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黄色いさくらんぼ

浜口庫之助作曲のヒット曲「黄色いさくらんぼ」を元にした他愛のない青春ドラマで、観た感じ、典型的な添え物映画と言った印象の作品である。

山田洋次さんの脚本なので、一見、明朗喜劇風のタッチだが、プロのコメディアンが出ている訳ではないので、喜劇と言うほど笑える部分はない。

前半は東京が舞台なのでちょっと垢抜けした印象の展開だが、後半は熱海を舞台に、若干泥臭いドラマ展開になっている。

タイトルバックに、浜口庫之助氏ご本人が登場すると言うのも洒落ている。

随所に「黄色いさくらんぼ」や似たような明るい歌が重なるので、音楽映画と言っても良いかもしれない。

タイトルにもなっている「黄色いさくらんぼ」と言う曲は、後年、ドリフの番組などにも出ていた、ゴールデン・ハーフと言う女の子グループがカバーしていたので、曲を聴けば、あああの曲か!と分かる人も多いはず。

詩の内容はどうと言うことはないのだが、女の子のため息のような声が途中に入るので、当時の大人たちからは眉をひそめられるような卑猥な歌と言う扱いだったのかもしれない。

そんな曲の雰囲気にあやかり、ちょっぴりエロティックな艶笑もののようなタッチを狙っていたのかもしれないが、何せ、作られた時代が時代だけに、今想像するようなエロティックな部分はほとんどないと言って良い。

ストリップと言ったって、若い娘を一緒に連れて行っておじさんたちが観ているくらいだから、ショーの内容も推して知るべし。

芳村真理等の入浴シーンが、シルエットで表現されていたりする辺りが、当時のエロティック表現の限界だったのだろう。

主役は3人娘だが、その中でも有名なのはモデルだった芳村真理だろうか。

彼女をモデルにしたマネキンが一時期流行っていたそうで、この頃の芳村真理の顔を見ていると、確かにそっくりのマネキン人形やファッションイラストなどを昔観たような記憶がある。

ただ、そんな芳村真理も、この当時は女優と言うよりは新人の女の子と言った感じで、演技もそれなり。

他の2人の女の子も同様で、設定自体は東宝の「お姐ちゃんトリオ」などにちょっと似ている。

計算高く、金をしっかり貯め込んでいる芳村真理扮するなぎさは、「お姐ちゃんトリオ」のパンチにそっくりだし、重役の娘と言う設定の笛子はピンチとそっくりである。

「お姐ちゃんシリーズ」が東宝で始まったのは、この前年の1959年から。

ひょっとするとヒントにしている可能性もなくはないが、銀座を舞台に垢抜けした都会派コメディの東宝タッチとは違い、やや泥臭い松竹風になっているのが興味深い。

若い女性が主役扱いなので女性向けの内容か?と思いがちだが、冒頭からストリップ小屋が出て来たりと、どちらかと言うと中年サラリーマン向けのような内容にも見える。

小坂一也演ずる若者が出て来るが、このキャラクターも気が弱いだけではっきりせず、中途半端な印象。

興味深いのは、穂積隆信が演じている芳村真理の恋人役で、これが、「男はつらいよ」シリーズのヒロシに重なるような人物に見える所。

中小企業の労働青年だが、そこそこ学もありそうで、見た目も性格も爽やか。

ところが、その爽やかだった青年も後半はぐずぐずすねたような事を言い出すのですっきりしなくなる。

類型的なおじさんたちはともかく、若者代表として登場している男たちの方は情けなく描かれており、女性陣の方は全員、あっけらかんとしていて行動的に描いている所がミソだろう。

3人娘も、1人1人観ていると、特に魅力的なキャラクターと言う訳でもないのだが、他の男性キャラが全員情けなく描かれているため、相対的に目だっていると言う所だろう。

一番目だっているのは、ストリッパー役の春川ますみとも思えるが…

ベテランの中村是好が、当時の流行歌に無理矢理付き合って演じている姿が、物悲しく写ったりする。

それはそのまま、彼の息子役の小坂一也が演じていた泣き上戸の若者の心理と重なるのかもしれない。

特に面白かったと言う訳ではないが、芳村真理が主演している珍しい作品と言うことだけは確かである。

この頃の野村芳太郎監督は、本当に器用に色んなタイプの作品を撮りまくっていたと言うことも分かる。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、松竹、山田洋次脚本、野村芳太郎脚本+監督作品。

黒い(と文字が出る)

白い(と文字が出る)

