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この二人に幸あれ

小泉博と白川由美と言う当時の東宝の若手主演の恋愛映画で、監督は怪獣映画などで知られる本多猪四郎さん。

本多監督、白川由美とは「空の大怪獣 ラドン」(1956)ですでに組んでおり、同年の「地球防衛軍」でも組むし、小泉博とは、この後、「モスラ」(1961)で組むことになる。

「ゴジラ」(1954)の志村喬や「太平洋の鷲」(1953)の三船敏郎も出ているし、監督、俳優とも、当時の東宝の常連たちだから、もっと頻繁に組んでいても不思議ではなさそうだが、特撮以外の一般映画では結構珍しいような気もする。

東宝作品への出演がそう多くなかった津島恵子さんだけは、ひょっとすると本多監督作品への参加はこれ1本だけだったのではないだろうか。

脚本が松山善三氏なので、庶民のつましい生活にスポットを当てた地味なお話で、当時に海外マーケットに売れた為、予算を投じられた大作特撮ものとは全く逆の、特に映画的な見せ場などもない低予算作品なのだが、これはこれで、等身大の庶民像を描いた魅力的な小品になっていると思う。

ただし、この映画だけを目当てに、金を払って映画館に来る人は少ないと思う。

2本立て時代の何かの添え物映画だと思うが、併映作は調べてもちょっと分からなかった。

最初の内は、小泉博が主役なのかな?と思って観ていたが、後半はどうもそう言う感じでもなくなって行き、かと言って、白川由美が主役と言う感じでもなく、では群像劇なのか?と言うとそうでもなく、ちょっと主役不在風な印象が残る。

そう言う印象を受ける原因は、前半では、自分の気持ちに素直で結婚を率先して決め、好印象だった主人公が、後半、ちょっとした事で仕事を辞め、その後も仕事を選り好みしているような「ダメ人間」に見えてしまうからだろう。

もちろん脚本家の狙いはそこにあり、結婚生活は多難で、それを夫婦協力して乗り越えて行く事が大事なんだと言うことを描きたかったのだろうけど、映画としては、途中から、妻の白川由美側からの視点に切り替わっているように見えるので、観客としては戸惑うのだと思う。

何故、途中から妻の方が主役風に見えて来るかと言うと、頑固な父親がいる雅子の実家と姉夫婦の存在が意外と大きく、その両者と接している時間が多い雅子の印象の方が徐々に強くなって行くからだろう。

演じている白川由美も、妹と言う役柄にしては気が強そうで、かなりしっかりしているように見えるからかもしれない。

一方、肉親が東京にはいない夫の方は、職を失ってからは徐々に風来坊のように頼りない存在になり、演じている小泉博自身の柔和さが、キャラクターの存在感の弱さに転じてしまっているように感じる。

この作品は、言わば、新人男女によるダブル主演のような描き方なのだろうが、この展開なら、最初からヒロイン雅子の目線で通した女性向け作品として描いても良かったのではないかとも思う。

ここに登場している三船は、爽やかな好青年と言う、三船が若い頃良く演じていた典型パターンのキャラクターで嫌味がない。

津島恵子演ずる姉も、しっかりした今風の若奥さんと言う感じで好感が持てる。

小泉博演ずる主役の青年も、若者特有の甘えやもろさはあっても、どこか憎めないのは、小泉博特有のどこまでもまじめで優しそうなキャラクターの賜物だろう。

そこにクラシックの勇壮な歌と言う要素も加わっているので、先が見えないラストながら、一抹の勇気と希望を感じるのだと思う。

恋人時代に2人一緒に観た映画の中では、夫が妻をぶつ所に感激した雅子が、いざ自分が結婚して本当に夫にぶたれると、狼狽してしまう辺りのギャップも面白い。

おそらく、恋人時代の雅子には、夫に強く出られることに、どこかロマンチックな憧れがあったのかもしれないが、ぶつ男の心理まで忖度していた訳ではない。

弱みを隠そうとしてぶつ場合もあるのだ。

実際に結婚してみて、夫にぶたれたとき、雅子には、その男の弱さが透けて見えたのだろう。

だから、ごまかしはいやよ!と叫んだのである。

結果的には、ぶたれた事で一旦は乱れた心がやがて整理され、夫婦仲を取り戻すきっかけになっているので、夫が妻をぶつと言うシーンが、この映画のクライマックスと言えるのかもしれない。

