三島由紀夫原作のおそらく最初の映画化
そんなに観る機会がない作品と言う訳ではないが、個人的には、何故かこれまで見逃して来た作品である。
見終わった感想は、素直に良くできていると言う印象で、その後の「潮騒」の映画化のベースになっているのではないかと思われる。
後半の嵐の海の特撮部分など、安定した東宝プールを使ったミニチュア特撮と大量の水を使ったセット撮影が相まって、なかなかの迫力シーンになっている。
おそらく、日活の吉永小百合、浜田光夫版は、こうした特撮に不慣れな日活が、その部分を省いているのだろうなと想像したくなるくらい。
田中友幸プロデューサー作品と言うこともあり、興味深いのは、この作品でも、怖い照吉爺の怒りの事を「原子爆弾じゃ」等と表現している事。
この作品の公開日は、「ゴジラ」(1954年11月3日公開)より前の10月20日である。
原爆や水爆と言う言葉は、この年(1954)の流行語のようなものだったのだろう。
主役の新治と初江を演じている久保明と青山京子は共にキラキラ輝いており、この作品が代表作と言っても良いかもしれない。
少し頭は足りないがまじめな青年として描かれている新治と言うのも始めて見たような気がする。
後年の新治役が、少しはつらつし過ぎたり凛々し過ぎたりするのかもしれない。(もちろん、それはそれで作品ごとの性格付けであり、悪いと言うことではない)
この作品での新治は、愚鈍と言うほどではないが、貧しい暮らしもあって、他の青年たちから見下されている部分がある少年と言う部分は重要かもしれない。
その前提があるので、後半の頑張り、照爺が言う「気力」が浮き上がるような気がする。
青山京子も他の作品では感じた事がないくらい魅力的で、吹き替えでないとすれば歌もうまい。
おそらく、公開当時はアイドル的な人気が出たはずである。
惜しむらくは、60年代前半頃に映画からは離れられたようで、それがその後、知る人ぞ知る的な女優さんになられた原因かもしれない。
照爺役の上田吉二郎は、登場シーンは少ないながら、印象に残るなかなか得な役だと思う。
三船敏郎も、同じく、登場シーンは多くないのに印象に残ると言うか、嵐のシーンなど、待ってました!と声をかけたくなるような存在感を見せてくれる。
新治役の久保明と一緒に、いつも小舟に乗っている龍二と言う青年は、石井伊吉(毒蝮三太夫)で、キャストロールには(こけし座)と書かれている。
当時の所属劇団の名前だろうが、顔を見てもほとんど毒蝮三太夫とは気づかない若さである。
新治の母とみを演じているのは、お貞ちゃんこと沢村貞子で、いつもながらの安定感のある母親役を演じている。
島のロケーションや水中撮影もふんだんに使われており、白黒ながら安っぽさはない。
やや地味ながら、名作と言って良い作品ではないだろうか。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
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1954年、東宝、三島由紀夫原作、中村真一郎脚色、谷口千吉脚色+監督作品。 海に浮かぶ小島に接近する映像を背景にタイトル 神島は、周囲一理、人口1500人に満たない小島である。 小舟でタコ漁をする2人の若者久保新治(久保明)と龍二(石井伊吉=毒蝮三太夫)。 それを見守る十吉親方(小杉義男)は、ぐずぐずしとるとタコが逃げちまうぞ!と発破をかけるが、その直後、小舟の横に大きな「神島丸」が接近しているに気づき肝をつぶす。 「神島丸」の船長(三船敏郎)が、十吉親方!この舟に乗る生きのいい奴はおらんか!と甲板から呼びかけて来たので、そんなボロ舟に乗せられるか!と十吉親方は答えるが、お前たち、これに載って世界仲を観たいとお思わんか?