脚韻と回文

―――――――――――――――――――――― 木村哲也



 回文の創作を開始してからは、まだ二年と少しだが、三百以上の回文ができた。
 脚韻の追求とはあまり関係なさそうであるが、実際はそんなことはない。

 語末に持ってきても差し支えなさそうな(?)語の見極めでは通じるものがある。例えば
「あ」は、脚韻の位置では使いにくい。ゆえに、回文でも、「あ」で始まる語はあまり用い
ないほうがいい、ということが参考になる。もっとも、回文の場合、そこで回文が終わらず、
次の文節にまたいでいけば、かまわないのであるが。また、創作の困難さと、読者の反応な
どでも、互いを相対化できる気がする。これも重要なことだ。
 まず、比較的、回文のほうが理解されやすい。とは言え、回文と言っても、何のことかすぐ
わからない人もいるのも事実であるし、現物をいくつか見ても、なおわからないという人も、
残念ながらもちろんいる。
 それでも、「トマト」「新聞紙」「竹やぶ焼けた」のような逆さ言葉、と言えば、ほぼ通じ
るから、脚韻に比べれば楽だ。
 では自分で作ってみたら、というのでは、回文のほうが難しく感じられるように思う。浅見
の掲示板での韻踏みタイトルのほうが、確か、脚韻にあまり関心のない人でもやっていた。回
文タイトルでは、そうは行くまいというところだろう。
 しかし、「回文迷宮」という、小生の回文の師匠の宮崎二健が主宰する掲示板では、タイト
ルも回文というのが申し合わせのようになっている。
 亡妻の名で何と百もの回文を作り、義父あてにも連日書き送っていたが、「こちらでは一日
がかりでも一つも作れないのに、なぜこんなに作れるのか」と言っていたという。しかし、四
行くらいは長さの必要な押韻詩に比べれば、さしあたり一行というのは、作れる者にとっては、
できるときには一瞬だ。
 同じようには比べられないが、それでも、例えば拡充二重韻だけで四組の押韻よりも、楽だ
し、まだまだ作れる可能性もあるようなな気もする。

 もちろん、かなりの制約を伴う表現形態であるので、何でも自由に表現できるなどとは言え
ない。
 しかし、それだけに、うまくできたときの気分は爽快(?)だし、連作で、ある程度、まと
まった意思表示は可能であると愚考している。
 耳で聞いたときはともかく、文字で見れば、おもしろみがわかってもらいやすい。

 それに比べれば、ともかく、認知の低い脚韻である。いかんともし難いか、と思うときもあ
る。
 それでも、回文よりは自由に物が言える気はするし、創作も、普通に見れば(?)回文より
は易しいはずだ。

 横文字系では、むしろ作りにくい回文だが、日本語でこれまでなされてこなかった脚韻は、
それよりは可能性があることを信じている。まだまだ困難を一つずつ、乗り越えていきたい。

