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三人の顔役

長谷川一夫主演の通俗サスペンスだが、主役に魅力がないことと、展開が平板で盛り上がりに乏しい演出もあり、凡作になっている。

ヤクザものだが、派手なアクションシーンなどもほとんどない。

そもそも、何故、天下の二枚目だった長谷川一夫が、老いたりとは言え、こんな役をやっているのか分からないが、おそらく、左頬にある目立つ切り傷があるのを利用した企画だったのではないかと推測する。

美貌で有名だった若かりし頃、松竹から東宝に移籍した長谷川一夫が、暴漢に顔を切られたと言う事件は有名だが、その後は時代劇やモノクロ作品が多かったこともあり、メイクで傷を隠して出演していることが多く、こんなにはっきり切り傷を画面にさらした映画は観たことがないような気がする。

そもそも、戦後の長谷川一夫の現代劇と言うこと自体、珍しいのではないだろうか?

現代劇と言えば、「進め独立旗」(1943)や「幽霊暁に死す」(1948)くらいしかぱっと思いつかず、カラーの現代劇となると、今まで出会った記憶がない。

顔に傷があると言う見た目以外には、特に長谷川一夫がヤクザの親分に見える要素はなく、特に冷酷そうだったり粗暴そうな印象もないので、何ともそのキャラクターにのめり込めない部分がある。

長谷川一夫が、当時の大映の若手と絡む形で、自分をサツに売った裏切り者を探し出す…と言う設定なのだが、とにかく、主人公である親分が愚鈍過ぎる。

ムショに入っている間に、すっかり時代遅れになり、かつての子分たちに良いように裏切られているのに、なかなかそれに気づかない…と言う哀れなヤクザを描いたものだが、その親分の立場は、当時の長谷川一夫自身の投影であるのかも知れない。

「騏驎も老いては駑馬に劣る」のことわざ通り、長谷川一夫自身が、そうした親分の哀れさと、役者としての自分を重ねあわせ、自らの顔の傷をさらけ出す形で、あえてこの役に挑んだのかも知れないと想像しないでもない。

そうでも考えないと、この親分は、観ているのが辛いほど愚かで哀れだからだ。

特に、女に甘く、欲情のあまり小娘にまで襲いかかる…などと言う描写は、いくらムショ帰りだからとは言え、天下の二枚目がやるようなキャラではないだろう。

そうしたすっかりダメになった親分に引導を渡すのが、若き勝新と言うのも象徴的である。

まさに「スター交代」と言う感じがする。

他にも、当時の大映の若手だった川口浩、菅原謙二、藤巻公義(藤巻潤)などが主な役どころを演じているが、ちょびヒゲを生やしておどおどした演技をしている安部徹や、その女房を演じている市田ひろみなどが珍しい。

市田ひろみと言えば、一時期、お茶のCMなどで有名になった関西弁のおばちゃんだが、この時代はちょっときりっとした美女である。

哀れな境遇の女を演じている野添ひとみが、なかなか印象的。

ヤクザ役と言う、普段やり慣れない役を演じている川口浩と菅原謙二にも注目したい。

情婦役の京マチ子は、出番が多い割にインパクトが薄いような気がする。

自己中心的で嫌な女なのだが、あまりその役を掘り下げて描いていると言う感じでもなく、あくまでも、長谷川一夫のお相手役止まりのような印象である。

ロケシーンがないではないが、セット芝居が多く、特に、冒頭とラストに登場する「マドンナ」周辺の一角の町再現は見事である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、大映、斎藤良輔+芹沢俊郎+井上梅次脚本、井上梅次監督作品。

深夜0時5分前

雨が降る都会の片隅のとある商店街

窓辺でギターを弾く青年がいるかと思えば、カーテンに、キスする男女のシルエットが写ったり…

あやめ商店街と言うネオンサインが見える道に、1人の男がやって来るが、パトロールの警官の姿に気づくと、慌てて物陰に身を潜める。

懐中電灯を照らす警官が通り過ぎると、物陰から立ち上がった男は、バー「マドンナ」と言う見せの前に立ち、千鶴!と呼びかける。

返事がないので、強引に鍵のかかったドアに体当たりして中に入り込んだその男、棚にあった洋酒を取ると、その場でぐいとあおる。

そこに二階から、誰よ?と降りて来たのが、店のママ千鶴(京マチ子)だった。

俺だよ、津村だと答えたのは、津村組の親分津村隆太郎(長谷川一夫)だった。

電気を付けながら、まあ親分!と驚いた千鶴に、消せ!逃げて来たんだと津村は命じる。

すぐに津村は、修吉に電話してくれ!ここからじゃまずい。二階に切り替えろと、カウンターのピンク電話をかけようとしていた千鶴を止める。

階段を登りかけた津村は、おめえに会いたくて出て来たんだと言うと千鶴とキスを交わす。

その時、何故か、千鶴が身を離そうとしたので、どうした?と津村は不思議がるが、びしょぬれじゃない。着替えもって来るわと二階に上がろうとしたので、二階に誰かいるのか?と津村は聞く。