と声をかけられた新治たちは、無言のまま頷く。 遠ざかって行く「神島丸」を観ながら、働くんじゃ。村の衆から太鼓判押されんとあの舟にゃ乗れんぞと十吉親方は新治たちを励ます。 漁を終えた新治たちは舟を浜に引き上げ、その日の獲物を女たちが受け取りに来る。 採れたての大きな魚を手に浜を去ろうとした新治は、舟の影で座り込んでいる見知らぬ少女に目を留め、その前に立ちふさがる。 少女は、雲間から漏れる日の光を眺めていたようだったが、目の前に立った新治が邪魔なようだった。 お前、どっから来たな?この島では見かけん顔だけど、うちはどこだ?と新治が聞くと、少女は何か言いかけようとするが、結局何も言わないままだった。 新治はその後、魚を片手に、八代神社の階段を登り、燈台長(加東大介)の家に向かう。 魚を受け取った燈台長の奥さん(三戸部スエ)は感謝し、燈台長も上がんなさいと勧めるが、部屋の中では、奥さんがお花を教えている娘たちが大勢いて何やら笑いあっていたので、新治は玄関口で戸惑い、そのまま会釈をしただけで帰ってしまう。 それを観た奥さんは、あの子は男にしては気弱過ぎるわね~と呆れる。 その夜、寝床に付いてもなかなか寝ない新治を案じた母親とみ(沢村貞子)は、気分でも悪いんか?今日はちっとも鼾をかかんからよ…と声をかける。 新治は、今日、浜で会った少女の面影を思い浮かべていた。 翌日、昨日の娘は、男やもめの照吉爺さんが呼び寄せた初江と言う娘で、えれえ別嬪になっていたんで、男たちはみんな婿になりたがっておるだろうと十吉親方が舟の上で教えてくれる。 新治は又しても、透明な海面に、昨日の美少女の面影を観ていた。 その夜、新治は青年団の定例会に出席していた。 議長を務めていた川本安夫(大刀川洋一)が、村長からの依頼で、渇水期の井戸の割当表を作ってくれと言って来たが、素案を作って来たので、後は猛(大前亘)に任せて、俺は用があるので中座させてもらうと言い出す。 安夫が帰ると、猛が、安夫は宮田の照爺の所に呼ばれとるんやとみんなに教えたので、それを聞いた新治は気が気ではなくなり、そっと定例会を抜け出すと、にぎやかな宴会の音が聞こえる宮田の照爺の家の側まで行ってみる。 宮田家では、照吉(上田吉二郎)、「神島丸」の船長、十吉親方、そして安夫らが客が集まっており、初江(青山京子)がお酌をして廻っていた。 安夫は、自分の前に来た初江に、いい加減にしとき、きりがないから水でも飲ませてれば良いんやと年寄連中の事をからかい、今度一緒に映画でも行かへんか?と誘って来るが、初江は返事もせず、他の客の応対をする。 その頃、新治は八代神社に来て手を合わせていた。 私はまだ少年ですが、いつか一人前の漁師、色んな仕事にも熟達した漁師になりたい。海女をやっている母の身体をお守り下さい。それから気だての良い嫁をもらえますように。例えば、宮田照吉の所に帰って来た娘のような…と新治は願をかける。 翌朝、朝飯を食っていた新治の弟、宏(高島稔)は、修学旅行の金いつくれるんじゃ。まだ払うとらんのは俺だけだととみに声をかけるが、そんなものは金持ちが行くもんだ。新治も行っとらんぞととみが答えたので、泣き出す。 それを聞いていた新治は、今度の給料日、俺が渡してやる。東京行ったら、俺の分まで見物して来るんだぞと言い聞かすと、宏は喜ぶ。 ある日、新治は、薪を取りに、燈台近くの監的哨に向かう。 東大の中では、燈台長がレンズ磨きをしていた。 積み上げられた薪の中から、割当用の「久保とみ」の名札を確認していた新治は、上から物音が聞こえて来たので、何かと思い上に上がると、そこにいた初江と鉢合わせになる。 何しとるんや?と新治が聞くと、燈台長さんの官舎に向かう途中、早過ぎたので散歩していたら道に迷ったと初江は言う。 