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七人の刑事 終着駅の女

TBSの往年の人気番組「七人の刑事」の映画化だが、「七人の刑事」(1963)「七人の刑事 女を探がせ」(1963)が松竹製作だったのに対し、3作目の本作は日活製作になっている。

主要キャストがTV版と同じメンバーなので気づき難いが、刑事物も得意にしていた当時の日活の面目躍如と言った秀作に仕上がっている。

松竹版も悪くはなかったが、3作目のこの作品が個人的には一番の傑作だと思う。

全編、上野駅周辺のロケと生の町の音を使い、ドキュメンタリータッチで作られているのも作品にリアリティを与えている。

7人の刑事たちも、それぞれ計算して動かされており、南刑事が若干印象が弱い以外は、みんな印象が残るように描かれている。

清純派のヒロインイメージが強い笹森礼子が、暗い地方出身の売春婦を演じているのも意外性がある。

東京に憧れ上京し、東京に絶望し帰京する地方出身者たちの苦悩を、両者が交差する駅と言う舞台を中心に描くスタイルは成功していると思う。

「男はつらいよ」のおばちゃんこと三崎千恵子は、この頃からおばちゃん役を演じているし、寅さんの兄役としても知られる梅野泰靖もちゃんと登場している。

老け役の北林谷栄も見物だが、何と言っても印象的なのは、TVの「特捜最前線」で老刑事を演じていた大滝秀治が、この作品でも刑事役として全編に登場していること。

後頭部こそ禿げているが、顔が恐いので、いかにも現役バリバリで強面の所轄刑事と言った雰囲気が出ている。

当時、まだ40代だったらしい小西刑事は、何度見返しても好々爺にしか見えない。

今回、中島刑事役の城所英夫が、なかなかクールでカッコ良いことに気づかされた。

沢田部長刑事役の芦田伸介は相変わらず渋いし、天田俊明演じる久保田刑事は人情派の新人刑事と言った感じが良く出ている。

7人の刑事たちがそれぞれ魅力的に描かれているし、登場して来るキャラクターたちもみんな印象的。

社会性もあるし、駅に集まる人間模様は色々考えさせるものがある。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1965年、日活、光畑碩郎脚本、若杉光夫監督作品。

上野駅構内、山形から出て来たらしい娘に地下鉄乗り場への行き方を教えていた久保田刑事(天田俊明)は、近づいて来た西さんこと小西刑事(美川陽一郎)から声をかけられ、16番線のホームで殺しがあった。その荷物、派出所に放り込んで来いよと指示を受ける。

タイトル

小西刑事は、16番線ホーム上で現場検証をしていた仲間たちに合流する。

ヤマさんこと杉山刑事(菅原謙二)は、赤木係長(堀雄二)に、ハンドバッグの中から北川行き切符が出たと報告していた。

係長は、北川が岩手の盛岡の手前だと確認する。

そこに久保田刑事がやって来たので、長さんこと沢田部長刑事(芦田伸介)は、仏さんを拝んどけと声をかける。

北川雪の切符が1枚出て来たことを教えた長さんに、近づいて来た所轄署の山越刑事(大滝秀治)が、第一発見者が気がつきました。尋問出来ますと報告に来たので、第一発見者もやられたんですか?と久保田刑事が聞くと、抱き起こした時、ガイシャが死んでいることに気づき貧血を起こして倒れたんだと教えながら、長さんは、第一発見者の駅員がソファに寝かされていた部屋に連れて行く。

部屋に中島刑事(城所英夫)と尋問していた南刑事(佐藤英夫)は、貧血って一時的な記憶喪失になったりしますかね?と言いながら、長さんと久保田刑事を出迎える。

列車が出た後、ガイシャが倒れていることに気づき近づいた第一発見者の駅員高橋(庄司永建)は、ガイシャの足下に白いバッグがあったのを観たが、今はそれがなくなっていると言うのだ。

