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花の中の娘たち

東宝初の総天然色(ニュータイプ・フジカラー)映画らしい。

日本初のカラー作品と言われる松竹の「カルメン故郷に帰る」(1951)や大映の「地獄門」(1953)などに比べると、あまり知られていない作品ではないかと思う。

東宝初のカラー作品と言うにしては、内容も文芸風と言うか、実に地味である。

地元に根付き、先祖代々の保守的な暮らしを守ろうとする両親と、東京に憧れる若い娘たちの対立を描いた内容自体はそう珍しくもないのだが、その地方と言うのが、多摩川一つ挟んだ東京の隣県神奈川県だと言うのだから驚かされる。

小田急の向ヶ丘遊園地のポスターが出て来ることから、その近辺のはずなのに、町まで電話をかけに行くのにも小一時間かかるなどと言っているので唖然としてしまう。

その町と言うのは川崎辺りのことで、舞台そのものは、今の登戸辺りだろうか?

鉄橋が出来てないと言っても鉄道用の鉄橋はあり、電車は走っているのに、農家が車を持っているようでもないので、当時はかなり不便な所だったと言うことだろう。

東宝があった砧とは小田急沿線同士で互いに近く、ロケ地としては出易かったはずだが、この当時、本当に一般用の橋がなかったとすると、撮影機材なども電車で運んでいたと言うことなのか?

同じ東京とは川一つ隔てた川口市を舞台にした「キューポラのある街」(1962)などとはえらい違いだ。

やはり、終戦後間もない頃と言う時代の違いだろう。

映画用のフィクションかもしれないが、あの近辺で梨を作っていたなどと言うのも驚き。

「二十世紀」の品種をうちが作ったなどと劇中で言っている。

カラーは鮮やかであるが、何となく、昔の着色写真のようだったり、古い雑誌のカラー写真のようにも見える。

白黒映像に鮮やかな原色が乗っている感じと言えば良いのだろうか?

岡田茉莉子のほっぺなどは、メイクのせいなのか、リンゴのように赤く色づいている。

カラーを強調する為か、ひな祭りや花畑、鯉のぼりと言った色鮮やかなものが頻繁に登場している。

よし子が勤めているホテルのメイド服の緑色なども赤い廊下のカーペット同様鮮やかに出ている。

時代を感じさせるのは舞台やカラーの色味だけではなく、話の展開にしてもそうで、保守的な親の考え方と新天地に夢を馳せる若者との板挟みになったヒロインが、迷った末最後に選ぶのは親の意見、つまりは家に縛られることの方である。

小泉博演じる若き電気技師の考え方が特に自分勝手とも思えないので、その三村の考え方を都会人特有の自分勝手な考え方のように解釈しているかに見えるのも、何となく釈然としない部分だ。

今だと、ヒロインが彼に付いて沖縄に行ったとしても、観客はそれなりに納得するのではないかと思う。

当時としては、ヒロインが都会への夢と憧れを捨て、生まれた土地に根付く生活を始める…と言う保守的な展開の方が観客に受け入れられ易かったのかもしれないが、やはり今の感覚で観ると、ヒロインの選択は、農家の長女故の「自己犠牲」のように見えなくはない。

登場人物に真の悪人はおらず、皆、まじめに生きようとしている人間たちばかりなので、余計によし子やもも子たちの人生の選択は複雑さを増している。

岡田茉莉子は当時20くらいだったはずだが、かなり幼い雰囲気の妹役を演じており、その明るさが、暗くなりがちな話を救っている。

ヒロイン役は杉葉子演ずる姉よし子の方とも見えるし、岡田茉莉子演ずる妹もも子の方とも見えなくもない。

後者だと解釈すれば、一応ハッピーエンド風の終わり方になっていると言うことになるが、「花の中の娘たち」と言うタイトルなので、姉妹両方が主役と言うことなのだろう。

余談になるが、劇中に、もも子が飼っている七面鳥を虐めるシーンが出て来る。

当時、農家では七面鳥を飼っているのは珍しくなかったのだろうか?

何の為に飼っていたのだろう?アメリカの影響で、例えばクリスマスの食用としてそれなりの需要があったと言うことなのだろうか?