もちろん、暴力が良かったと言うのではなく、それをきっかけに、互いの心に秘めていたものが全部さらけ出されてしまった。すっきりした上で、互いの信頼関係をもう1度再構築しようと考え直すことになったと言うことだ。

ごめんね。痛かったろう?、さっき…。いやよ暴力は…、一生いや!と言う会話は、そう言う事を言っているのだろう。

余談だが、雅子の同僚今井愛子役で出ている小泉澄子と言う女優さんもなかなかきれいで印象に残るのだが、「へそくり社長」で森繁の娘役をやったりした後、数年活躍されただけで映画の世界からは身を引かれたようで、ちょっと残念な気がする。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1957年、東宝、松山善三脚本、本多猪四郎監督作品。

船着き場から降り立ち、「杉野海運会社」の4階にやって来た若尾久夫(小泉博)は、同僚の中島(田島義文)から、丸太商事が一週間待ってくれって言ってるんだと言われ、そんな事できないよと文句を言うが、中島は、課長がそうしろって言ってるんだと虎の威を借りるキツネのようなことを言う。

そんな若尾に、同じく同僚の清水雅子(白川由美)が、支店長がお呼びよと声をかける。

それを聞いた中島は、小杉課長(如月寛多)に、若尾君に用事ってなんでしょうね?と小声で話しかける。

西垣支店長(笈川武夫)は、部屋に入ってきた若尾に、今晩付き合ってくれと頼む。

その夜、料亭「若竹」で若尾と2人きりになった西垣支店長は、うちの娘を知ってるだろう?上の娘だ。24になる。どうだい?君の嫁にもらってくれないか?君の将来は嘱望している。僕の右腕になってもらいたいんだ。僕には閥がない。味方が欲しいんだよと言って来る。

若尾はその後、下宿先の「大越畳屋」に帰って来て、一階の部屋で待っていてくれた大家の大越(藤原釜足)とその女房(清川玉枝)に、実は支店長の娘をもらわないかと相談されたんですと打ち明ける。

大越は、それなら出世は早い。すぐに課長だ。相手はビッ○とかメッ○チかなにかじゃないんでしょう?と聞くし、女房も、この以上の縁談はないじゃないかと喜ぶが、若尾は、それだけで一生の結婚生活ができるんでしょうか?と浮かない顔で言う。

うちの清志郎なんか、嫁をもらった途端、家を出て行き、今じゃ親を子守りだと思ってやがると大越は自分の息子の事を愚痴ってみせると、女房に今日届いた若尾の母親からの手紙を出させる。

それを受け取った若尾は、二階の自分の部屋に登り中を開けて見るが、中から1枚の写真が落ちて来て、同封の手紙を読むと、その写真は亡くなった父親の知り合いの娘さんで加藤節子と言い、今度御見合いしてくれと言う内容だった。

翌朝、地下鉄の出口付近で清水雅子がやって来るのを待ち受けていた若尾は、雅子にさも今同じ列車で来たかのように呼びかけると、君、今夜約束は?映画の切符2枚あるんだけどと誘う。

すると、雅子が承知したので、若尾はそれから近くの映画館に4時半からの切符を2枚購入に出かける。

その日の昼休み、会社の屋上で、雅子は若尾に誘われた事を同僚の今井愛子(小泉澄子)に打ち明けていた。

愛子は、若尾さん、あなたの事が好きなんじゃない?とからかうが、雅子は、あの人少し内気過ぎるわとはにかむ。

そこに、嬉しそうな顔をした若尾がやって来る。

その日、映画を見終わった後、甘味所で一旦落ち着いた2人。

雅子は今観た映画の中で、夫が奥さんの事をぶつでしょう?あそこが良かったわ。私涙でちゃった…と感想を述べる。

その後、2人はラーメンをすすり、若尾は電車の中で、途中まで送って良いか?お話ししたいことがあるんですと頼む。

そして、電車を降り、雅子の家の方まで歩きながら、若尾は支店長から娘をもらわないかと誘われた事を打ち明ける。

すると、雅子は、春子さん?素敵じゃない。すぐに課長さんよと、大越と同じような事を言って来る。

さらに若尾は、下宿に母から見合いを勧める手紙が来ていた事も話し、ところが僕はあなたが好きなんです。始めてあなたが会社に入ったときから。

今日の映画の切符も僕が買ったんです。縁談のことを言われた時、即座にあなたの事が思い浮かんだんですと若尾は告白する。

それ本当?と驚いた雅子は、若尾さん、私、嬉しい!と答えると、そのまま駆け出して自宅に入ってしまう。

家では、女中と母親(夏川静江)が待っており、ご飯は?と聞いて来たので、お蕎麦食べて来たと雅子が答えると、今日、千津子が来て、お金を借りに来たんだよと言うので、お姉さんたら、そんなに困っているのかしら?と雅子は驚く。

