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十三の眼

戦後、GHQによって禁止されていたチャンバラ映画に代わって、片岡千恵蔵のキャラクターに合わせて作られた現代劇ヒーロー、多羅尾伴内を主人公とした探偵活劇の第二弾。

このシリーズは、大映で4本作られた後、東映で制作される事になる。

何でも、大映の永田社長がこのシリーズのことをバカにしたような発言をしたので、怒った御大が、企画ごと東映に移ったものらしい。

1作目では、クライマックスでの「ある時ゃ片目の運転手、またある時は…」という有名な決め台詞が登場していたが、何故か続編に当たる本作では登場しない。

この作品が「七つの顔」の続編であることは、劇中で藤村が語っている歌姫誘拐事件、知事候補者冤罪事件と言うのは「七つの顔」での事件のことである事からも明らか。

観客は、1作目で、多羅尾伴内=藤村大造と言うことを知っているので、ここではもう隠すことはなく、最初から藤村大造とタイトルにも名前が出ているし、自宅でも自分で藤村大造と名乗っている。

劇中、多羅尾伴内の名前が出て来るのは、警察葬にやって来たさえない中年男が差し出す名刺の名前だけ。

しかし、その後も格好は何故か、藤村はずっと田舎臭い老人である多羅尾伴内の扮装なので少し混乱してしまう。

何故、自宅にいる時まで変装しているのかと言うと、おそらく、素顔の藤村大造はかつての「紳士怪盗」なので、その素顔は滅多なことでは人に見せられず、自ら、変装した多羅尾伴内として普段は生きることにしているのだろう。

とは言え、前後のシリーズ作品を観ず、この作品だけしか観ない人にとっては分かり難いことは確かなはず。

最後の最後で「本名、藤村大造だ!」と正体を明かされても、事情が良く分からない観客としては「ところで、藤村大造って一体何者?」と思ってしまう。

藤村大造が真人間になっていると言う設定にしては、何で食べているのかさっぱり分からないし、金持ち風であることも謎。

今の藤村大造は真人間と言うセリフを言っているくらいだから、後ろ暗い資産は持ってないはずなのだが、「ユニオンガーデン」では金持ち紳士に化け、湯水のように大金をばらまいている。

しかし、この押川広吉なるキザな紳士のキャラクターは楽しく、この映画の大きな魅力になっていることは確か。

謎と言えば、最後の最後、ルミが言った「2人の刑事を殺したのは同じ拳銃の弾」と言うのも意味不明。

鑑識で、二人の身体から摘出した弾丸は違うと最初に説明しているのに、これでは訳が分からなくなる。

仮に、1人が2人の刑事を射殺していたとしても、それが誰なのか特定されておらず、ミステリとしては不完全そのもの。

そもそも、藤村大造は推理しているのではなく、神秘的な天啓を得ているだけのように見える。

吊り天井の仕掛けなども、まるで古風な通俗時代劇であるが、そこに意外な復讐劇が絡んでいるので、意外と面白く観られる。

前作同様、今回も歌手がゲストとして登場しており、ウクレレを弾きながら唄う流しルリ役の奈良光枝は、単なるチョイ役ではない重要な役所を演じている。

今回も、藤村大造は女性にモテモテで、その女性たちの助力を得て事件を解決している。

解決と言っても、別に観客が納得するような謎解きは一切していないのだが…

変装も、相変わらず観客には全部お見通し程度のものなのだが、今回は、劇中のルリにさえ見破られているのがちょっと意外。

引け髭や眼帯程度で顔が分からなくなると言う方が不自然なのだが、そこは「スター映画」、あんまり巧妙に変装してしまうと、観客にすらスターである御大の顔が識別出来なくなってしまうので、「変装した態」と言う映画的なお約束でこの世界は成立しているのだと考えるべきだろう。

偽札作りに一味を誘う藤村が、やって来た小鉄を、次々に巧妙な変装トリックでその気にさせてしまう件などはなかなか愉快である。

喜劇作品も多い斎藤達雄の意外な役も面白い。

最初に殉死する若い刑事の方を演じているのは伊達三郎だが、この当時からその風貌は変わらないし、倒産するまで大映一筋の人だったことが分かる。

ミステリと言うよりは、キャバレーを舞台にした犯罪サスペンスと言った所だろうが、後年、映画で良く登場する犯罪とキャバレーと言う組み合わせの初期作品の1本ではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1947年、大映、比佐芳武脚本、松田定次監督作品。

ソフト帽をかぶり、煙草をくわえた藤村大造が銃をぶっ放す。

タイトル

オーケストラのシルエットを背景にスタッフ、キャストロール

またも殺人事件 飽くなき凶悪強盗の横行!と新聞記事が踊る。

深夜の町に響きう消防車のサイレン音

都内各所で張込み中の刑事たちは、火の手が上がったのが本署の方だと気づき、少し同様していた。

高架下で張込み中だった新人刑事の溝部刑事(伊達三郎)も、相方の松川刑事(葛木香一)に、本署から出火のようですと報告する。

しかしベテランの松川刑事は、遠目ではそう見えるが、自分の推測では署は出火地点よりちょっと北だと言い、とにかく一度、本署まで引き上げることにしましては?と言う溝部に、いや、そうはいかんよ。火事は火事、任務は任務、警察官が指令もないのに、みだりにその部署を離れることは許されんと言い聞かせる。

