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のど自慢三羽烏

花菱アチャコと清川虹子コンビの人情歌謡映画。

清川虹子とは夫婦関係であった伴淳こと伴淳三郎も出ているし、人気歌手の近江俊郎が、歌だけではなく芝居でも参加しているのが見所だろう。

前半は、若い頃の小林桂樹が歌手として出て来るのが珍しいが、途中から、その小林桂樹の友人として登場する近江俊郎がやけに良い役をやっている。

劇中、歌も何曲も披露するし、まるで「近江俊郎ワンマンショー」とでも言いたくなるような展開。

小林桂樹の歌うシーンはもちろん「吹き替え」だろうが、恋人の為に作った歌を披露すると、恋人もその場で一緒にデュエットし始めると言う「エレキの若大将」(1965)を連想させるようなシーンが登場する。

こちらは一応、恋人の方が楽譜を覗いているカットが挿入されているため、その後、2人が何も観ずに歌い続けても、そう不自然ではないが、ひょっとして、「エレキの若大将」の原点はこの作品だったのかもしれないなどと想像したりする。

アチャコと清川虹子が訳ありの1人娘に注ぎ込む愛情の深さが涙を誘う展開になっているが、さすがに共演が多い2人の息は良く合っている。

伴淳の嫌な客役も絶品。

ヒロインの友人役で、絶えず伴淳の邪魔をする霧立のぼるの気取った立ち姿も愉快。

ヒロイン役の沢村晶子と言う女優さんは始めて見たような気がするが、50年代前半くらいで映画からは遠ざかってしまった方らしい。

目鼻立ちははっきりしているし、胸も大きく、昔で言うグラマー女優のようなタイプの人だったのだろうか?

基本的に、人気歌手の歌を聴かせる所が見せ場で、芝居の方は付け足しのようなものだったのかもしれず、確かにシンプルな展開だが、歌が出て来る映画は無条件に楽しい感じがする。

ほとんどの歌は馴染みのない曲だったが、そうした中、芸者姿で御陽気なお囃子風の歌を披露している久保幸江と言う人と、その曲に合わせてフラメンコ風の踊りを披露している踊子のミスマッチ感が印象に残った。

しかし、この当時の小林桂樹さんのキャラクターと言うのも、正直捉えがたいものがある。

どう見ても二枚目役なんだが、ご本人の見た目は典型的な二枚目と言う訳でもなく、結構、喧嘩に強かったり、誠実そうな人柄だけが魅力の独特の青年像になっている。

親しみ易い庶民派の好青年と言うことだったのかもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1951年、大映、八住利雄原作、館岡謙之助脚色、渡辺邦男監督。