信じられますか?と南刑事が聞くと、信じられるね、ガイシャは旅行者だったと言うことだと長さんは答え、久保田、南、中島刑事と共に部屋を後にする。

仏は一応、台東署に運ばれる事になり、所轄署にも全力での聞き込みを依頼する長さん。

キャストロール

遺体安置所で棺に手を合わせる長さん。

ホームの売店の女店員から話を来ている中島刑事

上野駅殺人事件の本部が設置された台頭署の松下課長(松下達夫)は、やって来た赤木係長に、赤木班がここに来るのは何年振りですかな?と懐かしがる。

36年暮れの浮浪者殺しの時以来でしょうと係長は答えるが、そんな係長に中島刑事から電話が入り、売店の店員が、白いバッグを持った背の大きく下駄を履いた男が改札の方へ走って行くのを観ていました。服装は、グリーンのジャンパーに黒のスキー帽、年は30くらいだったそうですと報告を受ける。

いやに覚え過ぎてるね…と係長が不安がると、実はその男を観たのは始めてではないそうで、ホームで良く見かけるそうですと中島刑事は言う。

ショバ屋では?と横で話を聞いていた西さんが言い出し、当たってみましょうか?と係長も乗り気になる。

上野駅構内を捜査していた長さんらは、お呼出を申し上げます。桜田商事の沢田、南、久保田様、至急駅長事務室までお越し下さいと言う構内アナウンスを聞き、自分たちのことだと気づくと、急いで駅長事務室へ向かい、先に来ていた中島刑事から係長の指示を聞く。

その頃、本部に戻って来たヤマさんは、外で待機していた新聞記者から質問攻めを受けるが、それをかき分けながら部屋の中に入る。

ヤマさんは、ハンドバッグの指紋とガイシャの指紋が一致したと係長に伝える。

係長は、西さんに岩手県に電話で問い合わせしてくれと頼むと、白いカバンを持ち去った男がいるとヤマさんに教える。

駅構内の夜行列車の切符売り場に来ていた長さんは、旦那、これじゃあ、座れませんぜ。500円でどうです?と声をかけて来た男に、ショバ屋か?この駅には何人いる?と聞いたので、男は、旦那、警察の?と驚いて逃げ出す。

側で待機していた中島刑事と南刑事が追いかけるが、人ごみの中で見失ってしまう。

長さんに謝りに戻って来た2人だったが、長さんから顔で促され、近くにいた浮浪者たちに、背広で下駄履きの男が来なかったか?とカマをかけて聞くが、50円出せと言うので、上野派出所が困るんじゃないか?と脅して戻る。

その時、その話に興味を持ったような老浮浪者が近くに座り込んでいた。

その頃、係長は、新聞記者たち相手に、今まで判明していることの発表を行っていた。

北川行きの切符のことを証し、明日の朝刊で、ガイシャの関係者が名乗って出てくれることを期待していますと係長は伝える。

記者たちが部屋から出て行った時、西さんが、係長、タレコミですと耳打ちして来る。

本部にたれ込みに来ていたのは、先ほど浮浪者の中にいた老人モグラ(澄田浩介)だった。

進駐軍のジャンパーを着て、スキー帽をかぶっていたのは何て男だ?と長さんが聞くが、モグラは答えようとしない。

腹が減っているのか?何か食うかね?と声をかけた南刑事は、電話口に向かう。

そこに、係長と山越刑事が来ると、モグラは首をすくめる。

山越刑事は、おっさん又来たんか?と言いながら、店屋物を注文しかけていた南刑事の電話のフックを押して切ると、こいつは事件が起きるたびに来るんですよ、以前、店屋物を食わせてやったのが病み付きになったらしくて…と言うので、泊めてやっても良いぜとヤマさんが冗談を言うと、止めて下さい。それが狙いでやって来るんですからと山越刑事は注意する。

あてにしていた店屋物にありつけないと知ったモグラは、ケチンボ!と捨て台詞を残して部屋から出て行く。

このヤマも難しくなりそうだね~…と声が出る中、20時40分発青森行きの列車でしたね…、ホシはそれに乗り込んでいるかも…と中島刑事が口にするが、俺もそう考えた…と答えた長さんは、だが、逃げるなら、東京の雑踏の中に紛れ込んだだろうと思うと推理を披露する。

