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蝶々夫人

プッチーニのオペラ「蝶々夫人」の映画化で、ローマのチネチッタスタジオで撮影が行われた作品らしい。

タイトル前の、ピンカートンが舞妓をしていた蝶々と会う所が、セットドラマ仕立てになっている以外、タイトルの後は、全部オペラの歌で構成されている。

つまり、蝶々夫人を演じている八千草薫さん、坊主役の小杉義男などは、全員「口パク」で演技をしているだけ。

基本、全編、ワンセットで撮られている。

場面の違いは、せいぜい室内のシーンと庭のシーンがあるだけ。

港を眺めるシーンは、海の遠景(実写)に、おそらくガラスに周囲の空や入江の風景を描いた「マットペイント」を同時に撮影するやり方で表現している。

八千草さんの口元を観ている限り、歌は完璧に暗記なさっているようで、口は歌にぴったり合っていて、あたかもご本人が歌っているかのように見える。

ただ、歌は実際のオペラ歌手が唄っているもので、明らかに八千草さんの声とは違う。

「蝶々夫人」と言うオペラがある事は知っており、劇中で歌われる「ある晴れた日に〜♪」などの有名なフレーズくらいは知っていたが、さすがにきちんとオペラを観たことがないので、ストーリーなどに関しては全く知らなかった。

この作品を観る限り、悲劇と言うか、人種差別的な酷い話である。

アメリカ軍の船員が日本に立ち寄った折、夜遊びの相手として出会った15歳の舞妓の少女と結婚し、子供まで作りながら、アメリカに帰って3年間音信不通、あげくの果てに、一方的に別れてくれと手紙を寄越し、自分はさっさと本国の女性と結婚して、子供は寄越せと迫ると言う、フィクションとは言え惨い話である。

観ていて一番気になるのは、アメリカ人妻を伴って蝶々夫人の家に戻って来たピンカートンに罪悪感が全く見えない所である。

結局、彼にとって、蝶々夫人は現地妻のようなものですらなく、単なる一時的な娼婦の延長のような意識だったと言う事だろう。

つまり、戦後の米軍兵とオンリーさんの関係そのまま。

日本でサインした結婚など全く気にしていない様子なのが観ていて不愉快である。

でも、こういう事はいつの時代も起こりそうだし、近年の日本人男性だって、東南アジアなどで同様の酷い事をしていると言う話も漏れ聞く。

結局、ラストは「恥をかかされた日本人=ハラキリ」みたいなステレオタイプな日本人表現で終わっているのも、今となっては何だかな〜…と言った印象しか残らない。

この作品、公開された時代には、日本人から歓迎されたのだろうか?

外国との合作だし、有名なオペラの映画化だし、当時はまだ珍しかったカラー作品と言うこともあって、それなりに興行価値はあったのかもしれない。

海外では、この手の話はエキゾティシズム(異国趣味)に溢れているので好評なのは分かるのだが…

確かにセットはきれいに作られているし、日本側が着物とかその他、きちんと用意して行ったらしいので、ハリウッド映画のようなヘンテコな日本像にはなっていない。

登場している日本女性たちも大半は本当の日本人なので、そう不自然な印象はない。

気になると言えば、まだ2〜3歳のはずの蝶々夫人の息子役の子が、かなり大きく見える事。

実際の2、3歳児では演技は無理と判断しての事かもしれないが、小柄そうな八千草さんが、ダッコするのも大変そうに見えてしまうくらい大きい。

大きなアクションやダンスのようなシーンはなく、ハリウッド風のミュージカルとは又少し違った雰囲気だが、全編、歌だけ…と言う構成や話の単調さを気にしなければ、時間経過もあっけないほど早いし、今でも音楽映画としてはそれなりに楽しめる作品だと思う。

※「映画年鑑」によると、この作品、配給分担は、東宝側が、日本、シンガポールを含む東南アジア、ハワイを担当、その他がイタリア側の配給。

製作費約3億リラ(当時の邦貨で約2億)の内、日本側が4分の1を負担。

興行的にも、オペラ映画にしては好調だった模様。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1955年、東宝+リッツオーリ・フィルム+ガローネ・プロ、J. L. Long原作、森岩雄脚本、カルミネ・ガローネ脚本+監督作品。

