NHK人気連続放送劇の映画化の後編に当たる。
監督の安田公義さんは、戦前は日活で助監督経験があるようだが、戦後は主に大映で活躍された方で、「座頭市関所破り」(1964)「眠狂四郎魔性剣」(1965)「悪名一代」(1967)など、有名なプログラムピクチャーシリーズを手がけられたことで知られているが、「赤胴鈴之助」シリーズ(1957)「大魔神」(1966)「妖怪百物語 」(1968)など子供映画の方でも有名で、宝塚映画と東宝の共同作品である本作は、そうした大映作品の合間で撮られた作品のようである。
同じ北村寿夫原作の「新諸国物語 笛吹童子」など同様、この作品でも、主人公と言えどもむやみに敵を傷つけてはならぬ。無益な戦いは避けなければいけないと言う、戦後間もない頃の不戦の考え方がベースになっている。
そのために、チャンバラ活劇的な要素は少なめになっている。
そして、主人公単独で活躍するのではなく、彼を助ける味方キャラが登場し、どちらかと言うと、その助っ人の方がカッコ良い所も共通している。
その分、主人公の印象は少し弱かったりもするのだ。
千鳥を演じているのは、丸顔に少しだんご鼻にたれ目があどけない童顔の青山京子だが、世間知らずの箱入り娘と言う設定の、この作品での千鳥役には合っているような気がする。
青山京子さんのように童顔の女優さんと言うのは、子供向け青春映画ならともかく、大人向け映画などになるとなかなかキャスティングが難しいタイプのような気がするが、東宝で活躍された後は、一時期大映を経て、東映作品に出られるようになったようだ。
この回で興味深いのは、後半に登場する湖の中の島の描写である。
滝の裏側が墓になっていると言う設定なのだが、これで思い出すのは、本作を同じ安田公義監督「大魔神」の一作目である。
確か、同じように、滝の裏側が登場したように記憶している。
六角右京亮を演じているのは、キネ旬データの「前編」の方には小泉博等と記されているが、どう観ても小泉博とは思えず、「後編」の方に書かれている沖諒太郎と言う人だと思う。
琵琶湖で小舟が遭難するシーンなどはさすがにミニチュア特撮だが、規模は小さく、見応えがあると言うほどのものではない。
「オテナの塔」が見つかる辺りの展開は「インディー・ジョーンズ」シリーズなどでもお馴染みの昔ながらの仕掛けものだが、ここも低予算である為か、そんなに驚くほどの見せ場にはなっていない。
後年の大映の「大魔神」のようなスペクタクルを期待していると肩すかしを食ってしまうだろうが、これはこれでそこそこ楽しめる低予算時代劇にはなっていると思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
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1956年、宝塚映画+東宝、北村寿夫原作、八住利雄脚色、安田公義監督作品。 伊賀の里に響き渡る歌江(雪村いづみ)の歌声。 歌江は、小源太を探して歩いていた。 その時、あの爺さん、キチガイだろう?身体も大分弱っているが、何聞いても「オテナの塔」って言うだけなんだ…と農民たちが話しながらすれ違ったのを聞いた歌江が、さらにその道を進むと、道の真ん中に座り込んだ白髪のルシベが、それを見つめた者は日本の王者だなどと喚いているのを、数人の農民たちが取り囲み、この老人をどうすれば良いのか決めかねている風だった。 そこに現れた歌江を観た農民たちは、あんた蝦夷の人らしいな?と聞くので、思い切ってルシベの前に出ると、お前、ルシベだな?私、シュウペの娘だと名乗る。 お前がお父っあんを殺したも同じようなものだ!