TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

ウォルト・ディズニーの約束

ディズニーの有名なミュージカル映画「メリー・ポピンズ」の知られざる裏話を描いた作品。

当然、「メリー・ポピンズ」を知っていると、あちこちに懐かしいメロディやモデルになったらしき人物が登場して来るので興味深く見られるが、この映画、実際は映画の「メリー・ポピンズ」の製作裏話と言うよりも、原作者の人柄や心理の方に比重が置かれているように見える。

暗い過去を持ち、外界に対し心を閉ざしてしまった中年女性が心開くまでの物語である。

実際、映画のエンドロールの後に登場する「本物のトラバース夫人の肉声テープ」を聞く限り、良くこんな原作者を説得出来たなと感心するくらい。

トム・ハンクス演じるウォルト・ディズニーは、時には実物にそっくりに見えたりするが、こちらも、最初の内は、ハリウッドで成功した脳天気なプロデューサー風に見えるような描かれ方をしている。

後半、彼の意外な少年時代の話などが登場するが、基本的にウォルトはあくまでも脇役である。

ウォルトだけではなく、ディズニー側のスタッフ全員が、暗い性格のトラバース夫人と対比させる為か、いかにも悩みのない陽気なアメリカ人のように、どこかカリカチュア風に描かれているように見える。

映画全体のカラーを暗くさせない為の、意図的なキャラクター設定なのかもしれない。

「メリー・ポピンズ」の製作秘話と言うので、もうちょっと製作途中の過程を色々見せてくれる「メイキング」っぽい物を想像していたが、あくまでも、気難しい原作者が契約書にサインするまでの話である。

ラストの完成試写会の部分は、本当なのか、フィクションなのか分からなかった。

今残っている、その日の記録フィルムには、彼女は写っていないように見えるからだ。

彼女は本当に完成試写会に出席したのか?

でも、その部分がないと、映画としてカタルシスがなさ過ぎる。

原作者と父とのエピソードや、身体が不自由なロバートや運転手ラルフの娘の話などは、悪く言えば、あざとい「お涙頂戴要素」だと思う。

しかし、父トラバースは、単なる「生活無能力者」にしか見えない。何を夢見、何に挫折して、自暴自棄な生活になったのかイマイチ分からない。

ただ、少女だったギンティの目に映った父が描かれているだけだからだ。

ロバートの足のことやラルフの娘の話も、取って付けられたようにしか見えない。

この映画のミソは、ディズニーを絡めることで、そうした「お涙頂戴もの要素」を何となくファンタジックにまとめて見せていることだろう。

その着眼点が素晴らしいと言えば素晴らしいのだが…

映画館では、すすり泣く声が聞こえて来たが、個人的には泣くことはなかった。本当の悲劇性のような物は描かれていなかったからだと思う。

追憶の中の不幸な父とか、他人の不幸を、ヒロイン役のトラバース夫人が全部背負い込んで、自分1人が悲劇のヒロインのように思い込んでいるようにしか見えないからだと思う。

彼女自身は、作家として名声を得たものの、その後長いスランプで経済的に困窮しているだけであり、世間一般から見れば成功者の部類だろう。

夢見がちな文学少女が作家になり、元々内省的な性格だった所に加齢による頑固さが加わり、何もかもネガティブに考えてしまうようになった典型例のように見える。

作家などには良くあるパターンのような気がする。

原作者トラバース夫人は、自分が生み出した人気のストーリーやキャラクターが改変され、映画と言う「二次産物」になるのを好まない。

しかし、経済的な理由で、不承不承それを認めなくてはならなくなる。

そこで彼女は、その契約が無効になるように、徹底的に「我を張って」、言わば、原作者と言う立場を利用した「モンスタークレーマー」と化す。

最近も、似たようなこの手の話は噂に聞かないではない。

この映画は、そんな原作者を同情的に描き、涙を誘う視点になっている訳だが、個人的には、つくづく映画作りは大変だなぁ…と感じた。

ここでは、原作者がトラブルメイカーになっているが、大勢のスタッフが関わる映画では、誰がトラブルメイカーになるか分からない。

人間だけではなく、作業途中で、様々なトラブルが待っているだろう。

そうしたことに全部対処して行くプロデューサーと言うのは、本当に大変な仕事なんだな…と言う点が一番印象に残る点だったのだが、残念ながらこの映画では、その立場であるディズニーの苦悩にはあまりスポットが当てられていないので、彼のカリスマ性、人間味によってあっさり事が解決したかのようにも見える。

その辺の「やっぱりディズニーと夢の国ディズニーランドが心を開かせたんだね」で終わってしまっている所が物足りないのだ。

ひょっとしたら、「メリー・ポピンズ」の映画や歌、ウォルト本人が登場する内容である為、少しでもディズニーにネガティブに思われることは描けなかったのかもしれない。

何せこの作品、ウォルト・ディズニー役が登場するため、一見、ディズニー作品なのかな?と勘違いしてしまうが、どうやら、ディズニープロが作っている訳ではなさそうだからだ。

