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銭形平次捕物控 美人鮫

長谷川一夫主演で18本作られたシリーズもの最後の作品。

フジテレビの長寿番組になる大川橋蔵主演版の「銭形平次」が始まったのは1966年のことらしいので、長谷川一夫版が終わって5年間のブランクの後、TV版が作られるようになったと言うことらしい。

映画版の当初は、益田喜頓や堺駿二、エノケンといったコメディアンが扮していた八五郎を、何と、大映の二枚目俳優だった船越英二が演じている。

どうやら、船越英二が八を演じるのは、第15作「銭形平次捕物控 雪女の足跡」(1958)とこの作品だけのようだ。

中年期になってからは、おっとりしたおじさん役を演じるようになった船越だが、この時代はまだ美貌が残っていた時代で、同じ美貌の大先輩、長谷川一夫の相方と言うことで、わざと三枚目風のメイクと芝居に徹している。

話は、江戸で起こった麻薬絡みの事件を追って、平次と八が長崎まで出向いて事件を解決すると言う趣向になっている。

平次が敵の罠にはまり牢に入れられたり、投げ銭が尽きかけたり、投げ銭の束を斬り落とされたり…と、平次がピンチになる仕掛けも多い。

悪党や善玉の正体隠しにも工夫が凝らされており、二重、三重の意外性のある謎解きが楽しめる。

ただ、あくまでも捕物帳なので、本格謎解きミステリほど厳密な謎解きと言う訳ではない。

ご都合主義でごまかされている部分も多いように思え、展開的にも、別の船で全部投げ尽くしたはずの投げ銭を、その直後の別の船では、又大量に束で持っているなどと言う辺りの描写はどう考えても不自然なのだが、ヒーロー活劇としてはごく自然な流れなのだろう。

ただ、登場する女優さんが多い割りに、皆同じようなタイプが多いように見え、区別がし難いのが気になった。

当時は、皆それなりに知られた女優さんだったので問題はなかったのかもしれないが、年月が経った今の目で観ると、どの女優さんも同じような美人に見えてしまう。

その似た印象の女優さんが別人に化けたりと、色々混乱する展開になっているので、余計に分かり難い気がする。

今となっては、着物の柄とかで区別するしかない。

主演の長谷川一夫は、当時50台前半くらいだったらしく、まだ身体は動いているし、現役バリバリな様子なのが嬉しい。

時代劇なので美貌も健在。

八五郎が人気コメディアンではない代わりに、ヒロイン役に歌手の藤本二三代さん、お笑い芸人の「シャンバロー」などが登場している。

「シャンバロー」と言うお笑いトリオは知らなかったが、映画で観る限り、三味線とアコーディオンを演奏しながら、ユーモア歌謡のようなものを披露している。

セットなども、良く見ると書き割り風に見える部分が多かったりと、そう大予算をかけた大作風ではないが、さすがに長谷川一夫主演の人気シリーズだけに、それなりの力は入っているように見える。

劇中、ミゼットの人が頻繁に登場するので、後年の「007/黄金中を持つ男」(1974)などをつい連想したりするが、その人の事を差別的な表現で呼んでいたりするので、今のテレビ放映などは難しい内容だろう。

とは言え、シリーズの中でも、出来としては悪くないのではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1961年、大映、野村胡堂原作、浅井昭三郎脚色、三隅研次監督作品。

※劇中、差別的な言葉が出て来ますが、適切な言い換えも出来ませんし、公開された時代を考え、そのまま文中でも使用しています。ご了承下さい。

夜の江戸の街

後ろでに縛られ、背中には簪が刺さった1人の娘が、よろけながら水桶の所まで来て倒れると、別の女らしき手が、倒れた娘の背中から簪を抜き取る。

タイトル(男二人連れ、夜鳴き蕎麦屋、筵をかぶった様子のおかしな男がそれぞれ近づいて来る)

おこそ頭巾をかぶった女が、何の為に見張ってたんだよ!と怒鳴りつけ、眼帯をした禿頭の男の頬を叩く。

こんなドジ踏みやがって!一体、どうするんだい!と女は責め続ける。

二人連れの男が、夜鳴き蕎麦屋に蕎麦を注文すると、突然、店の背後から現れた筵をかぶったおかしな男(伊達三郎)が、薬をくれ!と言いながら、蕎麦屋の親父に抱きついて来る。