NHKでの公開生番組「のど自慢大会」が行われていた。

24番として出場した平石早苗(沢村晶子)が歌った「東京の喫茶店」は鐘を鳴らしたので、司会者が名前を聞く。

台東区の平石早苗、20歳ですと答えたそのラジオの声を、京都の自宅の布団の中で聞いていた南川雄一郎(吉川英蘭)は、早苗!と叫んで発作を起こす。

それに気づいた妻の保子(橘喜久子)が慌てて駆けつける。

下谷電報局から配達人が向かった先は、経師屋の平石重兵衛(花菱アチャコ)の家だった。

「主人、病悪し、すぐ来てくれ」と言う内容を読んだ重兵衛は驚き、妻のおまつ(清川虹子)を呼び寄せ、京都の旦那様が悪いんや!と伝え、すぐさま旅立つ用意にかかる。

しかし、事情を良く知らない娘の早苗は、慌てて身支度している父重兵衛に、お土産買って来てねなどとのんきにねだるだけ。

おまつは、慌て者の重兵衛に、くれぐれも南川の旦那が悪くなるようなことは言わないでね。南川家の門を入ったら、慌てるんじゃないよとと釘を刺すのだった。

重兵衛が出かけた後、早苗は、どうして南川家に慌てて行ったの?と聞く。

おまつは、うちの人は30年間もごひいきしてもらったからだよとおまつが教えると、でも、それは単なるお得意さんってことだけでしょう?と早苗は不思議がる。

私も昔は御本宅の女中だったし、東京で店を出してもらった恩人なんだよだよとおまつは説明する。

じゃあ、お父さんとお母さんは、出入りの業者と女中のラブロマン…、つまり恋愛結婚でしょう?とからかい、おまつを戸惑わせる。

京都の南川家では、雄一郎を見舞いに来た民江(及川千代)から、今、保子は東京から重兵衛はんとか言う客に会っていると聞かされた雄一郎が又又驚いていた。

重兵衛呼ぶと言うことは、私の容態、よっぽど悪いんか?私に隠しているのと違うか?ほんまのこと言うてくれ!としつこく民枝に食い下がった末、重兵衛を呼んでくれと頼む。

重兵衛が枕元にやって来ると、何しに来たんやと雄一郎は聞く。

すると、重兵衛は、軸を持って来ましたと言いながら、依頼されていた軸を床の間にかけてみせる。

それを観た雄一郎は、ええ軸になった。おおきに…と礼を言った後。浩のこと、保子から聞いてくれたか?と問いかける。

養子の浩が家を出たきり、行方不明になっていたのだった。

浩が尊敬している大先生が東京にいると聞いたので、今、東京にいるのではないかと思うんやと雄一郎は言うので、それなら何とか探してみますと重兵衛は慰める。

浩の顔、知っているか?と雄一郎から聞かれた重兵衛は、私の方は良く知ってますが、向うは私のこと、忘れているかも知れまへんわと重兵衛は笑う。

大きうなって養子もらった子じゃから、意見が合わん時には互いに言葉に角が立つ…、それだけに気持ちもこじれてしまいよるんやと打ち明けた雄一郎は、早苗は達者か?大きゅうなったやろうな?と聞く。

重兵衛は声を潜め、赤坂の奥様に生き写しです。別嬪です。親の私がほれぼれしてしまうほどで…と教える。

声もそっくりやな、この前ののど自慢で聞いたがな…、もう20やな~…、重兵衛、浩がおたんようになったら、えらい勝手なようやけど、早苗を返してもらいとうなったがな…と雄一郎が言い出したので、重兵衛の顔が強張る。

今頃、あんな大きな子供あったことが奥さんに知れたらどうします?と重兵衛は囁きかけるが、ちょうどそこに当の保子がやって来たので、重兵衛は話をはぐらかすのだった。

キャバレー「コロンボ」

店で踊子をしている早苗がテーブル席でメイクをしていると、同席していた友人の圭子(霧立のぼる)が、あんたは良いわね。ホールで稼ぎながらランデブー出来るんだからとうらやましがる。

そんな早苗に近づいて来たボーイが、宮原さんに会ってくれよ、金扁の人だよ、損はないよと頼みに来る。

仕方がないので、早苗が嫌な客で嫌っている宮原(伴淳三郎)に近づくと、聞いたよ、鐘三つ、すぐレコード歌手になれるだろう、講演会作ってやろうか?などと、のど自慢のことでお世辞を言って来る。

しかし、早苗は、そんな宮原を無視して、ステージで歌っている恋人で歌手の小川文雄(小林桂樹)を見つめてうっとりする。

その間も、小遣いやろうか?などとしつこく絡んで来るので、早苗は宮原を突き飛ばしてしまう。

宮原は怒り出すが、そこにやって来た文雄が、アルバイトの歌歌いですと自己紹介した後、僕がお相手しましょうと宮原をなだめたので、僕は歌歌いの歌なんて聞きたくない。外へつまみ出してつかあさいとボーイに頼むが相手にされない。

客たちにも笑われてしまったので、宮原は怒り出す。

早苗はその後、文雄に助けてもらった礼を言い、今度、お父さんに私たちのこと話すわ。変な顔してるけど、ちょっと面白いわよ…などと話しかける。

その頃、帰宅した重兵衛から事情を聞いたおまつは、南川の旦那、やっぱり早苗のこと、聞いたの…と落胆していた。

病気で気が弱くなっているから…と重兵衛が言うと、でも、本当の子だからね…とおまつは沈み込みながらも、でも私たち、立派に育てて来たねと感慨に耽る。

その時、二階から早苗が下りて来て、お父さん、私、結婚したいの。好きな人が出来ちゃったのよなどと言い出したので、重兵衛は驚き、親が許しません!と叱りつけたので、自分は散々京都の話しておいて私の話は全然聞いてくれないのね!と膨れて二階に戻る。