係長は、みんな、交代で寝てくれと刑事たちに指示する。

久保田刑事は、遺体安置室に花瓶を持って来る。

一緒に付いて来た小西刑事は、北川か…、君の故郷も向うだったな…と声をかける。

僕の故郷よりもっと北ですが、あの辺はまだ雪でしょう…と久保田刑事は答える。

翌朝、久保田刑事と共に、現場近くの線路の上に残留物がないかと見回っていたヤマさんは、ホーム上で座り込んで寝ていた酔客のカバンを持ち去った男を目撃、追跡して確保する。

言い訳しようとした男に、貴様の手口は常習犯だ!と言い、駅長事務室へ連行する。

その頃、南刑事と山越刑事は、貧血を起こした第一発見者の駅員高橋を連れ、町の鞄屋で、なくなったと言うバッグの大きさや形状を確認していた。

高橋は山越刑事に、そこに寝てみて下さいと言うので、仕方なく、山越刑事が地面に死体役として寝そべると、感じでないな~などと高橋が言うので、立ち上がった山越刑事は、バカにするな!と怒鳴りつける。

置き引きの男忠治(玉村駿太郎)を前にしたヤマさんは、お前、毎日ホームに来ているな?と聞く。

今は不景気で、2日に1ペんくらいと言うので、昨日の夜も来ていたな?20時40分の青森雪の列車が出た頃だ!とカマをかけてみる。

すると忠治は、夜は俺じゃないんで…と言うので、じゃあ、夕べの担当は誰だ?と聞くと、正ちゃんでさぁと言う。

どこにいるんだ?と聞くと、これでも男の端くれなんで、友達は売れないと言い出したので、お前、粋がっているんだな?とヤマさんは指摘する。

本部には、中島刑事が、本庁にあった、ガイシャに年格好が似た家出人届けの束を持って来ていた。

置き引き?と電話に出ていた係長がヤマさんからの連絡を受けており、ヤマさんが13番線で置き引きを見つけたらしいと長さんに教える。

その時かかって来た電話を取った長さんは、死体の特長ですか?身長は150cmくらいで痩せ型、前歯に金は入ってませんねと死体の写真を見ながら答え、お間違いでしょうと答えて切る。

その時、警官が、心当たりがあるそうですと言いながら1人の老婆(北林谷栄)を連れて来る。

係長が、娘さんですか?と聞くと、もう何年も行方が分からない。岩手から東京に働きに出て来たんだが…と言うので、国はどこかと聞くと、盛岡の在だと言う。

当人が18の時、働くと言って出て来たんだけど、去年当たりから手紙が来ないし、こっちから書いても返事も来なくなったのだと言う。

どこに泊まっているかと聞くと、親戚の家だと老婆は答えていたが、そこに、今度は、君子じゃないのか?家内ですと言いながら、警官に連れられた男がやって来る。

横手から、昨日2人で出て来たと言うので、喧嘩でもしたのか?と長さんが聞くと、俺が悪いんです、東京に着いて、俺はタクシーで問屋まで行こうと言ったんだけど、家内はもったいないから電車で言い出し、俺がちょっと一杯引っ掛けて戻って来たらいなくなったのだと言う。

