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妖蛇の魔殿

戦前のマキノ正博監督作品「自来也(忍術三妖傳)」(1937)のカラーリメイクであり、怪獣ブームの最中作られた松方弘樹主演の「怪竜大決戦」(1966)の元ネタのように思える。

何故、そう考えるかと言うと、「妖蛇の魔殿」「怪竜大決戦」共に同じ東映版自来也映画と言うだけではなく、両作品とも綱手姫が蜘蛛に化身するからである。

後年「怪竜大決戦」を観直した時、本来「自来也=大蝦蟇」「大蛇丸=大蛇(竜)」「綱手姫=ナメクジ」に化身する設定のはずなのに、何故、この作品に登場している綱手(小川知子)は蜘蛛に変身しているのだろう?と言う疑問があった。

「カエル」「蛇」「ナメクジ」の三すくみの発想が元になっているはずなので、単純に、映画化に際し、「ナメクジでは様にならない」「強そうに見えない」「格好悪い」から変更したのだろうと思われるが、その原点がこの作品だった事を発見した訳だ。

戦前の「自来也」では、綱手が変身するシーンがないのもおそらくは同じ理由からだろう。

又、ナメクジの作り物を作ろうにも、当時は難しかったとも考えられる。

私が知る限り、古い児雷也(自来也)映画としては、この前年に作られた「忍術児雷也」(1955)だけがナメクジをきちんと再現しているが、それに乗った綱手姫は、正直かっこ良いとは言い難く、又、強そうにも見えなかった。

この作品での綱手の蜘蛛の糸は、ちゃんと妖術の力、武器として表現されており、そう言う部分では成功していると感じるのだが、この作品では、肝心の自来也の大蝦蟇が登場しない。

一応、障子に写るシルエットとしては登場するのだが、作り物自体は出て来ないのが寂しい。

戦前の「自来也」では、大蛇やナメクジは出なかった代わり、大蝦蟇の作り物は最後の見せ場として登場しており、本作品でも、大蛇の作り物は出て来るだけに、自来也と言えば大蝦蟇!と言うべき大仕掛けが登場してないのが何とも物足りない。

映画としても、カラーになっている以外の見せ場に乏しく、特にチャンバラ部分は迫力不足と言うしかない。

アクションに魅力がない一番の原因は、主役である御大千恵蔵がこの役をやるにしては老け過ぎているためだろう。

この時、御大は50を過ぎていたはずだが、映画の中では、父母を目の前で殺害されたのが12の時、それから17年(十余年)経って成人した青年が、親の復讐を果たすと言う設定なのだから、この主役自来也の年齢は20代のはずである。

実際、顔は白塗りにくっきり目張りを描き、歌舞伎の衣装のようなド派手な衣装を着て御大が登場しているのは若者と言う設定だからだろう。

しかし、その中味は、大きな顔にでっぷり太った身体で、ジャンプ力も衰えたような中年男。

下手をすると、復讐する自来也の方が、復讐される敵役より老けて見えるから困りもので、これで眼の覚めるようなアクションを期待する方がどだい無理である。

対する月形龍之介の方も、もう水戸黄門の方が似合いそうな中年顔で、トンボを切るシーンなどは当然ながら吹き替えを使っている。

顔に渋い迫力はあるものの、こちらも激しいアクションなど到底望むべくもない。

では、話は面白いのかと言うとこれも首を傾げたくなるような展開で、妖術を使い、姿を消したり、魔法のような事ができると言うスーパーマン設定の割りには、あっさり単純な敵の計略に乗せられたりしているのが何とももどかしい。

戦前の「自来也」にあった綱手のツンデレ風キャラクターも影を潜め、自来也との言い争いのユーモラスさなども減少している。

おそらくこれも、御大と綱手姫役の実年齢ギャップが大き過ぎる為ではないだろうか。

この二人が同じ若者同士と言う雰囲気がないと、たあい無い言い争いや女性が男をビンタすると言った辺りの面白みは生まれ難い。

「自来也」で、敵役としてはかなり印象が弱かった大蛇丸を前半部分から登場させ、それをベテランの月形龍之介に演じさせる事によって、ようやくライバルらしい風格が出ているのがせめてもの救いだが、その他の新たな要素、深雪や綱手の家来などは全体的に影が薄く、十二分に生かされているようには思えない気がする。

