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忍術三妖傳(自来也)

戦前の作品で上映時間1時間程度(戦前の作品なので、カットされている可能性も高い)だが、音声付きである。

元々のタイトルは「自来也」で、「忍術三妖傳」と言うのは改題。

お馴染み、忍術使い児雷也の物語で、目玉の松ちゃんこと尾上松之助主演、牧野省三監督「豪傑児雷也」(1921)などの忍術ものを、監督の息子であるマキノ正博氏が再映画化したものらしい。

主人公で蝦蟇を操る忍術使い自来也は、蛇を操る大蛇丸に弱く、大蛇丸はナメクジを操る綱手姫に弱く、綱手姫は自来也に弱い…と言った、ジャンケンにも似た「三すくみの関係」が基本なのだが、この作品では、自来也が大蛇丸に弱いと言う描写がなく、「三すくみの関係」はきちんと描かれていない。

弱点がない自来也は強過ぎるので、作品自体にもサスペンス性のようなものは希薄。

主役を演じる若き御大片岡千恵蔵はなかなかイケメンで、かっこいいのだけれど、幻術を学んで有利になった自来也が、親の仇を一方的に嬲り殺し、子供の頃に嘲られた言葉をそのまま最後に投げ返し嘲笑すると言う、単調であるだけではなく、何となく後味の良くない復讐劇になっている。

後味が良くないのは、仇たちの悪行がきちんと描かれていない為だろう。

殺した相手の子供に情をかけて命を救ったばかりに身を滅ぼすと言う因果応報の話なのだが、最初の悪行の後、一挙に14年も時間が飛んでしまっているので、悪人たちを憎む気持ちが観客側に十分整わないうちに復讐が始まってしまう流れになっている。

いくら全体の尺が短いからとは言え、強引と言えば強引な展開と言うしかない。

まるで市川右太衛門の旗本退屈男のように、山育ちのはずの自来也は、どこでそんな金を手にしたのか?と首を傾げたくなるような豪華で華美な着物を来ているし、巧く聞き取れないほど難しく堅苦しい歌舞伎調のセリフを使うしで、最初の内は、これは見るのが辛いタイプの退屈な話かな?と危惧していたが、ツンデレ娘の綱手姫が登場して来る辺りから、話もぐっと砕けて来て、分かり易くなったので安心した。

さすが、マキノ監督、後半は単純な復讐活劇そのものなので、何も頭を使うようなことはなく、気軽に楽しめる展開になっている。

最初は自来也に対し、やけにツンツンしていた綱手姫が、ビンタをされると急にでれでれ状態になり、わざわざ同じ宿に泊まろうとするのが妙におかしい。

こういう男女の心理の面白さは、昔も今も変わらないと言うことかもしれない。

綱手姫に、いきなり、俺の女房になれと迫る大蛇丸も単刀直入で愉快。

これでは「三すくみ」ではなく「三角関係」になっている。

歌舞伎調の堅苦しい見栄や芝居はさすがに古めかしいが、卑近な表現は不滅である。

最終決戦で、忍術を使うヒロインと2人で協力し、敵を倒すと言うのは、「宇宙刑事物」などにも似たモダンな発想にも思える。

男勝りの女性戦士と言う着想が、元々歌舞伎にあったとは言え、今に通じる新しさがあるのだろう。

この作品、古風なトリック映画としても楽しめ、二重露光を使った消える忍術や、逆回転を使った忍術などはお馴染みだが、川の上を歩く表現は、「レモ 第1の挑戦」(1986)に登場した「シナンジュ」の術のようで面白い。

川の中、水面すれすれに板のような隠し橋を作っているのだろうが、後ろから追って来る役人どもが水に浸かっている姿との対比が愉快。

最後に登場する「大蝦蟇」は、さすがにただのハリボテにしか見えず、口の開閉が出来るだけで、動き回るようなことは出来ないが、当時の子供たちにとっては、こうした表現でもドキドキしたのではないだろうか。

戦後、「ゴジラ」をはじめとする何本かの怪獣映画に名優志村喬が出演しているのは有名だが、戦前から、こうしたトリック映画、ゲテモノ映画の類いに出ていたことは始めて知った。

「鴛鴦歌合戦」(1939)では歌も披露していたくらいだから、若い頃は、御大千恵蔵共々、何でもやっていたのだろう。

あくまでも、気軽に楽しめる通俗娯楽と割り切って楽しむ作品だと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1937年、日活京都、比佐芳武原作+脚本、マキノ正博監督作品。

