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続番頭はんと丁稚どん

往年の人気テレビドラマ(おそらく関西発信で、西日本中心に放映されていたのではないか)の映画化第二弾

このドラマ、「明らかに知的ハンデがある人物がぼけまくって笑いを取る古いタイプのお笑い劇」であり、今では「差別的」として放映すら出来ない内容だと思うのだが、「泣き笑い」的な人情ドラマの側面もあったので、人気が高かったドラマである。

公開された時代が時代だけに、「コ○キ」等と言う今では放送禁止用語やキャラも普通に登場する。

今回のテーマは、ザ・ピーナッツが出ていることもヒントになっているが「そっくりさん」

1作目でもちらり登場していた「崑松と瓜二つの人物」が登場する。

もちろん、本人を左右に並べて、同一画面に合成したシーンもあるのだが、明らかに当時の技術では合成不可能なシーンも数多く登場し、「崑松のダブル(影武者)」がいたことがはっきり分かる作品になっている。

一体、この「影武者」は誰なのか気になる所、吉本新喜劇のチャーリー浜やミスターオクレなども、昔、大村崑のスタンドインをやっていたことがあると何かで読んだことがあるが、この作品に登場しているのはそのどちらかと言うことなのか?

それとも、別の影武者だったのだろうか?

確かに、このドラマに登場する崑松と言うキャラは、眉は垂れ眉に書かれたものだし、丸メガネに頭はハゲ面をかぶっているだけなので、背格好と顔立ちが似た人なら変装はし易いはず。

良く見ていると、若き日のチャーリー浜のようにも見えなくもないが、正直そっくり過ぎて良く分からないと言うのが本音。

崑松役の大村崑さんだけではなく、この映画では、芦屋雁之助さんや小雁さんも、ラーメンの屋台の親子役で二役をこなしている。

さらに、崑松の友達として登場するチンパンジーの三ちゃんまで影武者が登場している。

猿のマスクをかぶり、三ちゃんと同じ衣装を着た小さな人が、明らかに猿では無理だと思われる何シーンかに代役として登場しているのだ。

この三ちゃん役の人も興味深い。

ミゼットの人だと思うが、チンパンジーと大体同じと言う小ささなので、ひょっとすると、子供が入っていたのかもしれない。

ギャグ的に分からないのは、サーカスにいたひげ面の男が、16年間、ゴム島にいたと言い、軍帽をかぶって敬礼するシーン。

グアム島の横井正一さんが帰国したのは1972年のことなので、この映画のずっと後である。

おそらく時事ネタとして登場しているはずで、この当時にも、グアム島かどこからで生存が確認された元日本兵がいたということではないだろうか。

ストーリー的には、1作目に似ており、崑松が店を出て行方不明になると言う展開がメインになっている。

いつもは、ドジな崑松に厳しい七ふく堂(劇中に登場する「七ふく」のポスターには「下痢に七ふく」と書かれているので、整腸剤のような薬のことだと思う。確か、テレビ版のスポンサーだったはず)の面々が、さすがに全員、崑松がいなくなると、心底心配する様が泣けて来る。

今回は特に、いつもは崑松に辛く当たる小番頭の雁七が、小雁が物干し台から呼びかける崑松の名に、横に隠れて、声を出さずに同じように呼びかけるシーンの演出が素晴らしい。

シリーズ作品の2作目だが、若干、レギュラー陣が代わっており、1作目で、七ふく堂の御寮はん(浅茅しのぶ)の婿養子を演じていた森川信は、今回、サーカス団長役のエノケンの下で働くピエロ役を演じている。

さすがに松竹作品だけに、関西ローカルの喜劇人ばかりではなく、ナベプロのザ・ピーナッツや、東京の喜劇人である森川信、桂小金治、若水ヤエ子、それに大御所エノケンまで登場させ、劇場版らしい豪華さを演出している。

エノケンは、かなり顔は老けているが、まだこの当時は普通に歩いている。

御寮はん役の浅茅しのぶは、今回、セリフらしいセリフもない目立たない役所で、可哀想なくらい。

キャスト表を観ると、未来研究所の所員として花紀京も出ているようだが、さすがに画面上で確認は出来なかった。

小番頭雁七役の芦屋雁之助さんや、その弟で小松役の芦屋小雁さんは、その後もご活躍だったが、一番下の平松を演じていた芦屋雁平さんは、その後どうされているのだろう?

さらにこのシリーズ、映画版も好評だったのか、「続々々番頭はんと丁稚どん チャンポン旅行」まで4作が作られたらしいが、テレビの方でお馴染みだった佐々十郎や茶川一郎は出ていないし、確か、生CMをやっていた記憶があるミゼット等も出て来ない。

しんみりさせるシーンもあるとは言え、お笑いシーンのアイデアも豊富で、サーカスを含め、映画的な見せ場がふんだんに盛り込まれているため、思ったほど臭くは感じられない。

木下サーカスのシーンも懐かしく、大きな網状の鉄の球の中で、2台のバイクがぐるぐる走り回る曲乗りは、生で観た記憶がある。

ストーリー的には、平均作くらいの出来かな?と言う感じもするが、トリック映画好きとしては、見所満載で興味が尽きない内容であった。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、松竹、花登筐原作+脚本、山根優一脚本、的井邦雄監督作品。

