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オテナの塔 前篇

宝塚映画と東宝が共同製作で作った、NHK連続放送劇の映画化で子供向け時代劇。

おそらく、この前年に始まった東映の「新諸国物語 笛吹童子」、この年の1月に公開された「新諸国物語 紅孔雀」などの空前のヒットに触発された物だろう。

ただしこの映画、伝奇色はあるもののファンタジー性は希薄で、せっかく東宝が絡んでいるにしては、特撮や派手な剣劇の見せ場のような物もほとんどなく、地味な印象の作品になっている。

伝奇性と言っても、アイヌの財宝を巡る騒動を描いているのに、何故か物語の大半は琵琶湖周辺の一区画に限定されており、主要人物が全部その狭い地域に集合すると言うご都合主義でまとめられているため、スケール感もなくちんまりした印象の物語になっている。

つまり、当初から、子供向けの低予算映画だった東映版との差別化を図ると言った挑戦意図はなく、安易な便乗商法に近かったのかも知れない。

作品規模が似ていると言うことは、後は出演俳優の魅力勝負になるしかなく、東映の中村錦之助に対し、こちらは中村扇雀。

東映美剣士の東千代之介に対しては、こちらはイケメン歌手兼俳優だった山田真二を当てている。

鞍馬天狗のおじちゃんで有名だった嵐寛寿郎が、主役を助ける重要人物を演じるのも呼び物だったのだろう。

今観ると、当時の子供向け時代劇としては平均的な出来のような気がするし、実は、東映の「新諸国物語」にしても、今の目で観て、びっくりするほどの出来と言うような物でもないのだが、やはり、ラジオでの連続冒険物語としての人気が映画に飛び火したと言うことだったのだろう。

子供向けだけに、悪役がいかにもステレオタイプなキャラクターになっているのが愉快だが、普段は地味な脇役、ちょい役が多い谷晃など、代官の右腕的な役で出番も多く、嬉しそうに演じている感じが見える。

鞍馬天狗でお馴染みだった嵐寛寿郎が出ている一方で、似たような黒頭巾が登場するのもミソだろう。

覆面ものの欠点は、役者の顔がほとんど隠れてしまうことで、鞍馬天狗の覆面なども、大半は口元を覆う布が口元まで下がっていることが多く、顔を隠す本来の意味が失われているのだが、スター役者の顔を見せるための苦肉の策だったのだろう。

本作では、ちゃんと黒頭巾は顔を覆って謎の人物になっているのに対し、嵐寛寿郎が演じている夜泣丸がする覆面は顔全体が出るタイプのものになっている。

その嵐寛寿郎扮する夜泣丸、刀に対し、素手だけで戦っても、めったやたらに強いと言う無敵のヒーローになっているのが愉快。

歌江役の雪村いづみは、まだあどけない子供顔の時代。

白髪で頭がおかしくなった老人を演じているのは、厳つい顔の小杉義男だ。

冒頭の吹雪の夜、庄屋に赤ん坊を預ける謎めいた夕染尼(水戸光子)が、後編に繋がる重要な伏線になっているように見える。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1955年、宝塚映画+東宝、北村寿夫原作、八住利雄脚色、安田公義監督作品。

戦国時代末期 伊吹山山麓 伊賀の里

この地方に吹く特に強い吹雪は「尼様吹雪」と言い、その吹雪の夜には白い尼さんが現れ、家家の戸を叩くと昔から言い伝えがあった…

そんな酷い吹雪のある夜、庄屋小左衛門(沢村宗之助)が、ひどい吹雪になったな。「尼様吹雪」だと囲炉裏の前で言うと、白い尼様は子を取らぬうちは山に戻らぬそうですと妻、さわ(市川春代)が言い添え、私は、深雪がさらわれたら気が狂いますよなどと言い伝えに怯えていた。

その時、裏の戸を叩く音を聞いたような気がしたさわは驚く。

最初は耳を疑っていた小左衛門も、はっきりと戸を叩く音が聞こえると、恐れながらも戸の前に行き、どなたじゃな?と問いかける。

するとそこには、赤ん坊を抱いた尼さんが立っていた。

中に入り込んだその尼、夕染尼(水戸光子)は、お願いがございます。情け深い庄屋さん。この子が地蔵堂に捨ててありました。こちらで預かってはもらえますまいか?と言うではないか。