生活の方はそうでもないそうなんだけど、今度、丸山さんがピアノを買いたいんですって。お父さんが今度定年で御辞めになるでしょう。その退職金から出して欲しいなんて言うのよと母は呆れたように言う。

千津子の夫は音楽家であり、父は結婚に反対だったが、姉は勝手に結婚すると、飛び出すようにこの家を出て行ったのだった。

しかし、父の娘の結婚に対する頑固さは異常で、お兄さんが死んでからおかしいわよ。意固地になっているのよと雅子は言う。

その時、父親(志村喬)が帰って来て雅子の言葉を聞いていたらしく、お前は千津子にちょいちょい会っているそうじゃないかと言うので、雅子は、丸山さんはお父さんとタイプが違うんだもの。私だって、好きな人ができたら恋愛くらいします!と言い残して、自分の部屋に戻って行く。

後日、雅子は姉の千津子と一緒に、演奏会に向け練習中のホルン奏者丸山俊夫(三船敏郎)に会いに行く。

雅子は、丸山と何とか巧くやっているような千津子をからかう。

練習を終えた丸山は、喫茶店で雅子から若尾の話を聞くと、僕の好きなタイプだ。その人純粋なんだと褒める。

問題は、雅子の頑固な父親をどう口説くかだと言うことは丸山にも分かっていた。

千津子は、お父さんはお婿さんが欲しいんでしょうと言い、お互いの気持ちが大切だよと丸山は義妹にアドバイスする。

ある日、若尾は、会社で花瓶の花を取り替えていた今井愛子に微笑みかける。

その後、支店長室に入った若尾は、先日のお話の事ですが、私には身に過ぎたお話と思いますと婉曲に断る。

とたんに支店長は不機嫌になる。

部屋から出て来た若尾を呼び止めた小杉課長は、一体何の用で、支店長に会いに行ったんだ?と聞くので、伝票の間違いがあったものですから…と若尾がごまかすと、君たちの間違いは僕の間違いなんだから、まず、僕に話してもらわなくては困るよ!と小杉課長は文句を言う。

下宿先に帰って来た若尾は、大越の女房から、お客さんですよと教えられる。

上がりがまちの所を観ると、ハイヒールが置いてあったので、喜んで二階に上がって観ると、案の定、雅子だった。

どうして今日会社を休んだの?心配しちゃった。支店長に、この前の話断って来ましたと若尾が話しかけると、雅子は、姉さんが、今度の日曜にいかがかって?と伝え、私、一晩中繰り返し考えましたと言う。

若尾も、僕も考えました、軽率じゃなかったかってね。でも、自分に正直だったと思いますと答えると、私もあなたがそうして下さるのを待っていたんですと言う。

僕の給料は…と若尾が言いかけると、手取りで18600円、煙草は1日1箱半、酒も御飲みになる…、私知ってるんですと雅子が言うので、おふくろは名古屋の兄貴の所にいるから心配いりませんと若尾は打ち明ける。

そんな2人の所にお茶を運んで来た大越の女房は、部屋から聞こえて来る2人の仲睦まじそうな声に微笑み、遠慮して下がることにする。

次の日曜日、約束の喫茶店で1時に待ち合わせていた千津子は、雅子が来ないので、30分後に隣のテーブルに腰掛けていた若尾に声をかける。

若尾の方も、千津子が雅子の姉と知ると初対面の挨拶をするが、やはり雅子が来ていないのを不思議がる。

その頃、雅子は、自宅にいた父から外出を禁じられていた。

父は、お前たちの恋愛を反対しているんじゃない。薮から棒に結婚しますって言うわけにはいかんと言っとるんだ。ものには順序がある。相手がどう言う人か調べよう。千津子の二の舞にはしたくない。勝手な事をしないでくれと言い聞かそうとするので、雅子は悔し泣きをする。

雅子が来ない事を不思議がっていた若尾に、千津子は、うちの父はとても厳しいんです。私の上に兄がおりまして…と話すと、聞いています。大学を一番で卒業された優秀な方だったそうですねと若尾は答える。