丁稚だって~♪と唄に合わせて、崑松(大村崑)が、書き割りの前で、巨大な焼き芋を胸に抱えて振り返る。

丁稚だって~♪と、分厚い辞書を胸に、小松(芦屋小雁)が振り向く。

夢があるんだ、丁稚だって~♪

そんな2人を、意地悪な小番頭雁七(芦屋雁之助)が横から睨みつけ、崑松から奪い取った巨大な焼き芋を、小松と、ラグミーのパスのように投げ合い、その真ん中で崑松が、焼き芋を追って右往左往する。

タイトル

花火が上がる。

通天閣の上空に花火が上がる。

七ふく堂の物干し台で、その花火を眺めていたのは、崑松、小松、平松(芦屋雁平)ら丁稚トリオ。

崑松が何で花火上がってんの?と聞くと、小松が、明日、お祭りだからと教える。

崑松は、お祭り!お祭り!と喜ぶが、次の瞬間、お祭りって何?とぼけてみせる。

そこに奥女中のお八重(三角八重)が洗濯物を干しに来たので、明日、お休みになる?と小松が聞くと、御隠居はんが決めることやと言う。

そんな物干し台の下で、女中の化粧の様子を窓から鼻の下を伸ばし覗き込んでいたのは雁七だった。

物干し台では、おそらく明日、休みになるやろと小松たちは予想し、それを聞いた崑松も大喜びで、休み!休み!と両手を伸ばしてはしゃいでいたが、うっかり、物干し台の手すりの上に置いてあったボケの花の鉢植えを突き落としてしまう。

それは真下にいた雁七の頭を直撃する。

慌てた3人は部屋に戻ると、何食わぬ顔をして、泥だらけになった雁七が来るのを待ち構えていたが、雁七は誰が鉢植え落としたんや!と3人を睨みつけて来る。

小松は慌てたあまり、辞典を逆さまに呼んでいたし、崑松に至っては、糸の付いてない針で、縫い物の振りをしていた。

雁七が、その糸を引っ張って、ハサミで切る真似をすると、あ、切れた!と驚く崑松。

誰が落としたか、言わんと、明日、休みはやらんと雁七は意地悪を言い出す。

その頃、七ふく堂の御隠居はん(浪花千栄子)は、娘(浅茅しのぶ)の婿養子の安之助(三浦策郎)に、明日、あんたの里に呼ばれて行きまっせと伝えて、そやから、店は休みにしよかと言っていた。

安之助はすっかり恐縮していたが、その会話を聞いていた末っ子のかな子(九條映子)は、たかが新町のおばあちゃんの家に行くくらいで婿養子大げさやなとからかう。

その頃、雁七は、店にかかって来た電話を取ると、相手は博多の九州堂からで、明日そちらに行くと言うので、お待ちしてます。商人に祭りなんておますかいなと雁七は答え、小松たちに残念やったなと嘲笑する。

崑松は、小松から、明日客が来るので休みがなくなったんやと聞くと、それやったら、雨戸こんこん打ち付けたったら入って来られんようになると提案し、小松たちも一瞬喜ぶが、よく考えてみると、自分等も外に出られんようになることに気づき、アホ!と崑松を叱りつける。

やがて小松は、店に九州堂に成り代わって電話をして、明日来られんようになったと言えば良いんやと言い出す。

誰が行くんや?と聞いた崑松だったが、いつものごとく自分が行かせられることになりがっかりするが、仕方がないので、店の電話をかけようとするが、自分の店から自分の店に電話をかける奴があるか!表の公衆電話からや!と小松から叱られ、渋々外に出て行く。

そこへ、「小松、平松、崑松、雁七 これらの者は明日外出を禁止する」と自分で書いた紙を持った雁七がやって来て、廊下の出入口の上に自慢げに貼る。

その時、電話がかかって来たので、小松等は崑松からの電話だと思い、成り行きに期待するが、雁七が電話に出た結果、それは、小松等が配達を間違えたと言う苦情だったと言われ、叱られてしまう。

そこへ帰って来た崑松が、ここの番号何番だった?と聞くので、小松は慌てて崑松を外に連れ出す。

その後、帳場にやって来た御隠居はんは、電話がかかって来たので、自ら受話器を取る。

公衆電話から電話をかけていた崑松は、出た相手が御隠居はんだと知るとビビるが、鼻をつまみ、九州堂と名乗ると、明日は行かれへん、さよなら!と言って、一方的に切ってしまう。

側にいた安之助が何でございます?と聞くと、御隠居も戸惑いながらも、明日、九州堂はんが来られんようになったそうやからと言い、廊下への出入口上に貼ってあった、雁七の禁足状を安之助に破らせる。

そこに戻って来た雁七が、貼紙がなくなっていることに気づくと、誰や、これ破ったのは!と聞くが、その場にいた安之助はわいやと答えると、何も言えなくなる。

そこに、電話かかった?と言いながら崑松が戻って来たので、何か、崑松らが悪さをやったに違いないと気づいた雁七は崑松を捕まえて、わいが海軍騎兵隊におった時に覚えたやり方教えたる!と言うと、崑松、小松、平松を並ばせ、尻を突き出させると、竹刀で殴ろうとするが、又、電話がかかって来る。

雁七はその電話を無視し、鳴り止むのを待って、又、竹刀を振り上げようとするが、そのタイミングを見計らっているかのごとく電話が何度も鳴るので、とうとう根負けして、しごきを諦めると電話に出る。

相手は、かな子の友人の則子(川口京子)からだったので、こいはんの部屋に電話を切り替え、部屋を後にする。

小松は、明日休みになったので、サーカス行こうと言い出す。

すると、又、崑松が、サーカスって何?と聞くので、綱渡り知らんか?と言いながら、チョークで玄関口の地面に一本銭を書くと、平松にハーモニカで「天然の美」を吹かせ、綱渡りをする振りをして見せる。

