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ウッカリ夫人とチャッカリ夫人 夫婦御円満の巻

ラジオ作家5名によるラジオドラマ原作の映画化で、この作品が各社で作られた同原作シリーズの最終作らしい。

キネ旬データベースなどには、「チャッカリ夫人とウッカリ夫人(夫婦御円満の巻)」と記載があるが、この作品の冒頭に出て来るタイトルは「ウッカリ夫人とチャッカリ夫人 決定版 夫婦御円満の巻」と読めた。

「ラジオ東京製作」とタイトルロールに出て来るし、劇中に登場しているテレビ局は「JOKR-TV」と文字が出て来るので、原作の方の今のTBSと協賛していた可能性もある。

たあいのない日常ドラマと言ってしまえばそれまでだが、個別のエピソードも面白ければ、冒頭の春子の笑いの練習と言うのが、ラストのジンと来るエピソードに繋がって来る所など、構成もなかなか凝っている。

元々のラジオ番組でもスポンサーだったらしいアサヒビールとバヤリースオレンジが本作とも協賛しており、劇中に、商品や会社名が何度も出て来る仕掛けになっている。

特に、秋子がなくした真珠のエピソード絡みで、バヤリースの製造工場まで登場するのは驚きだが、普通に考えれば、ラジオ放送で同じような呼び掛けをやれば、もっと大勢の持ち主が名乗り出て来るはずだと思う。

何しろ、真珠には持ち主の名前なんて書いてないのだから。

その辺はあくまでも、宣伝目的と割り切ってやっているのだろう。

それでも、その直後に、秋子とユリ子が五郎の怪し気な行動を発見する伏線にはなっており、それなりに考え抜かれている事が分かる。

どちらかと言うと、シリアスな演技の方が多いようにも思える淡島千景さんが、この作品では、その演技力を最後の最後で披露している。

しかし、この時代の作品で、しょっちゅう尻軽な感じの芸者役を演じている印象が強い藤間紫さん、又しても…と言う感じである。

頑固な婆さん役の三好栄子、とぼけた友人役の三木のり平や大泉滉辺りは、特に面白い事をやっている訳ではないが、何となく場が和む感じのキャラクターではある。

子役時代の松島トモ子ちゃんは、雑誌から飛び出して来たようなお馴染みの髪型だし、1シーンだけにセリフなしで登場する天津敏も見逃せない。

五郎や正夫の同僚を演じているのは、「男はつらいよ」の初代おいちゃん役森川信だが、この人はいつ観ても年齢不詳で、この作品でも作品でもかなり老けて見える。

戦前は松竹三羽烏と言われた二枚目俳優佐野周二は、この時代、この手のユーモア物に良く登場している。

同じく、松竹三羽烏の1人だった上原謙も、同じようにこの時代はコメディ出演が多い。

やはり、中年期に入って来た事から、もうかつてのように恋愛ものの二枚目役は出来ないとの判断だったのだろう。

ウッカリ夫人秋子役の久慈あさみさんも、この時代の映画出演は多いが、個人的にどうも、この久慈あさみさんと藤間紫さんを混同してしまう所がある。

雰囲気が似ているせいだろうか?

チャッカリ君こと茶刈五郎を演じている本郷秀雄と言う人はあまり馴染みがない気がする。

この作品を観る限り、独特の個性を持った俳優さんのようにお見受けするが、調べてみた所、やはり佐野周二同様、戦前は松竹で活躍された方らしいが、戦後はこれと言った目立った活躍をなさらなかったように見える。

キャリアから言うと佐野周二さんより先輩に当たる方らしいが、キャリアにふさわしいポジションに恵まれなかったのかもしれない。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1956年、東京映画、市川三郎+中江良夫+菜川作太郎+吉田史郎+吉田みき+ 佐々木恵美子原作、笠原良三脚色、青柳信雄監督作品。

廻っているミキサーをバックにタイトル

ウッカリ夫人とチャッカリ夫人 決定版

夫婦御円満の巻

 

東京 世田谷の住宅地

うっかり夫人こと宇刈秋子(久慈あさみ)は、鼻歌を歌いながらガラス戸を閉め、娘のユリ子(松島トモ子)を連れ、同じように鼻歌を歌いながらアイロンをかけていた、向かいのちゃっかり夫人こと茶刈春子(淡島千景)の家を訪問すると、ちょっと留守にしますので宜しくお願いいたしますと挨拶する。