  注)「調べ」第22号(2004年9月30日発
行/発行所:詩歌韻律研究会)の28頁より転載





回文題押韻定型詩

                      回   文: 宮﨑二健
                      押韻定型詩: 木村哲也


----------------------------------------------⒈

余震言う御池いて定型押韻詩よ
よし行け移転言う押韻定型詩よ


「御池が余震 言う」のが刺激
自然 押韻 定型詩 でき
「よし行け 移転 言う」時 やはり
もはや 当然 回文になり


---------------------------------------------⒉

ヘチマ食うて浮く街へ

ナーベラーとも 言われるヘチマ
沖縄が主
おも テーブルに今
ただ珍しく 女性 連れ立ち
うきうきと行
く 新宿の街

----------------------------------------------⒊

レイシ持て仕入れ意地でも仕入れ

どうせだったら レイシ 手に持ち
仕入れしたから ゴーヤーの後
のち
出そう 意地でも コンビ 絶妙
たぶん とっても 喜ぶだろう


---------------------------------------------⒋

うましゴーヤーチャンプルーの祈る分や茶漉し舞う

うましゴーヤー チャンプルー 食い
うまく行け ああ 祈るのは つい
脚韻だって 詩には必要
茶漉しも舞って 理解したろう


----------------------------------------------⒌

既に蝉が長鳴くなかなか身銭出ず

蝉が長々 既に鳴き声
暑い時期だが さあ東京へ
割り引きもなし 高い運賃
ああ 煩わし できぬ決心


----------------------------------------------⒍

予定気圧函館出た子初秋いてーよ

いつものとおり また低気圧
通過するおり 函館を発つ
今は初秋
はつあき 夏は終焉しゅうえん
ああ 容赦なき 子どもに試練


----------------------------------------------⒎

皆帰省済んだ断水堰なみ

バイトや家族 みんなが帰省
なぜだかすごく 店が低迷
ひどい断水 もはやうんざり
出てくるは つい もう愚痴ばかり


----------------------------------------------⒏

癖が偽学生急ぐが銭稼ぐ

昔 早稲田や 明治で モグリ
受講し もはや 学生のふり
一方 バイト 実にいっぱい
すぐ行かないと 銭にならない


----------------------------------------------⒐

濃い学食行く由句会後

習慣だから やっぱり句会
今日もどうやら 人がいっぱい
終わってすごく 会いたい主
あるじ
行くぞ 学食 する 濃い食事


----------------------------------------------⒑

横腹を台風去りさう吹いた俺は来よ

こちら 台風 来ずにどこかへ
さてと街じゅう お日さまが絶え
これじゃ シロクマ 求め 暑さを
学生 いぬ間
 東京になお

----------------------------------------------⒒

頼む古酒仕込むのだ
竹さ手向け無駄酒だ


変わったお酒 魅力 サムライ
いつもなるたけ 種類 いっぱい
古酒も仕込もう 頼むその横
無駄酒をもう 手向け 竹ちょこ


----------------------------------------------⒓

よおし縒
た逸物用いタレよ塩よ

さてとぼつぼつ 感じるよ 年齢とし
縒れた逸物 用い 出直し
焼き鳥を主
おも メニュー変更
タレでも塩も どんどん焼こう


----------------------------------------------⒔

乖離かいり妻また魂祭り以下

妻はしょっちゅう わがもとを留守
もしや密通 感じ うすうす
今年も祭り どこかへ出かけ
ただ知らぬふり われにするだけ


----------------------------------------------⒕

小松菜焼くやな妻子
ナルトを取るな


小松菜を焼く 嫌な妻と子
ともに食卓 つくのやめとこ
ナルトを取るな ラーメンにだけ
ホントに稀有な 悪癖だらけ


----------------------------------------------⒖

イワシ新たにタラ味わい
鰹ダシ煮しめて飯にした乙か


イワシ新たに タラも味わい
そして エビ カニ 魚介 いっぱい
さて鰹ダシ 煮しめたら 飯
乙かな しかし 続々 返し


----------------------------------------------⒗

色新聞派手で半分白い

種々 スポーツ紙 色使い 派手
多々 技術 駆使 争う中で
広告の面 よく見てみたら
半分は変 ただ白い あら


----------------------------------------------⒘

ウドの木踏みフキノトウ
滝でイビキ引いてきた


踏んで ウドの木 摘む フキノトウ
山は時々 とっても奇妙
滝にてイビキ かくは年寄り
何とか 手 引き ふもとに戻り


----------------------------------------------⒙

完全監視の新幹線か

完全監視 新幹線か
二人の紳士 社内でケンカ
するはずもなく 着く長野県
さすが全く 争い 無縁


----------------------------------------------⒚

信濃たそがれ過疎田の梨
名は伸ばそうソバの花


信濃 たそがれ 人 いない 山
食べたいな あれ 梨だ そのまま
名前 伸ばそう ソバ 白い花
じきにいっそう 知られゆくかな


----------------------------------------------⒛

やっぱりいない理髪屋
身が無き大きな紙


客がやっぱり いない理髪屋
店主 うんざり 仕事 やめるや
たっぷりと墨 紙は大きく
ただ小さく 身 文字を書きいく


----------------------------------------------21

驚きの以前人生の岐路どお

何だ 昔は そうだったのか
感じるは違和 ただことのほか
人生の岐路 ねえ 今はどう
思う いろいろ 今はいいほう


----------------------------------------------22.

酔いなさる有り難みをみたがリアルさないよ

回文に酔い 詩へと次々
韻 踏ます語彙 少し やり過ぎ
さてさて とても 暑苦しい夜

有り難い でも リアルさ ないよ


----------------------------------------------

注)出典:「調べ」第16号(2002年10月発行/発行所:詩歌韻律研究会)

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