屋台の店は倒れ、行灯の灯が燃え移り、店は火に包まれ始める。

驚いた二人連れの男が、消火しようと近くにあった水桶の蓋を取って、中の水を汲もうと覗き込むと、水面に娘の死体が浮かんでいたので悲鳴を上げる。

翌朝、死体が見つかった付近は、野次馬でごった返していた。

死体を確認に来た娘の両親、武蔵屋の主人久兵衛(南部彰三)夫婦は、お美代(山本弘子)!と驚く。

その武蔵屋の夫婦に、娘さんは夕べどこに出かけていなすった?と聞いたのは八五郎(船越英二)だった。

お茶のお稽古に、いつもの通り、谷中の妙照寺に出かけたと言う。

尼寺だと知っていた八五郎は一人で出向いて行くが、寺の脇で、美味しそうな柿がなっている木を見つけ、何とか取ろうとジャンプしてみるが届かない。

その時、1個の柿が八五郎の額に落っこちて来る。

落としたのは、近づいて来た銭形平次(長谷川一夫)の親分だった。

事件だそうじゃねえか。どこへ行くのか知らねえが、俺は番所で待っているから、まあ、しっかりやんなと笑顔で声をかけ、平次は去って行く。

八五郎に会った妙照寺の蓮月尼(近藤美恵子)は、事件の事を知ると、やっぱり…と驚くと、一時ほど前、武蔵屋の番頭さんが、お嬢さんが来てないかと聞きに来ましたと答える。

娘はいつも通り、七つ過ぎにはお帰りになりましたと言う。

変わった素振りでもなかったかい?と八が聞くと、私が途中まで送っていれば…と尼は悔むだけ。

その頃、平次の方は、武蔵屋夫婦から頭を下げられていた。

そこに戻って来た八五郎は、妙照寺の尼はてえした美人で、事件の夜は、自分で番所に届けたりしたそうですと報告する。

近くの番所と言えば錦町だな?と平次が念を押すと、五つ過ぎに尼さんが来て、娘さんの人相など行って帰ったそうですと八五郎は答える。

さすがだな、早く行って、その尼さんを洗って来なと平次が命じると、八五郎はきょとんとして、尼さんをですかい?と聞き返す。

何だ、おめえ、分かっちゃいねえのかい?武蔵屋の話だと、娘を心配し、夕べ番頭を尼寺に寄越したのは四つ過ぎと言ったろう?今、尼さんが番所に届けたのは五つ過ぎだと言ったろう?

尼さんは、番頭が来る一時も早く番所に届けてるんだ。どうした尼さんが、お美代さんの行方不明を家族より先に知ることが出来たんだ?妙照寺の事件を手がけたのはおめえだ。自分で洗って、八五郎親分の手柄にしなと平次が言うので、八五郎は張り切って出かけて行く。

そんな八五郎に、寺社奉行様のお縄内だ。滅多なことで踏み込むんじゃねえぞと、背後から平次は釘を刺す。

その後平次は、やって来た与力笹野新三郎(林成年)に、お美代の死因は絞殺ではなく、背中の急所に簪か細いきりのような物で突いた小さな傷があり、手首に縄目の痕があると報告する。

八五郎は、蓮月尼の後を尾行するが、町中で葬式の列とすれ違った後相手を見失う。

蓮月尼は、いつの間にかかぶり物を取り、葬儀の列席者姿に化けて棺について歩いており、立ち去って行く八五郎の後ろ姿を嘲るように笑って見送る。

その後、町奉行所にやって来た若年寄京極近江守(香川良介)は、笹野新三郎ら与力に、近頃、江戸市中に急激に蔓延致した恐るべき麻薬の弊害が、善良な庶民を恐怖のどん底に駆り立てておる。町奉行として、この事態をどう思う?と、長谷部伊予守(原聖四郎)に問いかける。

日夜取締に当たっておりますが、未だ持って…と伊予守が答えると、手ぬるい!奉行所をあげて江戸市中の探索に当たらせる!禍根を断ち切らねばならんのじゃ!と近江守は命じる。

