山田風太郎の忍法帖シリーズの実写化作品
まず、主人公を演じているのが若き夏八木勲であるのが珍しい。
その後、夏八木さんは脇役が多かったと記憶しているが、初期の頃には主役作品もあったということだ。
色男で剣の達人と言う役所だが、正直、色男の方は微妙なような気がする。
もちろん、当時の夏八木さんはそれなりにイケメンなのだが、主役としてのオーラのようなものにはやや欠けているように見える。
後年のイメージからの偏見かもしれないが、誠実そうな雰囲気はあるものの、若干、華がないような気がしないでもない。
主役がそういうイメージだけに、作品全体のイメージも地味目。
脇役ファンとしては、遠藤辰雄、山本麟一、潮健児と言った悪役として有名な面々が活躍するのが嬉しい。
特に、白塗りの忍者を演じ、主役を助ける正義の忍者のような役回りを演じている潮健児と、女頭領を慕う一途な遠藤辰雄のキャラクターが珍しい。
又、エキゾチック美女の真理アンヌがくノ一を演じていたり、山城新伍が徳川忠長を演じていたりするのも楽しい。
ただ残念ながら、真理アンヌや山城新伍が登場するシーンは多くないし、これと言った活躍をしないのがちょっと物足りない気もする。
自分がこれまで観て来た限り、山田風太郎原作の映画化で、原作に匹敵するくらい面白い作品と言うのはなかなか思いつかない。
あえてあげれば、けばけばしいイメージだった角川映画の「魔界転生」くらいだろうか?
後の作品は、大抵、添え物的な低予算のプログラムピクチャーということと、昔の性表現の限界もあり、ちょっとしたお色気時代劇程度の雰囲気止まりの作品が多いような気がする。
この作品もその例外ではなく、女優が裸を見せたり…と言うようなお色気表現はほとんどない。
せいぜい、イメージカットとして、顔が見えないような形で女性の裸体が出て来る程度。
忍法を表現する特撮も、当時の東映だけに、どうということはないようなものばかりで、この映画の翌年の子供向けのテレビ時代劇「妖術武芸帳」(1969)などの雰囲気に近いような気もする。
とは言え、冒頭の、女体が鯉の鱗で覆われる怪異なイメージ等、怪奇映画好きにはちょっと目を惹く部分がないでもなく、プログラムピクチャーとしては、それなりに楽しめなくもない作品にはなっていると思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
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1968年、山田風太郎原作、佐治乾+小野竜之助脚色、鈴木則文監督作品。 寛永7年、某月某日 江戸城大奥に怪異起これり… その日、三代将軍家光の夜伽を仰せつかったのは、19歳になるお舟の方(霧立はるみ)であった。 家光が寝所でお舟の方を愛撫している時、その天井で、同じように、鯉を愛撫しているものがあった。 鯉はなでられるたびに鱗がはがれて行く。 寝所のとなりの部屋で正座して警護していた春日局(花柳小菊)は、突如、家光の「誰かある!」との叫びを聞き、寝所に入ってみると、何と、布団の上のお舟の方の足が赤い鱗に覆われていた。 春日局は、刀を手に取ると、その場でお舟の方を斬り捨てる。 お舟の方の血が畳の上に流れる。 タイトル 吉原に入り浸り、遊女と遊んでいた椎ノ集刀馬(夏八木勲)にいきなり会いに来たのは、柳生但馬守(大木実)であった。 