誰もいやしないよと千鶴は笑い、二階に上がって見ると、確かに誰もいなかったが、何となく怪しみながら津村は着替え、じゃあ、修吉に電話してくれと頼む。

私も2年間、さみしかったわなどと千鶴は言うが、その時、津村は、テーブルの上に置かれていたラッキーストライクの煙草と吸いかけの煙草が置かれた灰皿に気づく。

千鶴が電話をかけると、出たのは、ツトムと言う少年で、会長はいないか?と千鶴が尋ねるといないと言うので、じゃあ、今後、警察から電話があっても、おばちゃんから電話が来たって話しちゃダメよと口止めをする。

津村は、一旦大阪に行くと言うので、じゃあ、笹関さんの所に?と千鶴は聞く。

それから沖縄だと逃走経路を打ち明けた津村は、おめえ、煙草は吸わなかったんじゃねえのか?と聞く。

退屈だったんで、覚えちゃったのさと千鶴が言うので、じゃあ、一本付けてくれと津村は頼む。

千鶴は自分で1本くわえて、火をつけた煙草を津村に渡すが、津村はそれを一服しただけで灰皿に置く。

千鶴が渡した方の煙草には口紅の後が残っていたが、最初から置いてあった吸いかけの煙草には、紅は一切付いていなかった。

俺を裏切るとしたらあいつしかいねえと思ってるんだが…などと言いながら、俺の背広はあるかと言いながら洋服ダンスを開けた津村は、濃い縞の奴は?と聞く。

すると、千鶴は、達也が持って行ったわと答える。

その頃、ストリップ劇場「メトロ座」では、明日から出し物が変わるので、徹夜でその練習をやっている所だった。

支配人室に電話が入ったので、電話に出た三平(大川修)は、支配人はいないんですが…と答えていたが、そこへ雨の中、ぐしょ濡れになった原島達也(菅原謙二)が帰って来たので、電話を代わる。

親分!良く逃げられましたねと達也が喜ぶと、誰か側にいるのかと津村から聞かれたので、子分の三平ですよと答える。

今どこに行っていたのかと聞かれた達也は、近くにカード賭博の店が出来たのでちょっと遊んでたんで…と答えていたが、その時、三平が、サツだ!と教えたので、じゃあ1時に、ホテルの建築現場でお会いしましょうと急いで伝えて電話を切る。

そこに、刑事たちが入って来て、津村が逃げたよと達也に知らせる。

その頃、「マドンナ」の二階では、ハジキと金を津村が要求していたが、千鶴は、2、3万しかないよと言いながら渡す。

時計と手帳も受け取った津村は千鶴を抱き寄せてキスしながらも、銃を突きつけ、良いか?裏切ったら殺すぞ!と脅す。

そして津村は、傘もささずに雨が降る店の外へ出て行く。

腕時計を観ると、深夜の1時半だった。

公衆電話に入った津村は、もう1度「メトロ座」に電話を入れるが、出たのは三平で、アキさんか?兄貴なら30分くらい前に帰ったぜと言うので、刑事が側にいるので話をごまかしているんだと気づいた津村はすぐに電話を切る。

想像通り、支配人室には刑事が残っており、三平の受けた電話を聞いており、誰からだ?と聞いて来たので、三平は、スケですよとごまかす。

津村は、手帳で、さっきまでいた「マドンナ」の電話番号を調べると、公衆電話からかけてみるが、何故か千鶴は出なかった。

そこに車が近づいて来たので、津村は公衆電話ボックスから抜け出て物陰で様子を見るが、停まった車から降り立ったのは達也だった。

津村が声をかけると、近づいて来た達也は、町は警官で大変です。良く逃げられましたね?と言いながら、津村と共に建築現場の下に入って雨を避ける。

修吉は?と津村が聞くと、それは…、探さなかったんで…、危ねえからと達也は答え、親分は大学を出てるからって奴を信用し過ぎですよと文句を言う。

奴が裏切るとでも言うのか?と津村が聞くと、とっくに裏切ってますよ、親分を監獄に送ったのは奴だと達也は言う。

2年前、親分が俺と修吉を呼んで頼んだ仕事、実行するのに選んだのは内藤だったと達也は言い出す。

(回想)夜中、人気のない道を走っていた走る車の前に車を割り込ませて停めた内藤政次(藤巻公義)は、銃を持って、背後の車の後部座席に乗っていた男に、代議士の吉武さんですか?と問いかける。

怯えた相手は、違う!私は極東製薬の森沢だよ!と人違いを強調するが、にやりと笑った内藤は、私が探しているのは森沢さん、あんたですよと言い、銃をぶっ放すと、首に巻いていたネッカチーフを外して、死体にかけると、その場を逃げ出す。

すぐに内藤は挙げられたが、博打で負けた金欲しさの犯行と言い通したはずだった。ところが、何故か、津村が呼ばれ、津村組が極東製薬と麻薬の取引をしていることは分かっているんだ。内藤がしゃべったと刑事たちから追求されてしまう。