赤ん坊を受け取った小左衛門は、その夕染尼に、中で何か暖かい物でも…と勧めるが、私は行方定まらぬ旅のもの故、先を急ぎますので…、では失礼させていただきますと言うと、すぐに外に出て行ってしまう。

庄屋の家を出て行った夕染尼をじっと近くの林の中から見ていたのは、木こり風の姿をした男だった。

男の子だね。ちょうど深雪と同じ頃に生まれたようだと、赤ん坊を受け取った沢は喜ぶ。

預かった以上、立派に育てないと、親御に悪いぞと小左衛門は言う。

庄屋の家の前から立ち去った木こり風の男は、地蔵堂の前に来ると、「蝦夷の人 牡鹿の妻の墓」と書かれた墓標の前に来ると、ゆみ!子供はきっと幸せになるぞ!お前には苦労ばかりかけた。許してくれ!と詫びるのだった。

その木こり風の男こそ、夜泣丸(嵐寛寿郎)と言われた盗賊で、その後、代官風祭六太夫の屋敷を襲い、処刑されたとも、あるいは、蝦夷に流されたとも言う…

そして18年

道を走って来る三頭の馬に、道に這い上がった幼児が蹴られ死んでしまう。

近くにいた母親は狂ったように子供の遺体を抱き上げると嘆き哀しむが、馬に乗っていた代官風祭六太夫の手下権次(谷晃)は後戻りして来て、その母親の前に小銭を投げ与えたので、母親はさらに激高する。

すると、うるさいぞ、婆あ!と叫んだ権次は、鞭で母親の顔を叩き付け、その場を立ち去って行く。

代官風祭六太夫(市川小太夫)の屋敷にやって来た権次は、お代官様、18年前、この屋敷を襲った後捕まり、京に向かう途中、消えた夜泣丸が現れました。奴の子供がこの辺りにいるとか…。夜泣丸の人相書きを元にその息子の人相書きを作りましたと権次は申し出る。

その時、父上、庄屋たちが揃いましたと言いに来たのは、六太夫の息子で、昼日中から酒浸りの三郎次(山田真二)だった。

六太夫は、権次に、夜泣丸の息子を草の根を分けても探し出せ!と命じる。

別室に集められていた近隣の6人の庄屋たちが、又、年貢を上げられるのではないかと噂しあっている所に来た権次は、伊賀の里の小左衛門だけを先に呼ぶ。

六太夫はやって来た小左衛門に、お前の村だけが、年貢を半分しか納めてないが?と聞くと、これ以上の年貢は無理でございます。何ぶんのお慈悲を頂きとうございますと小左衛門は願い出る。

しかし、六太夫は、米がなければ、女房娘を売って、金で収めろ!と無慈悲なことを押し付けて来る。

気落ちして代官の部屋を後にした小左衛門は、廊下の壁に貼られていた人相書きを観て目を疑う。

動揺している小左衛門に気づいた権次は、夜泣丸と言う大泥棒の息子だ。見つけたらすぐ訴えるように!と中庭から声をかけて来る。

人相書きの効果はあったようだな。奴の顔色を見ろ、どうやら心当たりがあるようだな。他の庄屋たちも気をつけろと権次は家来たちに囁きかける。

その頃、森に狩りに来ていたのは、小左衛門が、あの吹雪の夜以来育ててきた小源太(二代目中村扇雀=現:四代目坂田藤十郎)だった。

その小源太が鹿を弓で狙っていると、小源太さ~ん!と、狩りに連れて行ってくれとせがんだくせに、置いてきぼりにされて寂しがる深雪(鳳八千代)が呼ぶので、狩りを諦めることにする。