長さんがガイシャの現場写真を見せると、君子はもっと美人で、愛嬌のある女ですなどと言い、自分は白井淳三だと名乗る。

その名を聞いた連れの警官は、その名前で、北署で捜査願いが出ていましたと思い出したので、長さんは、もっと早く思い出せ!と叱りつける。

早速中島刑事が、北署に電話を入れてみると、そこに君子本人がいると言うので、電話口に白井を呼ぶ。

電話の向こうにいるのが君子だと知った白井は、連れて来た警官に、北署の場所を教えてくれと言いながら一緒に部屋を出て行く。

長さんと西さんは、待っていた老婆を下の安置室に連れて行き、棺桶の蓋を開けて、仏の顔を見せてやる。

老婆は首を振るので、違うんだね?と長さんは確認するが、安置室を出ようとした老婆がその場で気絶したので、慌てた西さんが抱き起こす。

ヤマさんと久保田刑事は、置引きの忠治に案内され、正ちゃんなる人物のアパートへやって来ていた。

部屋は無人だったが開いており、部屋の中を覗くと、色々なものが所狭しと置いてあり、その中央には、白いバッグも置いてあった。

そこに忠治に客を連れて来たのか?と声をかけ帰って来たのが正ちゃん(草薙幸二郎)で、何を探している?とヤマさんらに聞くので、カバンあるかい?と聞くと、たくさんあるよと正ちゃんは勧めるので、夕べ16番ホームから持ち出した奴だよ。ちょっと署まで来てもらおうか?とヤマさんは告げる。

台東署に正ちゃんを連れて来たヤマさんらが通り過ぎた廊下に立っていた婦人(若原初子)は、夫らしき老紳士(高野誠一郎)が中島刑事と戻って来ると、和子じゃなかったんですか?と声をかける。

遺体を2年前に家を出たきり行方が分からなくなった自分の娘ではないかと訪ねて来た夫婦だった。

老紳士は、些少ですが、あの娘さんの香典にして下さいと中島刑事に金を渡そうとする。

中島刑事が断ろうとすると、お花でも買ってあげて下さいと言うので、中島刑事はそのまま受け取ることにする。

そんな中島刑事は、階段で会った長さんに、違ってましたと、仏の身元が今の夫婦の娘ではなかったことを伝える。

その時、警官が、もう1人来ていますと1人の娘ふさ子(笹森礼子)を連れて来る。

本部にふさ子を連れて来た中島刑事は、全員で払っているのでちょっと待てくれと言葉をかけ、自分は今もらった金を封筒に入れ、それに「お香典」と文字を書き添える。

その頃、別室で長さんとヤマさんに尋問を受けていた置き引きの正ちゃんは、女が死んでいた何て知らないとごねていた。

長さんは、お前、新聞、読まないのか?と言いながら、今朝の朝刊に載った殺人事件の記事を見せる。

正ちゃんは、仕方なさそうに、女がぶっ倒れていたんだ。駅員がやって来て女を抱き起こしてぶっ倒れたんだ。俺はそこに一目散で駆けつけただけなんだと言い訳するが、これを持っていた以上、疑われても仕方ないなとヤマさんは白いバッグを見せながら苦笑する。

そう言えば、線路を渡って逃げてった男がいたんだ。足音がしたんだよ。下駄みてえな音だったな…、これでも俺は、仲間内では正直正ちゃんで通っているんだなどと正ちゃんが言い出す。

長さんは、上に行って3課に任せようとヤマさんに相談する。

ヤマさんは、今の正ちゃんの証言が噓とは思えなかった。

長さんと共に本部部屋に戻って来たヤマさんは、中島刑事に、施錠されていた白いバッグを開けさせる。

そこに、地元署の山越刑事と南刑事が戻って来る。

バッグの鍵を開けてみると、中から出て来たのは、田舎への土産らしき雷オコシと少量の着替えが入っており、どうやらガイシャは水商売の女性だったようだった。

中には、他に「母ちゃん、セーターありがとう。父ちゃん連れて、早く帰って来てくれ ノボル」と書かれたハガキが入っており、ガイシャが息子からもらったもののようだった。