馬に乗って、信州黒姫の地頭、更科の城にやって来る野武士のような一団。

彼らは、火矢を打込んで城に攻め込むと、城主更科輝隆(市川正二郎)と奥方を斬り捨て、彼らの息子たる若君太郎丸(宗春太郎)を誘拐して去って行く。

森の中に帰って来た野武士の1人五十嵐典膳(尾上華丈)は、肩に担いで連れて来た太郎丸に、良く聞け、童!御憐憫深く思し召されたる我らの御大将佐久間正盛(河部五郎)殿が、年端もゆかぬ貴様の死を観るに忍びずと仰せられると言う。

しかし、当の佐久間正盛は、命が助かると思うなよ。誰1人問うものもなく、簡略な住まいだ。この中で生きるも良し、死ぬも良しと嘲り、矢尾郡太夫(志村喬)も、叫ぶのじゃ、声の限り地の底で助けを呼ぶのじゃ。すれば、うぬの木霊が慰めようぞと笑う。

太郎丸は健気にも、父を返せ!母を返せ!と詰め寄るが、そのまま深い穴に蹴落とさせる。

泣け!叫べ!吼えろ!と穴の中に呼びかけ、若い出す野武士たち。

彼らが立ち去った後、穴の底で気絶していた太郎丸の前に、不思議な老人が出現する。

老人は、太郎丸の身体を抱えると、山の頂まで一瞬に運び上げる。

雲海

時は流れ、不思議な老人一夢仙人(香川良介)は成長した太郎丸(片岡千恵蔵)に、山家は不動にして十幾星霜、じゃが、漂い流れる雲にも似て下界は変わる。野武士の端くれ、五十嵐典膳は信州一円を領する黒姫の城主、矢尾郡太夫は富国を治め、大将佐久間正盛は今、京にある。

天網は疎にして漏らさず!応報はすなわち…、自ら来る也!と、教え聞かす。

自ら来る也…と太郎丸が復唱すると、姓既にある。早く行け!と一夢仙人は呼び掛け、はっ!と答えた太郎丸は印を切って姿を消す。

その夜、寝所で寝ていた五十嵐典膳の部屋の戸がひとりでに開き、御簾がひとりでに巻き上がる。

ふと目覚めた典膳は、布団の横にあった屏風に「自来也」の文字が浮き上がるのを見て驚く。

誰じゃ!と叫びながら起き上がった典膳は、畳の上に1匹のカエルがおり、騒ぎあるな、典膳殿!天上の一角から差し遣わされし1人の侍が、秋の夜のつれづれを慰めまいらんとして物語る一場、まず聞かれい!と人間の言葉をしゃべるので腰を抜かす。

何?と言いながら、カエルを捕まえようとした典膳だったが、気がつくと、背後に見知らぬ若者が座っているではないか。

時はこれ、今を去る14年前、場所はここ、信州黒姫。地頭、更科輝隆殿の館に一夜火をかけたる一味。輝隆殿、ご内儀と共に首を討たれて、無念の御最後!

一子、太郎丸は山の土牢に投げ込まれ、あえなく落命となる所を義人に救われ、その時、この無念を肝に銘じて幾星霜、一念凝って復讐の悪鬼となり、今宵この館に推参!

何!と刀を抜いた典膳は、自来也の姿が消え、持っていた刀が蛇に変じているのを観て狼狽する。

恐ろしくば泣け!叫べ!吼えろ!と怒鳴った自来也は、典膳に刃を振るう。

その時、うたた寝をしていた警護の家来たちも、全員身体をひっくり返され目覚める。

何ごとかと周囲を見渡していた家来たちは、殿が殺されたぞ!との言葉を聞き、慌てて部屋を飛び出して行く。

その直後、部屋には、高笑いする自来也が出現していた。

馬を走らせる使者が駆けつけたのは、矢尾郡太夫の城だった。

申してみい、典膳殿がいかがなされたのじゃ?と聞く郡太夫に、恐れながら、人払いを…と使者が言うので、その通りに、周囲に集まっていた家来たちを全員下がらせ、重ねて問いただすと、過ぐる日、雨の夜、おいたわしくも、はかなくお落命…と使者は告げる。