家に帰って来た庄屋小左衛門は、妻のさわに、小源太は六太夫に捉えられるぞと教える。

それを聞いたさわは、夫の小左衛門が、年貢米のことと小源太のことで憔悴していることに気づく。

しばし考えていた小左衛門はさわに、小源太を京にやろうと言い出す。

その頃、深雪は森で寝転んでいた小源太に、どこにもいかないでねと甘えていた。

小源太も又、どこにもいかないよ。伊賀の里を豊かな村にしたいし、離れたくない人がいるんだと言うので、それは誰ですか?と深雪が聞くと、空に向けて挙げた指の先を深雪の方に向けたので、深雪は嬉しさと恥じらいで、まあ、知りません!と膨れてみせる。

その後、自宅に戻った2人だったが、その様子を、見張っていた権次たちが監視していた。

帰宅後、庄屋小左衛門から京へ行くよう勧められた小源太は驚くが、このままでは井の中の蛙になってしまう。京で色々勉強してねとさわからも言われては従うしかなかった。

しかし、先ほど、どこへも行かないと小源太から聞かされていた深雪は猛反対する。

そんな深雪をなだめるように、京へ行くと言っても、そんなに長いことではないと小源太は言い聞かすのだった。

その時、表に人の気配を感じた小源太は、障子を開けて誰何するが、何者かが庭先に忍んでいることに気づき、何かただならぬ運命が待ち構えていることを察し、障子を閉めると、京に行きます。父上や母上に背きとうはない。これが永の別れになるのではない。広い世界を観て来てやろうと思いますと小源太は答える。

小左衛門は、出立は夜まで待て、樽造(寺島雄作)を連れてやると小源太に言う。

深雪は、愛する小源太との別れが辛く、ただ泣き続けるのみだったが、いつまで嘆いていても仕方ないと小左衛門はなだめる。

その夜、小源太は下男の樽造を連れ、闇に紛れて出立するが、その直後、権次らが代官所から小左衛門の家にやって来て、小左衛門、すまぬが一緒に来てもらおう。大盗夜泣丸の子を匿っただけではなく、御上も恐れず逃がした罪じゃ!小源太も逃がさぬぞ!と言うと、小左衛門を代官所に連行して行く。

同時に、松明を手にした小源太の追手が差し向けられる。

小源太は、老いた樽造の足を気遣いながら逃げていたが、やがて追手に取り囲まれてしまう。

何の罪でお代官所から来られた?と小源太は聞くが、追手は問答無用で飛びかかって来る。

やむを得ず、小源太は追手を交わしながら逃げ出すと、谷底の斜面をかけ下って行く。

さすがにこれでは追手は後を追えなかった。

その後、険しい崖をよじ上っていた小源太は、洞窟を見つけたので、その中に入り込んでみると、何とそこに火を焚いて座っている男がいるではないか。

怪しみながらも、こんな所に人が住んでいるとは驚きましたと言いながら近づいた小源太だったが、洞窟の中にいた男は、お前、良い度胸だなと感心したように答える。

お前、追われているな?とその男が言うので、小源太は仕方なく、役人どもに…と答えると、どんな悪いことをした?と、その男は聞いて来る。

追われる覚えはないのに追われているんだと小源太が言うと、何か思いついたらしいその男、お前の父の名は?と聞く。

庄屋小左衛門だと答えると、はっと顔色を変えたその男、小源太の名前も確認し、良い名だな~…と感心する。

父上は、代官六太夫からの年貢米徴収に苦しめられていると小源太は嘆き、お前は誰だと逆に聞くと、世捨て人だと答えたその男、そなたの父は立派な方だ。難儀に遭うはずはない。何かの誤解だ。いずれ分かるから、その日を待つのだと言うと、お前、夜泣丸と言うのを知っているか?と唐突に聞いて来る。

六太夫の屋敷を襲い、奪った金を貧しい家にばらまいた義賊だと聞いているが…と小源太が答えると、まじめな男だった…と、その男が言うので、ひょっとしたらあなたがその夜泣丸ではないのですか?と、予感めいた物を感じた小源太は問いかける。

わしは蝦夷の人間で、牡鹿と言った。父はオテナ・カムイと言い酋長だった…。村は砂金が取れ、裕福で、みんな幸せに暮らしていた。そんなある日、オテナ・カムイの財宝に目をつけた日本の役人を名乗る物たちが、村を襲って来たんだ…と、その男は語り出す。