それを観たが面白がり、自分もやってみると言い、同じように、平松に演奏させると、地面に書いた一本銭の上をバランスを取る真似をしながら歩いてみる。

その頃、典子からの電話を自室で聞いていたかな子は、木下サーカスでアルバイトを捜しており、クマがレスリングをやることになり、その相手になるぬいぐるみを着てレスリングをやれば、1日1万円もらえるらしいと教えられていた。

典子が言うには、思いついたのはこの店の小番頭で、役にぴったりやと思うと言う。

それを聞いたかな子もそら良いわ!スリルとサスペンスが楽しめるわ!と大乗気になり、雁七を呼ぶと、明日、うちとつきおうてくれんか?お祭り観に行きたいんやけど、女1人では危ないやろ?明日の午後4時、田沢門橋でと声をかける。

それを聞いた雁七は夢心地になり、スキップをしながら店の中を走り回り、とうとう倉庫に積まれていた「七ふく」の箱の山にぶつかってしまうが、崩れた箱の下敷きになりながらも、もの凄い!良い気持ち!とうっとりしてしまう。

翌日、町内に神輿が繰り出し、祭りが始まる。

御隠居と安之助、御寮はんの3人は、安之助の実家へ出かける。

それを見送る雁七は、夕方のこいはんとのことを想像しているのか、終始、満面の笑顔だった。

そんな中、崑松、小松、平松の3人はサーカスを観に出かける事にし、中も危ないよって…と雁七の顔を観ながら皮肉るが、今日の雁七の様子はいつもと全く違っており、妙に3人に優しいことに気づく。

午後4時近くになり、店にやって来たのが、博多の九州堂(桂小金治)だったので、4人は仰天する。

今日は来られへんとお電話があったはずですが?と雁七は狼狽するが、九州堂は、全く知らないし、たった今着いたばかりだと言い、上がり框に腰を降ろす。

これには、出かけようとしていた小松たち丁稚も、夕方からのこいはんとのデートが迫っていた雁七の方もがっかりし、ほな、あの電話は…?お前等、何か隠しとるな?と小松たちを睨むと、表、出ることならん!と言い渡す。

小松、崑松たちは、隣の部屋に来ると、箒の上に雑巾を乗せて、客が早く帰るよう祈り始める。

一方、九州堂の相手をしていた雁七は、柱にかかった時計を気にしながら、ご注文は?とせかすが、事情を知らない九州堂は、のんきに、今日は暑いな。水をくれ等と言い出す。

平松がコップに水を入れ持って行くが、それを飲み干した九州堂は、お代わり等と言う。

雁七はイライラし始め、バケツで持って来い!等と言う始末。

隣で祈っていた小松たちに気づいたお八重は、早く客に帰ってもらいたかったら、そんなもんではダメで、下駄に灸を据えるんやと教える。

時間は、もう3時15分だった。

雁七は焦り、ご注文は?と九州堂に迫るが、注文書をバッグから出そうとした九州堂は、上に重ねて入れていたいくつもの土産を一々取り出し始める。

そんな九州堂の側に匍匐前進で近づいて来た崑松は、持って来た灸を、九州堂の下駄の端にたっぷり盛り上げ、線香の火を付ける。

九州堂は、バッグのそこからようやく注文書を取り出すが、気のせいか、身体の熱っぽさに参り始める。

雁七が注文書を受け取り、品物を取りに行こうとした時、暑さにたまりかねた九州堂が店を飛び出して行き、たまたま通りかかった蕎麦屋の出前とぶつかり、側を地面にばらまいたことにも気づかず逃げ去ってしまう。

ようやく客がいなくなり、安堵した雁七だったが、時計を観ると、もう4時10分前に迫っていた。

しかも、その時、電話がかかって来て、外で女と逢い引きしていた大番頭の忠助(乃木年雄)から、用事が出来て帰れなくなったので、阿倍野の漢方堂に集金へ行ってくれ。大事な用やから、丁稚に行かさず自分で行ってくれよと言われる。

しかし、もうこいはんとのデートに間に合わないと焦った雁七は、集金の受け取りを小松を呼んで渡すと、集金に行って来いと命じる。

小松もいやがり、平松に受け取りを渡すと、平松もいやがり、崑松に渡す。

崑松も背後の誰かに渡そうとするが、誰もいないので、仕方なく自分が集金に出かけることになり、「チンポンパ!」とおどけてみせる。

先に、田沢門橋に来ていたかな子と典子は、そこにスポーツカーでやって来た典子の兄信男(天津七三郎)と、東京から祭りを観に帰って来たと言う岡田(池田恒夫)と言う友人から声をかけられる。

かな子らは、もう雁七にクマのぬいぐるみを着せることなどどうでも良くなり、明日でええやろ等と言うと、スポーツカーに乗り込み、その場を去ってしまう。

その直後にやって来た雁七は、こいはんの姿が見えないので焦るのだった。

一方、集金に出かけていた崑松は、側の公園の子供たちがやっていた野球のボールが頭に当たったので、むっとする。

金網の向うから、子供たちがボール投げて!と頼んで来るが、意地悪をして、崑松は、目の前にあったマンホールの穴にボールを放り込む。

すると、そのボールがぽーんと跳び上がり、金網の向うの子供のグラブに入ってしい、礼を言われる。

崑松は不思議がり、近くにあった行商人の車からバナナを勝手にもぎ取ると、又マンホールの穴に放り込んでみる。

すると、又、バナナが飛び出して来たので、ますます面白がった崑松は、行商人の車から卵を数個持ち出すと、マンホールの中に投げ込む。

すると、今度は、数羽の鶏が飛び出して来たではないか!