その時、電話がかかって来たので、山越刑事が出る。

ヤマさんは南刑事に、正ちゃんの話を信じてくれと話していたが、その時、長さんは、つい立ての向うの部屋で待っていたふさ子に気がつく。

何か?と問いかけると、もう良いんです。人違いと思いますから…と言い残し、ふさ子はさっさと帰ってしまう。

長さんは、子供に土産だけでも届けてやりたいですねと呟く。

ちょうど台東署に戻って来た久保田刑事は、警察署から出て来たふさ子に気づき、何となく気になって付けてみることにする。

地下鉄の入口付近で、そのふさ子に近づき、よ!サツに何の用だ?と話しかけて近づいた男塚崎(梅野泰靖)は、とある飲み屋にふさ子を連れ込んだので、久保田刑事は、その入口付近で立ち止まって様子を見ると、中からふさ子を叩く音が聞こえて来る。

たまりかねて飲み屋のドアを開けると、店の主人らしき男がドアを塞ぐように出て来て、まだなんですが?ひでえ痴話げんかで…と背後から聞こえて来る怒声の言い訳をして追い出す。

外で様子を見ていると、あのふさ子が店から出て来たので、君!さっき本部に来た方ですね?と声をかけると、ふさ子は怯えたような顔で道路に飛び出し、久保田刑事の目の前で、走って来たタクシーに撥ねられてしまう。

その頃、台頭署内では、西さんが、遺体を観て気絶した老婆が気がついたので、茶を入れてやっていた。

どうして娘さんから便りがないんだろうね?と案じてやると、私のせいなんです…と老婆は口を開く。

父ちゃんが病気になり、娘の送金を頼りにしてたんですが、それを苦にしていた父ちゃんも先年の夏に死んだんでね…、もう送金しないで良いと教えようと上京して来たのだと言う。

最近、娘が送って来た手紙を出してみせた老婆だったが、住所は書いてなかったと言う。

その代わり、店の前で写したらしき娘の写真が入っていたと言うので、それを見た西さんは、赤坂辺りだな…と見当をつけ、地元署に電話を入れてやることにする。

その頃、久保田刑事は、車に轢かれて負傷したふさ子の手当を、駅の救護所でしてもらっていた。

ふさ子の所持品に、あの視察されたガイシャの現場写真があったので、これ、本部から持って来たんだろう?と久保田刑事は問いかける。

しかし、ふさ子は、珍しかったからとふてくされたように言うだけ。

君、名前は?何か、隠していることあるね?さっき殴られていたね?あれ、どう言うこと?この写真と関係あるんでは?と優しく久保田刑事は聞くが、ふさ子は、うるさいわね!とベッドの上で顔を背けてしまう。

本部に電話をかけようとした久保田刑事だったが、救護所内の2台の電話はどちらも使用中だったので、仕方なく、外の公衆電話を探しに行く。

さっきの女、何かあります。臭いですと長さんに電話を入れた本部に電話を入れると、長さん自らが出向いて来ると言うので驚く。

電話を終え、救護所に戻ろうとした久保田刑事に声をかけて来たのは、昨日、地下鉄への通路を教えてやった田舎出の娘だった。

又、会ったのね。東京は広いと言っても、会える人には会えるもんだね。今日は工場から1人でチッキで荷物を取りに来たと娘は嬉しそうだった。

久保田刑事は、ゆっくり話もしてられないんだと娘に断って、救護所に戻るが、さっきまでベッドに寝ていたふさ子の姿はなかった。

看護婦に聞くと、さっき、1人で帰れるからと言い、出て行ったと言う。

畜生!と吐き捨てた久保田刑事は、上野駅構内を必死に探しまわるが、怪我をしたふさ子の姿はない。

そんな久保田刑事に声をかけて来たのは、本部から救護所に出向いて来た長さんだった。

おい、どうした?逃げられたのか!バカ!と叱る長さんだったが、ま、良いよと言い、久保田刑事を連れて行く。

その頃、ヤマさんと南刑事は、上野駅の16番ホームから線路を越え、外へ出られる場所を探していた。

それらしき通用門を探し当てた南刑事は、側にあった屋台を発見する。

本部に戻って来た南刑事から、屋台の主人が何か観ている可能性があると聞いた長さんは、良い線だと頷く。

本部に戻って来た久保田刑事と長さんは、娘が殴られていた酒場の主人を連れて来ていた。

主人は、山名(宮阪将嘉)と言えば、ここらでは通る名ですぜなどと凄んでいたが、その顔を観た山越刑事は、こいつは大沢興行と言う組織の一員ですと長さんらに教える。

半年ほど前、「ピンクローズ」って言う店を手入れした時、日本刀が12本とハジキも出て来たな?2年前には、桜旅館で御開張もあったな?と山越刑事は、粋がっていた山名を黙らせる。