その時、汽笛が聞こえて来たので、一番の貨物列車か…。2時45分、さあ溝部君、後3時間の頑張りだよと新人刑事を励ますと、近づいて来たトラックに気づき、溝部刑事と共にその車の前に出ると、停まるように手を上げる。

列車が轟音を立てて通過する中、松川たちの側に別班で張り込んでいた安井刑事(菊野正世志)と佐藤刑事(堀北幸夫)が、本署に異常はないと知り、喜んでいたが、次の瞬間、呼子の音に気づき、2人が現場に駆けつけると、驚きの表情になる。

その直後、本部刑事課に、松川、溝部の両刑事が殉職したとの電話が入る。

通信係はただちに、西沢刑事課長(寺島貢)に報告、西沢刑事課長は、第三非常線を張るように命じる。

現場に駆けつけた西沢刑事課長は、路面に横たわる二名の死体と、そこに呆然と立ち尽くしていた安井、佐藤両刑事、そして義眼が1つ落ちているのを発見する。

翌日からの新聞には、「敏腕の二刑事謎の殉職 犯人は義眼の男?遺棄された義眼!」「謎深まる刑事殉職事件! 当局必死の捜索網展開」「けふ殉職二刑事の警察葬 故松川氏に異例の特進」などと次々に報じられる。

両者の警察葬に、一人の風采の上がらぬ男が焼香にやって来る。

多羅尾伴内(片岡千恵蔵)という弁護士であった。

その後、警察の科研に、京南大学の小岩井博士の教室で犯罪学を学んでいる小村という男(片岡千恵蔵)が訪れて来る。

彼は研究の参考の為にと称して、事件の詳細を係員から聞き出して行く。

注目すべきは、松川刑事が死ぬ間際に「××デパート」というダイイングメッセージを地面に書き残していたという話であった。

「××」の部分はうっかり駆けつけた佐藤刑事に踏み消されてしまい判読できなかったという。

凶器はブローニング32年型と三寸のナイフ。

事件現場のガード下に残っていた轍の後から推測して、トラックの前に出た溝部、松川両刑事は、運転台から降りて来た人物の両側から近づくが、その時、荷台に隠れていた2名がそれぞれ銃を発砲し、両刑事を倒した後、地面に降りた1人が、ナイフで松川刑事の右脇腹を刺したと言うことらしかった。

2人の刑事の体内から取り出された弾丸が、同じブローニングながら明らかに違っていたからだった。

現場に落ちていた義眼を見せてもらった小村と言う男は、文字が書かれた地面を写した事件現場写真をもらって帰る。

新聞には「刑事殺しの新容疑者逮捕!」「証拠薄弱 容疑者釈放さる」「刑事殺し 終に迷宮入る ガード下怪死事件」などと書かれて行く。

小村=多羅尾=藤村大造は、帰宅後、自宅の壁にかけた松川の遺影と、鑑識からもらって来た事件現場の地面に書かれた松川の最後の文字の写真を見ながら、

松川さん、私はあなたが最後に書かれたこの文字を手掛かりに全市のデパートをくまなく探りました。その間に一月と言う日が経ち、春は今たけなわです。

私はあらゆる角度から推理し観察し、そして全力を尽くしました。にも拘らず、事件は終に迷宮入りしました。

今や私にはただ一つ、天来の声を待つより道はありません。しかして、その天来の声を御与え下さるのは松川さん、あなたです!あなたより他にないのです。

ただ、多羅尾伴内…、否、藤村大造が真人間に復活したのはあなたの御力でした。

かつて「紳士怪盗」として全日本を騒がせていた藤村大造が正義と真実の人となりましたのは、あなたの他なりません。以来、あらゆる場合に、あなたは私の守護神であり、また私の力の源泉でもありました。困難の壁が行く手を阻むとき、私はいつもあなたのことを考えました。すると、その壁がたちどころに打ち砕かれ、解決の糸口が発見されるのです。

歌姫誘拐事件、知事候補者冤罪事件も、それ故に私の勝利に期しました。しかるに、当のあなたが犠牲になられたこの事件では、後一つの天来の声は私の脳裏にひらめかないのです。残念です…と藤村大造は嘆く。

その時、部屋の外から物音が聞こえ、それに気づいた藤村は驚き、導かれるように音がした部屋に向かってみると、その部屋の棚の上に積んであった新聞の束が、重しとともに床に落ちているではないか。

その新聞に目をやると「デパート」の文字が見えたので、重しをどけて良く確認すると、そこには「歓楽のデパート」の広告が載っていた。

これぞ「天来の声」であった。

その後、「歓楽のデパート」と銘打たれた6階建てのビル「ユニオンガーデン」に、アイパッチをした無骨な男(片岡千恵蔵)が現れ、あれこれホステスの飯島まゆみ(由利みさを)にビル内の事情を聞きはじめる。