結果、津村は10年の懲役を食らってしまう。

内藤の気性を知っている達也が、この顛末が腑に落ちず、留置されていた内藤の面会に行くが、妙に咳き込み、体調が悪そうな内藤は、俺がやったも同じですと詫び、近く警察病院に移されるんですが、弟のことが気になって…と言うので、弟なら修吉が引き取っているから安心しろと達也は教える。

(回想明け)その時、俺は、親分を売ったのは奴じゃないと思った…と達也は言う。

他に誰がいるんだ?と津村が聞くと、あの事件を知っているのは3人で、俺じゃないとすると…と達也は答えたので、修吉だと言うのか!と津村は睨んで来る。

奴は、俺さえいなければ、津村組は自分のものになると思ってやがるに違いねえんだと達也は言い、津村が煙草を1本くれと頼むと、「ふじ」を手渡す。

てめえ、まさか、千鶴に手を出しちゃいねえだろうな?さっき寄ったが、女の部屋に男の気配があったんだと津村が聞くと、姐さんと出来てるのは修吉だ。事務の近くのアパートに住んで、毎晩姐さんと会ってるんですぜと達也は言う。

さっき電話してみたら、俺の連絡を待っているはずの千鶴がいねえんだ…と呟いた津村は、修吉のアパート、知ってるか?と聞くので、達也は、今から行くんで?と驚く。

津村は、俺は裏切りは許せねえんだと言うので、達也は津村を車に乗せ、修吉のアパートへ向かう。

アパートの前に、怪し気な男が見張っていたので、津村が観たことねえ奴だな?と聞くと、鉄郎(杉田康)って奴で、1年ほど前からいる奴ですと達也は教える。

いきなり修吉の部屋に入り、電燈を付けた津村は、修吉と一緒に寝ていた女が顔を背けたので、その女の顔が観たいんで、こっちを向けと命じる。

振り向いた女は、見知らぬ女だった。

親分も、随分酷いことをしますねとぼやきながら起きて来た毛利修吉(川口浩)は、シャワー室へ入った女はルミ(紺野ユカ)と言い、良く出て来られましたね~と挨拶する。

国産タバコを勧めて来たので、おめえ、洋モクじゃねえのか?と聞くと、あれはあっちの方が弱くなるって聞いたんで、最近は安いのばっかりでさ…と修吉は苦笑する。

俺を売ったのは誰だ?と津村が単刀直入に聞くと、分かってるじゃないですか。あの事件を知っているのは、俺と親分と…と言いかけた修吉は、ドアから達也が入って来たので、それ以上話すのを止める。

兄弟分の俺を指すのは止せと達也が言うと、影で何をしているか知ってるんだぜ…と修吉も笑いかける。

その時、入口に立った鉄郎が銃を津村の方に向けて来たので、小僧!俺の方にハジキを見せるな!と津村は叱りつける。

達也も、駆け出しに限って、でけえ顔しやがる!と、鉄郎だけではなく、実は修吉への皮肉も含まれているような言葉を吐く。

津村は、裏切った奴は見つけてやるさと言い、今夜はどこに泊まるんで?と修吉が聞くと、刑務所で知り合った高林って奴がいるんだが…と津村は言うが、ペットの勝の所なら良いんじゃねえですか?と修吉が提案する。

金を持ってるか?と津村が聞くと、修吉も達也も、今手元には2、3万しかないんで…と申し訳なさそうに答える。

津村は達也に、鐘を出来るだけ集めて来い、そして、千鶴を連れて来い、今夜中に会いたいんだと無理を言う。

修吉の部屋から電話をかかって来た千鶴は、津村から、さっきいなかったじゃねえかと言われ、そうだったかしら?下のトイレに行ってたときかしら?…と言い訳し、これから迎えを出すから出て来いと言われると、外にデカが張ってるもの…と躊躇する。

電話を切った津村は、一緒に出かける修吉に、そのスケはどうするんだ?とシャワー室から出て来たルミのことを聞くと、一緒に連れて行った方が、何かと役に立つはずだと修吉は答える。

アパートを出た達也は、千鶴を迎えに「マドンナ」に車を走らせ、鉄郎が運転する車に、津村、修吉、ルミの3人が乗り込んで、ペットの勝の店に向かう。

ところが途中で、鉄郎の車は検問にぶつかってしまう。

停まったりするとかえって怪しまれるので、そのまま検問を受けることにする。

刑事が車内を除き込んで来ると、後部座席で修吉とルミが濃厚なキスをしており、その奥で津村がコートの襟を立て、帽子を目深にかぶって寝た振りをしており、運転していた鉄郎は、パーティ帰りのお客さんを運んでいるんで…と説明し、これじゃあ、脱獄犯でも乗せてた方が楽ですよなどと笑ってみせる。

刑事は奥の人、顔を見せてくださいと声をかけると、キスしていた修吉が顔を見せたので、否、あなたではなく、奥の人ですと刑事は迫る。

仕方がないので、ルミが揺り起こす真似をするが、津村は一向に目を覚まさない振りを通す。

刑事はらちがあかないと判断したのか、諦めて車を通してくれる。

一方、「マドンナ」の前にやって来た達也の車に、待っていた千鶴が乗り込んで来るが、出発した車の背後から、張っていた刑事たちの車が尾行して来る。

小屋から付けられていると気づいていた達也は、雨の商店街の中を走るうち、千鶴と共に途中で素早く降り、物陰に身を潜めている中、それに気づかぬ刑事たちの車は、三平が運転する車を追って通り過ぎてしまう。

