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企業が「学習する組織」として絶えず向上発展し続けるためのハウ・ツー本です。
まず重要となるのがシステム思考の考え方。著者の提唱するシステム思考は、近代科学の極限みたいなロジカル・シンキングとは随分違い、東洋哲学的です。
著者いわく、失敗した時、責任を他者の過失に求める人は、自己と他者が同じシステム内に存在していることを理解していない。「いつも周りのバカどもに翻弄されて忙しいわ全く」と思ってる人は、自分の微々たる力でシステム全体が改善できるとは信じていない。
問題を自分中心に、あるいは他人中心に、あるいは直線的にでなく、自他の相互関係を考慮した組織全体で理解し、過去現在未来の変化を推測するのがシステム思考です。
具体的に言うと、一生懸命がんばっても、努力は報われないし、必ず誰かの反発に合うし、疲れ果てるということなのです。
急激に発展成長する細胞は癌細胞と同じ。自然界におけるまっとうな成長はとてもゆっくりとすすみます。問題点に向けて全力集中して退治しても疲れるだけ。どこが問題なのか全体を俯瞰的に見て、合気道の達人やカイロプラティックのごとく、予想外の急所に指先一本分の力、工夫を加えましょう。後は自然な回復を待つだけ。これが、レバレッジ(てこいれ)の考え方。
学習する組織にとっては、個々人が絶えず学習する自己マスタリーの考えが重要となります。自己マスタリーレベルの高い人には、ビジョンや目標の裏に、ものすごく強い欲求があるため、ビジョン実現に向けて学習し続けようとする姿勢が芽生えるとのことです。
例えば、市場で他社より売上をとるためのマーケティングプランを錬るとします。何故戦略を錬るのかというと、会社の利益を上げるため。ここまでは誰でもわかるけど、では、何故利益を上げる必要があるのでしょう?
お金のため? 私利私欲のため? 答えの一つは、株主への利益配分が減ったことで、株価も下がり、他社に買収されるのを避けるため。じゃあなんで買収されちゃまずいのかというと、会社の独立性を守る必要があるため。「ねえじゃあ何故独立性守る必要があるの?」と息子に聞かれれば、「自分たちが実現したいビジョンをね、誰の妨害もなく達成する自由を得るためさ」と答えるのがエッセンシャルなお父さん。
自分がやりたいことをし続ける自主独立性を得るため、会社のビジョン実現のために、マーケティングプランを錬るんだと思えば、仕事に対するモチベーションが全然違ってきますね。
一生懸命働いて、みんなから慕われている人の内面には、会社のビジョンにコミットメントしている場合と、服従している場合の2パターンあるそうです。外からはよくわからないけど、働いている個人の心理では大きく違うこの2つ。コミットメントの場合、その社員はビジョン実現を強烈に望んでおり、どうしてもビジョンを実現させようとします。服従の場合は会社のビジョンにそれほど興味がないか無関心で、人に期待されること以上のことはしないそうです。納得納得。
最後に、著者が奨励するのは、人々から嫌悪される悪徳リーダーでなく、人々から賞賛される英雄的リーダーでもなく、組織に属する人々に「我々は自分たちで成し遂げた」と言わせる、影の立役者的リーダー。このリーダーは設計士のようだと言います。
システム全体を見て、どこをどう工夫すればいいのかの設計図を大工さんたちに示す一級建築士みたいなリーダー。チームメンバーに権限と自主性を与えて、彼らの能力を最大限に引き出す工夫をするリーダー。組織のメンバーが人生を謳歌できるよう書く夢の設計図。素敵です。