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鞍馬天狗 角兵衛獅子

戦前から作られている有名な時代劇ヒーロー映画の1本で、お馴染みの嵐寛寿郎主演。

山田五十鈴がゲストに登場し、ほのかな恋愛要素なども絡めてあるので、一般大衆向けの娯楽として作られたのだろうが、その単純明快な勧善懲悪の構造と荒唐無稽さから、子供に受けそうな内容である。

この手のヒーローものに、大人があれこれ突っ込むのは無粋だが、一体、鞍馬天狗は、何をやって金を稼いでいるのだろう?

浪人らしいので、どこからも禄はもらっていないはずなのだが、特に暮らしに困っている風でもないし、杉作に金を恵んでやることも出来るらしい。

西郷吉之助と昵懇である所を観ると、薩摩から資金の提供でも受けていたのだろうか?

昔から、普段何をやって稼いでいるのか分からないヒーローの原点だったようにも見える。

美空ひばり演ずる杉作が、水攻めに遭って絶体絶命状態の天狗を救うため、敢然と地下牢に飛び込んで行くシーン、一体、どうやって天狗のおじさんを救出出来たのだろう?

鎖で十字架につながれていた天狗を、子供が1人で救うことなどまず不可能に思えるし、仮に、手かせ足かせは外せたとしても、地下牢の中からどうやって外に脱出したのだろう?

落とし穴部分まで水が溢れて来るのを待って、立ち泳ぎで生きながらえていたのだろうか?

又、城の屋根の上に棒高跳びの要領(!?)で飛び乗った天狗が、あっさり鉄砲隊の銃弾に倒れ、地上に落下して来るのも意外と言えば意外。

あの高さからの墜落なら、例え助かったとしても全身骨折の重傷のはずだと思うのだが…

この辺は、ヒーローもの特有の荒唐無稽と言うしかない。

この映画の見所は、山田五十鈴と当時結婚していたと言う加藤嘉が悪役として出ている所だろう。

美空ひばり演じる杉作を虐める憎々しい岡っ引きの長七が誰なのか、最初は全く分からなかったが、所々のセリフの声に何となく聞き覚えがあるので、もしやして?と気づいたくらい。

山田五十鈴演じるお喜代と共に、近藤勇らの壬生浪士隊の手先仲間と言うか、ライバルのような役を演じている。

互いに牽制し合っているような様子は、夫婦であることを逆に利用した演出だったのだろう。

この当時の加藤嘉の歯並びを観ると、後年の入れ歯とは明らかに違う。

ちょっと犬歯が外に飛び出したような独特の歯並びをしている。

「少年探偵団 かぶと虫の妖奇」(1957)のときは、もう前歯の入れ歯を外して老人に化けたりしているので、その前に入れ歯にしたのだと推測出来るが、ひょっとすると、この作品の不気味に見える前歯も、すでに悪役用に作った入れ歯だったのかもしれない。

この頃の美空ひばりは、もう堂々たる落ち着き振りで、もはや単なる子役と言う雰囲気ではない。

同じく劇中で歌を披露する川田晴久と互角に演技をしているようにも感じる。

さらに珍しいのは、有島一郎が、一切笑いのない、まじめな京都所司代に扮していること。

白塗りの二枚目風に見える。

同じく意外なのは、三島雅夫が西郷吉之助を演じていることで、いつも表面上はニコニコしていても、腹には一物を持つような二面性のあるキャラクターが多い中、この作品では、終始にこやかで腹蔵のない陽性な西郷どんを演じている。

嵐寛寿郎はこの当時で49歳くらい。

時代劇役者としては一番脂が乗り切っていた時代ではないか?

チャンバラシーンではまだ身体が良く動いているし、終始穏やかで、険しい所のない鞍馬天狗の表情も素晴らしい。

基本的に殺生を好まないと言う所も人気があった所だろう。

ただ、昔から鞍馬天狗に関して一点気になっていたのは、拳銃を使うのは卑怯ではないのかと言うこと。

あくまでも脅しに使っているのは分かるが、チャンバラの中で飛び道具は卑怯と言うイメージはなかったのだろうか?

色々見所は用意されており、退屈と言うほどでもないが、かと言って、見始めたら夢中になる!と言うほどでもなく、作品の出来としては普通くらいではないだろうか?

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1951年、松竹京都、大佛次郎原作、八尋不二脚本、大曾根辰夫監督作品。

春風駘蕩春長けて、東山三十六峰静かに眠り、鴨の河原に千鳥鳴く、その静寂を破って、突如巻き起こる剣劇の響き…

橋の上で斬り合い、切られた浪人が川に落ちる。

柳の下で、鞍馬天狗を褒め、新撰組を揶揄する歌を歌っていたのは、ちゃっかり飴売りに身をやつした黒姫の吉兵衛(川田晴久)、それを取り巻き聞く町民たちは皆嬉しそうだった。