赤い(と文字が出る)

違う!違う!と言う女性の声が重なる。

黄色い(と文字が出ると、それよ!の声)

「黄色いさくらんぼ」のタイトル

3人娘(スリー・キャッツ)が、何やら裸のような雰囲気で主題歌を歌い、キャスト、スタッフロールが、その身体を隠すような色帯の上に出る。

その3人娘に近づく男の足。

その男が滑って床に倒れると、「音楽 浜口庫之助」の文字からその男の方へ↓が出る。

気絶した浜口庫之助氏を3人娘が引きずって、画面から退場する。

「黄色いさくらんぼ」の曲に合わせ踊るストリッパーたち

そこは、熱海のストリップ小屋「パラダイス座」

その楽屋で、馴染みの陸奥吾郎に、刺繍の入ったピンクのパンティを買って来てと頼んでいたのは、ストリッパーのリリー(春川ますみ)だった。

吾郎がこれから上京し、明日の夕方には帰って来ると言うので、東京での買い物を頼んでいたのだった。

劇場から帰る吾郎を見送ったリリーは、あたいも巧くなって、東京の舞台に出たいな~と呟く。

夜の銀座

とあるバーで、流しの演奏をバックに、酔った常連客の亀野甲(中村是好) と「黄色いさくらんぼ」を歌っていたのはウォーター学院の女学生帆立なぎさ(芳村真理)だった。

亀野は歌うと言うより、「アハ~ン♥ウッフ~ン♥」と言うため息の部分を担当しているだけだが、それが十八番のようだった。

テーブル席でホステスたちとそれを喜んで聞いていた、亀野の上司である下田張吉(永田靖)は、突然、催眠術を見せてやると言いだすと、歌い終わって席に着いた亀野に、君の目は絶対にあかなくなると言う。

すると、亀野は急に目をつぶり、術にかかったような状態になったので、ホステスたちは面白がるが、これは強迫法と言い、これにかからん奴はバカかキ○ガイだなどと下田は自慢する。

しかし、亀野は薄目を開けて周囲の状況を覗き観る。

「ウォーター学院曙寮」

女学生たちが「黄色いさくらんぼ」を歌っていつまでも寝ようとしないので、女性の寮監が、もう寝る時間ですよ!ウフ~ン!と言いに来る。

寝間着に着替えようとしていた磯野サヨリ(国景子)は、窓の外を観て、ちょっと!又見てるわよ!と同室の仲間たちに知らせる。

隣の建物の屋根に、近所の男子学生たちが登って、着替えている女子のシルエットを覗き見ていたのだ。

男子たちは、服を脱いでいた女子のシルエットに興奮していたが、突然、女子寮の窓が一斉に開き、懐中電灯を照らして騒ぎだしたので、慌てて逃げ出す。

建物の下にも女子たちが集まり、テニスラケットで壁を叩いて脅かす。

一斉に男子たちが寮の入口から逃げ出す中、何も知らずに寮を訪ねて来た吾郎は、男子女子混乱した入口付近でもみくちゃになる。

その後、寮を訪ねた吾郎は、女子学生や寮監から覗き見の犯人扱いされたので、慌てて、自分は帆立君に面会に来たのであって、夕方熱海を出たのでこんな次官に鳴ったのだと弁解する。

サヨリは、そんな吾郎の顔を思い出したようで、なぎさはまだアルバイトから帰ってないのよと教えるが、寮監は、こんな時間に女子寮に来るなんて非常識です。用件だけうかがいましょうと言うので、仕方なく、吾郎は、名刺に明日会社に電話して下さいと書き込み、寮監に渡して帰る。

その後、寮に帰って来たなぎさは、その名刺を握りしめて眠ってしまったので、同室のサヨリたちは呆れる。

翌日、吾郎は、本社で穴の開いた靴を椅子の上に上げ寝ていたが、女子社員が出社して来たので、今日はランデブーがあるんだと答える。

一方、満員電車で学院に向かっていた下田笛子(九條映子)は、お尻を触られたので、側に立っていた学生の仕業だと思い込み、止めてよ!と言いながらズボンを引っ掻く。

するとその学生亀野幸雄(小坂一也)は驚き、僕は荷物を持ってるじゃないか!と憤慨する。

確かに彼は両手に荷物を持っていたので、触ることは出来なそうだった。

四谷駅で降りた幸雄は、ズボンに穴が開いている事を発見する。

一緒に降りた笛子に文句を言うと、何よ、化繊のズボンの一丁くらい。むしろあんたは、これがきっかけでイカす女と接近出来たじゃないなどと笛子は反論し、それを真に受けかけた幸雄の顔を観ると、付き合ってやりたいけど、私これから学校なのよと言って立ち去る。