父と同じ会社に入るのが決まった年に肺炎で亡くなりました。父は兄のような相手を求めているのだと思います。私は失望させましたけど、あなただったら父の夢を叶えてくれるんじゃないかって思いますと千津子は言う。

家では、母親が雅子に、我慢して。姉さんの時は、母さん、紫色になるほどぶたれたんだからと言い聞かせていた。

その後、自宅アパートに戻って来た千津子は、母親がアパートの前で待っているのを見つける。

母は千津子に、雅子が来たそうじゃない?と言うので、どうして今日、雅ちゃんを出してやらなかったの?と千津子が聞くと、雅子を焚き付けるのを止めて欲しいんだよ。雅子とお前は違うんだよ。雅子にまで家を飛び出されたら、母さんたちはどうすれば良いのと母は訴えて来る。

翌朝、会社では、中島が支店長から呼ばれていた。

部屋に入ってきた中島に、今夜、付き合ってくれんかね?君は独身だったね?小杉課長を他に回そうと思ってね…と西垣支店長は話して来る。

その日も雅子は欠勤していたので、清水さんどうしたんだろう?と若尾が今井愛子に聞くと、辞めるんでしょう?結婚するのでしょうと言うので、誰と?と驚いて聞くと、あなたとでしょうと愛子は呆れたように答えたのでほっとする。

支店長室から嬉しそうな顔で出て来た中島の姿を横目で観ながら、あの人も雅子さんが好きだたのよと愛子は若尾に教える。

父から会社への出社も外出も禁止された雅子は、自分の部屋でアルバムなどを眺めて時間を潰していた。

会社から帰って来た父に母親は、明日はどうしても会社に出るって言ってますと報告すると、会社に行って、若尾って男の事を聞いて来たよ。あんまり面白くないんだ。悪い人間じゃないが、課長や支店長の意見を聞くと、将来有望な人間じゃないらしいと父親の方も答える。

お父さんはいなくて、お母さんは名古屋のお兄さんの所にいるらしい。このまま溺れる我が子を見ていられないじゃないかと父が言うと、そうですね。それが雅子の為ですものねと母も同意する。

若尾をアパートに呼び、一緒に夕食のすき焼きを振る舞う事にした丸山は、雅ちゃん1人で気を揉んでいるんじゃないかな?と千津子と2人で案じていた。

丸山も昔、雪の降る晩、結婚するため、家から出て来る千津子を外で2時間も待った経験があったのだ。

ラーメン食べたわね。私始めてお酒も飲んだわ。あなたは夜中の2時にウェディングマーチを吹いたのよと、その時の事を懐かしそうに思い出す千津子。

結婚の始まりは略奪結婚だったんだよ。ルソー曰く「自然に帰れ!」ってね。元気出せよ!若尾君の為に、勇壮な奴を吹こうかと言い出した丸山は、その場でホルンを噴き出す。

すっかり丸山の影響を受け、上機嫌になった若尾は、酔った勢いもあり、大声で歌いながら下宿に帰って来る。

硝子戸を開けて出迎えた大越に、おじさん、僕、結婚するよ!略奪結婚!ルソー曰く「野蛮に帰れ!」、おじさん、元気出せよ!などと管を巻いたので、野蛮はいけないねと大越は呆れたようになだめ、女房が二階へと連れて行く。

翌朝、酔いが冷めた若尾は、改めて大越夫婦に仲人を頼むと、すぐに承知した大越は、紋付を女房に出させると、向うの親父さんを口説いてみせるからと張り切る。

その頃、雅子は、居間にいた父親から、今日は静かに話したいと切り出されていた。

お前に会社に行くなとか、外出するなと言ったのは、若尾と言う人に会わせたくないからだ。相手の事を調べてみたらあんまり評判が良くないんだ。仕事を見て、その人を知るって言葉もある。お前はまだ人間ができてない。お前の将来の為なら、父さん、結婚に反対するしかないんだと父が言うと、雅子は、私、後悔しません!と言い張る。

どうしても、若尾って人と一緒になるんだね?と父は憮然とし、母も、雅子!お父さんやお母さんの心配が余計なお世話と言うのかい?と口を出して来る。

お父さんが乃木大将を尊敬しているように、私も若尾さんを尊敬しています。時代が違います!と雅子が訴えると、家ってものがどう言うものか分からんのか!と父は怒りだしたので、雅子!お父さんに謝んなさい!と母も取りなそうとする。