京都所司代

土方歳三(永田光男)を呼び寄せた板谷伊賀守(有島一郎)は、京洛に潜入せし浪人どもは?と聞くと、これなる人別帖に控えましたと土方は持参して来た人別帖を差し出す。

それにざっと目を通した板谷は、京を預かる板谷伊賀の命じゃ、不逞の輩を斬れ!と命じる。

浪士隊は、人別帖に書かれた浪人たちを次々に暗殺して行き、殺した人名を×印で塗りつぶして行く。

ある日、人が集まる芝居小屋の側で芸を見せる角兵衛獅子の子供2人がいた。

歌を歌っていた年長の子の方は杉作(美空ひばり)と言った。

歌い終わり、2人が投げられた小銭を拾い始めたその時、周囲の人ごみが騒然とし出し、芝居小屋の中から、土方率いる浪士隊が引きずり出した侍がいた。

小河原進助(原健策)だった。

地面に座り込んだ小河原に、裏切り者の成敗は分かっているだろうな?と浪士隊が言うと、俺は貴公たちのやり方に我慢できん!卑劣な暗殺団じゃないか!と小河原は答え、立ち上がると、その場から逃げ出そうとする。

そんな小河原を斬ったのは土方だった。

倒れた小河原は、斬ったな?俺たちを斬っても、革新の思想が斬れるとでも思っているのか!バカもんが!と叫んだので、いきり立った浪士隊が、とどめを刺そうと近づいた時、銃声が響き渡る。

近くに停めてあった駕篭の中から、銃を持った手が覗いている。

さらに、吉兵衛がへらへら笑いながら、あっしの旦那は厄介なお人でして、人が困っているのを黙って観ていられないたちでして…などと口上を述べながら、倒れていた小河原に近づくと、頂いて行きますよと言いながら助け起こすと、肩を貸して連れ去ろうとする。

浪士隊の面々がそうはさせじと近寄ると、又、駕篭から覗いた手が銃を発砲して牽制する。

傷ついた小河原を駕篭に乗せ、代わりに出て来たのは黒覆面の男の後ろ姿だった。

その黒頭巾から銃を受け取った吉兵衛が、追って来ようとする浪士隊を足止めする間に、駕篭と黒頭巾はその場から去って行く。

お喜代 !お喜代 !

黒頭巾の鞍馬天狗(嵐寛寿郎)が小河原を自宅まで連れて来てやると、小河原はそう声を上げ、姿が見えない女の姿を探す。

あの女も可哀想な奴で、壬生浪士隊の手先に使われているんです。この時勢、あなたのような革新の心と強い勇気を持った人がいる。私は望みを持って死ぬことが出来る。あなたは悪い敵を持たれた。あの恐ろしい浪士隊に狙われて助かった者はない…、お喜代 !と呟いて、小河原は息絶える。

その時、かけてあったお喜代の着物が畳の上に落ちる。

その家に帰って来ていた礫のお喜代(山田五十鈴)は、頭上で鳴くカラスに、嫌なカラスだね、縁起でもない…と呟くと、小石を拾い上げ、木の上に投げつける。

その様子を近くから見守っていた吉兵衛が、さらに後を追おうとすると、頭上からカラスが落ちて来たので驚く。

お喜代が礫で投げ落としたのだった。

そのお喜代は、死んだ小河原の家から帰る途中の鞍馬天狗とすれ違うが、相手のことには気づかない。

家に帰り着いたお喜代は、そこで死んでいた愛人の小河原に気づくと、お前さん!と嘆きながらも、今すれ違った黒頭巾の男がやったの違いないと信じ込み、髪の簪を抜いて握りしめると、畜生!と唇を噛みしめる。

料亭の街を歩く杉作。

雨が降り出した松月院の門前で雨宿りをしていた杉作は、相棒の男の子が、あれがないと親方に叱られるから怖いよと言い、泣きじゃくっているのに手を焼いていた。

そこに、住職に見送られ出て来たのが鞍馬天狗であった。

天狗は、門前にしゃがみ込んでいた2人の子供に気づき、訳を尋ねると、稼いだお金をなくしたんです。帰ると親方に叱られるのだと杉作が説明する。

天狗が金を懐から出して渡そうとすると、住職が、もし倉田様、かようなものの申す言葉を一々お取り上げあそばしては…、子供は正直ですが、陰で糸を引いている大人がどんな悪い知恵を付けているかも知れませんと注意するが、わずかな金でこの2人が助かるとすれば、この上もないことですと天狗は答え、住職は自らの差し出口を恥じ入る。

こんなにもらったら親方に叱られますと杉作は遠慮するが、天狗が持って行きなさいと勧めると、おじちゃん、ありがとうと礼を言い、泣いていたしんちゃんにも礼を言わせる。

途中、気をつけて帰れよと2人に言い残し、天狗は傘をさし帰って行く。

それを見送るしんちゃんは、杉作が持っていた金を観て、ピカピカ光っているよと驚く。

その金を受け取った親方、岡っ引きの隼の長七(加藤嘉)は、額の大きさを疑い、てめえ、泥棒しやがったな!と杉作たちに迫る。

この不景気の御時世に、誰が角兵衛が逆立ちしたくれえで一分も投げてくれるんだ!と長七が折檻しようとしたので、見かねた長七の妹のお種(萩町子)が止めに入り、杉作に優しく訳を聞くと、お金をなくして帰れなくなっていた時、他所の人がくれたんだよ。お侍さんだよ、親切なと杉作は答える。