ユリ子が、明日パパがハイキングに連れて行ってくれるのと言うので、良かったわね〜と笑顔で答える春子に、何か良い事あったの?と秋子が聞くと、笑いの訓練中なのよ、訳ありなの。夕べ…とはる子は答える。

(回想)会社かた帰宅して来た茶刈五郎(本郷秀雄)は、遅い帰宅に膨れっ面の春子に、中学時代の同窓生烏賊賀健三君に会ったんだが、家に行ってみたら、奥さんが実に明るい人なんだ。何を言っても、コロコロ笑い、家中が奥さんの笑いに満ちている。あんな明るい家庭は羨ましいよと言うので、バカじゃないの?と春子は呆れるが、一日の疲れがいっぺんに吹き飛ぶよ。あの笑い声を聞くと。もっとうちも笑っておくれと五郎は言う。

分かりましたとばかり、コロコロコロ…と形ばかりの笑いの真似をし始めた春子、茶色い靴を表に干しといたら、片っぽを犬が持って行ってしまったらしいの。可笑しいでしょう?コロコロコロ…とわざとらしく伝えたので、五郎はむっとする。

(回想明け)これって良い方法でしょう?家庭円満の為に…と春子は言う。

その頃、会社で弁当を食べていた五郎も、隣で同じく弁当を食べている宇刈正夫(佐野周二)に、これ良い方法だろ?こう仕付けとけば、いかなる場合も怒ったりしないと思う。実は買ったばかりの定期券を落としちまったんだ。折りをみて話そうと思うんだけど…と言うので、正夫は、まあ、ご健闘を祈るよ…と感心がなさそうに答える。

その日、帰宅した五郎が、ご飯、食べられる?おなかが空いたんだよと言うと、これからなのよ…コロコロコロと春子は笑う。

呆れた五郎は、ところでね春子、大変な事しちゃったんだ。買ったばかりの定期券を落としちゃったんだと打ち明けると、あなたにお見せしたい物があるのと言い出した春子は、オーバー用の生地を出して来て、6500円だったの。安いでしょう?あなた…コロコロコロと笑う。

そんな金、どっから出したんだ?と五郎が聞くと、あなたの貯金からよ、コロコロコロ…と春子は愉快そうに笑う。

次の朝、宇刈家では、秋子がリンゴにミカンに、缶ジュース、チョコレート、お寿司とおむすびをリュックに入れてやっていた。

娘のユリ子は、ハイキングに行けるので大喜びだったが、その時、ガス漏れしているのはお宅ですか?と勝手口から声がしたので、誰だい?と正夫が聞くと、頼んでおいたガス屋だと秋子は気づく。

随分まずい時に来たもんだな…と正夫はぼやくが、すぐにすむからと秋子は台所に向かう。

ガス屋の修理工(沢村いき雄)は、最近臭いのよと言う秋子の言葉を元にガスコンロを点検し、ゴム管の繋ぎ口付近が割れている。これじゃあ臭い訳だ。のんきな奥さんですね。こんな状態で元ネジ開いたら、一家心中ですよと呆れながら、応急処置としてテープを巻き始める。

そこに、ユリ子がやって来て、浦島のおじさんが来たわよ。童話の御本もらっちゃったと言いに来たので、修理工は、可愛いお子さんですね。うちなんか、休みの日は子供がうるさくて…、10を頭に、5人もいるもんで…とぼやく。

これからハイキングに行くと言うユリ子の言葉を聞いた修理工は、今日は日曜だから、帰ったら公園にでも連れて行ってやろうかと言う。

それを聞いた秋子が、ハイキング用に詰めたリュックを持って来たので、駄賃なら止めて下さい。ガス会社から給料もらってますからと修理工は断る。

しかし、お子さんにどうぞと差し出したのはサンドイッチだったので、修理工は礼を言って貰って帰る。

秋子、出来たかい?と正夫が声をかけると、ユリ子が、つまんない。チョコやキャラメルもおじさんにやっちゃって…とブツブツ言いながらやって来る。

浦島亀夫(増田順二)と一緒に正夫とユリ子は家を出、秋子だけは裏口の鍵をかけて外に出るが、気がつくと、道の前に見知らぬおばあさん(三好栄子)が座り込んでいるではないか。

米売りかと勘違いした秋子は、お米なら間に合っているわと声をかけると、誰がこの米売ると言うた?これは孫共に食わそうと思って持って来たもんだ。遠くから来たんだが、家がどこか分からないんだと婆さんは言う。

