TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

最後の切札

主役を演じている佐田啓二には「眼の壁」(1958)と言う松本清張作品もあるので、この作品も出だしの部分を観ていると、松本清張風の新興宗教を扱った社会派推理ものか?と思わせる。

ところが、この主役は、清張作品の主役のような平凡な一般人ではなく、とんでもない色悪の詐欺師と言うことが分かって来る。

甘くソフトな二枚目のイメージしかない佐田啓二が、このとんでもない極悪人を演じていると言う意外性が、この作品の一番のミソだろう。

妻帯者でありながら、何人も愛人を外に作っており、その女たちを使って芸能ブローカーのような裏仕事もやっているし、その愛人たちは性欲の対象でしかない…と言うのだから恐れ入る。

後年の緒形拳か誰かが演じそうな悪党である。

唯一の救いは、その愛人の1人には本気で惚れており、彼女の為に詩まで書いてやると言う人間らしい一面を持っていると言う所だろう。

しかし、この主役は自らの頭脳に賭け、大きな組織に勝負を挑み、そして意外なラストを迎える。

コンゲーム(詐欺)の要素を含んだある種のクライムサスペンスもの…と言った展開である。

イケメンが犯罪者と言うパターンは昔から良くあるが、佐田啓二のこの役柄、見事にハマっているか?と言うと正直微妙なような気がする。

佐田さんの他の作品で、同じようなキャラクターがなさ過ぎる為だと思う。

あまりにもこの作品での役柄は異色過ぎ、女を肉欲の為だけに抱く酷薄なイメージの佐田啓二…などと言う絵柄は、どうも馴染めない部分がある。

それでも、この作品、名脇役陣総登場と言った印象で、加藤嘉、殿山泰司、三井弘次、西村晃、多々良純、浜村純、上田吉二郎…と、脇役好きには嬉しくなるような顔ぶれが次から次へと登場して来る。

さらに、若い小池朝雄、神山繁、佐藤慶も出ており、女優陣の方でも、「生きる」でくらいしか馴染みがない小田切みき、そして芳村真理まで出ている。

特に小池朝雄など、声を聞かないと、誰だか見分けがつかないほど若い。

主役が唯一心を惹かれているヒロイン役を演じているのは桑野みゆき、劇中では吹き替えかもしれないが、歌まで披露している。

この頃の松竹映画は、こう言った層の厚い脇役陣が、この手の一見地味なドラマを支えていた事が分かる。

新興宗教や政治家などの描き方がやや類型的とも感じるが、主役の設定が面白いこともあり、最後まで興味深く内容に引込まれて行く。

隠れた名品の一本と言っても良いのではないだろうか。

ただ最後まで引っかかるのは、主役のような二重、三重生活のような事が実際に可能か?と言うこと。

実家の洋品店は女房に任せきりとしても、その陰で芸能ブローカーのような仕事をし、さらには詐欺師まがいの仕事までしていると言うのはいささか無理がありはしまいか?

劇中に登場しているテレビ局が架空の局ではなく、実在するフジテレビと言うのも意外。

プロデューサーの描写など、あまり良いイメージで描いてないだけに、何かこの作品で協力する意味があったと言うことだと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、松竹、白崎秀雄原作、橋本忍脚色、野村芳太郎監督作品。

ネオン瞬く夜の銀座。

タクシーの後部座席でじっと、とあるキャバレーの入口を張っていたのは、メガネで変装した立野駿介(佐田啓二)だった。

立野は、ホステスに見送られ1人の紳士が車に乗り込んで店を去ると、運転手に合図してその後を尾行させる。

中年紳士がやって来たのは「不滅教会」なる新興宗教の本部だったので、車を降りた紳士が玄関ブザーを押した瞬間、タクシーから降り立った立野は、同乗して来た写真屋を走らせ紳士に近づくと、いきなりフラッシュを焚いて、振り向いた紳士西川為次郎(竜崎一郎)の写真を撮らせる。