(回想)アイヌたちが住む村に近づいて来た風祭六太夫一党は、いきなり矢を放って来る。

村にいた女たちは次々と矢に倒れ、家には火が放たれた。

ちょうど、山に猟に出かけていた牡鹿が戻って来たとき、村は壊滅していた。

驚いた牡鹿は必死に父の姿を探し求めるが、家の残骸の中で倒れているオテナ・カムイを発見する。

既に虫の息だったが、さぞ、ご無念でございましょうと抱き上げた牡鹿に、オテナの塔…と言う謎めいた言葉を呟き息絶える。

(回想明け)憎むべきは風祭六太夫。

牡鹿は自ら夜泣丸と名乗り、それからは盗賊と呼ばれるようになった。

オテナの塔と言うのは、その下に先祖代々の財宝が埋っていると言う…と牡鹿が話し終えると、それはどこにあるのですか?と小源太が聞いて来たので、分からんと答える。

わしの父が、六太夫と戦う前、在処を書いた巻物を人に託したそうだが、欲に目を奪われた男に奪われたそうだ…と牡鹿こと夜泣丸は続ける。

あの時、妻は子を宿して、村とは離れて所にいたので命は助かったが、小源太、それがお前の母だ!と告げる。

唖然とする小源太に、驚いたか?盗賊の子と分かって悲しいか?と夜泣丸が問うと、私は遠縁の子で、引き取られたと父上からは聞かされていました…と小源太は答える。

それは、小左衛門殿の深い思いやりだ…と言う夜泣丸は、わしと妻はその後放浪の果てに、この伊賀の里の地蔵堂の所まで着いたが、その時、妻は病に倒れ、わしはお前をそこに捨てた。

それを尼さんが拾ってくれたのだ。お前の母はついぞこの世の幸せを知らないまま亡くなった女だ…と説明した夜泣丸は、これがお前の母の形見だ。手に取るが良いと言い、遺髪を取り出して見せる。

冷たい髪の毛だが、何か血と血が繋がる者どうし、感じる物はないか?そして、わしの目をじっと見るが良い。何か通いあう物はないか?と夜泣丸は小源太に語りかける。

わしは、お前の父親であることを諦めよう…、一度は捨てたのだから…と夜泣丸が落胆しかけたとき、父上!と叫んだ小源太が抱きついて来る。

その後、取りあえず、小源太は、小左衛門の安否を確かめるため、戻ってみることにする。

洞窟を出るとき、すぐに引き返して来るんだぞ。お前も追われている身だ。決して無理はするな、と見送る夜泣丸は、息子を案じ声をかける。

村のあちこちには、小源太の人相書きの高札が立っていた。

それを見る村人たちの混じっていた1人の若侍に、近くにいた尼が目を止める。

代官に捕まった庄屋小左衛門のことを噂しあいながら山道を歩く農民の話を、草むらに潜んでいた小源太は聞いていたが、その場を立ち去る小源太を、先ほどの若侍がそっと追いかける。

河原に来た小源太に、お前、小源太だな!と声をかけて来た若侍は、代官六太夫の息子三郎次と名乗る。

犬か!犬に捕まるような小源太ではない!と刀を抜いた小源太だったが、応戦して来た三郎次は意外に手強く、腕は互角のようだった。

お前も強いが、俺も強い。刀を収めろ!と声をかけたのは三郎次だった。

俺の親父は悪代官だ。だが、息子の俺まで恨むことはあるまい?俺は、親父としての六太夫には愛情を持っているが、代官六太夫は嫌いだ。いつも百姓たちを虐めている。俺はそれを観ているだけで、酒を飲むことしか出来ない男なんだ…。どこか弱かったんだろうな…。俺はお前を好きになったぞなどと三郎次は言うので、お前は変わった男だな…と小源太は呆れる。