千津子みたいに、泣きっ面下げて来るなよ!今からでも、その男の所へ行くが良い!と父が声を荒げると、堪忍して下さい!と雅子は言う事が聞けない事を詫びる。

雅子!お父さんに謝んなさい!と母も泣き出すが、出て行け!荷物は後から送ってやる!と父は怒鳴りつけたので、泣く泣く雅子は家を飛び出して行くが、玄関先でその雅子とすれ違う形では行って来たのが大越だった。

紋付姿の大越は、玄関先に出て来た雅子の父親と始めて対面する。

外で大越の対応を待っていた若尾は、急に雅子が飛び出して来たので驚いて呼び止める。

雅子は、お父さんと喧嘩して家を出て来たのと説明し、その直後、大越もしょんぼりした表情で家を出て来る。

家の中では、父親が母親を呼び、母さんはわしを酷い父親と思ってるだろう。今、雅子の真剣な眼を見ていたら急に可哀想になってな。怒鳴ったのは、今日から頼りになるのは夫以外にないって、あの子の胸に刻み付かせる為だったんだ。わしはどうしても止めさせたかったが、子供の将来の責任までは持てん。一生、雅子の面倒も見てやれる訳でもなく、好きにさせてやろうと思った。夫だけしかいないと思えば、あの子も一生懸命やるだろうと打ち明ける。

それを黙って聞いていた母親も、若尾って人が良い人なら良いんですけどね…と涙ながら呟く。

若尾と雅子は、大越夫婦を仲人に、親戚としては千津子の5人だけが参加と言う異例の結婚式を神社で執り行う事にする。

実は、若尾の母親も直前になって結婚に反対すると言い出したのだった。

姉さん、幸せ?と雅子が聞くと、私は普通で良いのと千津子が言うので、ピアノ、買えると良いわねと言い添える。

大越は、こんな結婚式初めただよと、両家の両親が出席しない結婚式の事を呆れる。

大越の女房も、どうして名古屋のお母さん、反対なさったんだろう?と首を傾げる。

そこに、タクシーで丸山が駆けつけて来て、タクシーに乗ったので460円も取られたなどとぼやきながら、千津子の隣に座ると、今、お父さん、お母さんも来てたぜと千津子に耳打ちする。

結婚式が始まった神社の外には、雅子の両親が来ていたが、中に入る勇気がなく、外からそわそわして中の様子をうかがっていた。

そこに、盛大な出席者を伴った他の組が到着したので、2人は遠慮して、神社脇の空地に身を避ける事にする。

母親は、娘の事を思い泣き出すが、父は、母さん、鳴くのはお止し、めでたいんだよと慰める。

やがて、式を終えた若尾と雅子が神社本殿から出て来て、千津子夫婦、大越夫妻に見送られて車に乗り新婚旅行に出発するが、その様子を空地から、父と母は見守っていた。

丸山はホルンを取り出すと、走り出した車を送り出すようにウェディングマーチを吹き出す。

若尾は、行って参ります!おりがとうございました!と姉夫婦と大越夫婦、そして、その後ろに近づいて来て手を振ってくれた別の新婚夫婦関係者たちに車の中から挨拶して行く。

その後、帰宅して来た雅子の両親は、庭先に1人の見知らぬ老婆(英百合子)が座り込んでいるのに気づく。

清水さんでしょうか?と聞いて来たので、あなたは?と父が問いかけると、私はあなた様の家から娘さんを取って行った若尾の母親でございますと言うではないか。

今朝、東京駅に着いて、まっすぐこちらにお詫びにうかがいました。堪忍してやって下さいませ!と若尾の母が庭先に土下座をして頭を下げて来たので、雅子の両親は慌てて手を上げさせ、家の中へ招き入れようとするが、若尾の母は、息子の無分別をお許し下さい!と、ひたすら詫びるだけだった。

そんなことになっているとは知る由もない若尾と雅子は、列車の中で仲睦まじく新婚旅行を味わっていた。

新婚旅行から帰って来て仕事を始めた若尾は、ある朝、地下鉄の入口で待ち構えていた同僚の大木(藤木悠)から、中島さんが課長になったそうです。小杉課長は御お酒へ転勤だそうですと教えられる。

会社に行ってみると、辞令が貼り出されており、先にそれを読んでいた同僚たちが、可哀想なのは若尾さんだよなどと噂していた。

社内では、若尾の方が先に課長になると思われていたからだった。

その日、大越の店にやって来たのは雅子の母親だった。

雅子は大越に、畳の裏返しをお願いしたいと言うので、大越は承諾しながらも、ご主人お元気ですかねと皮肉っぽく聞く。

母は雅子は元気でしょうか?と聞いて来たので、そりゃもう、旦那より威張ってますよ。女って奴は、結婚したら強くなりますからね…と言いかけて、相手も女だと気づき、こりゃ失礼!と大越は詫びる。