お名前は聞いただろうね?とお種が聞くと、送り出した坊さんが倉田さんと呼んでたよと杉作は答えるが、その名前を聞いた長七の表情が変わる。

場所も松月院と聞き出すと、急に相好を崩し、これから俺は、壬生の近藤様の所へ行くからなとお種に告げ、おめえ、大手柄だったな。おめえに銭を恵んでくれた倉田と言うには、今、浪士隊が探している鞍馬天狗の本名なんだと杉作に教える。

杉作は驚くが、長七は愉快そうに、俺にも運が向いて来た。お種、こいつらに馳走を食わせてやれと言い残し、張り切って十手を持つと出かけて行く。

その後、杉作に案内をさせ、長七は、浪士隊の面々を連れて松月院にやって来る。

まずは、脅かしながら杉作を連れ、寺の中に入ってみた長七が声をかけると、和尚が留守で1人留守番をしていた鞍馬天狗が姿を現す。

お初にお目にかかりますと畏まった長七、夕べはこの子が…と頭を下げると、杉作に気づいた天狗は、夕べの角兵衛ではないか、するとあんたが親方か?と答える。

あれほどの大金を見知らぬお方から頂いて来たともうしますんで、てっきり盗んだものと思い、手厳しく折檻を致しました所が…と長七が言うと、それはとんだ不憫な目に遭わせたの…と天狗は杉作に同情する。

頂いたお方の名前を聞いても知らぬ存ぜぬの一点張りなもんですから、やはり盗んだものじゃないかと…と長七は噓を言う。

そんなに知りたければ教えてやるが、わしの名を知りたいのはお前より、あの人たちなんだろう?と天狗は落ち着いて、門前に姿を見せた浪士隊の方を指差す。

拙者の名は…、隼の長七!…と言う壬生出入りの岡っ引きが嗅ぎ付けた通り、通称鞍馬天狗!本当の名は…、それは言えないと笑う。

その時、浪士隊がなだれ込んで来るが、天狗は騒がず、詩吟を歌い出す。

襲いかかって来た浪士隊相手に戦い始める鞍馬天狗。

寺から外に出た鞍馬天狗の前に、近藤勇や土方歳三がやって来る。

土方の剣を弾き飛ばした鞍馬天狗に、浪士隊が襲いかかる。

刀を落とされた土方が、木の陰から拳銃を撃とうとしていた時、それに気づいた杉作が石を投げ、銃を落として逃げ出す。

浪士隊が棒を投げつけ、杉作の足に絡めて転ばせる。

浪士隊の屋敷に連れて来られた杉作は、長七の折檻を受けながらも、あの方は金を恵んでもらった恩人です。ご恩を受けた方が斬られるのを観ていられなかったんですと近藤勇に説明する。

それを聞いた近藤は、わずかな恩を忘れずに、恩人を身を持ってかばおうとしたことは子供ながらあっぱれだと感心し、今日はわしが許してやると杉作に告げる。

それに引き換え、長七!お前は何と言う奴だ!と近藤は長七を叱責する。

家に帰って来た長七は、俺に恥をかかせやがって!お陰で俺の顔は丸つぶれじゃないか。今、仕返しをしてやらあ!と言い出すと、いろりに刺さっていた焼け火ばしを抜き、二度とあんなことをしねえように、てめえの面に焼印を押してやらあと迫る。

杉作は思わず逃げ出し、親方、堪忍して!と詫びるが、それを執拗に追う長七。

すると、部屋の隅で怯えていた子供たちの中にいたしんちゃんが、お兄ちゃんやるなら、俺にもやってくれよと長七に呼びかけて来る。

他の子供たちも、俺たちにもやってくれよと一斉に言い出す。

たまりかねたお種も長七を止めに来るが、その時、戸を叩く音が聞こえて来たので、今頃誰でい?と、長七は不審がりながら開けてやる。

すると、入って来たのは頭巾を付けた鞍馬天狗だった。

何しに来やがった!と文句を言う長七に、昼間の礼に来た。長七、焼け火ばしがどんなもんか、貴様の顔で試してやろうか?と言いながら、長七の手をひねると、焼け火ばしを長七の顔に近づける天狗。

命ばかりはお助け!この通り!あっしが悪うございましたと詫びる長七。

もう、決して致しやせんと言う長七に、では、わしの言う通りにするか?と天狗が言うと、致しやすと長七は答える。

良し、お前のような人非人に、このような可愛い子供たちは預けておけん。今から、わしが引き取るからそう思えと天狗が言い出したので、長七は仰天する。

さあ。みんなわしと一緒に来るんだと鞍馬天狗が子供たちに告げると、杉作たちは全員、嬉しそうになり、素直に全員ついて来る。

鞍馬天狗が子供たちを連れて来たのは、西郷吉之助(三島雅夫)のいる薩摩屋敷だった。

その後を付けて来たのは、お喜代だった。

鞍馬天狗と懇意の西郷は、対面した天狗から事情を聞くと、よかよか、おはんの言うことなら、何でもよかたい…と、喜んで子供を預かると言ってくれる。

西郷の指示で飯を出された子供たちは、腹一杯食って、全員すぐに寝てしまう。

これまでは、近藤たちの暗躍も浪人ばかりに限られていたが、大阪蔵屋敷の重職たちや、洛中の老中公家辺りまで手が伸びて来そうな気配。もしそうなれば安政の大獄以上の容易ならぬ一大事…と西郷は天狗に話していた。

