初めて
ヘルシング邸局長室、時刻24:36PM
「アーカード聞いても良いか?」
「何かね、我が主?」
聞かれる事を予期していたのであろう、窓から見える月を見ながら答える

「・・・まだ、寝ているのか?」
「起きて来ない所を見るとそうなのだろう」
表面上では判らないが、伊達に何十年も従僕として扱って来たのではない、内心あきれ果てているのが判る
「まあまあ、『寝る子は育つ』て言うじゃない」
壁に寄り掛かりながら、多分ボケたつもりなのであろう、ゾーリンが煙を吐きながら今しがた部屋に入ってきたウォルターに手で挨拶をする、何かに付けて話しかけて居る所を見ると老執事が気に入ったのであろう
「それは人間の話ですわ」
短く突っ込みながら、ソファーからリップヴァーンがウォルターを見上げる、こちらの目当てはお茶だ、ダージリンが好みらしい
「そうですね、それに『子供』と言うには少しお年を召されているかと」

お茶の支度をしながらウォルターも突っ込みを入れる、それらに満足したのか、肩を竦めながらソファーに近づきドカッと腰を下ろす
「で、どうなの本当の所」
と、天井を見るようにしてアーカードを見ながら聞く
「判らん」
短いが其れが事実なのであろう、沈黙が続く
「起こさんのか?」
「起こす理由は在るのかね、我が主」
「質問に答えろ」
「何分、私が下僕を持つのは婦警が初めてなものでね、正直起こして良いものか迷っている」
「な、迷っている?お前がかアーカード!?」
これにはウォルターもそして仲良くお茶を楽しんでいた二人も目を丸くして驚きを隠せないで居た、迷う?この男が?人間を、夜族を、微塵の躊躇も一切の後悔も無く殲滅する力をもつこの男「不死の王」がたった一人の自らの下僕にどう対処していいか迷っているだと?
「その通りだ我が主、一度覚醒しているのでその反動だという目星は付いているが、その程度でココまで眠りに落ちるとも思えん、これに関してはその二人の方が詳しいかもしれんな」
そう言いながら、ソファーに座っている二人を見てニヤリと笑う、当の二人はこの上ない嫌悪感を露にしている
「ふん、下僕一人満足に扱えぬ貴様に言われたくないね」
「そうですわ、今はココにコウしてますけれど時が来たならば・・」
「ほう、来たならばどうする?又私とやるか、猟師?最もその前にインテグラが私の中に戻させるだろうがな」
“戻る”その言葉を聞いた瞬間、二人の顔が怒りとも憎しみとも取れる表情で睨んだが睨まれたの本人は嘲る様に笑みを深くするだけかと思ったが、何か引っかかったらしい、少し考えている
「“その時”か・・・成る程、やはりまだ半端者だな」
そう言うと、一人だけ納得した顔で部屋を出ようと壁に向かい一歩下がる
「待て、何処へ行く?」
「婦警を起こして来る、説明はそれからで宜しいかな?」
「良いだろう」
許可を得ると丁寧に礼を取りながら壁を通り抜けて行った

― 地下 ―
薄暗い地下の一番奥の部屋、其処に置かれている漆黒の棺
本来ならアーカードが横たわる筈のその棺に横たわっているのはアーカード唯一の下僕、セラス・ヴィクトリアであった、無論セラスにも棺は用意されて居るのだが、「眠れない」・「不安で」・「心細くて」など吸血鬼に似つかわしくない事を時々言ってはアーカードと共に眠る許しを得ているのであった
「・・・」
安らかでは在るが何処か不安げな寝顔を見て目を細めそっと髪を撫でる、するとセラスに顔に出ていた不安は無くなり、まるで母に抱かれ眠る赤子の様な寝顔になる、しばらくそうしていると、ふいにアーカードは自分が余りにも似つかわしくない顔をしている事に気付く
「ふん」
少し苛立った様な反応で誘ってみるが起きる気配は全く無い
「・・・起きろ」
言葉と同時に“氣”を送る
ビクッウゥ!
