NWN冒険日誌
シングル:公式シナリオ/第3章
ラスカン軍を中心としたカルトの邪悪な軍勢はネヴァーウィンターへと行軍を開始した。
疫病の被害から立ち直りつつあると言っても、まだまだその傷跡を残すネヴァーウィンターにまともな反撃をする力はなく、ロード・ナッシャーは領主同盟に援軍を要請した。援軍の到着まで防衛に専念したネヴァーウィンター軍だったが、カルト軍は各地でネヴァーウィンター軍を破り、ネヴァーウィンターへと迫っていた。
そして、そのカルト軍の先頭にはアリベス…の姿があった…。
そんな事件が進行する最中に、おれはベオルンナズ・ウェルにいた。ネヴァーウィンターからさらに北にある蛮族の居住地だ。そこにある借り受けた小屋の一つで、アーリン・ゲントは俺を出迎えた。
「よく来てくれた、ブルード・アイアンハンマー。ネヴァーウィンターに危機が迫った時、お前が呼ばれるのは習慣になりつつあるな?」
おれはアーリンの皮肉とも冗談とも取れる言葉を無視して答えた。
「仕事の話をしよう、アーリン」
未だカルトの真の目的はわかっていない。だが確実な事もある。それはカルトは古代の魔法遺物ワード・オブ・パワーを必要としている事、それは数個存在していて、カルトはまだ捜索中である事…。
カルトより先にワードを手に入れる事が出来れば、カルトに打撃を与える事が出来ると考えたロード・ナッシャーは彼のスパイマスターにワードの捜索を命じた。そしてアーリンはここ、ベオルンナズ・ウェル周辺にワードが少なくとも3つ存在するだろうという確信を得たのだった。
「状況はだいたいわかっていると思うが、それで今回もまたお前が呼ばれたというわけだ、ブルード。君のような優秀な者の手が必要なのだ。我々には時間がない。この周辺にワードが3つあるという事はわかったのだが詳しい場所はまだわかっていない。君にはワードの捜索を頼みたい」
おれは無言のまま、アーリンにうなづいて答えた。
おれはネヴァーウィンターの街やロード・ナッシャーに対して忠誠心を持っているわけじゃないし、受けた恩義は十分に返したと思っている。ネヴァーウィンターの街やそこに住む人々を特別気に入ってるわけでもねえ。だが人々をむやみに苦しめたり自分の目的のために犠牲にしてもいいと思っているようなやつらは気に食わねえし、許しておくつもりはない。だからカルトを追い、戦っているわけだが今のおれにはもう一つ、どうしても無視できない理由があった。
カルトの軍勢の指揮を取っているのがアリベスだと聞いた時、おれはすぐにでも飛んで駆けつけ、アリベスにその真意を聞きたかった。アリベスの気持ちはおれにも多少はわかる。彼女は信じる神の名の下に、愛し、そして守ってきた街とその人々に裏切られ最愛の人を失ったのだ。そこに復讐心が生まれてもなんら不思議ではないだろう…しかし、それでもおれはまだアリベスが、邪悪な敵に従っている事を信じきっちゃいない。
あるいは、おれもまたあのフェンシックと同じ過ちを犯そうとしているのかもしれない。アリベスを信じたい、信じようとするあまりに…。
なんにしても、アリベスには会わなければならない。だけどカルトの軍勢に立ち向かい、アリベスのもとに辿りつくまで敵を斬り倒して進むなんて方法を選択するほど、おれも馬鹿じゃねえ。不可能とも思っちゃいないけどな。
それよりもワードだ。ワードを追えばやがてカルトの真の中心部へと辿りつけるだろうし、その途中でアリベスと再会する事もできるだろう…そう考えたおれは一人でもワードを探すつもりになっていた。そこへお呼びがかかったわけだ。なら断る理由はないだろう。
おれはすぐにワードの捜索を開始した。時間はあまりない。
1つめのワードはスノーグローブという小さな魔法の球の中にある小さな世界で見つかった。そこはワードの力で小さな世界の神となったホワイトドラゴンが作り出したという不思議な世界だった。そこで永遠に死と再生の戦いを繰り広げ、苦しめられていたドライアドとドワーフの協力を得て、おれはホワイトドラゴンを倒しワードを取り戻した。小さな世界は破壊され、ワードの力で作られたドライアドとドワーフもまた消滅したが、永遠の苦しみから彼らは解放されたのだろう…。
ワード・オブ・パワーが一体なんなのか、おれには全然わかっていなかったんだがこんな事を可能にする力を与えるものならば、相当な力を持ったものなんだろう。これが全て揃った時、世界だって作りなおせるんじゃないか?
