灯台から見える景色はいつもとかわらず、穏やかでした

アカリちゃんもずいぶんと元気になり、今まで通りの仕事ぶりでもう安心です

でも、もう1つ気になることがあります

それはあのシルバーさんというトレーナー

アカリちゃんが病気の時に灯台で出逢ったあの人はとても怖い目をしていました

けれどその瞳の向こうには何か怖れとは違う感情が秘められているようにもとれました

それが何なのかは私にはわかりません

私はあの人の事を、知らなすぎます





あれからもう大分経ちました

以来シルバーさんとは逢っていませんが、色々悪い噂は聞いてます

でも本当に悪い方なのでしょうか・・・

私は心から信じることはできません。その時

「バタンッ」

という大きな音とともにジムのドアが開かれました

背中に太陽の光を背負っていて顔はわかりませんが

どこかで見たことのあるシルエットでした

そう、その人はシルバーさんだったのです

「ジムリーダー、オレと勝負しろ」

ツカツカと歩み寄り、そうとだけ言いました

「アサギシティのジムリーダーとして申し込まれた試合は断りません
けれどもう少しおだやかにできないのですか?」

なぜなのか自分でもわかりませんが私は少し厳しい声で言いました

「・・・。」

彼は黙り、少しして

「すまない」

と謝りました

「あ、いえ。わかっていただければいいのです」

自分で注意したのに謝られて驚いてしまいました

まさか素直に謝るとは思っていませんでした

「それでは試合を始めましょう」

私がそういうと

「オレには勝てない相手がいる、2人・・・」

急にそう言いました

「ワタルというやつは『ポケモンへの優しさが足りない』そういった
もう1人のやつは何も言わないが、何度戦っても勝てない」

それまでうつむき加減だった彼はキッと顔をあげ

「戦っていてわかるヤツのポケモンはオレのポケモンとは違う
強さがどうこうじゃない、何かはわからないがオレとは違うんだ・・・」

私は少し考え聞きました

「それでなぜ私のところへ?」

「決まっている、オマエは優しさを持ったトレーナーだからだ
オレが持っていない、ポケモン達への優しさを」

この言葉を聞き確信しました、やはり彼は悪い人ではなかったのです

「ポケモンへの優しさ、それは自分の、他人の、野生のに関わらず
全てのトレーナーがもっているものです、私が特別なわけではありません」

「オレにとって一番優しさを持ったトレーナーのことを考えた時、真っ先にお前のことが頭に浮かんだ
あの弱ったデンリュウを看護していたオマエをな」

「あの時のことを覚えていらっしゃったのですか?」

しかしそれには答えず

「戦え!」

「・・・。わかりました、使用ポケモンは3対3で入れ替えは・・・」

しかしそこで彼は私をさえぎりました

「いい、オマエの一番をだせ。1対1、それでおしまいだ」

無論本来ならokを出せるはずがありません、規約があります

しかし彼の目的はバッジではないようなので例外として承諾することにしました

「では始めましょう、私のポケモンはハガネちゃんです!」

モンスタボールから紅い閃光とともにハガネちゃん、ハガネールが姿を現しました

「ニューラ!」

ハガネちゃん対ニューラ、分はこちらにあるでしょうか

「ハガネちゃん、地震!」

ハガネちゃんはその重く頑丈な身体を地面に叩きつけ衝撃波をくりだします

「ニューラ、かわして凍える風だ!」

ニューラはひらりと宙にあがり空中から冷気を放ってきます

「ハガネちゃん、砂嵐で防御して!」

身体を高速回転させハガネちゃんは砂嵐を発生させました

「ちっ、ニューラ冷凍ビームで凍らせろ!」

荒れる砂塵をニューラの冷凍ビームが白く輝かせていきます

このままでは不利になります、私は捨て身タックルを命じました

砂嵐に隠れているので避けきれないはずです

そして見事にハガネちゃんはニューラの死角から技をヒットさせました

ニューラはかなりのダメージを受けたようです

「ニューラ!しっかりしろ!」

「もうその子の体力は少ないです、戻してあげたらどうですか?
決して恥ずかしいことではありません」

「くっ、うるさい!ニューラ、気合パンチ!」

ニューラは体制を整え拳に力を溜め始めました

しかし気合パンチは技の発動までに時間がかかります、それにニューラは手負いです

「ハガネちゃん、岩石封じ!」

この技ならニューラへのダメージも少なく、技も防げるはずです

そして岩石はニューラの動きを封じました

ニューラはそのまま岩にパンチをくりだし、岩は砕け、自らにダメージを受け勝負が決まりました

「・・・。戻れニューラ」

モンスタボールを見つめるシルバーさん

「オレはオマエにも勝てないのだな・・・」

そして彼は踵を返しその場を去ろうとしました

「ま、待って下さい!」

しかし彼はそのまま去っていきます

私は駆け寄りとっさに彼の腕をつかみました

あっという間のできごとで自分でも驚き、パっとつかんだ腕を放しました

「なんだ?」

「いえ、あなたは私のところへポケモン達への優しさを知るためにきたのでしょう?」

「そうだ」

「私はまだなにも・・・」

そこまで言うとまた彼は私をさえぎりました

「言わなくても、少しわかった
というよりも、オマエはバトルを通じてオレに伝えたのではないのか?」

「え?」

私は普段通りに戦ったまでです

「オマエはオレにニューラを戻すよう言った、これ以上戦わせないように
そして最後の技も直接的なものではない岩石封じ
それはオレの傷ついたニューラに最小限のダメージで終わらせるために使ったんじゃないのか?」

彼に言われて気付きました

確かに最後の技はニューラをかばった攻撃でした

私自身気付いてないのに彼はそれに気付いたのです

「こいつらへの優しさを得ることができたなら、オレはもっと強くなれるのか・・・?」

彼はポツリと独り言、というよりは自分に言い聞かせるようにこぼしました

「・・・。アイツは今、四天王に挑戦するためにセキエイを目指しているだろう
けれど、あいつが四天王に行く前に今度こそオレが勝つ・・・」

それだけ言うとジムを去ろうとしました

しかしふっと立ち止まり

「もし、またアイツに勝てなかったらまた来る・・・かもしれん」

そういって彼はアサギを発ちました、最後は少し照れていたのでしょうか・・・

そういえば彼の言う『アイツ』というのはもしかしたらゴールドさんのことかもしれません

ゴールドさんはアカリちゃんのためにタンバまで薬をとってきてくださった心の優しい方

ポケモンバトルのときも勝つことを目的とした乱暴なバトルをしない方でした

優しさだけでなく、ポケモン達への信頼をも持っているトレーナー

もしかしたら今のシルバーさんでは勝てないかもしれません

けれどそれでまたここにきてくれるなら・・・

!!私はいったい何を考えているのでしょうか、さっきのは失言でした

・・・。シルバーさんはやはり悪いトレーナーではないようです

あの人はもっと強くなるはずです

優しさに気付き、そしてもう1度ここを訪ねてください

そしてまたバトルしましょう・・・