人間が妬まず、憎まず、平和に暮らせる世の中が来て欲しいんだと三郎次は言う。

その後、洞窟に戻って来た小源太から話を聞いた夜泣丸は、小左衛門が代官屋敷に捕まったことを知る。

腹が減ったろう?又、獣の肉を食うか?とねぎらった夜泣丸は、翌朝、小源太が洞窟内で目覚めたとき、姿を消していた。

「京へ行く。金を少し置いて行く。小左衛門殿はわしが助ける」と書かれた置き手紙が置いてあったので、洞窟から外に出た小源太は、父上~!と呼びかけるのだった。

しばし、父夜泣丸の姿を探した後、洞窟に戻って来た小源太は、そこで猪肉を勝手にしゃぶりついている白髪の老人の姿を見つけ驚く。

老人は、小源太の姿に驚き逃げ出そうとしたので、捕まえようともみ合ううちに、老人の懐から巻物の一部が地面に落ちる。

小源太が、これは何だ?と言いながら拾い上げようとすると、先に奪い取った老人は、これは俺の大事な物だ!と睨みつけて来る。

どうしてここに来た?と聞くと、お前の姿を谷で観たと言うので、その格好から、お前、蝦夷だな?と小源太は聞く。

蝦夷にもお前のようなろくでなしがいるのか?恥を知れ!と小源太が叱りつけると、違うぞと言い返したその老人は、俺はオテナの塔を探し求める聖者だ!秘密の塔を見つけた物は日本の王者だ。わしがその王者になるんだ!などと意味不明なことを言う老人を見ているうちに、昨夜、父、夜泣丸が話していた「オテナの塔」と言う言葉を思い出す。

蝦夷の言い伝えだ。どこにある?と小源太は聞いてみるが、老人は知らんと言うだけなので、お前、欲ボケしたキ○ガイだな?と小源太が言うと、違う!聖者だと言うばかり。

まともな話は出来ないと判断した小源太は、その老人を解き放してやる。

覆面をした夜泣丸が忍び込んだのは、六角右京亮(沖諒太郎)の屋敷だった。

どうやってこの屋敷に忍び込んだ?と右京亮は驚くが、盗賊夜泣丸に取って、この程度の屋敷に入るのは雑作のないことと言うので、18年前、京送りの際、良くも逃げたな!父は嘆いて死んだぞ!と右京亮は責める。

今夜はそのお詫びに、取らまえて頂きに来ました。実は恩のある人が捉えられたのです。

小左衛門を六太夫が?話を聞いた右京亮は驚き、六太夫の悪行は聞こえておるが、上役たちに莫大な賄賂を撒いているらしく、手が出せないと嘆く。

お願いでござります。私の身体を差し出して、代わりに小左衛門を助けてやってくださいと夜泣丸が真剣に頼むと、噓ではないようだな…と右京亮は納得する。

町の飯屋では、飯を食い終わった町民が、夜泣丸が捕まったらしいぞ、これで夜も安心して眠れるなどと噂をして店を出て行くが、その話を隣の席で聞いていた小源太は、すぐに表に出る。

しかし、あろう事か、権次とその手下たちが、偶然近づいており、小源太の姿を見つけて追いかけて来たので、小源太は慌てて、群衆の中を逃げ回る。

権次たちは一瞬、小源太を見失うが、その目の前に見世物小屋があったので、その中に紛れ込んでいるに違いないと睨み、舞台の踊りを見物していた客たちの中に入り込み、顔改めをし始める。

しかし、客席の中に小源太の姿はいなかったので、さらに奥の舞台裏にまで入り込むが、そこにいたのは葛篭の上に座った歌い手歌江(雪村いづみ)だけだった。

女!若い男が知らないか?と聞いて来るが、歌江が知らないと答えると、権次たちは諦めて帰って行く。

しかし、その直後、歌江が立ち上がると、葛篭の蓋が開き、中から小源太が出て来る。

その頃、代官風祭六太夫の屋敷の門前に来ていたのは、捕まえられた庄屋小左衛門を案じる妻のさわと娘深雪だった。

少しの食べ物と衣類を差し入れに来たのだが、門番は一切中に入れようとはしない。

そこに出て来て、お入りなさいと声をかけたのは三郎次で、困惑する門番たちに、きれいな娘さんだから、俺の客にすると一方的に言って、2人を中に招き入れる。

屋敷の中で、さわと深雪は、六太夫の娘千鳥(青山京子)に会ったので、何とかなりませんか?と聞くが、箱入り娘の千鳥は、私の父も役の上でしたことと思いますと答えるだけだし、三郎次は、深雪を観ながら、観れば見るほど美しいと褒める。