ただ、当時はまだ珍しかったカラー特撮映画であるだけに、自来也が消えたり、突然嵐が起こって、磔台が空中へ飛び去ったりと言う、部分部分の幻想シーンには見るべき部分もあるし、薄田研二が演じている仙覚道人なども、水墨画に描いたような仙人イメージで、なかなか味があるキャラクターになっている。

では、特撮映画としてこの作品を評価出来るかと言われると、やはり、後半の見せ場の少なさが致命的なような気がする。

この映画単体としての面白さと言うよりも、あくまでも、「自来也」→「妖蛇の魔殿」→「怪竜大決戦」と言う、同じ素材のリメイクの流れを知る為の参考映像として評価すべき作品のように思える。

ちなみに、この当時の東映の会社クレジットには、お馴染みの岩に砕ける波のシーンはまだない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1956年、東映、比佐芳武脚本、松田定次監督作品。

ブルーの背景の左上から差し込んだ灯が東映の黄金で立体的な三角マークを照らしているように見える会社ロゴ

戦国乱世の頃 信州で(と山並みを背景にテロップ)

山道をひた走る一群の馬には、黒装束で固めた一党が乗っていた。

その先頭を走るのは首領の更科弾正(山形勲)だったが、その行き先方向から馬を走らせて来た1人の黒装束の斥候に、手はずはすんだか?と尋ね、良し、抜かるな!と配下の者たちに声をかけると、又馬を走らせ始める。

彼らが到着したのは、信州を治める尾形左衛門の館だったが、門番があらかじめ承知していたかのように内側から門を開いたので、弾正一行は馬を止めることもなくそのまま館の中に侵入する。

その時、寝ていた城主尾形左衛門(原健策)、奥方お牧の方(松浦築枝)、そして一子太郎丸(植木基晴)は、異変に気づき目覚める。

寝室に入って来た家臣の生島現藤太(戸上城太郎)と五十嵐典膳(加賀邦男)が、夜討ちでございます!と報告したので、飛び起きて刀を手にしながら、直ちに迎え撃て!と命じた左衛門だったが、現藤太と典膳は動こうともせず、我らはもはや殿の家臣ではござらぬ、更科弾正殿とは1日前に取引いたしたと言うではないか。

裏切られたと知った左衛門は、2人と斬り結びながら、奥方と太郎丸を逃がそうとするが、既に館内に入り込んでいた弾正一味にあっさり捕らえられてしまう。

左衛門ら3人は、寝間着姿のまま縛られ、馬に乗せられてとある丘に連れて来られると、そこで親子3人とも磔にされてしまう。

そうした様子を、突如森の中に出現し、遠くから眺めていたのは仙覚道人(薄田研二)だった。

その3人を前にした更科弾正は、討ち、討たれるは武運の流れじゃ。詮無いことじゃ。何か申し残されることがあれば承っておこうと愉快そうに言いだす。

左衛門は無念の形相で口は開かなかったが、奥方は何かないか?と問われたお牧の方は、子供には何の罪もありません。仏門に帰依させ、末永く私たちの供養をさせて下さいと願い出る。

それを聞いた弾正は鷹揚に承知する。

左衛門はその場にいた生島現藤太と五十嵐典膳に、死んでも許さんぞと恨み言をぶつけるが、2人は皮肉で返すだけだった。

その直後、尾形左衛門とお牧の方は、中央に縛られた太郎丸の観ている前で突き殺されてしまう。

そして弾正は現藤太に、太郎丸の命を自ら仕留めろと命じたので、さしもの現藤太もぎょっとする。

今しがた奥方と交わした約束など待った悔いに返さぬように、嬰児ならいざ知らず、12歳の童では、今の事は時が立とうと忘れまい。生かしておけばゆくゆくは仕返しに来る恐れがあると言い放った弾正は、現藤太に槍を持たせる。