さっき、殴られていた女は?と久保田刑事が聞くと、店の客で…と山名は言葉を濁す。

その時、鑑識から戻って来た中島刑事が、凶器は両丸片刃で、深さは心臓に達しており、ガイシャは経産婦だったと報告する。

長さんは居心地が悪いので帰りたがる山名に、大沢興行の近況でも聞かせてもらいましょうか?などと引き止めていたが、そこに、ヤマさんから係長に電話が入り、ホシらしい男が浮かんだとの報告を受けたので、当たってもらおうか?大分追い込んだねと、係長は捜査の進展に手応えを感じる。

長さんは、女の名前を思い出したら御連絡下さいと皮肉を言い、一旦山名を帰すことにするが、その後を西さんに尾行させる。

山名は、上野6丁目12の家に入って行く。

本部部屋では、係長が山越刑事に松下課長を呼んで来てくれと頼んでいた。

駅の裏手の道沿いにあるおでん屋の屋台の主人は、ヤマさんと南刑事に、あの夜、通用門から出て来た男がいたと証言していた。

本部部屋にやって来た松下課長に赤木係長は、大沢興行を徹底的に洗いたいと申し出していたが、その時、電話がかかって来て、大沢と名乗る男から、木島新吉なる人物が犯人なので、今、自首させると連絡を受ける。

ただちに山越刑事に連れられ、ヤマさんと久保田刑事が大沢興行へ向かう。

その頃、マフラーで顔を隠し、町をうろついている男がいた。

大沢組に自首させられることになった木島(平田大三郎)だった。

とある旅館に来た木島は、「ふさちゃん!」と呼びかける。

どうしたの?と出て来たのは、ふさ子だった。

どうしたの?と聞くと、逃げて来た。頼む!助けてくれ!と木島は言う。

おみゃ、何した?と思わず御国訛で聞くふさ子に、殺しの代人になるのは嫌だ!ユキをやったのは俺じゃねえんだ!やったのは良治だ!と木島は訴える。

あいつは壺振りで役に立つからって…、そんなつもりで組に入ったんじゃねえ!と木島は悔しがるが、手遅れだよ…とふさ子は言い聞かす。

姉さん、田舎さ帰るべ?おら、山ん中の百姓だ。その暮らしが苦しくて逃げ出して来た。でもここよりはましだ。客取る暮らしよりは…、姉さんと一緒だったら何でもやる。畑だってやる。炭だって焼く!と木島が言い出したので。新ちゃん、本気か?とふさ子は驚く。

その時、おい、木島!と呼ぶ声がしたので、新ちゃん、一緒に行く。先に駅で待ってて。8時までには抜け出すからとふさ子は答える。

木島は、駅の食堂で待ってると喜ぶ。

その時、来ると思ったぜ。おめえ、ふさ子に惚れてるからな。組に逆らったらどうなるか、分かっているだろう?と言いながら、塚崎が部屋に入って来る。

塚崎は旅館の女に、組に電話して良治と健を呼べと指示する。

その頃、台東署の本部部屋に来ていたのは、大沢興行の大沢(大森義夫)だった。

応対した赤木係長が、逃げたそうですね?と聞くと、今、若いもんが探しています。木島と言うのは実は偽名でして、本名は三浦和夫、板橋で元働いていた工場の上司に乱暴した奴だそうです。今日の昼頃、本人が言い出しまして…、ガイシャには惚れていたようです。そのガイシャが田舎に帰ると言うんで、かっとなって…、若い時には良くあることですと淡々と大沢は述べる。