驚きながら誰何されると、立野が前に進み出て、中央新聞の名刺を手渡す。

焼き肉屋や麻雀屋などと一緒の雑居ビルに入った中華料理屋「宝来軒」に戻って来た立野は、今日の話を仲間の吉村(宮口精二)に話していた。

相手に巧く取り入るために、明後日の9時に新宿西口で落ち合おうと吉村は計画し、川崎で捕まった奴はそろそろ落ちそうだと教える。

目黒署では、川崎の競輪場で拳銃を買った所を捕まった「不滅教会」の信者津山(浜村純)を、捜査主任の渡辺警部(松本克平)が、あんたと西川が一緒に車に乗っているのを見たものがいるんだと問いつめていたが、三日三晩黙秘を続けていた信者は、突如、狂ったように、せいしん!せいこん!ふ〜めつ、ふ〜めつ!と教会のお題目を唱え始める。

翌々日、「不滅教会」の事務長である星野重次(加藤嘉)を訪ねた吉村は原と名乗り、立野を自分と同じ宗教研究会の山口と紹介する。

吉村は星野に新聞を渡すと、最近、怪し気な新興宗教が多いなどと話をふる。

その時、中央新聞から電話が入ったと言って来たので、立野は吉村に促され、何ごとかと言う風に電話口に向かう。

電話の相手はかねて打ち合わせ通り「宝来軒」の女給安子(富永ユキ)だったが、受話器を握った立野は、文化部の小島さんでしたか!などと、隣の部屋にいる星野に聞こえるように、電話口で一人芝居を始める。

電話を終えた立野が、会長!と吉村に呼びかけながら部屋に戻ると、吉村は星野に寄付金の額を聞く。

星野が、会計担当の越村清太郎と相談してみますと言いながら席を立ったので、満鉄時代のお知り合いの星野さんは近頃飛ぶ取りを落とす勢いですななどと吉村が水を向ける。

星野が部屋を出て行くと、庭の向うの廊下を教主の女性が通りかかったので、60には見えないな…と立野に囁きかける。

越村清太郎(殿山泰司)と共に部屋に戻って来た星野は、50口5万円出しますと吉村に伝え、新聞の方と親しいようですが、ちょっと新聞関係の話を聞きたい。実は一昨日の夜、こちらに来られた西村さんが写真を撮られまして…と言い出したので、ドル買い事件の人ですな?と人ごとのように答えた立野は、相手は中央新聞の人間だったと聞くと、5〜6人いるデスク全員に聞いてみなければ…と考え込んでみせる。

吉村も、営業課の笠原に話しておいた方が良いかな?などと芝居をする。

これはかなり計画的ですな…と立野は真顔で案じてみせる。

星野は、そんな2人を信用したのか、200万からの信者がいるうちなどは、色メガネで観る輩もいるので…と打ち明ける。

満州時代のポン友谷口なども近々選挙に出るので、30万で記事を止めて欲しいと星野は頼んで来る。

狭い事務所に戻って来た吉村はかき氷を食べ始めるが、立野は机に座り、受け取って来た30万を前に、今回の作戦の収支決算を始める。

写真屋の原口が途中からビビりだしたので、色をつけて6000円払ったなどと帳面に付けていた立野は、今回の分け前は7:3で良いですね?横浜ペイ売りが目黒署に検挙されたのも、全部僕がお膳立てをした事ですから…と言い、吉村も、別に文句は言ってないよと答える。

その後、サングラスをかけ、キャバレーにいる小宮田鶴子(日比野恵子)に会いに行った立野は、店の電話からフジテレビにかけ、営業課の人間を呼びだすと、小宮田鶴子の件ですが…と確認を取り、夏子の役決まったよと、電話を切ったその場で鶴子に教える。