他の日本映画で七面鳥が出て来るのを観たことがないだけに、不思議に感じた。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1953年、東宝、西島大脚本、山本嘉次郎脚本+監督作品。

黄色い雲海の上に、水中のような青空の中、東宝マークが光芒を放っている幻想的な会社クレジット。

きれいな小石が並ぶきれいな小川の水面を桜の花びらが流れて行く上にタイトル。

その後、背景素材の小川の流れは写るが、スタッフ・キャストロールは入らない。(原版が現存していないためらしい)

東京の中心地から1時間、新宿から30分ほど多摩川までかかるが、鉄橋がないため、川一つ隔てた神奈川のこの辺りは都会とはかけ離れた地域がある。

梨畑が広がる中、道路は鉄橋建設の為か、制限速度40kmの標識の下、猛スピードのトラックが行き来しており、ちょうどやって来た花嫁行列も、トラックを避けながら、嫁入り先の農家へと来る始末。

石井果樹園で1人作業をしていた父石井左平(小堀誠)は、もも子!と、次女の名前を呼んでいた。

長男の清太郎の姿もない事に気づいた佐平は、どいつもこいつも浮かれやがって…、自分たちの婚礼でもないのに…と、仕事をさぼっている子供たちの事をぼやいていた。

花嫁を家に案内して来たのは、佐平の隣に住む石井庄六(東野英治郎)で、花がいつも赤いのが特長だった。

そんな花嫁の嫁入りの様子を嬉しそうに観ていたのは、佐平の次女石井もも子(岡田茉莉子)と、近所の農家の次男坊石井勝造(小林桂樹)らだった。

庄六が新婚の嫁さんに、玄関から入らず台所から入るように指導する。

もも子と一緒に花嫁を観に来ていた佐平の長男清太郎(鴨田清)は、勝造と一緒に家に帰る時、農業組合の話はしてやるから、早くよし子をもらってやってくれ。東京かぶれにならんうちにと話しかける。

次男の勝造には、家の農業を継ぐ権利もなく、何か良い仕事を探していたのだった。

その後、勝造が梨棚の手入れをしていると、青いコートを来た佐平の長女よし子(杉葉子)が昼間なのに帰って来たので、今日は土曜日かい?と勝造が聞く。

早引け、昨日徹夜だったからとよし子は説明する。

そんなよし子に、よっちゃん、兄さんから何か聞いてないかい?と勝造は探りを入れて見るが、よし子が何も知らないようだったので、良いんだと勝造はごまかす。

ひな人形が飾ってある自宅に帰って来たよし子は、今度のお客さんはとっても良い人、これ頂いたの…と言い、キャンディーの詰め合わせ缶を見せたので、蓋を開けて中を観たもも子は目を輝かせ、さっそくキャンディーを取ろうとするが、母のよね(本間文子)から、まずはお仏壇にあげてからだともも子は叱られる。

佐平は、東京勤めをいつまでも続けているよし子に、いつまでももも子に野良仕事させていたんじゃ可哀想じゃ。もも子もいつかは東京に行くと思っているようだが、このままじゃうちの梨園も継ぎ手がない。橋の開通観て梨園売った方がましじゃ。悔しがる。

苦労ばかり背負い込んで割りが合わないと妻のよねが愚痴ると、算盤ずくで百姓が出来るか!と佐平は怒る。

翌日、梨なんて親子二代でやるようなことじゃないよ。女で良かった私…、東京に行きたいもん…ともも子は、父親の梨園の手伝いをしていながら、その仕事を継ぐことには全く感心がないことを佐平に打ち明けていた。

その時、勝造が飛び込んで来て、おじさん!清さんが!トラックが、そこの街道で!もうダメだ!と泣き出す。

それを聞いた佐平は急に心臓を押さえ、梨用の柵にもたれ、しゃがみ込んでしまったので、もも子は驚き、父ちゃん!どうした!と駆け寄る。

佐平は心臓が悪かったのだ。

その後、佐平の自宅にやって来た巡査(中村是好)が、長男を亡くした佐平とよねを慰めて帰る中、駆けつけて来た隣の庄六がもも子に、町の郵便局で電話をかけても小1時間はかかる。おめえが直接よし子に知らせに行けと指示を出していた。

