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陸軍諜報33

大映「陸軍中野学校」(1966)の東映版とも言うべき作品で、市川雷蔵に似た主役を、まだあどけなさが残る新人時代の千葉真一が演じている。

「007」など、スパイ映画ブームの便乗企画の一本と思われる。

中野学校で千葉真一の上官を演じるのは丹波哲郎で、その丹波哲郎が秘密兵器を部下に説明して渡す所など、「007は二度死ぬ」(1967)でのタイガー田中そのままであるし、上司が丹波で、その下で活躍するのが千葉真一と来れば、TVの「キイハンター」(1968)を連想する向きもあるだろう。

この作品が公開されたのが1968年2月、「キイハンター」がTBSで始まったのが同年4月からで、共に東映が絡んでいる…とくれば、この両作品…、特に丹波哲郎の出演に関しては、全く関係性がないと考える方が難しいだろう。

つまり、丹波哲郎は東映TV作品「スパイキャッチャーJ3」でのボス的なキャラとして登場、大人気スパイ映画「007」で世界的に有名になったことから、さらに似たようなスパイものである東映の本作に出演し、そのつながりで、同じ千葉真一繋がりの「キイハンター」へも…と言うことだったのではないか。

展開としては、前半が国内での身分を隠しての諜報戦の悲哀、後半は南方油田を舞台にした戦争アクションものになっているが、前半の独特の雰囲気の心理ドラマ風であるのに反し、後半はかなり通俗タッチのアクション劇で終わってしまっている。

前半の独特の暗い雰囲気と言うのも、大映「陸軍中野学校」の模倣風で、特に褒めるほどのものでもないのだが、水戸光子演ずる母親の今際の際のセリフは泣かせる。

全体としては、まずまずと言った所ではないだろうか。

池部良が、南方での協力者としてゲスト的に登場しているが、いかにもありきたりのヒーロー風描写で、さほど印象に残ると言うほどでもない。

悪役のイメージが強い今井健二が、まだこの時代は普通の役を演じているのが興味深いし、中野学校で、千葉真一の同期の冴村を演じているのは、顔を見ればすぐに分かるが、「キューポラのある町」で吉永小百合の弟を演じていた市川好郎である。

ヒロイン役を演じている緑魔子、この時期は今観ても美しい。

クライマックスの製油所は、日本のどこかでのロケと思われるが、どこを利用したのだろう?

ラストは、大量の土嚢を積んで、数十人の日本軍が攻め込んで行く様が、合成ではなく、実際に撮られているように見えるだけに興味がある。

二本立ての添え物風だが、スパイもの自体が好きなこともあり、個人的には嫌いではない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1968年、東映、高岩肇+金子武郎脚本、小林恒夫監督作品。

レンガ塀を背景にタイトル

昭和15年11月 紀元二千六百年記念式典が盛大に行われた。

同時期、神社の境内で行われた妹、素子(萩玲子)の結婚式に出席した山本和夫中尉(千葉真一)は、婿の柿沼一郎(吉田輝雄)に妹と母、民子(水戸光子)を宜しく頼むと声をかけ、一郎も引き受けるよと答える。

それを聞いた和夫は、これで安心して隊に帰ることができると喜び、母の身体をねぎらって、椅子に腰掛けさせる。

民子は、お前もお父様の後を継いでくれたし、素子も片付いてくれたから、これで安心して亡くなった父さんに報告出来るよなどと言いだしたので、めっきり気が弱くなりましたね。元気でなくちゃ困りますよと和夫は慰める。