興に乗った崑松は、今度は近くに置いてあったペンキ缶の中から、赤いペンキが入った缶を取り上げると、その中味をマンホールの中に流し込む。

すると、頭からペンキをかぶった工事のおっさんが、この野郎!と怒鳴りながら飛び出して来たので、崑松は慌てて逃げ出す。

何とか、阿倍野の漢方堂に着き、店の番頭(中田耕二)から集金する45900円を渡され、確認してくれと言われた崑松が、その場で、1つ!2つ!と札を数え出すが、入口前でしゃがんでいた女の子3人が、持っていたおはじき(?)を、同じように、1つ!2つ!と数えていたので混乱してしまう。

結局、きちんと確認しないまま、持って来た集金袋に仕舞い、帰ろうとした崑松だったが、店の主人が、これでもお食べと言って、最中をくれたので、喜び、食べようとするが、店の前の女の子たちがじっと見つめているのに気づき、慌てて、その最中を懐にしまうと、急いで袋を持って店を飛び出して行く。

所が、崑松が手にした袋は、前から置いてあった似た別の袋だった。

その後、縁日の出店が並ぶ一角の綿菓子屋の前で油を売っていた崑松だったが、たまたま「お百度こいさん」の唄を歌いながら近づいて来た、浴衣姿の七ふく堂の前の店の丁稚たち(和田弘とマヒナ・スターズ)が、こんな所で何してるんや?早よ、店にお帰りと声をかけてくれたので、店に戻ることにする。

その頃、橋の上でこいさんことかな子を待ちわびていた雁七の足の下には、大量の煙草の吸い殻が落ちていた。

店に戻って来た雁七は、綿菓子を手に戻って来た崑松に、今まで何しとったんや!と叱りつける。

出店を色々見て回り、綿菓子屋の前で観てたら、おっさんがこれくれたんやと正直に答えた崑松だったが、袋の中から集金の金を取り出そうとして、中には何も入ってないことに気づく。

45900円もの金を紛失したと知った雁七は、お前等国に帰すぞ!と小松たちを怒鳴りつける。

崑松は無邪気に、国に帰れる!と喜ぶが、小松から、おかん、泣くぞと言われると、急にしゅんとなってしまう。

雁七の方も、集金を丁稚に任せた自分の責任だということは自覚しており、給料の何ヶ月分なんや…と弁償を覚悟し、崑松から奪い取った綿菓子をくわえる。

小松と平松は、崑松と一緒に、今歩いて来た道を探しに戻ることにするが、二叉路に来た時、帰って来た道は崑松に1人で行かせ、行きの道の方を自分等2人で探すことにする。

しかしすぐに、行きの道では、崑松はまだ金を持ってなかったことに気づき、いくら探しても金が落ちているはずもなく、小松と平松は、自分たちが選んだ道の選択が間違っていたことに気づく。

崑松の方は、夜道をとぼとぼと歩いて探しまわるが、金を見つけることが出来ず、途中で歩きつかれたこともあり、大阪の町から自分の故郷である丹波の方向を探して向くと、おかん!わてのお金、どこ行ったか教えて!と泣きながら叫ぶのだった。

崑松がしゃがみ込んだ横には、女のコ○キ(林喜美枝)が座っており、母と小さな娘が通りかかると、頭を下げる。

すると、母親からお金を上げなさいと言われた娘たちが、崑松の方の前にお金を置いて去って行く。

崑松は驚き、そのお金を手に取るが、すぐに隣の女コ○キに奪い取られてしまう。

しかし、頭を下げたら鐘を恵んでもらえると思い込んだ崑松は、女コ○キと同じように、人が通るたびに頭を下げ始める。

その時、崑松は、信男と手を繋いで通りかかったかな子を見つけたので、あ、こいさん!わて、お金なくしてしもうて…と声をかけるが、かな子は信男の手前、こんなコジキの子なんか知りません!と無視して通り過ぎてしまう。

後に残された崑松は、去って行くかな子の後ろ姿を観ながら、こいさん!と泣き出す。

その頃、七ふく堂では、漢方堂の番頭が直々に、崑松が間違えて店に残していた金の入った集金袋を届けてくれていた。

御隠居はんは、集金を丁稚に任せた雁七を叱っていた。

丁稚たちも外出禁止や!と御隠居はんは立腹していた。

外をうろついていた崑松は、空腹のあまり、「雁来軒」と書かれたラーメンの屋台の前に来るが、その店の前にいた子供(芦屋小雁-二役)が崑松の物欲しそうな顔を見て、バカ!と言い、追い返す。

すると、店の中から、太郎!と子供を呼んだ中国人らしき父親(芦屋雁之助-二役)が、去って行く崑松の方を見ながら、中国にこんなことわざがある。バカとバカとがぶつかって、バカバカしい…とシャレを言う。