津村と修吉、ルミの3人は、勝の店である「おかめ」と言う飲み屋に来ていた。

カウンターに座った修吉とルミの横にいた酔客(中田勉)は、主人はどうした?トランペットでセントルイスブルースを聴かせてくれなどとねだっていたが、酒を置いてある棚が揺れるのを観て、もう1番か?と言い、帰って行く。

1人で相手をしていた勝の女房栄子(市田ひろみ)は、もうそんな時間か?と聞いて来た修吉たちに、貨物ですよと教える。

二階では、久々に会う勝に、津村が、良く堅気になったなと嬉しそうに話しかけていた。

ちょびひげを生やした勝は、恐縮しながら、女房の奴が里から金を送ってもらって、勝手にこの店を始めたんですよと答える。

そんな「おかめ」に、達也と千鶴がやって来る。

二階から降りて来た修吉は、お久しぶりですと千鶴に挨拶する。

千鶴と一緒に二階の津村の所に上がって来た達也は、こんな時間なので、金は10万しか集まりませんでした。明日になったら、100や200の金は集められるんですが…と詫びながら渡す。

無事に津村と千鶴を会わせることが出来た達也と修吉は、気を利かせてすぐに下に降りて行く。

勝は、2人の寝間着と布団を用意して下がって行く。

千鶴は、大丈夫かしら、寝ていて…などと不安がるが、津村は、裏切りがなければな…と意味ありげに言い、千鶴を抱こうとする。

しかし、千鶴に抵抗する素振りが見えたので、そんなに俺に抱かれるのが嫌か?いつも誰がお前を抱いてるんだ?と皮肉を言う。

千鶴はおどおどしながらも、いつもひとりぼっちだったから…などと恥じらってみせるが、じゃあ、何故俺を嫌うんだ!と津村は怒気を荒げる。

それでも千鶴は、久しぶりに会う親分でしょう?絹のネグリジェ着たいものよ…と言い訳がましく答えると、親分!会いたかったわ!等と言い、津村に抱きつく。

すると、津村の方も満足したのか、千鶴!と言って抱きしめると、みんな、変わりやがった…。昔はみんな竹を割ったような気性だったのに。今では影で何をしているか分からなくなった…とぼやく。

俺が信用できるのはおめえだけだ!と言いながら、津村は千鶴とキスをするのだった。

下では、達也、修吉、ルミらがまだカウンター席に座っていたが、そこに三平がやって来て、大分、パトカーが集まってますと町中警戒が厳重なことを伝える。

すると、女将が、うちは困るわ…と露骨に迷惑そうな顔になる。

勝も、ここに泊めたとなると、俺も引っ張られると臆病風に吹かれたようになる。

その時、突然、警官(武江義雄)が入って来たので、全員、緊張する。

表に停めてある車はお宅のですか?と聞いて来て、見慣れない車が置いてあったものですからと挨拶してすぐに出て行くが、三平もヤバいぜ兄貴…と怯え出す。

ただの巡察だと達也は言い、おめえ、焼いてんのか?と、修吉に対して千鶴の事をほのめかす。

修吉は、頭の上でお楽しみだから、おめえじゃなくても焼けて来るぜと二階に目をやりながら答える。

それでなくても、おめえには一度ゆっくり話がしてえと思ってた所なんだと達也は言う。

そんな下のことなど気にする様子もなく、二階では、津村と千鶴がどっぷり抱き合っていた。

その時、親分、無粋だとは思うんですが、他に移りたいと襖の外から修吉が声をかける。

どこだ?と身体を起こした津村が聞くと、葉子の所ですと修吉が答えたので、側で聞いていた達也も良いだろうと賛成し、三平に千鶴を店まで送り返すよう頼む。

そして、着替えて降りて来た千鶴には、帰ったら、サツからしつこく聞かれますから宜しくと声をかけると、千鶴は、分かったわと答えて店を出る。

三平の車に乗り込んだ千鶴に、一緒に乗ったルミが、姐さん、残念だったわね、せっかく親分と良い所だったのに。あたいも修吉と良い所だったのを邪魔されたのよなどと気安く話しかけると、千鶴はルミの頬を叩いて不機嫌になる。

一方、川岸のボート小屋に津村を連れて来た修吉は、小屋の中にいた娘を、踊子の小峰葉子(野添ひとみ)ですと紹介する。

津村は初対面かと思っていたが、葉子の方は津村のことを知っているらしく、良くお会いしましたわ、2、3年前…、売れ残った花を買ってくださって…と説明すると、あの時の花売り娘かと津村は思い出す。