刀馬は、柳生一門を破門された自分をわざわざ但馬守直々に会いに来たことに驚きながらも、今は剣の技よりも頭と金の時代だが、拙者にはどちらもないとおどけてみせる。 但馬守は、大奥で怪異が起きた。今こそ御主の剣を試す時が来た。土井大炊頭様がお呼びじゃと用向きを伝えると、刀馬が吉原に払えないで難儀していた金をその場で払ってやる。 土井大炊頭(曽我廼家明蝶)に会いに出かけた刀馬は、怪異の手掛かりとして、天井に残されていた、鱗が一枚のない鯉の死骸を見せられる。 警護の忍びの者は?と刀馬が聞くと、甲賀、伊賀、根来から2組ずつ起用していると大炊頭は答える。 吉原の噂雀の話で、このところ、上様は、30路になるのに未だ子宝に恵まれないので、毎夜のごとく女を寵愛されていることは刀馬の耳にも入っていた。 大奥の守護頭に任命され刀馬は、自ら編み出した秘剣の術を使うには、今後、女を封じなければならないと説明し、その後、警護の忍びの者たちに会ってみることにする。 中庭に揃った忍者たちが、端から名乗って行く。 伊賀の芦田、山根に続き、根来の筏織右衛門(山本麟一)、虫籠右陣(遠藤辰雄)が名乗った時、刀馬は、右陣の醜い顔が作り物と気づき、仮面を引きはがす。 次いで、甲賀の百々銭十郎(潮健児)が名乗るが、刀馬は、それが着物だけの「空蝉の術」を使っていることに気づき、出て来い!と叫ぶ。 忍者の横に居並んでいたくノ一の1人が立ち上がると、その股の間から白塗り顔の百々銭十郎が顔を出す。 小判ザメが鮫の腹で姿を隠すように、女の身体が拙者の身体を隠す…と言いながら、ふんどし一つの裸の百々銭十郎がくノ一の着物の中から出て来ると、くノ一たちがその廻りを囲み、瞬時に着物を着た姿に戻る。 彼ら忍びの者たちを前に、自らも自己紹介した刀馬は、これからみんなと力を合わせて賊と戦うぞと決意を述べる。 その夜、近くの池で鯉を捕っているものがいた。 その男虫籠右陣が帰る途中に待ち受けていたのが刀馬だった。 刀馬は、御主の懐のものを出してもらおうと切り出すが、右陣はシラを切る。 その時、右陣の懐から、笛の値のような音が聞こえて来たので、右膳は焦りながらも、お舟の方の肌を鱗に変えたのは、忍法きらら肌だと教える。 刀馬は、葦の笛を鯉の口に仕込んでおいたのだと笑うと、剣を抜くが、その刃が光ったかと思うと、次の瞬間には、右膳の額に剣の切っ先が突き刺さっていた。 その死体を確認した刀馬は、右膳の右腕に「葵の紋に卍が重ねられた刺青」をしてあることに気づく。 しかし、右陣は死んではいなかった。刀馬が立ち去った後、その道を通りかかったお小姓姿の女おぶみ(真山知子)に抱きつくと、そのままぐるぐる道を転がる。 「忍法 泉の糸回し!」 右陣の術をかけられたおぶみは情念の炎を灯され、どこまでも右陣の後を追いかけるようになる。 それを知っていた刀馬は土井大炊頭に報告後、おぶみと共に右陣が逃げた先を探り始める。 おぶみに案内され、人気のない屋敷の門の前にやって来た刀馬だったが、その門が開いて、中から犬を連れた娘が出て来た途端、おぶみはその場に気絶するように倒れてしまう。 ふじと呼ばれる犬と出て来た女は、その後、近くの花畑で花を摘んでいたので、近づいた刀馬は、あの屋敷に住んでいるのはどなた様でしょう?と聞く。 女は答えず、お当てになってくださいとはぐらかせて来る。 ところがその直後、その女は倒れ、いつもの癪が…と苦しみ出したので、刀馬は抱き上げて、胃の辺りを押さえてやる。 