2階はホール、3階は玉突き、麻雀、4階はこの店の事務所、5階は良く知らないが、貸し事務室になっていると聞いたとまゆみは言う。

地下室は?とアイパッチの男が聞くと、自分はここに来て20日ばかりにしかならないので、良く知らないとまゆみ答える。

その時、ウクレレを弾きながら唄う男装の女性歌手と、ギターで伴奏する同じく男装の女性小柳ミチ(美奈川麗子)の2人の流しがやって来たので、歌は良いぜとアイパッチの男が金を差し出すと、バカにしないでよ、ものもらいじゃないんだ!とウクレレを弾いていたルリ(奈良光枝)が文句を言う。

そうかい?じゃあ、耳障りだからあっちに行ってくれとアイパッチの男が頼むと、行かないでさ、ふん!と膨れて立ち去りかけた2人だったが、そんなルリに、聞いてやるよと声をかけて来た与太者風の男客宮崎政吉(水原洋一)たちがいた。

悪いけど、あたいたちは堅気のお客さん相手の商売なのよとルリ子が断ると、政吉は、なるほどね、じゃあ、そこにいる片目の男、あれは堅気かい?とチンピラたちが聞いて来る。

言っちゃあ悪いけど、堅気の端くれよとルリ子が答えると、じゃあ、俺も堅気の端くれだと政吉も笑いかけ、いきなりルリの手を引いて、自分の膝の上に座らせると、嫌がるルリにちょっかいを出し始める。

すると、ビールを飲みかけていたアイパッチの男が席を立ち、政吉の側に来ると、飲みかけのビールを相手の顔に引っ掻け席に戻る。

与太者グループは黙って立ち上がり、アイパッチの男の方に近づいて来て、若いのがビール瓶をテーブルに叩き付けたのをきっかけに、アイパッチの男は与太者たちと大立ち回りを始める。

政吉がナイフを取り出すが、アイパッチの男は、騒ぎを聞きつけ、用心棒の伊勢川小鉄(村田宏寿)と共に店内に入って来た支配人馬場壮吉(上代勇吉)の胸に、手をひねった状態のまま政吉を投げつける。

アイパッチの男はテーブルに金を置くと外に出て行くが、その後に付いて入口を出た小鉄は、おい待て!道が違うだろう?お前さんが行くのはこっちだと声をかける。

階段を上りかけていたアイパッチの男が、それはどう言う意味だね?と聞くと、この用心棒の伊勢川小鉄は、自分の縄張りの中で勝手な真似をされたくないのさ。この気持ちはお前さんにも分かるだろう?と言いながら、それまでかけていたメガネを外す。

分からねえ事もねえ…とアイパッチに男が答えると、じゃあ、二度とここには顔を見せないようにしてくれよねと小鉄は頼む。

そうしてえが、俺と言う男は気まぐれもので、こうと思ったら矢も盾も堪らねえ性分だ。つい弾みで顔をのぞかせたらどうなるね?とアイパッチの男が聞くと、何、そんなことはあるめいさ。お前さんほどの男が、そんな軽はずみなことをするはずがねえよ

なるほどね〜…、後味の良いご挨拶だ。伊瀬川さん、近づきの印に手を貸して下さるかね?と言いながら、アイパッチの男が手を差し出すと、いいともと言いながら握手に応じた小鉄だったが、手をに握られた途端、痛いと呻く。

こんなつまらねえ男だが、何かの御役に立ちませんかね?とアイパッチの男は笑いかける。

帰れ!と小鉄に言われたアイパッチの男は、そうかい、あばよ!と言って店を出て行く。

そんなアイパッチの男の様子をずっと眺めていたルリは、小鉄に近づくと、良い気っ風じゃないのと去って行った男の方を観ながら話しかける。

しかし、小鉄は、バカ言えと言うと、メガネをかけ、紳士風に戻ると去って行く。

店の中に戻った小鉄は、やられた与太者たちに、馬鹿野郎!何でおとなしく飲めないんだ!と叱りつける。

そして、まだ床に伸びていた男に、起きろと助け起こそうとするが、床に広がる血だ黙りを観た小鉄は思わず身を引く。

他の与太者たちも、異変に気づくと騒ぎ始めるが、そんな中、まゆみは人目をはばかるようにそっと二階へと上がって行く。

支配人の清島が洗面所で手を洗っていると、上がって来たまゆみがそこにいた戸川タマキ(喜多川千鶴)に、人が殺されたわ。殺人よ!と告げたので、何!と驚いて出て来ると、誰が一体殺されたんだ?とまゆみに詰問する。

「歓楽場の殺人 争論の末、片目の男の凶行?」と新聞に記事が載る。

その記事を自宅で読んだ多羅尾伴内こと藤村大造は、争論の末、片目の男の凶行?フン!つまり、わしが犯人と言う訳だな…と苦笑する。

ある1人の男が偶然の機会を利用して殺人を行った。その手口の大胆性、機敏性から推すと加害者は尋常一様の男ではない。少なくとも殺人についてはある程度の経験を積んだものでなければならん。では動機は?真犯人は?そう呟いていた多羅尾は、またもや、壁にかかっていた松川刑事の写真を見る。

松川さん、あなたが御与え下さいました天来の声は、あの「ユニオンガーデン」が謎の伏魔殿と言うことです。解決の鍵はあの歓楽場にあるのです。糸口はあの歓楽場からほぐれて来ましょう…、そう藤村大蔵は1人呟くのだった。