ウォーター学院で、ピーコこと笛子と会ったなぎさは、午後の授業をさぼるわと言うと、ピーコは、彼氏とランデブーがあるんじゃない?と勘づく。

その後なぎさは公衆電話から名詞に書かれていた建築会社の吾郎に電話をかける。

吾郎は久しぶりの恋人の声を聞いたので喜び、どっかで会おうよと誘うが、今日はバーの客と会う約束があるのよ。2時半だったら良いわと渚が伝えると、ちょっとがっかりし、銀座の三愛で待っているよと答える。

電話を終えた吾郎は女子社員に家族手当っていくら?と聞き、800円と教えられる。

すると、ちょうど昼食を食べていた同僚が、結婚したら昼はかけうどんばかりさ。結婚は大変だよとぼやいて来る。

一方、なぎさの電話に付き合って来た笛子は、バーの客って爺さん?と聞くので、目下の所、お得意さんなのよとなぎさは答える。

とにかくその客の所へ行くことにしたなぎさと、父親の会社に行く予定の笛子は、道路でヒッチハイクをしようとするがなかなか車が停まらない。

仕方ないので、スカートから足を少し出して見せ、誘惑ポーズを取ると、それに目がくらんだのか、一台のオープンカーが横道に突っ込んで行く。

変な外国語を話す運転手(ミッキー安川)のそのオープンカーに乗せてもらい、向かった先は同じビルだったので、笛子は怪しみ、なぎさの客の名前を聞くと下田張吉と言うではないか。

それはうちのパパよと笛子は教える。

専務室に来たなぎさは、下田から後で何でも好きなもの買ってあげると言われるが、その時、女子社員が、お嬢様がお見えになりましたと言いに来たので、慌てて隣の部屋に隠れるよう言われるが、持っていたハンケチをわざと部屋に落として隠れる。

そこにやって来た笛子が、あら?パパ!と顔を見て驚いたので、下田はキスマークかなにかが付いていたと思い込み、慌てて顔を拭こうとする。

それを観た笛子は、どうしたのパパ?何も付いてないわよと笑う。

そして、お小遣いもらいにきたのと言いながら、床に落ちていたハンカチを拾い上げると、それに気づいた下田は、それは私のだと言い、慌てて取り上げる。

そこに、亀野が、私の息子ですと言って連れて来たのは、電車で笛子が痴漢扱いした幸雄だった。

亀野幸雄ですと挨拶した幸雄のズボンが破れているのに気づいた下田がどうしたんだ?と聞くと。女に切られたんですと幸雄が答えたので、聞いていた笛子はつい笑ってしまう。

その時、電話がかかって来たので、受話器を取った亀野甲が相手を確認し、奥様からですと言って下田に渡す。

昼飯を一緒にと女房から言って来られた下田は嫌そうな顔になり、今日は重役会議があるんだと答えると、ママ、騙されちゃダメよと笛子が横から口出しをする。

そして、これ女物だわと、落ちていたハンカチをまた取り上げて、お小遣いくれないと、ママに話しちゃうからと脅す。

仕方なく下田が財布を差し出すと、笛子はごっそり札束を抜いてしまう。

それを見て止めようとした下田だったが、まだ女房が電話中だったので笛子に近づけない。

結局、銀座の角のレストランの二階でと指定した女房の言葉に従うしかなかった。

笛子や亀野親子が部屋から出て行くと、隣に隠れていたなぎさが出て来て、やっぱり奥さんと食事するのね?と下田を責めるように言う。

下田はすまなそうに、3時に電話しなさいとなぎさに頼む。

会社の外に一緒に出た幸雄は、ズボン代2000円だよ。親父は万年課長だしさ…とこぼすと、あんたは幸雄でラッキーだし、私は笛子でピーコって言うのよと笛子は励ます。

ピーコって言う犬がいるぜと幸雄がからかうと、私は、ラッキーって猿を買っている人知ってるわと笛子は明るく言い返す。

その頃、銀座三愛にやって来たなぎさは、吾郎の頼みで、女性用下着売り場で、女物のピンクのパンティを選んでやっていた。

サイズが分からないと戸惑うなぎさに、サイズ99だってと吾郎はあっけらかんと教え、何しろこんな買い物は苦手なんでと言うと、私だって不愉快だわとなぎさは怒りだす。

それでも、吾郎は650円でパンティを購入することが出来た。

外に出た吾郎は、下宿で世話になった子に買うんだと説明し、話って何?と聞いて来たなぎさに、そろそろ結婚しないか?と突然言い出す。

なぎさは、そんな話を立ち話ですませるの!と驚くが、吾郎は、時間がないんだろう?と言う。

なぎさは、3時になったので、公衆電話から石田に電話を入れた後、今の話どうするの?と外で待っていた吾郎に聞き返すが、又話すよと言い残し、持たされていたバッグを地面に置いた吾郎はさっさと帰ってしまう。