長崎 1900年

日本はまだ西洋諸国に良く知られていなかった。

人力車に乗り、茶屋に向かう2人のアメリカの海軍士官。

彼らは茶屋と言うものも良く知らなかったし、良くある夜の女遊びの場所くらいにしか理解していなかった。(とナレーションが説明して行く)

茶屋に上がり込んだ2人は、芸者たちの踊りを観る。(ナレーションで芸者の説明)

次いで、舞妓が踊り始める。(ナレーションで舞妓の説明)

B.F.ピンカートン(ニコラ・フィラクリディ)は、酌の相手をし始めた舞妓の愛らしさに一目惚れする。

舞妓の名は蝶々(八千草薫)と言った。

そんな蝶々を嫁に従っている常連客やまどり(中村哲)がおり、その日も別室に来て、太鼓持ちのごろう(高木清)に呼びに行かせる。

蝶々は大金持ちのやまどりから求婚されているけど、それは5人目の奥さん、つまり妾なのだとピンカートンに打ち明ける。

障子を開け、無遠慮に座敷の中でピンタートンたちの相手をしていた蝶々を覗き込んだごろうは、さすがに外国人相手では無理だと感じたのか、一旦は引き下がるが、外国人が蝶々の事を気に入っているらしい事は何となく気づく。

確かに、ポンカートンは、蝶々の不思議な魅力に魅せられていた。

蝶々夫人の悲劇はこうして始まった…

タイトル

ごろうに案内され、ピンカートンは、結婚式の日、新居となる港が見える丘の上の邸宅を見に来る。

庭には桜が咲き乱れていた。

ごろうは、花嫁の付き添いのコックや下女を紹介する。

女中頭はすずき(田中路子)、コックはひでおと言った。

ごろうは、今日の式には、花嫁側の親戚が来るとピンカートンに教える。

そこに、アメリカ領事のシャープレス(フェルディナンド・リドンニ)がやって来たので、ピンカートンはウィスキーを注いでやる。

やがて、花嫁とその親戚たちが日傘をさして到着する。

ピンカートンの側にやって来た蝶々は、自分の家は元々裕福だったが、やがて落ちぶれて自分は家の暮らしを助ける為に芸者になった。恥とは思いません。運命なのですと伝える。

今は母だけしかおらず、父は死にました。自分の年は15歳だとも蝶々は教える。

その蝶々の母親(東郷晴子)がやって来て、ピンカートンに丁寧におじぎをする。

自分の部屋に入った蝶々は、花嫁道具として持参して来たハンカチやキセル、財布、鏡と言った小物をピンカートンに恥ずかしそうに見せたりする。

そうした中に、懐剣が入っていたが、昔父からもらった。恥をかかされたら使えと…と蝶々が言うと、それを障子の外から覗いていたごろうが、自らの腹を斬るジェスチャーをして見せ、ピンカートンにその懐剣の意味を知らせる。