安らいでいたのもつかの間、アーカードに氣を送られ弾ける様に身を起こして部屋を見渡すセラス、そして横に立っている人物に気付きオズオズと顔を上げる
「あ、えーと、おは「こんにちはお嬢さん、よく眠って居たようだな」
挨拶を遮られると同時に自分が人間で言えば昼過ぎまで眠って居た事に気付き更に申し訳なさそうな顔をする
「ス、スミマセン」
「起きたのなら早くインテグラの所へ行け、私は先に行っている」
え?と声を出そうとして顔を上げるが其処に主の姿は無く、僅かに余韻が残っているだけだった
「何だろう?出動かな?でもそれならマスターはもっと違う言い方するし・・って、はっ!、早く行かなきゃ!」
インテグラを待たせている事にようやく気付き棺から出てドアへ、こんな時マスターみたいに移動で来たらなーと考えつつ廊下を走る、その途中、でもインテグラ様は余り良い顔しないだろーなーとも考えつつ局長室を目指す
― 局長室 ―
「起きたのか?」
不意に壁から出て来たアーカードに目を向ける事無く聞く
「起きた、もう直ぐ来るだろう」
それを気にする事無く答える
「そう言えば、セラスもそれが出来るのか?セラスまで壁をすり抜けれて来られるとこちらとしてもどんな顔をして良いのか判らん」
余り良い顔は出来ないと言った表情でアーカードを見る
「今はまだ出来ないが、いずれは出来る様になるだろう、その時「する」・「しない」は本人の好み次第だが」
「そうか」
「まだ出来ない」という言葉とセラスならしないだろうと言う思いからか安堵の表情で書類に目を戻そうとしたその時、廊下を慌ただしく走る音が聞こえ
ガチャ!
「お、遅くなりました!
先手必勝とばかりの勢いでドアを開けると同時に謝るセラス
其れに、アーカード以外の一同全員が含み笑いをしながら銘々挨拶を返す
「お早う御座います、と言うよりも、こんにちはで御座いますな、良く眠っていたようで、コーヒーでもお入れいたしましょうか?」
丁寧に礼をしながらも、務めを果たす老執事ウォルター、しかし、先のゾーリンとの会話を考えると「自己ボケ・ツッコミ」とも取れなくも無い。
「あ、スミマセンお願いします」
「ふふっ、御髪が乱れてますわよ?これをどうぞセラスさん」
「髪なんて手グシで十分だよ、しっかし、又派手だねーどんな格好で寝てたんだい?」
確かに二人の言う通りセラスの髪はひどい寝癖でチョットやソットでは治りそうに無い
「う、そんなにヒドイデスか・・・」
リップ・ヴァーンから渡された櫛で髪を手早く梳かして返したが、元々くせっ毛のある髪は殆ど治ってない
「そう焦らなくても良い、特にコレといった問題も起きてない」
「え?で、でもマスターがインテグラ様が呼んでるって」
呆気に取られた表情でアーカードの方を見る
「私は「行け」と言っただけだ「呼んでる」と言った覚えは無い」
「あう・・・」
「そう落胆する事は無いセラス、お前を待っていた事には変わりは無いのだからな、アーカード」
しょげたセラスを宥めてアーカードに説明するよう促す
「その前に、セラス、眠っている間「夢」は見るか?」
全く関係の無い様に思われる質問に、現状すら把握出来ていないセラスはキョトンとしている、他の一同ですら“大丈夫か?”と言う視線を発言者に送っているが当の本人は至って真面目な顔をしているので、結果的にそれはそのままセラスに注がれる事になり、部屋に居る自分以外の全ての人物に同じ様な視線を浴びているセラスは、何の説明もなされないまま質問に答えるしかなかった
「ええと、ハイ見ます」
「内容を覚えているか?」
「一面紅色の・・・何だろう・・水面?に浮いてるんですけど次第にユックリ沈んで行くんです、でも恐怖とかは無くて、むしろ心地良い感じで」
「毎日か」
「はい、ココの所毎日
「どの辺まで沈む」
「判りません、底があるのかすら判らないほど深いんです」
「だが、深い事は判るのだな」
「はい・・・」
その後、幾つかの質問とその答えを聞いている内に、まるでカウンセリングだなとインテグラは思った、それは傍観者全員が思った事だろうとも、そしてどうやらそれも終わった様だ