燈台長の奥さんに料理作法の勉強会に入れてもろうたんやと言うので、あの奥さんは昔東京の女学校の先生をしとったそうじゃけんのと新治は教える。 監的哨の一番上の見晴し台まで登った新治は、向うの伊良湖崎にあった砲台から撃った大砲の弾がどっちに飛んだか見た場所やと教える。 下に見える小さな島が黒島で、鈴木巡査が波にさらわれた所やなどとも教える。 見晴し台の囲いに身を持たれかけ観ていた初江が身体を離すと、ちょうど胸の辺りに泥の痕が付いていたので、新治が伝えると、初江はその胸の泥を手で払い始める。 新治は、そんな初江の胸を見つめているとドキドキして来る。 下へ降りる途中、初江は、私も黒いけど、あんたも黒いね。良う日に焼けとると感心したように言う。 監的哨を出て一緒に帰り始めた新治は、薪を忘れて来た事に気づき、慌てて取りに帰ると、薪を背負って初江を送りながら、久保新治と言う名前と18と言う年を教える。 初江は、じゃあ1つ上やなと答える。 燈台長さんの官舎に通ずる小道を教えて別れる。 翌日の舟で、今度の10日は良う働いた。漁協で勘定もろうて来いと十吉親方から褒められた新治と龍二は、舟を浜に上げた後、島の漁業協同組合に行って給金をもらう。 その時、集まっていた漁師たちが、川本安夫が初江の入り婿になるそうじゃなどと噂している声を聞き、新治は動揺する。 浜を歩いている時、新治さん!と声をかけられたので、そちらを見ると、舟を浜上げしている初江がいたので、新治も反対側から舟の引揚げを手伝ってやる。 その後、自分の胸に泥の跡が一文字についている事に気づいた新治は、監的哨での初江の胸でも思い出し、急に自己嫌悪を感じたのか、逃げるように去って行ったので、礼を言おうとした初江はあっけにとられる。 家で働いていたとみは、いつの間にか帰って来て、畳に寝そべっていた新治に気づいて驚く。 新治は起き上がると、奥で勉強をしていた宏を呼び寄せると、目をつぶらせ正座させると手を出させる。 修学旅行の費用、3370円やったなと言いながらポケットを探った新治だったが、どこにもない事に気づくと、落として来たと悟り、慌てて浜に戻る。 取り残された宏は、当てが外れ泣き出すが、その時やって来た初江が、浜で拾ったと言って、給料袋をとみに手渡す。 とみは礼を言い、新治は今浜に行ったと教えると、探してきますと言って初江も浜に戻る。 給料袋を手にした宏は、涙で濡れた顔をくしゃくしゃにして喜ぶ。 浜で必死に給料袋を探していた新治に近づいて来た初江は、あんたの給料袋、お母さんに渡して来たと教えると、そうか!と安堵して立ち上がるが、川本の安夫の嫁になるのは本当かと聞くと、初江は急に笑い出し、噓やと否定する。 あんまり笑うて、ここ痛うなったわと背中を指すので、新治はさすってやろうと身体を近づける。 その時、2人は真剣な目で見つめあう。 明日、漁が終わったら、燈台長さんの所へ行くと新治が誘うと、初江も、私もその前に行くと約束し、恥ずかしくなったのか、浜に置かれた舟の陰に隠れてみせる。 新治は、隠れても影が見えとるがなと苦笑する。 翌日、燈台長の家に先に来ていた初江は、島に伝わる歌を歌いながら料理をしていた。 それを聞いた奥さんは、初江さんがそんなに良い声だったとは知らなかったわ。今度みんなの前で聞かせてね。私なんか、この島に来て3年になるけど、まだその歌覚えられないのよと感心する。 そこにとれたてのオコゼを持った新治がやって来る。 それを受け取った奥さんは、上がって初江さんの手料理食べて行きなさいと勧めてくれたので、新治は上がろうとするが、東京の千代子から手紙が来て、新治さんの事を聞いて来たのよ。あの子、新治さんの事、好きなんじゃないかしら?などと奥さんが行った途端、新治は恥ずかしくなって苦笑いしながら逃げ帰る。 奥さんは呆れて、新治さんたら、千代子の話をしたら逃げ出しちゃったわと言うが、台所にいた初江は面白くなく、忌々しそうに、まな板の上で暴れているオコゼの頭を包丁で叩くのだった。 