その夜、大阪に転勤が決まった小杉課長は、若尾を誘って飲み屋で、今年は息子が大学に行くと言う大事な時期なんだ…と愚痴をこぼしていた。

そんな小杉は、君に詫びなけりゃいけない事があると言うと、奥さんのお父さんに会った事があるんだ。身元調査に来たんだ。悪気があった訳じゃないんだが、君たちの事を知らなかったんだ…と、暗に悪口を言ってしまった事を告白する。

若尾は、面白くない気持ちで深酒をして、悪酔いのまま帰宅する。

出迎えた雅子は、こんな遅くまでどこにいらしたの?と呆れて聞いて来たので、銀座で小杉さんと飲んで来たと答える。

そして、小杉さん、大阪に回される事になったんだ。支店長と合わないらしいからねと若尾が言うと、小杉さんの後は誰がやるの?と雅子は聞く。

中島だ!と若尾は面白くなさそうに言う。

雅子は翌日、千津子のアパートにやって来る。

千津子は不機嫌そうな妹の様子を見て、喧嘩?早いわねと呆れる。

お酒止めるって言ったのに、昨日も一昨日も飲んで来たのよ。原因は分かってるの。若尾がなるはずだった課長に、別の人がなったのよ。その人、支店長の娘をもらわないかって言われたのよ。私しゃくだったから、今朝のごはんの仕度してやらなかったのと雅子は訴える。

このアパートに、朝、夫婦喧嘩して、機械に挟まれた人いるわよ。男なんて、道ばたに転がっている空き缶みたいなものよと言い聞かした千津子が、編み機のようなものを始めたので、それは何かと雅子が聞くと、内職よ、1枚編んで300円。お金を稼ぐって大変なのよと淡々と教える。

その頃、清水家に来て、畳の裏返しを若いものにやらせていた大越に、雅子の母は、雅子には内緒にしておいて下さいねと頼むので、万事承知した大越は、孫でもできたら、吊るしてやるんですねと諭す。

夕方、肉屋で細切れ肉を50円分買いかけていた雅子は、帰って来た若尾の姿を見かけたので、奮発して並肉100円分に変更して購入すると、慌てて若尾の後を追って行くのだった。

ある日、新しく課長になった中島から呼ばれ、4番倉庫を今日中に引き取らせてくれた前と命じられた若尾は、苦笑しながら、それりゃ無理ですよ。今月一杯の契約なんですからと反論するが、それを聞いた中島は、言葉を慎みたまえ!君は言われた通りやれば良いんだ!ときつく言い渡す。

その夜、若尾が幹事をやらされ、料亭「若竹」で、小杉課長の大阪転勤の送別会を行う。

小杉馴染みの芸者が別れを惜しんで、上座の小杉に話しかけるが、隣に座った中島は、沈み込んでいる小杉に無頓着な様子で、支店長から預かって来た餞別を手渡す。

小杉さん、2、3年の辛抱ですよなどと中島はお愛想を言うが、これまで面倒を見てやった中島に裏切られたと言う思いが強い小杉は、そんな事より、君が尻尾を出さんようにすることだなどと皮肉を言い、君は人を突き落とす犬だよ!などと罵倒したので、かっと来た中島が盃の酒を小杉の顔に浴びせかけ、2人は取っ組み合いの喧嘩になる。

慌てて若尾が止めに入るが、中島は、そんな若尾を、貴様も首にしてやるから!などと言いながら突き飛ばしたので、逆上した若尾は中島に殴り掛かって行く。

興奮して外に出た若尾を追って来た小杉は、会社を辞めるなんて言わないでくれ!と頼むが、僕はあんたの為に辞めるんじゃない!と言い返すが、僕だって屈辱に耐えているんだよ。サラリーマンだからねと小杉は必死に説得しようとする。

頭に包帯を巻き帰宅して来た若尾を観た雅子は驚き、喧嘩したんじゃないの?と訳を聞こうとするが、若尾は、何でもないよと言うので、私に言えない事なの?と雅子が迫ると、ちょっとぶつけたんだとなどと若尾は言うので、心配してるのよ!と雅子は訴える。