早苗は、そんなしょうもない男にあげられません。私がちゃんと表装しようと思うてるなどと重兵衛がおまつに言い聞かせていると、あの子は南川家の血を引いている。うちの子じゃないのとおまるは反論するが、着替え終わった早苗が出かけて行くではないか。

好きな人に会いに行くんじゃないの?とおまつが案じるので、気が気ではない重兵衛は、こっそり娘の後をつけてみることにする。

川辺のベンチで文雄と落ち合った早苗は、話した?どうだった?と聞く浩に、びっくりしていたわ。でも私は浩さんのものよと早苗は答える。

その側から、こっそり監視を始めた重兵衛は、何かいちゃいちゃと話とりますがな。抱きついとりますがな!これはいけません!などと慌てふためいていた。

文雄は、楽譜を取り出すと、君の為に作曲した曲なんだと言い。「君を呼ぶ歌」と題する新曲を披露し出す。

すると、早苗も楽譜を観ながら、一緒にデュエットし出す。

楽しそうに歌い出しました。歩き出しましたがな…と言いながら、草むらに腹這いになり、2人ににじり寄ろうとした重兵衛だったが、文雄の顔を見た途端、こりゃいけません!あれや、いかん!若旦那のボンボンや!と気づき、這々の体で自宅に駈け戻ると、おまつにそのことを報告する。

おまつ、喜べよ。願ってもない縁談やないか!ほんまにええ婿取ってくれた!取りよった!と重兵衛は喜び、やっぱり目の付けどころが違うね!とおまつも喜ぶと、前祝いや、一本つけてくれ!などと重兵衛ははしゃぎ出す。

しかし、少し落ち着いたおまつが、お前さん、こりゃえらいこったわ。もし、早苗のことがお屋敷の奥様に分かったら、旦那様の立場はどうなるの?奥様の気持ちはどう?私たちはご恩を仇で返すことになるしさ、その結果、早苗をお屋敷にお返しになることになるかもしれないんだよと…と案じ始める。

そんなことできますかいな!と重兵衛は驚き、私も20年間も宝物みたいに育てて来たんだもの…とおまつも嘆く。

今まで喜んだことはみんなぬか喜びか…、やや子のときからあれまで大きくするのには並大抵のことやない。それに、生木を裂かれるような思いをするなんて…、思うただけでも寿命が縮まりますわいな…と重兵衛は哀しむ。

だからさ、ここは良く落ち着いて考えないと行けないんだよと言い聞かしたおまつは、しばし考えたあげく、京都へ電報を打って来てくれと言い出す。

京都からお迎えが来るまでにだね、早苗にそれとなく、若旦那の居所を聞いといて、お迎えの人が来たらご案内するんだよと説明する。

そんなら若旦那は京都へ帰ってしまいよるで、ほんなら早苗はどうなりまんねん?ほなら、わてらで2人の仲を裂こうとするのかい?と重兵衛が聞くと、早苗は私たちの子だよ。2人の子供にしておくには、背に腹は変えられないだろ?とおまつは言う。

しかし、そんなことになるとは知らんと、世の中にこない惨たらしい親があるやろか?可哀想にな~…と重兵衛は嘆く。

「コロンボ」では、又しつこく、宮原が早苗を呼んでくれとボーイに頼んでいたが、さすがにボーイも無理だと断るので、癇癪を起こした宮原は、テーブルのウィスキーをまき散らす。

そのウィスキーがかかった隣のテーブル席に座っていた柄の悪い連中が立ち上がり、宮原に因縁を付け始めたので、文雄がまた止めに来る。

柄の悪い連中に、お引き取り下さいと低姿勢に声をかけた文雄だったが、相手が殴り掛かって来たので、やむなく3人を投げ飛ばすと、何ごともなかったように、客席に向かい、おくつろぎを…と挨拶したので、客席から拍手が起こる。

