貧しさの表現
貧しさの表現

 今村昌平の映画に「楢山節考」という映画がある。
 主演女優の坂本スミ子がカンヌ映画祭で受賞し,帰国したら麻薬の不法所持で捕まったというのでも話題になった。
 貧しい村で食い扶持を確保するため,年寄りを山に捨て,間引くという話である。
 ところが,残念ながら今村監督をもってしてもリアリティがない。
 村の若い衆役として,小沢 昭一他が出演しているのだが,これが揃いに揃って見事にブクブクと太っている。
 どう見ても,食い物に困っているとは見えないのである。単に,遊んで暮らしたい,いい年をした男達が,年寄りの面倒を見るのがイヤで,年寄りを捨ててしまう映画にしか見えない。
 ミスキャストである。

 東映の映画で「大日本帝国」というのがあった。中国から軍国主義映画と批判を浴びたが,私は昔の東宝の「太平洋の嵐」などと比べれば,それなりに戦争批判をしているように感じた。
 しかし,ここではそれは問題ではない。
 出演は,三浦友和,あおい輝彦,夏目雅子などである。
 ラストの方で,戦局が傾き三浦とあおいの二人はグアム島で,死にかける。だが,三浦友和は顔色がメークでどんどん青くなっていくのに,しっかりした顔形のまま死んでしまう。
 最悪なのは,生き残ったあおいで,戦争が終わり,日本に帰って来て,房総の海岸で妻の夏目と再開するのだが,軍服のボタンがはじけるのじゃないかと心配になるほど太っている。
 こんなに栄養状態がいい兵隊さんばかりで,どうして米国に負けるんだと言いたくなる。
 
 黒沢明の「七人の侍」に出てくる,百姓は確かに痩せこけていて,米や麦や,かみさんまで野盗にさらわれたのが納得できる体型をしていた。
 小沢やあおいが百姓役だったら,三船敏郎も志村喬も,百姓を助けようとはしなかっただろう。
 もう,貧しいころの設定の映画は作れないのかもしれない。


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