あなた、変よ、自分1人で考え込んで…と、雅子は、汚れた上着を吹きながら言う。

翌日から、若尾は、雅子に内緒で仕事探しを始める。

丸山の楽団にも来て、ちょっと面白くないことがあって会社を辞めた事を丸山に打ち明ける若尾。

雅子には、就職が決まってから話そうと思っているんですが、どっかないでしょうか?などと聞かれた丸山は戸惑ってしまう。

しかし、雅子は喫茶店で久々に再会した今井愛子から、夫が仕事を辞めた事を聞かされ、あなた、仕事もう1度しない?と勧められていた。

旦那様がルンペンでしょう?こうなると妻の座も考えものね。私はやっぱり独身が良いわと愛子はため息をつく。

ある日、母親が雅子を訪ねて来て、定年で仕事を辞めた父親が、毎日朝から文句ばかり怒鳴っている。父さんも寂しいんだよ。お前のことを心配しているんだよ。若尾さんと巧くやっているの?月給だけでやっていけるの?いつまでもお父さんを怒らせないでおくれと話し帰って行く。

その母が帰りのバスに乗ろうとした時、そのバスから降りて来たのが若尾だったが、両者は互いに気づかないままだった。

下宿に戻って来た若尾は、雅子が電気も点けないで踞っているので、どうしたんだ?と聞くと、今日、今井さんに会って、あなたが会社を辞めた事を聞いた。何故、話してくれなかったの?と雅子は聞いて来る。

新しい主食先が決まったら話そうと思っていたんだと若尾が答えると、そんな思いやりはいらないわ。夫の仕事も知らないでのうのうと暮らせないじゃない?私たち、2人きりじゃありませんか。さっき母が来たわ。私、毎日が幸せだって言ったのよ!と雅子が責めるので、つまらない事に拘った僕が悪かった…と若尾は詫びる。

翌日も、職安に向かった若尾だったが、大学出と言うのが逆にネックになり、ニコヨンもできないでしょう?ツテはないんですか?などと言われてしまう。

がっかりして帰りかけた若尾は、同じように職安に職探しに来ていた級友にばったり出会う。

東亜銀行を辞めたと言い、サラリーマンはこりごりだと言うその男は、若尾に100円貸してくれないか?朝から飯を食ってないんだなどと言い出す。

その後も、トラック助手や行商の仕事を探しまわる若尾だったが、荷物を背負って歩くと聞くと、やはり体裁が悪く、2、3日考えさせてくれと言って引き下がるしかなかった。

雨の日、下宿で寝転がって新聞を読みながら、失業者は70万人だってさ。僕は70万分の1か…などと若尾がぼやいていると、雅子が、お父さんに相談してみようか?お父さんなら色々ツテもあるだろうし…と言葉をかける。

すると若尾は、バカ!と怒鳴りつける。

後日、「杉野海運会社」に退職金をもらいに来た若尾は、大木から、退職金は課長が持っているんだ。実は、懲戒退職だった所を円満退社にしてくれたのはあの課長なんだよ。ちょっと頭下げてくれれば良いんだよと言われる。

仕方なく、中島課長の前に行った若尾は、退職金を頂きに来ました。ありがとうございましたと頭を下げてみせる。

中島は、そんな若尾に、しっかりやるんだな。その内、芽も吹くさ…とねぎらいの言葉を上から目線で言って来る。

公園のベンチでパンを食べていた若尾は、偶然通りかかった大越に見つかってしまう。

大越は、息子夫婦の赤ん坊が生まれそうなんで日赤に入院させて来た所だと言い、こんな所で何をしているんです?と聞いて来たので、実は、一ヶ月前に退職したんですと若尾は白状するしかなかった。

それを聞いた大越は、あんたたちは夫婦揃って強情だねと大越は呆れる。

その頃、雅子は愛子と買い物を楽しんでいた。

帰宅した若尾に、先に帰っていた雅子は、あなた、就職口があったの。今井愛子さんが頼んで下さったのよ。会社は丸の内の平行ビル。経理の仕事なのと言うので、若尾はそれは良かった!丸の内なら近いし…と喜ぶが、とにかく明日行ってくるわと雅子が言うので、自分の働き口ではない事に気づく。

働くのは私よ。あなただと思っていたの?と雅子も若尾の勘違いに気づくが、若尾は不機嫌そうに、反対だな。君に働いて欲しくないと言い出す。

あなたはしばらく、家でのんびりしていれば良いのよと雅子は言い聞かすが、頼りにならなくて悪かったね。金ならあるよと言いながら、若尾はもらって来た退職金を差し出すが、これで何時まで暮らせると思ってるの?見得はってもしようがないじゃない。私たち、ル○ペンなのよと雅子は説得しようとする。