1つめのワードを手にした瞬間、突然の光の中からリザードマンが現れた!
リザードマン…いや、ちょっと違うか?わからない、見たこともないやつだ。そいつはおれにドワーフ語で(!)話しかけてきた。
「モーグリムの仲間か?」
おれは即答した。
「違う」
このトカゲ野郎がモーグリムの手先だとしたら、うまく誤魔化して切り抜けられたかもしれない。だが嘘でもモーグリムの仲間だなんて言いたくない!
武器を構えたまま、相手の出方を待っているとトカゲは手を広げ敵対の意思はないという仕草をみせながら「ヘイドラリン」と名乗った。ヘイドラリン(たぶん女だと思う…)はおれがモーグリムの手先でない事に安心すると、自分がワードの奴隷である事、創造種の生き残りである事、そしてモーグリムにワードを渡してはならないと告げた。そして、おれにワードを集めて守ってほしいと依頼してきたのだ。
はっきり言ってわけがわからない。創造種ってのは確かレルムで最初に生まれて栄えた両生類種族だったと思うが、そんなのが生き残ってるわけがない。頭のおかしいやつなのかもしれないし、ワードが見せている幻覚なのかもしれない。あるいはカルトの罠とか…。
とにかく、こいつが何者だろうとおれのすべき事は変わらない。
「ああ、カルトの連中より先にワードを見つけてやるさ。他のワードの場所はわかるのか?」
ヘイドラリンは満足げに(わからねぇけどたぶん…)うなずくと、ワードの奴隷はワードの番人にでもあり、ワードと強いつながりがあると言った。だが、長い年月ワードと共に眠っていたので詳しい場所はわからない。とはいえこの地域のどこかにあるのは感じられるという。
ヘイドラリンを信用してはいないが、とにかくわからない事だらけなのは確かなんだ。できるだけ話を聞いてみようとした時、突然ヘイドラリンの姿が揺らめいた。幻影だったのだ。
「まさか…すでに邪魔を出来るほど覚醒しているとは…ワードを通してお前と話すのを邪魔してきた…モラグが…」
と、ヘイドラリンの姿は消えうせた。
ワード、ヘイドラリン、創造種、そしてモラグ…切れ端ばかりでまったく意味がわからねえ。ともかく、おれは一度ベオルンナズ・ウェルへと戻るとアーリンにワードを1つ発見した事を報告した。
「さすがだな、ブルード。ワードは一番安全な場所…ネヴァーウィンター城に保管する。心配するな、俺と部下を信用してくれ」
おれはワードをアーリンに渡すと、ヘイドラリンの話をした。アーリンにも見当がつかないそうだが、調査してみるという事だ。おれはヘイドラリンに関してはアーリンに任せて残りのワード探索に戻った。
2つめのワードは、かなり古い遺跡で見つかった。その遺跡で出会ったウィザードもまた変なやつだった。時間がどうとか前とか先とか…だんだんイライラしてきた。が、辛抱強く話してみると、どうやらその遺跡は創造種に作られたもので、中心にワードがあるんだが無敵のゴーレムに守られているらしい。あらゆる攻撃に対して無敵なのだという。
「前にも言ったけど、過去に行って弱点を作ってくるしかないわ…え、始めてだったっけ?」
彼女の話によればこの遺跡は時間の流れの中で特異な位置にあって…まぁ、とにかく、この遺跡内限定だが過去に戻る事ができるらしい。もうやけくそだ、時間旅行でもなんでもしてやる!