どうやら、田舎から出て来て、道に迷ってしまったおばあさんのようだった。

秋子が遅いので、正夫やユリ子、浦島も裏手にやって来て、事情を聞くと、警察へでも行かれた方が…とおばあさんに言う。

すると、おばあさんは、所書きは忘れて来てしまった、東京の人間は薄情だの…、杉野真作と言う家で、大きな学校の近くだったはずなんだと恨みがましく言うので、それだったら都営住宅だわ。あなた行ってあげたら?と秋子は正夫に頼む。

いきなり言われた正夫は面食らい、そんな所知らないし、今から行ってたら時間がかかってしまうよと答える。

明子は、じゃあ、私が一緒に行ってあげますわと言い出し、おばあさんの重い米袋を自分で持ってやって都営住宅の方へ向かい出す。

ママ〜!早く帰って来て〜!とユリ子が背後から声をかける。

しかし、秋子と老婆は、なかなか目指す家を見つけられなかった。

ママ、遅いな〜…、家の庭に座って待っていたユリ子は待ちくたびれてしまう。

あの辺は同じような家が一杯ありますからね〜…と、浦島も心配する。

ユリ子は、おなかが空いちゃったと言い出すが、浦島は、こうやって座っていると、ピクニックに行ったみたいですなと言う。

我家の庭も捨てたもんじゃないですなと正夫も答え、リュックの中からウィスキーのポケット瓶を取り出すと、キャップに注いで、浦島に差し出す。

その頃、秋子はまだ、米袋を担いでおばあさんの家を探しまわっていた。

うっかり君いるかね?と、正夫の庭にやって来たのは、正夫の学校友達の浮田(三木のり平)だった。

正夫らが庭で飲み食いしているのを発見した浮田は、これから足代はかからんし、くたびれもせんなと感心し、実は家内から子供を押し付けられてな。金がなくてな。主の家に行ったら留守だったんだと言うと、女の子3人、男の子1人のみんな年子だと言う子供を呼び寄せて紹介する。

朝早く起きて歩き回ったから疲れたよ…と言いながら、勝手に、正夫の隣に腰を降ろした浮田は、お近づきの印に一杯いただきましょうなどと言いながら、勝手にウィスキーを飲み始め、子供たちにも、お前たちも遠慮なく頂きなさいと呼び寄せたので、ユリ子のリュックの中味はあっと言う間に空になってしまう。

そこへようやく戻って来たのが秋子で、庭の様子を見て、あらっ!と驚くと、すっかり上機嫌になり寝っころがっていた浮田は、奥さん、お邪魔してます!と陽気に挨拶して来る。

あなた、どうしたの?と事情を聞こうとするが、立ち上がった浮田は、今日は結構でした。来週の日曜日に又やりましょうなどと言いながら子供を連れ帰って行く。

茶刈家では、五郎が、僕の靴下どこにあるの?継ぎ当てした物ばかりしかないんだけど?と聞くと、春子が、コロコロコロ、こうして笑うのよと答えたので、つまんない事教えちゃったな…と五郎は後悔していた。

その頃、秋子の方は、ハイキングが台無しになってぐずっているユリ子に、世の中にはどこにも連れて行ってもらえない子供もたくさんいるのよと諭していた。

そこへ、五郎がやって来て、テレビ局のスタジオ観戦に行きませんか?里の妹が応募して2組分当選したんですが、急に行けなくなったそうなんです。皆で行きましょうと誘ったので、宇刈夫婦も、百合魂も機嫌を取る良い機会だと感じ快諾する。

JOKR-TV アサヒビールとバヤリースオレンジ提供「ほろにがショー」と言う番組にやって来た両夫婦は、舞台上に男女別に座らされ、カーテンの奥にいる人物のシルエットに交互の質問して、その人物が誰かを当てると言うクイズをやらされる事になる。

