グッディーズ店主の音楽試聴記
2006-08

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<ARTE NOVA>
82876888812 \650
ブルックナー:交響曲第1番 ハ短調(1866年第1稿版・リンツ稿)
デニス・ラッセル・デイヴィス(指揮)
リンツ・ブルックナー管弦楽団

ライブで全集を目指すこのコンビの録音もいよいよ終わりが見えてきました。
2008年には全曲完成予定です。今月は初期の第1〜3番が発売になりました。
リンツ・ブルックナー管弦楽団は1990年代に、アイヒホルンとジークハルト
による全集をカメラータ・トーキョーの録音で完成させていますが、これは
田舎ムードのブルックナーとして一部では評価されています。指揮者がデイ
ヴィスに変わりスタートした全集は、第4番や第8番の初期稿の使用でも話題
になっていますが両者の全集に取り組む意欲がみなぎっています。デイヴィ
スは基本的に見通しの良い演奏を目指していて、これまでも特に粘るような
演奏はありませんでしたが、オーケストラの音色や奏法が反映されてか、ど
の部分にも溌剌とした感じと、どこかほっと息がつけるような美しい奥行き
が感じられます。旧録音の田舎のドイツ風の雰囲気が、デイヴィスの近代性
と美しく調和していて、新しいビルの町並みでもやはりドイツを感じさせる
町並みとを感じさせます。録音は力強く、しかしヒステリックにならない、
また神経質ではありませんが細かい部分も良く分かるという、演奏に合った
録音が成功しています。
<QUERSTAND>
VKJK0608(SACD-Hybrid) 2枚組 \3380
マーラー:交響曲第2番ハ短調 「復活」
ファビオ・ルイージ指揮
MDR交響楽団(ライプツィヒ放送響)、
クリスティアーネ・エルツェ(S)、藤村実穂子(Ms)
録音:2005年4月17日、ゲヴァントハウス,ライプツィヒ、ライヴ

ルイジの復活は1997年にウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団を指揮し
たライブ録音がORFレーベルより発売されていますので、これは再録になり
ます。今回の新録も冷静なオーケストラ・コントロールを基本にしながら
随所に振幅の大きな表現を見せる、ルイジ独特のマーラーが展開されていて、
大変聴き応えのある演奏です。ルイジは自分のイメージ通りにオーケストラ
を無理にでも弾かせようとするタイプではなく、オケの奏法や呼吸は生かし
つつ的確なコントロールで音楽を作っていきます。風貌や指揮姿からはきび
きびしたストレートな音楽を想像されがちですが、遅いテンポでの表現や、
雄大なクライマックスなど、良い意味で予想を裏切る表現も随所に聴かれま
す。また音楽が非常に良く流れるのもルイジの美点です。旧録では中間楽章
の遅めのテンポでの掘り下げが印象的でしたが、新録では終楽章の合唱の扱
いがすばらしく、雄大に広がり流れるような印象はこの曲では珍しい体験で
した。録音は明晰さよりは奥行きや雰囲気勝負のもので、音色は美しく録ら
れています。
★フェスタサマーミューザKAWASAKI 2006

東京交響楽団演奏会 2006年8月4日(金)19時30分開演

マーラー:交響曲第2番ハ短調 「復活」
指揮:飯森範親
ソプラノ:カトリオーナ・スミス 
メゾ・ソプラノ:ヘレーン・ラナーダ
合唱:東響コーラス(合唱指揮:飯森範親)

今回は先日の演奏会の感想です。
ミューザ川崎は何度か聴いています。これまでは1F正面、2Fサイド、ステー
ジ裏側など、比較的ステージに近い席が多かったのですが、今回は4Fの正面
1列目を取ってみました。下の席での印象は、弱音では各パートが鮮明ですが
音が大きくなるとステージ上に音がやや溜り気味で分離は今一といったもの
でした。それでもサントリー以降の新しいホールに見られるふくよか過ぎる
残響は無いため、全体的には好印象です。今回の4Fは以前どこかの掲示板で
大変まとまりが良い音との評価があり期待していました。音量は見た目どお
りでサントリーの2F正面のような見た目ほど音が聴こえないという事はあり
ません。弦楽器は少々やせ気味で、バイオリンはニュアンスが伝わりにくい
です。対して木管・金管は非常に鮮明・ニュアンス豊か、音色の変化も聴き
取れる距離を感じさせない良好な音です。打楽器も基本的には音量は大きめ
ですが意外にニュアンスは伝わらず、単色の印象です。ステージ裏客席の合
唱団はまずまずでした。
演奏は全体をていねいに進めてゆくものでテンポも基本的には遅めですが、
遅さを意識させない位自然な遅さにはなっていないため、フレーズを引き
伸ばしつつ遅い演奏に持ってゆくタイプです。しかしリハーサルをしっかり
やられたのでしょうか、大胆な表現も形はしっかりこなされていて、飯森
とオーケストラの取り組みの真剣さが好印象です。圧巻は終楽章のクライ
マックスで、しっかりした設計と大音量になっても慌てることの無くじっく
りと音楽を持続させる表現は、期待を超える感動的なものとなりました。
今年は各地で「復活」の演奏会が多く行われますが、先日の群馬交響楽団
同様に指揮者とオケのまじめな作業に感銘を受けました。
<Profil>
PH 06012 \2080
ブルックナー:交響曲第5番
ギュンター・ヴァント(指)ミュンヘン・フィルハーモニー
録音:1995年11月29日、12月1日

