里は車の中でタバコを吸われるのは好まないのだが,光代の勢いは止められそうもなかったので,妥協した。
 光代も妥協して,一服ふかすと,すぐにタバコをもみ消した。
「彼女,今,どうしているの」
「渋谷に向かっている」
「貴方どうするの?ホテルの前で用心棒をしてあげるわけ」
「まさか。何かあったら,ホテルの従業員か,警察に踏み込んでもらえばいいんじゃないの」
「そう言う事ね。私たちはどこで盗聴するの」
「それは任してもらいましょうか」
そう言って,朝里は行きつけの店に向かった。

                        第二章 完
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