文雄と一緒に帰りかけた早苗は、今夜は本当に驚いたわ。あんなに強いなんて…と浩の腕を感心すると、明日の夜は公休よ、うちに来て。私がごちそうを作るわと誘う。

文雄は、じゃあ、あんまり期待出来ないなとからかう。

翌日、早苗は文雄の為に買い物に励んでいた。

その頃、重兵衛は、電報を受け、京都から浩を迎えに来た大澤(潮万太郎)と小島(高村栄一)と共に、車で、浩が下宿していると聞いた春山と言う作曲家の家にやって来るが、留守番をしていた女中が言うには、12時30分から先生は放送があるので、小川さんも一緒に行っており、晩ご飯はいらないと言っていましたと言う。

それを聞いた3人は、放送局へ行ってみることにする。

しかし、NHKにやって来た重兵衛は、自分はボンボンに顔を知られているので、後で恨まれますと言い出し、浩と会うのを避けるため場を離れて行く。

局内をうろついていた重兵衛は、ちょうど、のど自慢の受付をやっていた列に紛れ込み、番号札を受け取ってスタジオの中に入ってしまう。

春山と共にやって来た小川文雄こと浩に会った大澤と小島は感激し、事情を聞いた春山も、親が病気では帰らないわけにはいかないだろうねと浩に言い聞かす。

自分が選んだ道を行くのが親孝行と言いたいだろうが、場合が場合だと春山から言われた浩は、考えた末、分かりました、帰りますと答えたので、迎えに来た大澤と小島は喜ぶ。

取りあえず浩は、その日は、先生の最後のお手伝いをすることにする。

大澤と小島は、重兵衛の行方を探していたが、その重兵衛は、いつの間にか公開放送のマイクの前に立たされ、酒飲んだら~♪などと歌を歌い、鐘を鳴らしていた。

司会者から名前を聞かれたので、多山堂重兵衛ですと答えると、お菓子屋さんですか?と聞かれたので、表具屋ですと答える。

さらに、アチャコさんに似ておられますが、ご親戚ですか?等と聞かれたので、アチャコが私に似とりますのや、さいなら!と重兵衛は説明し、客席を沸かせて帰る。

スタジオの外に出た重兵衛は、浩が大澤と小島と一緒に近づいて来たので、慌てて隠れる。

浩は、今夜、約束があるので、明日帰ろうと大澤と小島に言うが、それはいけませんと止められる。

早苗は自宅で、歌を歌いながら、料理をこしらえていた。

その自宅に戻って来た重兵衛は、郵便配達が持って来た、早苗宛の浩の速達を開けて読んでみる。

僕は父の病気で京都へ帰りますので、今夜の招待には行かれません、お父さん、お母さんに宜しく…と書かれてあるのを読んだ重兵衛は、自分のしたことを悔むように嘆く。

京都へ向かう夜汽車。

平石家では、早苗がごちそうをテーブルに並べて浩を待っていたが、9時になっても浩は現れなかった。

その事情を知っている重兵衛は、何とか早苗をいたわろうとするが、早苗の方は、浩が来ない理由が分からず、わざわざバスの停留所まで行ってみる。

どこまで行ってもお越しにならん…、おまつ、いっそのこと、打ち明けてしまおうか?と弱気になった重兵衛だったが、おまつは、そんなことしたら、あの子はすぐに京都へ行くわ。そしてお屋敷に取られてしまうわと反対する。

戻って来た早苗は、浩さん、来なかったのよと泣き出したので、あんたが泣くと、お父っつぁんまで泣きとうなりますと重兵衛も哀しむ。

翌日、春山先生の屋敷を訪ねた早苗だったが、小川浩は国へ帰ったと言う女中は、その国元がどこかまでは知らなかった。

自宅にいた重兵衛は、早苗は私たちの手で幸せにしてやれば良いんだからさと…と言うおまつに、あんな生木を裂くようなことして…、早苗のことを考えると可哀想で、可哀想で…といら立ちをぶつけ、売り言葉に買い言葉で、ついつい2人は口喧嘩してしまう。

ホールにやって来た早苗から話を聞いた圭子は、あんたに黙って行くようじゃ…、あんた、騙されていたんじゃないの?と同情する。

ステージにやって来た早苗は、人気歌手の近江俊郎(本人)が歌っているので驚くが、圭子によると、文雄さんがいなくなったので代わりの人を探していたら、それを知った近江さんが買って出てくれた。文雄さんと近江さんって仲が良いのだと言う。