盗んだ巻物を返して欲しいと迫ると、落としたとルシベは言う。 そこに噂を聞いてやって来たのが、悪代官風祭六太夫の手下権次(谷晃)らで、ルシベを無理矢理連れ去ろうとするので、そいつはお父っあんの仇なんだ!返しておくれ!とせがむが、権次は歌江の言葉など無視して、ルシベを代官所へ連行して行く。 代官所に連れて来られたルシベの身体をくまなく調べ上げた権次だったが、オテナの塔に関する手掛かりは何も持ってないことを知り、六太夫にそう報告する。 しかし、カムイの神よ、導きたまえ!などとブツブツ呟いているルシベは、狂人を装っているだけだろうと思い込んだ六太夫は、牢に入れるよう命じる。 一方、叩き殺さないと気がすまないんだ!と代官屋敷に入ろうとしていた歌江だったが、門番たちから追い返されてしまう。 そんな中、夕染尼(水戸光子)を連れて屋敷に戻って来たのは、六太夫の息子三郎次(山田真二)だった。 三郎次は、屋敷内の離れで琴を弾いていた妹の千鳥(青山京子)に、夕染尼を会わせるために夕染尼を誘って来たのだった。 お兄様、この方は?と三郎次の後ろから近づいて来た見知らぬ尼さんの姿を観た千鳥が聞いて来たので、俺たちの母上だよと三郎次は教える。 千鳥、美しくなりましたね…。小さい時分に家を出たので、母と名乗ることも出来ませんが、良い娘になったと噂は聞いていました。お父様の目を覚まさせるのは、あなたかも知れませんねと夕染尼も声をかける。 三郎次は、俺は、親父をここに来させないようにするよと言い残すと、母屋の方へ向かう。 三郎次も尼寺に来て、あなたに会って欲しいと言うので来ましたが、あなたの心を乱してしまいましたね…と夕染尼が後悔する風に話しかけると、千鳥は駆け寄って夕染尼の胸に飛び込むと、お母様!と感激した風に言う。 一方、母屋の父、六太夫の元にやって来た三郎次は、小源太の返事はまだですか?と聞いて時間稼ぎを始める。 その頃、代官屋敷から解放され、自宅に戻って来た庄屋小左衛門(沢村宗之助)は、お代官様から、深雪を嫁に出せば年貢を軽くしてもらえるかもしれないと言って来たが、信じられぬ…。かと言って、断ればもっと年貢米を増やされるかもしれん…と悩んでいた。 さわは、深雪には小源太と言う決まった人が…と難色を示すが、その話を聞いていたらしき深雪が姿を見せる。 小源太様には、都からずっと暮らしている女性がいるそうですと、悲し気に深雪は打ち明ける。 その頃、歌江は洞窟の中に戻って来ていた。 小左衛門の屋敷には、代官屋敷を逃げ出して来た夜泣丸(嵐寛寿郎)もおり、あの時、岩がぱっくり割れて、屋敷の中に出られました。その時、小源太に再会したんですが、その後行方が分かりませんが、そんな女がいるとは思えん。何かの間違いではないかと思うと小左衛門とさわに伝える。 深雪殿を六太夫殿が迎えに来るのなら、私が途中で奪いましょうと、嫁入り途中で夜泣丸が奪還すると言う計画を話す。 そんな中、伊賀の里の農民たちが集まり、深雪様がない日泣いておられるぞ。ここらで、我々百姓も、大人しくしてないことを見せるぞ!深雪様を取り戻すんだ!と、六太夫の理不尽な嫁入り要求に抵抗する計画を話し合っていた。 そこに、お前たち、何を相談していた?とやって来た権次たちは、農民たちに袋だたきになる。 その後、深雪は馬で、代官屋敷に向かうことになり、計画通り、覆面をかぶった夜泣丸が、木の上から、その列が近づくのを待ち受けていた。 いよいよ馬の列が近づいたので、深雪を奪還すべく、下に降りた夜泣き丸だったが、その時、突然、どこからともなく黒装束に黒頭巾をかぶった謎の人物が出現し、あっという間に、深雪の馬に乗ると、そのまま深雪を連れ立ち去ってしまう。 