仕方なく現藤太は槍を持って太郎丸に近づくが、父上を返せ!母上を返せ!と叫ぶ太郎丸に、恐ろしいか?恐ろしければ叫べ!泣け!吼えろ!と嘲る。

そんな現藤太に、お前にはこれをやる!と告げた太郎丸は、いきなりつばを吐きかけたので、かっとした現藤太は槍を突こうとする。

その瞬間、仙覚道人が放った光の礫が刑場に届くや否や、一天にわかにかき曇り、雷鳴が轟き、豪雨が降り出したので、弾正たちは驚いてひれ伏す。

その時、太郎丸が縛られていた磔台が根こそぎ引っこ抜かれ、そのまま弾正らの目の前で空に向かって飛び去って消えて行く。

山河は変わらず幾星霜点、人の世の移り変わりは激しく、生島現藤太は今や信州佐久の地頭、五十嵐典膳はその隣、美濃黒田の城主、そして更科弾正は将軍守護職になっておる…と山頂で語りかけていたのは、十余年後の仙覚道人だった。

悪の報いは自ら来る也。そなたは両親の復讐をしたいであろうが、天網恢々粗にして漏らさず。世がそちに与えし妖術、滅多な事で使う出ないぞ。くれぐれも不覚を取らぬよう気をつけねばなりませぬと続けた仙覚道人は、さらば!いざ行かん!と言葉をかける。

かつて両親が処刑された丘にやって来た太郎丸、今や成人し、尾形宗久(片岡千恵蔵)と名乗っていたが、空中に浮かんだ3つの十字架、あの父母を死に追いやった磔台を思い出すと、静かに合掌するのだった。

信州佐久の城の掘に写った尾形宗久こと自来也の姿が、波紋と共に覆面姿へと変身する。

忍び装束になった自来也は、右手で城門に向かい、一旦の布を投げると、白いその布は城門へと続く橋のようになり、自来也はその上を渡って城内に忍び込む。

警護の侍たちは全員居眠りをしていた。

そんな中、生島現藤太の寝所に向かう障子、襖が独りでに開いて行き、寝所に置かれていた屏風に「自来也」と言う文字が浮き上がる。

寝苦しさで目覚めた現藤太は、屏風に書かれた文字に気づき驚くが、その時、どこからともなく笑い声が響いて来たので、誰じゃ?!と呼びかけると、部屋の隅にいた自来也が、天下りし侍の語りし物語、しかとお聞き届けけられよ…と前置きするや、今を去る事17年前、家臣生島現藤太と五十嵐典膳の裏切りにより、更科弾正の計らいで無念の御最期を遂げた尾形左衛門の一子太郎丸、成人して尾形宗久。仙覚道人の妖術に助けられた後、今や復讐の鬼と化し、ここに推参!と口上を述べる。

現藤太は、誰か!と声を挙げるが、立ち上がって近づいた自来也は、恐ろしいか?恐ろしければ叫べ!泣け!吼えろ!と、太郎丸時代に嘲られた言葉をそのまま返すと、刀を取ろうとした現藤太を一刀の元に斬り捨てる。

異変に気づいた家臣たちが廊下に出ると、寝所から出て来た自来也は、生島現藤太は尾形宗久が討ち倒した!と言い、駆け寄った彼らの目の前から姿を消して行く。

隣の美濃黒田城にいた五十嵐典膳は、信州佐久より火急の使者でございますとの知らせを受け、その使者と対面すると、御人払いをと言うので、連れて来た家臣を下がらせる。

そして、所用とは?と尋ねると、生島現藤太様、人手にかかって儚く御落命…と使者が言うので、相手は誰だ?と問いただすと、自来也でございます。悪の報いは自ら来る也!と告げた使者こそ、その自来也だった。

観ろ!と自来也が指差す方を観ると、屏風に自来也の字が浮かび上がり、その方の裏切りで死んだ尾形左衛門の一子尾形宗久!又の名を自来也!と名乗ると、怯えた典膳はいきなり、床の間の壁を動かしてその奥の隠し通路に逃げ込む。

