MMM21W & Wisp OLD TEXT's 2004/12/01〜12/16 ■


04/12/16

 

            ● おんな探偵みほこの実践暗黒推理 ●


  深夜。初冬の街を歩いておりますと、とあるマンションの玄関先に、ひもで括られた雑誌
 が捨てられていました。

  みなさんも、いらなくなった古雑誌を夜中にごみに出したりすることがありますか?
  もしあるなら、お気をつけなさい。
  そこにわたしのような者が通りかかった場合、その雑誌の束をひとめ観ただけで、あなた
 の正体は、はくぢつの元に晒されてしまうのですから……。

  わたしはかつて、かのゆうめいなシャーロック・ホルムズ氏に学び、彼の推理法と、伝説
 の格闘技「バリツ」をさづかっています。
  今回はそのホルムズ氏ぢきでんの推理が、どれほどにおそろしいかを、みなさんにお伝え
 いたしましょう……。


  その古雑誌の束は、高さ約20センチ。多くの通販カタログと、1冊のまんが雑誌からなっ
 ていました。そして本をゆわいているひもは、ピンクのビニル製のもので、かなりゆるゆる
 に縛られていました。
  わたしは難なく、まずまんが雑誌を抜き出し、それをざっと眺めます。それからまんがを
 もとに戻し、数冊の通販カタログをやはりぱらぱらとめくり、元に戻しました。この間やく
 5分。
  この時、カタログの中にむきだしのままの1枚のDVDビデオのディスクが無造作に挟まっ
 ていたのを発見し、このディスクだけは、調査のためにわたしは家に持ち帰りました。
  このわずかなぢょうほうだけで、わたしには次のようなことが、即座にわかりました。


  まず、この雑誌の捨てぬしは、ぢょせいです。
  これは、雑誌の種類が、通販カタログと、1冊のレディースコミックであったことから、
 わたしでなくとも、容易に推理できることです。

  続いて、そのぢょせいの年齢は、24〜27歳。身長は150〜155センチ。
  子どもがひとりおり、その子は恐らく2歳から3歳でしょう。
  おんなの知性はあまり高くなく、その脳は主に、肉欲と物欲によって支配されています。
 おまけにまぞひすとですが、それは夫には隠しています。結婚はおそらく、できちゃった結
 婚であろうと思われます。
  家事はほとんどせず、中でもそうぢが苦手です。手先もかなり不器用。子どものめんどう
 も、あまりみてはいません。

  夫の年齢はわかりませんが、残業の多い、過酷な仕事でしょう。稼ぎも多くありません。
  あまりクリエイティブな職場ではないようです。


  さあ、たったあれだけのものから、なぜここまでわかると思うかね、ワトスンくん?
  なあに、かんたんなことなのですよ。ふふふふふ。

  まず、レディースコミックですが、これは数ある種類の中でも、かなり低俗なものでした。
  巻頭の漫画が、カラーペイヂからして、いきなりOLが満員電車の中で、ふくすうのサラリ
 ーマンのちかんに会うところからはぢまります。
  OLは身もだえながら、なぜいきなりこんなめにあうのかを考えますと、その理由がなんと、
 朝出がけにつけてきた香水が、ゆうぢんからもらった、おとこを惹きつける不思議な香水だ
 ったというのですよ。
  電車のなかで、OLはめちゃめちゃにされて、それから会社へやってきます。玄関でぢぶん
 が、いつの間にか、ぱんつを履いていないことにきづくというから、すごいですね。

  それからエレベータに乗ると、そこでいきなりハンサムなおとこのぢょうしに会い、そこ
 でもいきなりりょうぢょくされてしまいます。


  さて、ふつうの知性を持つ人間であれば、いきなりこのようななにも考えていない話を読
 まされてしまった場合、呆れてそくざにその本を捨てるはず。いえ、買うことすらしますま
 い。
  にもかかわらず、この本は、発売が先月でありながら、全体にひどく痛んでいて、表紙に
 は三角傷がたくさんついています。さらに、裏表紙がびりびりに破かれていました。

  つまりこの本の持ち主は、繰り返し繰り返しこの本を熱心に読んでいる、ということがわ
 かるのです。
  さらに、裏表紙が破かれている、というのは、これは子どものしわざです。
  床に無造作に置かれていた本を、子どもがいぢりまわし、破ってしまったのです。