草の中に身を隠したいた夜泣丸は、その一部始終をじっと見守るしかなかった。 その頃、小源太(二代目中村扇雀=現:四代目坂田藤十郎)が洞窟に戻って来たので、待っていた歌江は、あんた、どこに行ってたの?深雪って人が代官の家の嫁になるのよ。私ゃ嬉しいんだよと教える。 それを聞いた小源太は驚き、私は何度でもあの屋敷に行って、きっと取り戻してみせる!と決意を述べたので、それを聞いた歌江は、そんなにあの人を…と言いながら泣き出す。 そんな歌江に、湖の側で拾ったんだと言い、巻物を小源太が渡すと、歌江はそれを受け取り、岩の中に隠していた自分の巻物も取り出して抱きしめる。 小源太は歌江に、オテナの塔は我々だけのものではない。蝦夷のものだと言い聞かすと、これをあなたに上げますと泣きながら、歌江は2つにちぎれた巻物を二つとも手渡し、それはルシベが落としたのよと教える。 小源太はその場で、ちぎれた二つの巻物を繋げて見るが、そこに書かれていたのは日本語ではなく、かと言って蝦夷の文字でもなく、全く意味が分からない記号のようなものだった。 どうしたらこの意味が分かるんだろう?と小源太は悔しがるが、2人で一心にこれを観ていたら分かるようになりますと歌江は励まし、だから、2人で、ね?小源太さん!と歌江は訴える。 その頃、代官屋敷の牢に入れられていたルシベは、相変わらず、カムイの神よ!「オテナの塔」に、このルシベを導きたまえ!と一心不乱に祈り続けていた。 一方、庄屋小左衛門の家に舞い戻っていた夜泣丸は、突然、見知らぬ黒頭巾が現れ、深雪をさらって行ったと報告し。深雪殿の行方は必ず私が見つけてみせますと約束していた。 話を聞いていた小左衛門は、伊賀の里に又災いが降り掛かりましたと打ち明ける。 代官様から、酷いお触れが出たのですとさわも嘆く。 一揆の疑いがあるので、1人罪人を差し出せと言うのですと小左衛門は打ち明ける。 どこまで非道な!思わず夜泣丸は絶句する。 集まっていた農民たちは、差し出す人物をくじ引きで決めようとしていた。 藁のくじの中で短いのを引いたのが殺されるんだ。引いた奴の家族は残ったもので面倒見ると言う約束をみんなで確認した後、まずは茂十(如月寛多)から引いてくれとくじを差し出すが、さすがに、女房と幼い息子のいる茂十は迷う。 そして、俺にとっては子供だけが幸せだからと言い茂十は、この子に引かせてくれと、自分の幼い息子にくじ引きを託す。 母親に抱かれた幼い子が無邪気に藁を引き抜くと、何と、いきなりそれが短い当たりくじだったので、茂十は愕然とし、女房は泣き出してしまう。 そこに、以前、農民たちから袋叩きに会い、右足が不自由になった権次がやって来て、誰だ?火あぶりになる奴は。こいつか?と茂十を捕まえると、そのまま代官屋敷に連行して行く。 その途中、又しても、木の上で待ち受けていた謎の黒頭巾が救助しようとしたとき、今度は、馬に乗った夜泣丸が出現し、茂十を助けて立ち去って行く。 洞窟に、茂十を連れて来た夜泣き丸は、そこにいた歌江を観て、あんたも蝦夷の人か?不思議な縁だな…と聞く。 小源太は又出かけて行ったと歌江から聞いた夜泣丸は、きっと深雪殿を助けに行ったのだと呟く。 しかし、歌江は、小源太さんはバカです。「オテナの塔」の巻物まで持って行ってしまって…と嘆く。 六太夫の屋敷に忍び込んでいた小源太は、離れで琴を弾いていた千鳥の前に出ると、三郎次に会わせて欲しいと頼むが、兄さんはいません。深雪さんもいません。黒装束に連れて行かれたんでしょうと千鳥は答える。 仕方がないので、三郎次が帰って来たら、小源太が来たと知らせて欲しいと千鳥に託し帰って行く。 代官屋敷を出た所で、小源太は迎えに来た夜泣丸と出会う。 