喫茶店でレコードを聴いていた流しの2人に、みっちゃん!砂糖あるかね?いつもの量で良いんだがねと聞いて来たのは、店の主人(牧龍介)だった。

すると、ミチは、OK!明日の晩にでも届けるわと快諾する。

喜んだ主人は、だが、お前さん方、豪勢だな〜、いつ、何を頼んでもないと言った試しがないからさ。一体どこに手づるがあるんだい?と聞くが、そんなこと、聞きっこなしにしましょうよ。だってあなたはお砂糖さえ、手に入れば良いんでしょう?とミチはとぼける。

ねえと同意を得ようとミチは相方を見るが、ルリは何故か暗い顔をしていた。

ルリちゃん、どうしたの?ルリ公!と呼びかけると、どうもしない、何でもないのさとルリは答える。

だけど捕まるかしら?と言うので、誰の事?とミチが聞くと、昨夜の片目の男…とルリ子は答える。

気になるの?と悦子が笑うと、ううん、捕まったら良い気味だと思うのよとルリは言う。

その頃、「ユニオンガーデン寄宿舎」から出勤するため出て来た戸川タマキは、それじゃあ、その片目の男は凶器らしいものは何も持ってなかったのね?と一緒に「ユニオンガーデン」に行く飯島まゆみに聞く。

確かに持ってなかったわ。終始素手よとまゆみは答える。

では、あなたの見込みではその男は犯人ではない?とタマキが言うと、ええ、絶対にそうよ。犯人は他にあるわとまゆみは答える。

殺された男に付いて何か思い当たることはないの?とタマキが聞くと、愛ちゃんの彼氏だったので詳しいことは分からないけど、俺はこのサロンではどんなことでも出来るって威張っていたわまゆみは言う。

伊勢川さんは、それについて何にもおっしゃらなかった?とタマキが聞くと、ええ、ただおとなしく飲めって、それだけよとまゆみは言う。

不思議ね〜。そう言えば、伊勢川さんも支配人も警察の方には、さも犯人は片目の男であるように警告したって言うし…、ねえまゆみさん、私たちは来る客を目標に雇われたんだけど、これからは、もっと違う方面に目を付けなくちゃ行けないんじゃない?例えば…とタマキが話しながら歩いていた時、急に車が横付けして来たので、まゆみは慌てて轢かれそうになったタマキを停める。

車から顔をのぞかせ、今から出勤かね?と声をかけて来たのは、支配人の清島だった。

伊勢側を探しているんだが、寄宿舎の方で観なかったかね?と言うので、ぎん子さんの部屋でお声がしていたようですけど…とタマキが教えると、案の定だと舌打ちした清川は、やりたまえと運転手に命じ、車が走り出す。

まゆみさん、例えばあれよ…、走り去る車を観ながら、タマキはそう話す。

一方、走り出した車の後部座席から振り返っていた黒めがねの男が、あの背の高い方の女は何と言うんだね?と聞くので、戸川タマキです。うちの方に来て間がないのに、No.1の売れっ子ですと清川は答えていた。

その後、「ユニオンガーデン」のフロアでは、タマキが客の相手をして踊っていた。

そんな店にエレベーターでやって来たのは、いかにもきざっぽい紳士だった。

受付で、50枚だと言って札束を先に払ったので、それに気づいたボーイ(越川一)がフロアに案内すると、勝手に空いていた席に座った紳士は、水だ!琥珀の水、ビールだよとボーイに注文する。

そして、いきなりマジックで手の中に札を出してみせると、ボーイにチップとして与える。

そんな紳士のテーブルに、伊勢川小鉄に促されて川田ぎん子(丸山英子)と三村不二子(ルリ・青島)と言う2人のホステスが来ると相手をし始める。

御踊りになるんでしょう?とぎん子が聞くと、僕はライオンと踊ったことも、白孔雀と踊ったこともあるよなどと紳士は言う。

ホステス2人がそれぞれ名乗ると、僕の知っているサーカスに不二子と言う雌のライオンがいたがねなどと紳士が言うので、不二子はまあと呆れる。

紳士はそんなホステスたちに、1+1は?等といきなり聞き出す。

2でしょう?とぎん子が答えると、じゃあ、0に0を足すと?と紳士は聞くので、0よとぎん子が答えると、ところがさにあらず、ここに0がと右手を拡げ、もう一つ0がと左手を拡げ、両方を足すとと言いながら、両手を合わせて、そっと開くと、中から札が出て来たので、ぎん子は、まあ!巧いのね!と喜ぶ。

金をもらったぎん子は、フロアで踊っていた白いドレスの女は誰かね?と聞かれ、戸川タマキと教える。

紳士が立ち上がったので、御相手しますわと不二子が立ち上がると、僕はライオンより孔雀の方が踊り易いのでねと嫌味を言い、座っていたタマキ相手に踊り始める。

残されたぎん子や不二子に気兼ねしたタマキは、どうして皆さんと御踊りにならなかったの?と聞くが、紳士は何も答えない。

やがて、つまらん!と言い、タマキを押しのけた紳士は、どうなさいました?と近づいたボーイにも、つまらんよと文句を言うので、小鉄が近づき、自分は伊勢川小鉄と言う取締役だと名乗ると、何か御気に触ったようで?と聞くと、押川広吉と名乗った紳士は、気に触りはしないが、ここには何があるのかね?女と酒と踊りと音楽、実につまらんじゃないかと理不尽な文句を言う。

