NWN冒険日誌
シングル:公式シナリオ/第1章
アカデミー襲撃事件の直後、俺はそのままフェンシックに教えられたとおりに街の中心部にある神殿に出向いた。
「来てくれたのか、ブルード・アイアンハンマー?」
フェンシックは俺の実力を買ってくれ、歓迎してくれたが隣のデスターは俺が襲撃者を手引きしたのではないかとか色々と疑ってくる。まあ、ここでこいつに一発お見舞いするのは簡単だが、フェンシックの顔を立てて我慢してやろう。場所も場所だしな…。
周囲には疫病患者が苦悶の声を上げている。早く治療薬を見つけ出さなければならない、と俺は心に決めた。
次にアリベスと再会する。アリベスは俺が生きていた事に安堵したように見えた。もし俺が死んでいたら、彼女は俺を死地に向かわせたと自分を責めるだろう…俺は少し、アリベスのその繊細さ・優しさが気になった。俺が今まで出会った事があるティールのパラディンは正義を行うに当たって多少人間性を失っているように見えたが、それゆえにパラディンなのだと思わせる…なんというか…安心感のようなものがあったからだ。
いや、この優しさを持ち合わせているからこそ、レディ・アリベスと讃えられるのだ…心配なぞ不要だ。
彼女からの依頼は2つ。
1つは4つの生物を取り戻すこと。
2つ目は…敵に関する情報を得たら報告すること、だ。
任務に当たって、神殿からの援助も得られるらしい。俺は準備を整えると外へと向かった。
「やあ、仲間は必要ない?」
神殿の出口で不意に声をかけられる。声の主を見ると、俺よりも小さい…ハーフリングがこちらを見ている。話を聞くと、どうやらローグらしい…というかローグでないハーフリングにはお目にかかった事はないが…街に閉じ込められて退屈しているようだ。トミ・アンダーギャロウズと名乗ったそいつの話によれば(そして信用するならば)、腕は確かなようだが、どうも厄介ごとの匂いがする…しかし探索にあたってローグの技は必要不可欠に思えた俺は、トミを雇う事にした。
「で、どんな任務なんだい?」
と、問われたがまだ会って間もないハーフリングにすべて話すほどマヌケじゃねぇ。
「秘密の任務なんだ」
そう答えるとトミは、
「ふーん…レディ・アリベスの秘密の任務ってわけだ!楽しそうだね!」
…俺はアリベスの名前は一度も出しちゃいないんだが…腕は信用できそうだが、自分の財布に今以上に気をつける必要がありそうだ。
トミと共に街に出た俺は、改めて街の惨状に驚かされる。かろうじて秩序を保っているのは今いる中央区だけで、他は疫病が引き金になったと思われるなにかしらの騒動によって閉鎖された状態になっていた。
衛兵に声をかけ、アリベス配下の兵だと告げて扉を開けてもらう…。
街のそれぞれの地区は、監獄破りで無法地帯になっていたりアンデットどもが徘徊していたりシーフギルドの抗争があったりと散々な状態だった。生き物を探す課程でそれらの事件とも深くかかわる羽目になっちまった俺たちだが、なんとか切り抜け(失敗ももちろんあったけど!)生き物を取り戻して行った。
俺が生き物を回収するたびに、アリベスは喜び、俺の実力を認め、名誉を授けてくれたが同時に敵にも認められるようになっちまった。まぁ、返り討ちにして逆に敵の尻尾を掴めたわけだが、命を狙われるってのは良い気分じゃねぇのは確かだな。
まぁ、そんなこんなで大変な目に遭いながらも、俺達はなんとか4つの生物を取り戻す事ができた。
「あなたは私達の想像以上の働きを見せてくれました!ブルード!早速治療薬を完成させる儀式を始めましょう。あなたもそれを見届ける権利があります。あなたがいなかったら、儀式は出来なかったのだから!」
やっと、アリベスの顔に輝きが戻った。俺も、自分の仕事の結果に満足したし、アリベスの言葉でその成果がどれほど大きいものかやっと実感できた気がする…!
儀式は城で行われるらしい。俺達は身なりもそのままに城へと向かった。
儀式の場に到着すると、今にも儀式が行われようとしていた。アリベスにフェンシック、ネヴァーウィンターの君主ナッシャー・アラゴンダーの姿も見える。そしてデスターとヘルムの司祭達…儀式に向けていやがおうにも緊張は高まっていたし、その結果への期待に膨らんでいた胸の中に、一抹の不安がよぎる…デスターの姿を目にしてから…なぜだ??
やがて儀式が始まった。
神官たちが精神を集中させ、呪文を唱えるとたくさんの光が一点に集中していく…。
そのまぶしい光を見ている間、俺はどんどん不安が大きくなるのを感じていた。もはや、喜びとか期待と言ったものは俺の心の中には全く残っていない…なぜだ…
デスターは嫌な野郎だが、それは自分の職務に忠実なだけだ。街の人々の希望を守ろうと必死になっていた結果、自分の良く知らない人間(ドワーフだが)、例えば俺などに疑いかかってしまったのだ…
本当に?
街のいたるところにヘルムの司祭がいた。彼らは疫病におびえる街の人々に祝福を与えて、それが疫病にはなんら効果はなかったのだが、人々の心には良い効果があった…
本当に?
そういえば、今この場にはヘルムの司祭のほうが多いな…街の人々についていてやるべきだと思うんだが…ヘルムの司祭がこんな事を言っていたっけな…
「ヘルムとデスター様に忠誠を誓う」
「デスター様の命令に従う」
神に仕える司祭が、自分の神と同列に並べるのか?デスターを!?