そんな中、急に立ち上がったよねが、いきなり箒を持って部屋の掃除を始めたので、気落ちして座り込んでいた佐平が、よね、落ち着け!と声をかけると、急に我に帰ったよねは、箒を持ったまま泣き出す。

もも子も泣き出すが、泣きっ面見せるんじゃないぞ。良いか、桃スケ、姉ちゃんにはこういうんだ。こんにちは。ちょっと心配なことがありました。へその力を入れて我慢しろ!と庄六が指南する。

その後、単身東京へ電車で向かったもも子は、銀座から路面電車の停留所で並び、姉のよし子が勤めている「セントラルホテル」にやって来る。

もも子はボーイに、メイドの石井よし子に会いたいのですがと伝えるが、フロントに言って下さいと言われ、良く分からないまま受付で同じ事を言うと、フロアクラブに行ってくれと言われる。

良く分からないまま奥へ進もうとすると、ボーイが、下駄は困りますと注意しに来る。

もも子は下駄履きで東京に来たのだった。

慌てたもも子は、カーペットの廊下で下駄を脱いで足袋で歩き出す。

奥の廊下でどうして良いか分からなくなったもも子が泣き出すと、通りかかった電気技師の三村純一(小泉博)がどうしたの?と声をかけて来る。

メイドの石井よし子はどこにいるんでしょうか?ともも子が聞くと、こっちいらっしゃいと招いた三村は、フロアクラブでよし子を呼ぶ。

緑色の制服を来て出て来たよし子は、もも子が目の前にいるので驚き、どうしたのよ、ももちゃん?と聞くと、もも子は我慢しきれなくなり、姉ちゃん!と叫ぶとよし子に抱きついて泣き出す。

その後、佐平、よね、勝造、よし子、もも子らで清太郎の墓参りをする。

帰り道、佐平が、そろそろ婿取りの心配しなくてはなんねえなと呟くと、そろそとやねとよねも同意する。

そんな両親の会話を聞いたよし子は思わず立ち止まる。

そんなよし子に、よっちゃん、清さん、死んじまったな…と一番後ろから付いて来ていた勝造が話しかけ、2人はちょっと脇道にそれて立ち話をする。

俺は一生懸命働くよ!兄さんの引きで、農業組合はいることになったんだが、何とか一本立ちしないと…と、急に勝造が言い出したので、勝造さんには、あちこちから養子の口がかかっているそうじゃないとよし子は聞く。

しかし、養子なんか行くつもりはない。俺、一生懸命働くよと繰り返した勝造は、よっちゃん、俺のこと好き?嫌い?と逆に問いかける。

驚いたよし子が答えないでいると、気にしないで、よっちゃん。俺こっちから帰るから。今夜行くなと告げて先に山道を下り帰って行く。

佐平、よね、もも子らは、清太郎が轢き殺された現場の街道に差し掛かり、あの多摩川の橋さえ出来てなければ…と、工事中の鉄橋工事のことを恨む。

佐平は愚痴をこぼすなと叱る。

そんな両親に付いていたもも子に、通りかかった三輪トラックの助手席から、石井さんって家を知らない?と声をかけて来た青年がいた。

この辺は石井だらけなのでもも子が迷っていると、庄六と言うので、あたしんちの隣よともも子が答えると、案内してくれと言われたので、一緒に三輪トラックに乗り込み、庄六の家に案内してやる。

おじさんのこと、鼻の石井?って言ったら、花でも作っているんですかだって?と、家から出て来た庄六に囁きかけたもも子は笑う。

庄六は引っ越して来た青年は北小路(平田昭彦)と言う東京の学生だと教え、どうやら青年のことが気になるらしいもも子に、春が来たな?ももスケ!とからかうと、赤くなったもも子は、おじさんの赤っ鼻!と言い返して逃げ帰る。

