長波標準電波(JG2AS)を受信して
パソコンの内部時計を合わせる


OPアンプを使った40KHz受信機

JG2AS受信機基板

1998.11.11 de JS1RSV


パソコンの内部時計は、一般の時計に比べると精度が悪く、すぐ狂ってしまうものが多いようです。時刻合わせはキーボードから操作できますので、一般の時計にくらべて楽ではありますが、やっぱり面倒です。そこで、長波標準電波(JG2AS)を受信してパソコンの内部時計を自動的に合わせる試みをしてみました。

JG2ASの受信機はOPアンプで構成し、信号解析にはパソコンを使いました。信号の取り込みに、手軽に切り替えられるシリアル・ポート(RS232Cインターフェース)を使用しました。

■ OPアンプを使った40KHz受信機の試作

40KHzと言えば、汎用OPアンプでも処理可能な周波数です。OPアンプでアンプやフィルタを構成して受信させてみました。一般的な高周波回路とは一風変わったアプローチで、ベストとは言えないかもしれませんが、OPアンプで作った受信機というのも面白そうです。

実験回路ということで、AGCなどは持っていません。送信所からの距離や、周辺の状況で変わる電界強度に自動的に対応できませんので、実用回路とは言えないかもしれません。必要に応じて、回路を見直してください。

■ JG2ASと電磁波

JG2ASがある40KHz周辺には非常に多くのノイズ(電磁波)が存在します。最も強力なのがパソコンのCRTからでるノイズです。Windows等を使用していると、水平同期信号が40KHzに極めて近い周波数になる事があり、分離不可能な事もあります。DOSでも、24〜31KHzの近接周波数なので、かなりの影響を受けてしまいます。

そして、影響が大きいものに、インバーター式の蛍光灯があります。他にもTV受像器やパソコン本体や周辺機器、TA等も強力なノイズを出します。意外な処では、手持ちの安価なオシロスコープも結構なノイズを出しているようです。

JG2AS受信のカギはフィルタです。市販の電波時計には、米粒型の超小型クリスタルフィルタが使われています。Qが1500程度あるそうで、その為に電磁波ノイズが多い40KHz周辺の周波数でも分離できるようです。しかし、このフィルタの入手性は良くありません。そこで、OPアンプで構成したBPFを使って受信機を試作してみました。

■ 40KHz受信機の回路構成

回路構成は図40KHz受信機の回路図(JG2AS2.PDF/17155bye))の通りです。なるべくシンプルに構成してみたかったのでストレートアンプになっています。ゲインは総合で100dB以上ありますので発振しやすく作りにくいかもしれません。

初段はトランジスタによるプリアンプです。全てOPアンプで構成できれば面白かったのですが、SN比が心配なのでトランジスタを使用しています。30〜40dBのゲインを持たせて有ります。

2段目の増幅はOPアンプを使用しています。少し欲張って40dBのゲインを持たせて有ります。これ以上のゲインが必要な場合は、この後に(3段目の)アンプ追加すると良いでしょう。

バンドパス・フィルタ(BPF)には、部品点数を減らす為にゲイン(20dB)を持つBPFを使いました。このBPFは多重帰還型になっています。見かけのゲインは10倍ですが、OPアンプ自体のゲインは200倍にもなります。その為、OPアンプ自体が発生するノイズが1μV程度なのに、BPFが発生するノイズが200μV程度にもなってSN比が悪く発振しやすくなってしまいます。

設計当初、2段目の増幅回路は無く、ゲインはBPFだけで得ていました。しかし、これでは極めて発振しやすくなるので、BPFでのゲインを半分に減らしました。BPFでは一切ゲインを得ず、3段目の増幅回路を追加した方が、より安定すると思います。

■ プリアンプについて

入力信号レベルが高ければ、別段問題はないのですが、レベルが低いと信号がノイズに埋もれてしまいます。BPF自体のノイズが1段あたり200μV程度あるので、前段のアンプで、これ以上に増幅しておく必要があります。

回路は汎用トランジスタ(2SC1815)で、簡単なエミッタ接地のアンプを使います。ゲインは30〜40dB程です。特性は商用電源のノイズや、中波放送局の信号は減衰できるようし、40KHzあたりがピークになるようになっています。

さらに、OPアンプ(NJM5532DD)によるアンプを付けてゲインを稼ぎます。このアンプ単体のゲインは40dBです。

受信機に必要なゲインは受信場所によって異なるでしょうが、東京ではトータルで100dB程度あれば良さそうです。この受信機はAGCが付いていませんので、必要なゲインは設計段階で稼いで置かねばなりません。送信場所から離れるほど、より多くのゲインが必要でしょうから、OPアンプによるアンプを、もう1段追加したほうが良い場合も有るかもしれません。