その後、軍に戻る二等列車の車内で、和夫は、素子と一郎の結婚写真を見ながら1人喜んでいた。

その時、1人の中佐(丹波哲郎)が近づいて来て、ここは空いとるか?と和夫の向かいの席の事を聞いて来たので、どうぞと勧める。

その中佐は、白崎連隊か?などと話しかけて来て、一杯やらんか?とポケット瓶のウィスキーを勧めて来る。

和夫は遠慮するが、上官に、先は長い。着くまでには覚めると言われるとそれ以上断りきれなくなり、キャップに一杯だけ酒を呼ばれる。

その時、和夫の隣に座っていた夫人が、苦し気に頭を押さえ始めたので、具合が悪いのか?お前は薬を持っておらんか?と中佐が聞いて来るが、和夫はあいにく…と困惑する。

夫人は、ちょっと風に当たって来ますと言い残し、車両を出て行ったので、うっかり扉を開けると危ないな…、君観て来てくれと中佐は和夫に頼む。

和夫は承知し、二等車の車両からデッキに出た所で、急に気分が悪くなりその場に昏倒してしまう。

気づいた和夫は、下着姿で布団に寝ており、隣には、先ほどの夫人が襦袢姿で寄り添うように寝ており、彼女も一緒に目覚めたようで、今の状況に気づくと慌てて起きる。

その時、ホテルのドアが開き、この野郎!人の顔に泥を塗りやがって!と叫びながら夫人の亭主らしき男と憲兵が乗り込んで来たので、自分たちは何も…と和夫は言うが、結局その場で手錠をかけられ、破廉恥現行犯で逮捕されてしまう。

軍法会議の場に連れ出された和夫は、自分の無実を訴える為の証人として、列車で同席した中佐の存在を訴えるが、何と言う中佐で何部隊だ?と問われると何も答えられず。列車にはお前と2人きりだったとあの夫人は言っとるぞ!と言うので、その夫人に合わせて下さいと頼むと、もうこの世にはおられん。あの夫人は貞淑な人妻にあるまじき辱めを受け、自殺したと検事は言うではないか。

結局、和夫は、身に覚えのない罪で、10年の懲役刑を言い渡されてしまう。

その事を知った一郎、素子夫妻と母民子が、信じられない思いで和夫に面会に来ると、やって来た軍人が、山本一夫のご家族の方ですな?連絡はありませんでしたか?あいつは護送の途中で脱走しました。山本から連絡があったら通報して下さい。おとなしく従っていれば10年ですむ所を…、バカな奴だ…と言うではないか。

それを聞いた民子は、その場に失神してしまう。

分からん…、分からんことだらけだ…、その頃、当の山本一夫は、手錠に目隠しをされ、車でどこかに運ばれている所だった。

彼が連れて来られたのは「陸軍通信研究所」と言う建物だった。

そこには、和夫と同じような状況で連れて来られたらしき若き軍人が集められており、その前には、数人の男たちと共に、あの列車で会った謎の中佐が立っていた。

諸君ら1人1人がどう言う状況でここに来たかは良く知っている。我々が諸君等を集める為に仕組んだ事だからだと、その中佐は整列した和夫たちに話し始める。

それを詫びようとは思わん。それは、ここが陸軍第33部通称「中野学校」で、諸君等はそこの4期生となるであろう優秀な者たちだからだ。

大日本帝国のため、畏れ多くも天皇陛下の為に訓練に励んで欲しいと中佐は続ける。

諸君等1人1人は、何十機もの航空機に匹敵する。

既に諸君等の先輩が世界中で活躍しておる。彼らの死は、将来の日本に貢献している。

私は、教育主任の秋山と言うが、これも偽名である。

諸君たちも今日限り過去を捨ててもらう。そして、整列していた兵隊の端から、1人1人に新しい名前を付けて行く。

和夫の新しい名前は白坂アキラだった。

そして和夫等の厳しい訓練授業が始まる。

柔道の練習、語学の勉強、縄抜けの術、銃撃訓練…

次から次に要求される激しい訓練に落伍者は許されなかった。

そうした中、射撃訓練などでも1人遅れをとっていた花原(田畑孝)と言う訓練兵が、地雷が埋っている中を10秒以内に突破すると言う訓練で躓き、爆死してしまう。

その墓を和夫と共に詣った仲間の冴村(市川好郎)は、付いて行けない奴は、かえってこうなった方が為なんだと哀し気に呟く。

その頃、一郎夫婦と一緒に車で移動していた城北大学教授佐々木実(根上淳)は、和夫の失踪の話を聞くと、不思議な話だねと首を傾げ、仙台の新聞社に知り合いがいるんで調べてもらおうと約束する。