ヴァントのブルックナーは晩年のベルリンフィルとのものが、円熟の演奏とし
て高い評価ですが、70年代のNHK交響楽団の客演当時からヴァントのブルック
ナーに接するものとしては、やはり当時の尋常でない厳しい演奏にも非常に
惹かれます。5番の録音は正規盤では70年代後半のケルン放響、90年頃の北ド
イツ放響、96年のベルリンフィル、そして今回の95年ミュンヘンフィルになる
と思いますが、厳しさ一辺倒のケルン、やや厳しさが後退したもののヴァント
の要求にはっきりと答えた北ドイツはどちらもヴァントらしさが出ている名演
だと思います。ベルリンフィルはすでに多国籍化していて大味な部分が多く、
個人的にはあまり好んで聴く演奏ではありません。今回のミュンヘンは時期的
にはベルリンと変わりませんが、さすがにチェリビダッケが鍛えた後だけに、
奏法や演奏態度に統一感がありヴァントの演奏様式が美しく構築されています。
ヴァントの音楽を一旦自分たちに取り込んで、ミュンヘンの様式で再構築した
ような印象で、南ドイツのややゆるい奏法がヴァントの厳しさと溶け合って、
独特の盛り上がりを見せています。録音も硬さの無い、しかし輪郭もはっきり
としたライブとしては十分な音質です。
<LSO Live>
LSO 0082 1050
LSO 0582(SACD-Hybrid) 1850
ベートーヴェン:
交響曲第2番 op.36 ニ長調
交響曲第6番 op.68 ヘ長調「田園」
ベルナルド・ハイティンク(指)ロンドン交響楽団
録音:2005年11月16-27日
バービカン・センターにてのライヴ録音

No.1で試聴記を掲載しましたが、その後ACOとの1980年代の全集を聴き直し
てみて印象を追加します。
旧録音を聴き直して見るとハイティンク自身の解釈に大きな違いは無いと
思いますが、オーケストラの指揮者の受け止め方に大きな違いがあります。
ハイティンクは1960年代にACOの監督に就任していますので、ACDとの全集
はその20年の総決算ともいえる時期の録音です。ハイティンクの指揮はご
存知のように非常にきびきびした力強いものですが、オーケストラがその
指揮姿のような音を出そうとすると、かなり激しい音楽になってしまいま
す。60年代にはそういった強引さが音に出ている録音もありましたが、70
年代の半ば頃からこのコンビの録音はどっしりと落ち着いた音楽を聴かせ
始めます。ハンティンクの指揮姿は60年代から今まで基本的に変わりはあ
りませんので、これはオーケストラの慣れが大きく影響していると思われ
ます。指揮台で暴れている指揮姿に惑わされずに、一旦その姿を受け止め
てからゆったり音を出す演奏法が身に付いた時期と言えるでしょう。(同
じような傾向は、クルト・マズアとLGOの関係にも見られます)
しかしロンドンでも屈指の反応のLSOはそういった対応をしていないため、
現在のハイティンクの指揮姿がそのまま音に出ているような演奏になって
います。ライブ録音と言うこともありますが、ACOと比べるとずいぶんと
立ち上がりの素早い部分が見られ、むしろ若々しく感じられると言うのが
今回の演奏の一つの特徴です。
<Deutsche Grammophon>
4776232 \1850
パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品6
シュポア:ヴァイオリン協奏曲 第8番 イ短調 作品47
「劇唱の形式で」
ヒラリー・ハーン(Vn)
スウェーデン放送交響楽団
指揮:大植英次

ヒラリー・ハーンの新譜は有名なパガニーニの第1番と無名なシュポアの
第8番です。期待通りの正確なテクニックで弾き込まれていて、技巧が必要
とされる曲であることをまったく感じさせない見事な仕上がりです。
ただ、ハーン自身がなぜ今この曲を取り上げて弾いているのか、なぜこの曲
が弾きたいのかと言うのが、演奏から感じ取り辛いと言うのがやや残念な
点でした。大変まじめな姿勢で貫かれていて、それだけでも演奏としては
十分評価されるものですが、やはりハーンにはもう一歩の表現をそろそろ
期待してしまいます。大植はハーンの演奏に合わせてか慎重な伴奏を付けて
いて、彼の職人的な部分が生かされたものですが、もう少し演奏の運びに
軽やかさがあっても良いのではとも感じました。