すると一体、何をお望みなんでございますか?と小鉄が聞くと、刺激だよ、素晴らしい刺激!歓楽のデパートに他に刺激はないのかね?と押川は言う。

すると、ございますと答えた小鉄は、ご案内しましょうと、ボーイを呼び、押川をどこかに連れて行く。

その様子を、椅子に腰掛けていたタマキは不安そうに見守っていた。

サロンのステージでは、ルリとミチの流しコンビが歌を披露していたが、そこに案内されて来た押川は、ボーイと小鉄に連れられさらに奥へと進む。

その直後、何かを思いついたかのような表情になったルリは、歌の途中だったにも拘らず、押川と小鉄の後を追いかける。

ボーイは、奥の廊下の付き当たりにある秘密めいた扉をノックする。

すると、小窓が開き、男がボーイの顔を確認して扉を開ける。

そんな様子をルリが背後からそっと覗いていた。

そこは賭博場だった。

面白そうだねと小鉄に答えた押川は、早速ルーレットの「1」に金を張り始めるが、その度に「1」が当たり、勝って賭ける金額がどんどん増えて行くので、その度に舌打ちをしていた押川は、又、つまらん!と言い、良い目が出ましておめでとうございますとお愛想を言う小鉄に、何がめでたいんだ!止したまえ!金と言うものは無限だよ。無限の金が押川広吉の廻りを十重二十重と取り囲んでいるんだ。なんだこれっぽっちの金、良かったら君、取りたまえ!と言って儲けた金を小鉄に押し付けると、ルリがそこにいるのに気づきながらも、知らん振りをして出て行ってしまう。

気になるルリは、押川の後を追って行くが、押川は既にエレベーターに乗って上がってしまっていた。

エレベーター係が2階でございますか?と聞くと、押川は、否、5階と答える。

5階で降りた押川は、「合資会社 福徳商会」と書かれたドアを開いて勝手に入ると、そこにいた3人から、君は?と聞かれると、押川広吉、札で十重二十重に取り囲まれている不幸な男とキザに自己紹介する。

用事は?と聞かれた押川は、売り物、手品師と答え、しかもそれは素晴らしい天才と売り込む。

君、ここは職業紹介所じゃないよ、商社だと言われた押川は、分かっているよ。しかし、商社、商社と言って、一体君たちは何を売って儲けるんだい?と聞く。

無論、金だよと1人が答えると、だから僕は手品を…と言うと、手から札を出してみせるが、黒めがねをかけた男が、止せ!出て行きたまえ!と立ち上がったので、ああ、そう…と言って押川は部屋を出る。

押川が出て行くと、何だいあれは?気印だろうなどと3人は噂し合い、話の続きを始める。

戸川タマキの身元を調査して欲しいんだと黒めがねの男が言う。

その頃、一緒に帰りかけていたミチに、私戻るわと言い残して、店に戻ろうとしたルリは、階段を降りて来た押川と出会い、その押川が、チップを100枚も買うのを観る。

その100枚のチップを戸川タマキに、さっきは失礼と言いながら渡した押川は、明日僕とドライブに行かない?と誘う。

そんな押川の様子を、ルリはじっと見つめていた。

翌日、押川はオープンカーで、タマキとまゆみを乗せ、ドライブに出かけていた。

それをタクシーで尾行するルリは、湖でボートに乗る3人の様子も車の中から観察していた。

ボートの中で、真顔になった押川は、ふっと今、逆の心理を考えましてねと言い出す。

例えば、今の場合ですな、ここには春の日差しが燦々と輝いている。辺りには無数の目が光っている。特にある自動車の中には、僕を凝視して止まぬ眼があるのです。

つまり、逆の心理ですな。ここは秘密を語るには絶好の場所じゃないでしょうかと押川は笑う。

でも、私たちには秘密などございませんわとタマキは答えるが、無論でしょう。でもとにかく、ここでは何を口にしても良いのです。例えば、戸川タマキが、亡き松川警部の長女フミ子で、飯島まゆみが溝部刑事の妹ケイ子であると言うようなことも…と押川は言い出す。

それを聞いた2人は、あなたはどなたです?と警戒する。

その後、タマキとまゆみを乗せ車で帰って来た押川は、その車を降り、2人を車で送らせると、後から追って来た車に乗っていたルリに近づき、山猫さん、送りましょうか?と話しかけたので、ルリは、バカにしないで!と怒り、車を出発させる。

一方、車で送られていたタマキは、途中で、ここで良いと運転手に声をかけ、まゆみと共に車を降りる。

そんな2人を見かけた男が、2人の後を尾行し始める。

タマキとまゆみが人目を忍んで入っていた家の表札には「松川」とあり、後から付けて来た男はそれを確認する。

三女(柳恵美子)と共に仏壇に手を合わせたタマキは、お父様、あなた、藤村さんと言う方をご存知なのね?藤村さんは、信用しても良いお方なんでしょう?と遺影に向かって語りかける。