君は僕に土方でもさせたいのかい?僕が悩んでいるのが分からないのか?と若尾は言い返すが、私と結婚したから後悔してるんじゃないの?はっきり言ったら良いじゃない。支店長の娘と結婚すれば良かったのよ。今頃、ちゃんと課長になってたの。それを私なんかと結婚したから…と雅子が詰めよって来たので、思わず、バカ!と言いながら若尾は雅子を叩いてしまう。

いやよ!ごまかしはいや!と泣きながら部屋を飛び出して行く雅子。

慌てて追いかけて行く若尾に、大越が驚いて、どうしたんです?と声をかける。

若尾は表通りを人ごみの方へ向かって見るが、雅子の姿は見えない。

縁日でごった返す人ごみの中を進んでいた若尾は、啖呵売をやっている男が、あの職安であった旧友である事に気づくが、もう声もかけず雅子を探す。

雅子は、丸山と夕食を始めていた姉の千津子のアパートに来ていた。

私、若尾にぶたれたんです。このまま行ったら、いつか破綻するわ。就職出来ないってだけで、何もかもダメになりそうなのと雅子が訴えると、野郎って、仕事がないとイライラするからな…と丸山が口を挟む。

私が働いたら、あの人の負担になるって言うのよと雅子が言うと、若尾君の気持ち、分かるなと丸山が答えたので、早合点は止めて!と千津子がたしなめる。

私たちの結婚、間違ってたんじゃないかと思うようになったの。私怖いわ、あの人、私の為に…などと悩む雅子に、若尾さん、今どうしているの?と千津子が聞くと、知らないと言う。

それを聞いていた千津子は、私が父なら、あんたを1発殴ってやるわ。水を飲んでたって三ヶ月くらい生きていられるのよ!と雅子を叱る。

丸山も、帰った方が良いよ、送って行くからと言って立ち上がり、千津子が仕方なさそうにコートを着せてやるが、それを見ていた雅子は、1人で帰りますと言い出す。

1人で帰れるなら、その方が良いわと千津子も賛成する。

この間、お母さんが来て、お父さんが寂しがっているから会いに来てってと雅子が伝えると、あんた、若尾さんと別れるつもりなら、すぐに別れて、お父さんに頭下げると良いわ。私たちだって、半年もルンペンだった事もあるのよ。くじけそうになったら、誰もいない所で歌を歌うのよ。20曲も歌っていればすっきりするわ。あなた、若尾さんが好きなんでしょう?ルンペンは何万といるけど、飢え死にした人いないでしょう?あんたは甘ったれなんだから…と千津子は言いきかせ、丸山も、もう1度、若尾君と話してみたら?と口を添える。

お父さん、お母さんには、就職が決まってから会いに行きましょう。今は個人の自由はあるんだから、義務だってあるのよ。この人だって、私がいなくなったって、交番に行った事もあるのよ。若尾さんだって、交番に行っているかもしれないわ。早く帰ってらっしゃいと千津子は急かす。

下宿に雅子が帰って来ると、入口から慌てて出て来た大越夫婦が、孫ができたので病院に行ってきますけど後は宜しく。停電だから気をつけて下さいよと言い残して出かけて行く。

二階に上がって観ると、蝋燭に灯を灯した若尾が、のんきに七輪で魚を焼きながら歌を歌っているではないか。

そんな部屋の中を覗き込み、こっそり中に入った雅子は、若尾にすみませんと詫びる。

私がしますと箸を取ろうとするが、巧く焼けたぜ。明日から僕が飯炊きだと若尾は明るく言う。

ここの家、赤ちゃんが生まれたんですって。私たちはまだまだね。私、生みたくないわ。私、やっぱり明日から働く!あなたに叱られてもと雅子はきっぱり告げる。

うん、痛かっただろう?さっき…と若尾が素直に詫びると、暴力はいやよ、一生いや!と雅子は甘える。

僕、少し焦り過ぎていたんだ。ゆっくり探すよと若尾は改心したように呟き、あなたにはあなたに向いた仕事がきっとあるわと雅子も勇気づけ、両者はそっと抱き合う。

その時、部屋の電気が灯ったので、ほっとした2人はまた嬉しそうに抱き合うのだった。