小さな仏像も蝶々は持って来ていた。

そして、昨日の朝、今日買いに行き、新しい神の教えを聞きました。親類には内緒ですとも打ち明ける。

すずきが近づいて来て、蝶々に白無垢の花嫁衣装を着せる。

ピンカートンと花嫁衣装を着た蝶々を前に、部屋の中に親戚一同が居並ぶ。

シャープレス領事が、花婿は大尉であり、花嫁は大村の生まれと紹介し、ごろうが筆をピンカートンに手渡し、結婚証明署にサインをする。

こうして蝶々は、正式に、マダム・B.F.ピンカートン・蝶々になる。

式が終わり、部屋を出た親戚たちに、ピンカートンは庭先で酒を振る舞う事にする。

女たちが庭で踊りを披露する。

その時、突然、蝶々さん!なんたる侮辱!と怒鳴りながらやって来たのは、蝶々の叔父の坊主(小杉義男)だった。

教会で何をした?そう詰めよる坊主は、蝶々が教会で改宗した事を責めていた。

しかし、気丈にも蝶々は、みんな出て行って!ここは私の家よ!と声を上げ、出席者たちを全員追い出してしまう。

夫婦2人きりになった庭先で、ピンカートンは蝶々への愛を誓う。

その時、仏間で、すずきがお祈りをしている声が聞こえて来る。

やがて、夕日が落ち、夜の帳が蝶々夫人の家の庭先を包み込む。

召使いが石灯籠に灯を灯す。

蝶々夫人とピンカートンは、夜の庭先で愛の歌を歌う。

翌朝、ごろうと共にやって来た人力車でピンカートンは家を出て行く。

しかし、それ以来、夫は家に帰って来なくなる。

蝶々夫人は、仏壇に供えた仏像に、いざなぎ、いざなみの尊、八百万の神々…、夫が早く帰って来ますようにと祈る。

その後、日本の神様は何もしてくれない。アメリカの神様はすぐに願いを聞いて下さるわとすすきに言い、お金はあるのか?と尋ねる。

すずきが出して来たはこの中にはわずかな金しか残っていなかった。

外国人が一旦国に帰ったら帰って来ませんわとすずきは忠告するが、蝶々夫人は、おだまり!と叱責する。

出かける時、私を愛していると言ったわと言いながら、蝶々夫人は夫ピンカートンの写真を見つめるが、すずきは、その哀れな姿を観て泣き出す。

そんなある日、庭先から見下ろした港に煙が立ち上り、入港した船が見える。

白い船だった、礼砲が聞こえたので、ごらん!あの人よ。私は迎えに行かない。岬の先に立って待ってるわと蝶々夫人は嬉しそうに言う。

そんな空しい幻想に浸っている蝶々夫人の姿を観たすずみは又涙するのだった。

庭の池に写る桜の木が又満開になる。

ごろうがシャープレス領事を案内して来る。

マダム・バタフライと領事が呼びかけると、マダム・ピンカートンと蝶々夫人は自ら訂正し、アメリカの煙草、お吸いになる?などと嬉しそうにもてなす。

シャープレスは、ピンカートンの手紙ですと言いながら取り出すが、蝶々夫人は、アメリカのこまどりはいつ巣を作ります?あの人は、こまどりが巣を作る頃戻って来ると約束しましたが、こちらではもう3度、こまどりは巣を作りましたと、すでに3年の月日が経った事を伝える。

仲人役のごろうは笑って、金持ちのやまどりが来ているので、会ってみませんか?と蝶々夫人に勧める。

やまどりは、大勢の妻とは離婚したと言い、蝶々夫人に求婚するが、それを聞いた蝶々夫人は、私の国では違うわ。アメリカよ。アメリカでは妻を追い出せないの!と言い放つ。

やまどりは、がっかりしたように帰って行く。

なかなか手渡す機会がなかった手紙を、シャープレス領事はようやく蝶々夫人に手渡す。

受け取った蝶々夫人は感激し、手紙にキスをすると胸に抱き、領事に読んで下さいと頼む。

手紙には、あの頃は楽しかった、まだ私を忘れないでいてくれるだろうかと書かれていたので、蝶々夫人は情けなくて泣き出す。

手紙は、蝶々夫人と別れたいと言うものだった。

手紙を読み終えた領事は辛そうに、あのやまどりと結婚なさった方が良いと思うと言葉を添えるが、傷ついた蝶々夫人は、嘆きながら奥へと引き下がると、金髪の子供を抱えて連れて来る。

