グッディーズ店主の音楽試聴記
2011-04

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2011年4月15日(金) 東京文化会館大ホール
東京都交響楽団 第715回 定期演奏会

指揮:モーシェ・アツモン
ヴァイオリン:竹澤恭子
エルガー:ヴァイオリン協奏曲 ロ短調
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調

モーシェ・アツモン氏は私にとって思い出深い演奏家です。1070年代後半、まだ東京のほとんどのオーケストラが現在のような演奏技術水準に達していなかった頃、アツモン氏は都響の監督の1人として就任しました。そこで彼はオーケストラがきっちり弾くというあたりまえの事が如何に大切であるかを、演奏会を通して聴衆に伝えてくれました。アツモン氏が来日してリハーサルと本番を行なう度にオーケストラが成長してゆく姿を見ることは、大変貴重な体験でした。その後最後に都響とのコンビを聴いたのはCDにもなっている1993年のサントリーホールですが、今回は実にそれ以来の18年ぶりの共演との事です。アツモン氏は都響以降、1987年から1993年まで名古屋フィルの常任もつとめましたが、東京とは疎遠になっていたのですね。
今日の演奏曲のブラームス交響曲第2番は、2006年以降にアツモン氏の演奏で3回目となります。1回目は2006年に名古屋フィルの創立40周年記念コンサートですが、常任指揮者退任後も共演を行なっていた名古屋フィルとの気心の知れた感じの演奏で、お互いのやりたい事が伝わりあった気持ちの良い演奏でした。次は2010年のNHK交響楽団の関西演奏旅行で取り上げられました。これは2007年のN響定期の急な代役を引き受けてくれたお礼的な意味合いも感じられる共演でしたが、N響も好意的な雰囲気での演奏会でした。演奏は良い意味で大人の対応というか、演奏自体は立派なものでしたが、解釈的にはお互いにあまり踏み込む事の無い無難な演奏となっていました。そして今回の演奏となるわけですが、これは予想を超えた内容となりました。というのも、ステージを見れば当然ですが、1980年代にアツモン氏と演奏経験のあるメンバーはおそらく数名でほとんど初共演と言って良い状況ですので、オケは何とかアツモン氏の解釈を理解しようとする姿勢がありますし、アツモン氏もオケの反応の良さに感じるところがあったのでしょうか、N響とはまったく違う解釈を見せてくれました。現在の都響との意思の疎通はもちろん十分とは言えませんが、今年80歳になるアツモン氏が、現在の都響の重苦しくない音楽性を生かした新しい解釈で生き生きとブラームスを聴かせる様には非常に驚かされ、久々に感動を覚えました。



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