  子どもが本に興味を持ち、それを手にする。しかも母親はその内容に無頓着でいられると
 ということからして、子どもの年齢が2〜3歳程度であることがわかりますね。
  また、子どもの手の届く場所に、このようなはれんちな本を平気で置いておく、というこ
 とからして、この母親は、ふだんからあまり部屋の整理整頓をせず、ぢだらくな暮らしをし
 ていることが伺えます。またこの点は、古雑誌を縛っていたひもが、ゆるゆるであったこと
 からも、そうぢに不慣れなことが裏付けられるでしょう。


  さらに、通販カタログですが、これらは書店で売られているものではなく、すでに取引の
 あったお客に毎号送られてくるタイプのもので、なかを開いてみると、主に2000円台の衣類
 に、やたらとボールペンでしるしが付けられていました。
  その衣類のサイズ、そしてそのセンスから、かのぢょの体格、おおよその年齢が浮かび上
 がってくるのです。

  安物買い。そしてその物欲の強さから、かのぢょの夫が、普段からかのぢょに心のケアを
 怠っていること、その年収が推察されます。


  それから、カタログの間に無造作に挟まっていた、DVDディスクですが、これはいえあるぢ
 のパソコンで見せてもらったところ、すごいSMが入っていました。
  全編しまりのないカメラアングル。無意味なアップ。カットのつなぎのいいかげんさ。俳
 優たちの棒読みのセリフに、いえあるぢは終始いらいらむかむかしていました。

  このような内容のDVDが、雑誌の間に挟んであるということからして、かのぢょは夫には
 言えぬ、隠れた性向を持っていることがわかります。
  しかもこのDVDは、前編・後編とあるらしいのですが、前編だけが捨てられているというあ
 たりに、やはりかのぢょの整理整頓の能力のけつぢょがかんぢられるのです。
  もしかして、だいぢに隠していたのを、うっかり捨ててしまったのかも知れません。だと
 したら、きのどくなことです。

  もとのところに返しておこうかと思ったのですが、見終わったあと、即座にいえあるぢが、
 このディスクに、真ん中からカッターですぢを入れ、まっぷたつに割ってわたしにつき返し
 てきたので、それも叶いません。



  どうですか?
  ホルムズ氏ぢきでん推理のおそろしさが、おわかりになりましたか?
  このぢゃあくなぢだいには、いつどこであなたの秘密が悪用されるかわかりません。
  たとい古雑誌と雖も、ゆだんはできないのです。
  できれば本の束を捨てる際には、間にそれとなく、六法全書などを挟んでおくことをお勧
 めします。


  それにしても、問題のレディースコミックの最後の部分に、たくさんのきゅうぢん広告が
 載せられていたのには、少し驚きました。
  なぜならそれらの広告は、すべてAVぢょゆうや風俗のきゅうぢんだったのですから。

  ほんとうに、今はおそろしいぢだいなのです……。
 
04/12/13

 

  ★かなしきしょうぢょぢごく 『岡崎里美・17歳の遺書 愛なんて知らない』れびゆ★ 
 
  たくさんのものがみちあふれていながら、とても退屈でなにもないぢだい。
  まいにちたくさんのひとたちと出会いながら、なぜか孤独なぢだい。
  そんなぢだいを、あなたはどう生きていますか?

  ここに掲げられている写真は、かつてあるひとりのしょうぢょが、みずから命を絶つ前に、
 ぢぶんのゆうぢんたちに送るために作った、わずか30部の、手づくり詩集の1ぺいぢです。

  しょうぢょの名は岡崎里美(おかざきりみ)。1971年7月30日、わずか17歳にしてかのぢ
 ょは、ビートルズの曲につつまれて、ガスの栓をひねりました。
  そう。かのぢょは、この虚しきぢだいの、そのはぢまりの時にすでにこの世を儚み、独り
 命を絶ったのです……。


  かのぢょの遺品の中には、膨大な量の詩のノート、そして多くの手紙がありました。
  14歳から17歳までの4年間の間にかのじょは約30冊のノートに詩を書き記し、死の直前に
 はたくさんの手紙を書きました。


   『ある、とうひ』

   それは、タバコのけむりのかいだんであり
       なんでもない人間と、きすをすることであり
       いつわりのもんくを
       ごたごた友にいうことであり
       一万円さつをもって、町へでることである

   それは、ゲバ棒をにぎって人をぶんなぐることであり
       gogoをおどることであり
       音楽に身をおくことである


  この詩は、かのぢょの14歳の時のさくひんです。
  今から30年前。人々は今よりもはるかに賢かったとはいえ、その中でもこのかのぢょの視
 線は、あまりにもそうぢゅくであり、そして、絶望的でした。
  かのぢょは果たして、どのようにしてこのような眼を持つにいたったのでしょう?