すると、その女は気持ちが良いのか、恍惚とした表情になり、やがて、女の身体の周囲には黄色い靄のようなものが発生する。 その靄を吸った刀馬は身体が痺れて来たことに気づき、女の術にハマったことを悟ると共に、そちの術は?と聞くと、女は曼珠沙華!と答える。 身体が燃えると、息が毒になり、相手の身体を痺れさせ、滅ぼすのだと説明する女。 それを聞いた刀馬は、その場に倒れながらも、哀れな女だ…と呟く。 そこに、側の水門から現れたのは筏織右衛門だった。 筏は、右陣がもう1人も取り押さえておりますと女に報告し、刀馬の身体を調べると、まだ、生きております!と驚いたように知らせる。 その女陽炎(桜町弘子)は、その男にはまだ聞かねばならぬことがありますと右衛門に言い、殺さず、屋敷に連れ帰るよう命じる。 身体の自由を奪われたまま屋敷に連れて行かれた刀馬は、石畳の部屋に吊り下げられていたおぶみを発見する。 おぶみが言うには、気がついたら、このようになっていたらしい。 刀馬に誰から頼まれて屋敷を探っている?と聞いた陽炎だったが、刀馬が容易に口を開く相手ではないと気づくと、吊り下げられていたおぶみを石畳の床に降ろすと、痛むか?可哀想に…等と優しい言葉をかけながら抱きついておぶみの身体を愛撫すると、誰に頼まれた?と聞く。 それが催眠術だと気づいた刀馬は、逃げろ!目を閉じろ!と隣の間から声をかけるが、すでにおぶみの心は陽炎の操るままになっていた。 何故、この屋敷に来ることが出来た?陽炎は、おぶみの胸を揉み、唇を吸いながら問いただす。 すると、おぶみは、「忍法 泉の糸回し」右陣に抱かれて身体を燃やされたので…と答え、土井大炊頭に言われて来たのか?と聞かれると、いいえ、御家老様はご存知ありませんと答える。 その間、陽炎の吐息は黄色い靄になり、おぶみの身体を包み込んだので、それを吸い込んだおぶみは息絶えてしまう。 その一部始終を目撃した刀馬は、あの行きを拙者も吸ったのか?可哀想に…と陽炎に聞く。 陶酔の絶頂で息絶えるのだから幸せじゃと言う陽炎に、可哀想と言うのはお前のことを言ったのだと返した刀馬は、お前は恋の出来ぬか女だ。お前は恋する男を殺してしまうか○わ者じゃと哀れむ。 その言葉を聞いた陽炎は激高する。 怒りが収まらない陽炎は、右陣を呼び寄せると、あの女はお前の術のためにここを嗅ぎ付けたのだと叱りつけ、筏を伴い、任意車に右陣の術をかけるのです。上様にご世継ぎを作らせてはなりませぬ!と強く命じるのだった。 大奥では、その夜、お国の方(三島ゆり子)が春日局から夜伽を命じられて準備をしていた。 春日局が処女のお国の方に、夜の営みをアドバイスしている会話を、外から右陣が、ホラ貝を耳に当て盗聴していた。 侍女のおくる(小川真理子)は、自分の母親の匂い袋を取ってきておくれとお国から頼まれ、長持が置いてある部屋に1人でやって来るが、天井に潜んでいた筏織右衛門が飛び降りて来て、当て身を食せられたので、その場に気絶する。 なかなかおくるが戻って来ないので、お国の方直々に長持のある部屋に探しに来るが、長持の中に隠れていた筏に捕まり、裸にされると長持の中に引きずり込まれる。 そこに虫籠右陣もやって来る。 筏は、気絶したお国の身体を愛撫し、「忍法 任意車!」と呟く。 すると、2人の身体は溶け込んだようになり、長持の中に立ち上がったお国の方は、完全に筏の心に支配されたらしく、その声も筏のものであった。 長持の中には、昏睡状態になった筏の身体が横たわっていた。 