あてどもなく、とぼとぼと歩いていた崑松の前に、一台のジープが停まったかと思うと、そこから降りて来たピエロが、坊ちゃん!と声をかけて来る。

崑松は、目の前に出現したピエロを観て、恐怖に怯える。

ピエロの辰(森川信)は、崑松を乗せて木下サーカスに戻って来ると、団長(榎本健一)に、坊ちゃんが外をうろついていましたと報告する。

しかし、団長は不思議そうに、太郎!と呼びかける。

すると、赤いラジコンカーが走って来ると、その奥から、そのコントロール装置を持った崑松そっくりの太郎が登場したので、辰は驚く。

崑松自身も、自分と瓜二つの太郎を観てあっけにとられたようで、ハゲ、どっちにある?と聞く。

すると太郎は、左!綱から落ちた時出来たんや!と答えたのは、わいは右!うちでは父ちゃんにも爺ちゃんにもあるんやと嬉しそうに教える。

どうやら太郎も、崑松同様に知的ハンデがあるらしく、2人の違いと言えば、頭のハゲが右か左かの違いだけらしかった。

崑松は団長に、わては綱渡りが出来ます。ここに置いて下さい。今日、店のお金落として、国に帰らされることになったんですと頼むと、それを聞いていた太郎も、お父ちゃん、置いてくれと頼み、団長は渋々置いてやることにする。

すると、崑松と太郎は、赤いラジコンカーを互いに手に取って、嬉しそうにグルグル廻り始めるのだった。

その後、崑松は、ピエロの辰に連れられ、猿の寝床だと言う藁敷きの場所に来る。

それでも崑松は大喜びする。

辰が去った後、崑松は、チンパンジーの三ちゃんが目の前にいることに気づく。

三ちゃんは、崑松と話が出来る猿で、1年8ヶ月前、崑松が故郷の丹波から列車で大阪に出て来たとき、駅で見送っていた両親と7人兄弟とは別に、木の上から手を振って別れを惜しんでいたが、その後、捕まってしまったのだと教え、こうして又崑ちゃんと会えたのは運命だよと言う。

運命って何?と崑松が聞くと、ダダダダ~ン!だよと、ベートーベンの「運命」のメロディを歌ってみせる三ちゃん。

その夜遅く、帰宅したかな子は、家人を起こさぬようにそっと居間に入って来るが、御隠居以下、全員起きていたことを知り驚く。

聞けば、崑松が店のお金を落として思い込み探しに出たきりまだ戻らないのだと言う。

スイカを食べながら、そんで、あんな所にいたのか…と口を滑られたかな子だったが、何か知ってるのか?と御隠居に言われると、デートしていたことを知られたくないばかりに、知らないと答えてしまう。

物干し台では、雁七が崑松の事を案じ、アホな子やな…と嘆いていた。

そこに、小松と平松がやって来たので、雁七は物陰に身を隠す。

小松も平松も、帰って来ない崑松の事を心配しており、この夜空の下のどこか、この大阪のどこかにおるのやろうな…などと言いながら、夜の町を眺める。

平松は、ハーモニカで、崑松が好きだった「暮れ行く秋の夜~♪」と「旅愁」のメロディを吹き始める。

小松は、崑松~!と名を呼びだしたので、隠れていた雁七も、自分がここにいる事を小松らに知られたくないので、声は出さないまでも、口では同じように、崑松~!と呼びかけ始める。

翌日、サーカスの練習が始まる中、団長の前にやって来たのは、動物の餌用の魚を台車に氷と共に詰めて運んで来た魚屋(宮島安芸男)だった。

そこに、太郎と崑松が揃ってやって来ると、それを観た劇団所属の歌手ザ・ピーナッツ(本人)が、双子よ!良く似てるわねと互いに顔を見合わせ、楽団の連中も驚いて演奏を止めるほどだった。

ミッキー、ミニー、ドナルドのディズニーシャツを着た太郎は、団長に連れて来たよと言うと、自分は綱渡りの練習を始める。

団長は崑松に、君も綱渡りを見せてくれと頼むと、あんな高い所で早う出来へん。もっと下!と言い出した崑松は、自分で、側にあった綱を地上に伸ばし、音楽をやらな、出来へんと言う。

仕方がないので、団長は、楽団に演奏を命じ、音楽が始まると、崑松は地上の綱を渡る真似を始める。

それを観ていた三ちゃんは、あ~あ、観ていられないと手で顔を隠すと、自ら、綱渡りの台によじ上ってみせる。

すると、三ちゃんに気づいた崑松が、その後を追って、台を登り始める。

そして、三ちゃんが雲梯(うんてい)のようになった場所を歩き始めると、崑松も、雲梯(うんてい)のように、手で交互に鉄棒を握って渡り始める。

それを下から観ていた団長は、あまりに高い場所なので、危険と感じ、団員たちにネットを早く持って来いと命じる。

下の騒ぎに気づいた崑松が、思わず下を見ると、団長たちが小さく見えたので、急に怖くなり暴れ出し、近くに垂れていたロープにしがみつく。

しっかり捕まっているんだぞ!と下から団長が呼びかけるが、ネットを運んで来ようとした団員たちは、ネットが金具に引っかかっていることに気づかなかった。

なかなかネットが到着しない中、崑松が握りしめていたロープは、重さに耐えかねて切れ始める。

そして、とうとうロープは切れ、落下した崑松が落ちたのは、魚屋が持って来ていた台車の上だった。

氷と魚がクッションになったお陰で、崑松の命は無事だったが、氷の中に落ちたので、身体中が凍り付き硬直してしまう。

三ちゃんが、凍った崑松の身体を、木琴のバチで叩いてみせる。

驚いたピエロの辰は、近くにある「日本未来研究所」に崑松の身体を運び込む。

出迎えた女性所長(若水ヤエ子)は、ロケット式原子力治療行いますと説明し、崑松の身体を小型ドーム状の機械の中に入れる。

少々副作用が出ますが…と所長が言うので、辰は驚いて、どんな副作用ですか?と聞く。

すると、所長は、頭の悪いものは良くなり、良いものはバカになると言うではないか。

そこに、ドーム状の機械から、ロダンの「考える人」ポーズで崑松が出て来る。

崑松はピエロの辰を観ると、君は誰だ?と不思議そうに聞き、急にインテリのようなことを言い出す。

それを観ていた所長は、これは相当なバカだったんだなと崑松のことを見抜く。

崑松は、テーブルに置かれていたドイツ語の研究本をスラスラと読んだり、原子計算と言う難解な学術書まで読み解き、これを僕に貸してくれないかね?マンガの代わりに読むんだ等と所長に言い出す。