一方、喫茶店のミチの元に帰って来たルリは、どこに行ってたの?どうしたのよ?何かあったの?と聞かれても、何でもないのよ、でも私、今夜も踊るよとだけ答える。

その夜、「ユニオンガーデン」にやって来た押川はボーイに、伊勢川君はいるかね?と聞き、後で良いと伝えると、タマキに声をかけられるが、そこにドレス姿で待っていたルリの方に踊るかね?と誘う。

ルリはそんな押川に、お話があるんだけどと言い出す。

一方、取り残されたタマキに、御願い出来ますか?と声をかけて来たのは黒めがねの男だった。

あたいはあんたの正体知ってるよとルリは押川に告げる。

どんな正体?と押川が聞くと、あんたは片目の男よとルリは言う。

それから?と聞くとそれだけと言うので、それで、いくら欲しいの?と押川が鷹揚に笑うと、お金なんかいらないわ。ただ、タマキさんとあまり仲良くしないで欲しいのと言うので、嫌だと言ったらと押川は聞く。

小鉄に言いつけるわとルリが言うので、なるほど、その小鉄ならあそこにいるよ。行きたまえ!と押川はルリを背中を押してやる。

何で商売に行かないんだ?とルリに文句を言った小鉄だったが、用か?と聞くと、寒川喫茶店がいつもの量だけ欲しいと言ってたわと別の話をルリはする。

そのことはちゃんと手配済みだよと小鉄は答え、押川に気づくと挨拶をする。

押川は、支配人はいるかね?折り入って話があるのだが…と言うので、小鉄が案内することにする。

そんな押川のことを、フロアで踊っていたタマキもルリも、気になるように見つめていた。

ちょうど裏階段を降りて来た支配人の馬場壮吉を小鉄が紹介すると、昨日の上がりをあなたは銀行へ預けましたか?と押川は聞く。

馬場がはいと答えると、それについて銀行は何も言いませんでしたか?と押川は聞く。

どう言うことでしょう?と馬場がいぶかしがると、一部の紙幣に付いて何か…と押川は笑う。

言うはずがないでしょう。みんな正真正銘の…と馬場が言いかけると、突然、しめた!と押川が言う。

物は相談ですが、あなた方も大富豪になりたい夢はおありでしょう?例えば僕のように、十重二十重の札束に取り囲まれる、そう言う身分になりたいとは思いませんか?と押川は言う。

話をもっと具体的に願いたいですなと馬場が答えると、つまり…、贋造紙幣!と押川は小声で言うので、聞いていた馬場と小鉄は驚く。

つまり、夕べ僕が使った金の中に試験的に3枚の贋造紙幣を入れておいたんですがと押川が言うと、この野郎!と小鉄が凄んだので、まあ君、何も善人ぶることはないじゃないか。僕が贋金師なら、君だって手荒いこともやる君も闇屋じゃないかと押川はなだめる。

こう言った所で、君たちは実態を観ないと信用しないでしょう。この名刺をあげときますから、君たちの都合の良い時に来てくれたまえ。それから、念のために言い添えておきますが、僕は伊達や酔狂で君たちの千万長者にするんじゃないですよ。こちらにも二つの条件があると押川は言う。

それは?と馬場が聞くと、後日、言いましょうと言い、押川は去って行く。

後日、押川の屋敷にやって来た小鉄は、仲間が例のものを観て来いと言うんでねと挨拶をする。

屋敷の中に小鉄を招き入れた押川は、前もって僕の条件を言っておきたいのだが、まず持って結社への加盟と言い出す。

結社とは?と小鉄が聞くと、君たちが作っている団体さ。そこに僕を加えることと押川は答え、それから、ある1人の男をこの世から葬ることと押川は言う。

それは誰だね?と小鉄が聞くと、刑事課長の西沢だ。僕はあいつには恨みがあるんだ。どうだね?と押川が言うので、俺の一存では何とも言えねえ。仲間のみんなで決めることだと小鉄は答える。

しかし、おおよその見当は君にもつくだろう?仲間が僕の条件を入れるかどうか?と押川が聞くと、無論、異存はないと思うがねと小鉄は答え、それより先に、例のものを見せてもらいたいと言うと、押川はすぐに部屋の中に入れると、ちょうど掏り立てと言う100円紙幣を小鉄に渡し、仲間に見せたまえと言う。

小鉄がその紙幣を疑いぶかそうに確認していると、どうやら、まだ本当には出来ないようだな?君のその不審は、石田巌流が証明してみせるよ。第一映画劇場の横で店を出している占い師だがね、こいつは贋造の先輩で大した目利きだよと押川は言う。

その夜、和服姿になった小鉄は、外で店を出していた石田巌流の元に来ると、押川から預かって来た紙幣を見せる。

これは良くできているが、作者はお前さんかなと言う巌流は、そう言えば、お前さんの顔には福相がある。ひょっとするとお前さんは大金持ちになるかもしれんと拡大鏡を覗きながら言う。

しかし、倉本万吉と言う男にだけは気をつけなされや。そいつはお前さんを破滅に導くただ1人の奴じゃ。たかが露天の万年筆売りじゃが、こいつが大した目利きで、昔わしを贋造で刑務所に送ったのもこいつじゃと巌流が言う。