その筏の声のお国から、男の種はこの身体の中で一昼夜しか持たん早々に御主の「濡れ桜」を頼むと声をかけられた右陣は、お国の身体を嘗め始める。 「濡れ桜」とは、右陣の唾液が触れた肌は秘所と同じような肌触りになり、敏感な「全身性器」になる恐るべき術であった。 全身右陣に嘗められ、ローションまみれのようになったお国の方は、何とも妙な気分じゃと筏の声で言うと、わしの留守中、絶対にわしの側から離れるではないぞと、長持の中の自分の身体を案じ、右陣に念を押す。 寝所へ向かうお国の姿を、廊下の影からかいま見た百々銭十郎は、はて、男をとろけさすような…と、お国の様子の異様さに気づく。 将軍家光は、すでに別の女を抱いた後で、その女は隣の部屋の布団の中に入るが、新たにお国が喘ぎ声を出し始めると、恥ずかしさのあまり、両耳を押さえてしまうのだった。 長持の部屋の様子を見に来た百々銭十郎は、そこで気絶していたおくるに気づくと、活を入れて目覚めさせる。 おくるは、はっ、ここは?お方様は?と驚いた様子。 百々銭十郎は、部屋の中に置かれた長持の鍵がねじ切られていることに気づくと、蓋を開いてみる。 すると中には、筏織右衛門の身体が眠ったように横たわっており、触ると死体のように冷たい。 お国はこやつに術をかけられたに違いないと察した銭十郎は、寝所へ向かうが、一足遅く、寝所から出て来たお国の方は、銭十郎が斬りつけた刀を白刃取りしながら、上様、ご腎虚…と言いながら笑う。 銭十郎は、側にいたくノ一の胸を刃で突き刺し、「忍法 赤朽葉!」と叫ぶ。 くノ一の胸から噴き出した血しぶきが、逃げようとしたお国の背中に赤い刃のように固まって突き刺さると、お国は苦しみながら後ずさり、背後の襖を倒して、真っ赤な空間に落ちて行く。 その頃、長持の中から起き上がった筏織右衛門は、天井から吊り下げられていた駕篭の中から降り立った右陣に、お国は死んだ…と知らせる。 しかし、お国を使った術は成功し、腎虚になった家光はもはや生ける屍よ…と笑う。 その後、陽炎や筏織右衛門らは、屋敷の中庭に連れ出された縛り付け刀馬に、大納言様のたっての願いで、ふじと闘わせると言い出す。 陽炎の愛犬ふじが、縛られた刀馬に飛びかかって行く。 それを側で観ていた陽炎は、哀れな男をお救い下さいと心の中で念じるが、噛み付かれていた刀馬の方は、犬のふじに、お前の主は私だ!敵はあの奥にいる男だ!と念じていた。 その心が通じたのか、ふじは刀馬ではなく、御簾のかかった奥の間から見物していた大納言こと徳川忠長(山城新伍)に飛びかかって行く。 その後、陽炎は、座敷牢の中に刀馬を連れて戻ると傷薬を付けてやる。 薬の内容は、曼珠沙華の根、ドクダミ、よもぎ。それに、南蛮渡来の薬を調合したもので、良く効くのだと言う。 毒も、薄まれば薬となる。お前も女として救いがあるのではないか?と陽炎に囁きかけた刀馬は、お前が好きだから言うのだ…と、甘い言葉をかける。 陽炎は向きになり、哀れな女とは言わせん!と反論するが、その陽炎の胸にも、葵の紋に卍の刺青がしてあることに刀馬は気づいていた。 夕日が沈みかけた外で物思いにふけっていた陽炎の元へ近づいて来たのは虫籠右陣であった。 尾張と水戸の御三家の幕閣が集まって江戸城内で相談事を始めたと報告すると、例の公儀隠密はいつ始末なさる気ですか?と聞いて来る。 陽炎が返事に手間取っていると、奴は良い男ですからね〜…と右陣は皮肉って来て、お頭!