手回し良く、木島の下宿の所書きまで用意して来ていたので、こちらでも調べてましてね。今頃、家宅捜索している頃ですと係長は教える。

木島が下宿していた菓子屋で家宅捜索していたヤマさん、南刑事、久保田刑事らは、下宿のおばさん(三崎千恵子)に木島のことを聞くと、東京が合わないからって、急に帰ると言い出したと言う。

夕べ、帰って来た?とヤマさんが聞くと、10時頃帰って来た。麻雀で取られたって、すっかりしけた顔して…とおばさんは答える。

夜になり、橋の上でふさ子を待つ木島。

一方、ふさ子も旅館をこっそり抜け出して、上野駅に向かっていた。

本部部屋に戻って来た南刑事は、木島はシロです。事件当時は麻雀をやってましたと報告する。

長さんも、代人ですよと係長に話しかける。

山越刑事は、大沢興行には売春の疑いもあるので、それを理由に手入れをやってみたら?と提案する。

その時、電話がかかって来たので、それに出た西さんは、上野の救護所で会った刑事さんって言ってると室内を見回す。

僕ですと言い、受話器を受け取った久保田刑事に、電話をかけて来たふさ子は、被害者の名前は松村幸枝と言い、木島さんは犯人じゃないと一方的に告げて電話を切る。

塚崎が上野駅構内に姿を現したからだった。

電話を切った久保田刑事は、彼女は上野駅構内です。常磐線のアナウンスが後ろで聞こえていましたと他の刑事たちに教える。

それを聞いた長さんは、木島と一緒なんじゃ?と呟く。

係長は西さんに、岩手県警に照会してくれと頼む。

ふさ子は上野駅構内の食堂に来るが、近くに来ていた木島の方は、塚崎の姿を発見し近づけないでいた。

食堂では、須藤さん、お電話ですとウエイトレスが客に呼びかけていたので、電話口にふさ子が出ると、相手は木島で、ダメだ、組の奴らが張っているのでそっちに行かれないと言う。