質問に対し、相手がハイと返事をすると続いて質問が可能だが、いいえと言われたら、相手側チームの質問になると言うルールだった。

そして、ブルーコーツの演奏と共に、その日ゲスト出演の少女歌手沢村みつ子(本人)が「ウスクダラ」を歌い出す。

歌い終わった歌手のシルエットがカーテンに浮かび上がり、先行は正夫と五郎の男性チームだった。

日本のお嬢さんですねと聞いた正夫は、はいと言う返事だったので、美空ひばり!と答えるが、違いますと言う返事だったので、今度は、アキコト春子の女性チームに交代する。

ジャンルを童謡とジャズに分けると、ジャズですねと秋子が質問すると、客席から拍手が起きる。

ハイと言う答えだったので、最近アメリカに行った事がありますね?と明子が聞くと、又、ハイの返事。

自信満々に秋子が、江利チエミさん!と答えると、違いますとの答えだった。

再び質問チャンスが廻って来た男性チームの正夫は、少女歌手で、ひばりやチエミじゃないとすれば、もう雪村いづみだろう?と言うが、違いますと答えられてしまう。

ここで、司会者が、最近、アメリカで映画出演して帰って来たばかりですと補足を入れる。

女性チームに代わったので、秋子が、沖縄出身でしょう?と聞くと、はいと言う答えだったので、間違いないと確信した秋子と春子は、沢村みつ子さん!と答え、はいと言われる。

正解した女性チームには、賞金2000円とビール氷1ケース、男性チームにはバヤリース6本カートンが送られる。

司会者は、お世辞のつもりで、お見受けする所、両家とも大変お円満な御様子、賞金はおそらくご主人の為にお使いになるのでしょうねと聞くと、とんでもない!私たちが勝ったんですから、私たちの為に使います!と答えたので、司会者は、恐れ入りましたと頭を下げる。

最後に、もう1度、沢村みつ子が歌って、アサヒビールとバヤリースオレンジ提供「ほろにがしょー」は終了する。

その夜、春子は五郎に、さっきの賞金で買ったのと言いながら、ナイロンの靴下を出してみせる。

これ、男物じゃないか?家で履くのか?と五郎が不思議がると、あなたが嫌なら私が履いても良いわよと春子が言うので、五郎はようやく春子の気持ちを知り、ありがとう!と素直に感謝する。

宇刈家の方では、正夫が、本物のTV観たんで、ユリ子も満足したようだねと安堵していた。

そんな正夫に、明子は、賞金で買ったネクタイをプレゼントする。

その時、差し出した自分の手を観た秋子は、あら?大変だわ!指輪の真珠が!どうしよう、私…と狼狽し始める。

左手の薬指にはめていた指輪の真珠がなくなっている事に気づいたのだった。

今朝、ガス屋さんが来た時は、確かに付いていたのよと思い出す秋子は、ね、探して頂戴!と正夫に頼むが、だったら、君がおばあさんを案内して出かけた時に落としたんじゃないのかい?こんな夜中に見つかる訳ないよと正夫は呆れる。

新しいのじゃダメなの。あれはお母さんの形見なのよと秋子は諦めきれない様子なので、明日の朝探そうよと正夫は妥協案を出すが、夜明け前に行ってね。私、心配で、眠れそうもないわと秋子は念を押す。

翌早朝、正夫と秋子は、玄関先から、昨日、おばあさんを案内した市営住宅方向に向かって地面を探し出す。

しかし、地面に落ちた真珠がそうそう簡単に見つかるはずもなく、途中で疲れた正夫は、早く帰らないと会社におくれちゃうよ。その内、真珠の指輪、買ってやるからさと行って諦めさせようとするが、秋子は、あれは、お母さんが、お前の幸せを祈ってやるからって死ぬ間際に言ってくれたものなの。あの真珠がなくなると、何だか、私の幸せもなくなるような気がして…。お母さんの気持ちが籠っているんだもの…と言う。

その時、どうしたんですか?と声をかけて来たのは、シェパード犬を連れて散歩中だった大友(大泉滉)だった。

事情を聞いた大友は、だったら、このエルに探させましょうと言い、無理矢理、秋子の指輪の匂いを嗅がさせると、引き綱を解き放ち、行け!と命じる。

不安そうに犬を見送る夫婦に、あのエルに限って間違いありません。立派に飼いならした名犬ですと大友は自慢する。

しかし、そのエルがくわえて来たのは、片方だけのボロ靴だったので、どうも、このエルは、今朝方から下痢気味で、見当違いをしたらしいと言い訳しながらエルを連れて帰ってしまう。

ある日、春子は、近所の伊達夫人(一の宮あつ子)から、今度、会社の幹部になるのは、宇刈さんか茶刈さんのどちらかだろうと言われています。私は、人品骨柄、茶刈さんの方が備わっていると思いますわ。十中八九、お宅のご主人に決定しているらしいわと言う噂を聞かされる。

喜んだ春子は、その日帰宅して来た五郎に、大変よ、あなた、今度、課長さんになるって本当?と聞くが、それを聞いた五郎は、君の話には少し無駄が多過ぎるよ。電報の事、考えてごらん。実に簡単な言葉で用件は伝わるじゃないかと言い聞かす。