笹野新三郎は、すぐさま平次にも、麻薬捜索の協力を仰ぎに向かい、武蔵屋の方の事件のことも聞く。

平次は、娘の首に巻き付いていた綱を差し出し、船で使った物のように思われますと報告する。

その匂いを嗅いだ新三郎は、確かに磯の香がすると言うと、船と麻薬…と呟く。

翌日、寺の近くを八五郎を連れ歩いていた平次は、「狼藉者!」と叫ぶ娘の声を聞き、駆けつけてみると、娘が覆面の浪人ものたちに囲まれていた。

側には、おこそ頭巾の女が見張っていたが、平次たちが近づいて来たのに気づくと、素早く門の裏に身を隠す。

平次は、得意の投げ銭でたちまち浪人たちを蹴散らす。

浪人たちが逃げ去った後、平次は、門の所に隠れていたおこそ頭巾の女にも気づき、八五郎に後を追わせる。

八と共におこそ頭巾の女の後を追っていた平次は、自分たちがいつの間にか妙照寺に入り込んでいたことに気づく。

管轄違いなので、引き上げかけた平次だったが、その時、木の根本に布切れのような物が落ちているのに気づき、八五郎に引っ張らせてみる。

すると、その紐は結構長く、帯だと分かるが、八五郎が懸命に引っ張ると、地面に埋っていた女の死体の帯だと分かる。

女は顔中血まみれの惨い死に様だったが、麻薬の匂いがすることに平次は気づく。

八五郎は、怖々覗き込んだ女の顔にほくろがあることに気づき、これは美人の尼さんだと言う。

しかし、平次は、その女の右手の指先に三味線のばちダコがあり、ほくろもこしらえた物だと指摘すると、本当の尼さんは、もうどこかに姿を消しただろうと推理する。

その直後、御用だ!と言う声を聞いて立ち上がった平次は、自分が罠に落ちたことを知る。

寺社奉行が駆けつけて来たのだった。

町方が寺社奉行の管轄に足を踏み入れるとは、不届けしごく!と駆けつけた役人は言い、平次が事情を話し、お目こぼしを…と詫びても、ならん!掟は掟、寺社奉行の手で吟味致すと言いわたす。

こうなったら、十手を手放し、神妙にお縄を頂戴するしかなく、平次は牢に入れられてしまう。

そこにやって来た笹野新三郎は、そちの推察通り、寺社奉行にたれ込んで来た奴がいる。時刻は、御主たちが妙照寺に入り込む直前だと教え、さらに、そなたが捕らえられた日の夜更けに交易船がにわかに江戸を離れた。祐天丸と言って、長崎、五島屋重兵衛のものだと言う。

それを聞いた平次は、その船で一味の奴ら江戸引き払ったに違いありません。どっさり土産を積み込んで…、麻薬を売りさばいた金はもとより、この江戸から女をさらって他国に売り飛ばす魂胆です。その女と引き換えに外国から麻薬を仕入れる計画だと思われます…と推理を披露すると。

すれが真とすれば、由々しき自体だ…と驚いた新三郎だったが、お願えです!出しておくんなさいと頼む平次には、それは出来ん。定められた法を犯すことは…と顔を背ける。

それでも平次は、無理は承知でおすがりします。おいらが江戸にいては解決出来ません。一時も早く後を追わないと取り返しのつかないことになります!と、必死に頭を下げる。

その後、江戸から長崎に向かう八五郎の姿があった。

そんな八五郎に、途中の茶店から声をかけたのは、先日、平次に助けてもらった娘、琴江(宇治みさ子)だった。

親分さんもご一緒じゃ?と不思議がる琴江に、ひょんなことから牢に入れられちまったんだよと説明する八五郎だったが、その会話を盗み聞いてた「将棋の飛車」模様の帯の女や、深網笠の浪人陣内剛十郎(千葉敏郎)が、2人の側を通り過ぎて行く。

親分なしじゃ、おまんまの食い上げだ、国さ帰って百姓でもすべえ…などと愚痴る八五郎が、おめえさんは?と聞くと、ちょっと尋ねる人がありまして、西国まで…と言うので、じゃあ、おれも上方の親類に会いに行くんで、旅は道連れ…と同行を誘う。

その頃、先に歩いていた浪人は、同じような編み笠の一団と合流し、飛車帯の女は、飛車の模様が、お太鼓の部分から前に変わっていた。

そして、草原に寝転がっていた眼帯に禿頭の男、二十坊主の鉄(羅門光三郎)も立ち上がり、浪人や飛車模様の女と同じ、西へと歩き出す。

大阪に近づいた祐天丸と、不気味な一寸法師の姿を、旅の薬売りに化けた平次は見つけていた。

その夜、港の倉の上に忍び込んだ平次は、その中で、江戸でさらって来たらしき女を吟味している一味の女絵日傘のお吟(阿井美千子)と二十坊主の鉄が、大阪の仲買人らしき男2人と取引している現場を隙間から目撃する。