夜泣丸は、深雪殿はこの屋敷にはおらんぞと教え、洞窟で歌えと言う娘に会った。面白い女だなと伝えると、可哀想な女です…と小源太は答える。 深雪殿は拙者が探すから、お前は「オテナの塔」を探すのだ。蝦夷の祖先の為にな!と夜泣丸は息子に言い聞かす。 はい!と返事をした小源太は、その場で父、夜泣丸と分かれ、別行動に移る。 一方、歌江はと言えば、茂十の妻に会いに行き、夫が無事である事を知らせて安心させていた。 その後、歌えと夜泣丸は洞窟に戻って来るが、その時、怪しい男が侵入して来たので、誰だ!と夜泣丸は誰何する。 それは、虚無僧に変装していた六角右京亮(沖諒太郎)だった。 夜泣丸殿、話を聞きたい。茂十を良く取り返してくれたな。大事な証人だよと感謝した右京亮は、乱れた世の中にも掟はある。私事での復讐は慎んでもらいたいと、夜泣丸の単独行動を注意する。 その頃、代官屋敷にいた風祭六太夫(市川小太夫)は千鳥を探していたが、三郎次が又昼間から酒を飲んでいるのに気づく。 さらわれたな…、深雪殿…、なかなか父上の想い通りになりませぬな。茂十の事と言い、父上も酷い落ち目になりそうですぞと嫌な事を三郎次が言うので、六太夫は言うな!と怒鳴りつける。 どんな非道な事をして金儲けをしても、全ては子供の為とお思いでしょうが、そんな事をされる子供がどんなに辛いかご存知か? 親に向かって何を言うか!と六太夫が叱りつけると、親?私たちの親は父上だけではありませんよ。母上もおられますよと三郎次は涙ながらに訴える。 地蔵堂にいる夕染尼を訪ねて来たのは千鳥だった。 母嫌にあれこれ話を聞きたいと言う。 夕染尼は承知しながらも、驚いてはいけませんぞと釘を刺す。 尼寺の離れに連れて行かれた千鳥は、そこに深雪が匿われている事を知り驚く。 深雪の方も、突然現れた千鳥に驚きながらも、夕染尼があなたのお母様ですってね。直々に聞きましたと言う。 ここへは黒装束の人に連れてきました。正体は分かりませんが、きっと良い人だと思います。私がここにいる事はお兄様には内緒にしておいてください。ですが、父と母だけには、私が無事だと知らせてもらえないでしょうか?と深雪が頼むと、いつも権次が見張っているので…と千鳥は躊躇する。 その時、その役目は私が引き受けようと言う声が裏から聞こえて来る。 そこにやって来たのは、見知らぬ虚無僧だった。 あなたはどなたです?と千鳥が聞く。 その頃、巻物の文字の謎を解くため、故実に強い人物を訪ね回ったりしていたが、全く内容を読み解く事が出来ず、失意のまま河原にやって来た小源太は、深雪の名を呼んでみたりする。 その時、懐から巻きものが落ち、川に流されてしまったので、慌てて時分も川の中に入り追いかけて、何とかつかみ取った小源太だった。 一方、庄屋小左衛門の屋敷にやって来た権次は、茂十をどこに隠した?と聞くが、小左衛門が知らないと答えると、お代官様からどのような沙汰があるか覚悟しろと捨て台詞を残して行く。 河原で濡れた巻物を干していた小源太は、巻物の表面に新たな文字が浮き出している事に気づく。 「あぶり出し」だったのだ。 そこには「琵琶の岬をまっすぐ中心へ一里半 日の沈む方」と書かれてあった。 一方、屋敷に帰って来た千鳥は、そこにいた三郎次から、どこに行っていた?と聞かれたので、お兄様、深雪様には好きな方がおありになるのに酷い方です!人に聞いた話では、お父様は何か酷い事をやっておられるのですか?と逆に質問する。 それは分からぬな…と答えた三郎次は、その場を立ち去って行く。 その後、自室の衣装棚の扉を開いた千鳥は、そこから見知らぬ黒装束が落ちて来た事に気づく。 洞窟では、虚無僧姿で戻って来た六角右京亮が、黒装束の男の話を茂十と夜泣丸から聞いていたが、ふと、歌江の姿が見えない事に気づく。 