それを追おうとした自来也だったが、家来たちが駆けつけて来たので、やむなく斬り合いを始め、印を結ぶと、家来たちの足下に火が広がる。

家来たちが怯えて足をすくませる中、自来也は姿を消す。

その後、京へ馬を走らせる五十嵐典膳とその一党の様子を森の中から監視していた天眼藤兵衛(片岡栄二郎)は、滝の側にある館に戻って来ると、そこに仲間たちと共にいた綱手姫(長谷川裕見子)に、今観て来た事を知らせる。

馬上で典膳が話していた会話の内容から、自分等以外にも更科弾正の命を狙っているものがいる様子と聞いた綱手姫は、遅れを取ってはなりませぬと言うと、すぐにでも出立の準備を始めようとしたので、例え妖術を使う姫でも相手は将軍守護職ですと藤兵衛は止めようとする。

しかし、綱手姫が、それでは、亡き父上様の御恨みはどうなるのです?母を殺されたそなたとて気持ちは同じなのでは?と問いかけると、感極まった藤兵衛はその場に泣き伏す。

結局、綱手姫は男装の旅仕度をし、とある辻堂の前で、お供をする藤兵衛、左右田三作(東日出雄)、太刀川平助(国一太郎)らと京での落ち合わせの場所は五条の江州屋か寺町の西芳寺でと決め、一緒の所を敵に悟らせぬ為、先に行かせる。

辻堂の所で座っていた綱手姫を、堂の中から覗き込む人影があったが、姫は気づかなかった。

その時通りかかったのが自雷也だったが、彼は綱手姫を睨みつけて通りすぎようとしたので、不快に感じた綱手は呼び止め、何故、俺前様は、あのような妙な素振りを御見せなさった?と詰問する。

異様な妖気があったので、あなたではないかと思っただけだと自来也は答えて通り過ぎて行こうとするので、綱手姫は憤然とする。

すると、辻堂の中から出て来た男大蛇丸(月形龍之介)が、面白い会話を聞かせてもらった。どこまで行く?大津だな?旅は道連れと言う。一緒に行こうと無遠慮に声をかけて来るが、綱手は断って先に歩き出す。

しかし、綱手姫の行く手に突如大蛇が出現、驚いて立ちすくんだ彼女に近づいて来た大蛇丸が、どうだ?大蛇丸とはこういう術を使う男だ。御主のような若衆には助けになろうと一方的に迫り、名と京へ行く訳を聞いて来たので、仕方なく綱手姫は月影浜之助と名乗り、将軍守護職様に…と答えると、仕えたいのか?ならば手づるがある。万事俺に任せておけと大蛇丸は笑う。

面倒な男につきまとわれたと感じた綱手姫は、湖の側に来た時、急に水辺に駆け寄り踞ると、胸の辺りが苦しくなったと言う。

すると、大蛇丸が、俺が擦ってやろうなどと言いながら、綱手姫の胸に手を伸ばして来たので、その手を掴んで捻った姫は、大蛇丸を湖に投げ込んでしまう。

観ていると、大蛇丸は水の中で蛇に化身し、どこへともなく泳いで行った。

邪魔者がいなくなった綱手姫は、京への道を急ぎ、先を歩いていた自来也に追いつくと、あの辻堂の中には1人の男がいました。大蛇丸と言う妖術使いです。異様な妖気はその男が発していたものですと説明する。

わざわざそんな事を言いに来たのか?と呆れた自来也が名前を聞いて来たので月影浜之助と綱手姫が答えると、自来也は田丸親兵衛と名乗る。

妖気を発していたなどと濡れ衣を着せられ気が収まらない綱手姫が、この際、男らしく詫びて頂きますと迫ると、自来也は、蛇のような執念だなと嫌味を言うので、又綱手が怒ると、くどい!と自来也は叱りつけ先を急ぐので、綱手も負けじと後を追う。

そんな2人の後から、いつの間に現れたのか、大蛇丸も黙って付いて来ていた。

その夕方、自来也は、「更科弾正様御宿」と書かれた宿の隣に泊まる事にしたので、同じく綱手姫も同じ宿に入る。

部屋に案内した女中おつぎ(赤木春恵)に、それとなく隣の宿に泊まっているものたちの事を自来也が聞くと、更科弾正自身ではなく、その家来の熊田軍太左衛門が、このたび弾正が新しい妾として指名した深雪のお迎えに、30人ほどの仲間と来ているのだと言う。