少なくとも、ディズニーにマイナスイメージになるような表現は出来なかったんだと思う。

その分、きれいごとで終わってしまっている印象がないではない。

実際は、彼、そして彼の周囲のスタッフたちは、何度も泣くような目に遭って来たはずである。

胃が痛くなったことも、荒れたこともあるはずだ。

個人的には、そちら…、つまり、「ロスト・イン・ラ・マンチャ」のような、映画スタッフ側の悪戦苦闘振りが見たかった気がする。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2014年、アメリカ+イギリス+オーストラリア、ケリー・マーセル 、 スー・スミス脚本、ジョン・リー・ハンコック監督作品。

「チム・チム・チェリー」のメロディで青空が写しされる。

オーストラリア

1906年 マリーボロー

不思議な言葉

前にも出会ったような…

夢見る少女ギンティ(アニー・ローズ・バックリー)

1961年 ロンドン

窓から外の桜を眺めながら、幼女時代を回想していたP.L.トラヴァース(エマ・トンプソン)は、玄関ベルで現実に戻される。

やって来たのは、長年代理人を務めているラッセルだった。

ラッセルは、19年間も、ディズニーからの映画化の話に承諾をしないトラヴァース夫人に半ば呆れていた。

ラッセルは、もはや収入もないのに、新作を書こうともしないトラヴァース夫人が、せっかくのチャンスである映画化に承諾しないことが理解出来なかった。

しかし、トラヴァース夫人にとっては、アニメ映画のイメージしかないディズニーの、しかも「ミュージカル映画」にするなんて堪え難かった。

権利を渡すなんてとんでもないと考えていたのだった。

ラッセルは、馴染みのメイドポリーの姿が見えないので聞くと、辞めさせたと言う。

そんな彼女を、ラッセルは、2週間ロスアンゼルスへ行かせ、ディズニーとの間に契約をさせるよう準備をしていた。

それを聞いたトラヴァース夫人は、では断ります!とまで拒否するが、正直、今の家を手放したくはなかった。

(回想)大きな屋敷に住んでいたギンティは夢見がちな少女だった。

そんなギンティに、父トラヴァース・ゴフ(コリン・ファレル)は、いつも調子を合わせ、彼女を喜ばせてくれていた。

庭で1人遊んでいたギンティに近づき、華がふわふわのギンティ王女!などと、父トラヴァースは呼んでくれたりもした。

(回想明け)結局、トラヴァース夫人は、ディズニーに会う為に、飛行機に乗り込むはめになる。

11時間もの飛行時間に憂鬱になっていた彼女は、可愛い赤ん坊を抱いた母親が微笑みかけて来ても、赤ん坊を泣かさないでね、うるさいからと注意する有様だった。

(回想)ギンティの家族は、大きな屋敷から引っ越すことになる。

父親は、嬉しそうに家族を引き連れてマリーボロー駅までやって来るが、時刻表を覗いてみたギンティは、目的地であるアローラ駅まで16時間もかかる事を知りうんざりする。

(回想明け)飛行機の中で現実に戻ったトラヴァース夫人は、ロスアンゼルス空港にようやく到着したことに気づく。

空港内には、彼女の名前を書いたフリップを持ったディズニー関係者が待っており、空港の外に出たトラヴァース夫人は、妙な匂いが気になる。

何の匂い?と聞くと、出迎えの運転手は、ジャスミン!と答えるが、塩化物と汗の匂いよ!とトラヴァース夫人は不機嫌そうに教える。

迎えのリムジンに乗り込んだトラヴァース夫人は、気候の暑さにも馴染めなかったし、運転手が明るく話しかけて来るのも煩わしく、運転席との遮蔽窓間を閉めてしまう。

トラバース夫人は、ビバリーヒルズホテルへ案内される。

しかし、用意されている部屋に入った彼女は愕然としてしまう。

部屋中にディズニーキャラクター人形が所狭しと置かれていたからだ。

しかも、テーブルの中央に置かれていた果物籠を見た彼女は、梨は絶対にダメ!と言いながら、梨だけを手に取ると、窓辺に向かう。

(回想)ギンティたち家族がやって来た新しい家は、周囲に何もない田舎の一軒家だった。

父トラバースは、馬がいるだろう!などと楽し気に娘たちに話しかけるが、赤ん坊を抱いて付いて来た妻のマーガレット・ゴフ(ルース・ウィルソン)は、今までの暮らしとの落差に愕然としていた。

(回想明け)トラバース夫人は、果物籠から取った3つの梨を、下のプールの中に投げ込んでいた。

そして、部屋中に置いてあった人形を押し入れの中にしまい込むと、トラバース夫人は寝室に向かうが、ベッドの上にまで大きなミッキーマウスの人形が追いてあったので、呆れて窓の下に後ろ向きに置く。

テーブルの上に、見慣れぬリモコンのような物が置いてあったので、何かと思って、スイッチを押してみると、突然、部屋のTVのスイッチが入り、ウォルト・ディズニー(トム・ハンクス)が彼女に向かって挨拶をして来る。