鶴子は、梢の方がやりがいはあったかしら?などと、役をもらった事を当然であるかのようにうそぶくと、立野と一緒に外に出る。

そして安宿に連れて来られると、文句を言いながらも、文句を言わないで脱げ!と強面になった立野の言いなりになる。

しかし、事がすんだ立野はすぐに立ち上がり、疲れたでしょう?あんな酷い事をするからとか、熱海はいつ連れて行ってくれるの?などと話しかけていた鶴子が、まだ話があるのよ!と引き止めるのも無視して帰ってしまう。

その後、赤坂のマンションの一室にやって来た立野は、ピアノの所に置かれていた「タンポポ」と言う題の楽譜を眺めながら、その部屋の住人であるクラブ歌手の上坂園子(桑野みゆき)を待つ。

1時間も待った立野は帰って来た園子に文句を言うが、ジュピターレコードの近藤先生に待たされたのと園子は言う。

楽隊屋はどう言った?と立野は嫌味ったらしく聞き、お前には金をかけているんだ。いつまでも銀座辺りのキャバレーで歌ってられたんじゃたまらない!少しは知恵を出せ!ときつい言葉を残し帰って行く。

立野が帰って来たのは商店街にある洋品店だった。

ここが妻トヨ(小田切みき)と住んでいる彼の実家で、店員が客から値切られているのに気づくと、自ら店頭に出向き、デパートの方が安かったと言われましても、糸の太さが少し違うだけで値段は違って来ますから…などと言葉巧みに説明し、あっさりワイシャツを売りつけると、客が帰った後、店員の佐藤に、うちの商品がデパートの商品に勝っている訳ではない。もっともらしい説明をするんだ。この世知辛い世の中で商売をすると言う事は、ありったけの知恵で相手と戦うと言うことだぞと言い聞かせる。

翌日、狭い事務所に来た立野は「不滅教会」の収入源を想像していた。

200万の会員がいるとすると、1人月10円の上納金を払い、その内4円が純益だとすると800万。それに教典その他の売上が200万、つまり月々1000万が寝ていても転がり込んで来ることになる…と、立野は吉村に説明する。

そんな所に、チンピラの利公(ジェリー藤尾)が、家出娘を1人連れてやって来る。

17歳の尾上マミ子(炎加世子)と言うその娘を新宿に連れて行くよう指示を出す立野。

その後、立野は吉村と共に、「破滅教会」の分派である「誠心会」の会長中塚清吾(河野秋武)に話を聞きに出かける。

西川為次郎の部下が、拳銃売買で今取調中の男と一緒に乗っていたらしいと言う話を種に聞きに行ったのだが、竹川支部長の急死事件も教会からの脱退と関係があるんじゃないですか?と立野たちが当てずっぽうで言ってみると、中塚は驚いたようにその話に食いついて来る。

昭和34年正月、第6支部長だった竹川なる人物が急死したのだったが、その竹川と中塚が性格的に合わないと言われていただけに、中塚を陥れる為の星野の工作だったのではないかと立野等がほのめかすと、中塚は、何と言う悪魔だ!と激高し、確かに、竹川君の死に方はおかしいと言い出す。

教会で酒を出されたのち、急に気分が悪いと言い出し、帰宅したのだが、竹川はその後2〜3時間後の明け方に死亡したと中塚は説明する。

呼ばれたのは、玉井と言う医者でしたね?と吉村が確認する。

その中塚の言葉は、立野等が服に忍ばせていた隠しマイクでテープレコーダーに密かに録音されており、事務所に戻って来た立野と吉村はそれを聞き返していた。

そこに、映画を見せてコッペパンを食わしたと言うマミ子を連れ、利公が戻って来たので、立野は、そのマミ子を安旅館に連れて行くと、抱いた後、1200円で買ったハイヒールをマミ子に履かせてやる。