わしゃ、お頭のために、組を裏切り、仲間を裏切った。そんな恋いこがれたお頭が、他の男にうつつを抜かすとは…と嘆く。 それを聞いた陽炎も、その言葉を否定せず、確かに私はあの男が好きじゃ、あの男を思いだけで血が騒ぐのじゃ…と本心を打ち明ける。 座敷牢に戻って来た陽炎に、刀馬は、拙者の気持ちを信じてくれ!と訴えると、そなたは、かつて豊臣秀吉に倒された高山右近殿のご息女であろう?上様にご世継ぎを作らせまいとしているのも、高山家再興のためなのだろう?と問いかける。 すると陽炎は、違う!と否定し、自分と筏織右衛門は、かつてルソン島に送られ、そこで紅毛人より南蛮忍術を学んだのじゃと教える。 刀馬は、どうしても心を開こうとしない陽炎に対し、信じてもらえぬ以上、死んだ方が良いとまで言うので、陽炎は、刀馬を信じて良いのかどうか迷いに迷う。 もし、信じるとしたら、どうせいと言うのか?逃がせと言うのか?と陽炎が聞くと、この手の戒めだけを取ってくれぬか?痛うてかなわぬと刀馬は哀願する。 陽炎は、刀馬の手を縛った鎖を解いてやり、自分の胸に下げていた卍型のネックレスを外すと、刀馬の首にかけてやり、そなたを信じたぞと言い残し、その場を去って行く。 しかし、翌日、座敷牢に戻って来た陽炎は、刀馬が逃げてしまったことを知り驚く。 手紙が置いてあり、そこには、陽炎殿 そちの気持ちは嬉しかったが、色恋も罠…などと書かれてあったので、騙されたと感じ逆上すると、鞭で部屋に置いてあった南蛮鏡を打ち割ってしまう。 その頃、江戸城では、家老土井大炊頭に、忠長とその配下鳥居土佐守(小松方正)、そして集まった紀伊侯(関根永二郎)、尾張侯(堀正夫)、水戸侯(中村錦司)ら御三家が、上様、ご腎虚の噂を確認していた。 土佐守は、もしその噂が本当なら、すぐにでも弟君である忠長様に将軍職を継いでもらうしかないのではないかと詰め寄るが、大炊頭は噂を否定したものの、その後の対応に苦慮していた。 そこに、刀馬が戻った知らせが届いたので、大炊頭は、暫時席を外し、庭先に控えていた刀馬の報告を聞くことにする。 刀馬は、陽炎等敵の身体には、葵の紋に卍の刺青が入っていることを報告する。 それを聞いた大炊頭は、まさか、7年前、先代様ご逝去の折…と何事かを想像したようだったが、刀馬は、駿河台にある大納言のお屋敷と賊の屋敷は背中合わせになっていますと伝える。 その後、待ちかねていた忠長たちの前に、上様お成り〜の声が聞こえる。 現れたのは、まさしく家光だった。 信じられぬような表情で家光の姿を観た忠長は、兄者、ご気分はいかがですか?と声をかけるが、それを聞いた家光は、兄者と申してならぬ!いかに兄弟とは言え、礼儀をわきまえろ!とぴしりと命じる。 その言葉は、実は家光自身が発したものではなく、背後の屏風の後ろに身を隠していた刀馬が声色を使ってしゃべっていたのであり、当の家光は、付き添いの者が背中にこっそりつっかい棒を当てて、何とか座っているように見せかけるのがやっとの状態だった。 主たるもの、悪い下を持つのは不幸だ…などと、家光の口を借り、土佐守を連れて来た忠長を皮肉った刀馬は、めでたい話を聞かせてやろう。大奥の女子にやや子が出来たぞ!と大噓を発表する。 それを聞いた忠長以下、御三家は驚き、おめでとうございますと祝いを述べると、一同の者、大儀に思うぞ。大儀!と家光に成り代わった刀馬が返事をする。 その後、部屋に下がって床に付いた家光は、忠長の策略に気づくと、今度、高崎に呼んで蟄居を命じる!