少佐の趣味
 
何の事はない新人の追跡訓練を終えて九課に戻ってみると、他の皆は出ているらしくオフィスは物音一つしない。
 
「なんでぇ、俺一人か」
 
何となく言葉を発した次の瞬間
 
「勝手に人の存在を消さないでくれるかしら」
 
俺の真下で声がした、見ると階段の直ぐ横に備え付けられた椅子に少佐が座っていた、手には文庫本を持っている、音がしない訳だ。
 
「もし私が敵だったならば貴方は今頃“蜂の巣”ね」
「ココに忍び込む技術と度胸を持った奴はそうザラはいねぇーよ」
「その“ザラ”に私は入ってるのよ?」
「ふぅ、判りました、以後気を付けます少佐殿」
 
俺の答えを無視して、少佐は本に目を戻した、俺が前に回って音を立てて座ってもこっちを見ようともしない、そう言えば本を読んでいる少佐を見るのは久しぶりだ、何時もなら報告書かパソコンとニラメッコしてるんだがな、でも本を読んでいるのは単なる暇つぶしだろうな、たまにはノンビリすりゃあいいのに・・・そう言やあ、ふと思い出した事を直接には言えず、遠回しに聞いてみる。
 
「なぁ、少佐、まだアレ続けてんのか?」
「何を指しているか判らないわ」
「ああ、いや、ダイビングだよ」
 
俺も何度か付き合った事のある、少佐は思い出したように「ああ」と言って顔を上げた
 
「最近行って無いわね、仕事もあったし」
「潜ろうとは思わねーのか?」
「私の目的は“潜る”ではなく“浮く”事よ」
 
若干の訂正を受けて、俺は両手を挙げてかぶりを振った
 
「そうだったな、確か、希望、水面に浮かんだ時、別の自分になれるんじゃないかって」
「よく覚えてるわね」
「フッ、まあな、今でもそれはあるのか?お前を制約するものから逃れたいって気持ちは」
 
今、少佐の顔は俺の方を向いてはいるが眼は俺を見ていない、いや、何も見ていないと言った方が近いかもしれない、多分、俺の質問の答えではなく、自分自身の事を考えているのだろう、ダイビングをしていた頃の自分と今の自分で何が変わったのか、義体は変えて無い、しかし、生活環境、対人関係、自らの言動、そして目覚めの時に見つめる掌、日常の何気無い事であってもそれらは自分と他人を確立するものだと考えている少佐、今のオマエはあの時と何か変わったのか?
 
「今は無いわ、でも、制約されているのも事実、私が私で居る限りはずっとそうでしょう、でも」
「でも?」
「もう、潜る必要はないかも」
「何故だ?」
「休暇はくるたんやランちゃんにあげちゃうし」
「は?」
「それに、私がどんな所に行っても必死になって付いてくる何処かの誰かさんが居るせいで、そんな事考える暇も無いわ」
「なっ」
 
何言ってやがる、そう言おうとした所だった
 
「ここに居たか少佐、以前からマークしとった奴が動き出したぞ!」
「あの隠居のジイサンか?」
「そうだ、イシカワに探らせているが国外逃亡の可能性が高い、今を逃せばもうチャンスは無い、バトー、暇そうだな少佐と共に確保しに行け、タチコマも一機連れて行ってかまわん」
「了解、行くぞバトー!」
「おう!」
 
さっきまでの眼とはうって変わってシッカリと前を見据えてやがる、これならダイビングをする必要はねぇな、ま、何処に行ってもトコトン付いて行ってやるよ!

こんな感じになりました、ご希望の内容と違うかもしれませんが「趣味」と言うとこれしか思い付かなかったんです(^^;)