辰は驚きながらも狼狽するが、所長は落ち着いて、すぐに戻る、頭のランプを観なさいと言う。

すると、崑松の頭に付けられていたランプが消える。

崑松は、いつものように、本、もろた!本、もろた!と喜んで踊り出すのだった。

その頃、七ふく堂では、小松や平松に近所の友達が、崑松がサーカスにいたと教えていた。

そこに、冷蔵庫からバヤリースオレンジを取り出しに来たかな子が話を聞き、わてらもサーカスに行ってやろう。私に任しといて、行っといでと小松等の外出を許してくれる。

小松等が出かけた後、御隠居はんが来たので、かな子は、これからステレオのレコード買いに行かなあかへんわと言うと、御隠居はんは、何や、そのステテコちゅうのは?女の子が恥ずかしい!と顔をしかめる。

サーカスの前にやって来た小松と平松は、雁七までやって来たことに気づき、人ごみの中に身を隠そうとする。

しかし、その人ごみが移動してしまったので、その場にしゃがみ込んでいた2人はすぐに雁七に見つかってしまう。

こんな所で何してるんや?と聞かれた小松は、わてら、こいはんのお使いで…、小番頭はんこそ、どこ行きはりまんねんと聞くと、雁七は、公文堂の集金やと言い、その場を離れて行く。

小松と平松は、裏手に廻り、そこに立っていたひげ面の力自慢みたいな男に、やあ、久しぶりやな!前に隣に住んでいたものや!と親し気に挨拶し、中に入ろうとする。

すると、そのひげ面の男は、急に軍帽をかぶり、俺は16年ゴム島に暮らしとったんだと言い、敬礼する。

一方、一旦立ち去ったかに思われた雁七も、こっそりサーカスのテントの中に潜り込んでいた。

すると、そこには象がおり、目の前で大きな糞を落としたので、いや!ものすごいことしはる!と驚く。

外に出ると、繋いであった馬たちがいななき出したので、団員たちに捕まる。

雁七は、とがめられると思い謝るが、団員たちは雁七をテントの中に吊れて来ると、シロクマのぬいぐるみを見せ、これを着てレスリングのまねごとをやってくれたら、1日1万出すよと言うではないか。

レスリングなら得意だす!と張り切った雁七は、その話に乗ることにする。

一方、サーカスの裏手で隠れていた小松と平松は、ピエロの辰に見つかっていた。

団長の部屋に逃げ込んだ小松等は、そこに赤いラジコンカーを見つけたのでいじろうとするが、物陰でそれに気づいた太郎が、ラジコンのアンテナに電流を流して、触った小松を感電させる。

姿を見せた太郎を観た小松と平松は、崑松?と驚き、その場から見せに連れて行こうとするが、太郎は必死に抵抗し、逃げ出す。

「猛獣注意!」と書かれたテントの中に、太郎を追って入った小松と平松は、ぼろぼろの姿になって出て来る。

シロクマのぬいぐるみを着た雁七は、リハーサルをやりましょうと言う団員に案内され、黒いクマの檻の中に入れられる。

良う出来てまんな、これ、背中にチャックあらへんし…、あんたさんもアルバイトでっか?と黒クマに声をかけた雁七だったが、返事がないのでおかしいと思い出す。

檻の外にいた団員が、それは本物だよと教えると、雁七は急に怯え、その場で失神してしまう。

その頃、七ふく堂に戻って来ていた小松と平松は、崑松はサーカスで見つけたが、どうにみ帰らん言うてますと御隠居に報告していた。

その時、店の前にサイレン音が近づいて来たので、御隠居は何事ですかいな?と驚くが、担架に乗せられ、顔に引っ掻き傷を付け気絶した雁七が運び込まれて来る。

座敷の布団に寝かせられ、御隠居初め、見せの者全員がその廻りに集まり、心配そうに見守るが、うっすら目を開けた雁七は、ぼんやりした視界の中に、床の間に飾ってあったクマの置物を見つけ、クマ!と叫ぶと、ウォ~ッ!っと一声吼えて、又、気絶するのだった。