そして、新宿の中華料理屋「白湯軒」にマミ子を連れて行き、店主の池田(多々良純)にマミ子を預けて帰る。

その後、フジテレビにやって来た立野は、銀座からスカウトして来た上坂園子の採用に関してプロデューサーに聞きに行くが、プロデューサーは、近藤氏はその方では噂の人だから、2晩も付き合えば決まったんだろうけどね…と不採用になった事を匂わせて来る。

その後、ドラマのディレクターに会いに行った立野は、モニターに映る小宮田鶴子の演技を観ながら、下手だな〜…と悪口を言っている現場に来合わせてしまう。

ディレクターも、背後に来た立野に気づき、一瞬気まずい空気が流れるが、一応小宮田鶴子のギャラを渡してくれたので、立野は、その中の一部を相手に渡し、次もお願いします。あまり巧くないですが…と真顔で頼んで帰る。

立野は、「破滅教会」の越村清太郎から喫茶店に呼びだされていたので、そこで会うと、選挙が近いので、目黒署に捕まっている信者を助ける為に、係長か主任さん辺りに話をしてくれませんかと言いながら、金の入った封筒を渡そうとするので、ここでそう言うものを受け取って結果が出ないと、後々問題になるといけないので…と受け取りを拒否する。

その夜、目黒署の渡辺警部を焼き鳥屋に呼びだした立野は、拘留中の川崎で捕まえた津山の様子をそれとなく聞いてみる。

渡辺警部は、ああ言う信者はキ○ガイと同じだ。都合が悪くなると、すぐに念仏を唱えだすと不機嫌そうに教え、川崎の目撃証言をしてくれるのか?と聞いて来る。

さらに、次席が本庁の支持で、極力慎重にやってくれと言って来たと、上からの圧力もかかっている事も打ち明け、それでも、自分は刑事訴訟法の範囲内でやるよと渡辺刑事は意気込む。

立野は、僕に出来る事なら何でもやりますよ、ナベさん!と渡辺刑事を持ち上げながら、ビールを勧める。

そして立野は、拳銃事件よりもっとでっかいことがあるんだと囁きかけると、昨年の正月に、教壇内で仲間割れが起き殺しが起きたらしい。あんまり拳銃事件の方を構うと、今までの事が全部すっ飛んでしまう公算が強いなどと言い含める。

その後、すっかり泥酔した渡辺刑事を抱え、駅の構内のベンチに座らせると、ナベさん、あの件はほどほどにして、うやむやにしてもらわないと…などと話しかけ、渡辺が承知した所を後ろのベンチにあらかじめ座らせておいた越村に聞かせ、その場でこっそり金を受け取る。

そして、渡辺刑事を抱えながらホームへ向かう階段の所で、その金を渡辺刑事の尻ポケットにねじり込む様子越村に見せる。

しかし、越村がそれを見届け立ち去り、渡辺刑事を電車に押し込むと、しっかり金の入った封筒は立野が取り戻していた。

それから立野は、愛人の1人民江(芳村真理)とタクシーで移動していたが、後部座席に同乗していた民江は、立野が金を手にした事を知っているので、少し欲しいわなどと甘えて来る。

立野は、高利貸し(上田吉二郎)の家に来て、金を借りようとするが、高利貸しは巣鴨の家を処分した方が良い。今度ばかりは手形の期日が来たら書き換えは出来ませんぜと忠告する。

立野は、まさかの時は洋品店をやってれば何とかなるんだ。とうとう掘り当てましたよ。大きな山をね…と高利貸しに笑いかける。

翌朝、立野は、民江のアパートのベッドで目覚め、朝刊に、立候補を表明した谷口剛造の記事が載っていたので、寝そべったまま読んでいた。

先に起きていた民江は、スーツの生地買ってくれる?とねだりながら、あんたが私を使って、いくら儲けたか知っているんだからねとからかう。

そして、あんた、私の事計算高い女だと思っている事も知っているわ。でも、金目的で付き合うなら爺さんを相手にしているわと民江がうそぶくので、やりゃ良いじゃねえか?お前の金銭欲と身体がそれで満足するのなら…と立野は言い返す。