おしゃべり好きなおつぎは、深雪様は今回の縁談を喜んでいないと言いかけるが、そこに後から別の部屋に案内されて来た月影浜之助こと綱手姫が通りかかったので話をやめてしまう。

その頃、隣の宿では、熊田軍太左衛門(清川荘司)が同行して来た深雪(田代百合子)に、弾正様に逆らえば一族郎党が滅ぼされるので、お気に召すように勤めるしかない。他にも側室はいるのだと厳しく言い聞かせていた。

一方、京都守護職になっていた更科弾正の屋敷にやって来た五十嵐典膳は、生島現藤太が、尾形左衛門の一子宗久に討たれた。自分は何とか逃げ延びて来たが、後を追ってこの家に来るのは必定と報告する。

それを聞いた弾正は、臆病風に吹かれたか?わしに開運の気をくれたそなたをそう易々とは討たせはせん。安心してこの家に留まるが良いと笑う。

そんな中、小さなガマガエルと自来也が隣の宿に出現していた。

異変を察した熊田軍太左衛門は、すぐさま深雪の部屋に様子を観に行くが、何ごともないので首を傾げる。

宿に戻って来た自来也を目撃していた綱手姫は、このような夜更けにいずれに?と廊下で話しかけるが、お手前は何故かような時刻まで起きておられる?と逆に聞かれたので、隣の宿の事が何となく気になりまして…、玉の輿の乗る女子の気持ちとはどのようなものでしょう?と答える。

しかし、自来也は、明日は早立ちをせねばならぬので失礼と言い、部屋に入ってしまう。

そんな2人の様子を、庭先に忍び込んでいた大蛇丸はじっと監視していた。

翌日、深雪を連れ出立した熊田軍太左衛門一行を山中で待ち構えていた自来也は、術を使って、二叉路の道の片方を消してしまう。

一行はそれに気づかず、行き止まりになる方の道を進んでしまったため、途中で道がなくなってしまい戸惑っていると、そこに笑い声と共に自来也が出現、何奴だ?と軍太左衛門が聞くと、忘れたか?こちらは覚えておるぞ。十余年前、尾形左衛門の屋敷に攻め込んだ手勢の先頭にそちの面があった。俺はその時生き残った尾形宗久、又の名を自来也!と名乗りを上げる。

そんな様子を物陰から観ていたのは綱手姫。

しばらく斬り結んだ後、自来也を恐れた家来たちが逃げ出したので、熊田軍太左衛門も一緒に逃げ出そうとするが、その背中に一太刀浴びせた自来也は、覚えたか!と叫ぶ。

輿に乗っていた深雪に、今から国へ帰ったのでは怪しまれるので、拙者と共に京へ上り様子を観られてはいかが?では白川口へ…と声をかけた自来也だったが、その言葉に深雪は素直に従おうとするが、その時、姿を見せた綱手姫は、緊張した自来也に対し、考え違いをなさるなと諌めると、隠れ家として寺町二条の京の西芳寺に行き、この緋袋を見せればきっと宿を貸してくれるはずですと言いながら、持っていた緋袋を深雪に手渡すと、いずれ又と挨拶して立ち去って行く。

自来也と深雪も立ち去った後、草むらから姿を現したのは大蛇丸、これまでの一切を密かに監視していたようだった。

一方、深雪が山中で自来也らしき男に連れ去られた後、大津でそれらしき姿が目撃されたと報告を受けた更科弾正は、すぐに探索をして、自来也を見つけ次第、斬り捨てい!と部下に命じていた。

その後、綱手姫はかねて打ち合わせしていた五条の店にやって来ると、先に到着していた天眼藤兵衛らと合流する。

途中、何か変わった事は?と聞かれた綱手姫は、あったと答えると、自分と同じような境遇で更科弾正の命を狙っている尾形宗久、別名自来也と言う妖術使いと出会ったので、西芳寺に案内しておきましたと伝える。

それを聞いた藤兵衛らは驚き、まさかそやつに先んじられるような事はありませんか?と案じるが、かえって居所が分かっていた方が相手の動きを察知し易いと思うと綱手姫は説明すると、その足で西芳寺を訪れる。

