TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

やりくりアパート

関西発信のテレビ人気ドラマ「やりくりアパート」の映画化

当時、作品自体を見ていたか定かではないが、佐々十郎が時折口ずさむ「やややや~本当にね~♪」のメロディには何となく聞き覚えがある。

この手の公開バラエティに再放送があったかどうかも怪しく、案外、本放送の後半辺りを見ていた可能性もある。

さて本作は、映画版として特別なミステリ仕立てになっているのだが、67分程度の中編にしてはかなり面白く出来ている。

テレビのドラマ自体に馴染みはなくても、意外性のある出だしから快調で、途中の展開も面白く、ラストの意外性もあるので、十分楽しめる内容になっているのではないかと思う。

ユーモアミステリとしての伏線も巧く、野崎が入る部屋番号などは、後になってその意味が分かるような仕掛けになっている。

主役の大学生コンビを演じているのは佐々十郎と大村崑だが、どうやら崑ちゃんの方が大学の先輩なのだが、佐々やんとは普段はため口の仲で、一緒に同居していると言う設定らしい。

何せTV版の初期設定を知らないので、2人が一緒に暮らし始めた経緯などは分からないが、この作品を観る限り、特にそうした知識はなくても問題ないようである。

アパートの管理人を演じているミヤコ蝶々とその愛人(?)役で出ている南都雄二との、夫婦漫才仕立ての設定も面白い。

いちゃいちゃした感じが出ているのは、おそらく2人の仲が良かった頃の作品なのだろう。

映画版独自のゲストだと思うのだが、関東の喜劇人だった有島一郎が登場しており、意外な役を演じている。

この当時の有島一郎は、色々な役を演じており、金田一ものの「吸血蛾」(1956)等を観ていると、逆に騙されてしまうキャスティングのような気もする。

温厚そうな老刑事部長を演じているには益田キートンで、この翌年から、日活で、人情刑事役のシリーズもの「刑事物語」シリーズが始まっている。

この頃既に、頭が薄くなっている内田朝雄が、その部下の刑事役を演じているのにも注目したい。

舞台はアパートと、この時代の娯楽映画には必ずと言って良いくらい登場するキャバレーがメイン。

そのキャバレーの支配人役で登場しているのは、ファンファンこと岡田真澄のお兄さんE・H・エリック。

茶川一郎が、一切おちゃらけず、まじめなヤクザ役を演じているのも意外である。

余談だが、この作品のタイトル、ネットのキネ旬データには何故か載ってない。

載っているのは、二作目の「やりくりアパート びっくり大放送」の方だけ。

しかも、そのタイトルも「びっくり大放送」とだけで出ており、キャストやあらすじは、この1作目の「やりくりアパート」のもの。

キャストは1作目とほとんど同じと言う可能性もあるが、あらすじまで同じと言うのはおかしい。

何か、根本的に記載ミスがあったとしか思えない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、宝塚映画、花登筐原作、内海一晃+倉田順介脚本、竹前重吉監督。

逃げて来る男を銃を持ったトレンチコート姿の男が追って来る。

トレンチコートを来た男は佐々やんこと佐々十郎(佐々十郎)、逃げている男は崑ちゃんこと大村崑(大村崑)だった。

佐々やんに追いつめられ、難波橋の上に逃げて来た崑ちゃんだったが、佐々やんが銃を発砲すると、近くを通りかかった蕎麦屋の出前持ちが音に驚き転ぶと同時に、崑ちゃんもその場に倒れ込む。

思わぬ事件発生に、あっという間に人だかりが周囲を取り巻く。

すると、死んだと思っていた崑ちゃんが、瓶から錠剤を取り出して口に放り込みながら立ち上がると、殺し屋役の佐々やんと共にコートを脱ぐ。

すると2人とも、学生服の背中の部分に大きな布が貼付けてあり、そこには「ノイローゼにはギョナオル」と書かれており、崑ちゃんが「とうしん堂のギョナオル!」と連呼し始める。