これを未然に防がんと我々の目的は達せられん。それで倉田さん、又あんたに一肌脱いでもらいたいと西郷は頼む。

それに快諾した天狗は、子供たちのことを西郷にゆだね、帰ろうと障子を開けた時、天狗の顔を狙った一本の簪が障子の桟に突き刺さる。

観ると、庭に忍び込んでいたお喜代が塀を越えて逃げる所だった。

倉田さん、大分危のうなってきましたぞと、障子の所に顔を出した西郷も天狗に忠告し、頷いた天狗は、商事に刺さっていた簪を抜き取る。

浪士どもの処置についてはその根幹をつかねば奴らを根絶することは出来ん。諸藩の経済を司る大阪蔵屋敷に浪士どもと気脈を通じているものがある。又、それら重役どもと連携のある洛中の軍方にも…。その件については、大阪城代が人別帖を開示してくれることになっている。さて、それを受け取る使者を出さねばならぬ。このことは薩長どもも薄々は察しておる。奴らの目に触れぬよう使者を出さねばならぬ。ことに鞍馬天狗などと申すものには油断がならぬ。彼奴を倒さねば、せっかく人別帖を手に入れたとしても、我らの不利じゃと京都所司代板谷伊賀守は呼びつけた近藤勇に伝えていた。

そのお役目、この近藤、お引き受け申す!と近藤勇は申し出る。

して、その手段は?と聞かれた近藤は、お任せ下されば、我ら浪士の面目に賭けて必ず!と誓ったので、板谷は頷く。

その頃、薩摩屋敷にいた杉作は、おじさん…、おじさん…、どこに行ったの?と寂しがり、街に探しに行っていた。

すると、黒頭巾の侍を見つけたので、喜んで後を付けようとした過ぎ作だったが、待ち受けていた長七に捕らえられ、後ろでに縛られ、浪士隊の屋敷の牢に入れられてしまう。

杉作、観ただろう?旦那方の勇ましい格好。ありゃあな、おめえが慕っている鞍馬天狗をやっつけに行くんだと長七から教えられた杉作は驚く。

その時、召集を知らせる板の音が聞こえて来る。

集まった浪士隊の面々を前に、今まで幾度か不覚を取った鞍馬天狗を討ち取る絶好の機会が到来した。今度は我ら浪士隊の面目に賭けて必ず斬る。その方策として、大阪城に人別帖を受け取りの使者を出す。その使者を餌に、鞍馬天狗をおびき寄せると近藤が説明すると、土方が、まずは天狗を誘い出す囮役の5名を指名し、次いで、淀川を使って人別帖を運ぶ役目を1人指名する。

この作戦は敵に気取られるようにせねばならぬと注意した近藤は、では、出動!と全員に言い渡す。

すると、ねえ、旦那、私も仲間なんだから、一緒に連れてって下さいよと顔を出したのはお喜代だった。

あたしゃ、天狗に一泡吹かせてやりたいのさとお喜代が頼むと、近藤は良し!と許す。

牢の中の杉作は、出発する浪士隊の姿を観て、居ても経ってもいられなくなると、牢の中に置いてあった石臼の角に、後ろでに縛られていた綱をこすりつけ切断する。

そして、壁に掛けてあった太い綱を天井の横木に投げて、それをよじ登り窓から脱出すると、塀を乗り越えて表に出る。

一目散に、浪士隊が待ち伏せる計画になっている場所目がけ走る杉作。

しかし、途中で疲れきり、草の中で眠ってしまう。

白馬に乗って待ち受けていた鞍馬天狗は、囮とも知らず、馬を走らせる3人の偽使者の後を追い始める。

目覚めた杉作は、又走り出し、天狗が向かう場所に先に到達すると、おじさん!と声をかける。

その声に気づいて馬を止め、降り立った天狗に、待ち受けていた浪士隊の鉄砲が発射される。

しかし、間一髪、弾が届かぬ距離だったので、杉作と共に、大木の陰に一旦は身を隠した天狗は、杉作から、待ち伏せの計画について教えられる。

馬に乗っているのおじさんを捕まえるための囮で、本物は船で行ったと聞いた鞍馬天狗は、良し、良く知らせてくれたと礼を言い、杉作と一緒に白馬に股がると、今来た未知を戻り始める。

気取られたと察した近藤は、お喜代に大阪城に連絡するよう命じる。

淀川にかかる橋の上にやって来た天狗は、船を確認するや、馬から降りると、川に飛び込む。

そして、泳いで船にたどり着いた天狗は、使者に小柄を投げて倒す。

大阪城には、荒木重蔵と名乗った使者がその後馬で到着する。

その頃、お喜代は、浪士隊の屋敷から伝書鳩を飛ばしていた。

城内で使者に人別帖を渡そうとしていた井上幡摩守(進藤英太郎)は、これだけ調べ上げるには容易ならぬ費用と人手を費やした、だがこれさえあれば、例の浪人たちを根こそぎ葬り去ることが出来ると説明していた。

その人別帖にざっと目を通した使者は、鞍馬天狗の名が書いてあるのを発見すると、本名判明せず。倉田天膳と名乗りおることあり。身長五尺六寸ぐらい…、よほど手強い奴のように見えまする…と読み上げ、名前の上についていた黒丸の意味を聞く。