緋袋を持参した客が来ませんでしたか?と聞くと、既に到着していると一夢和尚(香川良介)は答える。

そこに、いきなり入って来た大蛇丸は、驚く綱手姫脇坂と和尚に、世の中は、やれ自来也がどうとか、ご側室がどうとかうるさい事だ。宿を貸して欲しいと図々しく申し出、断る隙もなく勝手に上がり込んでしまう。

そして、先に投宿していた自来也の元にずかずかとやって来た大蛇丸は、甲賀生まれの大蛇丸だと名乗る。

自来也は動じず、田丸信兵衛と仮名を名乗ると、自来也と言われているそうだな?とあっさり見抜いた大蛇丸は、更科弾正は明後日北の天満宮に参られる予定だそうだ。流儀は違っても同じ妖術使い同士がこうしてあったのも何かの縁、手伝おうか?と申し出たので、復讐は自分1人でやるので必要ない!と自来也はあっさり断る。

すると大蛇丸は、気に入ったぞ、あっぱれなその心意気!とすっかり自来也を気に入ってしまう。

一方、京の町中を探しまわっていた家来から、白川口の茶店のものがそれらしき姿を見かけたとの報告を受けた更科弾正は、もう京に入り込んだか!と驚いていた。

自来也ならやりかねんと五十嵐典膳が口を出し、側室楓(美山れい子)は、明後日の天満宮参詣は御止めになった方が…と勧めるが、気難しい弾正はいら立って、重ねて申すな!と叱りつけるだけだった。

その頃、寺男畑作(村田宏二)に、月影殿は?と聞いた自来也は、住職と一緒に裏の墓に参っていると聞き、様子を観に行くと、綱手が墓参りをしている所だった。

亡き父上は、あやつめの栄達を地下からつぶさに観て、如何にお思いでしょう…と一夢和尚が語りかけると、必ず討つと誓いました…と答えた綱手姫だったが、けれど…、迷うと言うことはいけない事ですねと沈んだ表情で続けたので、迷うとは?と一夢和尚は聞き返す。

しかし、綱手姫は何も答えないまま、和尚と共に庫裏へと戻ったので、その会話を木の陰で聞いていた自来也は、綱手姫が拝んでいた墓の前に来るとその墓に刻まれた脇坂信孝と言う文字を確認する。

脇坂信孝と言えば、奥州長浜の城主であったな…と自来也は思い出す。

大蛇丸も畑作から自来也たちが裏の墓地にいると聞いたのでそこに出向き、足軽たちのたまり場で聞いたのだが、明日、更科弾正は予定通り天満宮に参るそうだ。どうしてもやるか?と更科弾正に告げる。

そして、いよいよ更科弾正参詣の当日。

沿道には、天眼藤兵衛を始め、左右田三作、太刀川平助らが物売りに化け潜入していた。

藤兵衛は物陰に潜んでいた綱手姫に、もっと良い場所にいた方が?と声をかけるが、あの方がいます。あの方に会ったのも天命です。ここにいても守護職様には会えるはず、静かに待ちましょうと綱手姫は言い聞かせる。