「セントラルホテル」のメイドの控え室によし子を探してやって来た三村は、部屋にいたメイド仲間から、初七日の法事がすんだら出て来ますと教えられる。

初七日の法事の席で、佐平はよし子に、もうそろそろ辞めてもらえないか?と東京のホテルで働くことを諦めるよう説得する。

しかし、よし子は、うちのホテルはアメリカ式だから、辞めるなら三ヶ月前に知らせないと…と抵抗する。

これは言わば、清太郎の遺言だとよねも言う。

それを聞いていたもも子は、良いこと考えた!私が姉ちゃんの代わりにホテルで働くと言い出す。

すると勝造が、手が足りなかったら、俺がいつでも手伝うから、よっちゃん、もう少し勤めさせたら?と佐平に言葉をかける。

その時、どこからともなくフルートの音色が聞こえて来たので、もも子が、変な鳥鳴いてる…と呟くと、酒を飲んでいた庄六が、あれはフルートだ。うちに越して来たのは音大生だと教えると、恥ずかしがったもも子は自分の部屋に向かう。

そして、窓辺で、聞こえて来る北小路のフルートの音にうっとり聞き入るのだった。

翌朝、近所の照子と言う娘が、今日から東京のトンカツ屋の女中として働くことになり、意気揚々と出かけて行ったので、それを見送った娘たちと共に、梨園で仕事をしていた勝造やもも子も笑う。

娘がもも子に、パリモードが載っているスタイルブックを見せてやろうか?と声をかけて来たので、勝造がからかうと、誰だってこんな所にいたくないのよ!ともも子が勝造の無神経さに怒り出す。

そこに北小路がやって来て、この木、何がなるんですか?と聞いて来るが、もも子は恥ずかしがって答えられない。

それを見ていた勝造が、スイカですとふざけて答えると、北小路が信用しそうになったので、梨です。鼻は五月頃に咲きます。白い花びらが闇の中にぼーっと浮かび上がるんですとロマンチックに表現する。

北小路が去った後、勝造はもも子に、惚れたな?ほ~ら、赤くなった!好きになった証拠だ!とからかったので、もも子は恥ずかしさで泣き出し、本当にみんなには内緒だよ!と頼む。

もも子はさらに、自分はお勤めしたいけど、お父っあんは弱っているし…と悩みを訴えるので、心配しないで良いよ、俺のことなんてと勝造は慰める。

あたい子供じゃないわ!とからかう勝造に文句を言うもも子は、勝っちゃんこそ、姉ちゃんの養子になれば良いのよと言うと、急に勝造が向きに反論して来たので、姉ちゃんに惚れてるな!と逆襲し、その場を逃げ出す。

自宅に走り込んだもも子に、父ちゃんの心臓に堪えるぞ!とよねが叱る。

部屋に入ったもも子は、窓から見える列車に見とれる。

その後、鏡台に向かったもも子は、白粉を塗り、口紅を差し、化粧をしてみる。

その時、ラジオからフルートの音楽が流れて来る。

朝の音楽を終わります…とラジオの女性アナウンサーが言い、皆さんはお化粧なさいましたね?でも、大切なことを忘れていませんか。お口の匂いです。「緑のライオン」をお忘れなくとCMを付け加えたので、思わずもも子は、鏡台の引き出しに入っているチューブ歯磨き粉を出してみる。

一方、ホテルのメイドとして再び働き始めたよし子は、外国人のオンリーらしき36号室の女客の髪のセットを手伝い、多額のチップをもらっていた。

外国人パトロンに電話をした後、出かけるその女性客は、ホテルの電気係の人に、沖縄のことはOKなので、いっぺん会いたいって言ってたとパトロンからの話をよし子に伝える。

よし子はすぐに、ホテル内の三村に会いに行くと、36号室の女客からの伝言を伝える。

それを聞いた三村は、そのことで君に相談があるんだと言い出したので、よし子は嬉しそうに、いつもの所で?と答える。

仕事が終わった後、馴染みのレストランで食事をしながら、三村は、今月中に沖縄に立ってくれと言われている。こんなチャンス二度とないし、僕は1人で行きたくないと言い出したので、よし子は困惑する。

そんなよし子が迷っているのは、父親を説得出来そうにもないことと察した三村は、お父さんになら僕から話すよと説得する。

家の家業を娘に継がせようとするよし子の父親のことを知っている三村は、大丈夫、2人で努力しようと慰める。

その日、11時過ぎに帰宅したよし子を呼び寄せた佐平は、よし子、お前、勝さんのことはどう思う?先方は乗り気なんだ。

それを聞いたよし子はもう親同士で決めたの?と驚くが、佐平は、早い方が良いからなと言うだけ。

部屋に戻ったよし子は、衝撃のあまり考え込む。

横で先に蒲団に入っていたもも子は、何故か微笑んで眠っていたが、急に目覚めると、落ち込んでいる姉のことに気づき、誰か恋人がいるんじゃない?だから、勝つさんを養子にするのが嫌なんでしょう?大丈夫よ、勝つさん、絶対養子にならないって言ってるから。ひょっとして、相手の人って、いつか私を案内してくれた人?もうキスくらいした?などとニコニコしながら聞いて来る。