  かのぢょは、死の直前に、原稿用紙9枚にわたる『自殺への序曲』という名の遺書を書き、
 そこで自らの生い立ちを語っています。
  13歳の時に、かのぢょはおとこを知りました。
  それからかずかずのおとこを遍歴し、高校を中退し、スナックで働きました。

  両親は離婚し、かのぢょは母親とふたりで暮らしますが、母親は離婚のストレスで分裂病
 を患ってしまいます。
  あまりにも類型的な不幸。
  そんなできすぎた不幸の中で、かのぢょが唯一愛したもの。それがビートルズでした。
  いつか、黄色い潜水艦に乗って、あこがれのペパーランドへ。
  それが、かのぢょの夢。


    しあわせって
    ありがね全部はたいて
    たくさんたくさん
    花をかいこんでしまう
    こと
    なのかもしれない


  15歳の時の詩です。
  かのぢょはすでに、この世の幸福が、げんそうにすぎないことを知ってしまっていました。
  かのぢょは、心の空白を満たすために、たくさんの詩を書き続け、愛を探すために、たく
 さんのおとこと出会いました。
  しかし、そうすればそうするほどに、かのぢょの孤独と絶望は深まってゆき、詩を書くこ
 とも少なくなってゆきます。
  そのかわりに、かのぢょはたくさんの手紙を書くようになりました。
  ある手紙は、投函され、またある手紙は、そのまま手元に残されました。
  遺書の中で、かのぢょは、母親に宛てて、出し損なった手紙を、すべて投函して欲しいと
 書いています。



  死後、かのぢょの詩は、ある作家の目にとまり、その作家の手によって、1972年槙出版と
 いうところから『愛なんて知らない』というタイトルで出版されました。
  わたしがかのぢょの詩集に出会ったのは、とある古本屋です。
  その本は、槙出版のものではなく、a企画という聞いたこともない出版社から出た復刻版
 でした。
  表紙は真っ黒で上に挙げたぺいぢの絵が、たくさんの花の横に載せられてあり、わたしは
 この哀しい絵に惹かれて、この本を手にしたのです。

  家に戻り、わたしは永らく聴いていなかったビートルズのアルバム『イエロー・サブマリ
 ン』をかけながら、かのぢょの詩を読みました。
  希望に満ちた華やかなオーケストラに乗って、黄色い潜水艦は、ペパーランドを救いに旅
 立ちます。
  かのぢょは、果たしてこの希望の黄色い潜水艦に乗ることができたのでしょうか?



  いちにちに80人が、みずからの命を絶つというぢだいに、わたしたちは生きています。
  死んではいけない。生きていれば、いつか幸せになれる。
  そんな言葉が叫ばれてもいますが、わたしにはそれは、ひどく虚しく、かえって人々の心
 を不安に陥れる、こどもだましな言葉のようにも聞こえます。

  肉欲でもなく、金でもなく、ただぢぶんの居場所を探すために生き、そして疲れ果ててし
 まったしょうぢょ。かのぢょにとっては、そんな彼らの言葉よりも、冷たい風の音のほうが、
 まだ心に安らぎを与えたことでしょう。
       

    枯木の上の
    星のように
    私は
    生きていたい
    ものです

    ただ祈ることと
    待つことと
    夢とLoveしか知らないで

    私は生きて
    いたいものです


  15歳のときの詩です。
  今、この世界にみちあふれているたくさんのもの。そして、札束。
  それらは、かのぢょの絶望の前には、まるで無価値でした。

  そして、かつてかのぢょが夢見た幸福の国ペパーランドも、
  もはやこの世にはありません……。
 
04/12/08

 

               ● みほこのサラ金会社 ●



  「ご、ごめんください……」
  いらっしゃいませ! 『更生ローンぜにぢごく』へようこそ!