それはどうやら、彼女の為に作られた特別なビデオらしく、アニメのティンカー・ベルまで登場する凝った作りのものだったが、彼女は、ウォルトがメッセージを言っている途中ですぐにスイッチを切ってしまい、これがあなたへの対処法よと皮肉を言う。

翌朝、彼女を迎えに来た運転手も昨日のおしゃべりな男で、あなた専用ですなどとユーモアのつもりか話しかけて来たので、トラバース夫人はちょっと憂鬱になる。

ディズニー・プロダクションへ向かう途中、今日は太陽が素敵でしょう?などと運転手が話しかけて来たので、私は雨が好きだわ。雨は命をもたらしますと答えるが、運転手もめげずに、太陽もですよ!と笑顔で答える。

やがて、彼女を乗せたリムジンは、ディズニー・プロダクションと到着する。

玄関前で、彼女を出迎えたのは、脚本家であるドン・ダグラディ(ブラッドリー・ウィットフォード)、作曲家リチャード・シャーマン(ジェイソン・シュワルツマン)、作詞家ロバート・シャーマン(B・J・ノヴァク)たちだった。

愛想良く、脚本家と自己紹介して来たドンに、トラバース夫人は「共同脚本家ね」と訂正する。

シャーマン兄弟にも、宜しく!短いおつきあいになるでしょうけどと皮肉を言いながら握手をしたので、シャーマン兄弟はぽかんとする。

ドンは、撮影所を案内しましょうと言って来るが、結構よ!と断ったトラバース夫人は、勝手に事務室に入って行くと、秘書のドリー(メラニー・パクソン)がお待ち下さいと言うのも聞かず、ディズニーの部屋に勝手に入ろうとする。

ドンは、そんな彼女を落ち着かせ、ディズニーは、「ディズニーさん」と呼ばれるのを嫌いますと忠告する。

しかし、そこにウォルトがやって来ると、トラバース夫人は「ディズニーさん」と平気で呼びかける。

パム!と親し気にトラバース夫人に呼びかけたウォルトは、自分の事はウォルトと呼んでくれと頼む。

あなたとの契約には20年かかったかな?娘のダイアンが7歳の時、夢中で読んでいたあなたの本を知って、自分も読んでみたら想像力に火が付いたんだ!と嬉しそうに話すウォルトだったが、第一秘書のトミー(キャシー・ベイカー)に、トラバース夫人の希望通り、紅茶を持ってこさせると、ミルクから先に入れてねと、細かく注文をつけて来るトラバース夫人の言う通りに、ウォルトは自分で紅茶を注いでやる。

男は、子供との約束を破るわけにはいかないと意気込むウォルトに対し、トラバース夫人は、20年間、権利は売らないと言ったはずです!ときっぱり答える。

娘たちとの約束を破ったことは一度もないと重ねて言うウォルトに、ダメです。「メリー・ポピンズ」は歌ったりしません。詩なのよ!とトラバース夫人は答える。

そんなトラバース夫人の手を取ったウォルトは、パム、分かったよ。私は何があろうと、愛する物語を汚したりはしないと誓う。

しかし、トラバース夫人は、ウォルトが渡して来た契約書を読まずにバッグの中に仕舞うと、今後、全部、話し合いの中味は録音テープに録ってくれと要求する。

そして、メリー・ポピンズとバンクスは私の物語よ、映画化出来るかどうか…と言い残し、さっさと部屋を出て行ってしまう。

さすがのウォルトも、トラバース夫人の頑さには困惑するしかなかった。

翌日からの話し合いの席、トラバース夫人の要求通り、オープンリールの録音テープ器が用意され、軽食類もたくさんテーブルに並べられていたが、改めてやって来たトラバース夫人は、その菓子類には呆れ、嬉しそうに追加の菓子類を運んで来たドリーに、これは下げて頂戴!と命じる。

いよいよ、映画化の内容について、トラバース夫人とドン・ダグラディ、シャーマン兄弟による検討会が始まるが、ディズニー側がキャスティングしていたディック・バン・ダイクにクレームをつけて来る。

バン・ダイクは名優とは言わないと言うのだった。

次に、リチャードが「チム・チム・チェリー」の曲をピアノを弾いて披露すると、ダメよ、「おめわりさん」なんて言わないわ!とその歌詞に文句をつけて来る。

そうした彼女の態度に気づいたリチャードは、用意していた「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」の楽譜をそっと隠す。

次いで、トラバース夫人は、ディズニー側が用意していたキャラクター1人1人のチェックを始める。

一々文句をつけて来たトラバース夫人だったが、バンクスのスケッチを見た途端、髭があるわ!と言い出す。

原作本のイラストでもあったはずですが?とドンが指摘すると、あれはイラストレーターが勝手に描いたのよと言う、

ドンは、髭は、ウォルトの案ですと強調するが、トラバース夫人は承知しようとしない。

ソファで聞いていたロバートが、重要な問題ですか?と口を挟むと、トラバース夫人は、あなたは外で待ってて!と言い放つ。

ロバートは言われた通り、部屋を出て行くが、その時彼が足を引きずっていることに気づいたトラバース夫人が足、どうしたの?と聞くと、撃たれたとドンが答える。

(回想)パメラは、洗面所でヒゲを剃っている父トラバースに、何故剃るの?と、窓の外から聞く。

お前のためさ。ざらざらしたキスと、スムースなキスのどっちが良い?とトラバースが聞くので、スムース!とパメラが答えると、娘のほっぺのためにヒゲを剃るのさとトラバースは答える。