突然、不安がはっきりとしたものに変わった。
なんてこった!今この場にはヘルムの司祭…いや、デスターの配下の人間のほうが多いのか!!
「薬が完成した!」
アリベスの声、俺はすでにデスターに向かって駆け出している。
「ご苦労な事だな!」
デスターは薬をひったくり、短く呪文を唱えポータルを出現させると(おそらく、すでに準備されていたのだろう)ポータルに飛び込んだ!
それと同時にヘルムの司祭…いや、もうよそう…デスターの配下は周囲の者に斬りかかる。俺の前にも一人、邪魔だ!
「待てデスター!どういうことなんだこれは…嘘だと…嘘だと言ってくれ!」
良くは聞き取れないが、フェンシックのそんな声が聞こえたような気がした。そしてフェンシックの姿もポータルに消えた。
「このポータルは…なんとか維持してみせる……ブルード!みんなを守って!!」
アリベスの叫び声が聞こえた。ポータルに突進していた俺は少し冷静さを取り戻してあたりを見る。この場にはデスターの配下以外にもティールの神官などがいるのだ。無防備なままで。
「くそおおお!」
叫びか雄叫びか良くわからないまま叫んだ俺は、デスターの配下を斬り倒して回る。一番離れた場所にいたティールの神官を一人犠牲にしちまった…。
俺はポータルに集中しているアリベスの元に駆け寄る。
「このポータルは長くは維持できない…ブルード、このポータルであの裏切り者たちを…追いかけて…薬を取り戻して」
アリベスが苦渋に満ちた顔で、続ける。
「フェンシックは…いつもデスターと共に行動していた…いえ、何かの間違いよ、彼が裏切り者だなんてそんな…」
「アリベス…フェンシックは裏切り者じゃない。きっとデスターに奪われた治療薬を取り戻そうとやつを…」
俺の言葉は、ロード・ナッシャーの言葉にさえぎられた。
「ブルードとか申したな?裏切り者のフェンシックとデスターを捕らえて治療薬を取り戻せ!」
くそっ…だが今は治療薬が最優先だ。俺はポータルへと飛び込んだ。
ポータルを抜けると、そこはどこかの建物の中だった。おそらくデスター一味のアジトだろう。配下のやつらを見つけては俺は先んじて襲い掛かった。こいつらは許してはおけない…皆殺しにしてやる!
敵の血の海の中で、いくつかの手紙を見つけた。それによると、どうやらデスターに指示を出していた別のやつがいるらしい。そして、そいつはデスターを見放した。やつが失敗したからではない、役目はもう終わったからだ。やつがこの建物に立て籠もった事も、時間稼ぎになるだろうという見込みだったようだ。すべてはそいつの計画通り…すべての人々がそいつの手のひらの上で踊っていただけだったわけだ!
俺は鍵のかかった扉を、トミが開けるのもまたずに蹴りあけ、部屋の中の人影に襲い掛かった!だが、寸前で斧を止める。
「ブルード…私は殺されても文句は言えない…デスターは裏切り者だったんだ!」
「フェンシック…お前が裏切り者じゃないとアリベスは信じている」
ひどく憔悴したフェンシックがそこにいた。俺は獲物を持った手を下ろす。
「私は裏切り者じゃない…いや、私も裏切り者だ!デスターを信じたかったんだ、彼と一緒にいて、彼には怪しむべき所がたくさんあったのに、裏切りの可能性に気がついていたのに、私は彼を信じようと…それらを必死に否定してきた。彼を信じ、擁護する事で私はたくさんの人々を裏切り続けていたんだ!疫病で苦しみ死んで行った人たちにどんな償いをすれば?私を殺してくれブルード、裏切り者として…」
俺は、すすり泣き崩れ落ちたフェンシックをそのままに部屋を出た。かけてやる言葉も見つからないが、真実を話す機会が彼には与えられるべきだ。だが…デスター、やつは生かしておくものか。
一番奥の部屋にデスターはいた。
やつは自分に指示を出していたやつに見捨てられ、自分のしたことをすべて白状した。疫病を長引かせるのがデスターの役目だったのだ。
「お前の背後にいる黒幕の名前は?何者だ?」
俺は問う。
「その名を話せば、おれは死してなお苦しむ事になるだろう…けっきょく、ここでおれがお前と戦うのもやつらの計画のうちさ…時間稼ぎのためのな。なら、おれは死ぬまでその役目を果たしてやる!」
デスターは言い終わると呪文を唱え始めた。やらせるものか、俺はすばやく距離を詰めると体重を乗せてやつを打ち倒した。デスターはたまらず床にひっくり返る。だが、武器そのものはやつの体に届いていない。なんだ!?
俺は近寄ってくるスケルトンをなぎ払いながらデスターを床に押さえつける。その時、トミがデスターを囲むように距離を保ち続けているスケルトンメイジを一体破壊した。デスターの身を守る魔力が少し弱くなる。
そういうことか!
やつは準備万端だったわけだ。俺は起き上がったデスターをそのままにスケルトンメイジを破壊して回る。デスターはそんな俺を止めようと狂ったように殴りかかってくるが、殴らせておいた。そして最後のメイジを倒すとデスターに向き直る。これでやつを守る魔法の障壁はもうない。怒りの咆哮と共に殴りかかる俺を止める力はデスターにはなかった…。
「ヒュー!ブルード、あんた岩みたいに頑丈だね」
トミが近づいてきた。俺はデスターの血でまみれた治療薬の瓶を拾い上げると、儀式の場に帰還した。戦いには勝利したが、決して晴れやかな気分ではなかった。