一方、六太夫はと言えば、京から戻って来た権次から、小源太を都で見つけたものの京をすべて探すにはとても人数が足りませんとの報告を受けている所だった。

六角右京亮が夜泣き丸を捉えたそうですが、若輩者にしてはなかなかやりますな…と権次が伝えると、六太夫は、六角右京亮から小左衛門を許してくれと言う手紙が来た。大分おかしいな?…と首を傾げる。

わしは承知したと返事をした。分からぬか?小左衛門なら、いつでも引っ張れると権次に説明すると、村を廻って年貢の催促をしろ!と命じる。

千鳥の部屋で接待されていた深雪は、お兄様は何の為にここまで私たちのことを親切にしてくださるのですか?と聞いていた。

しかし、聞かれた千鳥も分らぬ様子で、逆に、私の父は何か悪いことをしているのでしょうか?時々そう言う噂を耳にするのですが…?それがお代官をやっている為だったとしたら止めてもらいたいのです…と深雪に言う。

深雪とさわは、そんな世間知らずの千鳥に本当のことを打ち明ける勇気はなかった。

千鳥様のお母様は?とさわが聞くと、亡くなったの…と答えた千鳥だったが、どこかで生きていると言う話も聞きます。どちらが本当なのか…と、何も知らされていないことを打ち明ける。

その時、座を外していた三郎次が戻って来て、ちょっと来ませんか?と深雪らに声をかけて来る。

行ってみると、そこは六太夫の部屋で、三郎次は、部屋の隅の紐を引っ張り、部屋の中央にあった落とし穴を開いてみせる。

一緒に付いて来た千鳥も落とし穴の存在を知らなかったのか驚くが、18年前、夜泣丸がこの中に落ちたと言うことだと説明した三郎次は、階段があるので急いで降りなさい。ぐずぐずしているとオヤジが戻って来ると、深雪とさわに声をかける。