お吟と大男が船室を出て行くと、大阪の仲買人2人が、あの二人を消せば、薬はぬれ手で泡だぜなどと相談し始める。

その直後、机の下に潜んでいた一寸法師の陣(酒井福助)が飛び出し、戻って来たお吟に耳打ちする。

すると、お吟は急に、ブツはこれだよと言いながら銃を取り出すと、仲買人2人に向け、大男に扉を開けさせる。

そしてお吟は、お前さんたち、何やら良からぬ相談をしていたようだが、そっちがその気ならこっちもその気でお相手するよと言いながら、2人の仲買人を扉の外へ追い出す。

外には浪人たちが待ち受けており、その場で2人の仲買人を叩き斬ってしまう。

その時、口が聞けない一寸法師の陣が騒ぎ出したので、お吟たちが部屋の中を振り返ると、いつの間にか忍び込んでいた平次が、捕まっていた女たちを逃がそうとしていた。

浪人たちが駆け寄り、斬りつけようとするが、平次は必死に抵抗し、外の闇の中に逃げて行く。

外に出たお吟が闇に向かって銃を放つ。

一時も無駄には出来ぬと判断した一味は、捕まえて来た女たちを小舟に乗せ、沖で待っていた祐天丸に運び入れる。

船底に詰め込まれていた女たちを見張っていたおたき(近江輝子)は、いきなり連れて来られた娘たちを見ながら、騒ぐんじゃないよと言うので、平次が現れて一騒動あったんだと浪人が教えると、捕まっていた女たちは口々に、平次親分だって、銭形の親分よ、助かるわ!などと喜び出す。

すると、下手に騒ぎやがると承知しないよ!とおたきは娘たちに怒鳴りつける。

甲板の上お吟は、どうして平次、一体どうやって牢を出たんだろう?と不思議がり、鉄も、陣内さん、平次の奴は牢に入ってたんじゃねえんですかい?と言いながら、浪人に近づいて来たので、呼びかけられた陣内剛十郎は、今度の躓きはてめえのせいだ!江戸でドジさえ踏まなければ、平次に嗅ぎつかれることはなかったんだ!と叱る。

その時、船底に押し込まれていた娘の1人が逃げ出そうと甲板に出て来たので、蹴落とし、おたきが鞭で打ち据える。

他の娘たちは、それを見て、全員身をすくめる。

その頃、再び奉行所に出向いて来た京極近江守は笹野新三郎に、妙照寺に足を踏み入れ、寺社奉行に捕まった目明しがあったな?と聞くので、神田明神下の平次なるものですと答えると、その者、ただいまも入牢中か?と聞いて来る。

新三郎は答えに窮するが、再度、確認されたので、恐れ入ります!一旦は入牢を申し付けましたけれど、江戸に害毒を流す麻薬、及びに婦女子の誘拐、人身売買の実態を明かさんとする平次の熱意に打たれ、某の一存にて、表面は入牢中と致し、密かに表に…と答え、なにとぞお咎めはこの新三郎めに!と平伏する。

すると、それを聞いた近江守は、でかした!平次の熱意とそちの決断、共に褒めて取らすぞ!して、平次から連絡はあったか?と聞いて来る。

本日、早飛脚を持って…、さらに長崎に潜入致したいと…と新三郎が答えると、何?長崎までも…、さすがは平次、あっぱれじゃ…と感心した近江守、実は余も長崎奉行を努めておった経験から、災いの元はかの地にありと思い、隠し目付を放っておるのじゃ。だが、この隠密、長崎に入ってふっつり便りが絶えておる。深入りし過ぎて見破られ、抹殺されたのではないかと案じられる。平次とても危ない!良し、異例なことながら余が許す。与力の内、心効いたるものをただちに長崎に放て、平次に協力し、悪の根源を突くのだ!と命じる。

その時、そのお役目、ぜひとも某に仰せ付けのほどを…と名乗り出たのは、神谷仙八(島田竜三)であった。

本来なら、最初の行きがかりからして笹野を使わすべきだが、笹野は与力筆頭の職責上、江戸を離れることは出来ぬ…と長谷部伊予守は迷う。

それを聞いた近江守は、良し、神谷とやら、そちが行け!平次と共に存分に腕を奮えと命じる。

長崎

中国人の娘が胡弓を弾きながら、路地裏で歌っている。

その横を通り過ぎて行ったのが、お吟や陣内剛十郎たちだった。

中国人娘は歌いながら、その連中の方へ目をやっていた。

その時、歩いていたお吟に、薬をくれ!と絡んで来たのは、明らかに麻薬患者のようだった。

金はあるのか?と浪人が聞き、ないと知ると、ふざけやがって!と言いながら、その場で踏みつけにする。

ぼろぼろにされた麻薬患者に、中国人娘が、竜二さん!と言いながら駆け寄り、助け起こしてやると、酷いことを!…と言いながら、去って行った一味の方を観る。

どうやら、娘は、その男を知っている風だった。

その後、地元のとある屋敷にやって来た陣内たち一味は、何が無事に帰って来ましただ!平次とか言う犬に嗅ぎつかれやがって!鉄!てめえ、どの面下げてぬけぬけと帰ってきやがった!と二十坊主の鉄を叱り飛ばす声にすくみ上がっていた。