姉ちゃん、教えて、恋って楽しいもの?ともも子は重ねて聞いて来るが、考え込んだままのよし子は答えず、急に立ち上がると、再び父の佐平の所に行き、お願いがあるんだけど…と切り出す。

翌朝、もも子は、早起きしたって仕事ねえもんとぼやき、まだ寝ていた勝造の家に行き、自転車貸してねと頼む。

町までお菓子を買いに行くのだと説明したもも子は、勝さん、養子にならないって本当ね?今日、東京から、姉ちゃんに結婚の申し込みに来るんだって、電気技師の人…と教えると、驚いた勝造は、姉ちゃん、その人好きなのか?と聞く。

もちよ!と答えたもも子は、よし子が結婚すれば、自分が今度は東京に行けると思い、笑顔で出かけて行く。

佐平に会いに来た三村は、沖縄行きが迫っているので、形式的に私を婿に入れた後、沖縄に行かせてもらえませんか?失礼ながら、月々1万円くらいはお送りしますと切り出すが、一番大事なものは金じゃない。土だ!人間は入れ替えることが出来るが、土は返ることが出来ないと言い張るので、では、僕に梨を作れとおっしゃるのですか?と三村は聞く。

一緒に話を聞いていたよねも、うちは先祖代々なしを作って来たし、20世紀を作ったのもうちなんですと説明する。

今時梨なんか作っても何の得もない。だけど、俺たちみたいなバカがいなくなったら、この日本もお終えだ!と佐平は力説する。

もも子の家に上がり込み、酒を1人飲んでいた庄六は、落ち着け、ももスケ、今話し合っているのは、新憲法で行くか憲法改正かって事で、世界中で一番問題になっていることなんだぞと、良く分かったような分からないような説明をする。

その時、座敷からがっかりした様子の三村が出て来て、もも子に気づくと、軽く挨拶をして家を出て行く。

その後を追いかけるよし子。

後は君の決心次第じゃないかな?あの家、出るか、出ないか…、沖縄行きは今月中に決めなければ行けないんだ。後20日くらいしかない。これまでに本当に決心してくれよと三村は、見送りに来たよし子に伝えて帰る。

一方、庄六は勝造の所に行き、談判は決裂だ。電気技師捕まえて梨作りなんて…と教える。

勝造は、河崎の公共職業安定所に行くと、土木工事の仕事を斡旋してもらい、鉄橋の工事をやり始める。

よし子は、ホテルを円満退社した三村に会うため、技師室を訪れる。

明日から造船所で働く。紹介者から沖縄行きの催促された。大丈夫?君自身が決めるんだ。愛しているってことだけが物事を解決するんだと言いながら三村はキスをしようとするが、よし子はそれを拒否して部屋を出て行く。

もも子の方は、いつものように隣から聞こえて来るフルートに聞き惚れていると、その曲に合わせて女性の歌声が聞こえて来たので、気になって、隣の庭先まで行って覗いてみる。

すると、若くきれいな女性が、北小路のフルートに合わせて歌っているではないか。

頭に来たもも子は、自分の家の裏で飼っていた鳥小屋の中の七面鳥を棒で突ついてみる。

すると、七面鳥が甲高い鳴き声を上げたので、もも子は何度も突っついて、歌の邪魔をする。

その七面鳥の鳴き声に気がついた北小路と遊びに来ていた妹のユリ(立花満枝)は笑い出す。

夕方、帰宅して来たよし子は、もも子の様子がおかしいので訳を聞くと、あたい、姉ちゃんの気持ち分かると言うので、好きな人が出来たの?だ〜れ?と聞くが、もも子は、知らない、知らないとだだをこねるばかり。