昭和16年7月28日

日本は南部仏印に進駐する決断をする。

秋山中佐は、これは英米に対抗する第一歩なんだが、諸君等の先輩が入手した英米の情報では、二ヶ月前からこの情報を知られていた事が分かった。

この情報提供者と思われるのが、アルフレット・ハイゼ(オスマン・ユセフ)と言うナチスの駐日通信員である。

卒業試験としてこの男を探ってもらいたい。諸君等の腕の見せ所だと、秋山中佐は和夫たちに命じる。

和夫等卒業生たちは、渡された相手の顔を頭に叩き込む。

ハイゼ行きつけのビアホール「ハイデルベルグ」では、露口杏子(緑魔子)がピアノを弾いていた。

その日、和夫もその店に来て、二階席の客として、カウンターで1人ビールを飲んでいたハイゼの様子を監視していた。

そこへ、新たに入って来た客があった。

佐々木実だった。

佐々木は1人ビールを飲み始めたので、和夫は、ライター型カメラを取りさづと、煙草に火を点ける振りをして、さりげなく佐々木の写真を撮る。

佐々木は、すぐに席を立ち、店を出て行き、外国人メイドが佐々木のグラスを下げに来る。

その外国人メイドは、グラスをカウンター席に持って行き、さりげなくカウンターに座っていたハイゼのジョッキの横に佐々木のジョッキを置く。

その際、ハウゼはすばやく佐々木が飲んでいた方のジョッキを持ち上げ、メイドは、それまでハイゼが飲んでいたジョッキを持って片付けてしまう。

明らかにメイドもハイゼも計画的な動きだった。

和夫が撮って来た写真を元に、佐々木実の身上が洗われ、城北大学の教授で昭和史研究会と言うのを主催しており、自由主義者だ。その場で何らかの情報交換があったに違いないと秋山中尉が伝達する。

和夫と冴村は、佐々木を見張る為に城北大学に向かうが、その姿を、佐々木に会いに来た義弟の柿沼一郎が目撃してしまう。

一郎を迎えた佐々木は、仙台の新聞社から義兄さんの事で連絡があった。

義兄さんが掴まったホテルは、男の声で予約があったそうで、やって来た中尉はふらついていたそうだ。

あの晩の列車の専務車掌の話によると、宇都宮から乗って来た中佐の軍服を来た男を観たと言うことだと調査結果を教え、すまないが、自分が借りているこの本を12時頃に図書館に返して来てくれないかと頼み、1冊の本を託す。

帰宅した一郎は、身重の妻の素子と義母の民子に佐々木から聞いた話を伝え、仕組まれた罠に落ちたと思うしか考えられん。義兄さんの身上にとんでもない事が起こっているのかもしれないと話し、今日、大学で和夫らしき姿を見かけた事を話しかけた一郎だったが、結局、それは止める事にする。

民子は、陸軍が罠を仕掛けるなんて…と信じられない様子で、本当に何だって和夫はお父様に顔向けできないような事をしてくれたんだろうと嘆く。

12時15分

一郎が、佐々木から預かった本を返却に来た図書館には、アルフレット・ハイゼが利用者として待ちうけていた。

さらに、和夫も、そのハイゼを見張って図書館内に待機していたが、返却窓口に一郎がやって来たので、慌てて顔を隠す。

一郎が帰っていた後、慌ててハイゼに視線を戻した和夫は、そのハイジの姿がいなくなっているので驚く、窓口を観ると、今、一郎が返却しに来た本を帰っているではないか。

尾行すると、ハイゼはドイツ大使館に入って行くのが確認出来た。

新聞社で働いている一郎は、デスクに呼ばれ、軍関係の事を調べているそうだな?佐々木実が介在している所のは問題があるらしいと、取材を止めるよう勧告される。

一方、和夫の方は、秋山中佐に呼ばれ、柿沼を逮捕する方針に決めたが、義弟の処理に関してはお前に一任する。お前の手で逮捕した方が家族が受ける打撃が少ないのではないかと思うが?選択はお前に任せると相談される。

しばし考えた和夫は、その場から一郎に電話を入れ、驚く相手に、お前、新自由運動に加わっているそうだな?会わなければいけないんだ。今日5時に月島岸壁に来てくれと伝える。

月島岸壁

会いに来た一郎に、おふくろ元気か?と和夫が話しかけると、ええ、素子は来年子供が生まれます…と一郎は、目の前に出現した和夫を信じられないものでも観るように答える。

その時、和夫は一郎に、お前、俺を殴って逃げろ!お前がやっている事は祖国日本を裏切る行為だぞと小声で伝えるが、僕には僕の信念がある!と一郎が言い返して来たので、やかましい!と言いながら和夫は殴りつける。

