筋違い角へのごる風対抗策
2003/04/20
1.メジャーな奇襲戦法「筋違い角」

 「奇襲戦法」というと、真っ先に思い浮かべる戦法は、何と言っても「鬼殺し」であろう。どのく
らい有名であるかというと、日本酒の銘柄にも借用されているくらいなのである(笑)。いかにも
破壊力のありそうなネーミング。この例を見るとネーミングの重要性が如実に分かりますね。
 しかし、残念なことにこの「鬼殺し」、△6四歩ワクチンによって天然痘と運命を共にしてしま
い、現在にいたってる。ちょっと工夫した「新鬼殺し」などもあるにはあるが、まあそれに出会う
確率はシーラカンスと出会う確率と同程度であろう。
 鬼殺しが消えた奇襲戦法であるならば、今回取り上げる「筋違い角」は現在でも小数ながら
根強い熱狂的なファンがいる奇襲戦法である。そしてその信奉者達はそれなりに筋違い角で
好成績を収めている。
 どこの道場にもいわゆる「筋違い角おじさん」は一人はいるのではないだろうか。年齢は40
代後半から50代くらい。定跡本なんか一冊も読んだことありません、というような実戦オンリー
派。自分のペースを握った中盤は鬼のように強く、大抵終盤の入口ではおじさんの優勢。ただ
し、終盤での「真綿で首絞め指し」があるため、勝敗はついてみないとわからない。大体三段か
ら四段くらいの位置にいて、そのおじさんにしっかり勝てるかどうかで、その道場で5段でさせる
かどうかが決まる・・・こんなおじさんである。そして、このおじさんの得意戦法は大概決まって
「筋違い角」なのである。



2.筋違い角戦法の分類

 筋違い角は、
@角を引く位置(右側か左側か)
A飛車の位置(居飛車か振飛車か)
で4通りに分類することが出来る。

A)右側、振飛車
 これは、筋違い角側が先手として、角が5六から4七(あるいは3八)に引き、向飛車に振って
8筋を逆襲する指し方である。筋違い角を解説している本には大概載っている指し方であるの
だが、私は実戦はおろか指されているのを目にしたこともない。勿論、自分でも指したことは無
い。この指し方は、一手損をしない普通の角換りの出だしから筋違い角を打った場合に出現す
る指し方であるので(そうでないと、後手の飛車先が伸びておらず、8筋逆襲がうまく出来ない)
出現することが皆無となってしまったのであろう。個人的にも、▲2五歩を伸ばしてから向飛車
に振る形なので、あまり指す気になれない。

B)左側、居飛車
 筋違い角と言えば、このB)と次のC)を指すといっても過言ではないだろう。筋違い角の2大
主流戦法である。角を7八に引き、棒銀の応援を得て2筋突破をめざす戦法である。普通の角
換りからの出だし、三手目角交換からの出だし、どちらもあるが、現在ではそのほとんどが三
手目角交換からの出だしであろう。大体、普通の出だしから筋違い角をするような人は近年で
はほぼ絶滅してしまっているのである。そして、筋違い角おじさんは手損など眼中に無いので、
先手を握ると嬉しそうに三手目角交換をしてくるのである。

C)左側、振飛車
 参考文献11)によってメジャーになった指し方である。敵を知るという意味合いで私も昔多用
したことがあった。振り飛車党や穴熊党相手だとより効果を発揮する指し方である。
 角は7八(時には6七)に引き、四間飛車にする。そのまま美濃→高美濃→銀冠とじわじわ玉
頭を圧迫していく。

D)右側、居飛車
 これは参考文献12)のみに書かれている指し方である。この本が出版された後、対抗策を知
るべくして何局か採用。結局、本に書かれていたこの戦法の優秀性を再確認したにとどまっ
た。何局か相手に採用されたこともあるが、その数は少ない。
 角を1六に引き、△1五歩で追われた後は2七に引く。3筋の位を取り、居飛車の囲いを圧迫
していく。



3.筋違い角へのごる風対策

 では、ごるの対策を紹介しよう。ただし、キッチリとした定跡手順を確立しているわけではな
い。以下に述べる方針を頭に置いて、その場その場でそれを実現すべく指していっている(つ
まり、場当たり的ともいえる(笑))。
 普通の角換りからの筋違い角は、そうなる確率が極めて低いため、ここでは省略する。以下
では三手目角交換からの筋違い角に絞って話をすすめていく(これで、A)の対策を考える必
要が無くなった)。


イ)△5二金右〜△6四歩 (第1図)