やがて、夜になる。

姉ちゃんの気持ち分かるようになったから、応援するから、頑張ってね。あたい、いつまでもこの土地にいるから…などと言っていたが、その時、隣の庄六がやって来て、北小路の妹さんからのプレゼントだ。七面鳥の声聞いたら、もう食べる気なくなったって…と言い、ロールケーキを差し入れてくれたので、あの人、妹!?ともも子は嬉しそうに聞く。

そんなもも子を観たよし子は、ももちゃん、隣の学生さん?好きになったの?と聞き、やだやだ!姉ちゃんったら…とすねるもも子を背後から優しく抱きしめてやる。

ある日、よし子は、三村が勤め始めた港の造船所を訪ねる。

三村はよし子を控え室に案内すると、秋名和出発まで後10日しかない。手続きの時間などを考えると明後日までに、返事が欲しいと迫るが、よし子は、どうしても、沖縄に行かなければいけないの?と聞き、一応、家に入ってくれないかしら?ちょっとの間の辛抱よ。あなたが主人になれば、後は好きなことが出来るわ。今行ったら、父や妹を殺すことになるわと説得する。

しかし、三村は、僕は今、大事なチャンスなんだ。技師が成功するにはチャンスが必要なんだ。僕が一生へっぽこ技師のままで良いの?と迫って来る。

もうちょっと待って下さいとよし子は抵抗するが、何故君はもっと自分を変えないの?と三村が聞くと、私は廻りも愛したいの。そう言う女なんです、私ってとよし子は答える。

よし子さん、僕は君を信じている。明日きっと君は覚悟を決めて、僕の所に来てくれるよ。明日、ホテルに行きますと三村は言う。

その日、帰宅したよし子は、母のよねから、お前、もも子に言ってくれよ。私の手には負えないよと言われたので、部屋に入ると、沈んでいるもも子に、どうしたのよ、ももちゃん?あんまり、お父さんや母さんに迷惑をかけちゃダメじゃないと聞く。

すると、もも子は、姉ちゃんは自分だけ良ければ良いんだから!私、犠牲になるのは嫌!仕事なんて辞めちゃえば良いのよ!と泣きながら抗議して来る。

一体どうしたのよ?と佐平に聞きに行ったよし子は、勝さんともも子なら相性もいいので、もも子に勝さんと一緒にならないかって話したら…と言うので驚く。

約束が違うじゃない!姉ちゃんが結婚したら私が東京に出て良いって、さんざん騙して、私に野良仕事やらして!ともも子が泣き叫んで来たので、よし子も呆れて、どうして一頃相談してくれなかったの?頭ごなしに勝手なことを言われても…と佐平を責める。

しかし、佐平も、俺は何も悪いことは言ってねえ。よし子!誰がもも子に家を継がせたいもんか!そんなことも分かんないのか!と怒鳴り返して来たので、あたい、死んじまう!と叫んだもも子は部屋に飛び込む。

その後を付いて入ったよし子は、あんたを犠牲にはしないわと声をかけるが、姉ちゃん、もう十分楽しんだだわ。これからはうちで働くから…と言い聞かす。

三村さんのことはどうするの?ともも子が聞くと、私にはこういう静かな所で暮らすのが、一番幸せかもしれないわ…と、何か吹っ切ったようによし子は呟く。

「小田急向ヶ丘遊園地 桃祭り」のポスター

大勢の客が、石生けの梨園の側を通って行く。

そんな中、慣れない工事の仕事で手に怪我をしてしまった勝造が新しい仕事を探していると聞いてやって来た友人(堺左千夫)は、俺と一緒に保安隊に入らないか?今の時代、農家の次男坊じゃ、巡査か保安隊に入るしかあんめえ?と勧めるが、俺は戦争は嫌いなんだと勝造は断る。

そんな休憩中の勝造の様子を道から見かけた東京からのピクニック客は、ちょっとごらんなさい。良いわね、お百姓さんって、のんきで…、あれじゃあ寿命も延びるね。毎日神経をすり減らしている勤め人とは違うから、羨ましい限りだよ…などと、聞こえないことを良いことに、好き勝手なことを言って行く。