寮に帰って来たなぎさは、パトロンの石田の事を聞いて来たサヨリに、電気冷蔵庫を買う為に付き合っているのと説明する。

そして、なぎさは、遊びに来ていた笛子に、あんたのパパ、熱海に行こうって。今度の土日、重役会議があるらしいのよとなぎさは打ち明ける。

この間、彼氏とあまり巧く行かなかったんじゃない?とサヨリは案じるが、笛子の方は、じゃんじゃん搾られれば良いのよと、父親の事だけにけしかける。

サヨリは、ピーコさんも行くの?じゃあ、私も連れてって!とせがむが、なぎさが、子供はあっちへ行きなさいと邪険にすると、どうせ私は妾の連れ子…とサヨリはひがみ出したので、仕方なく連れて行く事にする。

かくして、なぎさ、笛子、サヨリの3人は電車で熱海にやって来る。

笛子は、父親の目をくらますため、なぎさたちとは別行動取る事にし、ホテルに向かうタクシーも別にする。

なぎさ等が乗っているとも知らず、建築現場から下の道路を通るタクシーを眺めながら、あの中の何人くらいが新婚なのかな?などと同僚に話していたのは、現場監督として熱海に戻っていた吾郎だった。

ホテルでなぎさを待ち受けていた下田と亀田は、自分等の部屋になぎさとサヨリを連れて行くので、始めて個室が用意されているのではないと知ったなぎさは慌て、私、1人になりたいの!卒論を書かくちゃいけないから!と下田に部屋の交換を頼む。

そこへボーイが入って来て、黒船会社の社長さんが下で待っておられますと下田に告げたので、やむなく、下田と亀田は接待ゴルフに出かけることになる。

その間、なぎさはサヨリに、ピーコの部屋と向かい合わせの部屋に替わろうと指示する。

その後、なぎさは建築現場で働いていた吾郎に会いに出かけるが、そんな2人の様子を遠くから眺めていた仕事仲間たちの間には、吾郎さんの女はリリーじゃなかったのか?と言い出す者がいた。

吾郎は、自分の下宿の場所を教え、なぎさは、8時には間違いなく行けると約束し、目下の所、冷蔵庫が目標なのとパトロンと仕事で付き合っていることを強調していたが、その時、人夫同士が喧嘩していると言う声が聞こえて来る。

慌てて仲裁に向かった吾郎だったが、喧嘩の原因は、吾郎の彼女はリリーなのか東京の女なのかと言う、つまらない言い争いから始まったらしかった。

仲裁に入った吾郎は頭を殴られたりしながらも、後でおごるから!とその場をなだめるが、金を持ってないので、なぎさから焼酎2本分借りる事にする。

喧嘩した人夫の女房が、バカだねと言いながら、つばを亭主の額につけているのを見たなぎさは、やがて、私たちもああなるのね…と呟く。

ホテルに戻り、サヨリと一緒に風呂に入ったなぎさは、近所にストリップ小屋があるのよ。私、襲われちゃうかもしれないなどとサヨリが心配するので、風呂上がりに、接吻撃退の薬があるのよと、ニンニクの錠剤を手渡す。

一方、ゴルフから帰って来た下田も、ニンニクのエッセンスを飲み、夜に供えていたので、部屋にいた亀野も、こっそりカプセルを1つ頂戴し、その場で飲んでみるが、慌てて飲み込んだ為か、しゃっくりが始まる。