▲4五角に対しては、△5二金右と上がって受ける。そして、▲3四角に△6四歩が急所。6五
の位を取ることにより、▲6六歩を指せなくし、C)の手法を拒否するのである。△6四歩に▲6
六歩とするならば、すかさず△6五歩。▲6五同歩なら△6六角で香取りと角成とが同時には
受けることが出来ない!第1図以下は▲8八銀△6五歩▲7七銀△6二飛と進行。
 △5二金右ではなく、△6二銀なら▲3四角に対して、もう一手角成り(4三)を受ける手が必
要となる(例えば△3二金など)。そうなると、すかさず▲8八銀と上がられて先の△6六角が効
かなる(▲5八飛で受かる)ので、注意。


ロ)金銀盛り上がり重視、玉の移動は後回し

 この指し方は、参考文献10)の米長プロの将棋(第2図)からヒントを得た。その文献ではこ
の将棋が序盤から中盤にかけて詳細に解説されている。この将棋はC)に対する指し方である
が、この将棋における考え方は、B)に対しても同様ではないかと考えている。


(第2図は▲6五銀まで。1977年9月30日、第16期十段戦リーグ戦▲米長―△淡路)

 余談になるが、この図の棋譜は入手できるのなら是非米長プロの書いた文章とともに並べて
頂きたい。この「米長の将棋」シリーズは彼の著作の最高傑作ではないかと思っている。中学
高校大学とずいぶんこのシリーズ(の後半3冊)を並べたものである。ごるが米長著作の本で
残すものを絞ることになったら、このシリーズと「人間における勝負の研究」を選ぼうと考えてい
る。

 筋違い角は、
@1歩持つ
 ことと同時に、
A後手側が歩切れ
という条件が実に重要なのである。逆にいうと、どこかで1歩持てれば(攻めつぶされる途中で
の1歩獲得は除く)、その時点で対筋違い角側が作戦勝ちになる場合がほとんどである。
 筋違い角側としては、1歩かすめ取った後、自陣への角打ちに警戒しながら銀を繰り出して
攻撃するというのが一つのパターンであり、その攻めが間に合ってしまうと筋違い角側が有利
となる。しかも、普通に後手側が玉を囲うと、その玉頭に筋違い角の利きが直射することとな
り、わざわざ攻撃目標になりに行っているようなものなのである。また、悠長に玉を囲っている
間に銀の繰り出しが間に合ってしまう場合が多いのである。
 そこで、筋違いの角を目標に右銀左銀を繰り出していく。玉は居玉かあるいは△4二(△4一
玉は筋違いの筋に入るので、筋が悪い)。銀を繰り出してこない場合には、飛車先交換を受け
るために△3三玉と上がることもある。

 筋違い角は、既に角を打っているため、後手側がかなり伸びきった陣形を形作ることも可能
なのである。また、筋違い角側は角打ちを警戒しながらの戦いになるため、戦い方が非常に限
定されてしまうのである。


ハ)歩切れの解消、場合によっては△6四角の自陣角

 銀を繰り出すことにより、あわよくば△5五銀が5六の角と4六の歩の両取りとなって、以下歩
切れを解消させる。あるいは△6六歩からの銀交換と同時に歩切れを解消する。
 それらをさせない用心深い筋違い角には、場合によっては△6四角と自陣角を打ち、△7五
歩からの歩切れ解消、あるいは飛車の小ビンを狙う。筋違い角の3七の地点というのは、意外
に弱いのである。また、玉は4二から機を見て2二に囲う。場合によっては4二のままということ
もある。

 このハ)の部分については、相手の指し方も多岐多用にわたること、最近あまり対筋違い角
を指していないこと等で、図面は省略する。
 最後は甚だ抽象的になってしまって申し訳ない。逆にいうと、体系化するのは、これを読んで
試してみようと言う方々一人一人に御任せしようかと思う。



参考文献

 筋違い角の本を調べていたら、でるはでるは・・・探せばまだまだ出てくるかもしれないが、一
応この程度にとどめておく。

 1)「腰掛銀・棒銀戦法」、二上達也著、筑摩書房、1982
 2)「将棋の戦法破り」、桐山清澄著、永岡書店、1976
 3)「角交換戦法の指南」、升田幸三著、大泉書店、1980
 4)「超急戦!!殺しのテクニック」、横田稔著、高橋書店、1988
 5)「よくわかる奇襲と急戦法」、広津久雄著、大泉書店、1980
 6)「奇襲戦の極意」、米長邦雄著、昭文社、1991
 7)「角換りガイド」、週刊将棋編、毎日コミュニケーションズ、1989
 8)「早指し将棋の指し方」、淡路仁茂著、成美堂出版、1982
 9)「日本将棋体系 15 木村義雄」、大山康晴著、筑摩書房、1980 (名人戦の対升田戦)
 10)「米長の将棋 6奇襲戦法」、米長邦雄著、平凡社、1981
 11)「奇襲大全」、週刊将棋編、毎日コミュニケーションズ、1989
 12)「筋違い角と相振り飛車」、木屋太二著、主婦と生活社、1997


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