くつのひも


「それじゃね」と呟いたきりで
それ以上もう何も言えない
つけたままのラジオから
はしゃぎすぎた声がする
何もかもが変わらない午後なのに

見慣れたドアの前しゃがみこんで
ブーツをはこうとしたけれど
最初の左足が
つかえてうまくいかない
まるで今の胸の痛み映しだすように

立ち去れずにいるのは
くつのひもが結べないせいじゃない
そんな気持ちをいつでも
察してくれてたのに

振り向きもしないまま
その胸になにを刻んでいるの
どうか最後の涙に気づいて
もう一度

何度も朝を迎えたこの部屋が
こんなに愛しい場所だったなんて
銀色の灰皿も
脱ぎ捨てられたシャツも
みんなみんな今は哀しみの
材料になってくの

立ち去れずにいるのは
くつのひもが結べないせいじゃない
もしも ひとことくれたら
その手に帰れるのに

だけど今 ほどけない
結び目はあなたの答えなの
やっとわかった
ほんとにこれで さよならと
生まれた初めて
願ってたの 時を戻したいけど
あなたを失いたくない
すべてが遅すぎても

だけど今 ほどけない
結び目はあなたの答えなの
やっとわかった
ほんとにこれで さよならと