今は出世して、花売り娘からストリッパーになったんですと葉子は嬉しそうに言う。

金と高飛びのことは宜しく頼むぜと津村は、帰って行く修吉と達也に頼む。

葉子と2人きりになった津村が、咽が渇いたので水を1杯くれないかと頼むと、葉子は、川の中に漬けて冷やしていたザルを引き上げ、良いものがあるんですと缶ビールを渡す。

1人暮らしなのかい?と栓抜きで缶ビールに穴を開けながら津村が聞くと、父親が貸しボート屋をやっていたが、死んだ後、ボートなどは全部貸し主に取られ、残ったのはこの小屋だけだったと葉子は説明する。

その時、小屋の電気が停電で消えたので、蝋燭を点けた葉子は、呼んで来ましょうか?「マドンナ」のママ…と気を利かす。

しかし、津村は、今会って来た所なんだ…、と言っても、邪魔が入って半分しか入ってないんだが…と苦笑する。

でも親分は幸せだわ…、良い子分を持って…と葉子が言うと、監獄を出てみると、大分様子が変わったようだ…と津村は表情を陰らせる。

親切にされればされるほど腹が読めなくなって来る。こう疑いぶかくなったのは焼きが回ったかな?と自嘲する。

もう4時ですわと葉子が時間を教えると、いろんなことがあった4時間だった…と津村が呟くと、これからが大変ですねと葉子は同情し、シャバに出たらこっちのものだと思っていたんだが…と津村は考え込み、取りあえず、葉子の布団で音背てもらうことにする。

葉子は、もう少し窓から外の雨を観た後、横に別の布団を敷いて寝ることにする。

その頃、「マドンナ」に戻っていた千鶴は、待ち受けていた刑事から、津村をどこにやった?と、津村が脱ぎ捨てて行った濡れた服を突きつけられて追求されていた。

千鶴は、あら?あの人、私がいない時に来たのかしら?等ととぼける。

同じ頃、ストリップ小屋の「メトロ座」の事務所では、達也と修吉が、別の刑事たちから、今までどこで何をしていたと聞かれれていたが、千鶴から電話がかかって来たので、こちらも今取り調べられているが、今まで修吉の部屋で麻雀をやっていたんですよねと口車をあわせていた。

一旦刑事たちが出て行った後、修吉は達也と、親分の大阪行きは難しい。おそらく汽車…、飛行機は見張りが付いていると話し合う。

一体、親分を裏切っているのは誰か?俺じゃないと親分には言ったぜと2人とも言う。

三平や鉄郎たちを部屋の外に追い出した修吉は、達兄い、腹を割って話そうぜ。俺と姐さんのことは分かったろうな?と告げる。

指したのは俺だと言いたいのか?と達也は気色ばむ。

修吉が上着の中に手を突っ込むと、達也は銃を取り出したので、慌てるなよと苦笑しながら、修吉は煙草を出す。

鏡台の盃を賭けて俺じゃないと修吉は断言すると、じゃあ、内藤か?と達也は聞く。

違う。もう1人、誰かいるんだ…と修吉は言うので、まさか!姐さんが…と達也が指摘すると、姐さんも知らなかったはずだ。俺たち以外に裏切り者がいるとなると、うっかり親分の手助けは出来ねえぜと修吉は顔を曇らせる。

せっかくジムとストリップ小屋で儲けているんだ。兄貴は上がりの半分を銀行に入れなくちゃ行けないはずだが、随分自分で使ってるだろう?実は俺もやってるんだ。俺らも親分と一緒に牢に入るか…、ここが俺たちの思案のしどころだぜと修吉はうそぶく。

その頃、ボート小屋で寝ていた津村は、朝方目覚めると、横で葉子が寝ていた。

その寝顔を観ているうちに、津村は欲情を覚え、葉子の上に身体を重ねキスしようとする。

その時、目覚めた葉子は驚き、何をなさるんです!止めて!親分は言い方だと思っていたのに!親分はこんなことをする人じゃない、あの人がそう言ってましたと言いながら必死に抵抗する。

さすがに自分の浅ましさに気づいた津村は、そのあの人ってのは?と聞くと、その人と一緒になりたいんです。その人の為に、今は恥を忍んで身体をさらしていますと葉子は打ち明ける。

すまん!長い間ムショに入っていると、今生まで汚れてしまった…と津村が詫びると、やっぱり親分は良い人。あの人の言う通りだわと葉子は安堵し、まだの外の雨が小止みになっているのに気づくと、明日になったら晴れるかもしれませんわと喜ぶ。

その後、寝直した津村は、裸の千鶴が誰か男に抱かれているので、そちらに近づくと、男は警官で、自分は警官たちに取り囲まれていることに気づいた夢を見ていた。

手錠をかけられた所で目覚めた津村だったが、小屋の中に葉子はおらず、外に出てみると、雨が上がってさわやかな朝だった。

そこへ、暗い顔をした葉子が戻って来たので、おめえ、まさか、サツへ行ったんじゃねえだろうな?と聞くと、葉子は何も言わず小屋の中に入り、身体が欲しかったら挙げます…、あの人が死んでしまったんですと言いながら、写真の入ったパスケースを出してみせる。