佐々やんも「やややや〜本当にね〜♪」と歌い出す。

宣伝だと分かった野次馬たちに、2人は用意していたビラを配布し始める。

学生コンビの佐々やんと崑ちゃんは、アルバイト先の「宇宙広告社」に戻ると、そこの社長花田清三郎(大江真砂夫)から、良くやった!大成功だった!と絶賛される。

たまたまその部屋にいたチンドン屋たちにも、彼らを見習えと説教する社長を観ていた2人が恐縮するほどだった。

しかし、そのまま社長室に戻って行った社長に、笹やんは、思わず花より団子で、金は?と言いかけたので、それを制した崑ちゃんは、汚い。もっとスマートに言いなさいと叱りつけ、2人して社長室に入って行く。

何だね?と聞いて来た社長に、崑ちゃんが、こいつがスマートな事言いますからと言うと、ああ、新しいアイデアですね!と花田社長も勝手に解釈し、興味深そうに笹やんの言葉を待ち受ける。

笹やんが悩んだ末、社長に言ったのは、おい、銭くれや!だった。

とは言え、ちゃんとギャラをもらった2人は喜び勇んで会社を出ると、これから飲みに行こ!と張り切る。

そんな2人の間で急ブレーキをかけて停まったタクシーの運転手が、危ないやないか!と怒鳴って来るが、それは、同じ「平和荘」に住む住人、雄さんこと南雄二(南都雄二)だった。

何してるんやと聞かれた2人が、金が入ったとこやと教えると、ほなええとこ行こ!乗り!と声をかけて来たので、2人は浮き浮き気分でタクシーの後部座席に乗り込む。

ところが、タクシーが着いた先は、「アパート 昭和荘」だった。

何や、ここうちらのアパートやないかとぼやきながら降りた2人に、雄さんは、もろうた給金、部屋代の足しにしとき、もう3月も貯めるやそうやないかと言うではないか。

逃げ出そうとした2人だったが、その時、管理人室の窓から顔を見せた管理人のお蝶(ミヤコ蝶々)も、こら〜!逃げたらあかん!と怒鳴って来たので、2人は諦め、今もらった給金袋から1000円を出して渡す。

たった1000円か!と雄さんは呆れるが、部屋代高いやないの。そもそも、何で、雄さん、一番ええ部屋にいるのに部屋代払ってないのに、うちら汚い部屋で3000円も払わなあかんのと文句を言う。

この2人、出来とるで!と笹やんがお蝶と雄さんの事を冷やかすと、雄さんはまんざらでもない笑顔で、色男は辛いなとにやけるし、お蝶の方は、誰がこんなしょうもない男を…、たかが運転手やないの!と怒鳴り返して来る。

部屋に戻りかけた崑ちゃんと笹やんを呼び止めた雄さんは、タクシー代320円を要求する。

呆れた2人は一銭も持ってないと、それぞれ空っぽの財布や、学生服のポケットを裏返してみせるが、笹やんのポケットに10円玉が入っていたので、それを手金として取ってくれと笹やんは雄さんに渡す。

雄さんが出かけようとすると、どこ行くんやとお蝶が止めるので、働かな食えんからな!運転手で悪かったな!怒っとるんや!と先ほどのお蝶の言葉の事をねちねち言う。

2階に上がる階段の手すりに股がって滑り落ちる遊びを崑ちゃんがしていると、アパートに住む大工の子供たちが集まって来て、出かける雄さんに菓子をねだったので、雄さんは持っていたたこ焼きを渡して行く。

笹やんと崑ちゃんも、そのたこ焼きくれと頼むが、子供たちが断ったので、ある方向を指差して子供らの視線をそちらに向けさせた隙を狙い、2人は1つずつたこ焼きを盗んで頬張ると言うせこい作戦をする。

その2人が二階へ上った後、まだ子供たちが、手すりに股がって滑る遊びをしていたので、見つけたお蝶が叱りつける。

すると、子供は、壊れてもうちの父ちゃんがすぐ直せるわ!と憎まれ口を聞いて部屋に戻って行く。

子供たちがいなくなると、叱ったお蝶も、何やおもろそうやなと言い出し、自分も手すりに股がって滑り降りようとするが、その途端、手すりが壊れて、お蝶は下に転げ落ちてしまう。