■ OPアンプによるフィルタ

高次のBPFを作るのは、設計も部品の入手も厄介なので、Qが10程度の一般的なBPFを数段重ねて選択度を出すことにします。部品点数が減らせるように、最初の2段のBPFにゲインを持たせてあります。

選択度としては3〜4段重ねれば使えそうです。ノイズが多い環境の場合は4段欲しいところです。

さて、肝心のBPF用OPアンプには5532DDを使います。段数(増幅率)を増やすと、極めてローノイズなOPアンプでなければ自分のノイズで、何も受信できなくなってしまいます。5532DDの最後の「DD」はローノイズ版のクラス指定で重要です。別のOPアンプ(例えばTL072D)を使うとノイズは2倍に増えてしまいました。

定数は回路図の通りで、入手しやすい部品が使えます。回路図上の4KΩは3.9KΩでも代用可能です、この場合、若干ですが、増幅率と中心周波数がずれますが、さほどの影響は無いようです。

BPFで使用するC・Rの精度は1〜2%程度は欲しいところです。抵抗には精度1%の金属皮膜、コンデンサには2%のスチコンを使ってみました。スチコンは段々入手性が悪くなるらしいので、後に1%のポリプロピレンでも実験したところ、問題なく使用はできますが、スチコンの方が具合は良いようです。

プリアンプで70dB、BPFで合計40dB、合計110dBのストレート・アンプですから発振しない方がおかしいくらいです。特に電源回りや、配線の引き回しには注意が必要でしょう。BPFとプリアンプを別基板にし、さらに、BPFとアンテナを近づけないように工夫すると良いかもしれません。

■ JG2ASのアンテナ
電波時計用アンテナ
市販の電波時計の中にはバーアンテナが入っています。最初の実験のアンテナには、電波時計から取り外したバーアンテナを使いました。当然の事ながら調子良く受信できます。

AMラジオ用アンテナ電波時計のバーアンテナは、AMラジオ用のバーアンテナと良く似ています。そこで、AMラジオ用を使ってみました。本来500〜1600KHz程度で使うものですから、40KHzで使うにはインダクタンスが少なく、大きめのコンデンサが必要になっていまいます。手持ちのバーアンテナでの実験では0.022μF+4700pFで同調しました。市販の電波時計のバーアンテナには6800pFが付いていましたから4倍以上も違うわけです。それでも、特に問題なく受信できるようです。若干ですが、AMラジオ用の方が感度が劣り、選択度が良い感じでした。

手巻きのアンテナ次ぎに、AMラジオ用バーアンテナのコアに10m程の電線を手巻きして作った高インダクタンスのバーアンテナ(コンデンサは2000pFで同調)を使ってみました。電波時計用やAMラジオ用と比べると感度が飛躍的に上がったものの、選択度が悪く余計なノイズばかり拾うようで、逆に受信しにくくなりました。

意外にも、我が家ではAMラジオ用を流用したものは一番具合が良かったようです。送信所が比較的近距離であったことと、部屋の中にノイズ発生源が極めて多いのが理由だったようです。アンテナを自作する場合は、自分の環境に合わせてコイルの巻加減を調整すると良い物ができそうです。

■ 復調回路について

JG2ASの電波は、40KHzの信号の断続です。将来的には、20%と100%の振幅変調になるそうですが、市販の電波時計でも受信できるような形式になるそうです。BPFの出力をオシロスコープで見ると、秒を刻むように信号レベルが変化するので良く分かります。

受信信号は振幅によって表されます。復調回路はダイオード検波と、OPアンプのコンパレータの組み合わせで行いました。OPアンプのノイズレベルや、電磁波等のノイズレベルを考えると、1S1588のような汎用ダイオードによる検波でも十分使えそうです。

調整は、コンパレータの比較用電圧の設定だけです。オシロスコープで眺めながら、JG2ASの信号を受信しているときにLEDがONになるように調整します。慣れればオシロ無しでも調整できるようになりますが、最初はちゃんと信号を受信できているか確認しながら調整した方が良いでしょう。

バーアンテナには指向性がありますので、この向きにも注意してください。受信感度が高く、ノイズの影響を受けにくい方向に向けて下さい。また、この回路にはAGCはありませんから、条件が変わると再調整しなくてはなりません。

出力は、±5〜10V程度出ますので、パソコンのシリアルポートに直接つなぐ事が可能です。ただし、受信機の方はパソコンノイズに弱いので、ノイズフィルタを入れたり、長めのケーブルでパソコンから離したり、金属ケースに入れるとかの対応を取ったほうが良いでしょう。