見つけ次第、容赦なく殺して良いと言う印じゃ。わしは天狗を倒す為、腕利きの決死隊を当たらせるよう京都側とも相談しておると幡摩守は教える。

その時、京都より火急の知らせが届いたと家臣が知らせに来たので、幡摩守が立ち上がる。

そして、伝書鳩についた文を読んだ幡摩守は、今側にいる使者が偽者だと気づく。

何食わぬ顔で自分の座に着き、人別帖を取り上げようとした幡摩守に、使者と名乗って座っていた鞍馬天狗は、これは私がお土産としてもらって行きましょうと言いながら取り上げる。

そして、とうとう化けの皮が禿げたと見えまするな?と言うと、思わず幡摩守が声を立てようとしたので、お騒ぎあるな!と制した天狗は、今まで通りにして頂かぬと、お命が危のうございまするぞ…と言い、かぶり物の下に銃を取り出し、幡摩守に突きつける。

天狗はその場で、人別帖を火鉢の火にくべてしまうと、城を出るまでお見送り願いましょうと命じる。

銃で脅された幡摩守は、仕方なく、天狗を引き連れて廊下に出るが、何も知らない家来たちはそんな2人に頭を下げていた。

やがて、幡摩守は、握りつぶしていた伝書鳩の文をそっと廊下に落とす。

2人が通り過ぎた後、それに気づき、拡げて読んだ家臣たちは、使者が偽者だと気づき、背後からそっと近づくと、天狗を羽交い締めにして止める。

幡摩守は、くせ者じゃ、出会え!と大声を上げ、天狗は駆けつけて来た家臣たちに取り囲まれてしまう。

天狗は、懐から取り出した銃で牽制するが、脅しのため数発撃っているうちに弾が切れてしまう。

やむなく、外へと逃げ出した天狗だったが、棒を持って駆けつけて来た家臣たちが一斉に棒を投げつけて来る。

それを交わしながら城内を逃げ回っていた天狗は、棒を使って高飛びをすると、隣の城郭の屋根の上に飛び移る。

しかし、その下に集まった鉄砲部隊が発砲すると、銃弾を受け屋根から落下し、地面に叩き付けられてしまう。

鞍馬天狗の危機を知らせる為、街道をひた走っていた吉兵衛がやって来たのは薩摩屋敷だった。

そこには、先に杉作も戻って来ており、天狗のおじさんの危機を救ってくれと西郷に頼んでいた。

しかし、西郷は、おいも倉田さんを助けたい。が、それは出来んとじゃ…と答える。

おいの今の身分じゃ、おおっぴらに幕府と争うことは許されん。おいどんが私情にかられて盲動しては、運動の目ば枯らしてしまう。それはあの男の本意じゃ中ぞと言い聞かそうとするが、でもそれじゃ、天狗のおじさんが殺されてしまうよと杉作は訴える。

そうかも知れん…、今度ばかりは助からんかもしれん。が、そうと知ってても助けに行くことが出来んのじゃ。辛か、辛か…、あいだけの男を見殺しにするとが…、この西郷、腹の中、ひっくり返る思いじゃ…と西郷は苦しそうに告げる。

西郷が奥へと下がると、吉兵衛は泣いていた杉作に、まだ殺されるかどうか分からねえじゃないか。俺はまた大阪に様子を観に行くが、おめえも一緒に来るか?と誘う。

おじさん一体誰なの?と不審に思った杉作が吉兵衛に問いかけると、昔、天狗のおじさんに助けてもらった者なんだ。俺はここのお庭番さ…と言うのは表向き、実は薩摩の隠密だと吉兵衛は打ち明ける。

隠密って何なの?と杉作が聞くので、例えば、飴屋になったり、コ○キになったりして、色々敵の秘密を探るんじゃないかと教えながら、吉兵衛は杉作に飴屋の扮装を付けさせる。

おじさんは、生まれたときからそう言う商売しているの?と杉作が聞くと、俺はこう見えても、昔は「黒姫の吉兵衛」と呼ばれた泥棒なんだと吉兵衛が自慢したので、杉作は、泥棒!と目を丸くする。

かくして、飴屋に化けた杉作と共に、吉兵衛は歌いながら船着き場までやって来る。

すると、杉作が、先に待っていたお喜代に気づき、あの人は悪い人なんだと吉兵衛に知らせる。

お喜代の事を知っていた吉兵衛は、舟に乗り込もうとしていたお喜代に軽くぶつかって、杉作と共に先に乗り込む。

帯の中から銭を出そうとしたお喜代は、財布がない事に気づくと、急ぎのようで大阪まで行かなくちゃ行けないんだ。乗っけて行っておくれよ。帰りにはきっと払うからさと勘定係の男に頼み込むが、もちろんそんな言い訳が通るはずもなく、吉兵衛と杉作が乗った船は、お喜代をその場に残して出発する。