誰がそんなことを言いました?と鉄が相手に聞くと、側に一寸法師の陣がフーン!と鼻を鳴らしたので、こいつ!と鉄は殴り掛かろうとする。

そんな中、屋敷の側で、この辺でめっぽう面白え遊びをしていると聞いて来たもんで…と言い、祐天丸って船を知りませんか?と聞いて廻っている男がいた。

それを子分から伝え聞いた陣内剛十郎は、この長崎で祐天丸を聞く奴と言えば平次だ!と気づき、お吟も、畜生!とうとうここまで…と驚くが、良し、俺が斬ろうと言って陣内が立ち上がりかけると、止せ、相手は江戸一番の目明しだ、下手な消し方は出来まいと、椅子に座っていた覆面姿の男が止める。

平次は、その後も、中国人のトリオ(シャンバロー:柳四郎、岡三郎、邦一郎)がユーモラスな三味線とアコーディオン演奏の歌を店内で披露していた街の料理屋に寄り、客に酒をおごりながら、祐天丸のことを聞き出そうとしていた。

平次は、年に2、3回港に入って来るはずなんだと祐天丸のことを聞くが、5年も沖仲仕をやっていると言う客も知らねえと言う。

とうとう、翌日、回船問屋五島屋に客を装い乗り込んだ平次は、店の男に、祐天丸と言うお宅の船は、長崎には入らないんですか?と聞くと、大阪から、直接、清国へと向かうと言うではないか。

その夜も、流していた中国人トリオに、海はどっちですかと聞いて来たのは、琴江を連れて長崎に到着した八五郎だった。

中国人たちは、長崎は海に囲まれているので、塩の香のする方向へ進めばそこが海だなどと言い、金をせびって来たので、鐘を出してやった八五郎は、トリオが去ると、バカにしやがって!と怒る。

すると、琴江が、冬の風鈴は寂しいわねなどと言うので、その風鈴が下げてあった旅館の名前を確認した八五郎は、「越前屋」と書いてあったので、思わず、ここだ!と喜ぶ。

先に着いていた平次との待ち合わせ用の宿だったのだ。

平次は八に、明日から船を探すんだと命じる。

八が、先日助けた琴江と言う武家娘と一緒に来たと知らせると、お節介な奴だと言いながら、何か、庭先に気配を感じた平次は、手水鉢の水を庭に向かって撒いてみる。

すると、隠れていた一寸法師の陣が逃げ去って行く。

大阪で見かけた怪物だと呟いた平次は、八に案内され、琴江の部屋にやって来ると、先日襲われた心当たりは?と聞く。

しかし、琴江は知らないと言い、長崎に来た理由は、ある殿様からの命令で、お調べものに行かされた有賀伊織と言う人物を探す為で、殿様と言うのは若年寄の京極近江守だと打ち明ける。

それを一緒に聞いていた八は、麻薬の一件かも…と口を挟むが、平次にたしなめられる。

その頃、陣内やお吟が潜んでいた屋敷にやって来たのは、与力の神谷仙八だった。

神谷は、いきなり、その場にいた二十坊主の鉄の腹を刀で突いて殺すと、こいつだろ?江戸でへまをやったのはと言い放つと、俺は平次を助ける為にやって来たんだと含み笑いをする。

お蓮もいたのかと言いながら首領格の人物の前にやって来た神谷もまた、一味の仲間だったのだ。

一方、長崎奉行所に挨拶にやって来た平次と八だったが、平次は、その屋敷の渡り廊下を歩いて来た男の足下に目を止める。

昨日、出向いた五島屋の階段口で見かけた足下と同じだと気づいたからだ。

その人物は、祐天丸の持ち主である回船問屋の五島屋重兵衛(嵐三右衛門)だと平次は直感する。

その後、平次らの前に姿を現した長崎奉行岩城丹波守(稲葉義男)は、笹田新三郎から新書を受け取り、その方が当地に参った筋は分かった。しかしこの長崎は幕府直轄、そちごとき、一目明しが手を染める場所ではない。ましてやこの丹波守、そちごときの手を借りようとは思わん。早々にこの長崎より立ち去れ!二度と再び余の前に現れたときは、その分には差し置かんぞ!と居丈高な態度で言って来る。

その態度に驚きながらも、恐れながら、平次は命を賭けて参っております。役目が終わるまで、ご当地は離れませんと返答すると、良い覚悟だ。だがその方らの命の保証はできない!それが承知なら、勝手にするが良い!と一方的に言い放つと奥へ消えてしまう。