そこに写っていたのは内藤政次だった。

4、5日前から容態が悪くなって…、今日は親分の事を知らせに行ったら…、きっと喜んでくれただろうに…と言うと泣き出してしまう。

津村は、驚くと共に、内藤のような恋人があるのにあんなことをして…と、夕べのことを改めて詫びる。

あの人は、親分からもらう予定のお金で堅気になるつもりだったんですと葉子が言うと、それで俺を匿ってくれたんだな…と葉子の気持ちを知る。

あの人、うっかり仕事のことを友達にしゃべったんですと葉子が打ち明けたので、誰だそれはと聞くと、早川勝男と言う人で、それを大塚組に売ったお金で商売を始めたんですと言うので、ペットの勝か!と津村は気づく。

そこにツトムがやって来て、会長がこれを渡してくれって…とふろしき包みを渡す。

津村は、そのツトムと言う子供が、新ダウ愛東の弟だと言うことを聞く。

ツトムは、内藤は北海道に旅行していると思い込んでいた。

包みを開けてみると、服が入っており、「これを着て、第一水門の所来てください」と書かれた紙が入っていた。

大丈夫かしら?と葉子は不安がるが、津村は笑って、誰かが裏切らなければな…と答える。

その頃、千鶴はベッドの上で、シャワーを浴びている男を待っていた。

サイドテーブルの上には、ラッキーストライクの煙草が置かれていた。

良く来てくれたなと言いながら、シャワー室から出て来たのは修吉だった。

あの時は慌てたよ。煙草をごまかしたり、ルミ子を呼んだり、大変だった。勝の所で会った時、姐さん、お久しぶりですなんて言った時もハラハラしたぜ…と修吉は苦笑する。

ルミ子と会って楽しんだなんて言うんで、私腹が立って…と、千鶴はルミ子をビンタした時の事を思い出す。

ベッドで、そんな千鶴とキスを交わした修吉は、お別れのキスか…と嫌味を言う。

千鶴は津村と大阪に行くことになると読んでいたからだ。

親分には、元の所へ戻ってもらったら?と千鶴が言い出したので、修吉は、俺に裏切れって言うのか?と驚きながらも、俺だって、身に降り掛かる火の粉は振り払うぜ。親分は大阪なんかに行かねえよと薄笑いを浮かべる。

その頃、第一水門では、ツトムと帽子をかぶった釣り人が川に釣り糸を垂らしていたが、そこに、釣り人やアイスキャンディー売りに変装した刑事たちが多数近づいていた。

刑事たちはさりげなく釣り人の周囲を取り囲む。

その時、振り返った釣り人は、葉子が変装したものだったので、刑事たちは驚く。

その川の反対岸に寝そべって、対岸の様子を観ていたのが津村だった。

修吉に裏切られたと知った津村は、畜生!と吐き捨てる。

その後、「おかめ」に、ブローカーの高林(勝新太郎)と名乗る男が訪ねて来て、ペットを手に入れたんだが、素人なので物が良いのかどうか分からないで観てもらい、良かったら引き取ってもらったら助かるんですがね~などと言い、勝を誘い出す。

勝は、素人が楽器なんかに手を出しちゃ行けねえなどと言いながら、高林について行くが、案内されたガード下の場所には、ガラクタだらけで、楽器などどこにもなかったので怪しむ。

その時、奥に隠れていた津村が姿を現し、おめえにちょっと聞きてえことがあるんだが、あの店は、お前のかかあが里から送ってもらった金で始めたと言っていたが、おめえのかかあは、そんなに裕福な家の出なのかい?新宿の赤線にいたって聞いたぜ?と聞いて来る。

勝は狼狽し、何とか言い訳しようとするが、大塚にいくらもらった?と津村から迫られると、内藤の奴がやったんだ!と言い出す。

内藤は、今朝死んだぜと津村が教えると、俺は貴様の根性が嫌いなんだ。俺は昔から裏切り者が嫌えだと言いながら拳銃を取り出す。

それに気づいた高林は、話が違うぜ。殺さないと聞いたんで、俺は手を貸したんだ。こんな奴殺したら、親分の名が汚れますぜと津村をなだめる。

その時、壁際に追いつめられ怯えきった勝が、俺よりもっと裏切っている奴がいるぜ。姐さんだ!姐さんは修吉と出来てるんだ!と叫ぶ。

その瞬間、津村の銃が発射される。

高村は驚くが、弾はすべて、勝の頭の側の壁に当たっていた。

みんなが俺を裏切る…、そう言いながら、津村は涙ぐんでいた。

高村は勝に、帰んな!帰れ!今度つまんないことしやがったら、俺がただじゃおかねえぜ!と怒鳴りつけ、部屋から追い出す。

勝は、親分、お大事に…とぺこぺこ謝りながら帰って行く。

こんなはずじゃなかった…。みんなが喜んで俺を迎えてくれると思っていた…、こうなったらどうやっても逃げるんだ!と津村は決意する。

6時になったら落ち合おうと言われた高村は、金の方はお願いしますよと頭を下げ、帰って行く。

分かったと答えた津村は、俺はその間に、礼を言いたい奴がたくさんいるんだと呟く。

達也の事務所にいた修吉は千鶴に、罠をかけた津村が逃げたと電話で知らせる。

そして、怖がる千鶴に、張込み中の刑事を呼ぶんですねと忠告する。

怖いわ…、早く帰って来てねと言い、電話を切った千鶴は、洋服ダンスを開け、着替えようとするが、そのタンスの扉の裏の鏡に、いつの間に忍び込んだのか、銃を向けて立っている津村の姿が写っていることに気づく。