  「あ、あれっ?」
  なにか?
  「あ、あの、ここ、ローン会社、だよね?」
  そうです。『更生ローンぜにぢごく』へようこそ!
  「な、なんできみみたいなちっちゃい子がいるの? 受付のひとは?」
  わたしがその者です。
  「え…?」
  ついでに言うと、社長でもありますのよ。
  「う、うっそお!」
  ほんとうです。まあ、そこへおかけください。
  「あ、い、いやあ……」
  おかけください。
  「あ、ああ……」
  粗茶ですが。
  「あ、ど、どうも。いただきます……ズズゥ……」

  それで、いかほどご利用ですの?
  「あ、ああ。いやあ、ほんとに? ほんとにここローン会社?」
  『更生ローンぜにぢごく』です。
  「す、すごい名前だね……」
  そのすごい名前の店に、あなたはやってきた。
  「い、いや、まったく……」
  と! いうことは!?
  「はっ?」
  あなた、相当のブラックですね?
  「い、いやあ、お察しのとおり……」
  けれどもご安心ください。当店ではどのような方にも、ご満足いただける額をご融資いた
 しております。
  「は、はあ。よろしくお願いします」
  しかも!!
  「えっ?」
  当店では利子はいっさいいただきません! あくまで元金のみの返済でけっこう!!
  「うっそお!」
  ほんとうです。それが『更生ローンぜにぢごく』のポリシー。
  「ほ、ほんとに?」
  ほんとうです。しかも当店では、あなたような銭のぢごくに嵌り込んでしまったひとを無
 理なく更生させるためのプログラムを実施し、返済ぢごくからの脱出の手助けをいたしてお
 りますのよ。
  「はあ…。なんか、ものすごく話がうますぎる気がするんだけど……」
  お疑いですね。まあ、無理もありません。お茶のおかわりをどうぞ。
  「は、はあ。……ズズゥ。それでえっと、具体的にはなにをどうするわけなんですか?」
  その前に、いかほどの金額を、ご用立ていたしますか?
  「あ、そ、そうそう! え、ええっとですねえ……」
  遠慮なく。
  「できれば、さ、30万ほど……」
  ご用途は?
  「あ、そ、そんなこと聞くの?」
  あなたの返済能力の判定に、関わりますので。
  「あ、い、いやあ、ええっと、他から借りた分の返済に、ちょっと……」
  なるほど。それは大変ですね。でも、ご安心ください。当店に来たからには、もうそのよ
 うな返済ぢごくからはおさらばですよ。さあ、お茶をもっとどうぞ。

  「は、はあ。ズズズゥ。そ、それでいったいどうすれば、そんなことが可能になるんです
  か?」
  答えはすでに、あなたの目の前にあります。
  「え?、ど、どこ?」
  そのお茶が、答えです。
  「え? ええっ!?」
  そのお茶には、当店がどくぢに開発した、特別な薬が混ぜ込んであるのです。
  「げっ!」
  その薬の効能によって、あなたは必ず、すべての負債をなくすことができるようになるで
 しょう。
  「お、おいおい! まさか俺をヤク漬けにして無理矢理金を出させようってんじゃねえだ
  ろうなっ!」
  そんなことはしません。あなたはこれから、必ずお金を使うのがいやになるのです。
  「な、なに言ってんだ、あんた?」
  ……、その言葉、わたしひさしぶりに言われてしまいましたわ。
  「だって、あんた、そんなわけのわからねえ話……」
  ならば実際に試してみましょう。ここに500円玉があります。
  「……?」
  これをあなたに差し上げます。
  「え?」
  差し上げます。おとりなさい。
  「あ、ああ。でもなんで?」
  それはもうあなたのもの。そうしたらその部屋の隅にある自動販売機で、お好きな飲み物
 を買ってごらんなさい。
  「な、なに言ってんだかわからねえけど、まあ、そういうなら……。えーと、じゃあまあ、
 コーヒーでも。あっ! うわっ!!」

  どうしました?
  「い、いや、か、金入れてボタン押したらいきなりビリッと。この販売機漏電してるぞ!」
  それで、どのあたりがびりっときましたか?
  「あ、い、いやあ、こう、ボタンを押したら、手首のあたりまで、ビリッときて……」
  …、て、く、び、の、あーたり、と。
  「おい、なに書いてるんだ? この販売機、漏電してるってば! あー、びっくりした」
  カルテです。それに、漏電はしていません。お疑いでしたら、このゴム手袋をして、もう
 いちど、買ってみてごらんなさい。
  「な、なんだよ。ちっ、それじゃあ、今度は、コーラにしとくか。あっ、ぎゃあっ!」
  びりっときましたか?
  「きたきた! あー、いてえ」
  どのあたりが?
  「こ、今度は肘のあたり、までかな?」
  ひ、じ、の、あーたーり。と…。
  「だからなに書いてんだよ?」
  ですから、カルテです。
  「か、カルテって、なんの?」
  あなたの肉体の、金銭耐久度を調べています。
  「き、金銭…?」
  耐久度。
  「な、なんだそれ?」