(回想明け)翌朝、ホテルで目覚めたトラバース夫人は、スイッシュ!と言いながら鏡の曇りを拭く。

翌日は、「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」が披露される。

そこへ又、ドリーがお菓子を運んで来るが、トラバース夫人の顔色をうかがって、すぐに退散する。

その日もトラバース夫人は、何から何までディズニー側の案に異論をぶつけ、あげくの果てに、赤は一切映画の中で使わないでくれとまで言い出す。

さすがにその話を聞いたウォルトは驚き、イギリスが舞台なのに、郵便ポストや国旗など町には赤いものが普通にあり、赤を使わないなんてあり得ないと抗議しに行くが、赤は嫌いなのとトラバース夫人は言い、いっそのこと、契約はボツにしたら?とまで言い出す。

ウォルトは、内心の怒りを押し殺して、分かった!赤は使わない!と宣言する。

その会話を横で聞いていたリチャードは、契約はまだ?と驚いたようだった。

彼らはもう、トラバース夫人とディズニー側の映画化契約は完了しているとばかり思い込んでいたからだった。

その日、ホテルに帰るためリムジンに乗り込むトラバース夫人を自分の部屋から見下ろしながら、ウォルトは第一秘書のトミーに、どう思う?彼女と聞いてみる。

しかし、聞かれたトミーは、女だったら、女の気持ちが分かると出も思っているの?と呆れたように答えるだけだった。

頑固な女だ!ウォルトは、心底困ったように言う。

ホテルに戻って来たトラバース夫人はバーに入り、バーテンに紅茶を頼む。

てっきり酒を注文すると思っていたバーテンはしらけたような顔になり、紅茶は心を癒すわとトラバース夫人に話しかけられても、ポットを置いたらすぐに立ち去ってしまう。

トラバース夫人は、にぎやかなバーの中でも孤独だった。

(回想)母親マーガレットが赤ん坊を抱いて洗濯物を干している中、妹と雌鳥を追いかけて遊んでいたギンティは、粗類打ちから父親のトラバースが帰って来るのを見かける。

仕事は?と不安げにマーガレットが聞いても、明日残業するよと耳元に囁きかけて来たトラバースは、ギンティから雌鳥の話を聞くと、あれは雌鳥じゃなかく、メリーおばさんだ!などと言い始め、一緒に遊び始める。

マーガレットは、トラバースのズボンのポケットから、ウィスキーのポケット瓶を見つけ、暗い表情になる。

マーガレットはトラバースに、銀行の仕事、嫌なの?と問いかけるが、ボクは大丈夫だ、耐えられるとだけトラバースは答え、又、ギンティらと一緒に雌鳥を追いかけ始める。

パメラは、その夜、ベッドで寝る。

翌日、ブルはロバートと、リチャードのピアノに合わせ、新しい曲を作っていた。

そこに、ウォルトとトラバース夫人がやって来る。

ブルとロバートとリチャードは、早速、今、作り上げたばかりの「一さじのお砂糖」をコーラスして聞かせる。

しかし、それを聞いたトラバース夫人は、とても押し付けがましいわ。メリー・ポピンズは、気まぐれや感傷は嫌いなの!部屋の掃除は魔法では出来ないし!脚本全体に全体に重みがないわ!と言い、持っていた脚本を窓から外に投げ捨ててしまう。

子供たちを救いに来たとでも思っているの!とトラバース夫人は怒り出す。

(回想)ある日、ギンティは、銀行で働いている父トラバースの所へやって来る。

ちょうど、銀行の頭取ベルイチェット氏が来て、ギンティをトラバースの娘と知らず、銀行の中に入れてくれる。

父トラバースは、自分が遅刻して来たりすることを注意されたのか、怒鳴りまくっていた。

それは、家では一度も観たことがない父の姿だった。

そんな荒れ狂ったトラバースに、頭取ベルイチェット氏は、出て行きたまえと命じる。

トラバースは、その時始めて、娘のギンティが目の前に立っていることに気づき狼狽する。

何で来たんだ?とトラバースが聞くと、今日はアイスクリームの日なのと答えたギンティは、哀しそうな顔で父を見つめ、また首なの?と聞くので、トラバースも、どうやらそうらしい…と答えるが、その会話を聞いていた頭取ベルイチェット氏は、いや、そうじゃないよ。もっとしっかりしろ、娘さんの為にも!とトラバースの叱咤する。

その後、アイスをギンティに買ってやったトラバースは、一緒に近くの川辺にやって来て座ると、金なんか信じるな、苦しむことになるぞ…と、ウィスキーのポケット瓶を飲みながら呟く。