翌日、その日も、「宇宙広告社」の花田社長が、難波橋の下で崑ちゃんに銃を手渡す。

今日は選手交代で、崑ちゃんの方が殺し屋の役で、笹やんの方が撃たれて倒れる役をやることにする。

昨日と同じように、難波橋の上に登ると、そこに1人の男が立っていた。

笹やんが構わずに銃を発射すると、昨日の蕎麦屋ので前が又振り向くが、何だ、又宣伝かと通り過ぎるが、崑ちゃんが倒れようとした時、横になっていた男が倒れてしまう。

ちょっと困ります!僕が倒れなあかんのですから…とその男に声をかけた崑ちゃんだったが、倒れた男を揺り動かそうと手を触れると、血が付いている事に気づき腰を抜かす。

笹やんも事情が分からないように近づいて来たので、倒れた男の身体を探っていた別の男も驚いて逃げ出す。

倒れた男に近づいた笹やんは、道に落ちていたアメリカ現住民の顔が描かれたライターを無意識に拾い上げた後、ようやく倒れた男が撃たれて死んでいる事に気づくと、知らん!うちらと違いまっせ!と叫びながら、持っていた銃を捨てるのだった。

野次馬が集まって来て、パトカーのサイレン音が近づいて来る。

重要参考人として警察に呼びだされた2人だったが、鑑識の結果、笹やんが持っていた拳銃に硝煙反応はなく、ただの玩具である事が判明する。

小沢刑事(内田朝雄)の報告でその事を知った山川刑事部長(益田喜頓)は、今回の事件は、笹やんの玩具の銃の音に乗じて別人が射殺した巧妙なトリックだった事に気づき、目の前ですっかりしょげていた崑ちゃんと笹やんを慰めると、モンタージュ写真の作成に協力を依頼する。

2人は最初に写された目の部分の印象の意見を悪口まじりに互いに言い合うが、その目は山川刑事部長本人のものだった。

やがて、2人の証言を元に1枚のモンタージュ写真が完成する。

しかし、その写真を見た山川刑事部長は、わしは30年も刑事をやっとるが、こんなおめでたい顔もいないだろうと苦笑する。

その頃、「昭和荘」の浴場で身体を洗っていた雄さんは、一緒に入っていた同じアパートの男たちから、肌が黒光りしているから、雄さん、今日中に何かええことあるわなどと褒められていたが、その時急にお蝶が扉を開け、警察があんたを連れに来とると心配そうに知らせる。

お蝶は迎えに来た小沢刑事に、何かの間違いやと思うと必死にかばうが、刑事がモンタージュ写真を見せると確かに雄さんそっくりであり、同行を求められた雄さんに付いて、自分も一緒に警察に行くしかなかった。

警察に付いたお蝶は、雄さんは絶対自分が保証すると力説するが、ポリグラフ(嘘発見機)にかけられる事になる。

その結果、雄さんを犯人だと思うか?との質問に、「白です」と答えたお蝶だったが、ポリグラフの針は大きく動く。

難波橋事件のときは自分と一緒にいたと証言したお蝶は、その場所を聞かれ、映画館…などといくつかの場所を迷いながら、紙芝居を観ていたなどとおかしな答えをし、又しても針が大きく動く。

雄二に君は好意を持っているのでは?と聞かれると、あんな男、絶対に嫌いです!と口では否定しながらも、ポリグラフの針は大きく動くのだった。

その結果を観た山川部長刑事は、大変な嘘を発見したねと驚きながらも、すぐに、小沢刑事が本町からの連絡が今入り、殺されたのは密輸団の一味で、殺したのはどうやら第三勢力の仕業らしいと指摘する。

それを聞いた山川刑事部長も、奴らはドライだから、何をするか分からんな…と今後の展開を案ずる。

その後、アパート「昭和荘」に戻って来たお蝶は、新しい客と契約する。

権利金などを即座に支払ってくれたその客野崎(有島一郎)に、お蝶は相好を崩すが、全く笑顔を見せないその男は、どこか得体の知れない所があった。

警察から帰って来た崑ちゃんと佐々やんは、アパートの玄関口にかけてあった「空室あり」の札を外しているお蝶を観て、新入りが入った事を知るが、その野崎がやって来て、玄関先でタバコを吸おうと佐々やんが取り出したライターを、じっと見つめていることには気づかなかった。