その日、利公 を連れ、新宿の「白湯軒」にやって来た立野は、店の外に利公を出し、主人から金をせびろうとするが、主人は、あの事一緒に風呂に入ってみたが、あの子は少し頭が弱い。だから、手を付けてないんだと言い出す。

立野は、マミ子は生娘だ。半玉と同じで2〜30万は取れる女なんだと脅すが、主人の方も負けじと、渋谷の署長を良く知っていると言い返す。

しかし立野は、表から利公が見ているぜ!と脅し、「白湯軒」野間スターが16の娘と関係したなんて噂が広まったらまずいだろう?などと言葉巧みに5万せしめて店を出る。

そして、事務所に先に戻っていた利公には1万しかくれなかったと噓を言い、1万円だけを手渡してやる。

それでも喜んだ利公は、これから後楽園に行きませんか?と競輪を誘うが、今日はちょっとした大仕事なんだと断った立野は「宝来軒」で吉村と落ち合う。

吉村は、分派の連中が動いていると調査して来た結果を教える。

「誠心会」の中塚清吾とつながりがある西川為次郎は、渋谷の松濤に50坪の家があり名に不自由なく暮らしている…と立野も調べて来た事を報告する。

2人は宗教研究会の偽名で中華料理屋に星野重次を呼び出し、「不滅教会」は脱退会員に脅しをかけており、身辺警護のため横浜でピストルを購入したのでは?と探りを入れてみるが、食事を済ませた星野は落ち着き払っており。世の中にはたかりよりも悪質な奴がおり、警察の下っ端と組んで、事件をうやむやにしてやろうとか、助けてやろうととか話しかけて来る輩がいます。実際、目黒署の捜査主任を操っている悪党がある…と、2人の正体を既に見抜いている事を匂わす。

谷口君など次の大臣だ。そんな立つ等は捻り潰し、臭い飯を食わせた方が良いのだと言っているよと逆に星野が脅して来たので、立野は、僕たちもお手伝いしましょうか?と冷や汗をかけながら精一杯の虚勢を張る。

そして、元戦争屋の内務次官谷口氏を持ってしてももみ消さない事件がありましてね…と立野が核心に触れると、竹川良平君の事かね?丸一年も前の事ですよ。その内暇ができたら話に乗りましょうなどと言い残してさっさと帰ってしまう。

それを見送った吉村は、尻をまくりやがった…と悔しがり、刑事事件をもみ消してやると言ったのはまずかったね…と、立野の越村との個人プレイをやんわり諌め、自分は、不滅教会の件からてを引かせてもらうと言い出す。

疲れきって上坂園子の部屋にやって来た立野だが、園子は、苦心惨憺してやっと出来たのと言い、ピアノを弾き始めると、自ら作曲した「タンポポ」と言う童謡のような歌を披露する。

あたしの人生で、一番楽しかったわ…、あの雨の晩が…と園子は昔を思いだしながら呟く。

(回想)貧しいアパートの一室に雨の晩帰って来た園子は、身体を拭きながら一枚の置き手紙を読み出す。

それは立野からの手紙で、作詞家に頼んでみましたがなかなか作ってくれません。小学1〜2年の頃に先生に教えてもらった歌詞のようなものを作ってみました…と書かれてあり、「タンポポ」の詩が書かれてあった。