「成る程、矢張りお前は半端者だな」
「な、何でそうなるんですかマスター!」
「では説明してやろう、今のお前は力は有り余っているが、ソレを使いこなせて居ない、本来なら放出されるべき力がその身体に溜まっているのだ、以前ならば血を吸わない事で弱った身体を維持する為に使われていたがソレも血を吸う事で解決している、今行き場を失った力はお前を取り込みどうにか放出されようとしている、その状態が夢と言う形で現れたのだろう」
「ち、力が・・私を?」
「夢の中の紅い水面から底に着いた時、力は放出される」
「それで?力が放出されるのは良しとして、具体的にはどうなるんだい?」
カウンセリングを退屈そうに聞いていたゾーリンだが力の放出と耳にして身を乗り出して聞いた、その眼にはある考えがありありと浮かんでいるすなわち
“面白い事が起こりそうだ”
である。
「半端者の溜め込んだ力などたかが知れている、もって1日だろうが、この私の力が暴走するのだ、こんな小さな島国の人間など一日もあれば全てグールか吸血鬼と化すだろうな」
“私の力が暴走する”その言葉を聞いたその場の全員(一名除く)が言葉を失った、ゾーリンの眼にも絶望の二文字が見て取れる
(ふむ、困りましたな、かくなる上は御嬢様だけでも国外へお逃げ頂かなくては・・・)
(冗談では在りませんわ、この島の人間など幾ら犠牲になっても構いませんけど、私は又あんなのに取り込まれるのは御辞退申し上げますわ)
(困ったね、どうも・・・確かに面白そうだけど、こっちまで被害を受けちまう)
(まるで零号の無制限発動ではないか、冗談ではない!)
(ハ・ハハ・・ハハハ〜・・)
皆が皆、思想の迷路に嵌っている中、唯一の例外であるアーカードは壁に寄り添い涼しげな表情で一同を見ている、見様によっては我関せず、しかし、一方では次に皆がどう行動するのかを楽しみにしているかの様である、しかしそれは、いち早く思想の迷路から抜け出したインテグラが発した一言で終わりを告げる
「何とかしろアーカード」
「ふん」
「今のお前には一番詰らん反応だろうが、私にはコレが精一杯の反応だ、相手がソコラのクソ吸血鬼やソレれに関る人間ならば喰い尽くし・叩き潰し・一切合切塵にしろ!と言うだろう、しかし、相手がセラスであっては私は対処出来ない」
「くくくくっ、成る程、了解した我が主、今回は“敵”では無いからな、ふむ、ではどうしろと言われる?」
「一番、破壊的ではない方法は?」
「スイカで御座いましょうな」
「・・・何だと?」
それまで沈黙を保っていてウォルターが回答を出したが、余りに現状を理解していない様に思われる言葉にインテグラは思考が止まりそうになった。
「お忘れで御座いますか、御嬢様?「ウォーター・メロン」即ち“スイカ”もまた蝙蝠・猫と並ぶ吸血鬼の使い魔で御座います、先程のアーカード様の説明によればセラス譲は力が溜まり今は安定しているものの、いつ暴走するか判らない危険な状態、では今のうちに力を使ってしまえば問題は無い筈、その一番の方法としては本人が使うのが好ましい、ですがセラス譲はそれをなさらない、かと言って血をお召しになるなというのは酷で御座いましょう、ならば使い魔を使うしか御座いません、その中で一番破壊的でない使い魔と言えばウォーター・メロンしか御座いません、無論、アーカード様が使い魔として所有していればの話ですが」
冷静な表情でたんたんと説明し回答を促すウォルター
「無い、が直ぐ用意出来る・・・」
「それは何より」
「ウォーター・メロンの実質的な破壊力は・・・どうした、アーカード?」
対照的に嫌悪感を滲ませるアーカード
「確かにウォーター・メロンならば破壊的な事は起きないだろう、しかし、その方法を使うと言うのならば私はその後24時間この屋敷を離れる許可を頂きたい」
「私も頂きたいですわ」
「アタシもだ」
「何故だ?何か問題でもあるのか?」
「「「眠れ(ん・ませんわ・ない)」」」
この三人はハモるとは!