暗くなったので、1人帰宅する事になった初江は、持たされたカンテラの灯もつけず森の中を抜けて行く。 ずっとのその木の陰で待ち受けていた新治は、初江が歌っていた島の歌を口笛で吹いて知らせてやるが、初江は返事もせずに無視して通り過ぎてしまう。 慌てた新治が追いかけると、途中で初江が転んでしまう。 駆け寄って、助け起こしながら、何で火を点けてへんのや?と聞くと、あ、又開いた!と初江は自分の左手の人差し指を観る。 さっき切ったんやと言うので、新治はその指を嘗めた後、ハンカチを巻いてやりながら、何怒っとるんや?と聞く。 千代子さんのことや!と初江が言うので、何とも思うとらんと新治は答え、何故いつも魚を燈台長に持って行くのかと聞かれると、俺昔落第したんや。その時燈台長のお陰で卒業できたんやと言うので、何でもう1年やらんかったん?と初江は不思議がる。 親父が死んだんで、海女をやってるお母のためだと新治が答えると、私も潜り上手よ。あんたええ人やな。あんたみたいな人が住んでいるこの島は世界一ええ島や。私も嫁行ったら、丈夫な子を生んで良い子に育てるつもりや。明日も朝早うおきて働くんやと初江は言う。 その後、2人揃って八代神社に参る。 手を合わせる新治に、あんた、何祈ったんや?と初江が聞くと、秘密やと言うので、初江の方も秘密やと答える。 新治さん、今度いつ休みなの?と聞かれた新治は、休みはない。時化の日でもないと休めんと言うと、じゃあ、今度の時化の日、私、監的哨に行っとくわと初江が言うので、新治も行く、俺も噓を言うたことがないと誓う。 その時、初江が眼下に広がる村の方を観て、わあ、きれい!と感激する。 発電が直って、村の家々に電気が灯ったのだった。 あれ観て、私が何思うたか分かる?と初江が聞くと、ほんなら俺と同じやと新治も答える。 お互い腹が減ったので、互いの家に帰りかけるが、その時、新治は、今朝、浜で拾ったきれいな貝殻を取り出し、初江に渡す。 珊瑚みたいや!ブローチになるやろかと喜んだ初江は、遅うなるからもう帰るわと行って、夕暮れの中、帰って行く。 ある日、東京の大学に行っていた千代子(宮桂子)が、夏休みになったので舟で帰って来る。 同じ舟に、川本安夫と猛が乗っているのに気づいた千代子は、島で何か変わったことあった?と声をかける。 初江と言う娘が照爺の所に呼ばれて帰って来たんだが、俺が初江の入り婿になるっちゅう噂が立っとるんじゃと安夫は満更でもないような顔で教える。 その時、新治の乗った小舟が見えて来たので、猛さん呼んでよと千代子は頼むが、あいつは頭が少し足りんからななどと猛は嘲り、安夫と共に、新治が落第した時の事を蒸し返そうとするが、それを無視して、千代子は新治さ~ん!と大声で呼びかけてみる。 しかし、新治は気づかないようだった。 港に来た千代子は、修学旅行に向かう宏を見送りに来たとみに出会ったので、おばさん、千代子ですと挨拶するが、連絡船に乗り込む宏に気を取られたとみは上の空で生返事をするだけだった。 始めて息子を島の外に送り出すとみは、いつまでも連絡船に乗って出発した宏を見守っていた。 次の時化の日、かっぱを着て1人監的哨にやって来た初江は、先に来ていた新治が、濡れた服を乾かすため、たき火を焚いて眠ってしまっている所を見つける。 初江も濡れ鼠になっていたので、思い切って長靴を脱ぎ、服も脱ぎ始める。 燈台長の家では、千代子が、今日は新治さん、来ないね~などと呟いていたが、奥さんは、そんな事より東京の話を聞かせて。ハイヘの本物を観たんだって?と聞いて来る。 監的哨の中では、ふと目を覚ました新治が、目の前でスカートを脱いで胸の前に掲げ、乾かしている初江に気づき、慌てて寝た振りをする。 しかし、初江の方も、新治が目覚めた事に気づき、いかん!