驚いて、何奴に殺されたのじゃ?と軍太夫が聞くと、面を上げた使者は、お見忘れでござるか軍太夫殿と言うではないか。

その使者こそ自来也だったのだ。

軍太夫は怯え、お前は誰じゃ!と問いながら、後ずさる。

信州黒姫の地頭、更科輝隆の一子太郎丸、成長して自来也!と答え立ち上がった自来也は、驚く軍太夫を前に、読んで字のごとし、悪果は自ら来る也!見ろ!と背後を指差す。

軍太夫は振り向くと、「自来也」と書かれた掛け軸が降りて来る。

驚いた軍太夫は、自来也に脇息を投げ、自分はどんでん返しの床に身を投じて逃げる。

床の底から、軍太夫のうめき声が聞こえ、自来也は、駆けつけた家来たちに囲まれる。

その後、逃げ延びた軍太夫は、京都所司代になっていたかつての賊の大将佐久間正盛に御注進に向かう。

一大事にございます。山の土牢に投げ込みし輝隆の一子太郎丸は生きておりますぞ。異名を自来也と申し、幻術を持って五十嵐典膳殿を殺害し、その使者と偽って不敵にも我が城内に推参。かろうじて逃げましたが、いずれは後を追ってこの地に参りますは必定でございますと軍太夫は報告する。

そんな館に忍び込んでいた忍者が、付け文を結んだ矢を柱に打込んで来る。

文を開いてみた軍太夫は、「神無月10日、寅の上刻、佐久間正盛殿のお命頂戴!」と、佐久間正盛の前でそれを読んでみせ、自来也でござる。奴の仕業に相違ございませんと伝える。

こしゃくな奴…と呻いた正盛は、ただちに都中に、「自来也を捕まえた者には莫大な褒賞を与える」と言う高札を立てる。

そんな中、路傍の石に腰を降ろしていた旅の若衆姿に身をやつした綱手姫(星玲子)にお供の男が、天の助けともうしましょうか、自来也とか申す者の仕業と思い誤られておりますので好都合でございますが、十分御気をつけ遊ばしますように…と、跪いて話していた。

もし油断して仕損じるようなことがあっては、10年の苦労も水の泡でございますと従者が念を押すと、立ち上がった綱手姫は、分かっておりますと答える。

心逸って、お討ち漏らし遊ばすようなことがなっては、正盛に討たれました亡き大殿様のご無念も…、そよ吹く風にもお心をお許し遊ばされませんように…と従者はくどいほど念を押す。

後を頼みますと従者に告げ、1人旅を続けることにした綱手姫は、先を行く若者に気づくと早足で側に近づき、いずれまでお出でなさいます?どこへ?京でございますか?旅は道連れと申しますから、お望みなら京まで…と話しかける。

すると、その若者、実は自来也は、聞こえますか?鳥がさえずっておりますな?と言い出し、あなたのおしゃべりより小鳥のさえずりの方が小うるさくなくて結構、先へ行かれたら宜しかろうと皮肉を言って来たので、綱手姫はむっとしてしまう。

先を歩いて関所にやって来た綱手姫は、役人からうるさくつきまとわれ、色々聞かれるので、聞こえますか?鳥がさえずっておりますな?あなたのおしゃべりより小鳥のさえずりの方が小うるさくないのがなりよりですと、先ほどの自来也の言葉を繰り返してからかう。

役人は怒って、綱手姫を捕まえようとしたので、綱手姫は抵抗するが、そこにやって来た自来也は、頼まれもしないのに役人たち相手に大立ち回りを始める。

やがて、術を使い、役人たちの動きを封ずると共に、綱手姫共々、姿を消す自来也。

役人たちは狼狽するが、気がつくと、近くの屋根の上に2人が現れたので騒ぎ出す。

しかし、屋根の上の綱手姫は、何故、手出しをなさいました?誰が助けて下されと申しました!と言うと、いきなり自来也にビンタをして来る。

3発殴られた自来也は、1発殴り返してその場を去るが、綱手姫はその場から姿を消すと、逃げるとは卑怯でござりまするぞ!などと言いながら自来也の後を追い、2人口喧嘩しながら川の上を渡る。

そんな2人に気づいた役人が後を追って来るが、術を使って川の上を歩く2人とは違い、普通の人間で敷かない役人たちはずぶずぶと川に身体がはまって行くばかり。

このケリをどうお付けなさります?としつこく聞いて来た綱手姫に、自来也は、ではかくの通り…と言うと、その場で綱手姫の頬を2度殴り、あなたが3つ、拙者が3つ!異存はござるまい!と言い残して先を急ぐ。