実感はないが…本当に過去に行けたらしい。創造種によって建設途中の過去まで飛び、そこで作ってる途中のゴーレムに弱点を作って戻って来た。創造種もたくさんいて、おれたちのような創造種以外の種族は下等生物であり奴隷にしかならないと思っているようだった。ヘイドラリンとはたいぶ態度が違っていたが、外見的にヘイドラリンが創造種だと言うのは信じられるかもしれない…。
弱点を攻撃してゴーレムを倒し、過去で見てきた仕掛けを解いてワードまでたどり着いた。ワードを手に取ると、再びヘイドラリンの幻影が現れた。
「お前の力なら出来ると信じいていた、ブルード。2つのワードが揃ったことで私の幻影も安定したものとなった。今度はゆっくりと話すことが出来そうだ…」
そしてヘイドラリンは自分やワードについて語った。
かつてエルフですらまだ若い種族だった頃、世界は暖かくジャングルような森に覆われていて、世界は強力な創造種が支配していた。モラグという最も強力な女王がいてこの地域を支配していたという。モラグはやがて世界が寒くなり、創造種は生きていけない環境に変わってしまう事に気がついて、その時のために4つのワード・オブ・パワーを作ったのだ。
そして氷河期が来たとき、モラグ自身は太古の世界の環境が凝縮されたソース・ストーンの中で眠りにつき、4つのワードにそれぞれ番人を魔法で縛りつけた。ワードを守り、やがて氷河期が終わった頃に再びソース・ストーンから自分を解放させるために。
ヘイドラリンのようなワードの番人は、ワードの力で死ぬことはないのだが守られるわけではないのだという。だから氷河期とその後の新しい世界の環境への変化の間も彼女たちは死ぬこともできずにずっと苦しみ抜いてきた。水中で、呼吸する事もできず死ぬこともなく苦しみ続けるようなものだったろう…むごい事だ。だがその結果、今の環境にも適応し、より強靭になってワードの支配を脱したのだそうだ。とはいえ、ワードと魔力で結びついていることには変わりはない。もしモラグが完全に復活すれば彼女達は再びワードに支配されてしまう。
そして、ソース・ストーンに封じられた太古の世界と創造種たちは解き放たれ、ワードの力で世界を再び太古の世界に戻し、他の種族を奴隷として支配するための戦いを始めるだろう。だがヘイドラリンたちは、今の世界を案じているわけではなく、ただ、再びワードの奴隷には戻りたくないだけのようだ。
おれはヘイドラリンを信用する事にした。実際いままで見てきて、ワードが集まればそれくらいの事はできてしまうような気がするし、それにヘイドラリンがもし世界を守るためとか言っていたら怪しんでいただろうが、ただ再び支配されたくないのだという言葉は本心だと思えるからだ。
「ワードはあと1つ、近くにあるようだ。ワードを頼む、ドワーフよ…」
おれがうなずくと、ヘイドラリンはそれを見届けて消えた。
アーリンに報告を済ませワードを預けてから、おれは捜索範囲を世界の背骨山脈まで広げた。もしこの山々を隅々まで探そうとしたらおれの残りの人生を賭けるような大仕事だろうが、なんとなく探すあてがある。ワードはどこかに落ちているのではなく、おそらく何か強力な存在が持っていると思う。そういった存在にとってワードは無視できるようなものではないだろうからだ。
予想通り、3つめのワードは背骨山脈の中腹に住むエンシェントドラゴンが持っていた。
おれはホワイトドラゴンを(協力があったとはいえ)倒した事もあるし、ワードをドラゴンや強力なジャイアントが持っているんじゃないかとそれらの住処を調べてきていたから、何度もドラゴンは見ていた。しかしエンシェントドラゴンはまるで次元の違う生き物だった。創造種の時代から生きてきたそいつは、まさに生ける伝説と言うに相応しい…なんというかオーラを持っていて、認めたくはないが、おれの本能が”逃げろ!逃げろ!”と叫んでいた。
だが、逃げるわけにはいかない。どうせ小細工も通用なんてしないのだ。おれは堂々と偉大なドラゴンの前に立った。
「ほう…我が前に立つとは。多少興味が出たぞ、ドワーフ」
おれは、無意識のうちにぎゅっと2本のバトルアックスを握りなおしていた。
「お前の来た理由は知っている…ワードが欲しいのだろう?いかにも、我が持っている。モーグリム…あの哀れなあやつり人形の使者も来たが踏み潰してやったわ。だがお前には見所があるな。取引するに足る力はありそうだ…」
この古き竜はどこまで知っているのだろうか。ここでビビったら負けだ。おれは出来るだけ胸を張って一言問い返した。
「取引?」
この竜にとって、モラグもワードも世界の有様ももはやどうでもいい些細な事に過ぎないのだ。他のドラゴンのように知識や財宝や…そんなものに対する執着すらない。ただ、このドラゴンの望みは一つだけ。”生きる”という事。もう想像もできないような長い生で、信じられないほどの知識や経験を持つこのドラゴンが辿りついたものが、結局全ての生き物のもつ本能、”生きる”という単純な望みだったのだ。