そろそろ彼女を呼んできてくれと下田から頼まれた亀田は、なぎさを迎えに行くが、なぎさたちの部屋が下田専務の部屋の真下だと気づく。

なぎさとサヨリは、着替え中だったので、慌てて亀野を部屋の外に追い出す。

サヨリはセーターを着ようとしていたが、何故か前後ろ逆のまま着てしまったので、フードが前に来てしまう。

廊下に出された亀野はドアの鍵穴から部屋の中を覗こうとするが、それに気づいたなぎさは、鍵穴も塞いでしまう。

その後、着替え終わったなぎさは部屋を出て下田の部屋に向かい、残ったサヨリの部屋には、しゃっくりが止まらない亀野が、水!水!と言いながら入って来る。

やって来たなぎさに、下田はわしを年寄だと思ってバカにしてはいかんぞなどと言いながら抱きついて来たので、なぎさはニンニク錠を飲んだ吐息を吐きかけるが、わしの薬の匂いだな?と言うだけの下田は、自分も吐息を吐きかける。

その強烈な臭さになぎさはひるむが、逆に下田は、薬が効いて来たぞ〜!と張り切りだす。

なぎさは、嫌!パパ!と言いながら部屋の中を逃げ回るが、その騒音は、下の部屋にいた亀野とサヨリに丸聞こえだった。

なぎさは貞操を守ろうと、羽枕で抵抗したので、部屋中羽だらけになる。

一方、サヨリの方も亀野に襲われそうになって来たので、こら、あかん!と呟くと窓際に出て、向かいのピーコこと笛子が泊まっている部屋に見えるようにハンカチを振り、助けを求める。

亀野は、そんなサヨリに、何をしとるのや?こっちに来なさいと招き寄せたので、サヨリはニンニク錠を飲んだ息を吐きかけるが、その匂いを嗅いだ途端、亀野のしゃっくりが酷くなる。

笛子が隣のホテルから駆けつけ、サヨリと共になぎさと下田の部屋に向かうと、部屋中羽だらけになっていた。

パパ!なんて格好なの!と笛子が責めると、娘が出現した事に驚いた下田は、ウィスキーを飲んでダンスをしてたんだよとごまかす。

誰、この人?となぎさの事を聞くと、会社の人だと下田は答える。

笛子はなぎさにサヨリの事頼んだわよとこっそり頼り2人を部屋から追い出すと、ちょうどかかって来た電話を取り、ママからよ、帳場に頼んでおいたのと言いながら父親に受話器を渡す。

笛子は、慌てる下田の前で、パパ、社長さんとのゴルフやって疲れて寝ているわと嘘をついてやったので、下田は受話器の前で鼾の真似をする。

電話を切った下田は娘の配慮に感謝するが、笛子はそんな下田に、車を買って!最初は練習用に15万くらいで良いわなどとねだり、断ろうと近づいた下田の息を臭い!と叱りつける。

なぎさは、昼間の約束通り、吾郎の下宿にやって来るが、肝心の吾郎は帰っていなかった。

下宿のおばさんが気の毒がって、あの人は土方や女の子に人気があるのよ。良い人だからとお世辞を言いに来る。

その頃、吾郎は、昼間喧嘩していた人夫仲間と一緒に焼酎を飲んでいた。

途中、用事があるからと帰ろうとすると、酔った人夫たちが帰そうとせず、今夜は腰が抜けるまで飲まないとななどと言い出す。

結局、グデングデンになるまで飲まされた吾郎が、ふらふらになって下宿に帰って来る。

それを、二階の下宿の窓から見つけたなぎさは、射的場の娘から親し気に声をかけられている吾郎の姿を見てむっとしてしまう。

部屋に戻って来た吾郎は、すまん!君の話で飲んでいたんだと詫びるが、なぎさは不機嫌そうに、吾郎さんって、すっかりお酒飲みになっちゃったのねと怒ってみせる。

建築業だから、こんな仕事が当分続くよと打ち明けた吾郎は、温泉付きの良い所があったんだと打ち明け、安いんだよ、3000円と教える。

しかし、広さを聞かれると、四畳半しかなく、便所や風呂は下の家と共同だ。何しろ、元赤線の家だからね…などと言うので、なぎさは呆れてしまい、私、吾郎さんの名前で、公団アパート申し込んだのよ。あんまりみじめなのは嫌!と拒否する。

そこにやって来たのがリリーで、吾郎は、この人に下着を選んでもらったんだよとなぎさを紹介する。

すると、リリーは喜び、今日も履いてるわよと言うと、その場でスカートをまくり上げ、ピンクのパンティーを履いているのを披露したので、あっけにとられたなぎさは怒って帰ってしまう。

それを観たリリーが、さすがに、私、悪かったかしら?と反省するが、吾郎も別に気にしてないようだった。

翌朝、下田は、ホテル内の一室での重役会議の席で、我が黒船ゴムのゴム製品は、近年、東南アジアの土木機械用のタイヤやコンベアベルト、そして、赤線禁止以降、あの…と口にしかけるが、ホテルの女性従業員がテーブルセットの最中である事に気づくと、小型ゴム製品の売れ行きが好調で…などと報告をしていたが、カバンから書類を取り出そうとすると、羽まみれだったので気まずくなる。