その日も店にやって来た宮原は、新しく用心棒として柔道3段でラギビー選手の山田(山室耕)を雇い、連れて来ていた。

そしてカウンター席にいた早苗に、ボーイに聞いたんだが、好きな男に振られたって本当か?等と無神経なことを聞いて来て、わしと言う男があるんじゃけんの、そんな薄情な男は早く忘れんさいと言いながら、早苗の手を引いて自分のテーブルに引き寄せたので、もうあの人のことを言っちゃ嫌よと早苗は言う。

君の田舎に行った恋人の為に飲もうと宮原が誘うと、早苗は断るどころか、むしろ自分から何度もお代わりをねだり、やけ酒を飲み始める。

すると、そこにやって来た近江俊郎が、身体に悪いじゃないかと早苗を諌め、文句を言って来た宮原には、君が強制してるじゃないか!と言い返す。

山田を指し、この人は用心棒?と近江が聞くと、わしはこの人の用心棒と宮原がごまかしたので、近江は、僕はこの人の用心棒と言い早苗をかばう。

その頃、自宅では、一日に何通も早苗宛に来る浩からの手紙を受け取った重兵衛が、おまつと共に、南無阿弥陀仏!と念仏を唱えながら、火鉢で燃やしていた。

惨たらしいね…とおまつが嘆くと、何が惨たらしいじゃ!お前があんなことするからや!と重兵衛は怒り出し、またもや夫婦喧嘩が始まるのだった。

二階にいる早苗を案じて様子を観に来た重兵衛は、早苗が京都からの手紙を読んでいると言うので仰天するが、良く聞くと、京都へ新婚旅行に行った同級生からの手紙なのだと言うので安堵する。

重兵衛は、あれこれ早苗を慰めようとするが、放っといてよ!といなされてしまう。

そこに、早苗の友人圭子がやって来たので、重兵衛は、早苗は落ち込んでホールにも行かんのやと説明し、慰めてくれと頼む。

早苗の部屋に入ってきた圭子は、やっぱり手紙来ないの?、何か深い事情でもあるんじゃないの?と話しかけるが、その時、外のラジオから聞き覚えのあるメロディが聞こえて来たので、早苗は驚いて、自室のラジオのスイッチを入れ耳をすます。

それは、岡崎公会堂からのNHKののど自慢京都予選で、歌っていたのは浩だった。

早苗が聞き覚えがあったのも当然で、それは自分の為に作曲してくれた「君を呼ぶ歌」だったからだ。

歌い終わると鐘が鳴ったので、司会者が名前と住所を聞くと、南川浩ですと言うので早苗は顔を曇らせる。

しかし、どなたの曲ですか?と聞かれた浩が、自分の作曲ですと答えたので、ますます混乱する早苗。

住所を聞くと、京都市左京区西福の川橋65番地です。最近まで東京におりましたとはっきり言う。

一緒に聞いていた圭子は、良かったわねと喜ぶが、でも、南川浩って偽名で歌ったのかしら?と早苗は疑問を口にする。

そうね…、でも文雄さんの方が偽名かもしれなくってよ。きっとあなたに聞いてもらう為に歌ったのよと圭子が言うと、南川…、あら、私どうしようかしら!と早苗は狼狽し出す。

外出から戻って来た重兵衛が再び早苗の部屋に来ると、早苗も圭子の姿もなく、テーブルに置き手紙だけが置かれていた。

それを読んだ重兵衛は仰天し、おまつを呼ぶと、えらいこっちゃ!早苗が京都へ行きよったがな!と知らせる。

京都の南川家

寝込んでいた雄一郎の元にやって来た妻の保子が、浩に東京からお客様がと知らせる。

応接室で久々に対面した浩は喜び、手紙は読んでくれた?と聞く。

しかし、早苗が、あなたの手紙なんて一つも知らないわと答えたので、事情があるんだと思って、のど自慢に出たんだと浩は教える。

私の父がお世話になっている南川さんって、あなたの家だったのね。随分因縁があったのね…と早苗は感激しながらも、東京に知り合いの表具屋さんがあるとは聞いていたけど、僕は学校出てから来たんで、良く知らないんだと浩は答える。