その直後、アパートの住民で歌手の卵小泉みどり(峯京子)が、女友達と一緒に二階から降りて来て、今歌っているキャバレーに向かう所に遭遇した崑ちゃんと佐々やんは、バイト先の社長が今夜君の店に連れて行ってくれる事になったんやと伝える。

可愛いみどりが、じゃあ待ってる!と笑顔で答えて出かけるのを見送った崑ちゃんが、僕、みどりちゃん、好きやねんと言うと、俺も好きや、お互い、みどりちゃんの事に関しては絶対フェアに行こうなと佐々やんも手を差し出して来たので、2人は固い握手をして誓い合うのだった。

お蝶は、警察から帰って来た雄さんに、野崎が入る110号室を掃除してくれと頼み、警察から出られたのは誰のお陰やと恩着せがましく言う。

すると雄さんは、警察で渡されたお蝶のポリグラフの結果表を取り出して、お前、俺のこと嫌い言うたらしいけど、グラフには好きとなっとんたんや!と責める。

それを聞いたお蝶は、何て、はしたない!と惑いながらも照れて見せる。

その後、箒を持って110号室の掃除をしていた雄さんの元にやって来た崑ちゃんと佐々やんは、モンタージュ作成のとき、雄さんの顔を思い浮かべた頃を詫びると共に、今からキャバレーに連れて行ってもらえるんやと知らせて出て行く。

1人取り残された、雄さんは、キャバレー、わても行きたいわ!とすねる。

花田社長に伴われ、みどりがステージで歌うキャバレーにやって来た崑ちゃんと佐々やんは、ボックス席でただ酒を飲み、すっかり満喫していたが、そこに、店の支配人東谷(E・H・エリック)が酒を注ぎに来る。

店のカウンターにはあの野崎も来ており、じっと何者かを監視をしているようだった。

佐々やんは、みどりちゃんは我々のハンドル…、否、アイドルなんで宜しくお願いしますと頼む。

すると、花田社長は、そんなことを言うとよろめくもんだよと笑う。

そんな佐々やんたちのボックス席に挨拶に来たみどりに、花田社長を音楽通なんだと紹介する佐々やん。

すると花田社長は、コロンブスレコードの社長なら親友だから紹介するよと言ってくれる。

そんな花田社長が煙草を取り出したので、佐々やんはサービスとして、持っていたライターで火をつけてやるが、その様子を隣に座っていた客も観ていたのか、ちょっと拝借と言って、佐々やんからライターを借りて自分のタバコに火をつける。

そのまま、そのライターを自分の上着のポケットに仕舞って帰りかけた客を呼び止めたのはみどりだった。

ライターを返してくださいとみどりから声をかけられた客は、最初はうっかりしたように反対側のポケットから別のライターを取り出すが、それじゃありませんとみどりが否定したので、忌々しそうに、佐々やんから奪い取ったアメリカ現住民の顔が描かれたライターをみどりに返す。

みどりは、酔って、ボックス席で寝ていた佐々やんに今返すと又なくしそうなので、自分が預かっておく事にする。

そんなみどりに、花田社長が踊りを誘って来る。

その直後、ボックス席で目覚めた佐々やんは、花田社長がいないので、先に帰られたと思い込み、崑ちゃんを起こすと、ここの勘定どうする!と青くなる。

人間みな感情の動物だなどと、訳の分からないだじゃれを言った佐々やんだったが、フロアでみどりと踊っている花田社長を見つけると、安心したせいか尿意を覚え、崑ちゃん共々、トイレに向かう。

ボーイにトイレの位置を聞いて階段を降りた佐々やんと崑ちゃんだったが、突き当たりを右の指示を間違え、左に曲がった佐々やんは、掃除用具入れの扉を開く。

すると、背中にナイフの刺さった先ほどライターを盗んだ男が倒れ込んで来るが、先客と勘違いした佐々やんは、詫びながらドアと共にその男の身体を押し込み、尿意を我慢し始める。