吉兵衛が愉快そうに、掏った財布を出してみせると、おじさん、今でもそんなことやってるの?と杉作が驚いたので、非常の場合だけだよ!と慌てて弁解する。

その頃、鞍馬天狗は、大阪城内の地下牢に幽閉されていた。

吉兵衛と杉作は、大阪城の前まで到着するが、門の警備は厳重で、元泥棒の吉兵衛ですら、到底中に忍び込むのは無理そうだった。

その時、急に杉作が歌い出し、門番は、それに釣られて、杉作の廻りに集まって来る。

杉作の計略に気づいた吉兵衛は、今度は自分が歌い出す。

門の中からも、警護の者たちが全員、吉兵衛の廻りに集まり、愉快そうに歌に聞き入る。

その隙に、杉作は、橋の欄干の外側を伝い、何とか門までたどり着くと、中に入ろうとする。

その時、吉兵衛の側にいた門番の1人が気づき、全員、杉作を追いかけて城内に戻って行く。

吉兵衛は、残った門番に警戒され、その場に足止めされてしまう。

大阪城の中に入り込んだ杉作だったが、やがて、城内に張り巡らせてあった鳴子の紐に足を取られ転んでしまう。

追ってが迫って来たので、杉作は近くにあった灌木の下に身を隠すが、追手たちは、その木の側に見張りを置いて行ったので、出るに出られない状況になる。

その頃、鞍馬天狗は、十字架に張り付けにされており、その姿を愉快そうに眺めていた井上幡摩守が、これが貴様の最期だ!と言い残し外に出ると、地下牢に水が流し込まれる。

水攻めだった。

水は容赦なく部屋を満たして行き、十字架に縛られ身動きができない鞍馬天狗の胸元まで水が上がって来る。

杉作は、見張りたちの目をかい潜って地下牢のある蔵の中に潜入すると、床の蓋を開けて中の様子を覗き込む。

鞍馬天狗は、もう顔の部分も水に没していた。

それを観た杉作は、迷わず、落とし穴から水の中に身を投じる。

その頃、壬生の浪士隊本部にいた近藤勇は、天狗は今日に舞い戻ったに違いない。ここは我らの縄張りだ。居所を突き止めて来いとお喜代に命じていた。

お喜代は承知し、天狗は私に討たせて下さいね。私にとっちゃ憎い男ですからねと近藤に頼む。

するとそれを横で聞いていた土方が、天狗は小河原を斬った男だからなと、素知らぬ振りで話を合わせる。

お前の手に負える相手ではない。隠れ家を突き止めたらすぐに知らせにのだと近藤が言い聞かせると、天狗ははあっしが捕まえてめえりやす、そんな女は当てになさらない方が良うございますと一緒に話を聞いていた長七が口出しをする。

そんなライバル心むき出しの長七を観て、お喜代は愉快そうに微笑む。

その頃、鞍馬天狗は杉作に助けられ、吉兵衛と共にとある屋敷内で静養していた。

天狗は口うるさく、手の傷が直るまでは外出しては行けませんぜと口うるさく言う吉兵衛に閉口しながらも、横になる。

そんな屋敷を突き止めたお喜代は、吉兵衛が用事で出かけた隙を狙い、寝ていた天狗の寝所に忍び入り、短刀で突きかかるが、あっさり起き上がった天狗に手をひねられる。

何をする?止さぬか!わしに何の恨みがある?と天狗が聞くと、お前、小河原を知っているだろう?お前の胸に覚えがあるだろう?こっちには覚えがあるんだ!とお喜代は憎々し気に天狗を睨みつけ、床の間の大小に近づこうとする。

外から帰って来て、部屋の様子を眺めていた杉作は、そんなお喜代の手を押さえると、おばさん、おじさんは人を殺すような、そんな悪い人じゃないよと抗議する。

子供は嘘は言わないよ。小河原進助を斬ったのは壬生の浪士だ!と鞍馬天狗もお喜代に言い聞かす。

しかしお喜代は、誰がそんなことを信じるもんか!殺してくれ!と開き直る。

天狗は、そんなお喜代に短刀を返してやると、もう帰れ、帰って、壬生の浪士なり役人を連れて来るが良いと言うが、お喜代は、もう壬生には帰れないよとふてくされる。

お前さんの命をもらわなくちゃ、あたしの命がなくなるんだよと言う。

そうか…、では仕方がない。ここにいてはどうか?と天狗が言い出したので、お喜代も杉作も驚く。

さらに、帰って来た吉兵衛は、旦那、とんでもねえ!こいつは礫のお喜代と言ってとんでもねえ奴なんですぜ!と抗議するが、天狗は、変える所がないと言ってるんだ、置いてやれと命じ、杉作にも、おばさんと仲良くするんだぞと言い聞かすのだった。

雨の日、縁側でお喜代は物思いにふけっていた。(美空ひばりの歌が流れている)

部屋の中では、鞍馬天狗が杉作に、新しい着物と袴を着せてやっていた。

西郷先生がおっしゃったんだけど、これからは侍の子でなくても偉くなれるって本当?と杉作から聞かれた天狗は頷き、うん本当だ。勉強すれば偉くなれるよと教える。

おいらみたいな孤児でも?と杉作が言うと、天狗は、おじさんが父親になってやろうと答えるが、その会話を聞いていたお喜代の表情が憂える。

(回想)小河原進助と暮らしていた頃、自分たちの身の不運を愚痴っていたお喜代は、小河原から、そんな縛りが解ける時代が来る。その為に命を投げ出して働いている人たちがあると聞かされ、その人たちは壬生浪人の敵なんでしょう?と聞き返していた。