パメラは、そんな話をアイスを嘗めながら聞いていた。

(回想明け)ホテルに戻っていたトラバース夫人は、ベッドからイギリスのラッセルに電話をかけ、ロサンゼルスは嫌い!悪い夢を思い出すの。連中は私を無視している。脚本も酷い。中味は空っぽ!後、数日で済むわと愚痴を並べていた。

ベッドに横たわったトラバース夫人は、自業自得よ…、金、金、金…、悩むことなかったわ…と自省する。

一方、ウォルトの方も、事務所前のベンチに腰を降ろし、進展しない契約に付いて考え込んでいた。

そんな間も、上の階からは、リチャードが奏でるピアノの音が聞こえていた。

その部屋にやって来たウォルトは、自分も一緒に「2ペンスをハトに」を歌い始める。

ロバートの方は、疲れきって、ソファの上で眠っていた。

パット・パワーズと言うニューヨークの大物プロデューサーにネズミを譲り渡すのは辛かった。ネズミは家族だったんだよと…と独り言を言うように呟いたウォルトは、リチャードに帰って良いよと声をかける。

ホテルのプール脇で、トラバース夫人も悩んでいた。

(回想)夢見がちだったギンティに、父トラバースはその後も調子を合わせてくれていた。

その日、ギンティは、自分は雌鳥になっているのだとトラバースに教えていた。

母マーガレットが、皿を並べてとギンティに言いに来たときも、トラバースは、今彼女は卵を産んでいるんだ!と声を荒げてしまう。

ギンティ、夢を捨ててはいけない。お父さんみたいになる…と言いながら、家の中に入って言ったトラバースだったが、ギンティがそっと窓から中を覗き込むと、トラバースは、酒を飲んでむせび泣いていた。

(回想明け)大丈夫ですか?ディズニー・プロダクションへ向かうリムジンの中で、沈んでいるトラバース夫人に運転手が声をかける。

その日のドンたちは、銀行のシーンの歌を披露する。

(回想)アローラ農業祭の日、ベルイチェット銀行では、父トラバースが主任と言うことで、スピーチをさせることにした。

ギンティも、母や妹と一緒に見物に来る。

しかし、トラバースは人前で読むべき原稿を暗記しようと必死だった。

ギンティが父を捜して、テントの中に入ってみると、トラバースはもう酒を飲んで、俺はアイルランドに戻るなどと愚痴っていた。

演台には多くのゲストが座っており、客席にも大勢の客たちがスピーチを待ち受けていた。

頭取のベルイチェット氏は、演台に上がって来たトラバースの様子を見て驚く、すっかり泥酔状態だったからだ。

それでも、トラバースは、地域に置ける銀行の役割の重要さに付いて何とか話し始める。

その父トラバースのスピーチが、いつしか、ドンたちが歌っている歌と重なる。

髭のあるバンクス氏のスケッチ

咳き込んだ父が口にあてがったハンカチには血が付いていた。

子供が口座を開くよう勧めるべきです…と言い出した父トラバースは、客席にいたギンティを演台に呼び寄せると、ギンティも口座を開いていますと紹介する。

各賞は後から発表するとして、ちょっとトイレ…と言いながら、演台から降りようとしたトラバースは、足を踏み外し、地面に落ちていた。

倒れたトラバースは、自嘲するように笑い出す。

そんな無様な夫の一部始終を、客席から堪え難い気持ちで観るマーガレットは涙ぐんでいた。

(回想明け)何故、冷酷に描くの!といきなりトラバース夫人が叫んだので、ドンたちは、誰のことです?とあっけにとられる。

お子さんはいるの?お子さんから手紙をもらったりします?それを目の前で破ったりする?何故、父をあくどく描くの!もっと大切にして!あんまりだわ!又、父を怒らせてしまう…トラバース夫人は夢中で訴える。

(回想)もう、痛み止めはくれないんだね…、自宅のベッドに寝かされた父トラバースは、往診を終え、帰ろうとする医者に聞く。

医者は振り向いて、一言、酒は止めろ!と忠告して帰る。

父の側に近づいたギンティに、病気なんだ、力になってくれるね?洗面所の奥に薬があるんだ…と父トラバースは声をかける。

そんな父に、詩を書いたの…、学校で一等になったのよと言いながら、一枚の紙を渡そうとするギンティ。

しかし、父が無関心そうなので、私が読む?と言いながら受け取ろうとすると、それを奪い返した父トラバースは、詩を読むと、イェーツにはほど遠いな…とだけ言って、紙を返す。