こんな立派なお部屋にいると、自分が可哀想になるわ。だって私は、あんな貧乏な家に育った娘なんですもの…などと早苗が言うので、浩は優しくたしなめる。

その時、民江が菓子を運んで来たので、部屋を出て行った後、どなた?と早苗が聞くと、うちの知り合いのお嬢さんで、親父が病気なんで看病に来てもらっているんだと浩は説明する。

きれいな方ね。浩さん、私、家を飛び出して来て、何だかとても悪いことをしてしまったような気がするの。私、お邪魔じゃないの?と浩に確認するが、その時、義母の保子が、今会社から電話があり、重大な会議があるので、どうしても浩に出てもらいたいそうよ。父さんの代理がいないと会議がまとまらしまへんのやでと頼む。

仕方がないので、浩は早苗を残してしばし会社へ向かうことにする。

病床の雄一郎は、部屋に戻って来た民江に、東京から来たの、どないな娘さんや?名前は?等と聞くが、民江は、知りまへんなと答えるしか出来なかった。

その間、応接間では、恥を申すようですが、南川商会も内情が厳しくなりましてな。一頃は糸篇などと騒ぎましたが、その反動が帰っていけのうなってしまいまして…、さっきのお嬢はんのご実家は有名な資産家でしてなと保子が早苗に打ち明けていた。

それで…、浩さんとあのお嬢さんとの間にご縁談が?と早苗が聞くと、ええ…、もう結納まですませましたんどすえと言うではないか。

分かってくれはりましたか?お金でもご入用でしたら?などと保子は言うが、早苗はお金なんて…と拒否する。

その時、民江が保子に、おじ様の容態が悪くなったと知らせに来る。

慌てて、雄一郎の元に戻った保子が声をかけると、東京から来た娘、どないした?と雄一郎が聞くので、応接間にいてはりますと言うと、ひょっとしてその娘、わしのことを言うてへんかったか?と雄一郎は言い出す。

さあ?あなた、東京にお知り合いの娘さんでもおられるんですか?と保子が聞くと、雄一郎は首を振る。

どうやら、その娘さんは浩と将来の話し合いでも…と保子が言うと、そうか…と雄一郎は答え、そこへかかりつけの医者がやって来て、又何か興奮しましたね?と言いながら診察を始める。

会社から浩が戻って来ると、門の陰に隠れていた早苗はそっと家を後にする。

東京へ戻る汽車の中、早苗は落ち込んでいた。

南川家では、大澤と小島が浩に、これから毎日会社の方へ来てくれと頼んでおり、保子も民江との縁談の話を持ちかけていたが、早苗が帰ってしまった仲仕見に打ちひしがれていた浩は、民江さんとの中は辞退しますときっぱり断る。

そんな浩は、雄一郎から呼ばれる。

一方、東京の平石家の方では、帰って来た早苗が気落ちして、ずっとふて寝の状態になったので、おまつと重兵衛は心配していた。

その時、又郵便屋が手紙を配達に来たので、重兵衛は受け取ると、ほんまにいじらしいことや、早苗は身分が違うと思うて諦めたらしいが、ほんまはあの子は京都の旦那はんの一粒種やなどと口走る。

おまつは慌てて、もっと小さな声で…と諌めるが、今、あの子は寝ていると言うたやないか!と逆ギレした重兵衛は、早苗、遠慮するな!お前に身体には立派な血が流れているのやと早苗に一言言うてやりたいと言う。

そんな父親の話を、階段を降りて来た早苗は聞いてしまう。

今更そんなことを言うくらいなら、あの時、若旦那の居所を知らせて、生木を裂くようなことはしなかったよとおまつは言い、考えてみると因果だね~…、旦那様から早苗を頂いて、私たちで今日まで一生懸命育てたことが、早苗にとっては、帰って仇になってしまったね~…と嘆く。

もう、それを言うてくれるな、もう、泣きとうなるやないか!わてかて、早苗があないして可愛らしい声で、お父ゅつぁんと呼んでくれるたびに、身体が震えるほど嬉しおますと重兵衛が涙声で言うと、私ぁ、いつまでも早苗の親でいたいんだよとおまつも言う。