やがて、更科弾正を乗せたと思しき輿が沿道にやって来たので、突如その前に飛び出た自来也は、輿の覆いを開けて中を覗き込むが、そこには石が積んであるだけだった。

計られたと悟った自来也だったが、警護の侍たちが斬り掛かって来たので、やむなく応戦しながらその場を逃げ出そうとする。

深編み笠姿で事の推移を見守っていた大蛇丸は、近くの木立の所に来ると、1本の木の幹目がけ小柄を放つ。

すると、木の幹に捕まって姿を消していた自来也がその小柄を受け止めた瞬間、姿を現したので、追手の侍たちが気づく。

自来也はその場からも逃げ去るが、そんな自来也を見送った大蛇丸はざまぁ見ろ!と罵倒する。

そこに、綱手姫と藤兵衛が駆けつけて来たので、残念ながら奴は仕損じた。奴には俺が付いているから、お前は早く寺に戻れ!と大蛇丸は命じる。

言うことを聞き、素直に西芳寺に戻っていた綱手姫は、度胸を終えた一夢和尚と自来也の帰りを待ちわびていた。

その時、今、和尚がいた本堂から鐘の音が聞こえたので、何ごとかと戻ってみると、そこに帰って来た大蛇丸が座っており、俺にも人の後生を弔う気持ちはあると言う。

驚く綱手姫に大蛇丸は、追手に聞いた所、奴は井戸にはまって死んだらしいと教え、和尚には、先ほど門前に怪しい人影がいたので戸締まりを用心して来てくれと頼む。

一夢和尚が本堂を出て行くと、大蛇丸は綱手姫に、聞かせてやりたい事があるからここに来いと近くに呼び寄せる。

もっと寄れと呼び寄せた大蛇丸は、近づいた綱手姫の手をむんずと掴むと、何故、男の姿などしておる?辻堂に来たときから御主の正体は分かっていたと詰め寄り、俺は蛇だ。大蛇の化身だ!滅多に離さんぞと言いながら、必死に抵抗する綱手姫を組み伏せようとする。

その時、執拗に抱きついて来る大蛇丸の右手を掴んだものがあった。

綱手姫はその姿を観ると、ご無事で!と喜ぶ。

それは死んだと思っていた自来也だったからだ。

自来也は大蛇丸に、何をしていたのだ?と厳しい表情で問いかける。

すると大蛇丸はその目で観た通りだ。女がいるからだと答えたので、女とは?と自来也はとぼけると、綱手姫をその場から逃がす。

大蛇丸と自来也の戦いが始まり、大蛇丸はトンボを切って身を交わすと、蛇に化身して庭から塀を超え逃げて行く。

そこに戻って来た綱手姫がお怪我は?と案じると、さしたる事はないと答えた自来也は、奥へ行こうと誘う。

そして自来也は、急いで深雪殿を五条の店に連れて御行きなさい。間もなく大蛇丸が訴人となって、役人どもがここへ踏み込んで来るはずです。道は一つだと戸惑う綱手姫に言い聞かせ、月影殿、今こそご身分を御明かし下さいと迫る。

綱手姫は意を決し、更科弾正によって討ち滅ぼされし奥州長浜の城主脇坂信孝の娘綱手でございますと正体を明かす。

それを聞いた自来也は、父上の恨み晴らさん為、本日何故、先駆けをなさらなかった?何故でござる?と問いただす。

あの…、同じ想いの方がおられる事を知りました。親を亡くした想いは誰も同じ事。その方が御本懐を達せられるでしょうと綱手は恥ずかし気に答えるが、しかし、拙者は不覚を取りましたと自来也は自嘲する。

こうなれば、尋常に命を捨てる覚悟と綱手は伝えるが、今すぐ五条へ参られい!わしはここにあって奴等に捕縛されると自来也は言う。

その頃、大蛇丸は、西芳寺に自来也がいることを更科弾正に伝えていた。

もし、逃げていたときは?と弾正は聞くが、その時は別の方策があると大蛇丸は自信ありげに言う。

その直後、西芳寺にやって来た弾正の家来たちによって、部屋にいた自来也は抵抗する事もなく捕らえられる。

その様子を目撃した一夢和尚と畑作は、五条の江州屋に来ると、そこで待っていた綱手に、尾形様は召し捕られた事を伝える。

それを聞いた綱手姫は、自ら救出に向かおうとするが、それを見ていたミユキは、自分も一緒に連れて行ってくれと願い出る。

その身雪乃言葉を聞いた江州屋次郎兵衛(明石潮)は、手前に策がございますと言い出す。

その後、深雪を乗せた輿を左右田三作、太刀川平助が担ぎ、江州屋次郎兵衛と天眼藤兵衛は更科弾正の屋敷にやって来る。

自来也は縛られ、屋敷内の牢に幽閉されていた。

連れて来た五十嵐典膳に顔改めをさせた結果、本物の自来也と判明したので、更科弾正は安堵し、自来也とやら、討てるものなら討ってみろ!この弾正の屋敷の牢を破れるものなら破ってみい!一太刀でも浴びせてみるが良いと牢の前で挑発する。