その時、突然走り寄って来た車の車内から銃が発射され、一郎が撃たれてその場に倒れる。

近くで監視していた奥大尉(室田日出男)と同僚の正田(今井健二)が慌てて駆けつけて来るが、逃げ去った車のバックナンバーも確認出来なかった。

遺体安置質におかれた一郎の遺骸に会いに、呼ばれた素子と民子がやって来る。

素子は棺に抱きつき泣き崩れる。

廊下では、コート姿の和夫が、母と妹の前に出られない状況の中、哀し気にうなだれていた。

一郎の葬儀が行われた寺で親族として出席していた民子は、境内に潜んでいた和夫らしき人影に気づき、驚いて、呼びかけながら近づく。

わざと母親に追いつかれた和夫は、どうしたって言うの?まさかあんなことを…、本当のことを言っておくれ!と迫られ、すみません!と謝る事しか出来なかった。

その返事を勘違いした民子は、和夫!じゃあ、お前…、やっぱり…、お前に限ってあんなふしだらな真似をするはずがないと思っていたのに…、和夫!私をご覧!お母さんはね、お父様の跡継ぎを育てる事だけが生きがいだったんだよ!今日限り、親でも子でもない!と言い切る。

それを聞いた和夫は、お母さん!と近づこうとするが、民子は和夫の頬を叩くと、もうお母さんと呼ばないで!と言い捨てると、寺の方へ戻って行く。

和夫も力なく立ち去るしかなかった。

昭和16年10月 英米の対日工作としての石油禁輸措置に日本は苦しんでいた。

和夫は、また、露口杏子がピアノを弾くビアホール「ハイデルベルグ」に来ていた。

曲を弾き終わった杏子に拍手を送り、とても素晴らしかったと優しく話しかけた和夫は、感謝した杏子と、森の中を散策するまで親密になる。

和夫は、2年振りに南方から帰って来た人間を装い、戦争が始まると、また、南方にお帰りになるんでしょう?と杏子から聞かれると、連れて行ってやろうか?などと誘う。

白崎さん、まだ私の事を何もご存じないじゃないですか?と杏子が警戒すると、お互い、知り合う事から始めようじゃないか?と甘く囁き、白坂アキラこと和夫は、杏子とキスを交わすのだった。

夜、「ハイデルベルグ」に向かう車の中、ハイゼは杏子を抱いた後、柿沼さんは私が殺したと伝える。個人の感情は捨てねばなりませんと杏子に言い聞かせ、「ハイデルベルグ」の地下室で、ドールマン(ピーター・ウィリアム)を紹介する。

ドールマンは、任務は間もなく終了します…、日本は間もなく動きますと杏子に伝えると、握手をして帰って行く。

ユスフは、本棚の億に隠していた無線装置を出すと、何事かを打電し始める。

それを困惑した表情で見守る杏子。

その後、ハイゼは杏子を抱きキスをする。

その後、ハイゼがドイツ大使館に移ったと正田の報告を受けた秋山中佐は、尻尾を出した事でもあると表情を引き締める。

ドイツ大使館の中で舞踏会が行われることになり、和夫も軍人姿で参加していた。

外国人女性と踊り終えた和夫は、人目を盗んでさりげなく階段を登り二階へ上がると、あらかじめ入手していた室内見取り図でハイゼの部屋を探し当て、鍵を持参した鍵明け道具で開け、中に侵入する。

中を物色中、机の上に置かれていたインク拭きに付着した文字らしきものに気づいた時、誰かが部屋に近づいて来た気配がする。

入って来たのは、怪しんで戻って来たハイゼだったが、室内を調べても誰もいなかったので、又部屋を出て行く。

その後、天窓を開け、外に隠れていた和夫が再び室内に降り立ち、インク拭きの裏の写真を隠しカメラで何枚か撮影する。

部屋を出て施錠した後、階下へ戻ろうとした和夫だったが、廊下の奥にやって来た杏子が自分を見つめている事に気づく。

和夫は何ごともなかったかのように階段を下りるが、杏子も同じようの別の階段を降り、舞踏会の会場で和夫と対面すると、踊って頂けませんと声をかける。

和夫はその言葉に従い踊り始める。

やっぱり私たち、お互い何も知らなかったのね…と哀し気に杏子が語りかける。

それともあなたの方は、始めから私から情報を取る為に近づいてたの?