いつまでも、いつまでも…、私かてですがな…、両親の悲痛な話し合いを聞いていた早苗は、思わず涙ぐみながら二階へ駆け上がる。

その気配に気づいたのか、様子を観に行ったおまつは、あんた、大変!早苗、聞いてた、みんな!これが落ちてたんだよ、ハンカチが。ほら、こんなに濡れてるの。早苗の涙ですよ。早く二階へ行ってみて来ておくれよと頼むが、重兵衛は、どうしたらええのや!と狼狽するだけ。

その時、当の早苗が、着替えて出かける為降りて来る。

それを手で止めようとした重兵衛に、どうしたのお父っつぁんと早苗が言う。

お父さん?お父さんと呼んでくれますがな…と言うと、お母さん、泣かないでと早苗はおまつにも声をかける。

お母さん?と驚くおまつに、そうよ、私のお父さんとお母さんじゃありませんかと早苗が言ってくれたので、おまつは感激のあまり泣き出す。

早苗、堪忍してくれ!本当のこと言うがな、あんたは京都の南川家のお嬢さんや!と重兵衛は告白する。

お前に辛い想いさせてね…とおまつも詫びると、何言っているのよ、お母さん、私には他にお父さんやお母さんはいないわよと早苗は答える。

早苗、あんたにはすまんこっちゃけどな、京都のボンボンから来た手紙、みんな、焼いてしもうたんやと重兵衛は詫び、その埋め合わせにな、発った今京都から着たこの手紙…、お父っつぁんに来たんやと言い、手紙を出して、自ら読んでみせる。

過日はわざわざお越し下さいましてありがとう。お陰で主人も小康を保っておりまする。さて先日、浩を訪ねてみえた方が、お前樣方の娘と知り、ただただ驚いておりまする。浩も最近、事業に盛を出し、かねてよりの北条家との婚約も…と読んだ所で、目が霞んで読まれしまへんと重兵衛は言い出す。

その手紙を奪い取って読んだ早苗は、向うから断って来たんだわと言うので、私らに力がないばかりに…、早苗、あんたをこんな目を合わせ…、すまん!許してくれ!と重兵衛は誤り、おまつも、ここは我慢してくれ…と頼むと、早苗は大丈夫よ、私、諦めてしまうわと気丈にも答える。

「コロンボ」では、その夜、スペシャルゲストとして、鶴田六郎「長崎の精霊祭」、久保幸江「ほんのり気分」、近江俊郎「明るい雨」、菊野明子「クロバーシヴ」と言った面々が歌を披露していた。

女とダンスを終えた宮原は、テーブルに1人座っている早苗に気づくと、用心棒の山田に、彼女、大分、悲観してるらしいけんの。今夜辺り、絶好のチャンスやと思うとるけんの。君はどう思っとる?と聞く。

結構ですが、僕もそう思うよと山田が答え、手を差し出す。

宮原は金を出してやるが、そこに近づいて来た圭子が、何の話ししてたの?と聞いて来たので、あんたには何の関係もありません!と、毎度じゃまされている宮原は苛つく。

ちょっとあんた、あんまり変な真似すると、承知しないわよ!と圭子は凄んでみせる。

テーブル席で酒を飲んでいた早苗の所へやって来た近江俊郎は、今度は君の踊りじゃないか!どうしたんだ、酒なんか飲んで?と注意する。

私、あの人に振られちゃったのよ…と早苗が答えると、止したまえ、飲むの!とコップを取り上げた近江俊郎は、文雄君はね、君が思っているような男じゃないんだよと言い聞かす。

しかし、すっかりすねた早苗は、人の気も知らないで…か…、何の証拠があって、文雄さんのことをそんなに弁解するの!教えて!教えて頂戴ったら!と立ち上がって近江に詰め寄る。

その時、客たちが拍手を始めたので、近江は歌を歌い始め、早苗もフロアで男性ダンサーと踊り出す。

それを心配そうに見守る圭子。

その後、宮原は又しても、早苗をカウンター席に引っ張って来ると酒を勧める。

圭子は邪魔をしに入り。そこにやって来た近江が早苗の手を引いて舞台裏に連れて行く。

それに気づいた宮原は後を追おうとするが、山田が、エチケット!と言い制止する。

早く仕度して帰りたまえ。今夜ここにいちゃ危ないんだと近江は早苗に忠告するが、酔った早苗は、こんな時、危ない所まで行きたいのが女の気持ちかも知れないわなどと言い出す。