すると、春子は、分かったわ。これからは要点だけ話すわと素直に答える。

翌朝、出金する五郎にコートを着せてやった春子は、良し!とだけ言ったので、はい、あなた…とでも言えないのかよ?と五郎は膨れる。

しかし春子は、夕べ約束した通り、行け!早く帰れ!早く課長になってくれ、ご健闘を祈るとだけ伝えるのだった。

茶刈と宇刈が勤める山貫産業株式会社では、その日、社長(江川宇礼雄)自らが顔を見せ、社員全員に、今後、人事の大異動を決行したいと発表していた。

それを聞いた五郎は、ちょっとにや付いてしまう。

そして、新生活の精神を公私ともに実行知る事とする…と続けた社長は、一つ、無駄を省き、虚飾虚栄を全廃する事。今後、接待や宴会などは一切やらん事。2つ、質実剛健、生活に新しい工夫を加える事と発表する。

それを聞いていた五郎が胸ポケットからハンカチを取り出すと、それに紐が付いていて、服に縫い付けられていたので、それは何だね?と社長が聞くと、私がしょっちゅうなくすので、妻が付けてくれた物ですと五郎は説明する。

すると、諸君、見たまえ!この一枚のハンカチでも新生活の工夫は出来るんだ。君は幹部社員の資質がある。わしも早速実行しよう。君は良い妻を持って幸せであると言ってくれる。

その頃、春子の所には、妹のノリ子が来ており、そとそと、お兄様のボーナスが出るんでしょう?お姉様、課長夫人ねとおだてていた。

友達から頼まれた事があるのよと切り出して来たノリ子は、真珠の指輪を取り出して見せ、3000円じゃ安いでしょうと勧めて来る。

夜、帰宅した五郎に春子は、お帰り!お疲れの様子、全部用意してある。すぐ飲むか?と、又しても、電報のような言い方だったので、もっと優しく言えないのか?と五郎は呆れる。

今朝、近く人事異動があると言われたんだと五郎が報告すると、やっぱり伊達夫人の話は本当なのねと春子は舞い上がってしまう。

飲むか、飲まぬか?即辺!と春子学長を改めようとしないので、もう言いよ、しゃべりたいだけしゃべりなさいと五郎は白旗を揚げる。

今日、ノリちゃんが来てね。喫茶店勤めの友達が田舎に帰りたいんだって。それの足しにする為、この指輪を買わないかと言うのよ。3000円は安いでしょう?と春子が言うと、この前、オーバーの生地を買ったばかりじゃないかと五郎は驚く。

あのオーバーの生地は、ノリ子が返してくれるって、これなのよ、素晴らしいでしょう?と真珠の指輪を散り出して五郎に見せていた春子だったが、その時、電報が届き、生地は売れなかった、指輪のお金頼む。お兄さんに宜しくと紀子から知らせて来た内容だったので、がっかりする。

五郎はそんな春子に、君が作ってくれたハンカチ、社長から褒められたんだぞ。そう言う堅実な君が、その指輪を付けるのは贅沢じゃないかね?と言い聞かす。

あなたが課長になると、色々物入りだろうし…、代えそうにも、この持ち主はもう汽車に乗っているだろうし…と春子は迷い出す。

会社で買う男がいるだろうから、俺が預かっとくよと言い、五郎がその真珠の指輪を預かる事にする。

翌日、出社した五郎は、社長がやって来ると、社員全員が胸ポケットから、ヒモ付きハンカチを取り出してみせた中、わざとハンカチを取り出す振りをして、真珠の指輪を机の上に落とす。

それに気づいた正夫が、真珠!と声を出すと、五郎は、頭痛いよとわざとらしくしかめっ面をして見せる。

昼休み、五郎は、同僚(森川信)に、これで3000円なら高くないだろう?と勧めていた。

バーの女なら買うかも知れませんよ。財閥の御曹司を彼氏に持つフラちゃんと言う女を知っています。気の良い子でね。ただし、この手の店に行くんですから軍資金は出してもらわないと困りますよと同僚は念を押す。

飲み代をはずめと言うことだった。

渋々承知した五郎は、その同僚と共に、その女がいるバーに行ってみる。

すでにビール3本くらい飲んでいた同僚は、指輪は4000円くらいに吹きかけましょうと提案するが、飲み代の方が心配になって来た五郎は、1000円越えた分は君が払えよと言い出す。