(回想明け)ディズニー・プロダクションの前で、ベンチに座って休んでいたリムジンの運転手は、トラバース夫人が何かを芝生から拾い集めている姿に気づく。

(回想)ギンティは、ゴミ箱の中をあさり、母が捨てた飲み残しのウィスキーの瓶を拾い上げる。

(回想明け)運転手が後をつけてみると、トラバース夫人は、芝生の陰で、落ち葉を使い、何かを作っていた。

紅茶をお持ちしました!と声をかけると、紙コップで紅茶なんて!とトラバース夫人は憤慨するが、特に迷惑がっている様子はなかった。

側に座った運転手は、ホテルまで送りますか?とか、ご家族は?などと陽気に話しかけるが、トラバース夫人は不機嫌そうに、失礼ね!何でもかんでも聞いて、図々し過ぎるわ!と言いながらも、気にする家族はないわと答え、木の枝を運転手に渡しながら、ここに窪みを作ってと命じる。

運転手は戸惑いながらも、言われた通り、芝生の上に窪みを作って行くが、娘がいます。ジェーンと言うんですけど、きれいな娘なんですと話し始める。

車椅子に乗ってる…

だから、天気のことが気になるんです。天気が良いと外に出られるけど、雨の日は外に出られない。

明日のことは分からない。今日を生きるだけ…、運転手はそう告白する。

トラバース夫人は、見て!野外ステージよ!と言い出す。

観ると、落ち葉を組み合わせて、小さな建物のような物を作っていたのだった。

そして、今、運転手が作った溝に、紙コップの紅茶を流し入れる。

川だった。

(回想)夜、ギンティが寝ていた寝室に、暗い顔をした母マーガレットがやって来て、お酒をあげたのね?あなたはお父さんっ子、いつかきっと分かってくれる。妹たちを宜しくね…と言うと部屋を出て行く。

母の異様な様子に気づいたギンティは後を追って行くが、マーガレットは寝間着姿のまま外に出てどんどん行ってしまう。

ギンティは、馬に乗ってその後を追いかける。

母マーガレットは、川に来ると、そのまま川の中に歩いて行く。

そこに駆けつけたギンティも、止めて!お母さん!と叫びながら、川の中に入ると、お家に帰りましょう!と訴えながら必死にマーガレットの寝間着を引っ張ろうとする。

その時、ようやく我に帰ったようになったマーガレットは、自分が無責任にも自殺しかけていたことを悔い、頷くと、ごめんなさい!何と言うことを!許して!と泣きながら、ギンティを川の中で抱きしめるのだった。

(回想明け)翌朝、ホテルでタイプライターを打っていたトラバース夫人に、ウォルト直々に電話があり、パム!どう言うことなんだ?なぜ?どうすれば喜んでくれるんだ?まだディズニーランドに行ってないだろう?夢の国なんだ。案内するよ!と行って来るが、トラバース夫人は、あなたの「お金のなる木」なんて見たくないと言い、一方的に電話を切ってしまう。

ウォルトは、何とかしないと…と焦っていた。

(回想)ベッドに寝ていた父トラバースに、父さん、東の風よ!とギンティは嬉しそうに教える。

傘と大きなバッグを持ったエリーおばさんがやって来たのだ。

エリーおばさんは、家の中に入るなり、あまりの荒れ果てように呆れたようだった。

そして、カバンを開けると、あらゆる薬を持って来たわ!と言い、ぽかんと口を開けてみていた妹には、口を閉じて!魚じゃないのよ!と注意すると、持って来た花の鉢植えを渡す。

母マーガレットは、不安でたまらなくて…と訴えると、エリーおばさんは、私が何とかするわ!子供にも手伝ってもらわなくちゃと自信満々言い放つ。

彼女こそ、「メリー・ポピンズ」のモデルだった。

(回想明け)翌朝、トラバース夫人が乗せたリムジンの運転手は、予定変更ですと言い、彼女を別の場所に連れて行く。

そこは、「ディズニーランド」だった。

何と、門の中のミッキーが描かれた花壇の前で待っていたのはウォルト本人だった。

見物客たちは、憧れのウォルトがいると言うので大興奮の状態だった。

リムジンが中に入ると、ウォルト自らドアを開け、トラバース夫人を迎えると、「魔法の王国」へようこそ!と満面の笑みで声をかける。

いつもあなたは、こんな風に自分の想い通りになさるの?とトラバース夫人は皮肉を言う。

ウォルトは、周囲の子供たちからサイン攻めに会っている。

園内を案内し始めたウォルトは、四つの国にはそれぞれシンボルがあり、例えば「冒険の国」にある木の葉っぱは300万枚あるんだなどと陽気に解説し出す。

そんなウォルトが、ある場所で見上げたのは「イライアス・ディズニー」と書かれた窓ガラスだった。

メリー・ポピンズは、ある日、風に乗って来たのかい?と聞いて来たウォルトは、今日は1つだけ乗り物に案内したいと言うと、回転木馬の場所にトラバース夫人を連れて来て、妻の愛馬ですと勧めたので、トラバース夫人は、私は観るだけで結構と辞退しようとするが、ウォルトは乗って!と命じる。

仕方なく木馬に乗ったトラバース夫人だったが、回転し始めると、それまでの不機嫌さが徐々に解消して行くのに気づく。

(回想)ケリーおばさんは、ギンティや妹を使い、家中の掃除を始めるが、そんな中、ギンティが父の寝室を窓から覗き込むと、ベッドの上のトラバースが持ったハンカチは血で染まっていた。