目を開けたらいかん!と言いながら身を隠そうとする。 何で逃げるんや?と新治が聞くと、恥ずかしいもんと初江が言うので、どうしたら恥ずかしゅうなくなる?と聞くと、新治も裸になれと言う。 それで立ち上がった新治はその場でシャツを脱ぎ、下帯一つの裸になる。 スカートで身体を隠した初江は、そんも火を飛んで来い!と言うので、新治はたき火の火を飛び越えて初江に飛びかかると、壁に身体を押し付ける。 しかし、初江は、いかん、いかん!嫁入り前の娘がこんな事をしたらいかん!と拒否しながらも、私、あんたの嫁になると決めたんやと言い出す。 俺の嫁になってくれるのか?と新治が驚くと、あんた困るんか?と言うので、新治は嬉しい!と正直に答える。 やがて、雲間から太陽が覗く。 シミーズをブラジャーのように胸に巻き付けた初江は外に逃げ出す。 下帯一つの新治もそれを追いかける。 2人は高い崖から海に飛び込み、一緒に泳ぎ出す。 初江が海に潜ると、新治も後を追って潜る。 燈台長の家の窓から、森をやって来る新治の姿を見かけた千代子は、声をかけようとするが、その時、新治が初江をおぶっているのに気づく。 千代子は嫉妬に顔を曇らせると、私、浜に行くの止めたわと母親に言う。 翌日、浜辺に来た安夫は不機嫌だった。 あんなぼんやりにそんな素早い事が出来るとは思わなんだと猛も横で呆れていた。 初江をものにするんやと安夫はうそぶく。 その日、水汲みの割当表で、照吉の家の割当時間が3時と調べたものがいた。 その頃、とみと二人で家に戻って来た新治は、皇居の二重橋の写真が載った絵はがきが届いている事に気づく。 東京に修学旅行に行っている弟の宏からのハガキだった。 新治が読み始めると、無学なとみは、意地悪せんと声にして読まんかねとせがむ。 僕は、草太とかっちゃんとで映画館に行きました。椅子に座ろうとすると、狭くて堅くて座り難かったのですが、後ろの大人が座れと言い、椅子の仕掛けを教えてくれました。 それは折り畳み椅子と言うもので、座ってみたらふわふわで、天皇様の椅子のようでしたと書かれてあった。 それを聞いたとみは、あれはお前と違うて賢いからと褒める。 その時、亡くなった父の遺影を観ていた新治は、お母もお父を好きやったんか?お父も好きやったんか?と唐突に聞いて来る。 その頃、宮田家の割当時間なので、初江が桶を持って水汲み場にやって来ると、隠れて待っていた安夫が突然姿を現し、初江に抱きつこうとして来る。 初江は何するんや!と言いながら抵抗するが、安夫は、新治と寝よったくせに!嵐の日に森へ行って新治と何しよったんや?俺とも同じ事しようやないかと迫る。 その時、突然、安夫が痛い!痛い!と言いながら、初江から身体を離す。 何と、アブのような虫に刺されていたのだった。 そのアブを踏みつぶした安夫は急に気力をなくしたのか、石を持って振りかぶっていた初江に、もう何もせえへんからと約束する。 なあ…、照爺に告げ口するんやろ?どないしたら告げ口せんといてくれる?と安夫が弱気になったので、水を汲んで運んで行ってくれたらと初江は答える。 仕方なく、安夫は、2つの桶に水を汲んで、それを天秤棒で担いで、鶏が鳴き始めた中、下の家まで持って行ってやる。 海岸で、友達とガンマンとアメリカ原住民ごっこをして遊んでいた宏が、腹を空かして家に戻って来る。 そして、飯を食べながら、お母、乳くり合うって何や?と聞く。 とみが乳くり合う?と聞き返すと、新兄が初江と乳くり合うとったと言うとったと言うので、宏!誰が言うとった!二度とそんな事を言うたら酷いぞ!言うたら何日でも飯食わせんぞ!と脅す。 その夜、宏が先に寝ると、新治、お前、初江の事で悪い噂が立っとるの知っとるか?と寝床に入っていた新治にとみは声をかける。 一緒に寝たんか?人に陰口聞かれるような事しとらんのやな?