  人間には、たとい1億2億の金を使っても、へいぢょう心を失わない者もおりますが、逆
 に、たった数千円の金でも、ぢんせいを狂わせてしまう者もおります。その金銭に対するへ
 いぢょう心の度合い。それが金銭耐久度。
  「そ、そんなものがあるのか?」
  あるのです。耐久度の低い者ほど、金に汚くなり、我を見失う率が高まります。
  「あ、そ、そうなのか?」
  そうです。そして、さきほどあなた飲んだ薬は、その耐久度によってあなたの体に痛みを
 及ぼすのです。
  「あ、じゃ、じゃあ、さっきのが」
  そうです。あなたはこれから、お金を使うたびに、体が痛くなるのです。
  「う、うわあ…。なんてこった。そ、それで俺のその金銭耐久度は、どれぐらい……」
  150円で手首! 300円で肘! この結果から考えますに、あなたの耐久度は極めて低いと
 言えますね。そしてお金を使えば使うほど、痛みは全身に広がります。
  「な、なんだって?」
  恐らく、今のあなたでは、いちどに3000円ほど使ったあたりで、全身に激痛が走り、仮に
 1万円を使ったとしたら、その耐え難い痛みに、気絶してしまうでしょう……。
  「おいおい! それじゃあ暮らしていかれないよ!!」
  だいじょうぶ。痛みに慣れることで、少しづつ、使う金額を大きくすることもできます。
 そして、そうなることで、あなたの耐久度は高まり、身にあった金銭感覚が身に付くのです。
  「そ、そうなのか?」
  そうしてゆくうちに、おのずとお金は貯まり、返済をちゃくぢつに済ませることができる
 のです。
  「あ、な、なるほどな…。そ、そうかも知れない……」

  ※そこへ、全身血だるまになった男が飛び込んできて、床に倒れて悶絶する

  「うわあっ!」

  『て、てめええええ、だましやがったなぁぁぁぁ……』
  まあ、すごいひとが。あなたは以前にここでお金を借りたひとですね?
  『てめえええ、どうしてくれんだあぁぁぁ……』
  いったいどうしたのですか、その体は?
  『おめえ言っただろうよう、俺の耐久限度額はいちにち1万円だってよう……』
  そうですね。
  『だ、だから俺はよう、金の使い方には注意してよう、これまでやってきたんだよう』
  ふむふむ。
  『ふむふむじゃねえ! それで俺はよう、わずかな金で馬券を買ってみたらよう、さっき
  大穴がきたんだよう。いきなり150万だ…。ああ、これでちったあ楽できるなあ、と思って
  よう、帰りはタクシーに乗って帰ろうかと思ったが、それもよしてバスに乗ったんだよお、
  で、いざ280円って金払ってバスを降りたらよう、いきなりこのザマだ……。おれはまだ、
  余裕で限度額、残ってたんだぜえ。それをよう、てめえ、どういうことだこりゃあ……』

  なるほど。よくわかりました。
  『なるほどじゃねえええ! てめえ、ぶっころしてやる……』
  あなたは今日、大金を得たわけですね。
  『ああ! それで俺は、これで暮らしが少しはマシになるかと……』
  そうではありませんね。
  『……な、なんだとう?』
  あなたはそのとき、こう思ったはずです。ああ、金儲けなんてちょろいもんだ。ちょっと
 運が向けば、どってこたあねえ。そうですね?
  『…………。だ、だからなんだってんだよ?』
  それがあなたの命とりでした。その慢心が、あなたの肉体の金銭耐久度を、一挙に低めて
 しまったのです!
  『な、なんだと…?』
  あなたの体はもう、1万円の使用には耐えられません。あなたの体は、はぢける寸前。
  『そ、それじゃあ、俺ぁ……、どうなるんだ?』
  それでは耐久度を調べてみましょうね。ちょっと拝借。
  『あっ、お、俺の財布を、てめえ、返せ、返せよう……!!』
  これからお金を少し返してもらいますよ。
  『ば、馬鹿野郎。返済期限はまだ……』
  だいじょうぶですよ。ほんのわずかな額ですから。わたしは鬼ではありません。それでは
 まず、10え〜ん!
  『がっ! ぐあああああ……!!』
  まあ。予想いぢょうに耐久度が落ちていますね。20え〜ん!
  『ぎゃ、ぎゃあああああああああっ!!』
  30え〜ん!
  『かっ…、かはーかはーかはー……、や、やめてくれえぇぇ……』
  40えん!
  『がっ、がががががが……』
  まあ、毀れたラジオのよう。50え〜〜ん!
  『かはっ……………』