毎日、日が暮れるまで、小源太を探しておりますと夜泣丸は答え、その尼様が六太夫の奥方であったとは…と、右京亮から今聞いた話に驚いていた。 昔、妻に先立たれ、途方に暮れた夜泣丸が地蔵堂に捨てた赤ん坊だった小源太を、庄屋小左衛門の家に預けに行ってくれたのが夕染尼だったのだ。 あの方は、六太夫の蝦夷での悪事に付いても話してくれそうだし、六太夫も掟で裁かれる事になるよと右京亮は期待する。 その頃、代官屋敷の牢に入れられていた老人ルシベは、六太夫に鞭打たれながらも、「オテナの塔」はわしのものだ!このわしは聖者だぞ!とまだ1人で呟いていた。 そんな父六太夫に会いに来た千鳥は、侍女たちから、先ほど牢の方へ行かれましたと聞いたので、自分で落とし穴の仕掛けを開き、下に降りて行く。 そこで父親に拷問されていたルシベを発見した千鳥は、お父様、この方は誰ですか?どうして牢屋に入れられたのですか?千鳥は、自分の家に牢がある事さえ悲しいです。お父様は悪い方です。お母様に会ってきました。千鳥はお母様の情けを知らずに育って来たのです。お父様こそ、牢やにお入りになると良いんです!と言い残し、立ち去って行く。 突然の千鳥の出現にたじろいだ六太夫だったが、娘がいなくなると、又ルシベを鞭打ち始める。 もはや正気を失っていたルシベは、カムイの神よ!と叫ぶしか出来なかった。 その頃、「オテナの塔」を探して湖畔を歩き続けていた小源太だったが、「琵琶の岬をまっすぐ中心へ一里半 日の沈む方」と言う言葉の意味を理解する事は出来なかった。 そんな小源太から舟を出してくれと頼まれていた地元の漁師たちは、今夜は嵐になると言うのに変な客だよなどと噂しあっていたが、やがて、小源太が人相書きが出回っている大盗の息子であると気づき、訴え出れば賞金がもらえるぞ!と喜びあう。 その後、小源太は1人、嵐の中にも関わらず、小舟を湖に漕ぎ出していた。 翌朝、小源太の乗った小舟はバラバラになって漂流していた。 歌江はその日も森で小源太を探していたが、道に捨てられていたルシベに出会い、もう逃がさないよ!と言いながら近づく。 洞窟の中では、都に戻った六角右京亮から手紙が届き、夜泣丸が、六太夫がいよいよ今日で裁きにかけられる事になり、茂十さんもその証人になるんだと嬉しそうにそれを茂十に聞かせていた。 その時、衰弱しきったルシベを連れた歌江が洞窟の前まで戻って来る。 茂十に火を焚くよう頼んだ夜泣丸は、仇なのに良く連れて来てくれたな、偉いぞ、歌江さんと褒める。 ルシベは毎日鞭打たれ、死にそうになったので捨てられたらしかった。 「オテナの塔」はわしのもんだ…、衰弱してもなお、ルシベはそう呟いていた。 すっかり欲ボケしてしまって…、思えば可哀想な年寄りだね…と、そんなルシベの姿を観た歌江は同情する。 わしが死んだら、蝦夷の先祖の墓へ…と言い残し、ルシベは洞窟の前で息絶えてしまう。 京 罪人裁き役大鳥左門(杉山昌三九)の前に、極め頭役六角右京亮と風祭六太夫が控えていた。 右京亮が、証人たちが控えておりますと、前に進み出て報告しようとすると、その方は座に着くのを遠慮するが良いぞと大鳥左門は言い出す。 そして、六角右京亮の調べ、落ち度あり、役目ごめんを申し上げると書状を読み上げ、しばし謹慎して、何ぶんの処置を待つが良いと言い渡す。 六太夫も、御上をたばかった罪だ。わしは蝦夷へなど行った事はないわ。わしは御上の言いつけ通り働いているだけだ。今、大鳥様がお読みになったのを聞いたか?と嘲笑して来たので、さては金を撒いたな!と右京亮は気づく。 大鳥左門は、そんな右京亮の言葉に、場をわきまえろ!と叱りつける。 