そうだ、私もその敵の1人だ…と小河原は答える。

(回想明け)雨の中、寺子屋に出かける杉作を吉兵衛が送って行く。それを見送るお喜代は天狗と目が合うが、気まずそうに目をそらす。

お喜代も、ここの生活に慣れ始め、外出などするようになっていたが、そんなお喜代に声をかけて来たのは長七だった。

天狗に巧く取り入ったみてえじゃないか?いつ知らせるんだ?と聞かれたお喜代は、それは私の方で近藤さんに知らせるよとだけ言い残し、足早に立ち去ると、屋敷に戻って来るが、天狗が出かけようとしていたので、外に出たら危ないですよと注意する。

天狗が、外で杉作の声がしたようなので…と言うので、私が観て来ますと言い、お喜代が様子を観に行く。

すると、杉作が大勢の子供たちから虐められているではないか。

良く見ると、杉作が1人で相手の子に馬乗りになっている。

お喜代が止めに入ると、子供たちは一斉にその場を離れ、角兵衛や〜い!と囃し立てて帰る。

それを聞いた杉作は、おばさんのバカ!何で止めたんだ?何であいつらに味方するんだよ!と言うので、相手は大勢だから…とお喜代が答えると、負けるもんか!と杉作は逃げて行った子供らを睨みつける。

家に帰って来た杉作は、みんなに、角兵衛!角兵衛!ってバカにするんだもの!と悔し泣きを始める。

良いではないか、角兵衛の何が悪い?お前たちに逆立ちが出来るかと威張ってやれと天狗は言い聞かすが、だって、お父ちゃんもお母ちゃんもいないからって、みんなが虐めるんだものと杉作は嘆くので、お前にはわしがいるではないかと天狗は諭す。

おばさんと遊ぼう、男の子がそんなことで泣いちゃおかしいよとお喜代も優しく声をかけるが、嫌だ!あっち行け!おばさんは、おじさん、殺しに来た人じゃないか!と杉作は心を開かない。

するとお喜代は、おばさんだって孤児なんだよ。小さい頃からお父っつぁんやおっ母さんの顔も知らない孤児なんだよ。だから杉作さんの気持ちは良く分かるんだ。おばさんも小さい頃虐められてたんだ。犬ころみたいに石をぶつけられたりして…。だけど、おばさんは泣かなかったよと言う。

やがて、鞍馬天狗の身体も直り、天気の良い日に、お喜代や杉作、吉兵衛と共に近くの野山に散策に行く。(美空ひばりの歌が流れる)

良い気持ち、こんな気持ちの良い日は始めて…と、草むらに座り微笑むお喜代に、お喜代さんの嬉しそうな顔、初めて観たよと、隣に座り語りかける天狗。

ふふっ…と笑いながら、草むらに寝そべったお喜代を観て、笑い顔も始めてだと天狗は言う。

花を摘みながらもそんな2人を遠くから気にして覗き込む杉作と、気を利かせて、その顔をそらそうとする吉兵衛。

その帰り道、おい姉御、たいそう楽しそうでござんすねと一番後ろを歩いていたお喜代に声をかけて来たのは、又しても長七だった。

何か用?と言うお喜代に、近藤様がご立腹でねぇ、来いって。逃げるようなことがあったら命がないってそう言ってくれってなと長七はからかうように告げると、せいぜい別れを惜しみゃ良いだろうと付け加える。

髪を整えたお喜代は覚悟を決めたように近藤勇の元に向かう。

やって来たお喜代に、天狗の住居を突き止めていながら、何故今日まで黙っていた?訳を言え!と近藤は聞く。

お喜代が、病人を斬るのは近藤様の御本意ではないと思いまして…、直るまで待っていました。今日、刀を持てると思いまして…などと言い訳をすると、良し、明朝、近藤勇が一騎打ちの勝負を所望すると天狗に伝えろ!

時刻は寅の上刻、場所は東寺!五重塔の下で待つ。もし奴が約束の刻限を違えるようなことがあれば、その方に異心があると観て、その方を成敗する。良いな?と近藤は言う。

お喜代は、杉作を寝かしつけたばかりの天狗も元に帰って来る。

吉兵衛は薩摩屋敷に用があって出かけたと教えた天狗は、お喜代に頼みたいことがあると言い出す。

杉作のことなんだが、僕は近いうちに江戸に発たねばならぬかもしれない…と言いながら、天狗は髭を当たろうとするので、あたしが…と言って、お喜代はカミソリを預かり、天狗のヒゲを剃ろうとする。

それであんたに杉作のことを頼みたいのだと天狗が言うので、でも、すぐにお帰りになるんでしょう?とお喜代が聞くと、それが分からないんだ。わしに万一のことがないとも限らない。杉作の母親代わりになってもらいたいんだ。杉作も大分あんたに懐いて来たようだし、わしも安心して江戸に発てると天狗は言う。