そんな弾正に、深雪を連れて参ったものがいるとの知らせが届く。

居間で会おうと伝え、屋敷に戻ろうとした弾正に、なりません!と止めた大蛇丸は、何やら怪しい予感がする。まずは拙者が様子を見て来ようと言い出す。

そして、牢の中で縛られていた自来也に、御主もなかなかの知恵者だが、どうやら俺が勝ったようだなと大蛇丸は笑いかける。

弾正も万一の時に供え、大蛇丸と共に辺りを固めい!と家来たちに命じる。

丸屋次郎兵衛と名乗っていた江州屋次郎兵衛は、様子を観に来た大蛇丸に対し、天眼藤兵衛を番頭、左右田三作と太刀川平助を籠屋の若い衆と紹介すると、一刻ほど前、道で倒れている深雪を見つけ、助け起こして名前を聞いた所、こちらの妾になられる方と分かり、御連れもうしたと説明する。

すると、黙って聞いていた大蛇丸が突然、もう1人の仲間はどこに行った?俺はお前たちを知っている!と睨みつけて来る。

その時、屋敷の廊下を歩いていた女中が、赤く輝く蜘蛛を見つけ悲鳴をあげる。

その声を聞いて駆けつけて来た大蛇丸は、長押の所にいた蜘蛛を見つけると手裏剣を投げつける。

すると、その手裏剣をかわすようにするりと廊下に舞い降りたのは、忍び装束姿になった綱手姫であった。

くせ者じゃ!と大蛇丸は叫び、駆けつけた家来たちと綱手姫、そして援軍で駆けつけた藤兵衛たちは戦い始める。

屋敷内の騒動に気づいた自来也は、満身の力を込めて、縛り付けていた綱を断ち切ってしまう。

牢番は驚くが、次の瞬間、自来也の放った光の礫で牢の扉の鍵が壊れ、牢の中から大量の煙が外に向かって噴き出す。

それに気づいた家臣たちは、火事だ!と騒ぎだす。

必死に戦っていた綱手姫は大蛇丸に捕まるが、その時、屋敷内に自来也が現れる。

大蛇丸と自来也の戦いが始まるが、綱手姫が蜘蛛の糸を大蛇丸の背後から投げつけ、大蛇丸はその糸に引っ張られそうになる。

激怒した大蛇丸の顔は、にわかに歌舞伎の隈取りのような形相になる。

その大蛇丸を、蜘蛛の糸でたぐり寄せようとする綱手姫。

大蛇丸は大蛇に変身し、その口から火を吹きだして来るが、自来也がそれを跳ね返す。

そして、三者は屋敷の屋根の上に飛び移って戦う。

しかし、自来也の力の方が勝り、大蛇丸を斬り捨てると、大蛇丸は屋根から地上に落下し絶命する。

屋敷内に降りて来た自来也は、宿敵、更科弾正と五十嵐典膳ににじり寄ると、どうだ、恐ろしいか?恐ろしければ叫べ!泣け!吼えろ!と嘲ると、いかほど叫び、いかほど泣き、いかほど吼えようと覆水盆に返らず!と叫ぶや否や、五十嵐典膳を一刀の元に斬り捨てる。

さらに、更科弾正の身体を掴み引き寄せた自来也は、思い知ったか!悪行の報いは自ら来る也!見事、本懐を遂げられい!と言うと、綱手の方に弾正の身体を押し出す。

その機を逃さず、綱手姫は懐剣を弾正の腹に突き刺す。

さらに、苦しんで引き下がった弾正を、待っていた自来也が斬り捨てる。

そこに、姫様!と叫びながら駆け寄って来た藤兵衛たちが、身を伏せて綱手姫の仇討ちの成功を喜ぶ。

その後、馬で国元に帰って来た綱手姫は、一緒に馬で付いて来た自来也に、あの山の向うに私の国があります。お寄りになりませんか?と声をかける。

しかし、自来也は、自分も一旦は国元に戻らねばなりませんと言うので、何時の日かお寄り下さい。お待ちしておりますと綱手姫は誘う。

きっと…、必ず参りますと笑顔で答えた自来也は、その場で姫たちと別れ、馬を走らせて立ち去るのだった。