「吸血鬼の力は知っているはずだ、例え自分の氣であってもそれが徐々に巨大になっては気にしない訳にもいかん」
「成る程な、では許可しよう」
「感謝する我が主」
―明け方近く―
「マスター、本当に行っちゃうんですか?」
「其れ程までに私の眠りを妨げたいか婦警?」
「い、いえ、いやでも、使い魔に何か起きた時に困るんじゃあ」
「何か起きなければお前の力は減らん」
「う・・そうでした・・・あの、マスター、スイカの使い魔ってどんなのですか?」
答える代わりにアーカードは視線を下に向ける、セラスもそれに釣られて下を向く
「・・・コレデスカ」
「他に何か在るか」
二人の足元には少し大きめのスイカが一つ転がっていた
「何か、フツーにスイカですね」
「当然だつい先程ウォルターに届けさせたスイカだからな」
「へ?」
「私が何の破壊力も持たない使い魔を所有する筈が無いだろう、コレをお前の眠っている棺の横に置いておけば後は勝手に魔力を吸収し魔物に変化する」
「あの、具体的に何をするんですかコレは?」
「転がる」
「それだけですか」
「それだけだ、話は済んだか?済んだのであれば棺に入れ私も移動しなければならん」
「あ、はい、それではお休みなさいマスター」
棺が閉じて暫くすると中から規則正しい寝息が聞こえて来た、それを確認すると忌々しそうにスイカを一瞥しアーカードは闇に溶けた
―1時間前―
「じゃあ、私達は先に出させてもらうよ」
「いいだろう」
「それでは御機嫌よう、明日会えるのを楽しみにしておりますわ、ヘルシング卿」
「気味が悪い事を言うな、さっさと出て行け!」
執務室の窓から屋敷を出て行く二人を見ながらインテグラは安堵の表情を浮かべた
「一日とは言え厄介者が居なくなるのは気が休まるな、ウォルターお茶をくれ」
「かしこまりました」
一方、二人は
「しっかし、まあ、屋敷の中でウォーター・メロンとはねー、あの執事ももう少し頭が良いと思ったんだけど」
「仕方ありませんわ、吸血鬼の中にも知らない者が居るのですから、知っているだけでも関心ですわ」
「言えてる、そう言えば使った事あるかい?」
「ウォーター・メロンですか?とんでもない!」
「だろうね、ま、今夜あの屋敷でグッスリ眠れるのはあの御譲ちゃんだけだろうね」
「そうですわね、これからどうします?」
「任せるよ」
「判りましたわ」
昼間は何事も無く過ぎ、夕方になりやがて星が瞬く
「御嬢様、そろそろ御休みになりませんと御身体に障ります」
「ん?ああ、もうこんな時間か、そうだなでは、一息付いてから休むとしよう」
「かしこまりました、シロルの特級茶で宜しいですか?」
「ああ、頼む」
程なくしてティーセットが運び込まれ、シロルの香りが部屋に立ち上る
「何時もながら良い手前だウォルター」
「ありがとう御座います」
シロルの香りが部屋全体に満ちた頃、窓の外には白く淡く輝く月が昇っていた
「今夜も良い月だ、このまま何事も無ければ良く眠れそうだ」
「左様で御座いますな・・おや?」
「どうした?」
「いえ、何か聞こえた様な気がしましたが、空耳の様ですな」
「疲れて居るのだろう、私も、もう休む、お前も休め」
「そうさせて頂きます、それではお休みなさいませ」
「ああ」
ヘルシング家の明かりが一つ、又一つと消えて行き、表面上は屋敷全体が眠りに付く
スー・スー
コロコロ
「ん・・・」
コロコロコロ
「んん・・」
コロコロ・ゴン
「!?」
ガバッ!