和夫は表情を変えず、君の言う通り、僕は君に近づいたと打ち明ける。

本当にそれだけだったの?と問いかける京子に、君も僕も、人間としての感情を持つ事は許されないのだと和夫は告げる。

それを聞いた杏子は、その場から逃げて行く。

中野学校に戻った和夫は、隠しカメラで撮影して来たインク拭きの裏側に残っていた文字のようなものの写真を拡大、無線の配線図だと思うと報告する。

秋山中尉は、「ハイデルベルヒ」の地下に設置されている配線図だろ思われるとの分析結果を聞くと、直ちに憲兵隊に連絡しろ!と命じる。

「ハイデルベルヒ」の地下室では、ハイゼが杏子に、今日君はタブーを犯した!と責めていた。

スパイがスパイを愛するのは禁じられるのね…。悔しいの、騙された自分が…、悔しいの…!と杏子は泣き出す。

分かった…と答えたハイゼは、グラスを2つ用意し、酒を注ぐと、素早く、持っていた葉巻の端から、片方のグラスの薬を投じ、さりげなく杏子に渡すと、仲直りしましょうと優し気に言葉をかける。

今夜を最後にこの店ともさよならです。私と一緒にアメリカに行きましょう。杏子さん、何かピアノ弾いて下さいと頼み、乾杯をする。

何の疑いもなく、グラスの酒を飲んだ杏子は、そのまま店のピアノの前に向かい曲を弾き始める。

その曲を聞きながら、ハイゼは、地下室のいつものように本棚から取り出した無線機で通信を始めようとする。

そこにやって来たのが和夫で、店内のピアノを弾いていた京子に近づくが、杏子は曲を弾きながらその場に倒れる。

杏子さん!と抱き上げた和夫だったが、杏子の目は二度と開かなかった。

その直後、地下室には憲兵隊がなだれ込むが、それに気づいたハイゼは、通信文をまるめ、暖炉の中の火に放り込んだ後、自殺しようといするが、その直前に逮捕されてしまう。

店では、和夫が白いバラの花を見つめていた。

佐々木実も、スパイ容疑で逮捕される。

憲兵隊に連れて行かれたハイゼは、焼け残っていた通信文に書かれた乱数は何だ?と尋問を受けていた。

黙秘を続けるハイゼに憲兵はいら立っていたが、ハイゼがタバコを吸わせて下さいと頼んで来たのpで、仕方なく1本与えてやる。

その煙草を受け取った次の瞬間、手錠をかけられたハイジは立ち上がって窓から飛び降りる。

ハイジは、地上に墜落死するが、彼が持っていた小さな聖書がその遺体の側に転がっていた。

この聖書こそ、乱数を解く鍵になっていた事が判明する。

秋山中佐は和夫と正田を呼び、日本は英米に対し宣戦を布告した。間もなく真珠湾を急襲する。

それを知った敵側は、我が軍のエネルギー源である南方、北ボルネオのタラカン島にある油田を破壊しようとするはずである。

君たちはそれを阻止するのだ。

台湾島の高雄から潜水艦でタラカン島の近くまで乗せて行ってもらい、そこから島に泳ぎ着く。

島ではダランと言う協力者と会う。変わり者だが信じて良いと命じると、無線機、小型ガスボンベ、爆破装置、ペン型空気銃などの秘密兵器をその場で披露して渡す。

その説明中、部下から報告を受けていた秋山は、最後に、白坂、おふくろさんが危篤だそうだ…と告げる。

それを聞いた和夫は一瞬沈黙するが、今夜12時、現地に向け出発します!と答える。

秋山は2人としっかり握手する。

その夜、危篤の母を素子と親族が見守っていた家に、兄の上官と言う人間がやって来る。

それは秋山中佐だったが、遺族の前に座した秋山は、申し訳ありませんが、お母さんにだけ話があります。皆さん、ご遠慮願いますと遺族たちに頭を下げる。

素子も遺族も従うしかなく、人が部屋からいなくなると、秋山は昏睡状態の民子の顔に近づき、お母さん、特務機関の秋山です。和夫君は立派に軍務についております。軍人として恥ずべき事は何一つしておりません。やましい行為を弁解出来なかった…、お母さんも騙さなければいけなかったんです。和夫君は日本の為に南方に発ちました。和夫君は誇りに足る軍人なんですと小声で告げる。