別室で控えていた証人役の夕染尼や茂十ら農民の所へやって来た右京亮は、皆さん、京までの苦労が全て無駄でした。世の中には公明正大なる掟が存在すると人に言って来たが、右京亮の世迷い事でした…、笑ってください。皆さん、笑ってください!と自嘲する。 千鳥は、その日も、母夕染尼のいる地蔵堂へ向かっていたが、その後を不審に思った権次が尾行していた。 深雪がいる離れに来た千鳥は、お母様は京に行かれました。お父様も今頃は縄をかけられている事でございましょうと聞かされる。 千鳥は覚悟していたようで、深雪様、お父様も牢に入れられましたから、蝦夷の人も村人も許してくださるでしょうと言い、深雪も、私も夕染尼様のように、御仏に御仕えしたいと話していたが、その時突然姿を現した権次が、深雪!生きていたかと言いながら近づくと、深雪を連れて行こうとする。 その時、黒装束の男が裏庭に出て来たので、怖じ気づいた権次は、すごすごと逃げ出して行く。 深雪は黒装束の男に、一度ならず二度…、いえ、あなた様には三度まで助けていただきました。あなたは?お顔を見せてくださいと感謝しながらも頼む。 すると、あっさり、黒装束の男はその場で覆面を取ってみせる。 その男は何と三郎次であった。 三郎次は妹に向かい、千鳥は驚く事はないだろう。お前の部屋で装束を見つけただろう?と笑いかける。 俺は悪代官と戦うよ。わざと深雪さんを嫁に欲しいと言ったんだ。小源太も幸せよ。今後、深雪様をどうすれば良いか…、やはり、この三郎次の嫁になるんですな。指一本触れぬつもりです。わざと権次に捕まる事ですと三郎次が言うので、深雪は感謝しながらも、あなたの気持ちを早く小源太様に伝えたいと呟く。 その頃、庄屋小左衛門の家では、深雪が代官屋敷に捕まったそうです。三郎次様が罪人見極め頭になったそうですと、さわが小左衛門に伝えていた。 代官屋敷に戻って来ていた六太夫は、その内、小左衛門も来るだろうと、権次に話していた。 牢の中では、深雪に会いに来た千鳥が、お父様やお母様には御知らせしましたが、小源太様には知らせようがありませんと報告していた。 例え一時とは言え、あの方のお心を乱すのが悲しいですと深雪は泣き出す。 その頃、小源太は、琵琶湖の中の小島に漂着していた。 洞窟に戻って来た六角右京亮と茂十から話を聞いた夜泣丸は、私事での復讐を禁じるとおっしゃいましたが、天下に頼れる掟がないと知った以上、私はやりますよ。その為に歌江を使いました。「オテナの塔」に誘い出し、六太夫を斬ります!と決意を述べる。 その頃、歌江は権次が漕ぐ小舟に六太夫と共に乗り、ルシベが入りたがっていた蝦夷の墓があると言う琵琶湖の小島に向かっていた。 蝦夷からいつ出て来た?と六太夫から聞かれた歌江は、まだ子供でしたから…と返事をはぐらかす。 どうしてこの六太夫を「オテナの塔」に連れて行く?と聞かれると、小源太が狙っているのです。カムイの神からお告げがあったんです、宝物が見つかったら、私にも分けてくださいねと歌江は頼む。 おお、やるとも…と答えた六太夫は、権次、風祭の家には、おめでたが続くらしいぞと愉快そうに笑う。 その小島には、小源太が何も知らずに上陸していた。 海辺の岩に謎の文様が刻まれているのに気づいた小源太がその前に立った時、突如近づいて来たのは父、夜泣丸だった。 夜泣丸も、小源太!こんな所に!と驚くが、小舟が遭難し、人のいないこの島に打ち上げられたんです。父上はどうしてここへ?と小源太から聞かれると、蝦夷の先祖の墓があるのだ。あの文字は、先祖の墓の印だと教えると、ルシベを葬ってやろう。あの老人も死んだよ。小源太!今日こそ、蝦夷の恨みを晴らすんだ。歌江が六太夫を誘い出していると言い聞かせる。 