翌日、なぎさ、笛子、サヨリの三人は、雷族のバイクが走り過ぎる道路脇の遊園地で幸雄が来るのを、観光用の望遠鏡を覗きながら待っていた。

すると、大勢の娘と一緒にやって来たのが見えたので、全然モテてるじゃないの!と、ちょっと悔し気に呟く。

その娘たちと別れ、幸雄が望遠鏡の所にやって来ると、全然ストリップしてるわ!などと覗いていたなぎさが言うので、幸雄も好奇心から望遠鏡を覗いてみる。

しかし、何も見えないので、不思議がって目を離すと、左目にくっきり赤い輪っかの痕がついている。

なぎさたちが口紅を望遠鏡の覗き穴に塗っておいたいたずらに引っかかったのだ。

幸雄の間抜け顔を笑ったなぎさは、ちょっと用があるからと出かけて行く。

望遠鏡で、リリーと吾郎が手を組んで歩いて来る所が見えたからだった。

その後ろ姿に、男なんてわがままなんだから、脅すのよ!と笛子が声をかける。

リリーは吾郎に、夕べの事を謝っていた。

吾郎さん、ちっとも怒ってくれないんだもの…、せつなくて…、東京の人、好きなんだろう?早く仲直りしなくちゃとリリーが吾郎に言うと、早く結婚しなよ。君みたいな子はきっと良いお嫁さんになれると思うんだなどと吾郎は言い出す。

吾郎は、道路沿いの防波堤に佇んでいたなぎさに気づくと、その顔、どうしたんだ?と聞いて来る。

実は、なぎさの左目にも、望遠鏡の赤い輪の痕が付いていたからだ。

一方、笛子の方は幸雄に、夕べはごめんね。パパに車を買ってもらおうとしたの。男性も年と共に段々厚かましくなるから…などと話していたが、そんな2人に、望遠鏡をのぞいていたサヨリが、早く来て!モーレツな事やってるの!などと誘って来る。

そんな手古いわ!と笛子が相手をしないでいると、側にいた子分連れのサングラスの男が、何だよ、姉ちゃん?と言いながら、勝手にサヨリの望遠鏡を奪ってのぞき始める。

顔を離すと、その強面の男の左目にも赤い輪っかの痕が付いていたので、子分が気づき、怒ってサヨリたちを追いかけて来る。

その場を逃げ出した笛子、幸男、サヨリの3人は、側の道路でちょうど車の修理をしていた顔見知りの男を見かけ、乗せてもらうことにする。

その男は、笛子が東京で会ったことがある変な外国語を話す鮎川(ミッキー安川)だったのだ。

なぎさと吾郎は、屋外のテーブルでコーヒーを飲みながら、互いの価値観の違いを相談し合っていた。

物のけじめがつかないと言う吾郎に、合理的なのが好きと言うなぐさは、私たちって正確正反対ねと言う。

吾郎は、前からそうだったよと言い、気にしてない風だったが、なぎさが考え込んでしまったので、何を考えてるんだ?リリーの事だろうと聞く。

なぎさは、何もかも驚かされちゃった。焼酎、土方、ストリッパー…、そんな事全然考えていなかった…と、自分が想像していた吾郎の仕事のイメージと現実のギャップを打ち明ける。

建築関係なんて、君が考えているようなスマートなものじゃないよと吾郎も言い聞かせる。

私、あの人たちと巧く行くかしら…と落ち込んだなぎさは、今晩もう1度会いましょう。それまで私考えてみるわと言い、その場を離れて行く。

その頃、車から降りた鮎川は、自分はフランスから化粧品を輸入している仕事をしているんだと、自分に興味を持ったらしきサヨリに教える。

サヨリは、今までボーイフレンドなんかいなかったのよ。うち、妾の子やから、今まで誰にも相手にしてもらえなかったのなどと打ち明ける。

その時、幸雄が、大変だ!ポリ公が来た!と叫んだので、あの黒めがねが言いつけたんや!とサヨリも慌て、再び鮎川の車で逃げ出す事にする。

雷族のバイクも一緒に逃げる。(そこに、歌が重なる)