自来也が関所を破って、京に近づいたことを使者から聞いた佐久間正盛は驚き、一緒にいた矢尾郡太夫も諦め顔になる。

京に着いた自来也は、一軒の宿に入るが、同じ宿に、気まずそうに綱手姫も入って来る。

泊めてくれと自来也が頼むと、その宿に泊まっていたらしき1人の僧が、話次第で計らっても良いなどと言う。

後ろから入って来た綱手姫は、そんな僧の前に、小判を2枚投げて渡す。

結局、自来也と綱手姫は、同じ部屋で泊まることになる。

そんな2人の素性を怪しんだ僧は姿を消す。

彼も又、大蛇丸(瀬川路三郎)と言う忍術使いだったのである。

布団を2つ並べられた綱手姫は、バツが悪そうに、自分の分の布団を引っ張って、部屋の隅に敷き直す。

そして、座を外して頂きますと言い出したので、座していた自来也は、何故?と聞き返す。

しかし、綱手姫は恥ずかしそうにするだけで何も答えないので、では、こうすれば?と言った自来也は、部屋の中央部につい立てを出現させる。

これで異存なかろう?と声をかけた自来也の優しさを知った綱手姫は、嬉しそうに微笑む。

その時、宿の娘が帰って来るが、僧の姿が見えないことに気づく。

つい立ての陰で、着物を脱ぎかけていた綱手姫は、怪し気な人の気配を感じ緊張する。

姿を消しながら、綱手姫の部屋に近づきかけていた大蛇丸は、一旦、ネズミに姿を変え、ごまかす。

そんな中、自来也は深編み笠をかぶり、夜の京の町に出かけて行く。

夜回りをしていた役人たちは、そんな自来也に気づくが、捕まえようとするとあっさり姿を消されてしまう。

気がつくと、自来也の手配を書いた高札に、全て「自来也」と書かれた紙が貼付けられていた。

都中の高札に、一夜にして同じように自来也からの挑戦状が貼られていたことを知った佐久間正盛は、先の付け文に書かれてあった「神無月10日、寅の上刻」が間近に迫っていることに怯え出す。

宿に戻って来た自来也は、「神無月10日、寅の上刻、お命頂戴に参上!」と、人もあろうに前触れを致したのは自来也とか申す者らしい。ために、洛中は水も漏らさぬ配備、城内は蟻が入り込む隙もない…、バカなことをしたものだ…と、綱手姫に聞かせる。

復讐心に燃える綱手姫はこの言葉を聞き、悔し気な表情になる。

その後、高札には、自来也を捉えた者への報償額が500両と書かれるようになり、自来也は夜ごとに町にでて、役人を斬っては、又、高札に「自来也」の名を残して行く。

佐久間正盛は、既に神無月の9日になった事を知ると、手配は十分であろうな?と探索を厳しくしろと、軍太夫共々家臣たちに命じるしかなかった。

その頃、宿にいた綱手姫は、庭先に出て、何事かに憂いているようだった。

そして、自来也が来ると、今宵、ここを発とうと思いますと自ら話しかける。

それを聞いた自来也は、それで?わざわざ拙者に断りにも及びますまいと言って出かけて行く。

綱手姫は、この自来也の素っ気ない態度に一瞬顔を強張らせるが、又すぐに悩んだような顔になる。

そんな綱手姫の様子を、大蛇丸は密かに眺め、ほくそ笑んでいた。

その夜、大蛇丸は、1人打ち沈んで部屋に残っていた綱手姫の元にやって来ると、おれの目は節穴じゃあねえぜ。おめえは男ならぬ男だと言うことはとうの昔から知っているのだ。女だてらにあっぱれな術と言い、ただ者じゃねえだろう。ただ、そんなことはどうでも良いのだ。おい、俺の女房になれ!と言うと、綱手姫の手を掴んで来る。

綱手姫が手を振り払うと、魚心あれば水心だ。これでなかなか力になる男だぜと言いながら、大蛇丸は綱手姫に迫る。

その時、急に大蛇丸の頭に深編み笠がかぶせられ、大蛇丸は苦しみ出す。

大蛇丸が、その深編み笠をはぎ取って投げつけると、それは空中に留まり、自来也が部屋の中に出現する。

大蛇丸はそれでも悪びれず、一体どうする気だ?損をするのは、自来也とか言うお尋ね者の方だぜ。この女を俺に譲って…と、自来也を懐柔しようとするが、自来也は、出ろ!と告げる。