と確認すると、新治は本当やと答えたので、それなら言う事ないわ。気をつけい。世間は噂好きやから…ととみは言い聞かす。 しかし、燈台長の奥さんも、海女たちもその噂で持ち切りだった。 照爺さん、知らんのか?と1人の海女が聞くと、聞いたら原子爆弾や!と他の海女が答える。 安夫はお古をもらうんか?照爺聞いたら腰抜かすやろななどと銭湯で噂しあっていた若者2人は、たまたま横で聞いていた照爺に首根っこを掴まれ、湯船に頭を押し付けられる。 翌日、初江は、海に出かける途中だった十吉の親方に手紙を渡す。 舟の上で、親方から受け取った初江の手紙を読む新治。 いくら説明しても、お父さんはああ言う人だから無駄です。 新治さんに絶対会わせないと言ってます。 郵便局は怖いおじさんばかりなので、これから手紙は台所の水瓶の下に置いておきます。 新治さんが取りに来ると危ないので、信頼できる友達に頼んでください。 新治さん、心強く生きて行きましょうね。 いつも、新治さんの身体に怪我がないように祈っていますと手紙には書かれてあった。 その後、魚を持って燈台長の所へ来た新治に、お父さんが話があるって!と奥さんが声をかけても、新治は逃げるように帰るようになる。 燈台長は、どういうのかね?最近すっかり暗くなったね…と、新治の事を案ずる。 噓だと証明しようにも難しいし…、憎むべきは噂を振りまいた奴だな…と奥さんと話していると、急にラジオのボリュームを上げた千代子が家を飛び出して行く。 浜辺にやって来た千代子は、ちょうど舟を出した新治に気づき、波打ち際に入り、新治さん!私、今日の舟で帰るの。新治さん!私が…と声をかけようとするが、浜辺にいた男共に、初江に噛み付かれるぞ!とからかわれたので、あんたたちの事を…と言いかけただけで止めてしまう。 新治も気づかないまま、舟が遠ざかって行ったので、千代子は波打ち際に1人取り残されてしまう。 ある日、新治は、龍二が運んでくれる初江からの手紙を胸に、張り切って舟で働いていた。 明日の晩、お父さんがお客を呼びます。お酒を飲んだお父さんは寝てしまいます。 今夜9時、八代神社で待っててくださいと書かれた手紙を、途中で奪い取った龍二が読んでみる。 その夜、八代神社で待っていた新治は、階段を登って来る初江の姿を見つけ喜ぶが、階段の途中で、横から飛び出して来た照爺に初江が捕まり、連れ戻されるのを目撃する。 家に帰って来た新治に、どこ行っとたんや?近頃元気ないな。お前、女にぼけてしもうたのやないか?お前と初江とでは身分が違う。諦めろ…ととみは言い聞かす。 お母…、俺な…、遠くで働いて、お母に金送るようにしたらいかんか?と、突然新治が言い出す。 どこぞ遠くや…、お母、さみしいか?と新治が聞くと、縫い物をしていたとみは、さみしいころあるもんか。男の子が出て行くくらいの覚悟は出来とると気丈にも言うので、そうか…、すまんな…、俺、しばらくこの島から離れたいんや。それなら俺、朝にでも出る!と言うと、布切れを探すような振りをしていたとみが泣いているのに気づき、新治は父親の遺影を見ると、たまらなくなり、家を飛び出す。 ちょうど、花嫁を送る行列に出会った新治は、そのまま港の突堤に走ると海に飛び込んで泳ぎ始める。 防波堤に泳ぎ付いた新治は、そこに這い上がると、泣き崩れる。 一方、港が見える場所にある夫の墓の前に来たとみは、父さん、一体、おらは…と手を合わせて拝みながら呟く。 次の瞬間、良し!と決意したとみは、その足で宮田家に向かうと、応対に出て来た初江に、お父さん、もう寝たやろか?と聞く。 まだ起きていると聞くと、ちょっと話があるよって呼んで来てくれと頼むが、少し経って戻って来た初江が、気の毒そうに、お父さん、会わん言うとりましたと伝えると、一旦は黙って立ち去りかけるが、良し!