その倉本が店を出すと言う縁日にやって来た小鉄は、万年筆を売っていた倉本から30円で万年筆を買うと、偽札を出してみる。

ピン札だね?こういうに危ないのがあるんだと紙幣を観察し始めた倉本は、失礼しやしたと詫びると、釣り銭を出す。

その後、再び押川邸を訪れた小鉄は、仲間一党が相談の結果、君の申し入れを承知することに決まったよと伝える。

それはありがたいと喜ぶ押川に、こちらにも一つ条件があると小鉄は言い、入団には2人の証人がいるんだと言う。

なるほど、まさかの時の人質だね?とすぐに察した押川は、ある。いつ入団出来るんだ?と聞く。

今夜、ガーデンの地下室、7時と小鉄が言うと、宜しいと承知して小鉄を送り出した押川は、タマキとまゆみが壁越しに会話を聞いていたと也の部屋に来ると、変装用の付け髭を外し、藤村大造の姿に戻ると、壁にかけた松川刑事の写真に向かい、松川さん、第二の段階に進みました。あなたの54年の生涯は、社会の公敵を葬る為に捧げられました。僭越ながら、私、藤村大造も、あなたの正義と真実を我が心とし、この身を社会の安寧の為に捧げるものであります。どうか、松川さん、溝部君、私のこの覚悟に免じて、御愛嬢と後令妹を私に御預け下さいまし。御願いしますと頭を下げる。

そして、タマキとまゆみには、お聞き及びの通り、事態は急転しました。事件の解決の為には、あなた方にも冒険と死の段階を踏んで頂かねばなりませんと藤村は頼む。

ええ、もとよりそれは覚悟していますけど、具体的にはどうするんです?とタマキが聞く。

つまり、敵の腹中に入る。彼らの結社に加盟して、直接証拠を握るのです!と藤村が説明すると、それはいつからですの?とまゆみが聞く。

今夜です。今夜我々の入団式が行われますと藤村は言う。

その場所は?とタマキが聞くと、「ユニオンガーデン」の地下室、時間は?と聞くと、深夜1時ですと藤村は答える。

タマキは父の遺影に近づくと、お父様!あたし、あなたの子供よ。戦いますわ!と決意を述べる。

深夜、無人になった「ユニオンガーデン」

地下室には、マスクをかぶった7人の男がテーブルについていた。

1人が腕時計を観ると1時3分前。

そこに、押川とタマキとまゆみが一緒にやって来る。

部屋の外にはミチと共にルリもおり、タマキの姿を観ると睨みつける。

テーブル中央に座っていたマスクの男清島了助(斎藤達雄)は、押川と一緒に部屋に入ってきたタマキとまゆみの姿を観ると驚いたようだった。

清島は、押川広吉、念のために確認するが、今でも入団の意志に変わりはないか?と、椅子に腰掛けた押川に聞く。

押川が、ありませんと答えると、商人はどうだと言うので、タマキもございませんと答える。

では、あらゆる場合に団の規約を守らねばならぬが、それを制約出来るか?と男は迫る。

押川と証人役のタマキは、できます。御誓いしますと答える。

良し!と答え、男たちが全員立ち上がると、我々はお前のもう一つの条件を果たす為に別室において、西沢刑事部長殺害について協議する。その間、1歩も席を離れてはいかん。良いか?違反すれば死のリンチだ!分かったか?と清島は言い、はいと押川が答えるのを聞くと、マスクをした男たちは全員部屋を出て行く。

男たちはエレベーターに乗って上に上がって行く。

立ち上がった押川は、部屋の二つの扉に鍵がかかっていることを確認する。

7人の男…、十三の眼か…と押川は呟く。

十三の眼ですって?とタマキが驚くと、首領の左の眼は入れ目ですよと押川は言う。

ルリとミチが待機していた5階の「福富商会」の部屋にやって来た清島は、ばかやろう!何故引っ張り込んで来た!と急に小鉄を叱りつける。

戸惑う小鉄に、あの2人の証人を観ろ!あれは松川と溝部の肉親だぞ!と清島は言う。

俺が調べたんだ、1人は松川の長女フミ子で、もう1人が溝部刑事の妹ケイ子だと、以前2人を尾行した男が小鉄に告げる。

すると、あの男は?と他の男が言い出し、清島は、畜生!と言うと部屋を出て行く。

隣の部屋に入り、カーテンを開くと、そこには電源スイッチが並んでおり、清島はその一つのスイッチを入れる。

すると、押川等が待っていた地下室の扉が二重に閉まり始める。

高い場所に着いていた窓にも蓋が閉まる。

やがて、天井が静かに降りて来る。

死体の後始末を考えとかなくてはいけねえなと「福徳商会」の中では、清島がソファで煙草をくゆらし呟いていた。

その部屋の隅では、ルリとミチが沈み込んでいた。

何か歌わんか?歌と言うのはこういう時に歌うんだぜと清島はルリに向かって言う。

地下室では、タマキとまゆみが、藤村さん!としがみついていた。

悩んでいたルリは部屋を飛び出すと、隣の電源スイッチを切ろうとする。

2つのスイッチを切った直後、ルリは小鉄に銃で撃たれる。

何するのよ!と隣室に駆け込んで抗議したミチも、支配人の馬場の銃弾に倒れる。

地下室では吊り天井が停まり、扉も開いたので、チャンスだ!と叫んだ押川こと藤村大造が外に飛び出し、銃声が轟く。

清島は、もう1度2つの電源スイッチを入れ直す。

地下室は、落下して来た天井によって押しつぶされる。

眼帯の男は、小鉄たち2人に様子を観に行かせるが、エレベーターに乗り込もうと下2人は故障と気づき。階段に向かうが、その時、下から上がって来る足音に気づき、清島たちに知らせに戻る。