(回想明け)ベッドに寝そべっていた立野は、興味なさそうにリンゴをかじっていた。

(回想)あの人にこんな人間らしい一面があるなんて…と、手紙を読み終えた園子は感激していた。

(回想明け)園子は、自分で作曲した「タンポポ」の唄を歌いだす。

その歌をベッドで聴いていた立野は、良し!勝つか負けるか、とことん勝負だ!と突然呟く。

翌日、再び「誠心会」の中塚清吾に会いに出かけた立野は、幹部が全員揃ったんですね?と、武川が死んだ日の事をもう1度確認する。

その時出されたものはと聞くと、刺身、焼き魚、酢の物、エビの天ぷら…と中塚が思い出して行ったので、仕出しですね?と立野は断定する。

酒は台所でカンをしたものが出されたが、武川は急に気分が悪いと言い出し、10時半頃帰ったが、それから4〜5時間苦しみ、翌3日の3時頃死んだと言う。

海千山千ですからね…と中塚は星野の事を当てこすり、取材中、絶えず中塚の横で念仏を唱えていた斉藤弥一(三井弘次)なる不気味な信者は、人殺しの罪を先生にかぶせるようなことがあったら許さん!と一人興奮しだす。

その後、立野は、昼食時間、弁当を拡げていた法医学者富塚講師(神山繁)を訪ね、あくまでもドラマの話の参考として、そのような殺し方が出来るかどうかを確認する。

すると富塚講師は、ヒ素ですねと、あっさり答えてくれる。

死体を土に埋めた場合、検出は出来ますか?と立野が聞くと、箱に入れてあったりすると、骨、爪、歯の中からヒ素のような金属は残りますよと言う。

早速、立野は、変死した竹川支部長の田舎に出向き、墓参りと称して、地元の農民に武川の遺体が埋められた墓の場所を聞き出す。

墓の近くまで案内して来た農民は、昔からちゃんとした宗教があるのに、新興宗教などが出て来るのが分からん。死んでしまえば、昔ながらの仏式で弔いをするのに…と呟く。

念のため、この辺では火葬にするのか?と立野が聞くと、伝染病で死んだのでもなければ、7〜8分の分厚い松板で棺を作って、その中に遺体を入れて埋めると言う。

農民に道を教えてもらい墓場にやって来た立野は、目指す竹川良平之墓を見つけ出したので、それまでかけて来たサングラスを外し、思わず笑顔になる。

ある夜、上坂園子はキャバレーで歌っており、客として来ていた立野と吉村もそれを聞いていた。

そこに、衆議院に立候補している谷口剛造(柳永二郎)と「不滅教会」の星野重次と越村が一緒にやって来たので、立野は思い切って相手のテーブルに挨拶に向かう。

立野の顔を見た星野は、穏やかな笑顔で出迎え、星野を山口と谷口に紹介すると、あの唄い屋は胸に隠しマイクを付けているそうですね?

胸にマイクを付け、匕首を突きつけるような輩は油断も隙もないと星野が嫌味を言って来たので、お釈迦様のような面で、実は悪人だったと言うこともありますよと立野も言い返す。

宗教界の廻りにいるダニみたいな奴等は掃除しないとねと谷口も立野を揶揄して来たので、拝み屋と手を組んでいる政治家なども大掃除願いたいものですと立野は言い返し、相手がむっとするとその場を立ち去る。

その後、アパートに戻って来た園子は、おじさんが5万必要になったので用立てしてくれないか?と言い出したので、部屋に付いて来た立野は、いつになったら独立するんだ!と癇癪を起こす。

ジュピターのテストでも…、少し考えるんだ!と叱ると、園子は、でも、出来ないわ…と言うので、これで2度目だぞ!いつまでも子供面してるんじゃないぞ!と立野はチャンスをみすみす逃がしてしまった事を指摘する。

あんた、本当に私の事、そんな風に思ってるの?本当に私がそんな事しても良いの?と園子が問いかけると、自分の女が他の男と寝るのを喜ぶと思うか!俺の心を傷つけないように、分からないようにやるのが愛されているってことだろう?と立野が答えたので、あんた、噓言ってるわ。多少鳴りとも私を愛していたと思う。もし本当だったら、あんたは悪党よ!二重性格者!背徳者よ!色と慾とを両天秤にかけて!と責める。