しかし、追って来た白バイとジープから逃げ切れないと悟ると、途中で停車するが、鮎川に近づいて来た刑事は、婦女誘拐暴行の罪で逮捕する!と鮎川に注げ、君たちも参考人として来てくれとサヨリたちにも声をかけて来る。

鮎川は誘拐犯だったのだ。

警察の調べを終え、サヨリ、笛子、幸雄の3人はホテルに帰って来る。

先に戻っていたなぎさが落ち込んでいるので、又喧嘩したの?と笛子が声をかけ、結婚するか、別れるか…2年越しの付き合いだものね…と同情する。

そこにやって来た亀野が、専務がストリップ行こうってと誘いに来る。

それを聞いたサヨリは、うち、ストリップなんて知らんわとかまととっぽい事を言い出し、結局、ついて言ってみる事にする。

笛子も、社会学の勉強のつもりよ。親父が普段何をしているかも知りたいし…と言い出す。

「パラダイス座」にやって来ると、踊っていたリリーが亀野に抱きついたりするが、その内、下田と一緒に観にきていたなぎさに気づき、慌てて楽屋に戻ると、外に飛び出し、吾郎の下宿にやって来る。

そして、吾郎さん、大変よ!あの人が来てるの。変なおじさんと一緒よと教えるが、1人、スルメ酒を飲んでいた吾郎は、俺、行きたくないんだよ…と無関心そうに答えるので、何だか寂しそうね、吾郎さんも、あの人も…とリリーは気づき、又走って劇場へ戻る。

その後、なぎさは下田や亀野に誘われ、地元のバーに連れて行かれる。

笛子と幸雄も同じ店に来るが、互いの親に見つからないように二階席に座り、じっくりフロア席の親の行動を監視し始める。

笛子は、なぎさに言い寄る下田の姿を見て、何かやな感じと呟く。

酔って来た下田は、黒船ゴム亀野課長による「黄色いさくらんぼ」!と曲紹介する。

すると、亀野が2人のホステスと一緒にフロアの中央に立ち、バンドの演奏で、いつものように「黄色いさくらんぼ」の曲のため息部分を披露しだす。

そのみじめな姿を見ていた幸雄は耐えきれなくなり、安酒をボトルで注文すると、それをがぶ飲みしながら、耐え忍ぶように見始める。

笛子が、何、あの歌?とバカにし、フロアでは、なぎさと無理矢理下田が踊り始めたので、酔って、我慢できなくなった幸雄が、止めろ!と叫ぶ。

それを隣の席で観た笛子は、案外、気が小さいんだなと呟く。

同席していたホステスも、ダメよ、そんなにがぶ飲みしちゃと幸雄を止めようとするが、幸雄は、それをうるさい!と拒否する。

そんな二階席の事には気づいていない下田は、いつものように、催眠術をご覧頂くと言い出す。

そして、いつものように、亀野を前にすると、お前の目は開かなくなると暗示をかける。

一緒に観ていたサヨリは、おじさん、本当?と信じた様子。

二階席で見ていた笛子は、パパの十八番よバカにする。

お前は段々後ろに倒れる!と下田が言うと、亀野はのけぞって床に倒れ込む。

どうじゃな、お立ち会い!と下田は得意げになり、上から見ていた笛子まで、本当にかかっちゃったんじゃないかしら?と案じる。

調子づいた下田は、お前の右足が徐々に上がる!と命じるが、亀野が徐々に上げて行ったのは左足だったので叱りつける。

それを見た笛子は、インチキだ!と笑う。

しかし、下田は、催眠術の真似をまだ続け、今度は両手両足を交互に上げる!などと言い出す。

床に大の字に寝そべっていた亀野は、言いなりに両手両足を上げてみせ、見ていた客たちの失笑を買う。

二階席の幸雄は、自分の耳を塞ぎ、目をとじ、何も見ないようにするが、とうとう我慢できなくなり、うるさい!おかしくなんてないや!と叫ぶと、隣の席の笛子を押し倒してテーブルから立ち上がると、フロア席に降りて行く。

笛子は、ダメよ!出て行っちゃ!と止めようとするが、その声で下田は笛子に気づく。

下に降りた幸雄は、止めろ!インチキ催眠術!と叫び、お父さん、起きなよ!と床に寝ていた亀野に声をかける。

下田はしらけ、君の所の息子か!と、渋々起き上がった亀野に聞くが、幸雄は、お父さん!と言って父親に泣きつくと、床に寝そべって泣きじゃくり始める。

何だ、泣き上戸か…と下田は呆れ、一緒に来ていた会社の仲間たちも呆れて店を出て行ってしまう。

ホテルに帰って来た下田はなぎさに、いつからあんな女の子たちと交際してるんだ?と聞くが、なぎさが、実は学校友達なんですと打ち明けたので、それじゃあ、詐欺じゃないか!と怒りだす。