仲子から電話を受け、崑松が帰りたがらないと聞かされた典子は、本人がいたい言うとるんなら、しようがないのちゃうの?と無責任なことを言う。

そして、あのサーカス、今日出発したわよと言うではないか。

店の者を集めた御隠居はんは、崑松には、今日限り、暇をやろうと思う。そうせんと、みんなの示しがつかんと言い出す。

それを聞いた大番頭も、丁稚の代わりなどいくらでもいますからなと同調する。

そこにやって来たかな子は、丁稚の代わりはおっても崑松の代わりはいやしませんし、七ふく堂の崑松はあの子だけです!と言い放つ。

すると、雁七も、わても2日間だけお暇を下さい。必ず崑松を探し出して連れ帰りますと頭を下げる。

それを聞いた御隠居は、雁七と今日末に2日間だけ暇を上げますから、崑松を連れ戻して来なさいと言い渡す。

移動した木下サーカスは、瀬戸内海のある町で公演を行っていた。

今や、完全にサーカスの一員となり、ピエロの辰から、空中ブランコの練習を太郎と同じようにやらされていた崑松は、とても出来ないと逃げ腰になっていた。

無理矢理台の上から辰に押された崑松は、ブランコに捕まることも出来ず、ネットの上に落下してしまう。

その日の出し物として、団長が、ザ・ピーナッツと崑ちゃんズと紹介する。

すると、大きな宝箱の蓋が開き、太郎と崑松が同じ衣装を着て出て来た後、ザ・ピーナッツの2人が登場し、「月影のナポリ」を歌い始める。

太郎と崑松は、その唄に合わせ、一緒に踊り出す。

その日、舞台がはねた後、団長の部屋で辰と団長を待っていたのは、太郎の母親であるおきみこと谷使河原きみ子(水原真知子)だった。

部屋に戻って来た団長は、おきみの顔を見るなり、辰に送ってやってくれと頼む。

事情を知っている辰は、外に連れ出したおきみに、今日は黙って帰ってくれと頼む。

おきみは、今さら、太郎を返してくれと言うのも虫が良いことくらい分かっているけど…と哀し気な顔をするので、団長と太郎は、実の親子のようなものなんだ。あんたが今の主人と逃げたときから10年間育てて来た、団長の気持ちも考えてやってくれとと辰は言い聞かす。

太郎が5つの時から会ってないと言うおきみに、それなら、何で仙台であん時、団長に預けて行ったんだ。約束は約束だ。団長は今まで約束を守って来たんだと辰は教える。

サーカスの舞台では、大きな網状の鉄の球の中で、2台のバイクが、ぐるぐる走り回っていた。

崑松を探しに、小松と共にサーカスを訪ね当てて、見に来た雁七は、その曲乗りを目の当たりにして、ものすごいことしてはる!と目を丸くする。

気がつくと、客席にはこいさんも座っているではないか。

かな子は、あんた等だけでは心配だったので自分も来たんやと言い、早よ、崑松を連れて来てやと頼む。

その頃、太郎は、近くの海岸の砂浜で1人遊んでいた。

そこにやって来たおきみは、太郎ちゃん、あんた、お母さんの顔、覚えてる?と話しかける。

忘れた!と太郎が言うと、じゃあ、おばちゃんがお母ちゃんになってあげましょうか?とおきみは言い、太郎はほんま?と喜びかけるが、そこに太郎!と呼びながら近づいて来た団長は、何度言ったら分かるんだ。帰れと言ったら帰れ!とおきみを叱りつける。

おきみが涙ながらに立ち去ると、せっかく僕のお母ちゃんになってくれると言うてくれはったのに、お父ちゃんのバカ!バカ!と太郎は怒り出す。

その様子を見た団長は、太郎、そんなにお母ちゃんが欲しいのか?と聞く。

その後、団長はぐずっている太郎を連れてサーカス小屋に戻って来る。

遅れてやって来た太郎を、隠れていた雁七と小松が、崑松と思い込み連れ去ろうとする。

抵抗して逃げ出した太郎は、衣装が置いてあるテントに逃げ込み、マネキン人形の真似をする。

そこに入って来た雁七と小松は、最初は、マネキンに化けた太郎を見抜けないでいたが、あれこれ身体をいじっているうちに人間だと気づく。

太郎は、カンカン踊りを披露中の舞台の中に入り込んでしまう。

後を追って来た雁七と小松も、仕方なく、カンカン踊りの真似をして踊子の中に限れ込む、

すると、カンカン踊りの衣装を着た太郎が隠れていた。

さらに逃げ出した太郎を追って舞台内を走っていた雁七と小松は、目の前にあった金具を握るが、それは天上に昇るロープの端だった。

2人はロープに吊られ、天井付近まで持ち上げられるが、そこにいたのは本物の崑松だった。

小番頭はん!小松!と声をかけた崑松を、何とかテントの外に連れ出した雁七たちだったが、そこにやって来た藁を積んだリヤカーに崑松は身体をすくわれて持って行かれる。

それに気づかないで先に歩いていた雁七たちは、遅れて外に逃げて来た太郎と遭遇し、崑松と勘違いされたまま又捕まえる。

そこに団長が近づいて来たので、小松たちは、側に置いてあった雪だるまの着ぐるみを太郎にかぶせ隠す。

横を団長が通り抜けようとした時、雪だるまの中から、お父ちゃん!と太郎が呼びかけ、団長は不思議そうに振り返る。

小松が機転を利かせて、自分がお父ちゃん!と言ったように見せかけたので、団長はそのまま去ってしまう。

雁七と小松は、太郎を連れ出すと、外で待機していたかな子のオープンカーに無理矢理押し込む。

小松も乗り込んだので、かな子は車を出発させるが、雁七だけは乗り遅れていたので、こいはん!待って下さい!と呼びかけながら、飛行機のポーズを取りながら、車の後を追って走る。