高崎に到着し次第、切腹させるのじゃ!とまで言い出す。 そんな家光に、下々の者は、病気になると、箱根七つの湯に出かけるもののようですと柳生但馬守が提案する。 一方刀馬は、先ほど、家光の代わりにしゃべった「咽山彦」の術は、心の澄んだ方にしか効きませぬ等と言って、家光を喜ばせようとするが、土井大炊頭は、最後のあのようなことを言いよって…、どうするつもりじゃ?と聞かれると、ご中老に妊らせましょうと言い出す。 すると、それを聞いていた春日局が、誠の徳川家のご世継ぎなれば、その胎盤に葵の紋が現れるのじゃと教える。 刀馬は、その場に、お栄(真理明美)、お彩(真理アンヌ)と言う姉妹のくノ一を呼び寄せると、土井大炊頭自ら、大奥のご中老の御種を頂戴して来るのじゃぞと命じる。 その夜、眠っていた忠長の寝所に忍び込んだ姉妹は、忠長の額に2人同時にキスをすると忠長の顔は見る間に紅葉する。 夢の中で、小さくなった忠長は、柿を食いながら、巨大なお栄とお彩姉妹の身体に向かって嬉しそうに走って行く。 そして、手招きをする姉妹の中に溶け込んで行くのだった。 姉妹は、「甲賀忍法 壺飛脚」と叫ぶ。 無事、術に成功した姉妹だったが、廊下に出た所で、陽炎たちに襲撃される。 その頃、忠長は鳥居土佐守から、家光が忠長を切腹させようとしていると報告されていた。 それを聞いた忠長は、兄家光殺害を許可する。 そして、高山家25万石再興させようとする陽炎には、家光が出かけたと言う箱根に向かうように命じる。 その頃、筏織右衛門は、捕らえたお栄とお彩に、同時に「任意車」をかけようとしていた。 自分の種を7分3分に分けて2人に入り込むので、女の方は、逆に3分と7分、自分の心が残ることになると虫籠右陣に説明すると、まずは縛っておいたお彩を愛撫し始める。 事がすむと、これが3分…、これより7分にかかるとつぶやき、次いで、お栄の身体の方を愛撫し始める。 そして、川の字のように、姉妹の真ん中に筏が寝ると、両方の姉妹が立ち上がる。 そして、これより刀馬と百々銭十郎を討ちに行こう!とお栄は妹に呼びかけるが、まだ7分、自分の心が残っていたお彩は、いや!と拒否し、心の中の葛藤で苦しみ始める。 そして、近くにあった刀を取ると、裏切り者!と姉のことを責める。 対峙したお栄も刀を取り、わしは7分織右衛門!と名乗る。 そして、わしは3分織右衛門じゃ!と答えたお彩を斬り殺す。 倒れた妹を前に、やはり、わしの中ではわしの方が強い!わしは2人を斬る!…とお栄は言う。 そこに飛び込んで来たのが、倒しに向かう相手の刀馬と百々銭十郎だった。 刀馬は、裏の船着き場でお栄と闘う。 まだ殺す訳には行かぬ!と刀馬は言うが、お栄はその場で切腹しようとする。 刀馬は、その右手を斬り落とし、相手の剣を弾き飛ばす。 すると、3分残っていたお栄の心が蘇ったのか、椎ノ集様、大事なお話が!ぐずぐずしていては上様のお命が危ない!と告げる。 それを聞いた刀馬は、陽炎か!と勘づく。 すると、又、筏織右衛門の心が戻ったのか、黙れ!拙者は自分が許せん!と叫ぶと、自ら、刀馬が構えていた剣に飛び込み、串刺しになって果てる。 女は死んだ…、そう言いながら、それまで仮死状態にあった筏織右衛門が起き上がるが、それを待っていた百々銭十郎が剣で突き殺したので、側にいた虫籠右陣は、筏!と絶叫する。 その頃、春日局を伴い箱根に湯治に来ていた家光は、身体を洗ってくれる湯女の技に心底感心し、名前を尋ねる。 