それまで閉じられていた民子の目がうっすらと開き、秋山中佐の顔を見つめると、堪忍しておくれ和夫…、酷い事を言って…、でも良かった…、これで安心してお父様にお会い出来ます。お母さんは嬉しい…、和夫!と最後に呟くのだった。

台湾を出航した潜水艦から脱出した和夫と正田は、タラカン島に泳ぎ付くと、用意しておいたマレーの民族衣装に着替え、ジャングルの中を製油所目がけ歩き始める。

しかし、ジャングル踏破は予想以上に難航し、とても容易に製油所に近づけないことが分かって来る。

正田が、無線機を調整した方が良いなと言い出し、持って来た無線機を調整した結果、「ハナヒラク ハナヒラク」と言う暗号が聞こえる。

秋山から聞かされていた「後2日しか時間がない」と言う暗号だった。

2人は先を急ぐが、その時、敵兵が乗ったジープが接近して来る。

そのジープは、2人の目の前の道で、シャフトが折れたらしく、停まってしまう。

和夫と正田は、道に飛び出すと、敵兵を全員殺し、その敵兵の服に着替えると、又ジャングルの中に分け入る。

しかし、しばらく進むうちに、和夫が足を罠に引っ掛けてしまい、宙づりになる。

そこに、現住民が取り囲み、2人は近くの現住民の村に連れて行かれ、2人とも宙づりにされてしまう。

村は祭りでもやっているのか、夜通し騒いでいた。

そんな中、2人は、訓練中身につけた縄抜けを試そうとするが、思うように抜けない。

その時部屋に近づいて来た現地人が、突然、大きなナイフを取り出し、2人を吊るしていたロープを斬って下ろしてくれる。

中野学校の秋山中佐から何か言われて来たのか?と聞いて来た相手の顔を見た和夫は、秋山が現地の協力者と言っていたスハルト・ダナン(池部良)!と直感する。

秋山とは士官学校の同期だったが、俺は中退額だった、ダナンは信じても良い男だが、大変な変わり者と言われただろうと、ダナンは、正田と和夫に、現地妻に食事を出させ、一緒に食べながら笑う。

ダナンは、あの平和な現地人たちが戦争では真っ先に犠牲になるんだ…と、近くから聞こえて来る祭りの音楽を聴きながら2人に訴える。

翌日、ダナンの案内で、2人は製油所目指してジャングルに入る。

ダナンは2人に、ジャングルから出る時気をつけろと注意する。

その直後、和夫が、ジャングル内に仕掛けられていた呼子のロープに足を引っかけてしまう。

監視所の敵兵は、C地点に異常を発見、ただちに兵隊を乗せたジープを向かわせる。

ダナンは、何とか2人をバーボーデン石油製油所の前まで連れて来てくれるが、秋山中佐に言っておきたかったが、若い奴を死地へ向かわせるとは殺生な奴だ…と2人に話しかけ、成功を祈ると言うや、自分は近づいて来たジープの前に姿を見せ、囮になる。

ダナンは、機銃を持ってジープから降りて来た敵兵につかみ掛かり、銃を奪い取ると、果敢に乱射する。

そして銃弾を自ら浴びながらも、最後の力を振り絞って手榴弾を投げ、ジープに乗って来た敵兵を全滅させる。

そして、ダナンもその場で倒れ、息絶えるのだった。

正田と和夫は製油所に近づいて見るが、見張り兵の数が多く、とても正攻法では侵入出来そうにもなかった。

その時2人は、製油所内に入り込む貨物車の線路がある事を発見。

ちょうど近づいて行きた貨車に飛び乗り、製油所内に入り込んだ所で飛び降り、何とか潜入に成功する。

製油所内を探し始めた2人は、「ATTENTION(注意)」と書かれた爆弾を発見、近づこうとするが、敵兵の1人にストップ!と背後から銃を突きつけられ制止される。

2人は手を上げて振り向き、何事かを聞いて来た相手に向かい、正田が大声で、ばかやろう!と怒鳴りつけたので、相手はひるみ、その一瞬の隙をついて、和夫がナイフで突き殺す。