  ……50円でしにました。
  「う、うわあああ………」
  たった50円。なんて安い命……。
  「あ、あんたなんてことを………」
  だいじょうぶ。このひとの犠牲は無駄にはなりません。この金に狂った人間の肉体。その
 肉体に込められた金への無念。その濃密な無念の想いが、わたしの造る薬の威力を、ますま
 す高めてくれるのです。
  「じゃ、っじゃあ、あの薬は……」
  金のもうぢゃの体からでる汁でできています。
  「ひ、ひいいいい……」

  それでは、お金をご融資いたしましょう。30万円でしたね。さあ、おとりなさい。
  「……………」
  どうぞ。
  「い、いや、あの…………」
  …さあ。
  「……………」
  さあ…。
  「…………………………」
 
04/12/04

 

            『秋のみえないみらいで。わたしは…』


  明け方の、ひいやりとした冷たい空気が、肌に心地よい今。
  午前6時のみえないみらいに、わたしは立っています。

  赤レンガ倉庫から、臨港パークへ向かう海沿いの歩道。
  そのアスファルトには、深い亀裂がいくつか。
  歩道に上に貼られたタイルも、あちこちが波打ち、ところどころで隆起しています。

  そう。
  ここはすでに崩壊を約束された呪いの街。
  いつかこの街を襲うであろう大地の揺らぎは、恐らく、人々の予想を遙かに上回る壊滅的
 な破壊を、この街にもたらすでしょう。

  かつて。
  金が力だと、人々が心の底からしんぢていたぢだいに、この街は形づくられました。
  今、その力は空疎なものと暴かれ、そして、その力によって造られた、この街の大地も、
 それと同様に、空疎なものであったことを、私の足は確かにかんぢています。

  奇妙なことに、この街にも、災害非難場所と指定された地域があります。
  そこは、現在下草の茂った荒野となっていますが、いつか訪れる約束の日にこの土地に逃
 げのびてきた人々は、眼前に広がる幾本もの大きな亀裂と、そこから吹き出した海水を前に、
 かつての人々が成した、ぢゃあくな偉業を知るのです。


  街に点在する電話ボックスの中では、たくさんのぢょせいたちが、にこやかな笑みをうか
 べ、甘く、そしてあとくされのない快楽へと、あなたをいざなっています。
  あなたはわずかな金銭と、いくつかのボタンを間違いなく押す、という、たったそれだけ
 の労力で、その甘美な快楽と愛の奉仕を受けることができます。

  が。
  しかし、それはぢつは、ソドムとゴモラへのいざないです。
  あなたは現在、5/2の確率で、その街への切符を手にすることになるはずです。
  かつてあの街は、火と硫黄とで焼かれましたが、現在ではあなたぢしんの体内に棲む、多
 くの有益な細菌たちが、その代行を果たすことでしょう。

  このすべてが清潔に整えられた街を行く、屈託のない笑みをうかべた若い男女の2割、そ
 して明日を担う、働きざかりの男女の3割が、恐らく今から10年後には、この世界から姿を
 消すことになります。
  同様の理由で、現在アフリカのある地域では、そこに棲む人々の平均寿命が41歳になって
 しまっています。
  そのアフリカに次ぐ勢いを持つこの国にも、同じ運命が待っています。それを愛だと人々
 がしんぢている限り……。


  軽快なスポーツウェアに身を包んだおとこやおんなたちが、街を駆け回っています。
  すでにその息は白く。
  しかし、あなたがたは気を緩めてはなりません。
  あなたのその軽やかに動く肉体は、いづれあなたを、あなたの予想もしなかったやりかた
 で、かくぢつに裏切ります。
  それは、今から数分後かも知れませんし、長いぢかんの後かも知れません。