その後ろでは、崑ちゃんも尿意を我慢していたが、壁の配管のバルブを回した結果、水洗トイレを流したような音がしてしまう。

それを、先客が出て来る合図と思った佐々やんは、尿意に勝てず、強引に扉を開けて中に駆け込もうとする。

又、ナイフが背中に刺さった男の遺体が床に倒れ込んだので、崑ちゃんもろともようやく事態に気づき、2人はそこから逃げだそうとする。

すると、そこに立っていた無表情な野崎と鉢合わせしそうになった佐々やんは恐怖に怯える。

佐々やんと崑ちゃんは、逃げるように「昭和荘」に戻って来るが、その時、2人の部屋を誰かが物色していた事には気づかなかった。

電気の点いてない室内に入って来た2人は、何者かに頭を殴られ、昏倒する。

賊は2人の身体のポケットを探ったあげく、パトカーが外を通り過ぎた事もあり、何も見つける事が出来ないまま、慌てて部屋から脱出する。

その後気がついた佐々やんは、誰かが部屋を荒らして行った!何もかもなくなっている!と部屋を見回して騒ぎ出すが、よく考えてみたら、最初から盗まれるようなものなど何もない部屋だった事に気づく。

安堵した佐々やんだったが、ポケットをまさぐって、ライターがなくなっている事に気づく。

その時、どこからともなく聞こ覚えのあるメロディが聞こえて来る。

そのメロディこそ、佐々やんが持っていたライターを付ける時に鳴る、オルゴール仕掛けのメロディだった。

どこか、二階の別の部屋から聞こえて来るようだったので、そのメロディを頼りに、部屋を出た佐々やんと崑ちゃんは他の部屋の様子を探り出す。

まずは、若夫婦が住んでいる部屋の鍵穴から中を覗き込むと、2人がいちゃいちゃしていたので、思わず崑ちゃんと2人で鍵穴を奪い合うように覗き込む。

しかし、その時、又メロディーが聞こえて来たので、違う部屋からと気づいた2人は、さらに隣のダンサーの部屋を覗き込む。

すると、ちょうど上半身裸のリリイ・本田(アンジェラ浅丘)の後ろ姿が見えるが、気配に気づいたリリイは、誰!?と言いながらカーテンを閉めてしまう。

残る部屋はみどりの部屋だけだったが、みどりがライターを盗むなど考えられないと佐々やんは否定する。

ちょうど、そのみどりは、棚にライターを置いて、ベッドに横になる所だった。

みどりの部屋の灯りが消えた事に気づいた佐々やんは、お休みなさいと小さく言ってドアを離れる。

2階で残る部屋と言えば、新しく入った野崎の部屋だけで、まだ電気が点いていたので、佐々やんと崑ちゃんは、不気味さを押し殺して覗きに行こうとするが、2人バラバラでは怖いので、ぴったり前後に身体をくっつけて、同じ動きをしながら部屋に近づく。

こっそり窓から中をのぞくと、野崎が拳銃を手入れしている所が見えたので、2人は固まってしまう。

2人から、野崎が拳銃を持っていると言う話を聞いたお蝶は、すぐに他の住民たちにも教え、住民たちは恐怖に怯え始める。

愛妻夫婦の夫の方は、妻を1人でアパートに残して行くのが不安らしく、会社を辞めようかなどと言い出す始末。

その時、パン、パン!と破裂音が近くで聞こえたのでみんな凍り付くが、それは、大工の子供たちが癇癪玉を投げつけていた音だった。

これどうしたんや?と大工の女房が叱りながら癇癪玉を取り上げると、雄さんからもらったと子供が言うので、その場にいた雄さんに、子供に変なもんやらんといてくれ。この間もらったたこ焼きも、3人お腹下したと文句を言う。

お蝶は、俺が出て行かせてやる!と2階に上がろうとする雄さんを止めようとするが、拳銃が怖くて流しが出来るか!と雄さんは見栄を張る。

しかし、そこにやって来た佐々やんは、雄さんの顔色が悪いと指摘し、事情を聞くと、止めとき、何されるか分らんからなと言い聞かせる。

みどりも2階から降りて来て、何事かと事情を聞くと、急に雄さんは、腹が痛うなって来たと言い出し、二階へ上がるのを止める。

みどりも、野崎の事を知ると、そんな人なの!と驚きながらも、2人共、こんな良いライターを忘れちゃダメよと言い出し、昨日キャバレーで預かっておいたライターを返す。

ライターを持っていたのがみどりだと分かった佐々やんは、気に入っているのならあげるよと言い出す。

もらっても良いの?と喜んだみどりが、ライターの蓋を開けてメロディを鳴らすと、いつの間に現れたのか、野崎が無表情にライターを観て立っていたので、その場にいたみんなは仰天し、その場を逃げ出すのだった。