その後2人は、爆弾のコードを切断する。

さらに、歩き回って、次の爆弾も同じように解除するが、このままではとても、工場内全体に仕掛けられた爆弾を全部解除するのは不可能に思えた。

爆破スイッチは一カ所にあるはずで、配線コードをたどって、その場所を特定する事にする。

やがて、それらしき建物を発見するが、入口の前には、土嚢が詰まれ、機銃部隊が護衛をしていた。

最初はナイフを取り出し攻め込もうとするが、それを止め、持参したペン型空気銃を使ってみる事にする。

2人は敵兵の服を来ている事を利用し、仲間のように笑顔で手を上げながら土嚢に近づくと、ペンを取り出し、相手に向けるといきなり発射する。

しかし、瀕死の敵兵が機銃を空に向かって放ち、その銃声で異常を察知した敵兵たちが集まって来る。

2人は見張りから奪い取った機銃で応戦しながら、建物内に侵入するが、敵兵は建物に接近して来る。

正田は、青酸ガス爆弾を取り出し、それで敵を食い止めようとするが、それは10秒しか効果が続かいものだった。

正田は、道案内用の地図を近くにあった水溜まりに投げ込む。

その地図は水に溶ける特殊な紙で出来ていた。

結局、室内に侵入する直前で、和夫は掴まり、その製油所にいたドールマンから、自分の無線機が傍受した「ハナヒラク」の意味は何だ?戦闘開始の時間か?と聞かれ、口を割らないと、むち打ちの拷問を受ける。

その側には、青酸ガスを自分も吸ったのか、正田の身体が横たわっていた。

君は行きながら苦しむのだ!そうドールマンは嘲ると、和夫の両手の甲を潰す。

日本が攻撃して来る時間はいつだ?話せば、君の安全は保障されるとドールマンは追求するが、どうしても口を割らない和夫に、焼け火ばしを腹に突き刺して来る。

激痛に気を失った和夫だったが、頭からバケツで水を浴びせかけられ、ドールマンたちは一旦部屋の外に出て行く。

死んだと思われた正田が、白坂!と和夫を呼び起こす。

まだ生きていたのか…、気がついた和夫は、同僚の無事を喜ぶ。

まだ死ねないぞ…、そうだ!まだ死ぬものか!そう呟いた正田は立ち上がり、両手のひらを潰された和夫も何とか立ち上がり、室内の壁面で爆弾のメインスイッチを見つける。

和夫は、自由が利かぬ手で何とかスイッチを解除しようとするが、非常ベルが鳴りだしてしまう。

正田は、部屋のドアの前に立ちふさがり、駆けつけて来た敵兵たちが中に入って来れないように体全体で押さえるが、機銃掃射を背後から受け、手が切断されてしまう。

スイッチの解除作業を続けていた和夫は、正田!伏せろ!と叫び、小型爆弾でのスイッチ爆破を試みる。

敵兵たちがドアをこじ開けて侵入したその時、スイッチ盤の小型爆弾が爆発、部屋は大爆発が起きる。

数分後、崩れ落ちたドアの下からはい出して来る和夫。

和夫は側に倒れていた正田に声をかけるが、すでに正田は息絶えていた。

部屋の中は敵兵の死体で埋もれていた。

ぼろぼろの状態で建物から逃げ出した和夫だったが、執拗に敵兵たちが撃って来る。

和夫は、近くの岸壁から海に飛び込むが、追いついて来た敵兵は海面目がけて乱射する。

その直後、あらかじめ隠してあったモーターボートが飛び出して行く。

それを不自由な両手で必死に操縦する和夫。

昭和16年12月8日 真珠湾攻撃

日本は、米英と戦闘状態に突入する。

日本の落下傘部隊が、バーボーデン石油製油所の上空から落下する。

敵兵は下から撃って来るが、地上に降り立った日本軍は、バーボーデン石油製油所に攻め込んで行く。

かくして、石油資源は無傷で日本軍のものになった。

その頃、コート姿に戻った和夫は新たな任務を受け、南方海上に船出した。