うそ矢倉対策としての五手目▲5八金右

―ごる風先手矢倉急戦棒銀―
2003/01/18


初手よりの指手 ▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲5八金右  ・・・(第1図)



 もしも、4手目までの手順を踏んで後手が以下矢倉に組む手法を「うそ矢倉」と命名されてい
なければ、ごるは躍起になって「『うそ矢倉』をやっつけてやろう!」とは露ほども思わなかった
かもしれない。「うそ」といわれると、どうも正しさを証明&修正せずにはおれない気持ちになっ
てしまうようである(勿論、これはこれで後手番の有力な手法であることは重々承知しています
よ(笑))。
 それはさておき、うそ矢倉に対して、先手側は大体次のような指し方があると思う。

@我関せずと普通に矢倉に組む。
A矢倉には組むが、早囲い等を目指す。
B引き角から飛車先交換を狙う。
C右四間でひとつぶしを目論む。

 どれも立派な指し方であるが、ごるは、

  @・・・相手の言い分を通すことになるので、論外。(しかし、@が冷静には一番良い選択
      かも知れません)
  A・・・早囲いがあまり「得」とは思っていないので、これも除外。
  B・・・角交換後銀冠に組まれると、相入玉模様の将棋になりやすいので、却下。
  C・・・実は、右四間を持つのも、持たれるのも、苦手なんです〜(T_T)。

 という訳で、何らかの対策を用意しなければならない状況に追い込まれたのである。
 そこで、編み出したのが本譜の手順。この五手目が優秀なのは、前回の「鳥指し」とは違い、
後手の六手目の様々な指し方にスムーズに対応できることである。
 例えば、飛車を振られても、以下普通に居飛車対振り飛車の対抗形になる。金上がりが損
になる場合は、

   (イ)居飛車穴熊で5九金右の指し方が出来ない
   (ロ)対石田流に棒金が出来ない

という場合くらいである。(イ)については、最近の振り飛車の指し方ではもう現れることのな
い、シーラカンスのような手であるので、ほとんど気にする必要はなく、(ロ)も「固さが正義」の
現代アマ将棋界では、はなから考えない戦法である。すると、振り飛車にされても何ら困ること
はない。
 また、△8四歩には▲7(6)八銀でこれまた普通の矢倉模様。
 従って、相手がどう指してくるか分からない、初対面初対局の相手に対しても自信を持
って指すことが出来る手なのである。

 第1図よりの指手 △4二銀 ▲2五歩 △3三銀 ▲3八銀  ・・・(第2図)
 
 

 うそ矢倉を目指す後手の次の手は△4二銀。そこで、時間差で▲2五歩と突くのが面白い。
ここで後手が△3三角なら、4二銀とのバランス上矢倉にはなりにくい。矢倉を目指して銀を上
がっている後手としては、当然飛車先は銀で受けることになる。そこでおもむろに棒銀を明示
するのである。
 さて、第2図であるが、将棋盤をひっくり返してみてみよう。どこかで見たような形ではない
か?そう、矢倉後手番急戦棒銀と1ヶ所を除いて同じなのである。その1ヶ所とは、

「5八金右の一手が入っている」

 ということである。
 以下、後手が矢倉に組んで受けた場合は、次のようになる。

 第2図よりの指手(その1)
   △3二金 ▲2七銀 △5二金 ▲2六銀 △4三金右 ▲1五銀 △3五歩 ▲2四歩
   △同歩 ▲同銀 △3四銀 ▲2三歩 △3一角 ▲4六歩 △3三桂 ▲4七金
   △2五歩 ▲3六歩  ・・・・・・ (第2-1図)
 
 

 この変化は、後手番急戦棒銀でも後手相当有力なのであるが、それより一手早く攻められる
のであるから悪い道理がない。事実、上図で優勢である。手番の差を最大限に利用できる例
である。

もう一つ、棒銀側が銀損して飛車を成る変化を見てみよう。

 第2図よりの指手 (その2)  
   △3二金 ▲2七銀 △5四歩 ▲2六銀 △3一角 ▲4六歩 △4二角 ▲4五歩
   △同歩 ▲1五銀 △5五歩 ▲同角 △5二飛 ▲2四歩 △同歩 ▲同銀 △5五飛
  ▲3三銀成 △同桂 ▲2一飛成 △3一銀 ▲4三歩 △6四角 ▲1一竜・・・(第2-2図)



 このあたりの手の解説は参考文献にお任せてしておこう。さて、次の後手の有力手は、△4
六歩なのであるが、ここまでくればお分かりであろう、△4七歩成が五手目に既に受けられ
ているのである。もちろん、もう1つの手である△5七飛成のほうも同時に受かっている。
 後手側としては、上図で△6二玉と上がるくらいか。そこで、参考文献1)に書いてあるように
▲5六香 △8五飛 ▲5三銀 △同角 ▲同香成 △同玉 ▲4二角 と進み、先手有利とな
る。なお、気を付けたいのは、参考文献2)にある手順(▲5六香の代わりに▲7五銀)では、以
下△同飛 ▲同歩に △5六歩 と指され、先手が不利となる。この場合は、金上がりによっ
てかえってあたりが強くなっている(24名人戦で、この通りの手順となり、負かされたことがあ
る)。

 これ以外にもいろいろと変化はあるとは思うが、現在までの所、先手が金上がりによって不
利になるケースは(先ほどの▲7五銀の変化以外は)ごるは発見していない。この「ごる説」を
覆す新手が後手側からいつ、どのようなときに現れるのか、心待ちにしているところである。

 最後に、上の変化以外の展開になった参考棋譜を二例掲載する。


参考棋譜1(対E..T.戦)     参考棋譜2(対ashinosibu戦)


 参考文献
後手番急戦棒銀の定跡書としては、
 1)「東大将棋ブックス 矢倉急戦道場」、所司和晴著、毎日コミュニケーションズ、2002
 2)「最新棒銀戦法」、青野照市著、創元社、2001
 3)「続将棋戦法小辞典」、鈴木輝彦著、木本書店、1994
 4)「現代矢倉の思想」、森下卓著、河出書房新社、1999
うそ矢倉の定跡書としては、
 5)「後手無理矢理矢倉」、田中寅彦著、毎日コミュニケーションズ、1995
 6)「超過激!トラトラ新戦法」、田中寅彦著、日本将棋連盟、1999

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