同僚が呼び寄せたフラちゃん(塩沢登代路=とき)に、今晩来てるんだろ?彼氏?これ4000円にしとくよと同僚が言うと、五郎も、君の彼氏って財閥だろう?と口を出す。

ご存知なんですか?とまんざらでもない顔つきで答えたフラちゃんは、ちょっと行って、頼んできますと言いながら、奥のボックス席に戻って行く。

そこで待っていたのは、何と大友だった。

フラちゃんは、これ5000円なのとさらに値を吊り上げてねだる。

出所は確かか?と大友が聞くと、大丈夫よ、あそこの隅に座っている常連さんだからとフラちゃんは、五郎たちの方を指差す。

そちらに目を向けた大友は、顔見知りの五郎だと気づき慌て出す。

あの人、知ってたわよ、あなたが有名な財閥だと…とフラちゃんが言うと、仕方ないね〜…と泣き顔になった大友は、言われるままに5000円、出してやるのだった。

その夜、帰宅した正夫から真珠の事を聞いた秋子は、それじゃないのかしら?と五郎の事を疑い出す。

お前は人を疑った事がなかったのに、それがあんな真珠くらいで…と正夫は憮然とする。

一方、帰宅して来た五郎を夜道で待ち受けていたのは大友だった。

ラーメンの屋台に誘うと、これなんですよ、フラ子に買わされたんですよと言いながら、真珠の指輪を出してみせる。

財閥の御曹司だなんて、冗談で言ったつもりが真に受けられて…、この指輪が5000円、さらに、こんな指輪いらないと言い出したフラ子にさらに5000円、合計1万円行かれました…と大友は情けなさそうに打ち明ける。

僕はこれを女房に知られると追い出されてしまいます。5000円だけ返してもらえないでしょうか?と泣きつかれた五郎は、あんたにそう言われると…と言いながら、銀座で真珠を売った5000円をそのまま返却してやる。

結局、大友から取り戻した真珠の指輪を持ち帰った五郎だったが、春子は、一度は諦めかけたけど、やっぱり欲しかったの…と喜ぶ。

翌朝も、会社では、社長が来ると、全員がヒモ付きハンカチを取り出してアピールするが、もうそう言う形式的な事は良いよ!夕べ、財布に紐を付けていたら掏られたよ!と社長は不機嫌そうに言い、外見より精神だよ!明日からそんなもの止めなさい!と命じる。

その時、秘書が、社長に電話ですと伝えに来る。

社長室に戻り受話器を取った社長は、もしもしヤーさん?と言う声を聞き、芸者の芸妓〆奴(藤間紫)だと気づく。

あんまり酷いじゃないか!いくら私が芸者でも、こんな踏みつけがある?と言って来たので、こっちにはこっちの都合が…と社長は丸め込もうとするが、じゃあ、これからそっちに行きますなどと言い出したたので、今日は困るよ!と社長は慌てる。

何とか電話を切った社長だったが、動揺を抑えようと、メガネを取り、胸ポケットのハンカチを出して拭こうとするが、ハンカチに付いている紐が短過ぎて役に立たない事が分かり、癇癪を起こして、紐を引きちぎってしまう。

そこに部長がやって来たので、〆奴の事なんだが、しつこいんだよ。アプレ芸者は敵わんと打ち明けた社長は、君、何か良い手だてはないかね?と聞く。

すると部長は、宇刈君などが適任かと。宴会でも芸者などでは芸者に気に入られておるようですし…と提案したので、すぐにその話に乗った社長は、業務課の宇刈を呼べと命じる。

宇刈正夫が来る間、どのくらい用意しといた方が良いかね?と社長から手切れ金のことを聞かれた部長は、このくらいは…と言いながら、指を3本立ててみせる。

そこにやって来た正夫に社長は、〆奴を知っとるかね?わしから君に特に頼みたい事があるんだ…。今度、君の所の課長も大阪に転勤することだし…と意味ありげに話し出す。

その頃、家の中で、まだなくした指輪の真珠を探していた秋子は、バヤリース提供のラジオ放送で、口上で空き瓶の洗浄中、真珠を見つけましたので、お心当たりのある方はご連絡下さいと言うのを聞き、あった!あったわ、真珠が!と大喜びする。

一方、町に外出していた春子は、町中で見知らぬ女と連れ立って歩く正夫を目撃していた。

その夜、帰宅して来た五郎にその事を春子が教えると、あんなにまじめそうな人がねえ〜…と五郎は驚いたようだった。

私も人生観変わっちゃったと言う春子は、私、それとなく奥さんに注意しようかしらなどと言うので、それが元で家庭争議にでもなったら大変だし、ユリちゃんも可哀想じゃないかと。僕が会社で話してみるよと五郎は言い聞かす。