足音は接近して来て「福徳商会」の外で止まり、扉にソフト帽をかぶった男のシルエットが写ったので、清島が誰だ!と呼びかけると、地獄から蘇った七つの顔の男…、押川広吉。本名、藤村大造だ!と言いながら、二丁拳銃を構えた藤村が部屋に入って来る。

隣室では、撃たれたルリがテーブルを支えに必死に起き上がろうとしていた。

まず持って言っとくが、俺は偽札作りじゃねえ。使った金は全部正真正銘の代物だ。今の藤村大造は堅気だよ。最も昔をたどってみれば俺にも後ろ暗い所はある。そのよしみで言うが、どうだお前たち、おとなしく自首しないか?と藤村は言う。

何の為に自首をするんだ?清島が聞くと、まず、今夜の殺人未遂事件。過日の政吉殺し、さらに迷宮入りの4つの殺人強盗事件…と罪名は色々あるが、俺が勘ぐるのは松川、溝辺両刑事殺しだ!

あの夜、お前たちは三共商事の倉庫を襲った。そして、盗んだ砂糖を積んであのガード下にかかったのが2時45分…と藤村は語る。

証拠があるか?と清島が聞くと、証拠は私です!と声がし、転がり込んで来たルミが、2人の刑事を殺したのは同じ拳銃の弾…と言った所で倒れる。

しばしにらみ合いの時間が過ぎた後、1人の男が銃を取り出そうとしたので、藤村が発砲し銃を弾き飛ばし、天井の電燈を撃って割ると、両者の撃ち合いが始まる。

その頃、近くの交番にはまゆみが駆け込んでいた。

悪党たちは発砲しながら逃げようとしていたが、次々に藤村の発砲で銃を弾き飛ばされていた。

まゆみからの急報を聞いた警官は、本部刑事課に緊急連絡をしていた。

悪党共は、発砲しながら階段を降りて行き、藤村が応戦しながらそれを追う。

緊急指令、「ユニオンガーデン」に急行せよ!と西沢刑事部長が指令を出す。

賊を追っていた藤村の銃が二丁とも弾切れになる。

階下から清島が発砲すると、それを受けたのか、藤村が階段を転げ落ち、倒れる。

とどめを刺そうと、清島が階段を登って来て、倒れていた藤村に銃を突きつけたとき、藤村はその銃を弾き飛ばし、両者は取っ組み合いになる。

2人は組み合ったまま階段を落ちて行く。

迫る警官隊。

さしもの藤村も体力の限界に近づいていた。

最後の力を振り絞り、藤村は、清島の左目を殴りつけ、義眼を壊すと、右目も殴りつける。

馬場たちが下の階にやって来ると、そこには銃を構えたタマキが待ち受けていた。

その時、警官部隊が到着し、一緒に建物に入って来たまゆみは、そこにいたタマキとしっかり抱き合う。

タマキとまゆみは警官隊を引き連れ階段を駆け上がる。

そこには清島がふらつきながらたち上がっていたので、警官が確保する。

さらに上に駆け上がったタマキとまゆみは、倒れたルリとミチの身体を調べていた藤村を発見する。

立ち上がった藤村は、どちらもまだ脈があります。御願いしますと警官隊に伝える。

警官たちは、ルリとミチの身体をそっと運び出して行く。

あの2人は我々を救おうとして一味の凶弾に倒れたのです。どうか、あなた方の真心で、元の身体にして挙げて下さいと藤村はタマキとまゆみに言う。

はいと2人が頷くと、しかし、お手柄でしたな。松川さんも溝部さんも喜んでおられましょうと言いながら、煙草に火を点けると、あなたのお陰ですわ。みんなあなたのお力、あなたのお手柄ですわとタマキは感謝する。

いや、僕は当然なすべきことをなしただけです。その言葉、2人の女性に送られるべきでしょうと微笑む。

立ち去ろうとする藤村に、どちらへ?とタマキが問いかけると、巷へ…と言うので、いいえ、いけません。あなたの過去は償われていますわとタマキは止めようとするが、否、償いは無限ですよ、僕の生のある限り…、犯罪と不正のある限り、僕の償い、僕の戦いは続くのです。暗き巷に友なく一粒の麦が枯れたり、一粒の麦死なずば夜の帳は開かれざるべし…、そう言い残し、ソフト帽のつばを引き下ろした藤村は、非常階段を下りて出て行く。

その後を追って、藤村さん!と呼びかけるタマキとまゆみ。

藤村さん、又お目にかかれますわね?とタマキが問いかけると、まゆみも、きっとお目にかかれますわね?と呼びかけると、その日までごきげんよう!と笑顔で手を振る藤村大造は、静かに階段を降りて行くのだった。