  演劇界で交わされる身体論では、ここ数年、鍛え上げられた肉体が、なぜああも醜く見え
 るのか、という問題が議論されています。
  そう。
  それは恐らく、金銭にかつて備わっていたとしんぢられた万能の力、その力が否定されて
 しまったことと同様に、肉体へのかぢょうな盲信、その心の愚かさが、その貪欲さがすでに
 ぢんるいの限界を悟ってしまった人々の眼に、醜く映るようになったことによるのかも知れ
 ません……。


  しかし。
  それでもまだこの街に棲む人々は、疫病のようにこの街を覆う貪欲さに、その魂を蝕まれ
 たままです。
  人々は天に高く聳える高層ビル群を見て、ぢんるいの文明の偉大さを讃え、輝かしい未来
 をしんぢ、富を、そしてあるはずのない、永遠の生を追い求めています。


  街のあちこちに植えられた木々は、日々その葉を大地に降らせています。
  しかし、すべてが石で覆われたこの街では、その葉は大地を肥やすことはなく、廃棄物と
 して処理されます。
  かつて全地を覆っていた偉大なる自然は今、醜きものと定められ、奇妙な紙切れがすべて
 の世界を創造する万能のツールとして、いまだ崇められているのです。


  けれども。
  いつかこの街も、老婆と猫しか棲まなくなるであろうことを、わたしは知っています。
  ここはそうなることを、生まれながらにして定められた街。

  その日の事を想うと、わたしの心はうれしくなって、わたしは思わず、くすり、と幽かに
 嗤いました。

  けれども、わたしのその声は、わたしの耳に届かぬうちに、秋の冷たい風がどこかへ運び
 去ってゆきました……。
 
04/12/01

 

  と、いうわけで、先月はこっちのサイドは1回しか更新できませんでしたが、いつものコ
 ーナーです。

  12月ですね。
  『大正』は、今月いっぱいで閉店することになっているんです。
  他のテナントは、来年の5月まで居てよい、となっているんですが、『大正』だけは今年
 いっぱいです。
  と、いうのも、店長の恍惚のレベルが、周囲に危険なレベルにまで一挙に高まってしまっ
 たからなのです。まあ、早くいえば、強制的に追い出されるんですね。

  このあたりのことについては、あのみほこですら言及を避けたほどの、哀しく悲惨な事態
 が原因となっているのですが、しかし、なにより哀しいのは、当人だけはまだやる気まんま
 んだということで、そうした精神の強さは、100円ショップで売られているライターを、そ
 の100円ショップのシールが貼られたまま、客に800円で売ろうとする、というあたりに発揮
 されてしまう……。
  あるいは、このネックレス「10金」だぜ、と言ってみせてくれたそれをよく見てみると、
 「TDK」と書いてある。それを「10K」と見間違っている……。
  おかげで、ただでさえ少ない客足が、ますます遠のく。
  ああ、ひとは哀しいいきものですね……。

  と、いうわけで、読書記録です。


  イッセー尾形・森田雄三『本人の希望』(早川書房)
  岡田昇『OUTSIDE 野生冒険学』(情報センター出版局)
  北村薫『謎物語 あるいは物語の謎』(中公文庫)
  坂本龍一監修『非戦』(幻冬社)
  椎名誠『旅の紙芝居』(朝日新聞社)
  白井喬二『新撰組(上・下)』(講談社大衆文学館)
  野田知佑『南の川まで』(新潮文庫)『雲よ』(文春文庫)
  舞城王太郎『九十九十九』(講談社)
  町田康『猫にかまけて』(講談社)
  村松友視・小池真理子・南伸坊『ネコ族の夜咄』(清流出版)
  宮部みゆき・室井滋『チチンプイプイ』(文春文庫)
  山口雅也『13人目の探偵士』(講談社文庫)『キッド・ピストルズの妄想』(講談社)
      『キッド・ピストルズの慢心』(講談社)
  山藤章二『人間ころがし1,3,4』(講談社)
  由良三郎『ミステリーを科学したら』(文春文庫)



  岡田昇『OUTSIDE 野生冒険学』(情報センター出版局)
  2002年に冬山で消息を絶ったまま、いまだ遺体の発見されないカメラマンの、写真エッセ
 イ。この本には93年から94年頃の記録が書かれていますが、これがもう誠に哀しい。
  なにしろ、息子たちとのキャンプの記録、さらには念願叶って八ヶ岳に建てた自家用天体
 観測所の建設記録などが載ってしまっているのです。

