新アマチュア衛星 TMSAT-1 の詳細

by JJ1WTK 坂本和志



最終更新 1998年7月19日

この記事は、私が日本アマチュア衛星通信協会(JAMSAT)のメーリングリストjamsat-bbに投稿した4つの記事を再編集したものです。お読みになった方がこの記事の内容を引用することは構いませんが、その場合には、「JJ1WTK(坂本)がJAMSATのメイリングリストjamsat-bbに投稿した文章を引用した」ことを明らかにしてください。

1998年7月10日 06:30UTC バイコヌール宇宙基地から Zenit 2ロケットで 打ち上げられた TMSAT-1 に関する情報です。 JAでも、多くのアマチュア衛星ユーザーが7月12日(日)から TMSAT-1の ダウンリンクを受信できています。 本稿は、TMSATのホームページに記載されている情報をもとにして、次のような 内容について紹介します。

  1. TMSAT-1の外観と構成
  2. TMSAT-1の開発団体、関係組織
  3. TMSAT-1のブロックダイアグラム
  4. TMSAT-1の RFシステム
  5. DSP実験(Digital Signal Processing Experiment, DSPE)
  6. GPSサブシステム
  7. 姿勢決定&制御システム (ADCS)
  8. パワー(電力)サブシステム
  9. カメラ・サブシステム
  10. トランスピューター
  11. TMSAT-1の オンボード・コンピューター・システム(OBC)
  12. CANネットワーク


  1. TMSAT-1の外観と構成
  2. 下記URL参照 外観はhttp://www.ee.surrey.ac.uk/CSER/UOSAT/missions/tmsat/picture/satimage.gif 構成はhttp://www.ee.surrey.ac.uk/CSER/UOSAT/missions/tmsat/info/tmsatpic.gif

  3. TMSAT-1の開発団体、関係組織
  4. TMSATは、タイにとって最初のマイクロサット衛星です。TMSATという名前は、 Thai-MicroSATelliteに由来します。この衛星は、サレー大学(英国)の中にある サレー・サテライト・テクノロジー・リミテッド(SSTL)のエンジニアたちと、タイの エンジニアたちによって製作されました。開発に携わったメンバーの紹介が下記のURL にあります。http://www.ee.surrey.ac.uk/CSER/UOSAT/missions/tmsat/team/index.html TMSATの開発資金を提供したのは、タイのベンチャー企業である The Thai Micro Satellite Company Co.,Ltd.(TMSC)です。この会社は、タイのマハナコーン工業 大学( Mahanakorn University of Technology (MUT))と、タイの衛星技術開発を業務 としているタイ・サテライト・コミュニケーション社(Thai Satellite Communication (TSC))が共同で設立した会社です。TMSATという名前は、Thai Macro Satellite Company Co.,Ltd. の会社の名前から取った名前でもあるのです。

  5. TMSAT-1のブロックダイアグラム
  6. 下記をご覧ください。残念ながら英語です。 http://http://www.ee.surrey.ac.uk/CSER/UOSAT/amateur/tmsat/Image14.gif

  7. TMSAT-1の RFシステム
  8. 受信系統:アップリンクはアマチュアバンド(VHF)内 受信機は3セット、復調器も3セット(CPFSK、つまり位相連続FSK)、 受信アンテナはモノポール4本、変調は 9600bps ○ アップリンク周波数は、145.925, 145.975MHz の2波 送信系統:ダウンリンクはアマチュアバンド(UHF)内の 送信機は2セット、変調器も2セット(CPFSK、つまり位相連続FSK)、 送信アンテナはモノポール4本、 変調は、9600bps(データ、コマンド)または 38400bps(データ)、 送信出力は2W/10Wの切り替え ○ SSTLにある TMSAT-1のホームページには、周波数について次のように記載 されています。 436.925 (P), 436.900, 436.950, 436.975 MHz

  9. DSP実験(Digital Signal Processing Experiment, DSPE)
  10. DSP実験ペイロードは、TMSATに搭載される実験ペイロードのうちの1つです。 DSPそのものは、地上ではよく知られている技術ですが、通常のDSPチップは 信頼性が実証されていないことや消費電力が大きいことなどにより宇宙空間では あまり使われていないのが実状です。ですが、DSPはプログラムできるという特徴を 生かして使えば、どのような通信実験あるいは信号処理もできるという点で 非常にフレキシブルなシステムができると言えます。 TMSAT-1の DSP実験ペイロードに採用された DSPチップは、地上でも広く使われている テキサス・インスツルメント社の32ビット浮動小数点型 DSPプロセッサである TMS320C31です。DSP実験ペイロードは、このチップと 128kBのEDACメモリ(Error Detection and Correction、エラー検出と訂正機能を持つメモリ)と 1MBのデータ用 メモリから構成されています。EDACメモリの方はコード(プログラム)用です。 DSP実験ペイロードを使って行われる予定の実験には次のようなものがあります。 ・リアルタイム音声通信実験(Real time voice communication) ・デジタルモデムの実験 ・軌道上での信号解析 ・スキャニングレシーバー ・デジタルボイス放送 など

  11. GPSサブシステム
  12. TMSAT-1は、GPS受信機を搭載しています。写真は下記のURL参照。

    http://www.ee.surrey.ac.uk/CSER/UOSAT/missions/tmsat/images/normals/gps.gif GPS受信機を積むことで、衛星自身がリアルタイムに時刻を知ることができます。 そうすると、衛星と地上の管制局が正確に同期を取ることができるようになります。 1ミリ秒以上の精度が期待できるでしょう。また、GPS受信機から衛星自身の位置も わかります。この情報をもとにして、管制局が衛星の軌道要素を計算できます。