下に降りると、洞窟のようになっており、そこに庄屋小左衛門が幽閉されていた。

お父様!ここは不思議な穴ですと言いながら近づくと、入って来た入口の岩戸が閉まってしまう。

小左衛門は、誰がここに?といきなり入って来たさわと深雪に驚くが、三郎次様です。どこか気味の悪い人でしたと深雪は答える。

しかし、お前たちは、どこから出て行くのだ?と小左衛門は戸惑う。

入って来た岩戸はもう開きそうにもないし、もはや牢の中には格子戸があるだけだったからだ。

その直後、既に閉じていた落とし穴の部屋に戻って来た六太夫は、床に落ちていた鈴の付いた女物の飾りを見つけ、怪訝な顔をしながら拾い上げる。

そこにやって来た千鳥が、私のですわと言うと、この部屋に来るとは珍しいなと六太夫は怪しむ。

千鳥が、お父様は、誰からも憎まれたり嫌われたりしていないでしょうね?と聞くので、千鳥、何か聞いたか?と六太夫が問うと、色々聞きますわと千鳥は答える。

わしを妬む奴が言うのだ。金を貯めるのは、みんなお前たちの為だ。分かるな?と優しい父親の顔になって言い聞かす六太夫だった。

その頃、屋敷の裏手から、門番がいる牢の方へ入って来た男がいた。

その直後、深雪とさわと小左衛門が入っていた牢の前に、謎の黒装束の男がやって来て、牢の鍵を開けると、無言でさわと深雪を外に出してくれる。

小左衛門は、どうやら妻と娘たちを逃がしてくれるようだと察し、2人だけ外に出す。

黒頭巾は、2人を裏門から外に逃がしてくれる。

牢の前には、門番が倒れていたが、黒頭巾は、門番から奪った牢の鍵をその場に放って立ち去る。

外に出た深雪は、お母様、あの方、どなたでしょう?と聞くが、私たちには、どこかに味方がいてくれるようです。心強く持ちましょうとさわは答え、帰宅する。

その後、牢に来て謎の黒頭巾が出現したと言う話を小左衛門から聞いた権次は、何の為に出てきやがったんだ?と不思議がりながらも、出ろ!代わりに大物が入るんだと急がす。

その後、庭に連れて来られた小左衛門は、そこに待っていた六角右京亮と、彼が捕縛して連れて来た夜泣丸の姿を観る。

2人とも、話したいことがあろう。話せと右京亮は許可を出し、権次はならん!と邪魔しようとするが、さすがに右京亮に制されると、黙って見過ごすしかなかった。

小左衛門殿、小源太のこと何と言ったら良いか…と目を見つめながら夜泣丸が言うと、聞いていた小左衛門は、ではあなたが!と、目の前にいる男こそ本当の小源太の父親と分かり、感激すると共に、立派に育ちましたぞと教える。

お礼の言葉も…と頭を下げた夜泣き丸は、この後もあの子のことを…と頭を下げ、小左衛門も、夜泣丸殿、ご安心を!と約束する。

互いの話が終わったと知った権次は、小左衛門に、お代官様に許してもらった例を言えと命じる。

しかし、小左衛門が黙っていると、六太夫は一通の書状を投げ与える。

そこには、これまでよりも年貢米の割合を引き上げたと、無慈悲なことが書かれてあった。

屋敷に戻ったら、庄屋の仕事にせいを出せと小左衛門に言い聞かせて送り出した六太夫だったが、その時、塀の門の外から、中を覗いているように見えた尼の姿に動揺する。

その後、酒を飲み始めた六太夫は、何事かを考え込み始める。

そこに、夜泣丸を牢に入れて来た六角右京亮がやって来たので、これであなたも父の恨みが晴れたと言うもんだと六太夫は声をかけ、酒を一緒に…と勧めようとするが、否、すぐに京に戻らねばならない、今をときめくお代官が、昔、蝦夷で何をしていたか調べねばならぬ。六太夫殿、ごめん!と右京亮が意味ありげなことを言って帰って行ったので、六太夫は癇癪を起こし、持っていた盃を床に投げつけて割る。

そこに、若いのに、油断のならぬ奴でございますな…とへつらいながら権次が来ると、お代官様、必ず小源太を捕まえてみせます、庄屋の娘と惚れあっているそうですから、娘を使えばおびき寄せられますと告げる。

その策略を聞いた六太夫は、よし、やってみろと許すが、そこにやって来た三郎次が、小左衛門 の娘を嫁にもらえませんかね?好きになりました。父上はいくらでも金が欲しいんでしょう?小左衛門の家の金もバカになりませんよ。小源太もおびき寄せられますし、一石二鳥ですと言い出す。

その頃、伊賀の里の谷間を、わたしゃ蝦夷の子、親なし子~♪と歌いながら、小源太に付いてやって来たのは、京の一座にいた歌江だった。

小源太は、勝手に付いて来た歌江に迷惑顔だったが、助けて上げたのに、あんまり邪険にするんじゃないの!などと歌江も言い返して来る。

父が六太夫の所に捕まえられたので、助けなければ行けないんだ。お前はあの一座にいなくても良いのか?と小源太は聞く。

どうせ辞めたいと思っていたし、私、孤児だからどこにいたって同じことさなどと歌江は言う。

しかし、そんな奔放な歌江もやはり女の子なので、山道はきついらしく、途中で転んでしまう。

仕方なく助け起こした小源太は、秘密の洞窟まで連れて行くと、傷の手当をしてやる。

優しくされた歌江は感謝しながらも、私はこう見えても大金持ちなのよと言いながら、見覚えのある巻物を取り出して見せる。

その巻物を観た小源太は、それと同じものをどこかで観たことがある…と呟く。

これには「オテナの塔」の秘密が書かれてあるの。

私は蝦夷の生まれで、父は酋長の使いをやっていたの、酋長は、これを父に預けて逃がしたんだけど、ルシベと言う男に巻物の半分を奪われたの。でも大分前のことなので、その男も相当な老人になっているかも知れないけど…などと歌江が言うので、小源太は、以前、この洞窟に忍び込んで来た頭のおかしな白髪の老人のことを思い出す。