「X3」と書かれた的にナイフを突き立てたのは、キャバレーの支配人東谷だった。

第三勢力とは何者なのか、突き止めるんだ!と東谷は、支配人室にたむろしていた子分たちに命じる。

あの学生が手先じゃないでしょうか?あの2人がライターを持っていると思うと、子分の政(茶川一郎)が言うと、昨日やった男もライターは持ってなかったと、背中にナイフを突き立てて殺した客の事を東谷は言い、香港から神戸に来る荷物は、あのライターの中に入っている割り符を持ったものしか受け取れないんだと悔しがる。

私がやってみましょうと言い出した政は、相棒の健を伴って出かけて行く。

ラジオで急に音楽をかけ始めた東谷は、拳銃で棚に置かれていた洋酒の瓶を撃ち抜いてみせる。

サンドイッチマンのバイトをして道頓堀の横のベンチで一休みしていた佐々やんと崑ちゃんに、近づいて来た政と健が、火、貸してもらえまへんか?と言いながら近づいて来る。

佐々やんが持っていたマッチを取り出すと、良いライター持っていると聞きました。開けるとオルゴールの音がする奴。私はこう見えても、ライターには目がなくて、集めているんですよ。譲っていただけませんか?と政は迫って来る。

崑ちゃんが、それやったら小泉みどりさんに譲りました。僕たちのホープなんですと答えると、政は自分のライターで煙草に火をつけながら立ち去って行く。

それを見ていた崑ちゃんは、あいつらライター持ってるのに、火を貸せなんて言うて来たけど怪しいんじゃないかと気づく。

そう言われてみれば、何であいつら、僕らが持っているライターに点いて詳しいんやろ?…と佐々やんも気づき、崑ちゃん、真剣に考えよう。僕ら、ライター拾ってからろくな事ない。知らんうちに、変な事件に巻き込まれているのかもしれへん。えらいもん、みどりちゃんにあげてしもうたな!と悔いる。

その頃、みどりはいつものようにキャバレーのステージで歌を歌っていた。

今日も、カウンター席には野崎が、ボックス席には花田社長が来ていた。

続いて、リリイ・本田のステージが始まる。

政と健の帰りを待ちわびていた支配人の東谷は、みどりが挨拶に来た花田社長の煙草に火をつけてやる。

花田社長は、コロンブスレコードの矢野社長が今夜会ってくれる事に鳴ったと伝えると、喜んだみどりは着替えてきます。楽譜をアパートに忘れて来たんですと謝ったので、僕の車で送ってやるよと花田社長が答えると、安心して更衣室へと向かう。

その時、政と健が戻って来た事を知った東谷は、支配人室で、みどりがライターを持っていると報告を受け、今、みどりは更衣室で着替えている所だと教える。

政と健はすぐに更衣室に向かうが、その途中、2人は何者かに襲われ、昏倒する。

みどりを案じ、キャバレーに駆けつけて来た佐々やんと崑ちゃんは、花田社長がいる事に気づき近づく。

一方、更衣室で着替え終わったみどりは、例のラウターをハンドバッグに入れて部屋を出ようとするが、そこに見知らぬ野崎が立っていたので、驚いて後ずさる。

花田社長と共に、みどりが来るのをボックス席で待っていた佐々やんと崑ちゃんだったが、なかなか戻って来ないので言ってみる事にする。

一方、支配人室で、2人の学生が来たことを聞いた東谷は、まさか勘づいたんじゃないだろうな?と案じる。

更衣室の中を覗き込んだ佐々やんは、みどりの姿がない事を知ると、警察に知らせた方が良いのでは…と花田社長に伝えると、アパートの方かもしれないな…、楽譜を忘れたので取りに帰ると言っていたから…と花田社長は答え、佐々やんと崑ちゃんを自分の車に誘う。