  13. 姿勢決定&制御システム (ADCS, Attitude Determination and Control Subsystem)
  14. ADCSは、TMSAT-1が正しく地球に向くように衛星自身で姿勢を検出し、制御するための システムです。 衛星に積まれたマグネトメーターは、地磁気を測定することで、そのベクトルが わかります。サン・センサー(太陽センサー)は太陽の方向を測定し、両者の結果を 合わせて、時々刻々の衛星の姿勢を決定します。 TMSATには、UoSATの特徴のひとつでもある重力傾斜ブームが備えられています。この ブームの先端には重りが取り付けられています。 マグネトルカーとモーメンタムホイールがローコストなアクチュエーターとして働き、 衛星の姿勢を保ちます。

  15. パワー(電力)サブシステム
  16. TMSATの主な電力源は、GaAs太陽電池です。1枚の太陽電池セルは、大きさが 2cm X 4cm で、これを42枚直列に接続したものが1枚のパネルを構成しています。TMSATには このようなパネルが、4枚あります。発生電圧はパネル1枚あたり 35V、電流は最大 で 1Aです。トータルの効率は 19.5%です。 衛星が、地球の影に入っている間には発電できないので、バッテリも搭載しています。 業務用のFサイズのNiCd電池が全部で10本あり、容量は 7A/Hとなっています。 太陽電池パネルの写真はこちら

    http://www.ee.surrey.ac.uk/CSER/UOSAT/missions/tmsat/images/normals/solar.gif

  17. カメラ・サブシステム
  18. 広角カメラが1器、望遠カメラが3器(赤外、赤、緑)、CMOSカメラ(CCD使用)1器 撮影範囲は、広角カメラでは 1500km X 1500km、 望遠カメラでは 100km X 100km、 解像度は、広角カメラでは 578 X 576 ピクセル、望遠カメラでは 1024 X 1024 ピクセル カメラとトランスピューターの間は、10M ないし 20M でリンクしています。

  19. トランスピューター
  20. トランスピューターは2セット積んでいます。EDACメモリは4Mバイト。 GPS実験とカメラで撮影した画像の予備画像処理を行うために使われます。 トランスピューター・モジュールの外観はこちらをご覧ください。 http://www.ee.surrey.ac.uk/CSER/UOSAT/missions/tmsat/images/normals/transptr.gif

  21. TMSAT-1の オンボード・コンピューター・システム(OBC)
  22. TMSAT-1には、SSTLがこれまで使ってきた実績のある 80C186をCPUにした OBC186システムと、新規に開発されたパワフルな OBC386システムの2系統が OBCとして搭載されています。

    ○ OBC186システム

    システムクロック 16MHz、16MB の RAMディスク、768kB の EDACメモリ クロック 7.3728 MHzで動作させると、消費電流は170〜200mA。 衛星内のハウスキーピング(あらゆる雑用)、ストア&フォワード通信、 アップリンク&ダウンリンクの制御、電力管理、衛星の姿勢管理などすべてを 管制するシステムです。

    ○ OBC386システム

    将来のUoSAT衛星では OBC186システムをリプレイスするために、実証試験と して搭載される OBCシステムです。 メインプロセッサ インテル i386EX、システムクロック 16〜25MHz、 消費電流 250〜500mA程度(動作クロックによる)、64MB の RAMディスク、 3 重化メモり 4MB、プロテクトモードでリアルタイムOSが走ります。 我々が使っているWindowsパソコンの動作クロックが 200MHz程度であること を考えると、衛星の OBCはいかにも遅そうですが、動作クロックを下げているのは 消費電力を徹底的に抑えるためです。衛星内ではCPUの強制空冷などできませんし、 ペルチエ冷却するようなムダな電力もありません。

  23. CANネットワーク
  24. 衛星内に搭載されたモジュール間を連絡するネットワークが張られています。 つまり衛星内 LANです。ネットワークには2種類あって、1つは CAN(Control Area Network)という名前で知られている仕様の LANで、衛星内のすべてのサブシステム間を つないでおり、1Mbps で通信できます。もう1つは、従来から UoSAT衛星で採用されて きた DASH(Data-sharing Network) という LANであり、通信速度は 9600bpsです。 CAN と DASH の間も CANペリフェラルと DASHインターフェースという「仕掛け」を 経由して、相互に乗り入れができ、冗長性を持たせてあります。

本ページをまとめるにあたり、元になった jamsat-bb の記事は次のとおり Message-ID: <35AA138B.AABDC44A@jamsat.or.jp> Date: Mon, 13 Jul 1998 23:02:51 +0900 From: "Kazu Sakamoto, JJ1WTK" To: jamsat-bb@jamsat.or.jp Subject: [jamsat-bb:3373] detail of TMSAT-1 (1) Message-ID: <35AA1320.DC92A3D6@jamsat.or.jp> Date: Mon, 13 Jul 1998 23:01:04 +0900 From: "Kazu Sakamoto, JJ1WTK" To: jamsat-bb@jamsat.or.jp Subject: [jamsat-bb:3373] detail of TMSAT-1 (2) Message-ID: <35AA1269.A6E12C1F@jamsat.or.jp> Date: Mon, 13 Jul 1998 22:58:01 +0900 From: "Kazu Sakamoto, JJ1WTK" To: jamsat-bb@jamsat.or.jp Subject: [jamsat-bb:3372] detail of TMSAT-1 (3) Message-ID: <35AA1368.69A26808@jamsat.or.jp> Date: Mon, 13 Jul 1998 23:02:16 +0900 From:"Kazu Sakamoto, JJ1WTK" To: jamsat-bb@jamsat.or.jp Subject: [jamsat-bb:3373] detail of TMSAT-1 (4)

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