大切な人ほど近くにいて

いなくなって初めて、その大切さに気付くものだって

昔、誰かに聞いたことがある。もしかしたらママだったかもしれない

マサラに帰ったあの日、カスミはハナダへと戻っていった

お姉さんたちのかわりにジムを守らないといけないから、といって。

あの時は長い間ずっといっしょに旅してきた

『仲間』がいなくなる、という寂しさはあった

それはサトシにもちゃんと理解できる感情

それともう1つ言葉ではうまく説明できない

もやもやとした感情があったのも覚えている

あの時はただ、とても変な気持ちだった

あの時は理解できない、不思議な感情・・・





「カスミさん、いっちゃったかも・・・」

カスミの乗った飛行船はもう見えなくなってしまった

「うん、もっとたくさんお話ししたかったよね」

マサトも意見をそろえた

「ま、カスミは1人でジムを守ってるようなもんだからな、
長い間ジムを留守にするわけにはいかないんだろう」

「そうなんだー、カスミさんは急がしいんだね、お姉ちゃんと違って」

マサトは意地悪そうにハルカを見上げた

「もぉー、マサトってばまたよけいなこと言うんだからぁ!
ねぇ、サトシ?」

しかしサトシからの返答はなかった

サトシは飛行船の消えていった空をずっと眺めている

「サ・ト・シ!」

ハルカが耳元でサトシを呼ぶ

「わっ!な、なんだよ急に。びっくりするじゃないか!」

「なによ、サトシが呼んでも返事しないのがわるいんだもーん」
ハルカは腕組をし鼻をツーンととがらせた

「呼ばれてなんかない!」

サトシの反論

「ちゃーんと呼びました!
あ、わかったかも、サトシってばカスミさんのこと考えてたんでしょう!」

確信を突かれてし顔を赤くするサトシ

「な、なにいってんだよ!そんなわけないだろう」

「サトシったら顔が真っ赤かも」

そういって2人のおいかけっこが始まる始末

「ほらほら、2人とも。そろそろ出発するぞ!」

タケシに促がされてハルカはニヤニヤと、サトシはブツブツと出発するのであった





今夜は森で野宿になった

夕食後、サトシはみんなとは少し離れ、1人木の幹に背中をあずけ、座った

「カスミのことを考えてる」

ハルカにそういわれた時、サトシがカスミのことを考えてたのは言うまでもない

カントーをあとにして何ヶ月ぶりにカスミと逢っただろう?

きっと1年も経ってないはずだ

それなのにカスミはあんなに成長してた

バトルの技術なんかはやっぱりスゴイ。1人でジムを守ってるからだろうか・・・

そう思うとふとサトシの思考はカスミとのジム戦の方へ浮かんでいった

「・・・。あの時の勝利は運だったかも・・・しれないな」

1人、苦笑が漏れた

すると

「わっ!」

うしろからハルカがあらわれた

サトシはおどろき、飛び上がる

「またハルカ・・・。本当に心臓にわるいぜ・・・」

そういって元の場所へと腰を下ろす

「だってサトシが1人でいっちゃうんだもん、気になるじゃない、
ねぇサトシ!私にもカスミさんの話聞かせてよ!」

「はぁ、わかったよこっち座って」

「はぁ〜い」

ハルカは待ってましたとばかりにサトシの横に来て、ちょこんと座った

「で、さっきはなんで笑ってたの?」

「ん、あぁ、カスミとのジム戦を思い出してたんだ」

そういってサトシは夜空を見上げた

「ジム戦か・・・」

ハルカもサトシを真似て、空を見上げた

「カスミのヤツさ、オレがまだまだトレーナーとして未熟だからって先輩風吹かしてさ
いっつもケンカしてたっけ」

そういってサトシはカスミとの思い出話を始めた

今思い返すと本当に色々なことがあった

ケンカしたり、いっしょに笑ったり、泣いたり・・・。ぶたれたこともあったっけ・・・

「サトシは本当にカスミさんのことが好きなのね」

「へ?」

急にハルカが言った言葉を理解できないサトシ

『好き』という単語が頭の上をくるくると回転している

「カスミさんのこと話してるサトシのそんな表情、私今まで見たことないかも、
ま、こーゆーことにうといサトシにはわからないかもね」

そういってハルカは立ち上がり、パタパタと砂をはらって

「今日は色々話してくれてありがとう。あ、風邪ひかないでね、
寒くなってきたから」

と言い、タケシ達の所へ戻っていった

1人残されたサトシ

「カスミのことを・・・好き・・・」

『好き』

それがあの時のもやもやした感情の正体だということに徐々に気付き始めるサトシ

今までずっとカスミは傍にいてくれた

だから気付かなかった

カスミが自分にとって、近くにいて気付かない大切な人だということに・・・

「ハルカに言われて気付くなんて、
サトシって本当に乙女心がわかんないのね!」

もしカスミがいたらそういってそっぽを向かれるんだろうな・・・

そんなことを考えているとなんだか自分が笑えてきた

「オレってば全然成長してないや・・・」

そしてもう1度空を見上げる

空には星が瞬いている、それだけだった

カスミこそが

傍にいて気付かない、大切な人・・・





「あ、思い出した!」

「なんだよ急に」

「え、あ、な、何でもない」

「なにそれー、けっこう気になるかもー!」

「な、なんでもねーよ。ただ昨日の夕食のメニューを思い出してただけだよ」

「はは、サトシってば食いしん坊だなー」

「もー、サトシッたらごまかしちゃって・・・」





そうだ、思い出した

あの言葉、カスミに言われたんだっけ・・・

大切な人ほど、傍にいる。って・・・