その頃、屋敷の寝室に戻って来た五島屋重兵衛は、一緒にいたお蓮から、お吟さんとは切れてくれるんだろうね?と甘えられ、あいつらとは手を切ってしまうつもりだ…と一味の連中のことを話しながら抱こうとしていた。

そこに入って来たお吟は、重兵衛とお蓮に嫉妬して憎まれ口を叩くが、重兵衛から怒鳴られて黙り込む。

そこに、一寸法師の陣がやって来る。

その夜も、路地裏で中国人娘玲花(藤本二三代)が歌っていると、その近くにやって来た琴江が横笛を吹き始める。

玲花の歌を聴いていた麻薬中毒の良二は、その笛の音に惹かれるように琴江の方へと近づいて来る。

浜辺にやって来た琴江に声をかけた竜二は、自分は有賀伊織(丹羽又三郎)だと正体を明かす。

琴江は、伊織のあまりの様変わり振りに驚きながらも、再会を喜ぶ。

麻薬の本拠地に入るため、自分で顔に傷を付けたのだが、結局、麻薬に自分自身が蝕まれてしまった。ただ、琴江殿の懐かしい笛の音だけは忘れられなかったが、探索を命じられた近江守様にはもう顔向けできないと伊織は打ち明ける。

そんな琴江と伊織の再会を、近くで見張っていたのは、お吟と陣内で、あいつは隠し目付だったのかと驚く。

伊織は琴江に、殿に報告する書状を届けてもらえまいか。この襟に縫い付けてあるのだと言い出す。

何もかも打ち明けた伊織は、清々しい気持ちになったと言い、もう一曲笛を聞かせてくれないか?と頼む。

そんな2人に気づいて、先ほどから様子を観ていたのは平次と八だった。

平次は、近くに姿を現した女に気づく。

それを見た八は、あれは妙照寺の尼さんですぜと驚いたように言う。

2人が危ねえと気づいた平次は物陰から飛び出すと、危ねえ!と叫びながら琴江と伊織の方へ駆けつける。

伊織たちに、浪人者が襲いかかる。

八に琴江を託した平次は、敢然と浪人たちに立ち向かう。

しかし、伊織は斬られ、襟に仕込んでいた書状を浪人者に奪われてしまう。

平次は、竜二!と呼び掛け、伊織を助け起こそうとするが、伊織は、五島屋…と呟いて息絶える。

平次が賊を追って去った後、伊織の死体に近づいて来たのは玲花だった。

可哀想な人…と伊織に同情するが、その時、その男を可哀想がっている時じゃないよと声をかけて来たのは、お吟だった。

お前もどうやら、こっちにとっちゃ邪魔な人間のようだ…と言いながら、帯から銃を取り出して、そのコ○キ男と一緒にあの世に…と玲花に近づいて来たお吟だったが、いきなり、玲花が撃った銃に自分の銃を撃ち落とされ驚愕する。

お吟に銃を突きつけながら近づいた玲花は、日本人はみんな良い人だ。だけど…、お前たちだけは鬼だ!畜生だ!と言いながら詰め寄る。

お前は一体…?と怯えたお吟に、お前たちに船を取られた李徳寿の娘玲花!お前たちはお父さんの船欲しさに、まるで虫けらのように殺し、海の中に投げ込んだ!五島屋はじめ、お前たち全部を私はこの手で殺してやるんだ!そして、父の恨みを…と言いながら迫る。

その時、待ちねえ!と言いながら、玲花から銃を取り上げたのは、戻って来た平次だった。

例え悪人でも、人を殺せばお前さんの手が汚れる。あっしは江戸の目明しだ。悪いようにはしねえと玲花に言い聞かせた平次は、逃げ出しかけたお吟を呼び止め、お前さんいに押しえてもらいてえことがあるんだ。この娘さんのお父っつぁんを殺して取ったと言う祐天丸はどこに隠してあるんだ?と聞く。

すると、それを聞いていた玲花が、違います!お父さんの船は順天号と言うんですと言う。

それを聞いた平次は、そうだったのかい…、祐天丸は長崎に入って来ると、順天号になっていたのかと気づく。

娘さん、ありがとうよ、こんな奴殺したって始まらないよ。悪い奴がいつまでも栄えてたまるもんかと、平次は玲花を励ます。

そんな平次の話を聞いていたお吟も、自分のことを反省しているかの様子だった。

しかし、浪人たちも戻って来たことに気づいた平次は、玲花を連れその場を逃げ出そうとするが、その途中、あいつらのたまり場を知らないか?と聞く。

二十間ほど先の蔵にいつも集まっていますと玲花は答える。

そんな平次は、伊織のことが気がかりで宿に帰りたがらないと言う琴江を連れた八に出会う。

伊織のことを琴江から聞かれた平次は、あっしはこれから五島屋の本拠地に乗り込まなければいけねえ仕事があるんだとごまかし、八に2人の娘を託すと、その場を立ち去って行く。