と言いながらすぐに振り返り、貧乏後家にはこの家の敷居は跨がせん言うんやな?二度とこの家の敷居は跨がんと、お父さんに言うてくれ!と言い残して帰って行く。 後に残った初江は泣き崩れる。 後日、海女になった初江が、昼食時、他の海女の輪に入らず、1人離れた所で休んでいるので、お春婆(本間文子)が、こっちに入ったら良いのにと誘いながらも、とみが煙たいんや。いくた照爺が憎いからって初江まで…と、隣で弁当を食べていたとみに言い聞かす。 その時、物売りの通称「校長先生」(東野英治郎)にたかっていた若い海女たちの1人が、ハンドバッグをもらったと喜んでいた。 ハンドバッグを見せてもらったはつは、こんなもんもらえるんやて、ええな…とうらやましがっていた。 そうした中、「校長先生」は、これから1時間、一番蚫を採った者にハンドバッグをやる。 色は、若い者用に白、大人には黒、年寄には茶があるなどとはやし立てる。 それを聞いた若い海女たちは張り切るが、お春婆は年寄が潜れるか!と文句を言う。 いよいよ海女たちの潜り競争が始まり、1時間後、「校長先生」による結果発表がはまで行われる。 久保のとみは18杯で2位、1番は20杯採った宮田初江さんだと言うので、神島の海女も堕ちたもんや。他所から来た女に負けるなんて…ととみは愚痴る。 すると、若いのに黒のハンドバッグを選んだ初江が、それをとみに渡そうとする。 とみは躊躇するが、いつかお父さんがつまらんこと言うたから、謝ろうと思うてました…と初江が言うので、それを横で聞いたお春婆が、まっすぐもらっとけとはつに声をかけ、はつは素直にそのハンドバッグを受け取る事にする。 「校長先生」も、感心な娘じゃの~…と初江を見ながらつぶやき、どうしてあの頑固親父にあないな優しい娘が出来たんやろ…とお春婆も首を傾げる。 その夜、家に置かれていた黒いハンドバッグに気づいた新治が、これ買ったんか?と聞くと、娘にもろうたんやとはつが言うので、どこの娘や?と驚いて聞き返すと、オラの娘やとはつは嬉しそうに答える。 そこにやって来た「神島丸」の船長と十吉親方が、安夫と新治の2人が「神島丸」に乗る事になった。おめでとう!しっかり頼むぞ!と嬉しそうに教えてくれる。 大きい舟に乗るんやろ!と弟の宏が立ち上がると、船長は自分の船員帽をかぶしてやり、宏は敬礼の真似をする。 悪いようにはせんと船長は、不安そうなはつに告げる。 出発の日は雨だった。 安夫を見送る猛は、帰って来たら婚礼やなと冷やかす。 他の若者たちは初江に向かって、ご主人の門出やないか、もっと前に出んかとはやし立てるが、初江の目は、少し離れた所ではつと宏に見送られている新治の方に向けられていた。 いよいよ「神島丸」への乗船になり、たまらなくなった初江は、はつに駆け寄ると、お母さん、これ!とハンカチで包んだものを手渡す。 はつはすぐに事情を察し、それを新治に手渡すと、人に見せるんじゃないぞ!と注意する。 出航後、「神島丸」の船室でハンカチを拡げた新治は封筒が入っていたので、読まずに破り捨てようとするが、固くて破れない。 不思議に思い、中を開けてみると、お守りと初江の写真が入っていた。 手紙も同封されており、今度の事、お父さんは何も言いませんでした。何か考えがあるうような気がします。希望が出てきました。私は新治さんのものです…と書かれてあった。 ある日、2人で甲板掃除をしていた安夫は、ここでは島の仲間は2人だけだ。島ではいろんなことがあったけど、ここでは仲良くしようなと言って来る。 その時、先輩船員がさぼっているように見えた安夫を叱って来たので、俺が照爺の入り婿になったら、この舟は俺の舟や!あいつ、一番に首にしたろう!と安夫は睨みつける。 その後、「神島丸」は嵐に遭遇し、舫綱が切れてしまい、舟は荒波にほんろうされ始める。 その報告を聞いた船長は、このままでは岸壁に叩き付けられるか、暗礁にぶつかるかだ!