ふさ子は、8時20分の急行があるんで、切符は俺が買っとくからと返事をする。

一番目の箱で一緒になるべと木島は言って電話を切る。

駅の改札口に来ていたのは、被害者を妻ではないかと本部に来た白井淳三で、巡り会えた妻の君子と嬉しそうに帰りの列車に向かっていた。

駅構内を張っていた久保田刑事は、遅れて来た長さん、ヤマさんと合流する。

切符を買っていたふさ子を久保田刑事が発見すると、木島はどこだ?と長さんが周囲を見渡す。

ヤマさんは、妙な兄さんたちを連れてますねと、近くにいた大沢興行の良治(杉山元)と健(吉田毅=沖田駿一郎)の姿を見つけて皮肉を言う。

特に、サンダル履きの良治のことが気になっていた。

ふさ子に近づいた塚崎は、木島はどこだ?と聞き、健にふさ子を捕まえさせておく。

久保田刑事たちは、駅構内で動き出した塚崎たちを追う。

7番線、20時15分、常磐線廻り 普通列車のアナウンスが聞こえる。

構内の雑踏の中に木島の姿を見つけたふさ子は、健の手を振り払い、逃げ出す。

久保田刑事は、ふさ子を追いかけようとしていた健を捕まえる。

出発間際の列車が止まっていたホームにやって来た木島は、そこで塚崎と良治に見つかり捕まる。

そこに、ヤマさんと長さんが駆けつけて来るが、塚崎から逃げ出した木島だったが、走り出した列車に轢かれてしまう。

それを見て、悲鳴を上げるふさ子。

塚崎と良治に近づいた長さんは、兄さんがた、警察だ。同行してもらいたいねと話しかける。

サンダル履きの良治は抵抗しようとするが、中島刑事に取り押さえられる。

その際、落としたナイフも拾い上げられる。

救急車に乗せられる木島を、久保田刑事と共に見送る長さんは、木島に間違いないね?と確保したふさ子に聞く。

台東署の本部部屋前にやって来た西さんは、群がっていた新聞記者たちにもみくちゃにされながら部屋に入ると、開きもしないで、うるさい奴らだとぼやく。

連行されて来た塚崎と良治は、別々の部屋で尋問を受けていた。

やったのは木島だよ。自首させようと思ってね…ととぼける塚崎に、木島は怪我しただけだ。死んだ訳じゃないんだとヤマさんが言い聞かせる。

長さんが、冷えた茶でも入れてやろうとしているとき、南刑事がやって来て長さんの耳元に何事かを囁き帰る。

別室では、良治のナイフから血液型が出たそうだよ。死体の傷はお前のナイフで付けたんだと係長が良治に言い聞かしていた。

良治は、そうだよ…、俺だよ…、俺がやったんだと告白する。

俺から逃げようとしていたらだよ。俺のスケだったんだよと良治は言う。

食うものもなくうろついていたあいつを拾ってやったのに…ふてくされる良治に、本当に、それだけのことでやったのか?あの女に子供がいたの知ってるか?のぼるって言う男の子だよと係長が教えると、知れねえよ!俺の聖者寝えよ!と良治は泣き出す。

西さんが部屋を出て、ヤマさんと長さんが塚崎を尋問している部屋に来ると、良治が吐きましたよと伝える。

塚崎は驚いたように振り向く。

本部部屋に戻って来た長さんは、塚崎はどうします?帰しますか?と係長に聞くと、良いだろう。大沢組はどうせ手入れだ。又、引っ張ることになるだろうと赤木係長は答える。

木島はどうした?と安否を係長が聞くと、輸血していますが、意識を取り戻してませんと久保田刑事が答える。

女中さんか?売春か?と係長は、室内にいたふさ子に聞く。

どうして逃げ出さないんだ?と南刑事が聞くと、一度そう言う生活を始めると、どうでも良くなるんだ。逃げた人もいるけど、殺されたのさ…とふさ子は暗い目つきで答える。

私も逃げたかった…、でも出来なかった…とふさ子は言う。

その時、電話がかかって来て、受話器を取った長さんは、え?そう…と、驚いたように答えると電話を切り、木島が死んだそうですと係長に報告する。

その時、ヤマさんや西さんが戻って来て、部屋の中の沈痛な雰囲気に気づく。

もう、帰っても良いんだね?と無表情になったふさ子は聞き、又、明日、来てもらうと係長が答えると、旅館は営業停止…、さば、又、他を探さねば…と呟くと、君!と久保田刑事が呼び止める中、ふさ子は振り向きもせず部屋を出て行く。

そのふさ子とすれ違う形で、良治、吐きましたか?と聞きながら中島刑事が帰って来る。

電話が鳴ったので、係長が取ると、武田アヤ?と一瞬戸惑うが、すぐに相手を思い出し、西さん、昼間のおばあさんだと電話を西さんに渡す。

どうした?娘さんは?と西さんが電話の向うの老婆に聞くと、写真の店は去年の夏に辞めたそうで…と言う。

じゃあ、気をつけて帰るんだよと西さんが言い聞かせ、電話を切ると、これから田舎に帰るそうです。お金を貯めたら、又出て来るそうですと係長に報告する。

老婆は、上野駅の改札を通り抜ける。

その改札に来ていた、あの工場勤めの娘に、よっちゃん!と呼びかけたのは、田舎から上京して来た友人らしかった。

改札を出て来たその友人は、工場の娘との再会を喜ぶように、一緒に駅を出て行く。

ふさ子が雑踏の中を帰えって行く。

「ほとんどが出稼ぎさ」「東京の働き先には、人相の悪い世話役ってのがいてな」「机、蹴ってな…」等と言う町の声が重なる。

事件が解決したにも拘らず、本部部屋の机に座った七人の刑事たちは、何故か全員、暗い顔をして沈み込んでいた。

(列車の音が重なる中)赤木係長は、所轄の山越刑事と共に、新聞記者を集め、事件が解決したことを発表していた。