大蛇丸はおとなしく従い、表に出ると、自来也と剣と忍術との合戦を始める。

勝負は、自来也の優位に進み、大蛇丸は門の前で姿を消す。

自来也は、部屋から心配げに見ていた綱手姫の方を振り返り、にやりと笑うと、自分もまた、門の前で姿を消すのだった。

その後、大蛇丸は、厳重な警護に守られた城の中の佐久間正盛と矢尾郡太夫の前に姿を現す。

部屋に残っていた綱手姫は、帰って来た自来也に、大蛇丸は?と聞く。

損じた…、いずれここに捕り方が参ります。別れも近うござる。名乗られては?と、自来也は綱手姫に聞く。

今やすっかり素直になった綱手姫は、ええ…とか細く答えると、佐久間のために討ち滅ぼされました近江一夜城の城主浅尾景正の娘綱手…と名乗る。

そうか…と答えた自来也も、某は信州黒姫の地頭、更科輝隆の一子太郎丸、異名を自来也…と名乗ると、寅の上刻までは間もござる、お逃げなされと勧める。

えっ!と驚いた綱手姫は、あなた様は?と問いかける。

残る!前触れは拙者の処理が誤って、城内は厳しい警護、それは良いとして、大蛇丸がいては忍びの術も無駄であろう。お尋ね者の拙者が捕われて、的に油断をさせぬ限り…と自来也が答えたので、では!…と綱手姫は気づく。

親の仇、我が手にて討ちたい正盛なれど…、お譲り申す!と自来也が言うと、手綱姫が泣き出したので、何故泣かれる?大事の門出に、不吉な…。例え捕らえられても、討たれるとは限らん。別れるのは辛いけれど、しばしの別れ、又会う日までの仮の印…と言いながら、綱手姫の手を取った自来也は自分の印籠を渡す。

その直後、駆けつけて来た役人どもが宿の中になだれ込み、部屋の中にいた自来也を捕縛する。

その時、綱手姫は屋根の上に逃れていた。

城に引っ立てられ、城内の牢に縛られて入れられた自来也。

城内では、自来也の事を密告した大蛇丸が、正盛から恩賞として3000貫もらっていた。

自来也を捕まえたと安心した正盛は、主演の用意を命じたので、大蛇丸は、ご油断召されるな!と忠告するが、正盛は笑い、家臣たちにも振る舞い酒を出すように命じる。

牢の中で縛られていた自来也は、見張りの兵に、おい下郎、今の刻限は?と聞く。

下郎と呼ばれむっとしながらも、牢の中にいる自来也には、もはや何も出来ないだろうと見くびっていた見張りは、寅の上告の時間も間近いぞと笑いながら教えてやる。

城内では、女たちが舞い踊り、酒宴の真っ最中だった。

そこに、蜘蛛の巣のイメージが挿入される。

その時、殺気に気づいた大蛇丸が、天井部目がけて小柄を投ずると、天井から、忍び装束に身を包んだ綱手姫が出現し、小柄を受け止めると、それを投げ返しながら下に降りて来る。

同じ頃、牢の中で、自来也が念じ始めると、彼の姿が消え、牢のある小屋が倒壊する。

そして、周囲を警護していた家臣たちが、全員、何かの力に吸い寄せられるように小屋の部分に集まると、壊れていた小屋が組み上がり、彼らを牢に閉じ込めてしまう。

広間では、きりのようなものが立ちこめる中、綱手姫と大蛇丸が戦っていた。

そこに突如、大きな口からきりを吐き出す巨大な蝦蟇が出現する。

綱手姫は、バック転しながら、その蝦蟇の頭上に舞い上がると、追いすがって来た大蛇丸に一刀を投げつける。

刀は大蛇丸の胸に突き刺さり、そのまま大蛇丸は倒れて絶命する。

佐久間正盛と矢尾郡太夫は、座敷内に充満した霧の中、逃げ道を探して走り回っていたが、その時、目の前の蝦蟇の上に自来也が出現する。

蝦蟇の横に立つは綱手姫!

誰だ?何者だ!と問うた佐久間正盛に迫った綱手姫は、汝の為に討たれし近江一夜城城主浅尾景正の娘綱手!と名乗る。

一方、蝦蟇の上の自来也は、盛んなれば天に勝つ。勝利しても、天網は疎にして漏らさず!悪行は己より出て己に返る!見ろ!見ろ!見ろ!すなわち今宵、神無月10日、寅の上刻!この復讐の念、決して…と言うと、下に飛び降り、正盛に斬り掛かる。

綱手姫の方は軍太夫と戦っていた。

その間、家臣たちは次々と、大きな蝦蟇の口に吸い込まれて行っていた。

やがて、蝦蟇は幻術で空間を歪ませ、家臣たちを翻弄する。

先に、軍太夫を斬り殺した綱手姫は、自来也共々正盛に襲いかかる。

そして、自来也が正盛に斬り掛かると、自らも一太刀を浴びせる。

正盛が倒れると、泣け、喚け、叫べ、吼えろ!と怒鳴りつけた自来也は、勝利の高笑いを始めるのだった。