五島屋の蔵の中に忍び込んだ平次は、地下室から上がって来た女が、一寸法師の陣から書状を受け取り、その場を離れた隙に、地下室に潜り込む。

その後、女が地下室に戻って来ると、姿を現した平次は、死んだはずの妙照寺の尼さん!と声をかけ、伊織さんから奪ったものを返して頂きましょうと言い、彼女の懐から覗いていた紙切れを奪い取る。

しかし、その直後、五島屋重兵衛や陣内たちが地下室に入って来たので、平次は、投げ銭で吊り行灯を次々に落とし、部屋を暗闇にして上へと逃げ延びる。

そんな平次を見つけて声をかけたのは神谷仙八だった。

刀を抜きかけた神谷だったが、思い直して平次に近づいたのだった。

顔見知りの与力に声をかけられた平次は驚きながらも、その場を離れ、自分が近江守から脱牢を許されたと聞く。

神谷は、そんな平次を斬る隙をうかがっていたが、なかなか隙を見せない平次は、長崎を根城とする奴らの正体を掴みました。一味の首領は交易商の五島屋重兵衛です。さらった娘と交換に清国の商人から麻薬を買い入れ、それを国内に流し、大層な利益を貪っている。餅舟は祐天丸と言うんですが、この長崎に来て、船の名前にからくりがあるのが分かりましたと報告するので、それは順天号と言うのではないか?と神谷は指摘する。

あの岬の向うの入江に隠してある船を見つけた。密かに入江を廻って探って来たのだと言うと、今夜にでも行ってみますと平次は喜ぶ。

危ない真似は止せ。そこまで探っているのなら、捕り方を動員して一味を捕らえるのはらちもないことだ…と神谷が諭そうとすると、奴らも追いつめられています。きっと日本を離れるに違いありません。万一手遅れになっちゃ、一切が水の泡になってしまいますと平次は言う。

では、万一のことを考え、手勢を仕立てるよう長崎奉行に知らせておこうと神谷が言うと、長崎奉行と?と平次は戸惑ったような表情になる。

五島屋重兵衛の屋敷に戻って来た神谷は、敵ながら隙のない奴だ。谷地は俺を信用しきっている。面白い罠を仕掛けて来た。着たの入江に繋いであるボロ舟を順天号と教えてやったのだと神谷は愉快そうに報告する。

