グッディーズ店主の音楽試聴記
2011-02

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2011年2月11日(月) サントリー・ホール
ワレリー・ゲルギエフ指揮
マリインスキー・オペラ
ベルリオーズ:「トロイアの人々」演奏会形式上演

まずはこの大作が日本初演されたことを喜びたいと思います。おそらく日本
の舞台で全曲演奏されることはないでしょうから、一生一度の体験と言えま
す。6時30分開演、20分の休憩をはさんで終演は10時30分。雪の中を帰宅しま
したが、充実の一夜でした。
ゲルギエフの実演はこれまでチャイコフスキーのオペラやマーラーの第9番
など接してきましたが、強行日程とリハーサル不足が原因と思われる荒れた
演奏ばかりで感心した事はありませんが、今回はかなりの水準の演奏になって
いたのは嬉しい誤算でした。歌手もオーケストラも高い水準で安定していて
危なげがなく進行して、4時間が長く感じられないほどでした。
しかしこれぐらい高い水準の演奏を聴かされると、更に上の水準を望んで
しまうのも人情で、じっくり聴かせる場面でのオケの平板さや、歌手のここ
一番でのもうひと踏ん張りなど残念な部分も残りました。ゲルギエフのベルリ
オーズは「狂気の爆発」からは一歩引いた冷静な感性で支えられていて、
いわゆる爆演とは対極の取り組みですが、ブーレーズのように冷徹でありなが
ら音響に中にベルリオーズの「狂気」が噴出するやり方もあり、ゲルギエフ
には今の安全運転を一歩超えた更なる高みを期待したいところです。
歌手ではディドンとディドンの妹アンナ役の2人が好演でした。特にディドン
は立派な声が印象的です。しかし一方のアエネアスが声質がリリカルでこの役
には不向きで、物語の展開を散漫な印象にしてしまい、ディドンの死とクラ
イマックスの必然性が薄められてしまったのは残念でした。
久しく録音では聴いていなかった曲ですが、久々にいくつか聴き直してみたく
なりました。



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