女はゆのかと名乗るが、実は陽炎だった。 そんな事を知るはずもない家光は、良いなじゃ。褒美をたんと取らそう…と相好を崩す。 ゆうか、実は陽炎の垢擦りの効果があったのか、診察に来た典医は、家光の身体が、すっかり平癒していると驚く。 それを知った家光は、湯女のお陰じゃと喜び、側にいた春日局に、ゆのかの夜伽を命じる。 そのゆのかこと陽炎は、駆けつけて来た右陣から、筏織右衛門が刀馬に斬られたと聞かされ、私が悪かった…、許しておくれ。あの時殺しておくんだった…と、刀馬に情をかけた自分の判断が間違っていたことを詫びる。 そんな陽炎に右陣は、お頭!一緒に逃げよう。そして、どっかでひっそり暮らそう!と迫る。 しかし、陽炎は、今宵、自分は上様の夜伽に上がると教え、自分に「濡れ桜」の術をかけるよう命じる。 そんなことしたら、私が死ぬ!と右陣は抵抗するが、バカ!と陽炎から一喝されてしまう。 仕方なく、右陣は、陽炎の足の部分から嘗めて行き、自分のつばを身体につけて行く。 次は腹…、次は胸…、やがて陽炎の口から黄色い毒の息が吐き出される。 その靄のような息に包まれた右陣は、お頭…、右陣は、お頭に抱かれて死ねる果報者じゃ…と呟きながら息絶える。 いつしか、起き上がった陽炎の口には、曼珠沙華の赤い花がくわえられていた。 その後、家光の待つ寝所に入り、布団の中に入り込んだ陽炎だったが、それまで反対側を向いて寝ていた相手がこちらに顔を見せると仰天する。 そこに寝ていたのは家光ではなく、椎ノ集刀馬だったからである。 陽炎の身体を観た刀馬は、今宵のお前は何とも言えぬ…、男の身も心もとろかすようじゃ…と褒めるが、だが、今宵は死んでもらうしかないと続ける。 剣を持って起き上がった刀馬に、酷い男!と陽炎は睨みつけるが、わしは、剣のためだけに女との情を断ち切っておった訳ではない。それはさる乙女のためじゃ。お前に良く似た女にな…と、刀馬は、心底、陽炎に惚れていたことを明かす。 しかし、私も術に生きる女じゃ!と陽炎は二度と騙されまいと頑だった。 そんな陽炎に、そなたが術を捨てるなら、共に生きよう…と刀馬は言い聞かす。 陽炎はそれでも、私は亡き父のために!と抵抗するので、人としての幸せを捨てるのか?と刀馬は詰め寄る。 お前を信じれぬ!と言う陽炎に、刀馬は刃を向ける。 すると、刀馬の剣が半分に分かれ、切っ先の方が飛び出して、陽炎の胸に突き刺さる。 (泣く陽炎のイメージ) 畳に落ちていた曼珠沙華の花に血が滴り、陽炎は倒れる。 近寄った刀馬は、陽炎の身体を抱き起こすと、その胸に刺さっていた剣の切っ先を抜き取ってやる。 そして、以前陽炎からもらった卍のペンダントを、再び陽炎の右手に握らせてやる。 すると、うっすら目を開いた陽炎が、刀馬…、そなたが勝った…と言い、続けて何かを言いかけながら息を引き取ってしまう。 その身体を抱き上げた刀馬は、静かに畳の上に寝かせてやると、陽炎の手を握りしめ、愛しい奴…、生まれ変わったら、きっとお前を娶ってやろうと言い、側にあった白い百合の花を陽炎の胸の上に置いてやる。 白い百合は、陽炎の胸の血を吸ったかのように真っ赤に染まる。 それから2年経った。 将軍家光に赤ん坊が生まれる。 その後、家光には、生涯に5人の男と1人の女の子が生まれたのであった。 葵の紋の上に卍が重なった紋章のアップ… |
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