一方、越後屋に帰って来た平次は、部屋の中で縛られている八五郎を発見する。

庭から賊がいきなり入って来て、2人の娘をさらって行ったと言う。

平次は、先ほどお漣から奪った紙に書かれた「平次を消せ 女をさらへ」と書かれた指令書のような内容を読む。

そして、八五郎に、船着き場に行って、艀を用意するよう命じる。

船着き場に急いでいた八五郎に声をかけて来たのは、お吟だった。

のこのこ出かけて行くとやられるよとお吟は忠告しようとするが、一味の女と知っている八五郎は相手にしようとせず、そのまま行ってしまう。

その直後、お吟は、見張っていたらしき陣内から、仲間を売ったな?と声をかけられ、その場で斬られる。

八五郎の後を追おうとした陣内だったが、倒れていたお吟は、帯の背のお太鼓の中から銃を取り出すと、陣内を背後から撃って息絶える。

その頃、長崎奉行所には、若年寄京極近江守が当地に到着するとの伝令が到着していた。

八が用意した艀に乗り、入江に繋いであった舟に乗り込んだ平次は、甲板上に落ちていた玲花の飾り紐を発見する。

船底を洗ってみようと八を誘い、中に入り込んだ平次だったが、闇の甲板で蠢いていたのは、一寸法師の陣だった。

陣は、導火線に火を点ける。

一方、船底に降りた平次たちは、牢に捕われていた玲花を発見、助け出そうと牢の中に入った瞬間、開いていた扉が閉まって閉じ込められてしまう。

きな臭いことに気づいた平次は、導火線の火が牢の近くに積まれた火薬に近づいていることに気づき、八五郎に扉を開けろと命じる一方、自分も投げ銭で導火線を切ろうとする。

しかし、扉は開かないし、平次の投げ銭も当たらない。

徐々に導火線は短くなっていた。

とうとう平次の持っていた銭は最後の一枚になってしまう。

平次は、当てちゃいけねえ…と、自分を落ち着かせる為にわざと逆のことを心に念じる。

そして、最後の銭を投ずるが、その銭が見事に導火線を断ち切る。

その直後、岸に上がって来た一寸法師の陣は、ボロ舟が大爆発を起こし沈没して行くのを確認する。

その頃、本当の順天号の船上では、神谷仙八が船出を祝って、五島屋重兵衛やお漣とワインで乾杯をしていた。

ところが、ワインを口にした重兵衛とお漣は、急に苦しみ出す。

それを見ていた神谷は、俺たちと縁を切りたかったんだろう?てめえたちは、ついでにこの世からも縁を切るんだなと嘲笑する。

その時、船に戻って来た一寸法師の陣は、重兵衛とお漣を毒殺されたと気づくと、神谷に飛びかかって来るが、一刀の元に斬り捨てられる。

神谷は、浪人たちに帆を揚げるよう命じるが、その挙りかけていた帆が何故か途中で切れて落下して来る。

甲板には、一枚の穴明き銭が落ちて来る。

神谷の旦那、奉行所の中に黒幕がいようとは…、なるほど見事な悪党振り。先刻からとっくり拝見させて頂きやしたぜ。昔のよしみだ。腹斬るなら、介錯ぐれえは努めますぜ…と言いながら姿を現したのは平次だった。

神谷と戦い始めた平次だったが、その時、物陰から飛び出し、神谷を短刀で突いたのは琴江だった。

そこへ、あっぱれだぞ、両名のもの!平次、見事悪の根源を突き止めたるそちの働き、又、女ながら伊織の仇へ報じたる琴江、共に褒めてつかわすぞと声をかけて来たのは、いつの間にか配下を連れ、舟に乗り込んで来た京極近江守だった。

しかし平次は、おっと、その言葉、最後の仕上げをして頂きとうございますと言い、琴江に近づく。

琴江さん、てめえの正体を隠す為に、悪党同士が殺し合いをやるのは良くある手だが、ちいっとばかり御念が入り過ぎましたぜと平次は言う。

しかし、お前さんだけには、最後の土壇場まで騙されたぜと言いながら、平次が取り出したのは、2枚の書状だった。

一枚は「平次を消せ」と、五島屋に一寸法師の陣が持って来た命令書、もう一枚は、越後屋に残されていた宿帳に書かれた琴江の文字だった。

両方の字が同じ筆跡であることは明らかだった。

おめえこそ、悪党の中でも憎んでも憎みきれねえ!と平次が言うと、突然、琴江は短刀で突きかかって来る。

平次が平手打ちでそれを交わすと、観念した琴江は、振り向きざま、自らの胸に短刀を刺して自害する。

さらに平次は、御前、御前はどうしてこの女の名前をご存知なんで?と聞く。

もっとも、御自分の腰元なら知っていて何の不思議もねえ訳だが、だが午前、天下の若年寄が、悪党一味しか知らねえこの船に、初手からどうして乗っておいででした?

長崎奉行の当時から私腹を肥やす金づるとして、ご禁制の麻薬の密売から人心の売り買い、その悪行は若年寄になった今日まで私情を惑わし、罪科もねえ人を苦しませ、殺したその非道は!と平次が詰め寄ると、急に、近江守は、斬れ!と部下の浪人たちに命じる。

平次は投げ銭で応戦し始めるが、八も押っ取り刀で参戦する。

やがて、平次は銭の束を根本から斬り落とされてしまう。

平次は、十手の握り部分に巻き付けていた紐をほどき、十手を分銅のように回し始める。

そして、近江守の首に巻き付け引き寄せると、マストを八と共に回し、浪人たちを蹴散らす。

そして、近江守の大刀を奪った平次は、恥を知るなら潔く!と迫るが、そこに駆けつけて来たのは、長崎奉行岩城丹波守だった。

近江守殿、幕府直轄の地たるこの長崎を預かる某、身分の上下を問わず、職権により究明致す!神妙に立たれい!と言葉をかけたので、近江守は観念する。

平次、でかした!礼を申すぞと言う丹波守にへい!と答えた平次は、八五郎に下の娘たちの救出をさせる。

見張りのおたきを押しのけて、娘たちの捕縛を解き始めた八五郎は、みんな帰れるぞ。おめえたちの救いの神様はな、神田明神下の銭形の平次親分だ。そして俺はな、その位置の子分で八五郎ってんだと自慢する。

その後、救出された娘たちは、全員駕篭に乗り江戸へと向かう中、平次と八も、岩城丹波守と玲花に海岸で別れを告げていた。

八、江戸に帰ると、おめえ忙しくなるぞ。あの娘さんたちがどっとお礼に押し掛けて来るぞ。八、おめえ、一人もんだろ?と平次がからかうと、八五郎も相好を崩し、こいつは答えられねえやと喜ぶ。