  ああ、このひとは、ほんとうにこれからが人生の充実期だったんだなあ。まったくこんな
 いい家族があるのに、わざわざ危険な雪山なんかに登るなよ、いいかげんにしろよ、と怒り
 すらこみ上げてくる1冊。


  白井喬二『新撰組 上・下』(講談社大衆文学館文庫コレクション)
  新撰組を題材にした時代小説は数あれど、この白井喬二の『新撰組』ほど新撰組がないが
 しろにされている小説はないですね。
  とにかくもう、新撰組が出てこない。
  下巻の中盤になってようやく出てきますが、本筋とはほとんどからまない。
  では、本筋とはなにか。

  幕末、江戸は浅草の名人長屋に住む、独楽師、但馬流織之介の、他流派独楽師との一世一
 代の独楽勝負。対するは憎き卑劣漢、金門流紋兵衛。そして好敵手であり恋敵、京の伏見流
 潤吉。さらに、織之介が持つ、黙って回せばぴたりと中る「水正五代四方占肉独楽」、行方
 知れずの薄幸のヒロインお香代などが絡んで波乱の物語が展開される。
  で、その物語の合間に、ちょっとだけ思い出したように出てくる新撰組。むしろ出てくる
 ほうが不自然なぐらいに物語とは関係がない。

  でも、タイトルは『新撰組』。

  その他にも、冒頭いわくありげに出てくるけど、最後まで物語に関わらない謎の「牛角の
 細訴状」、なんの伏線もなく唐突に盗まれてしまう「肉独楽」(しかも盗まれた理由が今ひ
 とつわからない)など、筋運びがあまりにもおおらかなので、先の予測はまったくつきませ
 ん。したがって、気がつけばついつい一気読みしてしまう。そして、読み終えたあとで、よ
 うやく、これ、いったいなんの話だったんだ? と気づく。実に面白い!
  上野さんに借りました。上野さん、ありがとう。


  舞城王太郎『九十九十九』(講談社ノベルズ)
  ブック・オフでは舞城の出現率は極めて低い。そんな厳しい状況の中で、ようやく手にし
 た初舞城です。
  いやあ、びっくりした!

  ミステリ作家「清涼院流水」の作品世界の中で、聖書の「創世記」と「啓示」の見立て殺
 人が起こる。あまりの美しさのために、見る者すべてが気絶してしまうという探偵神九十九
 十九(ツクモジュウク)の推理が冴え…、わたるのかどうなのかもうなんだかわからない。
  全編にわたる、過剰な猟奇シーン。赤ん坊の目玉が生きながらスプーンでくりぬかれ、お
 んなの子宮から取り出される講談社ノベルズ。雑誌「幻影城」の表紙どおりに首を切られ飾
 られる多数の女性。街じゅうに降り注ぐ、九十九十九の生首。

  物語は次々と解体、再構築を繰りかえし、時間さえも逆行し、7話のあとに語られる最終
 話の第6話はもう、読んでいて頭がクラクラしてくるほどの複雑さ。
  ネットで評判を検索してみたら、途中で挫折した、というひとが少なからずいましたが、
 物語の構造は実に刺激的です。
  わたくしの場合、1話1話の猟奇シーンがあまりにすさまじいので、とにかく1話読んだ
 らどっと疲れて、休息ののち次の話、とやっていかないと体がもちませんでした。それほど
 の長さではないのに、読むのに3日かかりました。挫折するひとの気持ちはわかる。

  それから、この物語は清涼院流水の世界を理解しておかないと、どうも意味がわからない
 ところがあるらしいんですが、わたくしは清涼院流水、読んでないんです。いちおう買おう
 と思って本屋を探しましたんですが……、あの表紙のアニメ絵がなあ……。とりあえずネッ
 トのファンサイトで、情報を拾ってわかったような気分。ネットは便利だ。


  町田康『猫にかまけて』(講談社)
  町田康の、爆笑の猫エッセイなんですが、これも実に切なかった。
  この本の中で、ヘッケとココアが死に、この本の発売直前に、町田康オフィシャルサイト
 の日記で、この本の中で元気に活躍していたゲンゾーが急死が書かれているのです。
  わたくしは、以前拾って1週間足らずで死んだ、金之助の死を思い出して、なんだかパニ
 ック発作のような症状が出て、ぐったりしてしまいました。



  先月は、なぜかものすごく精神力が必要な本が重なって、疲れました……。
  今月は、現実世界で疲れそうな気がしています。姉小路くんに、また絵を描かせなきゃい
 けないし……。
 

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