そして、滝の裏側にある先祖の墓に小源太を連れて入る。 その内部の岩だなには、蝦夷の祖先の白骨が並んでいた。 小源太から灯を受け取った夜泣丸が、ルシベの遺骨を安置しようとしている間、小源太は洞窟内を見て回る。 墓の裏手の短刀が突き刺さった岩に、又、横に新たな文字を発見した小源太は、持っていた巻物を取り出し、同じ文字だと判断すると、思い切って、その短刀を引き抜いてみる。 すると、突然、洞窟内が崩れて来る。 驚いた夜泣丸が駆けつけ、岩の下敷きになっていた小源太を何とか救出する。 小源太は奇跡的に無傷だった。 立ち上がった小源太と夜泣き丸は、崩れた岩の奥の岩戸が開き、新たな部屋が出現した事に気づく。 その部屋の中央には、岩で出来た人面を象った彫像のようなものが立っていた。 小源太は、父上、ここは「オテナの塔」では?と聞くと、その小源太から巻物を受け取って読んでみた夜泣丸は、「日の沈む方?」と言う最後の文言が気になったようで、小源太に手伝わせて、石像の頭部をゆっくり西に向けて回し始める。 すると、さらに奥の部屋が出現し、そこに大量の財宝が隠されていた事に気づく。 ここは蝦夷の祖先の墓。「オテナの塔」だったんですね!と小源太は感激するが、六太夫がここに来る!と夜泣丸が言うと、来させてはなりませぬ!と答える。 やがて、その島に近づいていた権次が漕いでいた小舟の櫂に、突如矢が突き刺さる。 島から、小源太が放ったものだった。 何とか小舟から降りた歌江は小源太に抱きついて来る。 権次と六太夫は、慌てて小舟を反転させ逃げて行く。 その頃、伊賀の里では、農民たちが集結し、代官屋敷の改築の為、さらに年貢を納めさせようとして来たので、もう屋敷に火を放とうと話し合っていた。 しかし、参加していた小左衛門は、それは一揆だ!成功しても伊賀のものみんなが縛り首になるぞと縛め、もう1度、この小左衛門に任せてくれと頼む。 すまない!庄屋の私が意気地ないばかりに、みんなに苦しい目に遭わせて…と小左衛門は農民たちに頭を下げる。 その後、農民たちの家に、「寄進 オテナの塔」とか「自由に使え オテナの塔」等と書かれた紙と共に、小判が投げ込まれるようになる。 そんな中、六太夫の代官屋敷に、旅の女猿楽一座の勧進元がやって来て、このたびのご子息様のご婚礼のお祝いに踊らせてはもらえないかと挨拶に来る。 巧い能役者がいるかね?と権次も興味津々の様子だったが、六太夫も乗り気になり、快諾する。 勧進元は、外の丘の上で待っていた歌江の元に戻って来ると、巧く売り込んで来たと報告する。 いくらまける?と聞いて来たよあの代官…などと、六太夫の吝嗇振り呆れた様子の勧進元だったが、能役者の方は大丈夫だろうね?甘えに逃げられてからは一座は大変だったよなどと苦労話を始める。 その一座こそ、京で歌江が所属していた一座だったのだ。 好きな人が出来たんですよ。でも、その人にはちゃんと決まった人があったの…と歌江が悲し気に教えると、何だ、歌江、だらしないぜと勧進元は慰める。 きれいに諦め、一座に帰りますと歌江は約束するのだった。 その頃、夕染尼を訪ねた六角右京亮は、形だけの婚礼とは納得しているのですが、どうしても小源太は六太夫を斬ると言っていますと伝える。 それを聞いた夕染尼は、18年前、赤ん坊だった小源太様を小左衛門様に預けたのは私です。その小源太様がそのような事になりましたら、私は…と思い悩む。 そんな2人の話を聞いていた男が、そっと裏から逃げ去って行く。 農民たちは、三郎次の婚礼に出席するようにと触れた高札を叩き潰していた。 婚礼が行われる神社に待機していた権次たちは、紫納言や高僧など、日本中の高名な人物たちからの寄進を前に、農民たちが一人もやって来ない事にいら立っていた。 