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2003年
捨てるに捨てられないあと10冊(選考基準は2003.03.01現在、物語が完結していること。現在ケイゾク中のものは除外)
2001年のBEST10に次ぐこの10冊、しかし順位変動が出るなあ。心境の変化もあれば2001年には
上梓されていなかった作品もある。

第3位  遥かな町へ  谷口ジロー  上・下 小学館

 オヤジがノスタルジーを求めて悪いか?!
 否、ノスタルジーはオヤジにしかわからないと言いたい。
 谷口ジロー氏の傑作登場。前回第3位の『演歌の達』を押しのけていきなり第3位に食い込んだ。
 タイムトラベルがらみのSFファンタジーは、もう枚挙に暇がないほどの作品群を輩出している。手垢のしみついたジャンルで光彩を放つにはしっかりとしたドラマがなければならない。ファンタジーゆえ、女の子が主人公の作品群が多い(※註1)このジャンルにあえてオヤジを持っていったところが心憎い。いいぞ!
第5位  雪の峠 剣の舞  岩明均  講談社

 むうう。岩秋均氏、強し。
 第2位の寄生獣についで、第5位にも登場。第18位には『七夕の国』もランクインしてしまった。
 横山光輝氏が切り開いた歴史ドラマのマンガ化という系譜に属する作品となろうが『三国志』や『水滸伝』『徳川家康』など原作ものをマンガに仕立てた横山作品と違い、自ら取材と考察を重ねてマンガ化したこの作品は自ずとカラーが異なる。秋田に領国を移封された佐竹氏のお家話を守旧派である武官勢力と官僚型新勢力の確執を主軸にまとめた佳作。
第13位  ヨリが跳ぶ  ヒラマツ・ミノル  Vol1〜20 講談社

 わはははは。
 笑えるんだ、これがまた。コミカルなシーンがうまいなあ、この人。
 スポーツものは『レジー』とか書いていたけど、こちらの方が断然楽しめる。バレーボールと言えば『アタックNO1』、スポーツマンガと言えば『エースをねらえ』いずれも少女マンガだ。キラキラするか恐るべき求道の世界に身を委ねなければ成り立たないかと思われた女子スポーツマンガに新風をふきこんだ一品。
 おふざけと恥ずかしいくらい真剣な熱血ものの絶妙なブレンドが効いているこういう作品の方が好みだな。
第14位  夢かもしんない  星里もちる  Vol1〜5 小学館

 自分を騙し騙し日々生きていることに後悔と諦観を感じる中高年労働者の皆さん、若かりし日々の夢を思い出しましょう。耀いていたあの頃に戻りましょう。
 絵のタッチとシチュエーションのアニメオタクっぽさからはやや意外なほど内容は示唆に富み、大人のマンガであったりする。
 作者はこのあと、真正面から大人のドラマ造りに傾倒してゆくが、この作品のバランスのよさを捨てることはないと思うがなあ。
第15位  エロイカより愛をこめて 青池保子  Vol1〜25 秋田書店

 それにしても作者の青池さん、絵のタッチがどんどん変わっていった。昔のマンガではよくあることなんだけど。
 もともとはオカマ系シチュエーションコメディなんてものを少女漫画の世界で確立させていたんだけど、そこから一歩踏み外してみたら、結構面白い作品になっちゃったのがこれ。
 ギャグというか、シチュエーションコメディを国際情報戦にうまくひきこんだなあ、ヤラレタというのが率直な感想。でも、これ本当に終了しているのか?
第16位  月下の棋士  能條純一  Vol1〜32 小学館

「かはっ!」とか「くっ!」とかいう擬音で開いた口がそのままストップモーションのようにアップで迫る。
 これが能條センセの世界。
 日本マンガ界が誇る貴重な絵師のひとりだなあ。
 将棋界は演歌、浪花節の世界。
 坂田三吉をモデルとしたナニワ棋士の遺志を襲ったヤンチャなヒーローの名人位争奪バトル。多士済々の棋士達との対局が楽し。
 