その時戻って来た吉兵衛は、お喜代がカミソリを持っているのに気づくと、慌ててそれを取り上げ、あれこれ言いながら自分が天狗のヒゲを剃り始める。

西郷さんは?と天狗が聞くと、明朝、必ず発って頂きたいと…と吉兵衛が報告すると、それを聞いたお喜代は驚く。

吉兵衛はお喜代の顔を見ながら、危なくてしようがねえ。旦那、大事なお身体、くれぐれも気をつけておくんなさいよ等と言い、カミソリを持って出て行く。

ああ言う男だ、気にしない方が良いとお喜代に言い聞かせた天狗は、その後も寝付けないでいたお喜代に、眠れなんか?どうかしたのか?明日も早いから、早く寝ないと身体に毒だぞと優しく声をかけて来る。

お喜代は、先ほど、ひげ剃り用の水をに庭先に捨てに出た時、門の近くに隠れた長七の姿に気づき、明朝の近藤との勝負のことを天狗に言うべきかどうか迷っていたのだった。

翌朝、近藤勇は、ついて来ようとする浪士たちに、供はいらんぞ、一騎打ちの約束だと言い残し、浪士隊屋敷を出ていた。

土方は、奴は東寺へは行かず、江戸へ行くはず。江戸へやってはいかん。長七、案内しろ!と報告に来ていた長七に天狗の屋敷への道案内を頼む。

その頃、杉作と天狗の朝食の給仕をしていたお喜代は、鐘の音を聞き、様子がおかしいことに気づいた天狗から、どうした?と声をかけられたので、思いあまり、倉田さん、早く江戸へ発って下さい!今からすぐに発って下さい!壬生の浪士がやってきます。近藤さんが一騎打ちをすると東寺の下で待っています。あの鐘が約束の時刻です。昨日、近藤さんから言いつかって来たんですが、何も言わずに、あなたに江戸に発って頂こうと思って…と堰を切ったように訴える。

茶を飲みながら静かに聞いていた天狗は、大事の前に無用な争いは好まぬが、わしがこのまま江戸へ発って行ってしまっては、その報いはあんたに掛かって来るに違いない…と呟く。

いいえ、私は覚悟しています!とお喜代は言うが、近藤がそう申し出て来たのなら、ちょうど良い機会だ。いつかは雌雄を決せなければならぬ間柄だ。お喜代さん、杉作のことを頼みますと天狗は答えると出かけようとする。

すると、杉作が追いすがり、おじさん、行っちゃいけない!嫌だ!おいらも行く!と必死に止める。

バカ!と追いすがって来る杉作の頬を叩いた天狗は、杉作、わしはお前を本当の子のように思っていた。しかし、わしの言うことを聞かないのなら、今日限りわしの子供ではないぞ!分かったか?分かったら、おばさんと仲良く留守番するのだぞと言い聞かせる天狗。

頬を押さえ、涙ながらに座り込む杉作。

そんな2人の様子を哀しそうに見つめていたお喜代は、天狗が出かけようとすると、急に立ち上がり、倉田様!待って下さい!この子の為に行かないで下さい!今さら、何を言う?どうしてそんなに止めるんだ?と天狗が聞くと、私の為です…とお喜代は告白する。

杉作さんのためにもお願いします!とすがりつくお喜代。

倉田様!…と手を触れようとするお喜代に、喜代!さらば!とだけ告げ去って行く鞍馬天狗。

おじさん!と呼びかけた杉作に、おばさんとおとなしく待っていろと天狗が言い聞かすと、うんと杉作は頷く。

傘をさし、出かけて行く天狗を、倉田さん!とお喜代が追おうとすると、そこに長七に案内されて来た土方以下、浪士隊の面々がなだれ込んで来る。

旦那、ごらんなせえ。言わねえこっちゃんねえ、アマはとうとう裏切りやしたぜ!と憎々し気に土方に告げる長七。

小河原の恨み忘れたか!と土方がお喜代に問いつめると、旅姿で飛び込んで来た吉兵衛が、サンピン、嘘をつくな!小河原を斬ったのは、土方!てめえじゃねえか!と呼びかける。

噓だと思うんならこいつに聞いてみな?おいらは忘れても、臆病者のこいつは物覚えが良いんだよ!と言いながら銃を取り出す吉兵衛。

それを聞いて驚くお喜代。

吉兵衛が土方たちの足を止めている間、天狗は東寺へと向かう。

横門に潜んでいた浪士隊を峰打ちで交わした天狗だったが、どけ!退かぬか!無益な殺生をさすつもりか!と叫ぶと、刃を返す。

数名を斬り捨てた天狗は、杉作〜!と叫んで東寺へと走る。

その声が聞こえたのか、おじさ〜ん!と叫び返す杉作をかばって、吉兵衛の拳銃が火を放つ。

東寺にやって来た天狗は、そこで待っていた近藤勇と一騎打ちの勝負を始める。

鳩が飛び立ち、互いの力量は互角に見えたが、近藤の刃は天狗の剣に高く跳ね上げられる。

その後、江戸に馬を走らせる黒頭巾姿の鞍馬天狗の姿があった。

この簪は、あなたの片身として頂戴しておくつもりだったが、改めてお返しします。私は今まで、何一つ怖いと思ったことがない男だが、今始めて、我が心の中に、怖いと思うものが潜んでいることを知った…と書かれた天狗からの手紙を読むお喜代と杉作。

お喜代は、同封してあった簪を握りしめると、遠くにいる鞍馬天狗に想いを馳せるのであった。

江戸へと馬を急がせる鞍馬天狗。


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