NWN冒険日誌
シングル:公式シナリオ/プロローグ


 俺の名はブルード・アイアンハンマー。人間とか他の種族から見れば俺たちドワーフの年齢はわかりにくいそうだから、良くおっさん扱いをされるがアイアンハンマー一族(といっても現在は正確に言えば”一家”だ。親父が子供の頃はなんちゃらとか言う鉱山の主だったそうだが、俺が生まれる前の話だ)ではまだ若造扱いをされている。それにはちょっとばかし不満があるが実際に若いのだから仕方がない。


 俺は今、ソードコーストの北、ネヴァーウィンターの街にあるアカデミーという所でやっかいになっている。どうして家族の下を離れたか、どうやってこの街まで来たのかはまた別の機会に話すとして、アカデミーに入る事になった経緯は話しておこう。といっても、複雑な話じゃあない。


 ネヴァーウィンターにやってきた俺は、街の様子に驚きつつも(話に聞いていたのとはちょっと様子が違ったからだ)トレード・オブ・ブレードっつう宿屋に部屋を取ったんだが次の日の朝、アカデミーからの使者とやらが俺を訪ねてきた。なんでも俺をスカウトに来たらしい。
 アカデミーというのはさまざまな技能(戦闘や魔術も含む)を教えてくれる所で、大きな街には似たような施設や組織があるもんだが、ここネヴァーウィンターのは本格的だ。まぁ、冒険者の街と言われる事もある街だからそんなに不思議でもないな。
 俺としては渡りに船、もちろんお招きにあずかった。旅暮らしに役に立つ技能をただで教えてもらえるチャンスをみすみす逃がすようなやつはいないだろ?
 それにもちろん、飯と部屋ももらえるって話だしな!
 名指しで指名ってのを怪しく思わなかったわけじゃねぇけど、ここで引き下がるようならわざわざ故郷を出て来た意味もない。それに俺はまだまだ運命ってやつを信じてるんでね。


 ま、そんなわけでアカデミーのやっかいになってるんだが、訓練課程もそろそろ修了らしい。
 他の訓練生との話で聞いた所によると、今この街は特殊な疫病に襲われて大変な事になっているようだ。どうりで街の様子がおかしかったわけだ。おれがアカデミーにいる間にも被害は広がって、今じゃあ街は閉鎖状態。この混乱に乗じて大騒ぎを始めたバカどももいるようだ。
 今にして思えば、街に入るとき衛兵と話をしたがそいつから俺の名前と宿がアカデミーのほうに伝わったのかもしれない。大幅に人員を必要としているようだし、おれがそのバカどもとまったくの無関係か(もしくは、まったくの無関係でいられるかどうか)わからんしな。抱え込んじまったほうがうまい手だと思ったのかもしれねえ。


 訓練課程の修了試験を受けて俺は見事合格。これであの気にくわない教官”殿”ともおさらばできるってわけだ。最後にはレディ・アリベスとの面会が待っている。
 レディ・アリベス!
 ソードコースト北部じゃ、ちょっとした有名人で俺ですらその名は聞いた事がある、ティールに仕える正義のパラディン。評判の良い人物っていうのは大抵怪しいもんだが、実際に会ってみた彼女は評判通りの人物のようだ。苦しむ民のために悩む彼女を見ていると、一働きしても良い気分になってくる。そもそも俺をここに招いたのは彼女の進言もあったようだし、軽く恩返ししてもいいだろう…


 俺がそんな事を考えていた瞬間、周囲に光の柱が立った!
 「襲撃よ!」
 アリベスが叫ぶ。
 訓練を終えた直後で、相棒の二振りのバトルアックスをそれぞれ両手に持っていた俺はすぐさま近くの襲撃者を切り伏せると、苦戦していそうな神官を援護する。アリベスは心配いらないだろう。
 敵を片付け終わると、やはり傷一つなくアリベスが立っていたが、その表情は平静ではなかった。
 彼女は、ここアカデミーに疫病の治療薬の元となる4つの生物が保護されていた事を教えてくれた。そして敵の狙いはおそらくそれだろう、と。
 「生物は奥に保護されています!私はおそらく魔法で見張られている…敵を生物の場所にまで案内するつもりはありません。あなたに生物を守ってもらいたいのです」
 アリベスの依頼を断る理由はないし、疫病に苦しむ人々の希望を奪うような真似も俺にはできない。俺はすぐさま駆け出した。


 アカデミー内部にもかなりの敵が侵入していて、ひどい有様だったが、俺は敵をなぎ倒しつつ奥へと向かう。俺がちょうど生物の元にたどり着いた時、生物たちが逃げ出す瞬間だった。すぐに追いかけたかったが、侵入者もそこにいて俺に襲い掛かってきた!


 侵入者を撃退したところに、一足遅い援軍がご到着。フェンシックというティールの神官とデスターというヘルムの神官だ。彼らに事情を説明すると、フェンシックから続けてアリベスの手助けをして欲しいと頼まれる。
 どうも口ぶりからして、このフェンシックという神官とアリベスは信頼とか愛とかそういう絆で結ばれているらしい…。俺は嫌味なデスターは無視して、フェンシックの申し出を受ける事にした。アリベスのためというよりも、自分が生物を守りきれなかった事への責任感と、おそらくは、自分の力が善の勢力に貢献できる事への期待から…。


 …しかし、俺はこの時に気がつくべきだったのかもしれない。あのタイミングにフェンシックとデスターが現れた事、そしてデスターが明らかに俺を邪魔者扱いしている事の意味に…


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