第17位  FIGHTING COCK  あだちつよし  Vol1〜5 集英社

 ヤンチャボーイのボクシング譚。
 ボクシングほどマンガと相性のいいスポーツも類がない。
 やっつけるか、やっつけられるかという白黒のつき方のわかりやすさがエンターテインメントの王道をいっているからか。
 リング外の人生ドラマを見せておけば、リング上でのファイトシーンが盛り上がること必定だし。
 う〜ん、ドラマ造りの基本はボクシングマンガにあるな、やっぱり。
第18位  七夕の国  岩明均  Vol1〜4 小学館

 寄生獣のような傑作をあげちゃうと、もう何を書いてもそれ以上には評価されないもんだから、あまりに早すぎる代表作を持つってのは考えモンだ。
 岩明氏はしかし豊かな才能、と言うか感性を持っている。それが彼を創造的早世から救っているんだろう。
 それにしてもホントこの人、いい絵を書くなあ。まあるい破壊的精神波動とでもいうようなものの扱い方にまたうならされてしまった。
 
第19位  おなかはすいた?  東城三紀夫  Vol1〜7 講談社

 ホンワカしていていいっす。
 大久保リトル中華街(作中の創作タウン)を舞台に料理人を志す若者の成長譚を実にオーソドックスに、またマンガらしいマンガタッチでのびやかに書き上げた逸品。
 店の格を上げてゆくための『料理の鉄人』のような料理勝負もけっこう楽しめる。
第20位  BLOW UP!  細野不二彦  Vol1〜2 小学館

「夢は語るものではなくて、実現させるものなんだ」
 ああ、やられた。
 筆者は、親に反対されたくらいでだらしなく夢を捨てた経験がある。
 安定志向というレールの上に『人並』という列車を載せて走らせてしまった己への悔恨が作中の登場人物のセリフに肺腑をえぐられるのである。
 さあ、皆!人に止められて断念するようなら、そんなのは本当の夢じゃない。頑張って自己実現を果たしてくれい!

(※註1) 小説では『時をかける少女』『時のかなたの恋人』映画では『満月』なんてのもあった。
       タイムトラベルものの傑作SFは『夏への扉』だ。これはオヤジが主人公だ

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捨てるに捨てられないこの10冊
(選考基準は2001.03.31現在、物語が完結していること。現在ケイゾク中のものは除外)
この10冊がマイフェイバリットBEST10だった。
2003年の追加発表で順位に変動が出た。

第1位  2001夜物語  星野之宣  Vol1〜3 双葉社

 ハードSFにこだわりつづける星野之宣氏の古典SFへのオマージュのような作品。ほぼ一話完結の掌編がそれぞれ独立した話でありながら、全編を通じて登場する一族を軸に終局にむかって収斂してゆく壮大なドラマ。各掌編のタイトルや登場人物名などに遊び感覚が横溢。
第2位  寄生獣  岩明均  Vol1〜10 講談社

 人間の脳に寄生し、宿主の体を奪い食人鬼となる寄生獣。作中ではパラサイトと呼ばれるそのクリーチャーがなによりも新鮮。人間の頭部がパックリと割れ、捕食をするシーンは漫画史に残る表現技術のひとつであるまいか。 

第3位  演歌の達  高田靖彦  Vol1〜9 小学館
↓第4位

 ケレン味のない直球勝負が持ち味の高田氏(他に『マル潮』しか知らんけど・・・おまけにこれは原作付、でもテイストが似ているから・・・)ならではの若者成長譚。レコード業界を舞台に、演歌好きながら本意に背いて別ジャンルの制作部ディレクターとなった越川達の成長を描く。登場人物が皆、ヒトクセもフタクセもあり、リアリティを感じさせる業界設定も楽しめる、わからないけど、音楽業界。