親分!と狼狽する千鶴に、今、自分で白状したじゃねえか、修吉と出来てるってな…と言いながら、近づいた津村は、銃を突きつける。

そのままベッドに押し倒した津村は、目を潰れと命じるが、千鶴は、私を殺すのね?あなたに殺されるなら本望よ。ひと思いに殺してよ!と気丈にも言って来る。

一分だけ待ってやる。どっちが先に手を出した?と津村が聞くと、修吉よ。親分がいなくなった後、さみしくなって一緒に連れ歩くようになったら、酔った時…、たった一度だけ許したの…と千鶴は言い訳したので、なぜ夕べ話さなかったと聞くと、女の弱さよ…、修吉のことを隠し通せたら、又親分と暮らせなくなると思ったの。これだけは信じて!心からあの人を好きになったことなどないの!信じて!と千鶴は訴えて来る。

目を潰れ!と再び命じた津村だったが、下田に来い。そこに木村って奴がいるから、そこでしばらくほとぼりを覚ましてから沖縄に行く。誰も知らない所でお前と暮らす!それが、刑務所で毎日見た夢なんだ…と打ち明けた津村は、トラックで東京を出る。東京と下田の定期便があるんだと津村は言い残し、部屋を後にする。

その頃、自宅アパートに戻っていた高村は、赤ん坊雑誌を読んでいた。

身重で、近々出産予定の妻春江(八潮悠子)は、今回の仕事を聞くと、あんたには前科があるのよ。今度捕まったら終わりよ。生まれて来る赤ん坊のこと考えてよ!と訴える。

俺だって、こんな危ねえことやりたくねえよ。だけど、こんなじめじめした暮らしから出る為には仕方ないんだと高林は言い訳するが、赤ん坊の生涯に傷を付けないでよと春江は責める。

チャンスなんだ。20万だぞ!生まれて来る坊やの為にも…と高林は答える。

その頃、ボクシングジムにいた修吉は苛ついていた。

そこにやって来たツトムが、「マドンナ」にママさんが急用だって…と言うので、おかしいな…と首を傾げながらも、トレーナーの村田(藤山浩一)に後を頼んで出かけて行く。

その直後、ジムに電話がかかって来たので、村田が出ると、相手は千鶴だったので、会長ですか?今、姐さんの所へ行きましたぜ?と首を傾げながら、ツトムの姿を探すが、もう姿が見えなくなったので、おかしいな…と戸惑う。

自宅アパートに戻って来た修吉は、そこに達也が待っていたので驚く。

達也も葉子から聞いて来たと言うので、修吉は誰かが動いているぜと警戒する。

その時、入口のドアの陰から銃口がのぞき、津村が入って来て、釣りをしている男で大きな魚を釣ろうとしたろう?と2人に話しかける。

こういう時、後ろ暗い奴ほどうろたえるものだと修吉が達也を見、兄貴、みっともねえぜと話しかける。

親分、違う!と達也は狼狽するが、津村が銃を撃つと、その場に崩れ落ちながら、違うんだ…と又呟く。

その時、修吉はとっさに洗面所に逃げ込み、そこの窓からアパートの外へ逃げ出す。

津村は、窓から発砲するが、まんまと修吉は逃げ延びてしまう。

6時5分前、高村が運転する定期便のトラックが近づいていた。

葉子とツトムと共にそれを道路脇で待ち受けていた津村は、ツトムを堅気にさせるんだ。横浜の母子寮をやっている姉に預ければ、育ててくれるはずだと言い、住所を書いて葉子に手渡す。

そして、自分がムショで働いて貯めた金を、固持する葉子に無理矢理手渡す。

葉子は、私、分からなくなってしまいました、親分が言い人か悪い人か…と言うので、ヤクザに良い奴なんているはずがねえ。勝手な理屈で人を利用したり殺したりするんだから悪い奴に決まってる。堅気の恋人を見つけるんだぜと津村が言い聞かすと、何も知らないツトムは、兄ちゃんが帰って来たら一緒に行くよと津村に約束する。

そこに、約束通り、高林のトラックが到着したので、津村は崖を降り、荷台に乗り込む。

おじちゃん!さようなら〜!と、ツトムと葉子は、走り出したトラックに手を振りながら見送る。

親分のこと、お兄ちゃんに手紙を書くよとツトムが言うので、これ以上黙ってはおれないと判断した葉子は、お兄ちゃんは今朝死んじゃったのよと教える。

噓だ!噓だ!と泣き出したツトムに、私にも噓みたいだわ…と呆然と佇む。

高村の運転するトラックは、やがて警察の臨検に引っかかる。

仕方なく、停車して運転席から降り立った高林は、何かあったんですか?と刑事に聞く。

例の津村組の親分だよと刑事は教え、制服警官が、トラックの荷台に上がり込んで荷物を調べ始める。

津村は、荷物の隙間に身体を隠していたが、その時、刑事が、トラックで下田に行くと言う情報が入ったんだと言うのを聞き驚く。

高林は、荷台の警官に、しっかり調べてくださいよなどとわざと呼びかけるが、何とか、その場を切り抜け走り出したトラックだったが、すぐに人気のない工事現場に入り込むと、運転席を降りた高林は、どうしたんだ?と言いながら荷台から降りて来た津村に、もうバレてるじゃないですか!これ以上走っても、何回あんな臨検に引っかかるか…。津村さん俺は降りるよ、あんた1人で行ってくれ。20万より命大事さ。もうサツに知られているんだ。とても下田まで着けるはずないだろうと言い聞かす。