翌日、よし子に会いに、三村はホテルのメイド控え室に来る。

その頃、佐平は、もも子と一緒にリヤカーを曳き、近所に出来た豪勢な住宅を観ながら、一生に一度で良いから、こんな家に住みたいもんだなどと話していた。

その時、上のグラウンドからテニスボールが飛んで来たので、もも子は、上から金網越しに覗き込んだ金持ち風の娘にボールを投げて返す。

しかし、強く投げ過ぎたので、見当違いな所まで飛んでしまい、何ごとかと集まって来たテニス仲間たちは、金網から下の道を覗き込み、そこに、リヤカーの後ろに立っていたもんぺ姿のもも子を発見したので、思わず笑ってしまう。

それを見て傷ついたもも子は、泣きながら自宅へと駈けて帰る。

自宅の側まで来ると、北小路が庄六に挨拶して引っ越しして行くではないか。

トラックが出発して行くと、後に残っていた庄六は、ここじゃあ東京に遠過ぎるんだって言いやがって、これから色々世話してやろうと思っていたが、東京者はやっぱりダメだ。金輪際、世話してやんないぞ!と怒っていた。

失恋したもも子は、家に入るなり、お父っつぁんは?と聞いて来たよねに、しらねえ!うるさい!と口答えしたので、そんなに親に事が気に食わねえなら勝手にしろ!とよねも癇癪を起こす。

もも子は泣きながら家を飛び出して行く。

その頃、よし子は、ホテルの支配人室に入って行くが、そこに、メイド仲間が1人と見知らぬ男が2人立っていることに気づく。

支配人は、よし子が36号室の客と懇意だと知っており、こちらは警視庁の方で、あの客のご主人の2世の人がドル買いの容疑で昨日つかまったそうだ。

それで、36号室の客を参考人として連れて行きたいらしいんだが、君、彼女を部屋の外まで呼びだしてくれないかと言うではないか。

大分、御贔屓になっていたそうじゃないかとよし子に言う支配人は、先にいたメイドを帰してしまう。

よし子は驚き、お客様にそんなことは出来ません、私辞めさせて頂きたいと思っていますと言いながら、持って来た辞表を手渡す。

それを見た支配人は、それならなおのこと、責任を果たして辞めてくれたまえなどと言って来る。

36号室では、何も知らない女客が、なかなか来ない旦那を待って電話をかけていた。

鍵を取りにメイドの控え室にやって来たよし子だったが、先に帰されたメイドから聞いたのか、メイド仲間たちが、よし子さん、いきなりジャーナリズムの寵児ね。映画スターになれるんじゃない等と囃し始める。

しかし、それを聞いたよし子は哀し気に、そんなことを言って、あの方はお客様じゃない。気前の良い方だとみんな言ってたじゃない?私は出来ないわと言い返す。

すると、先に帰されたメイドが36号室の鍵をよし子から取り上げると、何よ、このくらい、平ちゃらよ!と言って36号室に向かう。

一方、家を飛び出したもも子の方は、菜の花畑のあぜ道を泣きながら歩いていた。

ホテルの従業員室から外に出たよし子は、そこに三村が待っていたことに気づく。

どうしたの?と聞いて来たので、辞めたんです、今日…と答えると、それから?と聞いて来たので、36号室の旦那さん、警察に引っ張られたんですってと教えると、捕まる前に契約をすませたから、あの人がどうなろうと、僕には関係ないんだ。後5日で僕は日本からいなくなるんだ…と、三村はよし子に迫る。

しかしよし子は、付いて行けないわと答えると、僕は自分のことしか考えられない男だったかも知れない。許してくれ。急に行きたくなくなった…と三村が言い出したので、いけないわ、いらして…と言いながら手を差し出し、2人は握手して別れることにする。

三村は、別れを惜しむように、2人の思い出になるようなものを買わしてくれない?と言ってくれるが、私バカだったわ。沖縄行きがダメになるかもしれないと期待していた所があったの。私ってダメね。都内の人って、裏と表がはっきりしてるでしょう?私にはそれが出来ないの。36号室のお客さんのことだって…、立派なお仕事なさってねとよし子はきっぱり言う。