ベッドから飛び起きると同時に引き出しから発火銀弾を装填した銃を取り出し辺りの気配を伺う、辺りに変化が無い事を確かめ、受話器を上げマイクに設定してウォルターを呼び出す
ガチャッ「何で御座いましょう、御嬢様」
何事も無いかの様なウォルターの問い掛けに、屋敷全体の変化ではない状況に安堵すると同時に警戒もしながら小声で伝える
「警備が破られた形跡は?」
「御座いません、何か不審な事でも?」
「屋敷内で音がする、警備に伝えろ」
「判りました、連絡後そちらに向かいます、其処でお待ち下さい」
「急げよ」
「御意」
コンコンコン!
「何者だ」
「ウォルターで御座います」
「ウォルターか、入れ」
「御無事でしたか」
「襲撃か?」
「いえ、屋敷の中も外も破られた形跡はありません、警備の者が調べました所、一階・二階・三階は異常無し、後は・・・」
「地下・・か」
「はい」
「非戦闘員は?」
「既に退去しております、御嬢様も・・」
「ノン!どの様な事態であってもヘルシング家当主として私は一歩も引く事は許されない」
『ザザ、ウォルター様』
警備員が無線でウォルターに指示を仰ぐ為に呼びかける
『そちらの状況は?』
『地上階の捜索終了、異常無し、別働隊から地下で音がするとの連絡を受け地下入り口に居るのですが、扉が開きません、屋敷内ですので爆薬を使う訳にはいかず、どうすれば良いでしょうか?』
『私が何とかしよう、警戒を怠るな』
『了解!』
階下に降りて行くと、警備員が困惑の表情で地下に繋がる階段を見下ろしていた。
「ココには鍵は掛けてない筈、それが開かないとはどう言う事だ」
「我々にも判りません、唯一つ判っている事は中で何かが転がる様な音がすると言う事だけです」
「ふむ、仕方ありませんな、御嬢様、それに他の皆様も少し下がっていて頂けますかな
皆がそれに従って下り、それを確認したウォルター、次の瞬間小さくヒュッと何かが空を切る音がしたかと思うと行く手を塞いでいた扉に線が走り音を立てて崩れた、ウォルターの持つ鋼線が扉を切り裂いたのである、その切り口はまるで剃刀で切った紙の様に滑らかであった。
「おや?」
本来ならばその先には廊下があるはずであるが、目の前にあるのは薄暗い廊下では無く緑色の壁であった
「これは・・ツルの様で御座いますな、しかし、何故?それにこの音は一体」
ツルの為にくぐもってはいるが、確かに何かが転がる様な音がする、この時点でインテグラ、ウォルターの両名には思い当たる事があった。
(アレで御座いますな、致し方ありません、ここは早急に捕縛或は行動不能に陥れましょう、そうすればセラス嬢の力も削げる、一石二鳥ですな)
(成る程、あの時の猟師の言葉はこの事を言っていたのか、ふん、この程度で私に皮肉を言うとは片腹痛い)
「ウォルター、許す」
「は、では」
ウォルターの鋼線が一閃、ツルの壁は先の扉同様、見事なまでの切り口を残して床に落ちた、そしてその奥にはスイカが一つゴロゴロと音を立てて転がっている、その表面には口と眼と思えるものが付いている、眼の部分は一つ多いが中身をくり貫けばお面としても使えそうだ。
「フッ」
嘲るような笑いと共に懐から装填済みのPPK/Sを取り出し
バスン!