接続するシリアル・ポートの信号には「DSR」を使います。プログラム自体は、入力ポートになっていれば、「DSR」でなくとも動作します。アドレスと使用するビットを指定すれば、パラレル・ポートの使用も可能です。

■ 市販の電波時計の利用

市販の電波時計今回は、OPアンプを使った受信機を試作してみました。当然ながら、市販の電波時計の受信部だけを利用すれば、同様なことも可能です。なにも、単体で既に時計として使用できる市販品を使うのは無意味そうですが、現在、電波時計は安いものなら3000円程で売られているので、受信機を自力で組み立てるより安く購入できそうです。

東京秋葉原で購入した、「OREGON SCIENTIFIC社」製の電波時計の例を紹介しておきます。この時計は秋葉原以外でも、地方のディスカウント・ショップなどで入手できるようです。

■ 電波時計の改造

蓋をあけると、液晶ディスプレイのすぐ下の基板に2つのテスト・ポイントがあります。この右側がJG2ASの受信信号、左側が受信部をON/OFFする制御信号です。これらの信号は、時計の制御用CPUが処理します。この2つの信号を乗っ取って、パソコンで解析します。

電波時計の改造 改造方法 追加回路

これらの信号の電圧は電池電圧と同様の3V近くです。ON/OFF制御は0VでONになります。外部から無理矢理0VにするとCPUが壊れますから、右図のようにパターンを切って10KΩの抵抗で繋ぎます。これなら、無理に0Vにしても0.3mAしか流れないので大丈夫でしょIF回路図う。制御される受信機側のインピーダンスが高いので10KΩを入れても電圧降下はわずかでした。また、時計内部の信号線を引き回すのは問題ですので、トランジスタを入れてあります。

受信部への電源供給は別のラインで行われています。受信部をONにすると、時計の電池が消耗しますから注意が必要です。

インターフェースの回路は(左図)の通りです。これには5V電源が必要です。この出力をシリアル・ポートに繋ぎます。多くのシリアル・インターフェースは0〜5Vの信号でも、ちゃんとHI/LOWを認識してくれるようです。

■ 信号解析用プログラムについて

PC98シリーズでも、PC/AT互換機でも、DOS(バージョン5〜6は確認済み)ならば使用可能です。Windows95のDOSモードでも使用可能な場合もあるようです。

信号の入力には、シリアル・ポート(DSR)を使用するようになっています。オプションの指定で、別の信号(例えばCTS)にしたり、別のポート(例えばパラレル・ポート)に変更することも可能です。別の入力ポートを使いたい場合には参考にして下さい。

プラグ&プレイ対応の機種では、そのままの設定で使えない事があるかもしれません。こんな場合は、オプションの指定で設定を手動で変更してください。

プログラムのダウンロード(JG2AS300.LZH/36684byte)

■ プログラムの動作について

JG2ASの信号フォーマットは、マーク時間(キャリアを受信している時間)が0.2秒、0.5秒、0.8秒の3種類あります。プログラムはマーク時間を測定することで、この3種類を判別しています。

また、タイムコード中に、マーク時間0.2秒の「ポジション」「基準マーカー」が入ります。正分をまたぐように、「ポジション」と「基準マーカー」が入ります。共にマーク時間0.2秒なので、これをを見つけることで、タイムコードの同期を取ることができます。また、タイムコードの「分」と「時」の間などに「ポジション」が入ります。これがタイムコードの順序通りに入るかを確認することで、有る程度のエラーを検出することができます。受信状況が極めて悪い場合などは、全くタイムコードの同期が取れませんので、すぐに分かります。

タイムコードの具体的な数値を表す符号は、マーク時間が0.5秒と0.8秒の信号です。この信号がノイズなどで化けてしまうことが良くあります。0.2秒の「ポジション」信号と誤認識すれば即時エラーだと判別つきますが、0.8秒を0.5秒と誤認してもエラーは検出できません。

比較的受信状況が良い場合は、タイムコードの一部だけ誤認識して、エラーを検出できない場合があります。このようなエラーは、タイムコードのフレームを何度か受信し、比較をして、エラーを調べなくてはなりません。このプログラム(Ver.3)では、複数のフレームの比較訂正は行っていませんので、手動で決定しなくてはなりません。

タイムコードには「月」や「年」のデータはありません。1月1日からの延べ日数から「月」算出しますが、うる年の補正も必要になってきます。現在のプログラムでは、「年月日」のデータの更新は行わないようにしました。更新されるのは、「時分秒」のみとなります。