その頃、正夫は、帰宅して真珠が見つかった事を秋子から聞かされていたが、今日、会社で思いがけない事を聞いた。課長が大阪に転勤するそうなんだと社長から聞いた話を披露する。

真珠が見つかった日にそんな話を聞くなんて、私たちの運命が開けたのよ!と秋子は大喜びし、今度の日曜日、社長に会いに行くわ!と言い出す。

今では何でもリベートよなどとユリ子が口を出して来たので、正夫は、子供がそんなことを言うんじゃありませんと注意する。

翌日、会社の社長室では、又社長が、あれから自宅に電話をかけて来たんだと部長に、〆奴とまだ切れてない事を打ち明けていた。

すると部長は、茶刈はいかがでしょう?彼ならしゃべりも巧いですし…と五郎の事を推薦し、今度はこれくらい…と言いながら、五本指を拡げてみせる。

直ちに社長は、五郎を業務課から呼び寄せるのだった。

その頃、秋子とユリ子は、バヤリースの工場に来ていた。

全く奇跡ですねと言いながら、応接間で真珠を返してもらった秋子は、ユリ子にバヤリースのお土産までもらい恐縮する。

その帰り、甘味屋に立ち寄って、お汁粉を注文した秋子だったが、その店の隅で、見知らぬ女と会っている五郎を目撃してしまう。

〆奴は、お金さえ頂けば、あんなおじいちゃんなんてどうでも良いのよとドライな返事をしていた。

それより、茶さん、好きになっちゃった…などと色目を使って来たので、五郎は慌てる。

宇刈のおじさんだ!あのおばちゃん、誰?とユリ子が言い出したので、しっ!観るんじゃありませんと叱りつけた秋子は、相手に見つからないように身を傾ける。

その夜、帰宅した正夫は、秋子からその話を聞かされ、あの茶刈くんがね〜…、あんな良い奥さんがいながら…、こんな大事な時期につまらん女に関わっていると、出世できんぞ。お前の方からそれとなく言っといてやれよと言っていた。

一方、社長直々に仕事を頼まれたと帰宅した五郎から聞かされていた春子は、そんな大事な事を社長さんから頼まれるなんて…、私も頑張るわ!と意気込んでいた。

翌日、情報通の伊達夫人にその後の噂を確認した春子は、幹部に近いようですよと言われ上機嫌だった。

その後、新聞の勧誘員(加藤春哉)がやって来て、断る春子に、たかが330円じゃないですか。前の宇刈さんなんて、近々お主人が課長になるとかで、課長ともなると世情にも通じてないと行けないからと何紙も新聞を取られたそうですよなどと言うので、つい、失礼ね!買うわよ!と負けず嫌いで言ってしまう。

あの奥さん、もっと警戒して付き合うわ…と秋子にライバル心むき出しになった春子は、そのまま外出し、途中の果物屋で秋子と出会うが、無視して、贈答用の果物を購入する。

小田急の「梅ヶ丘」駅のホームにやって来た春子は、自分と同じような包みを持った秋子と又再会する。

ベンチで一緒に座り、電車を持っていた秋子は、ちょっとお話ししときたい事がありますの。実はお宅のご主人の事で…、家の主人とも相談しましたの…。そしたら、それとなくお伝えした方が良いだろうと言うものですから…、ある場面を目撃したんです。女の人の事ですの…と打ち明け始める。

すると黙って聞いていた春子は、もう、お止めになって!見え透いた作り事だわ!と怒り出す。

私の方こそ、ご忠告した事があります。あ宅のご主人が女性と神妙に会ってらっしゃるのを見かけました!と春子がしゃべると、酷過ぎますわ!うちの宇刈がそんなこと出来るはずがありませんわ…と秋子は絶句してしまう。

そうお思いなら、思ってらっしゃれば良いじゃないですかと春子は言い放つ。

その後、電車に乗った2人は、互いに気づかないまま同じ方向へ向かっていた。

秋子が社長の家にやって来ると、応接間には、すでに春子が座っていたので驚き、同じソファに座ると互いにそっぽを向いてしまう。

そこにやって来た社長は、いつか会社の運動会で会いましたな。家内が風邪で寝込んでいるんだと言いながら二人の前に座る。

茶刈と宇刈は、鏡台みたいに仲が良いとは嬉しいと何も知らない社長はおべんちゃらを言い、所で今日は?と用向きを尋ねる。

ライバルが横にいるので、本音を言い出せない二人だったが、社長様と奥様のご機嫌をうかがいに…、これはつまらない物ですが…と2人とも同じ事を言い、果物籠を差し出すと、目下新生活運動中だと言うことを知ってるはずですが…と戸惑いながらも、取りあえず社長は受け取る事にする。