そしてシャープレスに、あの人は、この金髪の子を捨てられるのですか?と迫る。

シャープレス領事は、ピンカートンがすでに子供をもうけていた事を始めて知ったのか、彼はこの子の事をしているのか?と聞く。

蝶々夫人は、この子が生まれた時、既に彼は遠くにいましたと答え、すぐに、彼に子供がいる事を知らせて下さいと頼む。

子供がいたことにショックを隠せない様子のシャープレス領事は、ごろうと一緒に帰って行く。

そんなある日、港から大砲の音が聞こえるとすずきが教える。

縁側から望遠鏡で覗いてみると、白い船でアメリカの国旗が翻っているのが見えた。

船の名前は「エイブラハム・リンカーン」と書かれてあった。

それを観た蝶々夫人は、みんな嘘つきだわ。私を騙していたんだわ。彼を疑うなんて…、あの人は戻って来たんだわ!私を愛しているからだわ!と嬉しそうに歌う。

すずきと2人で、庭の花を摘み、それを座敷の花瓶に入れる。

鏡台の前に座った蝶々夫人は、ちょっと化粧をしてみる。

そして、すずきに、結婚式で来たあの打ち掛けを持ってこさせ、もう1度着てみようと言い出す。

すっかり用意を整えて、ピンカートンの帰りを待つ事にする。

やがて、夕日が沈む。

蝶々夫人は、部屋で一晩中待っていたが、朝になってもピンカートンはやって来なかった。

蝶々夫人は一緒に起きていたすずきに、もうお休みなさいと命じ、側にいた子供にもお休み、坊やと声をかける。

あまりにも可哀想な蝶々夫人を哀れみ、すずきは仏壇に一心に祈りを捧げるのだった。

その時、人の気配を感じたすずきが庭に出てみると、そこにシャープレス領事とピンカートンが来ているではないか。

すぐに、蝶々夫人を起こしますと言って、奥へ戻ろうとしたすずきだが、今はいけない!と領事が制する。

その時、すずきは、ピンカートンの背後に立っているアメリカの夫人の姿を見かけ、あの人は誰ですか?と聞くと、彼の奥さんだと領事は答える。

領事は、すずきに話してくれと頼むが、すずきは無理な事を…と辞退するので、仕方なく、領事がピンカートンが帰った後話す事にする。

ピンカートンは、花が咲き乱れるかつての我家の庭を見渡し、あの頃の追憶にふけるが、今は哀しみに変わった…と落胆しながら立ち去って行く。

ピンカートンが連れて来たアメリカ人妻はその場に残り、あの方に話して下さい、私を信じてと。あの子を私の子として育てますと言うが、お気の毒な奥様…とすずきは嘆く。

その時、すずきを呼ぶ声が屋敷から聞こえて来る。

蝶々夫人が目覚めたと気づいたすずきは、まだ来ないで!と呼びかけるが、障子を開けて姿を見せた蝶々夫人は、あの人が来たのね?領事さんが!と気づき、あの人はどこに?と去って行ったピンカートンの姿を探す。

そして、見知らぬアメリカ人の女性がいるのに気づいた蝶々夫人は、すずき、教えておくれ、泣いてないで、私を愛しているなら。あの人は生きているの?でも戻って来ないのね…、返事をしておくれと話しかけ、あの人は奥さんね。全ては無駄だったのね…と悟る。

アメリカ人夫人は、許して、蝶々さん…と庭先から声をかける。

あなたは一番仕合せな人、私を哀れと思わないで…と蝶々夫人は答える。

30分時間を下さいと言い残し、奥へ消える蝶々夫人。

部屋の中に入った蝶々夫人は泣き崩れるが、すずきには子供は遊ばせておいてと声をかけ、自分は仏壇の前に座る。

そして、結婚式の時に来た白無垢の打ち掛けを羽織った蝶々夫人は、父親から受け継いだ懐剣を取り出し、刃を抜く。

そして、潔く死のうと自らの胸に刃を突き刺そうとしたその時、襖が開いて、晴れ着に着替えさせられた息子が嬉しそうに飛びついて来る。

可愛い坊や!と言いながら、息子を抱きしめる蝶々夫人。

私は死ぬ。お前が大きくなった時、幸せに暮らせるように。

お前の母さんの顔をいつまでも覚えているように、良く観ておくれ。

さようなら!愛しい坊や!さあ、行って!と仏間を追い出し、縁側のある部屋の方へ押しやる。

蝶々夫人は、襖を半分閉めたその陰で自害し倒れる。

蝶々さん!と庭先から呼びかける声が聞こえる。

縁側脇の部屋で日米の国旗を持って遊んでいた子供は、その声を聞いて喜んだように、障子を開け、縁側に出て行く。