良し!命綱を使おうと言い出し、甲板に出ると、誰かこの命綱を向うのブイに繋いで来る奴はいないか?と声をかけるが、船員たちは怯え、誰一人返事をしなかった。 腰抜けめ!と罵倒した船長は、自らその綱の先端を自分の身体に巻き付け海に入ろうとする。 その時、俺が行きます!と声を挙げたものがいた。 新治だった。 子供には無理だ!死ぬかもしれんぞ!と船長は言うが、新治の目が真剣だったので、良し行って来い!これを付けて向こうに結んで、帰りは、命綱を伝って帰って来るんだと命じる。 飛び込もうとした新治は、一瞬、初江の写真が頭に浮かび躊躇するが、どうした?と船長が聞くと、次の瞬間、荒れ狂う海に飛び込んで、ブイに向かい泳ぎ始める。 何とかブイまでたどり着いたものの、波にほんろうされ、なかなか上に上がれない。 何度かの挑戦の末、何とか上に這い上がった新治は疲労困憊のため、しばらく死んだようにブイの上に倒れ込む。 そして、何とか、紐を引き寄せ、太い命綱をたぐり寄せると、それをブイの中心の取っ手に結びつける。 命綱を伝って「神島丸」に戻って来た新治は、船員たちに担がれないと歩けないほど疲れきっていた。 そんな新治に、船長は、眠ったらお終いだぞ!と声をかける。 「あの嵐の夜 安夫さんに告げ口をしたのは私です。それに汚い尾ひれをつけて広めたのは安夫さんです。2人が結ばれない限り、私は島に帰れません」東京の千代子から、そう書かれた手紙を受け取った燈台長の奥さんは、慌てた様子で、洗い場に集まっていた海女たちの所へ来ると、初江さんと新治さんの中を邪魔しているのは照爺さんですか?と問いかける。 ずっと2人の事を気にしていた海女たちはざわめき始め、一つみんなで照爺にどーんと脅してやるだ!とお春婆が言い出す。 海女たちはみんな賛成し、燈台長の奥さんと共に宮田照吉の家に向かう。 洗い場に1人残ったはつは、宜しゅうお頼みしますと仲間たちに頭を下げる。 宮田家に付き、ごめん下さい!と声をかけた燈台長の奥さんらは、何や!何の話に来たんや!と怒鳴る照爺の怒声に身をすくめる。 取りあえず、全員家の中に上げた照爺は、初江と新治のことか?それならもう決まっとる。新治は初江の婿になる男や! 安夫と新治と「神島丸」に乗せたのは、どっちが観どころがある男か見極める為やった。 男は気力や!この神島の男は気力さえあれば良い。家柄とか財産などはいらん話や!他に何ぞ、用があるのかい?とキセルを口に一方的にまくしたてる照爺に、やって来た海女たちは一言も返す言葉がなく、ただ、良かったな~…と喜びあうだけだった。 祭りの日、採れ立ての魚を手に新治が宮田家にやって来る。 「神島丸」の船長と将棋を指していた照爺は、初江!誰やら来とるぞ!と声をかける。 浴衣を着た初江が、行ってまいります!と挨拶をして、新治と八代神社へ向かう。 今日、何祈るんや?と初江が聞くと、お礼参りやと新治が言うので、何のお礼参りや?と聞くと、知らんと言う。 その後、新治と初江は、燈台の中にある望遠鏡で、遠くに浮かんでいる外国船のデッキの様子を観ていた。 みんな楽しそうやな…と初江が呟くと、今度試験通ったら一等航海士や。免状取ったら、式挙げさせてもらおうなと新治は言う。 お~い!飯が出来たぞ~と家の前から燈台長が声をかけて来る。 これ、覚えとる?と初江が何かを取り出す。 おれかて…と言いながら新治も取り出す。 2人が取り出したのは、互いにプレゼントした美しい貝殻と初江の写真だった。 お~い!と又呼びかけようとした燈台長だったが、野暮な事はすまいと諦めたのか、笑いながら家に戻る。 灯が灯った燈台の上では、強く抱き合う初江と新治の姿があった。 |
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