一撃、スイカは見るも無残に弾け飛ぶ。
「・・・これだけか?あの三人が「眠れん」と言って出て行った理由がたった一個のスイカなのか?」
「そうで御座いますな、直ぐ再生するかとも思いましたが・・・しませんな」「ウ、ウォルター様」
警備の一人が何かに気付いたのかウォルターを呼び、廊下の奥を指し示しているので、それを辿ってその場に居た全員の視線が一点に集まる
「なっ、何と!?」
そして、その場に居る全員が確信した“今夜は眠れない”と、そしてその夜ヘルシング邸の前を通った一般市民は絶え間無く焚かれるフラッシュを見て何を撮っているのかと首を傾げたと言う
―その日の夕方近く―
「んー・・・・?」
(アレ?何か身体が楽だ、何でだろう・・・?あ!スイカが上手く行ったんだ、どうしよう、起きようかなでもまだ早いかな、ま、イイや)
グッ
「あれ?よ!と!・・・うりゃ!」
バギャ!
破壊的な音と共に蓋が外れ棺の中に甘い匂いが流れこむ
「何の匂いだろう?」
上体を起こして床を見ると其処にはおびただしい数のスイカが転がっている、しかし、どれもこれも普通のスイカで見た所、使い魔的な感じはしない、そしてふと先程開けずらかった蓋に目を向けてみればスイカの蔓がビッシリと張り付いている。
「開かない訳だ、でもこの匂いは何だろう?」
その匂いは部屋にも充満しているが、どうやら扉の外から匂って来るようだ、首を傾げながらもこれまた蔓の為に開かなくなっているドアを半ば強引に開ける
「い!?」
セラスは思わず絶句した、廊下は部屋同様、蔓で覆われていたもっともそれは後から知った事でその時目に入った光景は無残に破壊されたスイカが文字道理、足の踏み場が無いほど散らばっていた、あるものは四散しあるものは焼け焦げ、見事な切り口を見せている物は最低五つに切り分けられている。
「えっと、多分、四散してるのは護衛の人が撃ったのかな?焼けてるのがインテグラ様で・・後はやっぱりウォルターさん?でも何で、マスターは転がるだけだって・・・も、もしかして暴走!?大変!インテグラ様!」
大急ぎで、インテグラの寝室に向かい、ノックも無しにドアを開ける
「インテグラ様、御無事ですか!?」
「う・・セラスか?悪いがもう少し寝かせてくれ、昨日は寝てないのだ」「え・・あの一体何が?」
「セラス・・」
「え、あ、お休みなさい
「うむ・・・」
パタン、極力音がしないようにドアを閉め、そのままもたれ掛って頭を整理しようとする
(一体何があったんだろう?あ、ウォルターさんなら・・・でも、あの状態を見るとウォルターさんもインテグラ様同様寝てるかなー?)
「御機嫌如何かな?御嬢さん?」
「!?マスター」
寄り掛かっていたドアをすり抜けてきたので、逃げる事も出来ずにそのままの姿勢でセラスはアーカードの腕の中に納まってしまった
「あの、何があったんでしょうか?」
アーカードの腕の中に居る恥ずかしさを紛らわす為に、目下混乱の種になっている現状の説明を求める
「魔族は拘束されるのを好まん」
「はあ」
「今回の場合、地下入り口の扉までの空間では奴等には狭過ぎた
「はい」
「其れを確認の為か破壊した」
「ええ」
「お前ならどうする?」
「出ます」
「インテグラはそれでは困る、どうすると思う?」
「阻止します」
「その結果があれだ」
「成る程・・・」
「では、行くぞ」
「え?何処へですか?」
(ニヤリ)
「いやあぁぁぁ、助けてえぇぇぇ!!」
セラスの悲鳴が響き渡るが、寝ている者に届く筈が無く、そして屋敷に防衛手段が一切無い事に気付く筈も無かった。

本当に警備無しで大丈夫か(^^;)