歌江さん、その巻物を見せてくれ。私はその「オテナの塔」を探さなければ行けないんだと頼むが、歌江は驚き、これは死んでも渡すなって言われているの!と巻物を抱きしめると、私、小源太様の側にいられない!と悲し気な顔になり、洞窟から逃げ出して行く。

その後、実母が眠ると言う地蔵堂の前にやって来た小源太は、偶然、そこに来ていた深雪と再会する。

会いたかった!と深雪は喜ぶが、小左衛門殿はどうなされた?と小源太が案ずると、牢を出されました。代わりに牢に入った夜泣丸様があなたのお父様とか…と深雪が言うので、聞かれたか…と小源太も納得する。

私、どうしたら良いでしょう?私嫌です。今日、三郎次様がいらして、嫁にくれと強いお言葉…と深雪は嘆く。

小源太は驚くが、相手は代官のお子様…と深雪が断り難い相手だと言うことを匂わす。

そんな男ではないと小源太は言うが、気味の悪い方ですと深雪が不安がるので、会って来ると言い残し、小源太は代官屋敷に向かう。

その時、地蔵堂の物陰でずっと2人の会話を聞いていた歌江が姿を現し、私、小源太様と一緒に暮らしている者です。あなたは三郎次の所へお嫁に行った方が良いと思うよと深雪に笑いかけて来る。

深雪が哀しんでその場を去ると、歌江は、深雪さん、ごめんなさい、噓言っちゃった…と1人呟く。

その夜、六太夫は、屋敷内に入って来た夕染尼と顔を合わせていた。

夕染尼は、私は、あなたの犯した罪滅ぼしに家を出ました。あなたの強欲の為に、この辺のお百姓は苦しんでいます。今に大変なことが起こりますと忠告するが、一揆か?バカな!と六太夫はあざ笑う。

いいえ、あなた、お金は十分できたはず、この上、何を望むのです?あなたはいつまでも迷いの夢の冷めぬお気の毒な方です…と言い残し立ち去って行くが、そこにやって来た三郎次が、その夕染尼の後ろ姿を目撃し、あの人は?と聞くが、六太夫は、気にするなと言いながらも、三郎次が部屋を出て行き、1人になると、何事か考え込む顔になり、酒だ!酒を持って来い!と叫ぶ。

その時、姿を現したのは小源太だった。

誰だ!と六太夫は問いかけ、小源太は自分の名を名乗ると、私の父はどこだ?三郎次はどこだ?と聞く。

しかし、六太夫は、貴様は袋のネズミだ!と叫ぶと、部屋の隅の紐を引く。

すると、床が大きく開き、落とし穴が出現するが、何とか落下を避けた小源太は、あっ!卑怯!と叫ぶと、抜刀し、六太夫に斬り掛かろうとする。

その時、騒ぎに気づいた権次たちが庭先に乱入して来る。

小源太は庭に降りると、権次たち家来と斬り合いになる。

そんな中、落とし穴の下の牢に入っていた夜泣丸は頭上の騒ぎを聞き、自ら、開きっぱなしになっていた落とし穴を這い上がって来る。

立ち去っていなかったのか、又戻って来て、庭で斬りあっている小源太に気づいた夕染尼は、斬ってはなりませぬ。どんな悪い人でも、斬ったら罪です!と声をかける。

その言葉を聞いた小源太は、刀をひねり、峰打ちで戦い始める。

一方、屋敷内に出て来た父、夜泣丸の方は、拾った丸太で六太夫の家来たちと戦い出す。

小源太は、夜泣丸に逃げろ!と声をかけられ、何とか屋敷から脱出する。

小源太〜!死ぬな〜!と呼びかける夜泣丸。

代官屋敷を抜け出た小源太は、今日から鬼になるぞ!村人の為に!と心に誓いながら、湖の方角へと向かっていたが、その芦原で、カムイの神へ!オテナの塔へ導きたまえ!と跪いて一心に祈っていた、あの白髪の老人ルシベを目撃する。

ルシベの方でも、近づいて来た小源太に気づいたのは、慌てて逃げ出すが、その時、懐から巻物の半分を落としたことに気づかなかった。

その巻物を拾った小源太は、ルシベ〜!と芦原を探しまわるが、杳としてその姿は見つからなかった。

後編 乞うご期待!