その後、政と健の帰りが遅いのを怪しんだ東谷が探しに行くと、殴られて気絶している2人を発見、異常事態を察知した東谷は、更衣室ももぬけの殻だと知ると、しまった!逃げられたか!車を用意しろ!アパートへ行くぞ!今夜こそけりをつけてやる…と子分たちに命じる。

「昭和荘」に花田社長と共に戻って来た佐々やんと崑ちゃんは、玄関先にいた雄さんと会うと、みどりちゃん帰って来たやろか?と聞き、まだらしいと知る。

大工のおかみさんは、又、寝ぼけている子供たちを便所に向かわせ、その中の一人が持っていた癇癪玉の袋を、まだこんなもん持ってんのか!とぼやきながら取り上げる。

佐々やんが、みどりちゃん、殺されるかもしれないんや!と集まって来た住民たちに知らせると、崑ちゃんは思わずその場で泣き出してしまう。

みどりがいないと分かった花田社長がアパートを出ようとすると、すぐに戻って来て、後から東谷たちグループが銃を持ってアパートに入って来たと2階にいた崑ちゃんたちに知らせる。

そこに集まっていた住民たちは怯え、全員、崑ちゃんたちの部屋に逃げ込んで隠れる。

政と健たちが階段を登りかけると、足下がぱんぱん破裂し始めたので腰を抜かす。

その時、手すりに身体を持たせかけると、手すりが簡単に壊れ、政たちは下に落ちてしまう。

子供がばらまいていた癇癪玉を踏んでしまったのだった。

その時、大工のおかみさんが、子供たちがまだ下にいる!と言い出すが、今動いたら危ないと全員で引き止める。

僕たちが助けに行くと言い出した佐々やんと崑ちゃんが部屋を出て、階段とは反対の非常口から下へ降りようと向かうが、そこには野沢が立っていたので、2人は怯えて手を上げる。

癇癪玉に気づいた東谷に怒られた政と健たちが二階に上がって来る。

崑ちゃんたちの部屋では、花田社長が怯えている住民たちを、このまま!と制する。

階段を登って来た東谷たちは、そこに立ちはだかっていた野崎を観て、君は何だ?みどりを出せ!と迫るが、あなたが欲しいのは、みどりではなくこのライターでしょう?と言いながら、例のアメリカ現住民の横頭のシルエットが描かれたライターを出してみせる。

貴様が第三勢力!と東谷は緊張するが、どうあがいても譲りませんよと野崎が言うと、シャラップ!と東谷が銃をちらつかせると、仕方がないと言いながら、ライターを渡そうとした野崎は、受け取ろうと手を伸ばした東谷の手を握るとその場で手錠をかける。

その直後、近くに潜んでいた警官隊がグループの背後から飛びかかり、一味は一網打尽となる。

良かったな〜と安堵しながら住民たちが部屋から出て来ると、山川刑事部長に連れられたみどりが階段を登って来る。

山川部長刑事は、その場にいた野崎を、本庁捜査一課の刑事だと紹介し、みどりは野崎刑事に酔って保護されていた事を説明する。

そんな中、アパートを出ようとしていた花田社長に声をかけたのは野崎刑事だった。

あなたも、この割り符が欲しかったはずだ。あなたはみどりさんに噓を言った。レコード会社の社長なんか知らないでしょう?花田清三郎!あんたこそ、第三勢力のボスなのだ!と突きつける。

密輸関係者を一堂に集めたかったんだと住民たちに説明した野崎刑事は、持っていたライターの蓋を開け、美しいメロディを流してみせる。

住民の占い師など、わしは最初から分かっておった等と自慢すると、大工は、俺がこの手すりを壊れ易いように作っておいてお陰だなどと言い出すし、雄さんまで、わしの癇癪玉のお陰じゃ!と妙な自慢を始める。

みどりは、野崎刑事のお陰で、本当にコロンブスレコード入れてもらう事になったと佐々やんと崑ちゃんに教え出かけて行く。

そんなみどりを見送る佐々やんと崑ちゃんは、みどりを待っていたらしき男と道で合流するのを見つけると、あっ!第三勢力や!と叫び悔しがる。

それを後ろで観ていたお蝶は、あんたら恋する顔やないよ。握り飯みたいな顔して…と笑うのだった。