裏切るのか!と津村は詰め寄るが、裏切ったのは他にいるんじゃないですか?と高林が言うと、千鶴だ!とようやく気づく。

トラックでの移動のことを打ち明けたのは千鶴以外にいなかったからだ。

そいつだ!そいつは一体何なんです?と高林が聞くと、女房みてえなもんだと津村は落ち込んだように答える。

シャバじゃ、女房にも裏切られる…と気落ちした津村だったが、おい、高林、下田まで行ってくれ!と詰め寄るので、ダメだ、もうすぐ子供が出来るんだ。監獄まで道連れはごめんだ!と高林は抵抗する。

すると、津村は銃を取り出して向けて来たので、俺を撃とうってのかい?と土管の所に追いつめられた高林は、今月中に俺は親父になるんだ。俺はちょっぴりあんたに惚れてたんだ。だが、俺の読み違いだったってことか…、撃つなら、撃ってみろ、津村さん!と悔しそうに呟く。

それでも引き金を引こうとしない津村に、あんたほどの親分だったら、引き際が大事だ…と高村は言い聞かせる。

それを聞いた津村は、高林!おめえの言う通りだ。とても下田まで逃げ切れやしねえと諦め、銃を降ろす。

親分、道は一つだ。自首だ!と勧める高林。

シャバに出れば俺のもんだと思ってた…と、津村は肩を落とす。

行くんだったら、送るぜ、サツまで…と高林は声をかけるが、最後に一つだけ頼みがあるんだと言い出した津村は、俺も一昔前はひとかどのヤクザだ。このままサツには行かねえ。俺の町に連れてってくれ。その後必ず自首はすると言うので、約束できますかい?と高林は念を押す。

津村の名に賭けてな…と津村は答える。

じゃあ、行きましょうと声をかけた高林は、津村を助手席に乗せ、元の町に戻って行く。

降りる際、ありがとう、達者でなと津村は言い、巧くやってくださいよ。巧くやれば、その内、日の目を見るときもあるでしょうと高林は答える。

津村は、そんな高林に、赤ん坊の為に良い親父になれよと声をかけ、高林のトラックは去って行く。

商店街を「マドンナ」に向かって歩き出した津村の顔を見た通行人たちは一斉に驚く。

すでに、逃亡犯津村の顔は知れ渡っていたからだ。

「マドンナ」のドアには「本日店休」の札がかかっていたが、二階からは灯が漏れていた。

二階には、千鶴と修吉がいた。

千鶴は怯えており、何だか、又、戻って来そうなんですもの…と修吉にすがりついていたが、その時、そうらしいな…と声がして、部屋に入り込んだ津村は、驚く2人に銃を向けながら、動くな!と命じる。

今度ムショに入ったら、二度と会えないだろうと思ってな…と津村は皮肉を言うが、入口にはいつの間にか、鉄郎が銃を持って立っていた。

土壇場になると強い親分だったが、この勝負は俺の勝ちかな?と修吉は笑いながら銃を取り出す。

次の瞬間、津村は廊下の鉄郎を撃ち、修吉は津村を撃つ。

腹を撃たれた津村だったが、窓から屋根伝いに逃げようとした修吉に発砲。

撃たれた修吉は屋根から下に落下する。

千鶴は、親分!助けて!撃たないで!と千鶴はおののく。

私じゃない!修吉が裏切ったのよ!私は騙されていたのよ!と千鶴は訴えかけ、親分好きよ!と言いながら、窓辺にいた津村に抱きついて来る。

親分は良い人よ。私は元々、親分の女じゃない…と言いかけた千鶴だったが、鈍い発射音の後、ずるずると滑り落ちながら、親分…、愛してるわ…と呟く。

俺は裏切り者は許さねえんだよ…と津村は言い、その足下に千鶴は倒れ込む。

通報を受けた警官が「マドンナ」に近づき、屋根から落下していた修吉の死体に気づく。

千鶴が死んでいる側の電話の下に座り込んでいた津村は、腹から大量の出血をしながら警察に電話をかけていた。

サツかい?津村だ。すぐ来てくれ!自首したいんだ。約束したんでね…。早く来てくれねえと俺は困るんだ。約束したんでね〜…

早く…、早く、来てくれ!と受話器に訴えながら、津村は息を引き取る。

騒ぎに気づいた周囲の住民が、ベランダから、息絶えた津村がいる「マドンナ」の二階の中を怖々覗き込む。