その頃、勝造はよねの家に来ると、でっかい鍋はないかね?おでんを炊くような…と聞き、ももちゃんは?と聞く。

さっき飛び出して行ったとよねは戸惑ったように答えたので、少女小説にかぶれたなと勝造は受け流す。

その頃、もも子は、菜の花畑の中に埋もれて泣いていた。

やがて日が暮れて来る。

よし子が帰宅すると、家の前に佐平が立っているので、どうしたの?と聞くと、もも子が帰ってねえ。おっ母ぁから叱られたら、死んでやるって飛び出して帰って来ねえと言うではないか。

その頃、河原にやって来た勝造は、もも子が河原にしゃがみ込んでいるので、何してるんだ?と声をかける。

すると、もも子は、あんたの嫁になるくらいなら、私、死んじゃう!一生のお願いだから、私をお嫁さんにしないでよ!お嫁にするって言ったら、ここに飛び込んでしまうから!と言うので、あっけに取られた勝造は、そこは膝までしか水ないよとからかうと、だったら横になって溺れてやるなどともも子は反抗する。

そして、勝造が信用しそうにもない事を知ると、自ら川の中に入り込み、横たわって、助けて〜!と叫び出す。

勝造は呆れたようにそれを見ていたが、すぐに自分も川の中に入ると、もも子を抱き上げて川岸まで運び出すと、バカだな〜、誰がおめえのような子供を嫁にする。その内、大手を振って、姉ちゃんを嫁にもらいに行くよと言い聞かす。

桜祭り

勝造は、よねから借りた大鍋でおでんを作り、急ごしらえのおでん屋を始めていたが、あいにくの雨で、客足はさっぱりだった。

そこによし子が手伝いにやって来たので、勝造はおでんを出してやり、自分はやけ酒を飲みはじめる。

土工になったりしたそうだけど、あんたにはこんな仕事似合わないわとよし子が言うと、電気技師の人どうなった?と勝造は聞く。

沖縄に行ったわと答えたよし子は、いっぺん話したいと思ってたんだけど、私あの人好きだったわ。でも全然考え方が違うのね。私、勝手なことしてたのよ。

俺は、何でも正直に言う人って好きだと勝造は言い、白いクレンの花が咲く外に出る。

勝つさんは良い人だわとよし子が言うと、俺はただ、兄さんがいたら、こうしていただろうと思うことをやっているだけさ…。よっちゃん、俺、堪らねえんだ。子供の頃から好きだったんだ!と告白すると、その場でキスする。

赤いリボンをハサミで切る橋の開通式が始まる。

色とりどりの風船が空に舞い上がる。

そんな中、開通式に参加していた庄六が、今度は花嫁の開通式だ!と言いながら、自転車で石井家へとやって来る。

橋の開通式と結婚式が重なったので、庄六は大忙しだと嬉しそうに言いながら、花嫁姿になったよし子を観ると、正々堂々と表から入るんだぞと言い聞かす。

自宅で並んで座った勝造とよし子に、近所の女の子が三三九度の酒を注ぐ。

それを口にするよし子の姿を観ていたもも子は泣いていた。

宴席になり、庄六ら客たちの元へおちょうしを運んで行ったもも子は、これからあたしが東京に行くのよ。洋裁学校に行くんだと嬉しそうに報告すると、よし子には、あのコートを頂戴ねとおねだりをする。

もうすぐ梨の花が咲くんだ。頼むよ、勝さん!と勝造に声をかけたもも子は、義兄さんと呼べと佐平に叱られたので、思わず、勝造とよし子は笑ってしまう。

鯉のぼりが上がる頃、梨の花が一斉に咲き乱れる。

姉からもらったブルーのコートを着たもも子が、行ってくるわ!と、梨園で働いていた勝造とよし子の元に挨拶に来る。

勝造がからかうと、勝さん、カツ丼、カツライス!ともも子も言い返す。

よし子が横から、だめよ、今からそんなことを言ったらと注意すると、姉ちゃん、怒ってない?もう1度、お勤め行きたいんじゃない?ともも子が聞いて来る。

ももちゃん、私、とっても満足なの。私たちの幸せはこれから始まるのよ。安心して行ってらっしゃいとよし子が答えると、姉ちゃん、ありがとう!と笑顔で言い出かけて行ったので、勝造は、あんみつばかり食うんじゃねえぞ〜!などとからかいの言葉をかける。

兄が亡くなった街道の所に置いてある地蔵に、白い梨の花を添え、手を合わせたもも子は、元気に駅に向かうのだった。