すると立野も怒ったのか、そんなことを言うんだったら、素っ裸にして追い出し、東京で暮らせないようにしてやる!ピアノはおじさんのために売ると名刺に書いとけ!それが嫌なら謝るんだ!と迫るが、園子は名刺に言われた通りに書き。立野に渡す。

立野は受け取った名刺をその場で破り捨て、園子の手を引っ張って引き寄せようとするが、俺は今、のるかそるかの大仕事が待ってるんだと言いながら抱こうとする。

しかし、園子は、止してよ!と拒否し、着替えると、ピアノも全部あなたのものよ。今夜だけこの洋服貸して下さいと言い、部屋を出て行く。

立野は、そんな服、雑巾にもなるか!と出て行った園子の後ろ姿に怒鳴りつける。

その後、衆議院選挙の当選発表が行われ、予想通り民自元の谷口剛造は当選する。

これで谷口は新内閣で保安課次官になる。会長の逮捕は間違いない。最後的な手段を取るしかないと立野は公衆電話をかける。

その後、事務所にやって来た吉村に、立野は、とことんまでやります。勝負は先の先までお見通しなんだと自信ありげに言う。

自宅の洋品店に戻って来た立野は、有り金を持ち出そうとするが、思ったより少なかったので、トヨに、金はこれだけか?と聞く。

トヨは、丸一商会に払ったもんだからと答えるが、立野は、当分、どこにも払うんじゃないぞと釘を刺す。

すると、トヨは不安そうに、昨日、刑事が2人来て、神田の宗教研究会の事でと言っていたと教える。

その直後、利公から電話が入り、青ドルが320ドル手に入ったと言うので、1ドル400円として12万8000円か…と素早く計算すると、すぐに新宿の西口に高山と言う人物を捜しに行く。

すると、片言の日本語を話すアジア人らしき人物(石黒達也)が高山の知り合いだと言って近づいて来たので、青ドルがあるんだけどね…と立野は打ち明ける。

5、6人のアジア人がいる部屋に連れて来られた立野は、用意して来た青ドルの見本を1枚出すと、男たちはそれを明かりに透かして本物かどうか確認し始める。

立野は、1ドル450と言いたいが420で良い。430円なら右から左へ売れるはずだと申し出るが、相手は350しか出せないと言い、値段の交渉が始まる。

その立野の帰りを待っていた利公の元に、ノビ師(佐藤慶)がやって来るが、30分で戻ると言っていた立野は、4時間経っても現れなかった。

ノビ師は、明日の朝まで待たせるのか?と利公に迫る。

その頃、立野は、キャバレーの外に園子を呼びだすと、鹿児島行きの切符を2枚渡し、鹿児島から沖縄、沖縄から台湾、台湾から香港に渡るんだ。大きな仕事がある。万一の時、何の連絡もなかったら東京駅に駆けつけるんだと言うので、園子は、いらないわと断る。

立野は、そんな園子に、まだ怒っているのか?ピアノを取り上げたのは悪かったと謝って来るが、園子は店の楽屋に戻って行く。

それを追って来た立野は、俺はお前と結婚するつもりだと迫るが、今度は案外本当かも…と園子は苦笑するだけだった。

ボーイが出番ですと呼びに来たので、立野は、うるせえな!と怒鳴りつけるが、園子はそのままホールに出て行く。

そして、司会者に紹介され、客たちがダンスを踊っている前で「タンポポ」の唄を披露し始める。

立野はその後、竹川の墓を暴きにまた田舎に向かう。

そして、稲光が光る中、地元で雇ったジャリ運搬人コンビ、チビ(西村晃)とノッポ(小池朝雄)を連れ山の墓に向かうが、途中で雨に降られてしまう。

雨宿りをしていたチビは、これで10日分じゃあ合わねえな…とギャラに対して不満を口にする。

結局、墓にたどり着いたのは、雨が止んで暗くなった時刻だった。

チビがギャラの確認をして来たので、立野は、ジャリ運びの10日分、1日1000円として1万出すと約束すると、後で食らい込むことになるんじゃねえだろうな?1人2万くらいにならないと…とごね始める。