(回想明け)あなたが言ったことは正しい。バンクス氏は冷酷じゃない。新しいアイデアを考えたんだとウォルトが言う。

プロダクションに戻って来たトラバース夫人は、待っていたドン、ロバート、ドリーらが、リチャードのピアノに合わせ歌い出すのを聞く。

彼らが考えた新しいアイデアと言うのは、凧を直させると言う発想だった。

その新しい歌を聴いたトラバース夫人は大いに気に入った様子だった。

そんなトラバース夫人に手を差し伸べたドンは、立ち上がった彼女とダンスを踊り出す。

それを観たドリーは喜び、急いで、ウォルトに知らせに行く。

トラバース夫人は、すっかりこの「凧を揚げよう」の曲を気に入ったようで、ピアノを弾くリチャードの方に手を添え、一緒に歌い出す有様だった。

トラバース夫人は、今回も一言文句を言いたそうだったが、今のままでも良いわと自ら妥協する。

(回想)ベッドの父トラバースの元にやって来たギンティは、詩を書き直したのと話しかけ、おばさんから2ペンスをもらったの。何か買って来る?と聞く。

すると、トラバースは、梨…と答える。

(回想明け)ホテルのベッドに寝ていたトラバース夫人は、お父さん…と呟く。

(回想)ギンティは2ペンスを握って、父の為に梨を買いに出かける。

(回想明け)翌朝、迎えのリムジンに乗り込んだトラバース夫人は、あなたの言う通り、美しい風景だわ…と運転手に話しかけながら、窓の外に広がる風景に目を見張っていた。

ディズニー・プロダクションに着いたトラバース夫人は、ドンたちに、どうやってペンギンを踊らせるの?不可能に思えるわ?と聞く。

リチャードはあっさり、アニメですと答えるが、ドンは慌ててリチャードの方を睨みつける。

それを聞いたトラバース夫人は、部屋を飛び出すと、困ります!と制止しようとするドリーを無視して、ウォルトの部屋に飛び込む。

ウォルトは、タバコを吸っているのを人に観られたくないんだと言いながら、慌ててタバコの火を消す。

トラバース夫人は、そんなウォルトに、詐欺師!と言い放つ。

ペンギンはアニメだそうじゃない。これまでシャーマン兄弟の曲に騙されていたけど、アニメは許すもんですか!あなたは、アニメ映画にはしないと言ったじゃないですか!と詰め寄る。

ウォルトは冷静に、ペンギンはアニメだ、でも他は人間が演じる…と答えるが、興奮状態のトラバース夫人は、さようなら、ディズニーさんと言い残し、部屋を出て行ってしまう。

ロスアンゼルス空港にトラバース夫人を降ろした運転手は、楽しかったです、夫人…と声をかける。

最初にお乗せしたときはあなたの事を知らなかった。娘に話したら、この本を持って来て…、私は読んで夢中になりましたと言いながら、運転手が1冊の本を取り出したので、サインして欲しいの?とトラバース夫人は言い、本を受け取ると、ジェーンへ…と書き込むと、そして親愛なる…と書きかけた所で、あなたの名前を知らないわと告白する。