なぎさはしゅんとなり、もらったものは全部返しますと謝るが、それを聞いていた笛子は、今夜のパパ大嫌い!パパは悪い人だわ。そんなに亀野君、叱ったりするもんじゃないわと言い出す。

なぎさも、おじさん、謝った方が良いんじゃないと下田に言っていた時、意気消沈した亀野親子が部屋に入って来る。

先ほどは申し訳ございませんでした!と亀野は深々と頭を下げて来るが、娘たちの手前、下田は、気にする事ないよとなだめる。

幸雄も、どうも僕、酒癖が悪くて…と謝って来たので、なぎさに目で促された下田は、わしも悪かった謝ると答え、明日早く帰るから、今日は息子さんも泊めて上げなさいと亀野に言い聞かせ下がらせる。

それを聞いていた笛子は喜び、パパ、サンキュー!と言いながら、下田の額にキスをしてやる。

そして、廊下に出た幸雄に会いに行くと、ラッキー!私たち、今まで通り、ラッキーとピーコよ!良いわね!と話しかける。

それを見ていたなぎさは、良かったわね、ピーコと声をかける。

何だか私、一晩中、パパと話したくなっちゃった…と言うと、笛子は下田の部屋に戻って行き、なぎさも、彼に会いに行こうと言ってホテルを出て行ったので、又してもサヨリだけが廊下に取り残されてしまう。

射的場で寂し気に遊んでいた吾郎に気づいたなぎさは近寄り、明日の朝早く帰るわと伝える。

すると、元気がない吾郎が、俺たち、結婚しても巧く行かないんじゃないかな?さっきから考えてたんだよ…。なぎさ君、君、どう思う?と言う。

人に聞く事かしら?となぎさは答えるが、俺たち、色々合わないことがあるだろう?などと吾郎がうじうじと言いだしたので、じゃあ、もっと静かな所へ行きましょうと誘い、バスに乗り込む。

バスの中には、2人の他に親子連れだけが乗っており、男の子が「黄色いさくらんぼ」を口ずさんでおり、母親から注意されていた。

2人は海岸口で降りると、浜辺に降りて行く。

なぎさが、お互い気に入らない所を大きな声で言っちゃうのよ!と言うと、昔と変わったよ。君がアルバイトを始めた頃は、恥ずかしそうにバーの話をしていたけど、その内威張りだし、1年経った今は平気で話している。結婚なんて、手鍋下げても良いんじゃないかな?と吾郎が言い出したので、エゴイスト!となぎさが文句を言うと、吾郎も、守銭奴!と言い返して来る。

私だって、好きでアルバイトやってるんじゃないわ。吾郎さんなんて嫌い!となぎさは言い泣き出す。

嫌いでも良いから…と言いながら吾郎が慰めようとすると、好きだもん!勝手に泣いてるんだもんとなぎさは言う。

ぼんくらでも頼りなくっても…

アルバイトも、長くやっていると慣れて来るし、欲も出て来る。仕方じゃないじゃない!人が熱海まで来たのに!となぎさが文句を言うと、1人で来て欲しかったな…。下宿で一晩中話したって良いと思うんだよと吾郎は言う。

あんな爺ちゃんなんか、お金になると思ってるからよ!でもこれも捨てるわ!と言うと、なぎさはそれまで貯めていた預金通帳を出して海に捨てようとする。

それを止めようとする吾郎。

その頃、20前後の男女が暗い海岸で降りたので、心中でもするんじゃないかとの通報が警察に入り、地元の警官たちが、2人が降りた海岸付近に探しに来る。

すると、砂浜に金が散らばっていたので、もう入水したのかと思った警官が、早まるな〜!と叫びながら波打ち際に近づく。

なぎさと吾郎は、小舟の陰で一緒に寝そべっていたが、近くが騒がしくなって来たので何ごとかと覗き込むと、警官たちが波打ち際でうろうろしているではないか。

どうやら、先に海に入り込み、溺れかけた警官を、後から来た仲間が助け出している所だった。

そんな騒ぎを他所に、なぎさと吾郎は、小舟の陰でキスをする。

その後、二人が見上げた夜空には、黄色い満月が光っていた。

その満月から、赤い「終」の文字がストロボのように飛び出して来る。