何を言うんだ!と近江は怒ろうとするが、そこに駆けつけて来たボーイが、近江さん、あなたの番ですよ。みんな、待ってますよと告げる。

その頃、重兵衛も、自宅でやけ酒を飲んでいた。

それを止めに来たおまつは、何十本もの手紙を焼いといて、たった1本、絶対あの子に見せちゃ行けない手紙を見せるから、こんなことになっちまうんじゃないか!と叱りつける。

おれかて、あんな手紙とは思うてへんやないか!始めから中味分かっとったら、わしゃ、八卦見になっとるわ!などと重兵衛は言い返すが、だから慌て者だからだよ!バカなんだよ!とおまつが責めるので、バカは俺と違うわ!ボンボンや!と重兵衛は言い返す。

早苗はどこ行ったんだろうな?身投げでもしなければ良いけどな…とおまつは案じ始め、俺も心配してな、圭子ちゃんに電話したら、ホールにいる言うやないか。お前、行ってくれと重兵衛は頼む。

しかし、おまつも、あんたが行ってくれ。あわす顔がないんや。お前は人間が図々しいから行ってくれ!誰が図々しいの!と、又言い合いになる。

その頃、ホールでは、歌い終わった近江が早苗の姿を探していた。

用心棒の山田はテーブル席で一人酒を飲んでいるが、宮原の姿は見えなかった。

圭子に早苗の居所を聞くと、知らないわ。私も探してるのよ。早苗ちゃん、今夜変だから…、間違いがなければ良いんだけどな~…などと言い、宮原の奴なのよと打ち明ける。

その頃、酔っていた早苗は、宮原の部屋に連れ込まれていた。

宮原の膝枕で寝かけ、ふと気がついた早苗は、宮原と同じソファに座っていることに気づくと、あなた、いつここへ?と、驚いたように聞く。

宮原が、そんな早苗を外へ連れ出そうとすると、早苗は抵抗し出す。

その時、舞台裏を探していた近江俊郎は、声を聞きつけ、宮原のいる部屋の中に入り込む。

近江と対峙した宮原は、あんたね、俺の身体に指一本指してみんさい。明日の新聞に、人気歌手近江俊郎、片腕をへし折られる。幸い、咽に支障なしと載ったらどうする?と脅す。

しかし、肝心の用心棒山田は泥酔して、テーブル席で潰れていた。

ボーイが起こそうとしていたが、なかなか山田は起きようとしない。

そんなホールに、近江と早苗、それを追った宮原が戻って来る。

宮原と近江はもみ合いになり、宮原は、殴りましたな?三面記事になるか?と脅すと、山田~!と絶叫する。

その声に反応して起きて来た山田は、寝ぼけたまま宮原の方に飛びかかり、背負い投げで投げ飛ばしてしまう。

投げられた宮原は、前後を見失い、その場にやって来た男につかみ掛かろうとするが、その男は浩だった。

浩は宮原を突き飛ばすと、かかって来た山田も殴り倒す。

そして、早苗君!と呼びかけたので、近江俊郎は、どうだい、僕の言った通りだろうと早苗に声をかける。

文雄さん!思わず早苗は浩の胸に飛び込んで行く。

後日、NHKのど自慢全国大会が開催される。

まずは、ゲストの奈良光枝と近江俊郎が歌を披露する。

客席には圭子も観に来ていた。

続いて、東京代表の平石早苗と京都代表の南川浩とで「君を呼ぶ歌」をデュエットする。

その後、何故か、重兵衛とおまつが舞台の上で夫婦漫才をやっていた。

互いの顔の美醜についてからかう内容だったが、いつものように口喧嘩が始まると、どっちが美人かで、袖にいた浩と早苗を引っ張り出し、意見を聞く。

2人共笑って答えないと、じゃあ、お客さんに聞きましょうと重兵衛とおまつは、客席に問いかけるのだった。