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書評:安岡正篤『十八史略』上下巻

この記事の最終更新日:2006年10月14日

十八史略(上) 激動に生きる 強さの活学
十八史略(上) 激動に生きる 強さの活学安岡 正篤

PHP研究所 2005-03-02

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十八史略(下) 激動に生きる 強さの活学 人生の五計 困難な時代を生き抜く「しるべ」 孟子 不安と混迷の時代だからこそ―現代活学講話選集〈3〉 論語に学ぶ 人生と陽明学


今回は、上下巻まとめてレビューします。

高校の頃、漢文の授業で出会った時からずっと読みたいと思っていた十八史略。古代中国の戦国史について書かれた本かと思いきや、実は古代中国から元の初期までの、王朝の歴史について書かれた本だと今になってわかりました。宋が滅びる元代までだから、孔子、老子、史記、三国志、全部入っています。

中国古典、現代政治に詳しい安岡先生による解説だからこそ、実にわかりやすい。

安岡さんは他の著書でもよく指摘されていますが、中国の教養層は、儒者なら儒教、老荘家なら老荘だけというわけでなく、四書五経、老子荘子、史記、仏教、禅、あらゆる学問思想を学んでいた。儒教の思想には、老子や禅の影響がありますし、老荘にも儒教の影響がある、禅などはインドの仏教に儒教や老荘思想など中国土着の思想がまざりあって生まれたものだと言います。だから、お坊さんだって論語や老子、歴史書を読むし、政治家も四書五経を読む。

日本も中国文化をよく勉強しました。鎌倉以来、武家は中国の学問、歴史によく学んだ。この伝統は明治政府まで続きます。安岡さんは、大正にもなると、日本の知識人層は西洋の学問、功利主義、近代科学ばかりやるようになったので、人間学、人格が欠落し、悲惨な戦争をやるようになったとのことです。

日本は西洋近代科学の科学的な部分のみ輸入しましたが、西洋人にはキリスト教という深い精神性があります。いわば、心をとって、知識技術だけ輸入した(もちろんキリスト教思想は入っていますが、一神教は日本に根づきませんでした)。そこで千年単位で育んできた東洋の知恵、中国思想や武士道を捨て去らずに保持していればいいものを、何故か人間学が欠落し、暴虐の限りを尽くした。思えば、これは実に悲しいことです。

十八史略の書評に戻りますと、古代中国の神話的王朝から戦国時代の諸子百家の話、続いて始皇帝、項羽と劉邦、漢王朝の武帝、光武帝の話と続きます(ここまでが上巻)。三国志、晋時代の虚無主義、南北朝の動乱、随、唐の大宗、宋、元と続いていきます。ためになるのは、名宰相たちが残した数々の名言です。諸葛亮孔明、唐の大宗に仕えた魏微、宋の司馬光、チンギス・ハンが見出した耶律楚材など数々の名宰相が出てきます。誰にも共通するのは、主君にこびをうる忠臣ではなく、正義大道を貫く名臣であるということです。上司が間違っていると思えば、きちんと自分の意見を言います。ご機嫌伺いの神経質な人間は一人もおりません。人の機嫌を伺う宰相がのさばる国、企業、組織は決まって腐敗していくとわかりました。

例えば、諸葛亮孔明。天下三分の計という戦略を思いつき、戦場では無敵だった軍師としての面を持ちながら、徳高く、偉人の代表格です。公正明大なのが孔明の特徴で、孔明に罰せられた人までが、孔明を慕った、それほど人に対して公平、客観的な人であったそうです。自他ともに厳しく、峻厳。

唐の創始者、大宗は名君の代表です。大宗の政治問答を著した『貞観政要』は源頼朝、徳川家康、明治天皇などが愛読し、政治の模範としました。トヨタ自動車でも読むことを奨励されているそうです。

宋の時代にも名臣が多数います。明治天皇は『宋名臣言行録』を愛読されていたと、安岡さんの本に何度も出てきます。宋代の中でも一番徳高いと評されている人物が司馬光です。生涯、これを実行するような一言を教えて下さいという弟子の質問に、司馬光は「誠」と答えたそうです。誠に生きようとするならどこから入っていったらいいかとさらに問われると、司馬光は「妄語せざるより入る」と答えたとのこと。

国にある4つの病が『申鑑』という書物にあります。一にうそ、二に私、三に放埒、四におごり。偽りだらけで、私心で動く者が多く、でたらめがまかり通り、ぜいたくが流行る国、こうした国、企業、組織はすぐに滅びます。

道(自然)をなす聖者が皇、徳を教える賢者が帝、功をなす才人が王、力で人を率いるのが覇。功や力があっても、徳がないと人間として使いものにならない。道を知らないと人生に苦労する。道徳功力4つをおさめることが肝要のようです。


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