このドラゴンは手下を使って他のドラゴンの卵を奪い取り、そこからドラゴンのエッセンスを吸収して命を永らえているらしい。ワードも、寿命を延ばす助けになるかと手に入れたようだが、役には立たないのだそうだ。だからこの竜にとってはなんの価値もない。ドラゴンの卵を持ってくればワードはくれてやろう、とドラゴンは言った。
「わかった、取って来る」おれはそう、答えようとした。
このドラゴンは人里に出て暴れるような事はもうないだろう…この住処から出ることもないかもしれない。世界の背骨山脈には善なるドラゴンもいるが、人を襲うようなドラゴンだってたくさんいる。邪悪なドラゴンを倒し、卵を奪うのならおれの良心もとがめはしないだろう…だが…。
おれは武器を構えていた。ドラゴンにとっても予想外の動きだったのだろう。不思議そうにおれを眺めた。
おれはこのドラゴンを気に入ってしまった。尊敬したと言ってもいい。それゆえに、このドラゴンのルールに従ってみたくなったんだと思う。ただ”生きよう”とする事。おれが生きるのか、このドラゴンが生きるのか。ワードだのネヴァーウィンターだの善だの悪だのといったものを超越して、そんなものはどうでもいいと捨て去って、どちらが生きるかという戦いをしてみたくなってしまったのだ。うまく説明はできないんだが…ただ、生きたい、と思った。そのために目の前のこのドラゴンを乗り越えて生きたいと思ったんだ。
「自ら命を捨てる事はない…他のドラゴンと我はまったく違うぞ。他のドラゴンならばお前の力で倒すことができよう。ワードを手に入れたくないのか?」
おれの心は決まっている。すごく不思議な気持ちだった。
「あんたを倒して、おれはワードを手に入れる」
「愚かな…」
ドラゴンはつぶやき、一瞬の間のあと、ギラリと目を光らせ咆哮した!
部屋をびりびりと震わせるその咆哮におれは2.3歩下がった。だが武器を構えなおすと、エンシェントドラゴンに突進した。ドラゴンは軽く爪を振るってきた、おれはその攻撃を受け流すと、2本のバトルアックスを叩きつけた。だが硬いウロコにはじき返されてしまう。ずっと信頼してきた魔法のバトルアックスがまるで傷を負わせる事もできずはじき返された事におれは驚いた。同時に、ドラゴンも自分の攻撃を受け流し反撃してきたおれに驚いたように見えた。次の瞬間、ドラゴンはグオッと深く息を吸い込んだ。来る、とおれは身構えた。この距離で、おれには避ける事はできない。耐えるしかない。
放たれた冷気のドラゴンブレスがおれの体力を削ぎ落とし、意識と命の火が消えかけた。右手がすでに動かなくなっていたので、左手でポーションを出すとそれを飲んだ。体力が戻り身体も動くようになった。危なかった。
続いて、ドラゴンは本気で攻撃を始めた。おれの防御をかいくぐり、時にはおれの防御ごと叩き潰そうと振るわれる爪は、どれも致命傷になりうる恐るべきものだ。
戦闘が始まって数秒、おれは急に後悔した。そして避けられない死を予感した。いつの間にか、おれは逃げ道を探している。そもそも傲慢だったのだ、何万年も生きているような偉大なドラゴンに挑もうとする事自体がすでに…。そんなおれの弱気を見て取ってか、隙が出来たのか、ドラゴンは再びブレスを放った。
遠のく意識の中で、死の影に覆われていくような気がした…。
”死”
その時、何かがはじけたような気がした。おれは本能的にとどめの一撃を避けると、2本のバトルアックスで防御に専念した。
”生”
そして隙を見てポーションを飲み、今までの冒険で手に入れたあらゆる魔法の品物を発動させた。生き延びるために。
”生きる!負けない!”
心の底から、魂の奥から、何かが沸き上がってくる。気がついたとき、おれもまた咆哮を上げていた。身体に力がみなぎる。おれはその力をそのままバトルアックスにこめてドラゴンに叩きつけた。乱暴に何度も何度も。傷つけばポーションを飲み、防御呪文を張り巡らせ、攻撃魔法を発動させる。魔力の尽きた品物はそのまま放り投げた。
やがて、痛みと疲労感が戻ってきた。同時に冷静さも戻ってくる。おれはまだ生きて、戦っている自分に少し驚いた。体力を温存するために再び防御に専念し、ドラゴンを見た。どのくらい戦っていたのだろう、ドラゴンにも疲労感が見えた。ブレスはもはや放ってこないし、呪文も尽きたようだ。ところどころ鱗がへこんで、鱗の隙間から血を流していた。その時、鱗が剥がれ落ち肉がむき出しになっているところを見つけた。いつ付けた傷だろう…あの激情に駆られた時だったような気もするがはっきりしない。狙うならそこだ。スタミナなら負けねえ!