しかし、家来たちも、能舞台などより、その日に振る舞われる酒の方が楽しみのようで、みんな浮ついていた。 そんな家来たちに、今日は小源太と夜泣丸がおびきよって来るから油断するなと権次は釘を刺す。 千鳥は白無垢姿ながら悲し気な表情で六太夫の隣に座り、舞台を観ていた。 家来たちの厳重な警護の中、面をかぶった能役者の舞いが始まっていた。 やがて、衣装に付けた剣を抜いた能役者は、そのまま舞台から飛び降りると、真ん前で観ていた六太夫の前に進み出ると面を脱いで、小源太だ!と正体を現す。 しかし父徳太夫の前に立ちはだかった千鳥が、待って!と止める。 小源太は、危ない!どけ!頼む、退いてくれ!と言いながら刀を振りかざすが、千鳥は、いや!と言いながら小源太にむしゃぶりついて来る。 離してくれ!と小源太は頼むが、その隙に六太夫は逃げ出す。 それを追った小源太だったが、三郎次が立ちはだかったので、どけ!と呼びかけるが、俺も悪代官は憎いが、父は守る!小源太!三郎次が斬れるか!と言い、三郎次も剣を抜いて来る。 その間にさらに逃げ延びていた六太夫は、誰か!出会え!と絶叫すると、わらわらと近隣の農民たちが集まって来る。 そんな農民たちを前にして、助けてくれ!金はいくらでも出す!と巾着袋を取り出して哀願する。 その頃、権次たちは、同じように農民たちに泥地へ追い込まれ、勘弁してくれ〜!と命乞いしていた。 そんな所に駆けつけて来た夜泣丸は、小源太〜!と息子の行方を探す。 六太夫は地面に倒れ込み、みんな使ってくれ!と言いながら巾着袋を差し出すが、金だと?これを観ろ!と言いながら、農民たちは、自ら手にした小判を取り出して見せる。 「オテナの塔」の金だ。欲しいか?六太夫…、これが欲しいばかりにお前は何をした!と茂十が代表して詰め寄る。 ここにもあるぜと別の農民も小判を取り出すと、これが欲しいばかりにどれだけ年貢を取り上げた?と六太夫に迫る。 そこへ小源太がやって来る。 農民に混じってその場に来ていた夕染尼が、斬ってはなりませぬ。殺生はならぬと教えたはずです。吹雪の中からあなたを拾ったのは私ですと打ち明ける。 三郎次は?と夕染尼が聞くと、私が斬りましたと小源太は答える。 しかし、その直後、傷を負った三郎次を抱えた夜泣丸が、傷は浅いぞと言いながら近づいて来る。 三郎次も、小源太に斬られるような三郎次ではないと負け惜しみを言うと、俺は最後の親孝行をしたいと言い出す。 そして、父上!御願いします。都に引かれて、御裁きを待ってくださいと罪人見極め頭の立場で願い出る。 もはやこれまでと観念した六太夫は、大人しく息子の言う通り捕縛される。 そなたの子は、この時を待っていたのだぞと夜泣丸が声をかけると、父親としての六太夫は泣き始める。 伊賀の里に平和が訪れ、庄屋小左衛門に招かれた農民たちは、小源太と深雪の婚礼の馳走を振る舞われていた。 千鳥様は?とさわが案ずると、右京亮様が御預かりになるそうだ。夜泣丸様は、この辺り一帯の村々にばらまいても「オテナの塔」の財宝は有り余るので。蝦夷に帰って復興を計るそうですと小左衛門は教える。 無事夫婦になった小源太と深雪は、村から遠ざかって行く旅芸人一座の荷車に乗った歌江に別れを告げていた。 そんな小源太と深雪に、小源太達者でな。遠い蝦夷だが、一緒に遊びに来るのだぞと夜泣丸は別れを告げていた。 旅芸人一座の荷車の後ろに腰掛けていた歌江は、隣に座っていた三郎次から、酒の入ったひょうたんを奪い取ると、道に捨ててしまう。 2人が乗った荷車は村を離れて行く。 |
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