第4位  大東京ビンボー生活マニュアル  前川つかさ  Vol1〜5 講談社
第6位


 オレという主人公が「ゼイタクは敵だ」のスローガンのもと6畳一間(風呂なし・流し共同・トイレ共同(・・・と思われる)の平和荘でおくる日常生活。4ページ1話でつづられる歳時記風短編は心温まるものばかり。オレの生活ぶりはうらやましいほどシンプル。気がつけば貧乏生活ワールドにはまっている自分がいる、真似はできないけど。貧乏でも心はゆたか、おまけにカノジョもいる、今で云うフリーターですけど。

第5位  湘南爆走族  吉田聡  Vol1〜15 少年画報社
第7位

 爾後類似の作品が山ほど生まれてくるも、元祖を抜くものなし。ご存知手芸のエッちゃんこと江口洋介を主人公にした爆笑コミック。コミカルとシリアスのブレンド技術に独特の持ち味をもつ吉田聡氏の傑作。

第6位  7つの黄金郷(エルドラド)  山本鈴美香  Vol1〜5 集英社
第12位

 エリザベス1世統治下のイングランド、旧教国との確執を舞台にナルシズムいっぱいの登場人物達が少女漫画特有のタッチで絢爛豪華な歴史絵巻をつむいでゆく。好きだなあ、このナルシズム。イングランドの参謀マリオット・ローラン、奔放にして孤高の旧教強国侯爵ロレンツォ・デ・クレメンテ、脇役の設定がうまい。作者はその後宗教に傾倒していったようだが、できれば話を完結させてからにして欲しかった。

第7位  ヤマタイカ  星野之宣  Vol1〜6 潮出出版
第8位

 ハードSFへの執着が星野氏の表の顔ならば、古代民族学への傾倒が裏の顔ということか。氏の作品には宗像教授シリーズなど伝奇的な着色を施した作品も多い。
「ヤマタイカ」もそうした伝奇もののひとつ。沖縄からやってきたシャーマニズムの女王となる女性と、彼女を抹殺しようと鎮護国家(こっけと読むそうで)の要、東大寺から派遣されたスィーパー役の僧侶4人の闘いを軸に古代から現代へと続く帰化人対源日本人の暗闘を描く大作

第8位 『坊ちゃん』の時代  関川夏央・谷口ジロー  Vol1〜5 双葉社
第9位

 関川・谷口という稀代のゴールデンコンビが描く、リアル明治人物列伝。なるほど、明治とはそういう時代であったかと、思わず頷いてしまうほど時代の雰囲気を見事に抽出した逸品。全5巻ではあるがそれぞれタイトルは異なる。森鴎外を描く第2巻では個と家との共存に失敗する鴎外を主人公に西洋対東洋を対置しそこで苦悩する明治日本の姿を描く。石川啄木・幸徳秋水などを描く3・4巻を経て再び漱石の晩年の日常に帰ってゆく5巻。へたな文学全集を買うよりお買い得な5冊。

第9位  気分はもう戦争  矢作俊彦・大友克洋  Vol1 双葉社
第10位

 矢作・大友コンビもいい味を出している。思考が沈潜してゆく関口氏に比べ、どちらかと言うとコントロールの効いた浮薄にダンディズムを滲み出そうとする矢作氏は、重厚な、なたのようなイメージの谷口氏の絵よりも、乾いた皮膚にカミソリをスッとあてたような大友氏の絵の方があっているのだろう。『坊ちゃん』の時代とは違った意味で実験的な作品。

第10位  童夢  大友克洋  Vol1  双葉社
第11位

 漫画による表現のひとつの頂点を極めた作品ではあるまいか。『童夢』を含めた多くの大友作品が後の世代に与えた影響は大きい。この後いったい何人の擬似大友が登場してきたことだろう。漫画ながら1983年の日本SF対象を受賞したことからも、当時のクリエイターへの影響力を伺うことができる。
 作画力や構成力のほかに、セリフ選びもうまいのが大友氏のもうひとつの才能。印象にのこるセリフは数多い。『まっかなトマトになっちゃいな』に一票!



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