「月」
ヘルシグ邸の屋根に登りセラスは一人月を見ていた、今夜の月は触れればその指が切れそうなほど細く輝いている
「綺麗だなー」
そう呟いて空に手を伸ばし、細い月を指先でなぞる様に動かす
「何を見ている?」
唐突に後ろから声を掛けられ振り向く、其処には自らの主がもうずっと前から居たかの様に佇んでいた
「あ、マスター・・・月を見ていました」
そう言って視線を月に戻す
「そうか」
特に何の感情を示す風でもなく、アーカードはその場を動かずセラスの答えを受け入れる
「あ、何か御用ですか?出動とか、インテグラ様に呼ばれているとか」
双方どちらであっても、こんな所でのんびりしている場合ではないので慌てて振り向き主を見る、すると、アーカードはゆっくりと歩いてセラスの横に立ち
「何も無い、唯、お前がココで何をしているか気になった、それだけだ」
そう言って先ほどセラスが見上げていた月を見る
「そう・・ですか」
自分の事を気にしてココまで来てくれた事を嬉しく思いながら、アーカードと同じ様に月を見る
「セラス、お前はあの月を見て何を思う?」
「え?」
いきなりの質問に一瞬キョトンとなる、普段なら自分の思いなどに興味も持たないアーカードが“何を思う?”と聞いてくるのだ、何かのテストだろうかとも思ったが主の横顔からは何も読み取れない、暫くの沈黙の後、セラスは静かに口を開いた。
「綺麗だなーと、でも、少し悲しくもなります」
「ほう、月を見て悲しくなるのかお前は、何故だ?」
何時もなら、「そんな物は人間の感傷に過ぎん、だからお前は“半端者”なのだ」とにべも無く言い放つはずなのに、今日のマスターは・・・なんだろう?気にしてくれている?私の事を?
でも、何でだろう?
「どうした?私には話せぬほど心に秘めた思いか?」
その言葉にハッと我に返る、答えを言わずに唯黙っている事に気付き怒らせたのではないだろうかとアーカードを見る、けれどその顔には怒りや苛立ちはおろか嘲りの表情も無い、しかし、唯単に答えを待っているにしては、余りにも優しい表情が浮かんでいる。
「あ、あの、月って何時も夜空に浮かんでますけど、“朔の日”って言うんでしたっけ何処かの国では月の見えない日の事を、それが悲しいんです、あの、私・・マスターの事を「月」みたいだなーって思ってるんです、絶対に届かないけど何時も見てくれてるじゃないですか、えっとそれで月が見えなくなるのは陰だって事は判ってますし、又見れる事も判ってます、けど、マスターは・・・」
其処まで言って俯く、月は見えなくなっても無くならないし又見える、けどマスターは、“見えなくなったら”そのこと考えると、どうしようもなく悲しくなって話せなくなる。
「見えなくなったら、もう二度と見えない・・・か?」
言えない言葉を言い当てられて、セラスはアーカードを見上げて、黙ってゆっくりと頷く、それを見たアーカードはゆっくりとセラスの後ろに回り、マントでセラスを包み込むように抱きしめた
「あ」
「セラス、月が見えなくなるのは陰のせいだと言ったな、では、私を覆い隠せる程の影を持つ者はこの世に、そしてお前の心に居るか?」
そんな人物が居るはずも無い、しかし、セラスが不安なのはそれほどのモノが現れる事ではなくアーカードが自分を置いて何処かに去ってしまう事だった
「そんな人は居ません、私が不安なのは・・・・」
しかし、それを言える筈も無く唯黙って俯く事しか出来ない自分が惨めで、情けなく
アーカードに抱き締められて嬉しいはずなのに、それが一時の夢の様に感じられ、眼に涙が浮かぶ、そこへアーカードの手が伸びゆっくりと拭う、そしてそのままセラスの顔を包み込み自分の方に向かせるとキスをしそして呟く
「それでも尚、お前が不安なのなら私は、お前の上で永遠に輝く満月となろう」
アーカード優しすぎかな?
こんな感じですが宜しいでしょうか?魔獣さん