それからさらに数時間、おれたちは戦い続けていた。おれは防御に専念してポーションを飲んだり魔法の品物を使ったりしつつ、チャンスを見て鱗のないところを狙った。ドラゴンは大量の血を流していた。それに足を取られないように注意しなけりゃならない。おれも頭の芯が硬く凝り固まってしまったような感じがずっとしていて、時々めまいや頭痛に襲われた。体中が悲鳴を上げていたが、それを気にしていたら隙を見せてしまう。おれはそれらを無理やり無視した。
どのくらい経ったんだろう…。ついに、偉大なエンシェントドラゴンは倒れた。まるで耐え難い眠気に抵抗できず、眠りに落ちたように、ゆっくりと倒れ伏して大きく息を吐くと、そのまま動く事はなかった。
おれはドラゴンが倒れた事にも気がつかず、まだ少しの間、ドラゴンの血の海の中でバトルアックスを振り回していた…おそらく、とても奇妙な光景だったろう。そしておれにも限界が来て、血に足を滑らせてひっくり返ると、そのまま意識を失ってしまった。
意識が戻って、ドラゴンの血の海から立ち上がる。死にそうだ…でもそんな言葉が出てくるのなら、おそらく死にはしないんだろう。バトルアックスを拾う。1本は片方の刃が半分に折れていた。もう使えないかもしれない。
洞窟の壁際まで足を引きずって行って、火を起こし野営の準備をする。携帯食料を火であぶってから食べた後、横になった。その間ずっと、ドラゴンの死体を見ていた。
「生きてるのか…おれは。生きてるんだ」
そのまま眠りに落ちた。
目が覚めてから、エンシェントドラゴンの宝の山を探る。値がつきそうな宝石をいくつか拾って小袋に放り込む。全部は持ちきれないな、と物色していると魔法のバトルアックスが出てきた。軽く手に取って降ってみる。使えそうだ。それも荷物に突っ込んでからさらに探すと、箱がある。罠と鍵を解除して開けてみると、中にはワードが入ってた。
ワードを手に取り、小さく「ヘイドラリン」と呼びかけると、すぐにヘイドラリンの幻影が現れた。
現れたヘイドラリンはおれの有様を見て、少し顔を歪める。エンシェントドラゴンは、モーグリムを”あやつり人形”と言っていた。
「モラグとモーグリム…今回の事件の関係は?」
おれは気になっていた疑問を口にした。ヘイドラリンはワードを通してモラグの動きもある程度知っているはずだ。ヘイドラリンは答えた。
ソース・ストーンの中で目覚め始めたモラグは、モーグリムの心に少しずつ思念を送り、モーグリムの権力欲や支配欲を刺激し自分のために動く駒として操るようになった。モラグは微弱な力しか外に出せないから、もともとモーグリムの持っていたそれらの感情を上手く誘導したのだろう。そしてモーグリムは、モラグを崇め、復活を望むカルト集団を作り上げた。そうしているうちにモラグも徐々に力を発揮し始め、そしてあのネヴァーウィンターを襲った疫病が発生したのだ。
あの疫病は、モラグ覚醒の予兆なのだとヘイドラリンは言ったが、おそらくあれはソース・ストーンの周囲にいる他の種族や生き物を排除すると同時にその生命力を吸ってモラグの力とするものなのだろう。復活のための準備として。
「なら、ソースストーンは…」
おれの言葉をヘイドラリンが続けた。
「ネヴァーウィンターにある」
くそっ、どうして悪い予想ほど当たるのか。
「なぜ、先にそれを言わないんだ!」
おれはヘイドラリンの幻影に詰め寄った。ヘイドラリンは頭を軽く振った。
「最初に言っても、理解はできなかっただろう?それよりも問題が起こった。モーグリムが4つめのワードを手に入れた。4つめのワードは一番重要な役割を持ったワードだ。最悪の場合、その4つめのワード1つでもソースストーンを解放できるかもしれないものだ。急いでネヴァーウィンターに戻って欲しい。会って直接話がしたい。私もネヴァーウィンターへ行く。そこで会おう」
おれは急いでベオルンナズ・ウェルのアーリンの元に戻った。
「アーリン。ネヴァーウィンターを襲った一連の事件…カルトの真相がわかったんだ。それで…」
アーリンはおれの言葉を軽く手で遮った。
「その話は道中に聞こう、ブルード。ネヴァーウィンターが包囲された。援軍はおそらく間に合わないだろう。いますぐに戻らなければならない。お前も同行してほしい」
おれにとって全ての始まりはネヴァーウィンターだった。
そして全ての決着もまた、ネヴァーウィンターでつこうとしている。
おれ、アリベス、モラグ、ヘイドラリン、モーグリム、ワードとソースストーン…すべてがネヴァーウィンターに集まる時が迫っていた。