運転手はラルフ(ポール・ジアマッティ)ですと答える。

それを聞いたトラバース夫人は、ただ1人好きな米国人ラルフへ…と本に書き添える。

そして、何人かの著名人の名を書いたメモをラルフに渡すと、みんな障害があるの。分かる?と教えたトラバース夫人は、裏を見てと言う。

ラルフが、メモの裏を読むと、そこには「ウォルト・ディズニー」と書かれてあった。

いつも陽気で集中心の欠如!とトラバース夫人は指摘する。

そのウォルトは、去ってしまったか…と事務所で落胆していた。

ファーストクラスのトラバース夫人の予約依頼書を見ていたウォルトは、ゴフって誰だ?と聞く。

彼女の本名ですとドリーが言うので、彼女はオーストラリア人なのにイギリスに住んでいるのか!今までボクは別人と話していたのか?とウォルトは仰天する。

(回想)梨を買って帰って来たギンティの前に立ちふさがった母マーガレットは、亡くなったのと言い聞かせる。

父のベッドに近づこうとすると、マーガレットが、ダメよと止めようとするが、おばさんは会わせてあげて…と声をかける。

父トラバースが寝ていたベッドに着たギンティは、梨を落としちゃった…、ごめんなさい…と、もはや答えぬ相手に囁きかける。

その後、ギンティは、何でも直せるって言ったじゃない!とおばさんに怒鳴りつける。

(回想明け)トラバース夫人は、街路に桜の花が咲いている自宅に戻って来る。

やがて、ドアをノックする音で我に返ったトラバース夫人は、代理人のラッセルと思い、うるさそうに開けに行く。

しかし、ドアの外に立っていたのはウォルトだった。

次の便に乗り込むのは至難の業だった…と言いながら入って来たウォルトは、トラバース夫人が出して来た紅茶を、覚えていると言いながら自分で入れる。

君はボクの事を、金が全てのハリウッド王くらいに勘違いしている。

金が全てなら、あなたとの契約を獲得する為に20年も待たない。人生はあなたに失望させた…、失望させなかったのはメリー・ポピンズだけだった。

私はあなたを失望させた。娘たちの約束も破ってしまった。

私にもバンクス氏がいた…と口ひげがあるウォルトが言うので、自分に似せて作ったのね?とトラバース夫人は皮肉を言う。

ミズーリ州のカンサスシティは冬は寒い…とウォルトは語り続ける。

父イライアス・ディズニーは新聞配達をしていた。

朝と夕方に1000部ずつ配達していた。

少年など使わずに、私と兄のロイに配達を手伝わせた。

私は8歳だった。

冬はとても寒かったけど、父は、新しい靴など買ってくれなかった。

あまりの寒さで失神し、倒れた雪の冷たさで気がつくこともあった。

そして家に帰るんだ。夕方の配達をする為に…

父は、そんな僕らに、怠けたらぶん殴るぞと言いながら、ベルトを握りしめていた。

今でも、その父のことを思い出さない日はない。

トラバース・ゴフ!あなたも辛い罪を背負っているんだろう?ぜひ、私に、メリー・ポピンズを託して欲しい。

バンクス氏が救うだろう。いつまでも誰もが彼を好きになる。

そして、凧は揚がり、誰もが嬉しくなり、喜ぶだろう。何世代でも…

名誉は回復する。

素晴らしい作品にして見せる。私に証明させてくれ。心から約束する!とウォルトは頼む。

ウォルトが帰った後、ミッキーの人形と差し向かいでテーブルについていたトラバース夫人は、もう十分ねと呟くと、映画化の契約書にサインを入れる。

「メリー・ポピンズ」近日公開!と広告が発表される。

1964年

チャイニーズシアターで行われる完成披露試写会に、トラバース夫人は招待されていなかった。

ウォルトは、私も辛いが、彼女にはロンドンでの試写会に来てもらおうとトミーに話していた。

頑固なトラバース夫人が、わざわざアメリカでの試写会に来てくれるとは思えなかったからだ。

分かりました…とトミーも納得する。

イギリスの自宅でタイプライターを打っていたトラバース夫人は、玄関のベルが鳴り、ラッセルが、いよいよディズニーの映画が公開しますと言いながら入って来る。

トラバース夫人は、今書いている新作は「メリー・ポピンズのキッチン」だと教えると、映画化権を話し合うべきか?とラッセルが言い出したので、二度と!と拒否する。

招待されてないんだろう?とラッセルが皮肉を言うと、トラバース夫人はきっとなる。

トラバース夫人は飛行機に乗り込んで、自らロスアンゼルスへ飛ぶ。

ウォルトが外から帰って来ると、トミーが笑って部屋の方を目で見る。

部屋の中に入ったウォルトは、そこにトラバース夫人が来ていることに驚く。

完成披露に来たの。招待状が届かなかったのよ。私を忘れた訳じゃないでしょう?と嫌味を言うトラバース夫人に、忘れる訳ないよ、今招待状をホテルに届けようとウォルトは笑顔で答える。

一旦、ホテルに戻ったトラバース夫人は、チャイニーズシアターへ向かう為にタクシーを呼んでくれとポーターに頼む。

そして玄関に出てみると、そこに待っていたのはラルフだった。

友人が私を必要としているようだったので…と笑うラルフに、トラバース夫人は抱きつく。

チャイニーズシアターは、客やマスコミで黒山の人だかりだった。

ドアを開けたラルフは、あなたが主役だと声をかけてくれる。

そんなラルフを振り返りながら、レッドカーペットを進むトラバース夫人は、レポーターからインタビューをされているウォルトの姿を観る。

看板を観ると、口ひげを生やしたバンクス氏の肖像画があった。

1人で劇場に入りかけていたトラバース夫人に手を差し出したのはミッキー・マウスだった。

シャーマン兄弟やドンと一緒に、完成したばかりの「メリー・ポピンズ」を観るトラバース夫人は、だんだん内容に惹き込まれ、涙を流し始める。

そんなトラバース夫人の様子に気づいた後ろの席のウォルトが、大丈夫ですよ、バンクス氏は大丈夫!と囁きかけて来るが、そうじゃないのよ、アニメが酷過ぎて…とトラバース夫人はごまかす。

それでも、「凧を揚げよう」のシーンになると、トラバース夫人も一緒に歌を口ずさんでいた。

「チム・チム・チェリー」のメロディー

(回想)私を1人にしないで…とギンティが言うと、決して!約束する…、決して1人にしないさ…と、ベッドに寝ていた父トラバースは言う。

東の風が吹き、不思議なことが起こる予感…

前にもあったような気がする…

ギンティが最初に暮らしていた裕福な館の庭先から、青い空にカメラが向く。

エンドロール

実際のトラバース夫人とウォルトらの当時の写真

オープンリールテープの録音機から聞こえて来る本物のトラバース夫人の肉声