仕方がないので、2人で3万でどうだ?と立野は妥協案を出し、承知した2人と共に竹川の墓を掘り始める。

やがて、棺桶が出て来たので、掘るだけの手伝いと言っていたチビは、後はおじさんにお仕事だよと言い、その場を立野に任せる。

立野は仕方なく、棺桶の蓋を1人で開けてみるが、驚いた事に中には何も入っていなかった。

それを知った立野は、負けた!畜生!星野の野郎!と悔しがる。

その頃、星野は、谷口や越村と一緒に、本部の応接室で、新しく作った教団の歌のテープを聴いていた。

谷口は、なかなか威勢の良い歌だね。来年は300万達成だねと会員数の増加が間違いない事を星野に笑いかける。

星野は、あいつには詐欺の逮捕状が出ているんだ。刑務所送りのあのダニ野郎の面が見たいもんだと立野の事を笑う。

本部から帰る谷口の車を見送りに出て来た星野は、突然飛び込んで来た男にナイフで滅多突きにされて倒れる。

取り押さえられた暴漢は、「誠心会」だ!と叫んでいた。

それは、あの不気味な信者の斉藤弥一だった。

墓暴きに失敗したと悟った立野は、星野がここまで手を回していると言うことは、もう東京には戻れないな…と考えていた。

川口か郡山辺りの温泉でしばらくほとぼりを冷ますか…、こんな奴等に3万も取られてたまるか…と考え、側で待っていたチビとノッポに埋めるのを手伝うように声をかける。

近づいて来たノッポは、棺桶の中の仏って観たことがないんだと言いながら無理矢理蓋の中を覗き込んだので、中に何も入ってない事が分かり驚いたようだった。

それでも3人で棺桶を埋め直すが、またもや金の事をチビが確認して来たので、金は宿の帳場に預けてあるんだと立野は言い繕い、3人は山を下り始める。

一番後ろから山道を降りていた立野は、チビとノッポが先行すると、隙を観て脇道に逃げ込む。

それに気づいたチビとノッポが慌てて後を追って来るので、暗闇の中、立野は必死に山の中を逃げ回る。

ノッポがツルハシを投げつけ、それが立野の足に当たり、逃げるスピードが落ちる。

さらにチビが鍬を投げつけると、その刃先がざっくり立野の首筋に食い込んで、立野はその場に倒れる。

その立野に追いついたチビが、倒れていた立野の身体を蹴ると、死んでいるではないか。

野郎!おろくになりやがったか!とチビは悔しがるが、ノッポの方は怯えて逃げようと言い出す。

だが、悪知恵に長けているチビは、朝になったら尻が割れちまう。さっき掘った墓があっただろう。あそこなら誰も分かりゃしないよと言い出し、2人して立野の死体を引きずって墓場に戻ると、空の棺桶の中に遺体を入れ埋め直してしまう。

年に一度の盆には、誰かが拝みに来てくれるしな…とノッポも愉快そうに笑う。

立野の洋品店は人手に渡り、新装開店を知らせるチンドン屋が商店街を練り歩いていた。

そんな洋品店を覗きに来た吉村と利公が偶然顔を合わせる。

あれ以来、立野の姿が見えなくなった事を2人とも不思議がっていたのだ。

女房は田舎に帰ったらしいが、立野本人は香港で見かけたと言う噂もある…と一緒に商店街を帰りながら吉村が教えるが、その時、利公の左手の小指に包帯が巻かれている事に気づく。

兄貴が青ドルを持って行ったまま帰らなかったので…、責任を取って…と利公は説明する。

でも、立野には香港の方が合っていると思う。今頃向うで盛大にやっているよと吉村は言い、2人はそのまま商店街を歩いて行くのだった。