そして、明日、ボーナスと昇進の発表があると社長は思わせぶりに付け加えるのだった。

帰宅した春子は、帰って来た五郎に、あんたが女と浮気している所を観たなんて宇刈の奥さんが言うのよと報告していた。

そんなはずがないじゃないかと五郎が否定すると、夫婦揃って、あんたをひがんでるのよと春子は断定する。

同じ頃、宇刈家では、秋子が正夫に、明日、課長の辞令が出るわ、もう茶刈さんと付き合うのは止めるわ。あなたが女の人と会った所を観たなんて言うんですもの。名誉毀損よ!と息巻いていた。

翌朝、いつも通り、互いの家をほぼ同時に出た五郎と正夫だったが、互いに顔を見ると身を隠し、何となく気まずそうに会社に行く事にする。

業務課に来ると、同僚が、いよいよ今日決まりますねと五郎と正夫に声をかけて来るし、前任の課長が大阪転勤の挨拶に来たので、2人はますます緊張して来る。

そこに女子社員が、茶刈さんと宇刈さん、社長がお呼びですと伝達に来たので、2人は共にガチガチになって社長室の前に向かう。

2人が部屋の前で入るのを牽制しあっている所に、トイレから帰って来た社長が、何をやっとるんだね?と声をかけて来る。

社長室に入った社長は、君たちの成績は優秀だと認め、賞与以外に社長賞を与えようと言いながら、封筒を両者に手渡す。

そして、そこにやって来た秘書課の春山(天津敏)を、彼が今度から君たちの課長になったからねと紹介したので、2人は唖然とする。

がっかりして廊下に出た五郎が、奥さんに何か言われなかったか?と聞くと、正夫は、今日はまっすぐ帰った方が無事だろうと答える。

入念な化粧をした春子が帰宅した五郎を出迎えたので、君、いつか僕が女の人に会ったのは事実だよ。〆奴と言う芸者で、社長に頼まれて行っただけだ。その証拠がこれだと言いながら、賞与の袋と社長賞の袋を2つ取り出して見せ、女のことはそれで良いのかい?と確認する。

辞令は?と春子が聞くと、僕でも宇刈君でもなかったよ。がっかりしたかい?すみませんねと五郎は言う。

台所に向かった春子は一人泣き出すが、棚の上に置いたピース缶を取り上げる。

お腹空いたでしょうね?怒ったってしょうがないわと言いながら、五郎の元に戻ると、僕なんかくだらない人間だ。奥さんが一番良くご存知じゃないか!と五郎が荒れ始めたので、これ、ピース缶!と言いながら差し出した春子は、だって私…、買っといたのよ。課長になったら、煙草もピースじゃないと行けないだろうと思ってたんで…と泣き笑いの表情で言う。

笑えよ、もっと笑えよ!と言い出した五郎は、本当に春子が泣き笑いを始めると、おい!良い加減に止せ!僕をバカにするのか!と怒り出す。

それでも、涙を流しながら無理矢理笑い続ける春子は、だって、あなたがあなた…、笑えと言ったのは誰?どんなことになっても笑ってろと言ってたのは誰?だから、私、こんなに笑ってるのよ。笑い飛ばせば良いのよ!あなたはやっぱりあなたですもの!かってな夢に酔って…と言い、五郎が、社長室に入ると…と話をしようとすると、分かった!段落!と春子は話を遮る。

宇刈さんもがっかりしてるでしょうよ。ねえ、あなた、五日の新聞屋、何処の家に行っても、同じこと言ってるらしいの。私、恥ずかしいわ…と春子は反省する。

その時、宇刈正夫と秋子がやって来て、家内がご機嫌伺いに行こうと言うので…と言いながら、正夫は、煙草どう?ピースですと言いながら差し出して来る。

家もたくさんごちそうがありますの?持ち寄りで一緒に食べません?と話がまとまる。

社長賞は何に使いましょう?と秋子が言うと、みんなで温泉でも行こうよと正夫が提案する。

後日、宇刈家と茶刈家は一緒に汽車に乗り、富士山の見える地域にやって来るのだった。