そこ頃、藁まみれになった崑松がふらふらとテントの所に戻って来るが、すでに小松たちの姿はなかった。

どこ行きはったんや?と立ち尽くしていた崑松の所に、団長が近づいて来て、太郎と呼びかける。

そのまま、自分の部屋に連れて行った団長は、疲れきって寝てしまった崑松に、そっと上着をかけてやるのだった。

その後、テントの中央で1人考え込む団長。

そこに呼ばれてやって来たピエロの辰に、太郎をおきみの所へ連れて行ってやれ。築部旅館にいるはずだと団長は告げる。

辰は、団長の変心に驚くが、その視線に気づいた団長は、大丈夫、わしにはサーカスがあるよと答える。

七ふく堂に連れて来られた太郎は、柱にしがみついて抵抗していた。

それを観て呆れる御隠居に、小松と雁七は、サーカス癖が付いてるんですと説明し、いつものように、平松と一緒に、ちょっと来い!と呼びかけるが、いつもの崑松のように、太郎は乗ってこなかった。

こいはんが、キャラメル好きやろ?と言いながらキャラメルを取り出して見せると、素直に柱から降りて来た太郎は、キャラメルをもらう。

小松たちは、いつもの崑松のように「キャラメルもろた!」と踊り出すのを期待するが、太郎は、そんな小松たちをバカにしたような目で見て、あんた、アホちゃうんか?と言うと、又柱にしがみつくのだった。

一方、崑松の方は、おきみとその主人(大江真砂夫)の豪勢な屋敷に連れて来られていた。

崑松は、部屋に飾られていた鎧甲冑像を観て、好奇心を起こし、面当ての口の穴の中に指を突っ込んでみるが、抜けなくなったので、焦って大声を出す。

驚いたおきみと主人が駆けつけて助けてくれるが、崑松は、わて、家に帰りたいと訴える。

おきみは、ここがあなたの家で、私がお母ちゃんやないのと言い聞かそうとするが、崑松は首を振り、ほんまのお母はんいますと答える。

食事の時も、崑松は出された洋食に慣れず、飼い犬と一緒に食べる有様。

つけもんあらへんと崑松は不満そうだった。

さらに、庭先で、召使いたちそうでで、ハゲ隠しをされたので、崑松は暴れる。

その夜、寝慣れないベッドで寝ていた崑松は、サーカスでロープから落ちる夢を見て、ベッドからずり落ちる。

夜中に目覚めた崑松は、開いた窓の外にチンパンジーの三ちゃんがいることに気づいて喜ぶ。

三ちゃんは、助けに来たよと言ってくれ、崑松は窓から逃げ出す。

その直後、部屋に入ってきたおきみは、太郎、実は崑松がいなくなっていることに気づくのだった。

その頃、七福堂に連れて来られていた太郎の方は、言うことを聞かない罰として、蔵に閉じ込められていた。

そこに、こっそり食事を運んで来てやったのはかな子だった。

扉を開け、遠慮のう、お食べと声をかけたかな子だったが、太郎は怯え、鉄柵の嵌った窓にしがみつき、お父ちゃん、助けて!と叫ぶのだった。

その声が聞こえたのか、サーカスの部屋で寝ていた団長は、夜中に目覚めてしまう。

そこにやって来たピエロの辰が、たった今、芦屋のおきみから連絡があり、太郎ちゃんが逃げ出したと言って来ました。何でも猿と一緒だそうですと知らせる。

猿と一緒?と聞いた団長は、じゃあ、連れて行ったのは崑松の方だ!と気づく。

その頃、崑松と三ちゃんは、線路の上を歩いて、へとへとになりながら帰っていた。

ああ、しんど!おんぶしてなと三ちゃんにねだる崑松に、チンパンジーの三ちゃんは呆れる。

その後、何とか、七ふく堂の前まで帰って来た崑松を観た小松と平松は、幽霊でも見たかのように固まってしまう。

そして、慌てて蔵の前まで行くと中を覗き込む。

すると、中でちゃんと、太郎が寝ているではないか!

2人が怯えていると、雁七が近づいて来て訳を聞く。

小松は、もう1人、崑松がいますと教えるが、半信半疑の雁七は、表に出て、そこに本当に崑松がいるのを観ると仰天する。

大変だす!御隠居はん!と雁七が大声を上げたので、御隠居はんや店の者が、何事かと帳場に出て来る。

雁七が崑松を店の中に吊れて来て、崑松が2人いますねんと言うと、崑松は恥ずかしそうに、ご無沙汰してますと御隠居に頭を下げる。

小松と平松が、蔵から太郎を連れて来ると、その人はサーカスの団長の息子はんだすと崑松が説明する。

しかし、御隠居たちは、瓜二つの崑松と太郎を見比べ声がない。

雁七は崑松に、御隠居はんに謝るんやと命じるが、御隠居は、謝らんかて良い。崑松は、わしの言いつけでサーカスに出張していたんやと粋なことを言ってくれる。

すると、そもそもうちが悪かったんや。雁七、堪忍やでとかな子が詫びる。

雁七はその言葉に感激するが、お陰で、うち、信夫はんに惚れたんやとかな子は言い出す。

そこに尋ねて来たのが、典子と兄の信夫たちで、かな子はあっさり、信夫と一緒に出かけてしまう。

それを見送った崑松は、女であることを夢見る…とまじめな口調で呟く。

その時、太郎!お前のお母ちゃんだよと言いながら、おきみを連れて来たのはサーカスの団長とピエロの辰だった。

その時、店の表が騒がしくなり、木下サーカスの一行が通りかかる。

崑松は、あ!サーカスや!と喜び、観に行こうとするが、小松と平松に捕まり、そのまま蔵の中に閉じ込められてしまう。

蔵の出入口には「立ち入り禁止」と書かれた札が何枚も貼られる。

すっかり閉じ込められてしまった崑松は、入口の戸の金網にしがみつき、サーカス観る!とだだをこねるのだった。